花男の二次小説になります。つかつくonlyです。

With a Happy Ending

つくしが楽しみにしていた同期会。
俺の心配は、つくしの体調と、安全面。
それから、つくしに対するの周囲の反応だ。
彼女に対する周囲の目は大きく変わっている。
鈍感なこいつは、あまり気付かないのかもしれないが・・。

西田に手配させた、つくしの同期のリスト。
男5名、女5名。
入社前に課した論文から判断し、それぞれに大なり小なりのテーマを与え、この1年で企画を練らせてきた。
まだ、企画中の奴らもいるが、レストラン部門の黒田、宿泊部門の高木のプランは目を引いて、すでに実行に移されている。それ以外の奴らも、何度かプランの提出があり、修正中だ。
ただ一人、企画の提出が一度もない奴がいた。
それが、山崎恵。

宿泊部門を希望していたのに、初期配属はブライダル部門。
この女は未来のメープルに、ブライダルとのタイアップの強化を挙げていた。
そのプランの可能性を買って、メープル上層部はこいつをブライダル部門へ配属したらしい。
当然、課されたテーマもブライダルだった。
それなりにいい初期プランを出していたが、その後一度もプランの提出がなかった。
初期研修が希望の部署じゃなかった奴はたくさんいる。
しかし、そこで結果を出すことも仕事だ。
プランの提出がないからと言って、ペナルティはないが、評価はされない。
当然、キャリアアップにはつながらない。
単に業務をこなすだけなら、総合職でなく、専門職と同じだ。
それから、もう一つ、この女に気になる点があった。
本人は強く希望したらしいが、今年度の海外勤務の希望が叶わなかったこと。
当然だ。こちらが課したテーマの回答すらないんだからな。


今日は、初めからつくしの同期会に顔を出そうと思っていた訳じゃない。
つくしの同期をチェックしたのは、そのバックにややこしい人間関係があるかどうかが知りたかっただけで、実際そこには問題はないと判断していた。
だが、たまたま、会議が早く終わり、事務処理は明日でも可能な状況になった。
挨拶回りの移動中も、つくしの顔が冴えないことが気になっていた。
だから、強引かも知れないが、早めに連れて帰ろうかと思い立った。

聞いていた店に入ると、SPの川西が驚いた顔をした。
そして、中から、女の甲高い声が聞こえてきた。

『支社長に体を使って取り入った・・とか?呆れちゃう。』


聞き間違いか?
しかし、部屋の中の空気が張り詰めているのが分かった。
さすがの俺も、ここまで低俗な会話がなされているとは予想もしていなかった。
この程度の人間を採用した、メープル幹部にも頭が来る。

そもそも、ホテル業務で重要なことは、洞察力だ。
その人間が何を欲し、何を疎んじているのか。
そして、その人間がどの程度の人間か。
そういった、人を見る目が必要な職種だ。

つくしが、体を使って、俺に取り入った?
もし、それを信じる様な奴がここにいるのなら、こいつら全員クビだ。
それ位に、バカげた話だ。
つくしの仕事ぶりを見て、そんな物の見方しか出来なような奴は、メープルには必要ない。


そのままブチ切れて帰っても良かったが、そんなことをすればつくしの立場もないだろう。
つくしに惚れこんで、妻にしたのは俺だ。
この女の発言は、俺に対する侮辱に等しい。
勘違い甚だしいこいつらに制裁を加えることもできたが、それは問題の根本的な解決にならない。
俺は、怒り心頭に発した頭を振り、冷静さを装って、部屋の中に入った。


はっきり言って、つくしの同期からの評価なんて、どうだって良かった。
だが、こいつが間違った評価をされるのは許せねぇ。
根本的な解決。
それは、俺がいかにこいつに惚れているかを思い知らせてやることだ。
そして、こいつが、いかに俺に相応しい女か知らしめてやる。

こんな奴らと会話するのも、つくしのため。
どうだよ。
こいつが俺に惚れてる以上に、俺がこいつに惚れてんだ。
俺が追いかけて、やっと手に入れた女なんだ。


公私混同だ?
別にいいじゃねぇかよ。
全ての責任は俺が取るつもりなんだから、オメーらには関係ねぇことだ。
かといって、他の奴らには任せねぇよ。
つくしが提案した以上のプランはあの当時なかったし、俺が全責任を背負ってもいいと思うほどの価値は、残念ながら、こいつらには見い出せなかったからな。
身の程を知れ。

・・・と言いたい気持ちをぐっと押さえた。
今では、カリスマ経営者と言われる俺。
俺も、大人になったもんだな・・。






「ねぇ・・司さん・・呆れてる・・?」
二人きりのリムジンの中。
黙ったままの俺に対して、恋人つなぎをしたまま、隣に座っているつくしが、恐る恐るといった様子で話しかけてきた。

「何が?」
「だって・・」
「お前が、あの低レベルな女に言い負かされてたことか?」

ちょっと・・言い過ぎかも知れねぇ。
けど、これからも、きっとこういったことはあるだろう。
こいつが俺の妻になった時点から予想できたこと。
だが、その度に傷つく必要なんかねぇってことを教えてやりたかった。

つくしを妻に選んだのは、俺だ。
そして、つくしも俺を選んだ。

少しショボンしたつくしに言ってやる。

「呆れる訳ねぇだろ?俺を信用してねぇの?」

つくしの大きな目が潤んだ。

「あ・・あたしは、道明寺司の妻なんだから、もっと、しっかりしなきゃだめでしょ?司さんが傍にいなくても、毅然としていたかったのに・・・。ごめんね。」


・・・。
・・・はぁ。
これだから、こいつはバカだっつーんだ。
同期の前では気合い入れたんだろうが、結局のところ、根本が間違っている。
俺が求めてるのは、そこじゃねぇ。


____道明寺司の妻。

その言葉がこいつに課す重みは、分かっているつもりだ。
だが、俺は、別にこいつに毅然としていて欲しい訳じゃねぇ。
むしろ、ダメダメなままで、俺をを頼って欲しいんだ。
そんな事、こいつは望んじゃいねぇんだろうが、それが、俺の第一希望。
何度も伝えてるのに、どうしてわからねぇんだ、お前は。


「お前さぁ。もっと、俺を頼れよ。負けそうになったら俺を呼べよ。」


こいつが、ちょっとのことじゃ、俺を頼りたくないってことは分かってる。
だけど、何度でも伝えておきたい。
俺は、いつでもこいつの味方なんだってことを。
どんなにダメなお前でも、愛してるってことを。
いや、むしろ、ダメなままでいて欲しいんだってことを。


「お前は、道明寺司の妻である前に、俺の女だろ。勘違いしてんな。」


俺の言葉を聞いたつくしが、コクリと頷いた。
やはり体調が悪いのか、だいぶ疲れているのか、言葉が出ねぇようだ。
そのまま、俺にもたれかかってきた。
かなり・・・無理をしている・・
そう感じた。


しばらくの間、つくしの髪を撫でていると、

うっく・・えっく・・
としゃくり上げる、つくしの声が耳に入ってきた。


少し前のつくしなら、俺がどんなに頼れと言っても、強がって、「大丈夫だ」なんて可愛げねぇことを言っていたに違いない。
そして、俺はそんなつくしも可愛くて、彼女をできるだけ自由にしてやりたいなんて思っていた。

だけど、やっぱり、最近のこいつはおかしい。
極端に涙もろいし、感情に流されやすい。
しっかり見守っていないと崩れそうな危うさがある。

それに、握っている手も、撫でている頬も、どこもかしこも、こいつのの身体中が火照っている。
それは、今に始まったことじゃなく、しばらく前からずっとだ。
アルコールが入った訳でもねぇのにな。


ふぅ・・。
やっぱ、このままには出来ねぇな。

俺は覚悟を決め、
つくしの頭を撫でながら言ってやった。


「お前、やっぱ、おかしいな。病院行くか。」



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司さんサイドでした・・えへ。
番外編なのに、10話超えちゃってますよ。
何やってんだ~とツッコミたい・・。
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  1. その後の二人のエトセトラ
  2. / comment:5
  3. [ edit ]

「牧野さん・・いえ、奥様を、自分の部下に付けたのは、公私混同ではないのですか?」

山崎さんのその発言で、
その場は、またしても凄まじい緊張感に包まれた。

どうしよう。
どうしたらいい?


その時、隣の司さんから、ふぅーっと溜息。
「公私混同・・かもな。」

そう呟いた司さんを、みんなが驚いて凝視した。
あたしも、隣の司さんを見上げる。
司さんの表情は何も変わらない。
だけど、その目つきは、恐ろしく真剣だった。


「本当のことを言えば、彼女の初期プランを見た段階で、彼女を道明寺HDの企画部へ引き抜くつもりだった。それだけ魅力あるプランだったし、道明寺HDの冠を付けて大々的にバックアップした方がいいと考えた。企画は、俺が直接指揮を執ることが決まっていたから、その方が都合も良かったし、うちの上層部もその判断をしていた。だが、本人の第一希望がメープル勤務だった。彼女の希望を優先した俺は、彼女に二足草鞋を履かせる提案をした。ホテル業務と、企画業務、その両方を新入社員に課すことには、役員からの反対意見が強かったけどな。」

一言一言、ゆっくりと話す司さんが、そこで一度言葉を切り、みんなをぐるりと見渡した。

「正直、キツ過ぎるだろ。通常業務の倍は働くことになる。しかも、道明寺HDが支援する初めての企画を背負うんだ。そのプレッシャーに耐えるのは並みの精神力じゃ無理だ。新入社員を速攻でつぶしかねない。だが、俺は、普通の社員だったらまず無理だと思われる人事を無理矢理通した。メープルの仕事がしたいと言うこいつの希望を、社の方針で奪いたくなかったからだ。そういう意味では、公私混同だな。彼女には、過度な仕事とプレッシャーを掛けてしまったが。まあ、最終的には、当初よりもインパクトある企画を成功させた訳だから、上層部も納得し、結果に満足している。俺も、彼女をつぶさなくてほっとした。」

「だがな。例え、それで彼女がつぶれたとしても、俺が責任をとるつもりだった・・・と言ったら、やはり、公私混同なんだろうな。」
そう言った司さんは、甘くあたしに微笑んだ。


公私混同・・。
でもね。皆は分かっているのかな。
あたしがもし、この企画を失敗していたら、それは全て推薦した司さんの責任になる。
あたしの失敗は、全て司さんの失敗に繋がるんだよ。
そんな大きな仕事に、公私混同なんてするはずがない。


「だからといって、俺は、初めからつぶれることを前提で二足草鞋を履かせたりはしない。面接や論文の内容と人間性を鑑みて、こいつならやれると判断した。他の奴に、同じことをやれとは言わない。出来る訳がない。それ位の見る目はあるつもりだ。」

天性のビジネスセンスを持つと言われる司さん。
その彼の判断が間違っているなんて、きっとこの場の誰も思わない。
司さんの見る目を疑う人なんて、誰もいない。


ここまで一気に話した司さんが、山崎さんに視線を送った。

「お前、こいつ以上の仕事ができるのか?山崎恵。お前に課したブライダルの企画は、未だ俺のところにまで上がってきていないが?」

名指しされた山崎さんが、真っ青になって下を向く。
それを見て、司さんがまた口を開いた。

「俺は、仕事に関して、妥協は許さない。それが、自分の恋人だったとしてもだ。体を使って取り入る?俺を馬鹿にしてるのか?この世界は、そんなに甘いもんじゃない。99%が努力の世界だ。仕事を舐めるな。もしもそんな馬鹿な部下がいたら、俺は即刻切り捨てる。」

淡々と語っていた司さんの言葉に、怒りが籠る。
その場の全員が固まった。
やっぱり・・さっきの言葉を聞いていたんだ。
他のみんなも、きっとそう思ったに違いない。


それから、司さんは再び、みんなに向かって言った。

「昨年から、道明寺HDがメープルの経営に携わっていることは周知されているはずだ。君たちの仕事のうち、優秀なプランは俺の手元に届く。例えば、黒田。君のレストランのプランは、昨年のクリスマスから採用されている。そして、高木、君の企画は、今年の営業の目玉だ。」

「まだ、企画を提出していない奴らもいるだろう。過度なプレッシャーを与えはしないが、君たち自身が、常に評価の対象になっていることを忘れるな。そして俺に、君たちの仕事ぶりを見せて欲しい。もし、俺に直訴するのであれば、まずは与えられたものに対する結果を出せ。話はそれからだ。」

周囲を見回した司さんに、みんなが頷いた。

「「「はいっ!!!」」」



司さんのオーラにみんなが圧倒されたかと思えば、すぐにやる気を引き出された。
凄いよ、司さんは。
本当に凄い。

ちゃんと見てるんだ。
なんて、当たり前か。
この人は、道明寺HDの後継者なんだから。


涙も引っ込んだあたしの顔を満足そうに覗き込んで、

「つくし、そろそろ、帰るか?」
と司さんが耳元で囁く。

コクっと頷いたあたしを見て、司さんがあたしの手を引いけど、
あたしは、その手をぎゅっと握って、もう一度引き戻した。

ん?という司さんの顔を見て、ちょっとだけ笑ってから、あたしはみんなの方に向き直った。



きっと司さんは、あたしがどんなあたしであったとしても、見放したりしない。
今日みたいに情けないあたしを見ても、嫌いになったりしない。
例えあたしが上手く仕事をこなせなかったとしても、軽蔑したりはしない。
あたしのことを、誰よりも理解して、見守ってくれるはずだ。

今日、ここで、あたしを守ってくれたように・・。

だけど・・あたしだって負けられない。
少しでも、司さんの期待に応えたいよ。


あたしは大きく息を吸い込んだ。

「今日ね、ここに、この恰好をしてきたのは、この方が自分らしいと思ったからなの。今日は、結婚の挨拶回りがあって、知らないうちに、プレッシャーを感じてたみたい。用意してもらったセットアップは自分には不相応なんじゃないかと思ったりして・・・本当に馬鹿だよね。何を着ていようが、あたしはあたしなのにね。だから、みんなに合わせたとかそんなことじゃないの。でも、そのせいで、みんなに不快な思いをさせてしまったのなら、ごめんなさい。」

「でもね。同期のみんなには知っておいて欲しいの。あたしは、どんなに頑張ってもあたしでしかない。道明寺司の妻だとか、道明寺家の嫁だとか、自分がそれらに相応しいかどうかなんて、分からない。あたしはただ司さんが好きだから結婚したの。みんながどう思おうと、それが真実。これからも、それはずっと変わらないよ。あたしは、ずっとあたしらしくありたいと思ってる。それに、結婚しても、仕事は辞めないし、絶対に手は抜かない。あたしは、メープルが好きで就職したんだから。だから、これからも、もっともっと努力して、また今度みんなに会う時には、今よりももっと素敵な企画を成功させられる人間になっているつもり。それが、あたしらしくあることだと思うから。そうすれば、いつか、司さんの隣に立つことが自然な女性になれるんじゃないかなって思うの。」

「あたし、頑張るから・・。だから、これからもよろしくね。」


そう言ったあたしを、司さんがこつんと小突いた。
司さんを見て、えへへと笑う。
大きく出すぎちゃったかな。
でも、いいの。
本当にそう思ってるんだから。

あたしは、常に、あたしらしく・・・。
そうすることが、自然体の『道明寺司の妻』に繋がっていくと思うから。



司さんと恋人つなぎをして、お店を後にした。
視界の端っこで、SPの川西さんがちょっとだけ笑ってたような気がする。
心配かけちゃってたのかな・・。


最後にみんなから掛けられた言葉。
『また、絶対に会おうね。』

たったそれだけの言葉が嬉しい。
まだまだ中途半端なあたしだけど、また会おうって言ってもらえるのが嬉しかった。
次に会う時には、もっと成長したあたしでありたい。
そんな風に前向きにここを去ることができるのは、司さんのおかげだ。


お店を出た途端に、チュッと司さんの唇が落ちてきた。
あたしは、ぎゅーっと彼の腕にしがみつく。


あたしの自慢の旦那様。
この人と一緒にいれば、どんなことでも乗り越えていける。

あたしは、この人と結婚して、本当に幸せだ。



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これにて、トラブル編は終了!です。
  1. その後の二人のエトセトラ
  2. / comment:6
  3. [ edit ]

突然の司さんの登場に、みんなはポカーンと口を開けたまま固まってる。
あたしも、ただただ、司さんを見つめてしまった。

一言も言葉が出ない、この状況。
どうしよう・・。


すると、先日司さんと少し話した黒田君が、意を決して立ち上がった。
「道明寺支社長、お疲れ様です。あの・・どうぞ、こちらに・・。」
そう言って、あたしの隣を勧めてくれる。

はっと我に返った涼ちゃんが、慌てて席を移動した。
そして、司さんが、さっとあたしの隣に座る。


ごくっ。
司さん・・何しに来たの?
何で、こんなところに座っちゃうの?
ここは、あたしの同期会だよ?
この雰囲気、分かるかな?
あたし、今、ピンチなの。
あたしが、雰囲気を悪くしちゃったの。
あたしがあんまり考えなしだったから。
だけど、お願い。
どうか、司さんに気付かれませんように・・。


みんなからの視線が痛い。
誰も声が出せないこの状況を司さんはどう思っているんだろう。
だけど、司さんは、なんてことないと言う様に、飲み放題のメニューを見て、あたしに聞いてくる。
「お前、何飲んでんの?」
「あっ、オレンジジュース。」
「つっても、もう氷溶けてんな。新しいの注文するか?」
「ううん。いいの・・。あの、司さん・・は?」
「このメニューじゃ、分かんねぇな。」
「ウイスキー?」
「いや、まだ仕事残ってるから・・。」

司さんがそう言ったところで、向かい側の黒田君が、
「じゃあ、ウーロン茶ですねっ。」
とオーダーをを伝えてくれた。


またまた、しーん。
気まずい・・。
どうしよう・・。

だって、今の今まで、あたしは、山崎さんから攻撃を受けていた。
道明寺司の妻でありながら、勝手に着替えて、それに勝手に満足して。
あたしらしいと思ったことが、そうは受け取ってもらえなかった。
あたしの自己満足っていうだけ・・。
本当に・・バカみたい・・。
だから、司さんのこと、まっすぐに見れないよ。
司さん、どう思うんだろう・・あたしのこと・・。


ちらっとだけ、隣の司さんの様子を伺うと、
司さんは、特にその場の雰囲気を気にする風でもなく、
あたしに視線を落として、
それから、目を細めて、ふっ・・と笑った。

その表情は、いつもと変りなく、とっても優しい司さん。
涙が出そうになるぐらい・・。
だけど、同期のみんなにとっては意外だったみたいだ。
周りのみんなが、驚いたのが分かったから。


「そのカッコ。可愛いじゃん。」
「え・・そう?ありがと・・。」
「あれから着替えたのか?」
「うん。あれだと、堅苦しいかなと思って・・。」
「確かに、借りてきた猫みたいになってたもんな。ぷっ。」
「笑わないで。必死だったんだよ、挨拶回り。」
「分かってる。」
そう言って、司さんが、あたしの髪をくしゃっとした。

それから、今気付いたかのように、司さんがみんなを見回した。

「つくしの夫の、道明寺司です。今日は、妻のために集まってくれてありがとう。こいつも、今日の集まりをずっと楽しみにしていました。」

その司さんの言葉に、同期のみんなが目を丸くする。
だって・・この人は、親会社の日本トップなんだよ。
そんな人が、みんなにお礼を伝えてる。
それは、きっと・・あたしの・・ため・・。

