花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

「なぁ、疲れたな。」


パーティーを終えてスイートルームに戻ったのはすでに22時過ぎ。
ドカッとソファーに凭れた俺に、いつもなら明るく「お疲れ様です」と聞こえてくる声は無かった。
牧野はぼーっとしたまま、どこともなく部屋の中を見つめている。

パーティーが終わりに近づくにつれて、牧野の様子がおかしくなった。
トイレから帰ってきた時には顔色が悪くて心配した。
けど、俺にはその理由が分からねぇ。
パーティー自体は牧野効果もあって成功を収めた。
俺と牧野の関係を推測する輩がたくさんいたが、むしろ俺にとっては好都合で、パーティー後半からは牧野の腰に手を回して歩き、俺の特別な女であることをアピールしたつもりだ。

そして、今夜はっきりさせる。
曖昧なことは苦手だ。
コソコソするのは性に合わねぇし。
こいつが俺のことをどう思ってるのかなんて知ったことか。
要するに、いずれにせよ、俺がこいつを振り向かせればいいだけと気付けば、後やることは告白しかねぇ。

あー、しかし、まぁ、さすがに、緊張する。
この俺様が、女に告白。
当然、生まれて初めてだ。

俺はネクタイをぐっと緩めた。
それから、ソファーに座るでもなくぼーっとつっ立っている牧野に話しかけた。

「おい、牧野。どうした?」

「はい?」

牧野は返事こそしているが、俺の方は見ていない。
やっと出た彼女からの反応だが、やっぱりいつもと様子が違う。
疲れてるのか?
それなら、車で自宅まで送ってやろうかとも思うが、今日の俺はそうしたくなかった。
俺の気持ちを伝えたい。
それに、もしも牧野がOKなら・・・なんていう、淡い期待も捨てきれねぇ。


俺は今まで生きてきた中で、心の底から欲しいと思ったもんなんて無かった。
望むと望まざるとにかかわらず、俺の前には全てが揃っていた。
金で買えるものは当然の如く手に入り、仕事のスキルは自分の努力で得ることが出来た。
恐らくは今後の名声も、実力で掴み取ることは可能だろう。
ただしそのためには弛まぬ努力が必要で、常に緊張を強いられる生活と引き換えにする必要はあるが。
だが、世の中の奴らがうらやむこの地位も、別に俺が心底欲しかったものじゃない。
道明寺という名前なんて、いつ捨ててもいいと思っていた。

けど、牧野に出会って俺は気付いた。
いつ捨ててもいいと思っていたこの名前も、こいつが隣にいてくれるなら守ってやろうと思える。
常に緊張の中にいるとしても、こいつが俺を癒してくれるなら、俺はきっとこの先もやっていける。

今までの俺に足りなかったものは、人を愛する心と、俺を愛してくれる人。
牧野に出会うまでは、愛という存在もその必要性も感じたことはなかった。
しかもそれは、金や権力でどうにかなるものじゃなく、
俺が自分の心を開き、相手の全てを受け入れなければ手には入らないものだ。

だから今夜、俺は俺の全てをこいつに捧げたい。
そして、牧野に俺を受け入れてもらいたい。


「とりあえずあっちの部屋で着替えて来いよ。俺もシャワー浴びてくる。」

俺はできるだけ冷静に言って立ち上がった。
元々パーティーの支度はこのスイートルームでしたから、牧野の荷物もここにある。だからこそ、二人でこの部屋に戻って来たんだが。すでに美容部員もいないこの部屋は、当然二人きりだ。

「あ・・・着替え?」
「そっちの部屋に荷物あるだろ?」
「・・・部屋?」

何を言ってもオウム返し。
やっぱ、完璧におかしいな、こいつ。

「牧野、お前、本当にどうした?」

俺はすっと牧野に近づき、その額に手を当てた。
すると、
「ぎゃっ!!」
と、牧野が一歩後ろに退いた。

なんだ?その反応は?

「あれ?あれ・・れ?いつの間に、ここに戻って来たの?」

って、そこかよっ!

「お前、疲れてんだろ?そっちの部屋使っていいから、とりあえずシャワーして来いよ。着替えが無ければ、一応クローゼットに入ってるから。疲れてんなら、ベッドで寝ちまってもいいぜ。」

着替えだけして家に帰られても困るし、ここで寝ちまわれても困るんだが、そこはやっぱ、上司の余裕を見せてやらねぇとな。

「そっ・・そうですね。私もさっと着替えてきます。支社長も、お疲れでしょう?着替えて下さいね。そうだ、飲み物いれましょうか?コーヒーは・・、眠れなくなっちゃうかな。」

「いや、コーヒーでいい。少し飲みすぎたしな。」

って、ほとんど飲んじゃいねーけど。
今夜は眠らねぇ、いや、眠らせねぇぐらいの勢いの俺。
コーヒーを淹れるってことは、まだこいつは帰らねぇってことだ。
告白のシチュエーションはばっちりだろ。

「じゃあ、申し訳ありませんが、シャワーお借りします。」

牧野がペコリと頭を下げて、手前の部屋に消えて行った。







気が付けば、いつの間にかスイートルームに戻って来ていた。

パーティー最後に、私は自分の気持ちに決着をつけた。
私は今夜、支社長を眠らせる。
別に何をするわけじゃない。
ただ、眠らせるだけ。
そして、明け方にそっと部屋から出ればいい。
あとは楓社長が用意したカメラマンがどこかからその様子を撮影するんだろう。

バカみたい。
でも、もう決めた。
そして、明日になったら、私はニューヨークへ飛ぶんだ。


いつもの私なら、ここでシャワーなんて浴びないけど。
だけど今夜は、この部屋に、出来るだけ長くいなきゃいけない。
何よりも・・この薬を支社長に飲ませなきゃ・・。

ドキドキと鳴る心臓がうるさい。
落ち着かなきゃダメだ。

何も考えなくていいように、急いでドレスを脱いで、髪を下ろし、シャワールームへ飛び込んだ。
熱いシャワーを浴びて、一息つく。

どうしよう・・
どうしよう・・

決めたことなのに、心の端っこではまだ迷ってる。
私は、間違ったことをしようとしてるんじゃないのか・・。

止めようか・・
止めちゃおうか・・
このまま何もせずに退職しちゃえばいいんだ。
好きな人を陥れるぐらいならいっそのこと・・・

でも・・でも・・
私がしなくても、きっと誰かがするに違いないもの。

だから・・・
だったら・・・


シャワーを止めて、バスローブを羽織る。
クローゼットを覗くと、着替えが一式置いてあった。
下着を着けて、ハンガーにあったカシュクールタイプのワンピースを身に着けた。
ざっとドライヤーで髪を乾かして、ブラシで整える。
軽くファンデーションとリップをぬって、それからハンドバックを覗いた。

そこには、ハンカチに包まれた薬包紙。

楓社長から手渡された睡眠薬だ。
これを支社長が飲めば、5時間程度眠るらしい。
そして、明け方に私がこの部屋をでるところが記事にされる。
記事が出れば、私のしたこと、楓社長が企んだことはすぐに支社長に知れてしまうだろう。
だからこそ、すぐにニューヨークに戻るんだ。


このまま支社長の秘書でいたかったな・・。
だけど、それはできない。
会社のためにも、
支社長のためにも、
やるしかない。

でも、

これが最後だから、
どうせ私はいなくなるんだから、
支社長が眠ってしまう前に、
自分の気持ちだけは伝えよう。

ねぇ?それぐらいはいいでしょ?
それぐらいは許して。


私はハンカチに包んだ薬を、そっとニットのポケットに入れた。





リビングに戻ると、まだ支社長はいなかった。

部屋の片隅にあるミニキッチンスペースにコーヒーメーカーがある。
そこに粉とお水をセットして、コポコポとコーヒーが出来上がるのを待った。


こんなこと・・許されることじゃない。

ごめんね。
ごめんなさい。

私はポケットから薬を取り出した。
これをコーヒーに混ぜればいい。

コポコポコポコポ・・・・・

この音が終わらなければいいのに・・
そう思ってまだ迷う。


____カチッ

コーヒーのドリップが終わった。


コーヒーカップを持つ手が震える。

コーヒーを温めたカップに注ぎ、薬の粉を混ぜた。



「ごめんなさい・・・・支社長。」

小さくそう呟いた時、




「何が、ごめんなんだよ。」

背後から、氷のように冷たい支社長の声が聞こえた。


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・・・・。
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  1. / comment:3
  2. [ edit ]

支社長就任パーティーは19時ジャストに俺の就任挨拶で幕を開けた。

今後の日本経済に影響を与える、道明寺ホールディングス日本支社の人事異動。
久しぶりに財閥の直系が支社長に就任するとあって、パーティーは緊張感に包まれている。
これまで日本でのビジネス経験のない俺は、このパーティーで足元を見られるわけにはいかない。
つまり、このパーティーで失敗は許されない。

今後日本支社が掲げる改革とビジネスプラン。
俺が考える日本企業の未来にまで言及した。

就任挨拶の最中、会場の端でじっと俺を見つめている牧野に気が付いていた。
シャンパンゴールドの高級シルクに繊細な刺繍を施したロングドレス。
首元には細かく細工を施したダイヤのネックレス。
全て俺が選んだもので、色白の牧野に良く似合ってる。
壁際にいても十分目立っていて、周りのオヤジ共の牧野をみる視線に俺が焦るほどだ。

その彼女の視線が程よい緊張を生んでくれ、俺は一言一言完璧に抱負を述べられたと思う。
挨拶の終了と同時に拍手が沸き起こり、牧野を見れば、俺よりもほっとした表情で、胸の前でパチパチと手を合わせていて、その姿がやけに可愛いかった。檀上にいなかったらすぐにでも抱きしめたいぐらいに。


俺は今日、覚悟を決めている。
こいつに俺の想いをぶつける。
そして、絶対にこいつを手に入れる。

出会って1か月半。
好きになってまだ1か月にもならねぇが、これ以上気持ちを抑えていても仕方ねぇ。
何より、最近のこいつの様子がおかしいことが気になっていた。
仕事をしている間はいつも通りだが、執務室を出る時に小さく溜息を吐いたり。
一緒に飯を食っていても、心ここにあらずな様子にすげぇ焦る。
俺の傍にいるだけでいと伝えたのに、何を悩んでる?
こいつは何を考えているんだ?

それから、もう一つ気になることがあった。
2日前、ニューヨークのババァから急に電話があった。
開口一番ババァが言った。
「あなた、牧野とはどうなっているの?」
仕事以外でババァが俺に連絡してくることなんて滅多にない。
いきなり飛び出した牧野の話題に、俺は警戒した。
「別にあなたにお話するようなことはありませんが。」
「そう。」
そして、しばしの沈黙の後、
「それなら、牧野には近いうちにこっちへ戻ってきてもらうわ。そのつもりで。」
そう言って、俺が文句を言う前に一方的に電話は切られた。

どういうことだ?
牧野をニューヨークへ戻す?
牧野を俺に付けたり、そうかと思えばアメリカに戻すと言ったり、ババァの思惑が全く理解できねぇ。
けど、牧野が俺の元から離れていく?
そんなの絶対に許さねぇ!!

俺の焦りにババァが火をつけた形になった。
だから今夜、俺は絶対に牧野を手に入れなきゃならない。



挨拶が終わると同時に乾杯となり、その後は歓談となった。
歓談開始とともに、招待客たちが俺の周りを取り囲む。
これも当然ビジネスで、俺に纏わりつこうという人間は後を絶たない。
俺のパートナーであるはずの牧野は、どうやら出遅れた様で、人混みの一つ向こうでキョロキョロとしているのが見えた。

「失礼。」
俺の背後にいる2名のSPが、人混みをさっと分けた。
その向こうにはキョトンとした表情の牧野。
それから俺がいることをが分かると、ぱぁっと笑顔になった。

あー、もう、これだから放っておけねぇ。
直接は頼ってこねぇのに、こうやって無意識に俺を頼ってる。
そうやってお前に頼られることが、どれだけ俺のパワーになるか・・お前分かってんのか?

さっと歩みを進め、牧野に近づいて行く。
こいつも慌てて俺に近づいて来た。
俺が左腕を出すと、牧野がそれに小さな手を絡めてきた。
なんか、すげぇいいな、おい。

思わず笑い出しそうになって、慌てて表情を引き締める。
その時に、牧野が急に背伸びをして、
「よかったぁ、迷子になるところでした。」
なんて耳打ちするもんだから、俺はそれまで堪えていた笑いを抑えることが出来なくなった。

牧野に視線を合わせながら、下を向いて笑いつつ、
「クククッ・・。ちゃんと見とけよ。俺を見失うな。」
と言ってやったら、急に表情を引き締めて、
「はい。」
なんていうこいつは、マジ可愛い。

パートナーってこんなにいいもんなのか?
ビジネスの場であるこのパーティーが楽しくて仕方ねぇ。
笑いを堪え、周囲を見れば、招待客たちが目を丸くして俺たちを見ていた。
俺が笑ってエスコートするこの女が何者なのか気になるんだろう。

牧野もようやく周囲の視線に気付いたようで、
「失礼致しました。」
と言って、完璧なお辞儀をした。

道明寺の秘書として、さすがにそれなりの教育はされているらしい。
そんな姿にも惚れ直す。


そこからは、型通りの挨拶三昧だった。
隣に立つ牧野は、次々と挨拶に訪れる財界人たちに気を引き締めつつも、俺の隣で笑顔を絶やさずにいてくれる。
今まで女を連れ歩くメリットなんて考えたこともなかったが、牧野と一緒にいると、終始和やかなムードで会話が弾んだ。
でもそれはもしかすると、牧野を連れている俺の心が和んでいたからなのかも知れない。

やっぱこいつだ。
俺にはこいつしかいねぇ。
俺にとって最高の女。
俺はもはや、こいつなしでは生きられねぇとさえ思う。
秘書としてではなく、
朝も、昼も、夜も、いつも俺の隣に・・・







恐らくは、順調に挨拶周りが出来ていたと思う。
出席者のリストは頭に叩き込んであったし、半分以上は顔と名前が一致した。
私の役目は、とりあえず笑顔を絶やさないことと、9割方は社交辞令的な会話の中にある、1割の重要なな会話内容を聞き漏らさずに記憶する事。
そして何よりも、常に笑顔を絶やさずにいる事。
パートナーとしてパーティーに参加するのは初めてだったけど、思ったほど緊張はしなかった。
それはたぶん、私にとって支社長の隣はとても安心できる場所だからだ。

出会う人全員が、私が誰なのかと聞いてくる。
それでも堂々としていられたのは、支社長の腕に手を添えていたおかげ。
何があっても大丈夫だと思えた。
「第二秘書の牧野つくしと申します」って今日何回答えたんだろう。


建設会社の後藤会長が、私のドレスを見て、
「まるでウェディングドレスみたいだね。」
なんて言った時には、さすがにびっくりしたけれど。
でも、もっと驚いたのは、それに対する支社長の反応が、
「それもいいかも知れない。」
だったこと。

思わず彼を仰ぎ見たら、ばっちり目が合ってしまった。
そして、「な?」と目を細めて笑われた。

支社長ってば調子いいんだから。
私をお嫁さんにするつもりなんて、少しも無いくせに・・。




2日前、楓社長から突然電話があった。
心臓が飛び出しそうなぐらいにドキドキして、受話器を握る手が滑りそうになった。

「牧野、司とはどう?仲良くやってる?」
「はい。特にトラブルはありません。」
「そう、良かったわ。それから、司の支社長就任パーティーはあなたがパートナーを務めるのよね。」
「はい。」

「ねぇ、牧野。担当直入に聞くけど、あなたは司のことをどう思ってる?」
「どう・・・とは?」
「司は、無理かしら?」
「え?」
「あの子を好きになれそうにはない?」
「・・・え?・・・・ええっ!?」
「あなたになら、司を任せたいと思えるのよ。無理かしら?」

え?え?え?
頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになった。
支社長は・・・げ・・げ・げ・げっ・・・ゲイっ!じゃないんですかっ!?

これって、支社長には他に好きな(男の)人がいても、私が彼を受け入れられるかと聞かれているの?
そっ、そりゃ、支社長のことは好きだけど、真実を知っていて、受け入れるなんて。
っていうか、支社長って、両方イケル・・ってことなの?
いやっ、だからって、無理だよっ。
いくら好きでも、そのまま全てを受け入れるなんて無理だ。
やっぱり、好きな人には自分だけを見て欲しいもん・・・。

「申し訳・・ありません。社長。」

私がそう答えたら、社長はとっても残念そうにため息を吐いた。

「そう・・。残念だわ。でも無理強いするつもり何てないの。」
「はい、すみません。」
「だけど、最後に一つだけ頼んでいいかしら?」
「はい。」
「就任パーティーの後、司とメープルで一夜を過ごして欲しいの。前にお願いしたとおりに。」

私が秘書を引き受けた時に言われたことだ。
結局は、恋人を偽装するしかない・・・。

「あの薬で司を眠らせて頂戴。あなたは明け方まで部屋で待機して、一人で部屋を出てくれたらいいわ。カメラマンはこちらが手配する。後ははうまく記事を作るから。あなただとバレたりはしないわ。それが終わったら、すぐにニューヨークへ戻って来なさい。あなたのポジションはまだ空けてあるの。」

支社長を眠らせて、記事をでっちあげる。
支社長にとっては初の女性スキャンダルってことになる。
それを楓社長が裏工作するなんて、なんて言う世界なの・・。
でも、そうだよね、会社の経営がかかってるんだもん。



だけど・・・私はまだ迷っていた。
隣にいる支社長のことが好き。
だからこのままこの人の傍にいたいし、嫌われたくなんてない。
恋人になれなくても、秘書として側にいるだけでいい。
支社長もそう言ってくれた。

楓社長の言う通りにすれば、今日で支社長とはお別れになる。
まだ、その決心がどうしてもつかなかった。
一方で、楓社長を裏切れば、どちらにしてもこの会社に残ることはできないということだって分かってはいるんだけど・・・。


パーティーの終盤、招待客の見送りの前に、私は一度レストルームに入った。
ふぅーっと息を吐いて、鏡に映る自分自身の顔を覗き込む。

あなたは・・・いったい、どうしたいの?

今日、初めて支社長のパートナーとしてパーティーに出席した。
それは思いがけず幸せな時間で、こんなに優しい支社長を裏切ってまで、会社に残りたいとは思えなくなっていた。
それなら、何もせずにこのままでいよう・・それが一番後悔しない方法。
可愛がっていただいた楓社長に背くことになっても・・それでも・・・

___そう決めたつもりだったのに・・・


突然、背後の会話が耳に入って来た。
ちらっと見ればそこには20代の女性が二人。
今日のパーティーには娘や孫を連れた会社経営者や政治家も多く招かれていたから、恐らくはその関係者だ。

「やっぱり、道明寺司、いい男ね~。あの目で見つめられたら倒れちゃうっ。」
「あの若さで日本支社長でしょ。しかも、次期総帥はほぼ決定だし。」
「顔も良くて、仕事できて、金持ちだもんね。」
「一夜だけでもお願いしたい!」
「あなたも言われてるの?道明寺司と寝て来いって?」
「やだ~、そこまで露骨じゃないわよ。」
「でも、女嫌いだって有名でしょ?」
「そんなの押し倒しちゃえばこっちのもんよ。」
「全く、園子ったらぁ。」
「最悪、コトが無くたって、記事になるだけでもオイシイっ!」
「だよねっ、だよねっ!きゃはは!!」


・・・っ!
何これ・・。何よ、これっ!
嫌だっ!こんなの、絶対嫌っ!!

自分の心の中で張りつめていた糸がプツンと切れた。

まじめに考えていた自分バカみたいに思えた。

今日、私がしなかったとしても、
いずれ別の女性が支社長に罠を仕掛けるの?
そんなの・・・嫌だよっ!

例え嘘の積み重ねだとしても、
それでも他の女性がするぐらいなら・・・

それぐらいなら私がやろう。
そして、アメリカに戻ろう。


自分の中の、もう一人の自分に気付いてしまった。
恋に落ちるということは、独占欲との闘いなのかも知れない。


報われない片思い。

どうせ薬を飲ませるのなら、
これが終わればニューヨークへ戻るのだから、

それなら私は、

私なりのやり方で、この密命をやり遂げようと思う。


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サスペンス・・??(;^_^A
  1. / comment:3
  2. [ edit ]

帰国して1週間が経った頃、俺の幼なじみたちが会社に顔を出した。
何度も連絡はあったが、なかなか時間がとれねぇし、俺にとっては牧野が最優先事項だったから適当に無視していたら、奴らが勝手に執務室に乗り込んできた。

しかも、こいつら、牧野と握手なんかしやがって。
勝手にこいつに触ってんじゃねーよっ。
俺だって、あのクリスマスイブ以来、手なんて繋いでねーんだぞっ。

「なんだよ、機嫌わりーな。そんなに忙しいのか?」
「ちっ。まぁな。いろいろあんだよ。」

俺もこいつらの向かい側のソファーにドカッと身を投げた。

「前に会ったのは夏か?」
「あぁ、類のとこのパーティーだったか。」
「思い出した!お前、なんか変な女のドレスの裾踏んだよな?俺は知ってるぜ?あれ、わざとだろ?」
「わざとじゃねーよ、アクシデントだ。」
「どーだかよ。けど、爆笑だったな。ドレスは破れるし、女はコケるし。しかし、女嫌いとはいえ、サイテーだなお前は。コケた女を引き起こすぐらいしてやれよ。」
「なら、お前が助けてやったら良かっただろ?」

パーティーで馴れ馴れしくしてきやがった女のドレスをアクシデントで踏んじまったら、勝手にコケた。言っとくがわざとじゃねぇ。うぜぇから他に移動しようと思っただけだ。
それにお前らだって爆笑してただろーが。同罪だぜ。

「あの令嬢って、お前のお袋さんの知り合いだったんだろ?」
「知らねぇ。」
「道明寺としては、ゴシップでもなんでも、浮いた噂の一つでも欲しいのかもな、お袋さん。プッ!困るよな~、いい歳して女もいない息子ってのもよ。」
「知らねぇーよ。ババァの思惑なんざ。」

実際、ババァとしては、俺に結婚とまではいわなくとも、女とのスキャンダルの一つでもあればいいと思ってんだろ。
影では俺にゲイの噂があるとか、俺だって知らない訳じゃない。
だからって、男に興味何て全くもってねぇし、そっちの証拠だってある筈ねぇんだけど。
大規模のパーティーになるとババァが適当にパートナーを当てがって来るもんだから、そいつらを蹴散らすのも一苦労だった。

けど、今はそんな苦労は必要ねぇ。
何故なら、俺には牧野という第二秘書がいる。
しかもそいつは、俺が喉から手が出る程欲しい女。
今週の支社長就任パーティーには牧野を連れて行く。
今から眠れねぇぐらいに楽しみだ。


「あの子だろ?女を毛嫌いしてるお前が、初日に抱き留めてやった子。」
総二郎がニヤついている。
「おいおい、前回とはえらい違いだな。」
あきらもハハーンとしたり顔だ。

「あぁ。まーな。」
あの時のことを想い出せば、思わずニヤけちまう。

「司らしからぬ行為だな。」
「いつものお前なら、コケた女なんて放置だろ。」

「「まさかの本命登場っ!?」」
あきらと総二郎が同時に叫んだ。

「だったらどーなんだよ。邪魔すんな。」
「ひゅーっ!マジかよっ。もう一度見て来よ。」
「俺もっ。」
「だから、あいつに触るな。しゃべりかけるな。あいつは俺のなんだよっ。」

「は?何?お前ら、もう付き合ってんの?」
「いや、まだだ。」
「へぇ・・・。なんか、ちょっと変わった感じの子だったもんな。俺たち見ても、はしゃいだりしねぇし。」

変わってる?
牧野はそこら辺の女とは違うんだよっ。
お前らなんて眼中にねぇ。
俺だって、苦戦中なんだ。

「でもさ~。」

と今までソファーで目を閉じていた類が言った。

「あの子、なんか普通じゃなかったよね。俺たちを見る目。」
「そういや、俺と握手した時も、すげぇ力入ってたな。」

おいっ、それってどーいうことだ?
牧野がお前らに興味があるって事か?
そんなの絶対に許さねぇぞ。

まさか・・・な。
だが・・・
俺が言うのもなんだが、こいつらは女からモテる。
まさか、牧野もこいつらに惚れたとか?
いや、ありえねぇ。
あいつの一番身近にいるのはこの俺様だ。
なのに他の男に目がいくとか、マジ、ありえねぇ。

あいつは俺の第二秘書でいつも身近にいるからと、鈍感女を俺様の魅力でじっくり攻め落とすつもりでいたが・・・
こんなことなら悠長に構えてなんかいられねぇよっ!!






その日の夜。
俺は早速、牧野を晩飯に誘った。
けど、いつもならノリノリで付いてきそうなのに、今日はあんまり喜ばねぇ。
俺の心臓がバクバクする。
もしかして・・・気になる男でもできたのか?
あいつらのうちの誰かか?
まさか、類と握手したかったのか?
それを遮った俺とは食事に行きたくねぇとか?

つべこべといい訳をしてノリの悪いこいつを無理やり車に乗せて、マンション近くにあるフレンチレストランの個室に入った。

次々と出てくる料理を見ても、いつもみたいに目をキラキラさせていない。
やっぱりおかしい。
一体どうしたんだ。

「牧野、具合悪ぃのか?」
と聞いてやれば、はっとして、ブンブンと首を振る。

「あいつら・・今日来た奴らに、何か言われたのか?」
と聞いてみれば、
「えっ!?」
と明らかに動揺が見えた。

ドクッと大きく打つ俺の心臓も限界に近い。
まさか、あいつらのうちの誰かに惚れたとか・・?
ダメだっ。それは絶対に許せねぇっ!

牧野が手に持っていたフォークとナイフをテーブルに置いた。

「支社長。」
「何だ?」
「支社長は、あの三人の中で誰が一番好きなんですか?」



***



自分でも信じられない。
何でこんなこと聞いてしまったのか。
聞いてどうするっていうのよ。

支社長に誘われるがままに付いて来てしまったフレンチレストラン。
その煮込み料理はホカホカの湯気が出ていてとても美味しそうに見えるのに、口に入れても何の味もしなかった。
こんなこと・・初めてだよ。

目の前には心配そうな顔の支社長。
そんな風に私に構ってくれるから、だから勘違いしちゃうんでしょ?
私の事が好きでもないくせに、秘書だからって優しくしてくれる。
これってさ、罪だよね。

これ以上好きになる前に、きっちりさせておきたい。
支社長の恋の応援はきっとできないけど、でも、自分にブレーキをかけたかった。
だから聞いたんだと思う。


「は?お前何言ってんの?」
とびっくり顔の支社長。
支社長は、きっと、私が何も知らないと思ってるんだね。

「誰って・・誰が特別もねーだろ。」
「3人とも仲がいいんですか?」
「まぁ、ガキの頃からの腐れ縁っていうか・・。」

「誰が一番優しいんですか?」
「はぁ?あいつらは誰も優しくねぇよ。」
「優しくないのに好きなんですか?」
「まぁ・・なんつーか、昔から一緒にいるしな。あいつらも、まぁ、いろいろあんだよ。ジュニアってのもよ。」
「そうですか・・・。」

大企業のジュニアとしてプレッシャーの中を生きているこの人たち。
そんな中でお互いを理解できるのはお互いしかないってこと。
その絆に勝てる訳なんてない。
はぁ・・・。

「お互いの事を一番分かり合える人たちなんですね。羨ましいです。」

羨ましい。
ホントだよ?
支社長の一番近くに寄り添える人。

「別に羨ましがられるもんでもねぇけど?ま、あいつらといると自分の立場を忘れられるっつーのは確かにあるな。」

うん。うん。そうだよね。

「すみません、私はそういうの理解できなくて・・」
「何でお前が理解する必要がある?」
「え?」
「俺はお前に俺の立場を理解して欲しいなんて思ってねぇけどな。」
「そ・・そうですか・・。」

・・・がーん。
はぁ・・今日は本当にショックなことばかり。
支社長から直接、「理解しなくていい」なんて言われちゃった。
厄日だったかな、今日。

「んな顔すんな。お前は俺の『癒し』なんだよ。お前がいるから頑張れる。だから、お前はそのままでいいんだ。何悩んでんのか知らねぇけど、お前はこのまま俺の傍にいればいい。」

そう言ってくれる支社長の顔はすっごく甘くて。
私を見つめる瞳は優しい。

・・・うっ・・うっ・・・
ひっく・・・何でよ・・・
何でそんな事言ってくれちゃうのよっ・・・。

「うぉっ!何泣いてんだっ!おいっ、牧野っ。どーしたっ!」

ダメだ、止まらない。


私も傍にいたいです。
だけど、それだけじゃダメなんです。

私はいったいどうしたらいい?


「とにかく泣くな。どうしたらいいか分かんなくなる。」
「ひっく・・すみません・・・・。」

いつの間にか支社長が隣の椅子に座っていて、ゆっくりと私の背中を撫でてくれる。

「私も支社長のために何かできますか?」

あの人たちにはできないこと、私も何かしたいです。
仕事での繋がりしか、私にはできることってないんだもん。

そう言った私に支社長が、ふっと笑った。

「あるだろ。支社長就任パーティーのパートナー。お前はただ俺の傍にいればいいから。な?あんま思いつめんな。」


そうだ、今週末のパーティー。
てっきり今まで通り、支社長のパートナーはなしだと思っていたけれど、それなら私にもできる。
支社長の傍にいていいって言うんなら、パートナーだって頑張るよ。
それに、それが会社のためになるのかも知れない。
楓社長が望んでいることではないかもしれないけど、少しでも女性を傍に置いていれば、支社長にとってはカモフラージュにはなるんじゃない?
そんな事でも、支社長の役に立つなら・・・

「ひっく・・・頑張ります。」
「だから、頑張らなくていいっつってんだろ。」
「でも・・」
「ドレスも靴も、全部俺が準備するから、何も心配すんな。コケても俺が助けてやるし、何があっても俺が守ってやるから、な?」

だから、何でこの人はこんなこと言うのよ。
そんな思わせぶりなことを言うから、勘違いしちゃうんだって。


あぁ・・・だけどやっぱり、私はこの人が好きだ。

もうもうもうっ!
なんで、こんな人を好きになっちゃうのよっ!
自分で自分に腹が立つ。


グスッ・・・
どうせこの恋は実らないんだから・・・
それなら・・・

私があなたのスキャンダルの相手になる。

それが、
会社のためにも、
あなたのためにも、
なるのかな?


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動き出した・・かな?
  1. / comment:3
  2. [ edit ]

3年ぶりの日本。
年末は実家で過ごし、会社で用意してもらったマンションへ向かったのが1月2日。
とりあえずの荷物はすでに送ってあったから、荷物を整理して、ひとまず必要なものの買い出しをするつもりであれこれ考えながら歩いていたんだけど、指示された場所に来てみれば、そこは社宅とは思えないぐらいに立派なマンションが聳え立っていた。
まさか・・と思いつつ、コンシェルジュさんに聞いてみたら、やっぱりここで間違いない。案内してもらった部屋は、一人暮らしの一社員にはもったいない位に豪華な部屋で、家具から日用品まで何から何まで揃っていた。
そして後になって、ここには司様も西田さんも住んでいると知る。
だから、仕事始めの日から、司様が私を迎えに来ちゃうハプニングなんかがあって、それから私たち3人は仲良く揃って出勤している状況。


司様の支社長就任初日には、会社前にたくさんの報道陣がひしめいていた。
就任披露パーティーは2週間後だと呑気に構えていた私はすっかり慌ててしまい、リムジンから降りる時にズッコケるという大失態を犯してしまった。

そんな私を笑いながら抱き留めてくれた支社長、司様。
や・・・優しいっ。
朝6時から部屋に迎えに来ちゃったりとか、並々ならぬやる気を感じていたのに、こんなグズな秘書ですみません。
そんな私のことも支社長は見捨てずに、花束を渡す役目まで下さったんだけど・・
でもちょっとやり過ぎです。
支社長に名前を呼ばれ、慌てて一緒にエレベーターに乗って、恥ずかしさにパニックになりそう。

「牧野、これから頼んだぜ。」

と言う支社長の言葉に、もう一度気を引き締めた。
これからだよ、これから!
足を引っ張らないように頑張らなきゃっ!

この時までの私は、純粋に仕事の事しか頭になかった。





支社長就任から約1週間がたった。
日本支社勤務となった私は、基本的には内々の業務が担当。
直近の仕事としては、来週末に控えている支社長就任パーティーの取り仕切り。
すでに会場には東京メープルが抑えられ、立食形式のパーティーで、厳選した招待客は500名。
招待客のリスト確認から、当日の食事・飲み物のチェック、グラスと食器の選択など、道明寺財閥直系の支社長就任とあって、かなり細かいところまで綿密な計画が立てられていた。

支社長と西田さんは、日本に来てから引き継いだ仕事の確認、新しく掲げる社内改革の立案など、初っ端から重役会議が目白押しでてんてこ舞いだ。


今日も会議に出る支社長たちを見送って、私は執務室の片付けをしていると、デスクの上に置かれていた週刊誌が目に留まった。

あれ?これって・・・。

支社長就任初日の記事だ。
表紙には、デカデカと書かれた『道明寺司氏 凱旋帰国』の文字と、真っすぐに正面をきりっと見据える支社長の写真。
思わず手を伸ばしてパラパラと中を捲ると、『部下をさりげなくフォロー 世界一モテる男』と題され、会社前でコケた私を抱きかかえて微笑んでいる支社長の写真が載っていた。
私は後ろ姿だから顔は出ていないけど、自分であることは私が一番よく分かってる。
今や私には珍しくない支社長の笑顔だけど、世間的にはかなりレアなその微笑み。


ああ・・・そうだった・・・。

私はすっかり忘れていた密命を思い出した。
それは、楓社長との約束。
私は、支社長の何らかの女性スキャンダルを流すように楓社長から命令を受けていたんだった。
ドイツから今日まで、忙しくも充実していて、そんな任務は頭から消えていた。

だって、支社長の仕事に対する態度は真面目で、尊敬に値するぐらい。
能力が高いこともあって、相当量の仕事を一日でこなしてる。
それに部下の私に対しても、こちらが気後れしちゃうぐらいに優しいし。
これ以上ない上司なんだよ。

確かに女性に愛想は無いと思う。
だけど、例え支社長の嗜好がノーマルじゃなかったからと言って、それだからって非難なんてできないし、それに、もし一時的に誰かと噂が立ったからって支社長の本質が変わる訳じゃない。
だから、私が受けた密命って、あんまり意味のあるものじゃないと思う。

そう思いながら、もう一度その写真を眺めてみた。

『世界一モテる男』・・かぁ。
あながち間違っていない。
カッコいいよね・・・。
それにいつもはクールな支社長がこんな風に微笑んだら、世の中の女性はきっとみんな虜になる。
支社長のゲイの話は、世間的にはあくまで噂だもん。
私だって、本当のことを知らなかったら、きっと平気じゃいられない。
たぶん、好きになっちゃってる・・と思う。
だって、初めこそ取っつきにくかったけど、本質は極端な位に優しい。
こんな人に優しくされたらさ、誰だって勘違いしちゃうんじゃない?

はぁ・・・
こんなに素敵なのに、女性嫌いなんて。
でも、部下の私には優しくて。
帰国した今でも、私の分までお弁当を用意してくれるのは相変わらずだし、すっごく忙しいのに例え10分でも一緒に食べてくれる。

だから、勘違いしてたみたい。
この笑顔は私だけが見られるんだって。

こうして記事になれば、きっと日本中の女性が、この道明寺司という男に惹かれるはず。
それは楓社長の思惑でもあって、この会社にとってはプラス要素になる。
それは分かっているのに、自分だけが知っていると思っていた彼の笑顔がこうして世間にさらされていることが、私にはなんだかつまらなかった。


・・・もしも、支社長に女性との恋の噂があったら?
世の中の人がみーんな、相手の女性を羨ましがるんじゃないかな。
そしてそのお相手は凄く綺麗な人で、誰から見てもお似合いねってみんなが納得する、そんな人であるはずで・・。

なのに、支社長は男性が好き。
だから、女性を好きになることはない。
少しほっとして、だけどちょっと悲しい。
あれ?私、一体何が悲しいんだろう・・・



その時、ガチャッ・・と執務室の扉が開いた。

「おーい、司、いるかぁ。」
「お前、電話位よこせよー。」
「ふぁ、眠い・・・。」

ゾロゾロゾロっと、3人の男性が勝手に入って来た。

「なっ・・なんですか!ここは、支社長のっ・・・」

「あー、俺たち、司の幼なじみだから。」
「そうそう。司はいる?会議か?でも、そのうち帰ってくるよね。なら、ここで待たせてもらうよ。」
「えっ・・いや、ちょっと・・・。」

私がオロオロしているうちに、3人は執務室の様子をシゲシゲと眺め、勝手に応接セットのソファーに向かう。
そして、私とすれ違う時に、

「あれ?そう言えば、君・・・。」
「あ?もしかして司の新しい女性秘書?」
「・・はい。牧野つくしと申します。」

「そっか、君が。へぇ・・・司に女性秘書ねぇ・・。」
ジロジロと私を観察する黒髪サラサラの男の人。
なんだかちょっと失礼じゃないの?

「総二郎、失礼だろ。俺は、美作あきら。美作商事の専務をしてます。司とは長い付き合いだから、怪しいもんじゃないよ。」
そう言って右手を出されたから、思わず私も手を出してしまった。
この人は案外いい人かも・・・。

「こいつは、花沢類。これでも花沢物産の御曹司だよ。パリ支社にいるんだけど、たまたま日本に帰って来てたんだ。」
名指しされたその人は、面倒くさそうに私を見た。
茶色いビー玉のような瞳で、吸い込まれそうな雰囲気。

「俺は、西門総二郎。茶道西門流って言ったら分かる?」
茶道とか、あんまり分からないんだけど。
とりあえず、笑っておくしかないかな・・・。

西門さんが差し出した右手を握った時に、

「あっ・・。」
「何?」

思い出した・・・。
この人たち、以前に支社長と雑誌に載っていた人だ。
それを見て、楓社長が悲しんでいたんだ。
そうか・・・この人たちが・・・支社長の・・・。


どうしてか分からないけど、勝手に怒りが湧いてきた。
この人たちが悪いんじゃないし、誰が悪いんでもないけれど。
こんなところにまで来なくてもいいじゃないの。
あなたたちの存在が、すっごく迷惑なのよっ!
堂々と支社長の周りをうろつかないで欲しいっ!!

「つくしちゃんっ!いてっ!!」

私は思わず西門さんの右手を両手でギュウギュウに握っていたらしい。

「あっ・・すみませんっ。」

と慌てて手を離した時に、バタンッと執務室のドアが開いた。


「お前ら、勝手に来てんじゃねーよ!!」

支社長が走り込んできて、私と西門さんの間に割って入った。

「おー、司、久しぶり。お前が、連絡よこさねーから、こうして来てやったんだろーが。」
「そうそう、会いたかったぜ、司君。」
「ふわぁ~、俺ちょっと寝ていい?司。」

3人と支社長はとってもフレンドリー。
4人でじゃれ合っている姿を見れば、それってやっぱりかなりレアで。
彼らと支社長の仲は疑いようもない・・・。

実際4人ともに長身イケメンで、集まれば絵になっていて、私が入り込む隙なんてどこにもない。

別に入り込みたいって訳じゃないんだけどさ。
なんだか・・・ショック・・・・。

そんな事思っちゃいけないのに、ショックは隠しきれない。
この人たちの前で、支社長ってば凄く楽しそう。
今までそんな姿は、私にだけに見せてくれているのかなって勘違いしてたから、余計に恥ずかしいよ。
そんな訳ないのにね。

「コーヒーお持ちしますね。」

居た堪れなくなって、さっさとこの部屋を出ようとしたら、

「あ、俺、まだ握手してなかったよね。」

花沢物産の花沢さんが、私に向かって右手を差し出した。
あぁ、そう言えばそうだったかも・・
それで、私もすっと右手を伸ばしたら、

「ばっ・・こいつの手とか触ってんじゃねーよっ!!」

そう言って、支社長が私と花沢さんの間に入った。

・・・・がーん。
追い打ちをかけるショックだ。
たかが握手すらも許せないぐらいに、この人たちのことが好きなの?
もしかして・・・花沢さんが本命?

「お前は、向こうに行ってろ。」

支社長にそんな風に凄まれて、私は北風が吹いたみたいな気持ちになった。

ブリザード級のショック・・・



コーヒーを淹れて、それを西田さんに持って行ってもらうようにお願いした。
それから、自分のデスクにストンと座って呆然とする。

何よ。
分かってたことじゃないの。
支社長の本命は、あの中の誰か。
ううん、もしかしたら3人とも?


そんなの私には何の関係もないことだって思うのに、
毎日一緒にいるからか、私の中で支社長の存在が勝手に大きくなっていて、
一緒にいると楽しくて、
凄く頼れる人だと思ってて、
彼の笑顔は私だけが見られるんだと勘違いして、

だから今、自分がすごく惨めで・・・

あーあ、どうして気付いちゃうのかな。
ライバルが男だなんて・・・本当にあり得ない。



支社長は素敵な人なのに。
支社長が好きな人って・・・男の人。
自分の恋心に気付いた瞬間に、私の失恋は決定した。

これって辛すぎる現実。

そして、自分の任務が重くのしかかる。
支社長の女性スキャンダルを仕掛ける。
何てバカな話。
好きになった人のスキャンダルだなんて。

でもあの時、楓社長は言ったよね。
「チャンスがあれば・・・」

チャンスがあれば、支社長の女性スキャンダルが欲しいんだって。
だけど、今のところ、そんなチャンスは私にはない。
だから、このまま・・・。
このまま支社長の傍にいるだけじゃだめ?

不毛な片思いだっていいんだもん。
好きになった人の傍にいたいと思うのは普通のことだよね。


私は今更ながらに後悔した。
楓社長の頼みを引き受けてしまったこと。

支社長に嫌われちゃうことなんて、私にできるはずがないよ。
私はどうしたらいいんだろう・・・。


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ドロドロドロドロ・・・・(-"-;A …アセアセ
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牧野のことが好きだと自覚した俺。
自覚したからには止まれねぇ。
絶対に、この女を手に入れる。
それはもはや決定事項。
そのために彼女の情報を少しでもゲットしようと、もう一度彼女の履歴書をチェックし、誕生日が12月28日だということに気が付いた。
危うくスルーしちまうところだったが、気付いた俺にはチャンス到来。

ベルリンメープルのシェフらを借り出して、即席の誕生日パーティーだ。
業務自体が何時に終わるか分からなかったから苦肉の策。
けど牧野はめちゃくちゃ喜んでたと思う。
本当だったら、プレゼントだって用意したかった。
時計でも、指輪でも、何でもいい。
けど、牧野の好みを知らねぇし・・・欲しいもんなら何でも買ってやるつもりで、「誕生日プレゼントは何がいい?」と聞いてみれば、「はい?」と小首を傾げられた。
それから、「こうしてお祝いしてもらえるだけで十分です。ありがとうございます。」なーんて、ニッコリ微笑まれたら、完敗だった。

くっそぉ。
もしかして、わざとか?わざと俺を煽ってんのか?
けど、ひたすら食ってるこいつを見れば、そうでないのは明らかで。
どうやら単なる天然らしいって事が分かった。

あー、ちくしょー。
恋人だったら、無理矢理にでもプレゼントできるのに。
金なら余る程あるのに、使えねぇもどかしさ。


一体お前は、俺の事どう思ってんだ?
イブの夜に手を繋いでデートだぞ?(俺はデートだと思ってる!)
サプライズで誕生祝いだぞ?
そんなこと、好きな女にしかしねぇだろ、普通?
そーいうこと、分かってんのか!?

もりもりと誕生日ディナーを食っている牧野を横目で眺めつつ、
思い切って告白すっか・・・と考えなくもなかったが、どう考えても俺に惚れてるとは思えない彼女の態度に、俺様ともあろうもんがビビって言えなかった。

けど、最低限は聞いておきてぇ。

「お前、恋人いるのか?」
「え?いませんよ?」
「好きな奴は?」
「いませんけど?」

それまでモグモグ口を動かしていた牧野がそれを止めて、俺をじっと見つめた。
もしかして・・・俺の気持ちに気付いた?

「司様は、どうして私にこんなに優しくしてくれるんですか?」
「そ・・そりゃ・・まぁ、つまり・・・」

ゴクッ。
そりゃ、お前のことが好きだからだ。
そう言おうと唾を飲み込んだ時に、

「いえ、分かっているんですけどね。これから、日本で頑張れってことですよね。日本に帰ったら支社長秘書として頑張りますから、私。だから、あんまり気を使わないで下さいね。こんなに親切にしてもらわなくても、仕事はちゃーんとしますから、ねっ!」

俺を見上げつつ、牧野が自信たっぷりに言う。

・・・・はぁ?何でだよ。
気を使うなって、親切にするなって、何だよそれ。
ただの秘書に気を使う訳ねぇし、親切になんてする訳ねぇだろっ。
ちっとは考えろっ。
全てはお前を落とすためだろーがっ。
俺の為なんだよっ!
やめられっかっ!!

しかし、マジか・・。
やっぱ俺がお前のこと好きだとは思わねぇんだな、この鈍感女。

すっげぇ悔しいが・・・こいつは俺に惚れてねぇ。
つーか、恐らく俺は恋愛対象として見られてねぇ。
この鈍感女を落とすには、相当積極的にいかねぇとダメだと知った。
こいつからのアクションを期待してるようじゃダメだ。

これから忙しくなるな・・・・。







1月1日付で、俺は道明寺ホールディングス日本支社、支社長に就任した。
第一秘書はこれまで通り、西田。
第二秘書はドイツから続いて牧野が務める。


1月3日が会社の仕事始めになる。
年末から今日までオフだった俺たちは、この数日会うことはなかった。
西田とは何度も電話で連絡を取り合っていたが、牧野の声は一度も聞いていない。
ドイツでは毎日顔を見ていたから、数日会えないだけで死にそうだ。
完全に牧野が足りねぇ。

休み中、何度も牧野の携帯を鳴らそうかと思ったが、なんとか我慢した。
これから先のことを考えれば、今しなきゃなんねぇことがあったしな。
まずは、牧野の部屋は俺所有のマンションにするように手配した。
もちろんすぐに住めるように家具や雑貨まで全て完備。
西田の部屋も仕方ねぇから同じマンションだ。
もちろんそこの最上階は俺の部屋。
そのマンションには、昨日牧野が入居したはずだ。


だから、今日、1月3日、
俺は早速牧野の部屋のチャイムを押した。

「はい?」
「俺だ。」
「俺だって・・・誰?」

どうやら直接玄関ドアのチャイムを押した俺はモニターに映らないようで、戸惑った牧野の声が聞こえてきた。

「お前、上司の声も分かんねぇのか?」
「へ?あ?うっそーっ。はい、はい、今、開けますっ。」

ガチャッと開いたドア。
久しぶりの牧野を拝んだ瞬間・・・俺は顔面が熱くなった。
何故って・・・
こいつ、パジャマじゃねーかよっ。
・・・誘ってんのか?

「あれ?どうしたんですか?・・・って、うっ、きゃーっ。ちょっと!!」

俺がガン見している自分のパジャマ姿に気付いた牧野が、ギャーギャー騒ぎ出した。
やっぱ、誘ってたわけじゃねぇな。
薄いピンクのモコモコしたガキくさいパジャマ。
そのまま抱きしめちまいてぇ・・
何でそんなに可愛いんだお前は。

俺は靴を脱ぎ、スタスタと中へ入って行く。

「あ、ちょっと、待ちなさいっ!こらっ!」

牧野が後ろを追いかけてくるが、待たねぇよ。
お前に会うのに、何日我慢したと思ってんだ。
腕時計を見れば、朝6時。
少しばかり早すぎたってだけだろーが。

狭いリビングスペースに俺の部屋と揃いのカウチを確認し、それにドスッと腰かけた。

「待っててやるから、早く準備しろよ。」

そう、俺はこいつを迎えに来た。
なんで?どうして?を連呼しているこいつも、仕方ないと諦めたのか、急いで着替え、出勤準備をし始めた。

それから、牧野が朝食を食うのに付き合って、ピザトーストっつー不思議な食いもんと紙パックで入れたコーヒーを味わった。
ピザかパンかどっちかにしろよと思ったが、牧野が美味そうに食ってるから、どうでもよくなった。
何だか怪しいコーヒーも、牧野が「ほら、朝は時間がないからね。結構いけるでしょ?」と言うから、「そーだな」と答えた。

そして、二人で牧野の部屋を出た。
なんかいいな・・これ。

それから、俺たちは西田を誘いに向かった。

「これは、これは・・・さすがは日本支社長ですね。やる気に満ち溢れていらっしゃる。」
と厭味ったらしい西田に対し、
「本当ですね~、今日から頑張りましょうっ!支社長!!」
とどこまでも鈍感な牧野。

俺がやる気に満ち溢れてんのは、仕事だけじゃねーよ。
いつになったら気付くんだろうな、この女は・・・。






3人でリムジンに乗り込み、日本支社へ向かう。
正面玄関前には帰国後初の俺の姿を撮ろうと、記者たちが待ち構えていた。
ちらっと牧野を見ると、緊張してるのが丸わかり。

初めに西田が車から降りて、次に俺が降りた。
一斉にカメラのシャッター音が鳴る。
その後に続いて牧野が降りた時に、「あっ・・」と小さな声。
はっと振り返れば、牧野が何かに躓いたらしい。
倒れ込みそうになった彼女を抱きかかえた。

小さく「ごめんなさい」と呟いたのを見て、ちょっとだけ笑ってやったら、ガシャガシャガシャッと、ありえねぇ程のシャッター音。
まあ、いい。どんどん撮れよ。

牧野をしっかり立たせて、名残惜しいが手を離し、SPが誘導する中を社内へ入って行くと、ロビーでは日本支社の重役たちが整列していた。

拍手で出迎える重役たちに少し頷き返し、エレベーターホールへ向かう。
その手前で変な女が俺に向かって花束を差し出した。
めんどくせぇ。
パフォーマンスだと分かっていても、何でどこの誰とも分からねぇ女から花なんてもわななきゃならねぇんだと苛立っちまう。
花を持つ女の妙に自信満々な態度も気に入らねぇ。

「西田。」
俺は後ろに控える西田を呼んだ。
西田は心得たといった様子で前に出て、その女から花束を受け取った。
西田はその花を、今度は牧野に手渡す。
そしてこそっと牧野に耳打ちをすると、牧野がびっくり顔をした。

俺はわざと牧野に向き直った。
当然、彼女から花束をもらうためだ。

牧野は困ったような顔をしながら、その花束を横にして俺の手に預けた。

「司様、支社長就任おめでとうございます。」

別に何にもメデタくなんかねぇんだけど。
ただ単に、道明寺の駒として動いているだけのこと。
まぁ、ビジネスの結果を出すということは俺にとって天職であるとは思うが。
そのビジネスの場では常に冷静沈着が求められる。
けどよ、俺だって普通の男なんだぜ?
花だって、何だって、好きな奴からもらいてぇ。
だが一方で、どーでもいい奴とは一切かかわり合いになりたくねぇ。
お前から言われるおめでとうは聞きてぇけど、他の女からなんて聞きたくねぇよ。

「ありがとう。」

俺がそう言えば、牧野がまたニッコリと笑う。
それがいつしか俺のパワーになっている。
この日本支社での仕事はきっとうまくいくだろう。
こいつが側にいるからな。


俺はその花束を持って歩き出す。
エレベーター前で振り返り、
「牧野、行くぞ、来い!」
と彼女を呼んだ。

慌てた牧野が小走りに走って来て、慌てて俺をエレベーターに押し込む。

「やだっ、目立っちゃう!」

ばーか、目立つようにやってんだ。
つーか、すでに目立ってる。
だいたいリムジン降りてコケルとかありねぇし。
お前、絶対わざとだろ?
自分から俺の餌食になっているとしか思えねぇ。

「なんか、もうやだっ!」
何て言いつつ、青くなったり赤くなったり、可愛いんだよな・・・。


「これから頼んだぜ、牧野。」


牧野はすでに俺の射程圏内。
どの方向に逃げたとしてもトラップを仕掛けてやる。
逃げられねぇよ、
この俺からは。


エレベーターが閉まる時、
ロビーに集まった奴らがポカーンとアホ面しているのが目に入った。
そして俺らのすぐ隣では、西田が小さく笑っていた。


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