fc2ブログ

Happyending

Happyending

今日は、美作さんのお誕生日ですね~。
どうしようかなと迷って、一度書いてみたかったお話にしてみました。
美作さんのお誕生日に、美作さん目線の『つかつく』です。
ちょっと切ないお話です。
でも、Happy Birthday, Akira!の気持ちを込めて。

*****




「美作さん、お誕生日おめでとう。」

今日は俺の28回目の誕生日。
目の前の牧野は、昔より、ずっと大人になった。
はねっかえりだったあの頃のガキっぽさは鳴りを潜め、少し愁いを秘めた大人の女性。

彼女がこんな表情をするようになったのは、5年前からだ。
司との別れを決めた5年前。
嫌いで別れた訳じゃない。
それが分かっていても、あの頃周りにいた俺たちでさえも、何をすることも、どうすることもできなかった。

牧野の大学卒業が決まった頃、司の家の状況が一変した。
司の父親が倒れた。
すでに、ビジネスの最前線に出ていた司の肩に、多くのものが圧し掛かった。
それは、『道明寺』という大きな組織。
そこで働く人々、彼らが生み出す利益も不利益も、全て司が背負うことになった。
当然のことながら、4年で迎えに来ると言う約束は果たされなかった。
あの頃の状況では、司が牧野の人生に責任を負うことなんてとても出来なかったんだ。
それは、愛している女への、男としての責任。
司には現実が、痛いほどに分かっていたんだろう。

牧野はすぐに状況を理解した。
想像以上に賢くて、誰よりも優しい奴だ。
司が想う以上に、司のことを想っていた。
そして、牧野は司を解放した。
自分が司の足かせになることなんか、望まなかった。

当然、司は牧野の決断を受け入れなかった。
「5年だ。5年だけ、待ってくれ。必ず、お前を迎えに行く。」
そう言った司に、牧野は頷かなかった。
司の負担にならないように、返事はしなかったんだ。

皮肉にも、牧野が別れを決めたのは、5年前の2月28日。
俺の誕生日だった。




あれから5年。
牧野の心の中は、今でも司の言葉が生きている。
頷くことはなかったのに、ずっと司を待っている。
口には出さなくても、みんな分かっているさ。
だって、あれからも、誰一人として、彼女の心の中に入ることは許されなかったんだから。


俺は今、牧野の頼れる兄貴というポジションだ。
この5年の間、ずっと彼女を見守って来た。
それは思いがけず幸せな日々で、
牧野と一緒にメシを食ったり、
映画を見たり、
仕事の愚痴を聞いてやったり、
ただそれだけのことが、暖かな記憶になっていく。

春は桜を見た。
その桜を見ながら、司を想う彼女。
その横顔が綺麗で見惚れた。

夏は海だ。
あいつらみんなで行った海。
牧野だけは、水着にならなかったな。
司のいない海では、水着になんてなりたくなかったんだろ?
見せたい男がいないんだもんな。
だから、俺は牧野に言ってやったんだ。
「かき氷食いに行くか?」
その言葉にうれしそうに頷いた彼女は、本当に可愛かった。

晩秋の紅葉。
牧野が、落ち葉の中をサクッサクッと歩く。
一歩一歩、寂しさを埋めるように歩いていく。
俺は、牧野の後ろを付いていく。
その寂しそうな後姿を抱きしめそうになっても、それはしない。
それは、彼女が求めていることではないからだ。

冬は大変だった。
クリスマスに誕生日にバレンタイン。
恋人たちのイベントが盛りだくさんだ。
牧野が心から楽しむことができる日はまだ来ない。
だから、俺は何気なく誘うんだ。
「飯でも行くか?」


牧野にとって、俺は家族のようなもんだ。
類のように、あいつのソウルメイトって柄じゃない。
総二郎のように、ひたすらからかうこともしない。
牧野の傍にいるものの、何も尋ねることはしない。
家族に本心を語る奴なんて、この年ではいないだろう。
だから、牧野も俺には本当の心は語らない。
だけど、感じるんだ。
牧野の、司への強い、強い、想いを。


俺は、牧野が好きなんだろうか?
もしそうならば、奪えばいいじゃないか、司から。
そんなことを考えなかった訳じゃない。
だが、そういう考えが浮かぶ度に、彼女の愁いを含んだ表情が思い出された。

今でも司を想ってる。
きっと、あの頃よりも想っているんだろう。
他のどんな男も目に入っていない。
その横顔に惹かれるんだ。
司を想う横顔に。

俺は、牧野に惹かれている。
強く司を想う、牧野に惹かれている。
いつか、俺もそんな風に愛されたいと願うほどに、今は別れた二人が羨ましく思える。
でも、それは、きっと二人がもう一度、共に歩き出すと分かっているからなんだろうな。




「もう、5年だな。」
シャンパンを空けながら、牧野の顔を覗き込む。
泣きそうなのに、笑っている。
お前は何を考えている?

今日は、司との約束の5年目だ。
牧野がずっと待ち続けた5年の月日。

「あいつに返事をしなかったのはあたしなのに、ずっと忘れられなかった。どこかで諦めようと思っても、ずっと踏ん切りがつかなかったの。そろそろだって、思ってる。だから、今日が終わったら、もう止めようと思う。」

この5年間で、初めて聞いた牧野の想い。
今日が過ぎたら、司を想うことを止めるのだという。


もうすぐ、司が一時帰国する。
それは、凱旋帰国前の、地ならしのため。
マスコミ報道によれば、今回の帰国で、司はどこかの令嬢と婚約を発表すると言われている。
そんなこと、ある訳ねぇんだけど。
だって司は、今でも、牧野のことしか想っていない。
司が捕まえにくるとしたら、目の前の牧野しかありえない。
お前はそれを知らないのか?