しーんと静まり返ったままの店内。


少しして、涼ちゃんが、あたしに向かって言ったんだ。

「かーっこいい!ね、マキちゃん。やっぱり、支社長はかっこいいねっ!」

その涼ちゃんの言葉は、酔いも手伝っていたんだろうけど、すっごくストレートで。
あたしも思わず頷いてしまった。

「うん。」

「マキちゃん、言ってたもんね~。Barに素敵な人がいるって。でもさ~、支社長だったら、普通気付くでしょ?F4だよ?F4!どうして分からないかな~。」
「涼子、牧野は、F4知らなかったじゃん。覚えてない?」
そう言うのは、涼ちゃんの彼の高木君。
「あ、そうだったねぇ~。マキちゃん、入社式の後、F4のこと調べてたもんねっ。ぷぷっ。」

やっ、恥ずかしいっ。
ちらっと、司さんを見たら、司さんが呆れたようにあたしを見ていた。

「あぁ、そうなんだよな。こいつ、俺と正式に付き合うまで、俺の名前も立場も、知らなかったんだわ。ホント、馬鹿だろ?」
涼ちゃんたちの話に、司さんが相づちを打つ。

「司さん、止めてっ。変な事言わないでっ!」
「変な事じゃねぇよ。事実だろ?」
「やっ、黙って!」

あたしが司さんの口を塞ごうとすると、
「牧野、マジっ?!」
「信じられなーい。道明寺支社長に気付かないなんてっ!」
「それでも付き合おうと思うのが、牧野らしいよなー。」
と口々にみんなが言い出した。

お酒が入っているみんなは、あっという間にいつもの雰囲気に戻っていった。


「支社長、マキちゃんのどこが好きなんですか??」
なんて、ここぞとばかりに聞いている涼ちゃん。

「あー。どこって、全部だな。一目惚れなんだわ。」

うぎゃーっ。何言ってんのっ!?
そんなこと、聞いたことないしっ。

「そっ、それって・・支社長が牧野さんにアタックしたってことですかっ!?」
と他の女の子も興味津々そう。

「そうだな。こいつ鈍感で、言わなきゃ分かんねぇから。結構大変だった。」
しみじみと語った司さんに、

「「「きゃーっ!!!」」」
と、涼ちゃんを含め、女性陣の悲鳴が上がった。


恥ずかしいっ。
恥ずかしすぎるっ。


だけど・・・やっぱり、嬉しい・・・。
司さんの声を聴くだけで安心する。
司さんがいつも傍にいてくれることが、当たり前になっている。
それは、極単純な理由。
あたしは、司さんに愛されているから。


本当なら、司さんが、こんなお店に来る訳ない。
わざわざ出て来てくれたんだ。
あたしのために。
あたしを一人にしないように。

あたしのこと・・心配だって言ってくれてたのは、安全面だけじゃなかったんだ。
あたしは、何にも考えずにこの場に来てたって言うのに。
きっと、こんな風にピンチになることも予想してた?
もしかして、さっきの話、聞かれてた?


洋服がどうのとか・・
SPがどうのとか・・
何を気にしてたんだろう・・あたし。

司さんはいつも自然体で。
何かを取り繕ったりなんかしない。
いつでも、どこでも堂々としてる。
だからあたしも、どんな時でもあたしらしく、
あたしらしい、道明寺司の妻でいたら、それで良かったのに。
あたしは、あたし以上の人間にはなり得ないんだから。


見た目なんて関係ない。
道明寺家の嫁であることは、あたしのオプションに過ぎない。
あたしにとって大切なことは、
あたしが司さんを愛してるっていうこと。
彼からも愛されているっていうこと。
そして、お互いに大好きだから、結婚したんだっていうこと。
これ以上に大切な事実はないのに。
どうして、堂々と言うことができなかったの?


あーあ。
また、空回りしていたのかな。
何を言われたっていいじゃない。
司さんのことが好きだという気持ちさえ、しっかり持っていれば。
司さんに愛されているんだっていう自信があれば。

だって、自惚れなんかじゃない。
司さんは、隠したりなんかしてない。
あたしの事が大好きだっていうことを。



「お前、何泣いてんだよ。」

司さんにそう言われて気が付いた。
あたしの目から、ポタポタと涙が溢れてた。

「あれ・・なんでだろう・・・。」
泣きたくなんかないのに。
悲しくなんかないのに。
司さんのことが好きっていうだけなのに。

司さんが、ハンカチを出して、あたしの涙を拭ってくれた。


皆がニコニコとあたし達を見つめてる。


あたしは、自分の今の気持ちをみんなに伝えたいと思った。
きちんと伝えれば、きっと分かってもらえる。
みんなが思っているような恋愛じゃない。
駆け引きなんてしていない。
あたし達は、お互いに愛し合って結婚した。
ただ、それだけ。
だけど、まだまだ未熟なあたしは、これからもあたしらしく頑張りたいと思ってる。



すーっと息を吸い込んで、言葉を出そうと思った時、
あたしよりも早く、山崎さんが再び口を開いた。


「支社長、一つお尋ねしたいのですが。」

その場の雰囲気が、一瞬にして変わった。
みんなが山崎さんに注目する。
もちろん、あたしも。


「何だ?」
司さんがウーロン茶を口に含んで、山崎さんを見た。


「牧野さん・・いえ、奥様を、自分の部下に付けたのは、公私混同ではないのですか?」

その場にいた全員が、息を飲んだのが分かった。



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続きます・・・。
  1. その後の二人のエトセトラ
  2. / comment:8
  3. [ edit ]

「マキちゃーん!久しぶりぃ。」
「涼ちゃん!!」
「やだーっ。ぜんっぜん、変わってないじゃん!」
「えへへ。」
「牧野っ、久しぶり。」
「牧野さん、久しぶり~。」

18時ジャストにお店に入ると、貸し切りの個室にはすでにみんなが揃っていて、あたしのことを待ってくれていた。

「遅れちゃったかな?」
「いや、みんな緊張して早く来ちゃっててさ。」
「とにかく座りなよ。」

掘り炬燵式のお洒落な居酒屋さん。
あたしは促されて、中央近くに空いていたスペースに座った。
隣には涼ちゃんがいる。

「牧野何飲む?」
「えっと、オレンジジュースでお願いします。」

お茶よりも、すこしさっぱりしたものが飲みたいな。

飲み物を待つ間にも、みんなからいろんな声がかかった。
「まさか、牧野が道明寺支社長と結婚とはなぁ。」
「驚いたよねぇ。」
「誰か、知ってた?」
「っていうか、牧野って呼んでいいのか?」

「みんな、牧野がビビってるぜ?」
そう言ってくれたのは、目の前に座る黒田君。
「俺は、牧野に彼氏がいること知ってたけど、相手は知らなかったな~。」
そう言って、目くばせをしてくる。
一気に真っ赤になるあたし。

「あたしだって、知らなかったんだから。」
隣の涼ちゃんも恨めしそうにあたしを見た。

「いろいろあって、急にニューヨークに行くことになっちゃったから。きちんと説明できなくて、ごめんね。」


それから、あたしのオレンジジュースが運ばれてきて、
黒田君の音頭で乾杯になった。

「じゃ、牧野の結婚を祝して。かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!!!!」」」」



懐かしい居酒屋料理も運ばれてきて、
懐かしい笑顔に囲まれて、
久しぶりの時間が過ぎていく。

皆の近況を聞いて、
あたしもニューヨークでの仕事を話して、
結婚式の話をして・・・


そしてみんなが、2、3杯目のグラスに進んだ時、
「ねえ、マキちゃんは、道明寺支社長のこと、なんて呼んでるの?」
なーんて、涼ちゃんに聞かれた。

周りのみんなも興味津々な様子で、あたしも照れちゃう。
「えっと・・司さん・・かな。」

その涼ちゃんの質問を皮切りに、司さんとの生活とか、どうやって出会ったのとか、そんな質問が飛び交った。

「じゃあ、あのBarに素敵な人がいるって、その人が支社長だったってこと!?」
涼ちゃんがすっごくびっくりしていた。

「それで、入社した時には、もう付き合ってたってことなんだ。」
「う・・ん。そう。」

何となく、みんなを騙していたようで気まずい。
だけど、隠すことはしたくない。
だって、あたしはもう、司さんの妻なんだし、道明寺家の嫁として、いつも堂々としていなきゃダメなんだから・・。

そんな風に思いながら、みんなの質問に答えていると、
右斜め前に座る山崎さんと目が合った。


「いいなぁ、牧野さん。道明寺支社長の奥様なんて、羨ましい。」
「本当ね~。」
「それに、意外。恋愛よりも仕事って言ってた人が、入社前からそんなセレブと付き合っていたなんて。」

「えっ・・。」
予想もしていなかった言葉に、あたしは返事が出来なかった。

「だって、そうじゃない?道明寺支社長を射止めちゃうって、かなり努力したんでしょ?そういう努力には興味ありませんって顔してたのにさ、牧野さんって。とんだ、ダークホースだよね。」

「おい、止めろよ、山崎っ!」

酔っている山崎さんの言葉は、きっと本音。
それを黒田君が止めてくれた。
だけど、山崎さんの言葉は止まらなくて。

「だって、私見たんだ、さっき。牧野さん、東京駅近くのショップに寄ってたよね?本当は、白のシックなセットアップ着ててさ。いかにもハイソな奥様ってカッコだったのに。さっきのショップで着替えて来たんでしょ?あたし達のレベルに合わせてくれたんだ。そうだよね~。それ位計算できる女じゃないと、支社長レベルは射止められないよね~。それで?御自宅に帰る前には、また着替えるの?その恰好じゃ、支社長に嫌われちゃったりして・・。」

「山崎っ、言い過ぎだっ。」

しーん。
静まり返る個室の中。
あたしは、唇を噛んだ。


確かに、あのセットアップじゃ、この場にそぐわないと思った。
この恰好の方が、あたしらしいんじゃないかって。
でも、そっか。そんな風に見られてたんだ。
あたしが、その場に合わせて、取り繕っているんだろうって。
司さんにも色目を使って、猫をかぶってるんだろうって。
なんか、ショックだ・・。


「山崎さん、酔ってるから。マキちゃん、気にしなくていいよ。」

涼ちゃんがそう言ってくれるけど、気にしないって訳にもいかない。
違うって、言わなきゃいけないよね。
だけど、山崎さんの追及が続く。

「何でよ。おかしいじゃない。たいして美人でもない牧野さんが、支社長の奥さんだなんて。支社長の前ではかなーり努力してるんだよね?じゃあ、そんな、あたし達レベルに合わせた恰好とかしてないで、早く着替えた方がいいんじゃない?」

「そんなことっ・・」

「だいたい、牧野さんがいくら優秀だからって、いきなり支社長から直接指導を受けるとかさ。みんなだっておかしいと思ってたでしょ?」


その場は山崎さんの独壇場。
次々とあたしに対する非難が浴びせられる。
みんなも固まってしまって、何も言えない状況。


「支社長に体を使って取り入った・・とか?呆れちゃう。」


・・・!!
ひどいっ。

だけど、言い返せない。
そんなことは絶対にないけど。
あたしが司さんから直接指導を受けたのは、あたしが司さんの恋人だからっていう理由は少なからずある。
でも、あたしが考えた企画をちゃんと評価してるからだって言われてた。
俺はそんなに甘い経営者じゃないって言ってた。
だけど、それを今ここでどうやって説明する?
どうしたって、言い訳にしか聞こえないよ。


涙が出そう。
でも・・泣くもんか。
だって、あたしは道明寺司の妻で、道明寺家の嫁なんだから。
いつも、毅然と、堂々としていなくちゃダメなんだから。
こんなことぐらいで、動揺してちゃだめ。


今頃になって、気付いた。
あたしはやっぱり、あのセットアップを着て来るべきだった。
だって、あたしは、『道明寺司の妻』なんだもん。
中途半端なことをするから、みんなからも不自然に思われちゃうんだ。
あたしって、なんて馬鹿なのかな。


何か、言わなきゃ。
皆も固まっちゃってる。

何か・・・。



その時・・
ガラッと個室の扉が開いた。

「なんだ・・狭いところで飲んでんだな。」


オーダーメイドのビジネススーツに身を包んだ、あたしの夫。

司さんが、飄々と入ってきた。



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あわわ・・・。
  1. その後の二人のエトセトラ
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「本当に一人で大丈夫か?」
「当たり前でしょう?って、一人じゃなかったら誰と行くって言うの?」
「・・・。」
「同期に会いに行くだけだよ?」
「ちっ、この後会議がなけりゃ、俺も・・。」
「司さんが来たら、みんな驚いちゃう。」
「・・・。」
「そんなに心配しないで?大丈夫だから。」

そういうあたしに、司さんが溜息をついた。

「はぁ・・。やっぱ、心配。店内にSP入れるからな?」
「うん・・。でも、SPさんがいたら、みんなびっくりしちゃうと思うんだけど。」
「客にバレるような付き方はしねぇから、安心しろ。」
「あ、そっか。うん。分かった。」


楓社長の秘書をしながら、司さんの婚約者として、花嫁教育も受けてきた。
ニューヨークでは、社長秘書としての立場で行動することがほとんどだったから、あたしは、まだまだ『道明寺司の妻』としての立場に慣れていない。

だからかな。
どうしても、仕事の同期には、今までどおりに普通に会いたいと思ってしまう。
それって・・やっぱりダメなことなのかな?



今は、リムジンの中。
今日は午後から、司さんと、日本の主要な取引先に結婚の挨拶を済ませてきた。
今日のあたしの服装は、夏らしく、白いサマーツイードのセットアップ。
ハーフアップされた髪には、細かいダイヤの髪飾り。
『清楚な奥様』をイメージした仕上がり・・。


一昨日、久しぶりに日本の道明寺邸に入って、本当に驚いたんだ。
半年前には無かった、あたし専用のクローゼットには、洋服や装飾品がいっぱいで。
はっきり言って、それを見ても、どんな風に着こなしたらいいのか分からなかった。
一体、誰がこんなに用意したんだろう・・。

今朝は、仕事に向かう司さんを見送った後、タマさんに促されるがままに付いて行けば、いきなり、フェイシャルエステが始まった。
そのエステを受けながら、手足の爪のお手入れもされて。

それから、スタイリストさんがあたしの服を選んでくれて、美容部員さんが髪のセットやメイクもしてくれた。
これは、『道明寺司の妻』として挨拶回りをするのだから、当然の事。

ニューヨークでも、お義母様や、椿お姉さんにたくさんの洋服を買ってもらったけれど、でも、基本的に日々着る服は自分で選んで、髪だってパーティーでもない限りは自分でセットしていた。セットって言っても、仕事中は1本に纏める程度だったんだけど。

記者会見や結婚式の時も、同じようにメイクやセットはお願いしたんだけど、それは特別な日だったから、ほとんど気にしていなかった。

だけど・・
日本に帰って来て、当然の様に、スタイリストさんや美容部員さんが付く生活になって、あたしは今、ちょっと戸惑っている。

『道明寺司の妻』として、これからは、恥ずかしい格好なんて出来ないって分かってるし、選んでもらった洋服はとっても素敵で、十人並みの容姿のあたしですら、『清楚な奥様』に変身できた。

でも・・なんとなく、心のもやもやが晴れない。
それは最近、なんだか胃の具合も悪くって、気分がすぐれないせいかも知れないんだけど。


なんだか、あたし・・着せ替え人形みたい・・。


そんな風に思ってしまって・・
お昼過ぎにお邸に迎えに来てくれた司さんは、「おっ、いいじゃん。綺麗だ。」なんて言ってくれたけど、でも、いつもみたいに心底嬉しいっていう気持ちにはなれなくて、ちょっと複雑だった。

だって、これは、あたしが選んだ服じゃない。
たぶん、司さんが選んだものでもない。
忙しい司さんに、そんな暇がある訳ないもん。
『道明寺司の妻』にふさわしいように誰かが用意した品物。
それを着て、人形のように挨拶をするっていうことに、あたしはちょっと抵抗を覚えていた。
この半年で、『道明寺家の嫁』という立場はだいぶ理解できていたはずなのに・・な・・。


そんな悲観的な考えが浮かんでしまって、
あたしは鏡に映った自分を見ながら、大きなため息をついたんだ。




道明寺HD日本支社前で、司さんと別れた。
「お仕事、頑張ってね。」
いつも通り、チュッとキス。
司さんに触れると、安心できる。
あたしの不安が少しだけ晴れた。

「何度も言うけど、酒は飲むなよ?」
「うん。分かってる。」
「約束だぞ?」
「うん。」

何度も繰り返す司さんが可笑しくて、ちょっとだけ笑う。
だけど、本当に、お酒なんて飲むつもりはないの。
最近本当に、気分が良くなくて、落ち込みがちだし。


司さんと別れて、腕時計を見るた。
時刻は17時。
同期のみんなとの約束の時間は18時だから、あと1時間ぐらい余裕がある。
約束のお店は、東京駅近くだから、ここから近いし。

・・どうしようかな?
と考えていたところに、あたしが大好きだったショップが目に入った。

「あ・・。」

どうしてかな、すごく懐かしい感じ。
半年前までは、よく覗いていたお店。
ナチュラルな感じが凄く好きなお店だった。

司さんと交代してあたしの斜め前に座っていた、女性SPの川西さんと目が合った。

「あの・・少し、寄りたいお店があるんです。」





ショップのショーウィンドウを覗くだけでもテンションが上がる。
こうしてショップに一人で来るのは本当に久しぶりのこと。
お店に一歩入ると、そこは、あたしが大好きな世界。
身の丈に合った世界っていうのかな。

マネキンが着ている洋服が可愛らしい。
あ、あのかごのバッグもあたし好み。
バルーン袖のブラウスも今年らしくて一度着てみたかった。
うわーっ、このウェッジソールのサンダルも可愛いっ。

それに、どれも見ても、しっかり値札が付いていて、それもあたしのお給料で十分に手が届く範囲。
地に足のついたお買い物っていうものを久しぶりに堪能できる。


そうだ!
これから向かうのは、創作料理の居酒屋さん。
こんな奥様っぽいスーツじゃなくて、もっとカジュアルな方がいいんじゃないかな。
それなら、ここで買い物して、着替えて行こうかな。
丁度、まだ時間があるし・・。


あたしはますます楽しくなって、お店の中を行ったり来たり。
司さんに言わせたら、
「そんなに迷うなら、全部買ったらいいんじゃね?」
とか言われそう・・なーんて思いながら、あれやこれやと久しぶりの買い物を満喫した。


結局決めたのは、イエローのバルーン袖の大き目のブラウスに、ホワイトのパンツ。
初めに見惚れたカゴバッグと、サンダルを合わせた。
ダイヤの髪飾りを外して、夏っぽいシュシュに変えた。

司さんに渡されているカードもあるけれど、あたしは元々現金派。
今日の買い物だって、全部で3万円ちょっと。
十分自分で払える程度。

「全部着ていきます。」
と言って、現金で支払った。
こうやって買い物をすることすら、久しぶりだと思い出す。

だけど、これが、
あたしらしい・・本当に、あたしらしいような気がする。


SPの川西さんがあたしを心配そうに見ていたけれど、別に大丈夫だよね?
危険なことをしている訳じゃない。
相変わらず体調は今一つだけど、気分転換ができたのか、ちょっとだけすっきりしたような感覚になった。


あたしの左手には、司さんとお揃いのマリッジリング。
胸元には、司さんからプレゼントされた、ダイヤのネックレス。
これは絶対に外さない。
外したくない。

だけど・・
他のものは、あたしが選んだものでもいいんじゃないのかなって、そんな風に思ったんだ。



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むむっ。トラブルの兆しが・・。
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