「もうじき司が戻って来る。」

「5年って言ってた。今日で、5年。あたしは、もう十分待ったでしょ?」

何を考えている?
この5年、ずっと想い続けていた司のことを、あと少しだけでも待ってやれないというのか?

「今晩の便でハワイに行くんだ。それで、ぱーっと遊んで忘れてくるから。」
ふざけた口調の牧野の目は、虚ろだ。

何を馬鹿なことを言ってるんだ。
俺はちょっと呆れちまう。
それでも分かるんだ。
これは、こいつの強がりだ。
司が迎えに来てくれないことが耐えられなくて、こんなこと言っているんだろう。
こいつの精神状態も、もうギリギリなんだ。

俺は黙って、想いをめぐらせた。
ハワイという言葉には記憶がある。
昔、司が嬉しそうに言ってたっけな。
牧野から、新婚旅行はハワイに行きたいって強請られたとか。
たぶん、半分司の勘違いなんだろうけど。
司と一緒に行きたかったハワイに一人で行くと言う、バカ女。
そんなことしたって、お前は司を吹っ切ることなんて出来ないだろう?
無駄な抵抗は止めた方がいい。


「じゃあね。美作さん、そろそろ行くね。」
そう言って、牧野が席を立つ。
「羽田まで送る。」
俺は溜息をついて、席を立った。

どうする?
どうすればいい?

司、牧野が行っちまうぞ?


その時、俺の携帯のバイブが鳴った。
そっと画面を眺める。
俺は思わず笑っちまった。
野生の勘は健在だ。
_____あいつが到着したみたいだ。



夜の羽田も人が多かった。
人込みの中を、牧野の後ろから歩く。
出国手続きをするカウンターには人だかり。
何故ならそこには、あの男が立っていたから。

牧野の足が止まった。


走り寄ってきた大男に抱き込まれる牧野。
この5年間、一度も涙を流したことのない、牧野のすすり泣きが聞こえた。
俺は、その姿を確認して、踵を返した。






Zizzzzz…
俺の携帯のバイブが鳴る。

「お誕生日、おめでとうござます、美作さん。
寂しくされているのかと思いましたので、
一緒にお祝いをして差し上げましょうか?」

俺と同様に、彼女を見守って来た女から連絡が入った。
どうやら、司があちこちに電話を掛けまくったようだ。

俺の肩の荷が下りた日。
それは、俺の誕生日。
やっと、本気の乾杯ができる。

「おう、一杯付き合って。」
俺と一緒に彼女を見守り続けた女と、今日は飲み明かすか。
それも悪くないな。


____俺たちの時間が、再び動き始めた。



 

にほんブログ村
読んで頂き、嬉しいです。
ありがとうございました。
関連記事
Posted by

Comments 8

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/04/08 (Mon) 20:40 | EDIT | REPLY |   
Happyending  

ま●様
お仕事帰りですか?お疲れ様です。
オリジナル?なお話よりも、原作続きのお話を書きたいなと思うこともあるんです。けど、色々、面白いお話を読んでしまっているので、なかなか手が出せません!なので、こういった短編はたまに書きたくなります。でも、しばらくは俺の女が続きそうです・・。しかし、このあきら君、いい男ですよねぇ。続きのお話、短編なら書けるかな?

2017/02/28 (Tue) 23:58 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
こんばんは(*^^*)

読んで頂いてありがとうございます。
切ないお話なので、お誕生日なのにどうかな~と思ったのですが、少し前からモクモクと妄想が沸いていて。内容的には、何もないんですが(汗)、なんというか、こういうあきらを書きたかったんです。少しでも伝わっていたら嬉しいです。

スリ●様
本当におめでとうございます!よかったですね!!
そして、あきら君はちょっと切ないですけれど、基本が優しい人だから、これからきっと幸せになれると思います。でも、私はつかつくしか書けないから、あきら君許してね・・。

悠●様
悠●様のお話、読みたかったな。今のつかつくも、ちょっと切ない系でしょうか?

なあ●様
コメントありがとうございます!確かに、あきら君が一番家庭的なのにね。あきら君と結婚したら、幸せになれそう。そして、そうです。最後のTELは桜子。この二人、私もお似合いだと思うんですよね。お話は・・難しいけど・・。

ひな●様
内容があまりないお話なので、書きたい雰囲気が伝わっていたら、凄くうれしいです。コメントありがとうございました!

花男●様
そう言っていただけると、嬉しいです。ありがとうございます。ここから、時が動き出して、これから幸せになってくれると思っていただけたらいいな。

イ●様
コメントありがとうございました。切ないですよね。でも、そう言っていただけて嬉しいです。

H●様
楽しんで頂けて良かった。ほっ、です。私も、司LOVEなもので、あきら君はつくしちゃんとは幸せにしてあげられないのです・・・。

ar●様
読んで頂けて、嬉しいです。お話の好みは色々あると思うので、そこは読者様にお任せです。この内容だと、長編は苦しいかなぁ、私も・・。


明日からは、また「続・俺の女」です。
総二郎君の登場は、もう少しだけ先なんです。
今、茶道で煮詰まっていて・・(涙)。

では、明日もAM5:00に、お待ちしております!

2017/02/28 (Tue) 22:36 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/02/28 (Tue) 17:57 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/02/28 (Tue) 17:11 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/02/28 (Tue) 16:32 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/02/28 (Tue) 15:41 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/02/28 (Tue) 15:28 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply