花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

このお話は、『俺の女(第一部)』の番外編です。
新しい部分もあり、ちょっと復習的要素もあり。
リフレッシュしながらの掲載なので、一話はやや短めかな。
気ラクーにお読みください。
*****



『司~。お前、何イライラしてんだよ。』
総二郎が、俺にぼやいた。
『イライラすんのは、はけ口がねぇからだろ?女に行けよ。気持ちいいぜ?憂さも晴れるさ。』

俺は今日、18になった。
総二郎とあきらは、中坊の頃から、女遊びを繰り返してやがる。
類は・・分かんねぇけど、静となんかあんのかもな。
俺たちは幼なじみって奴だが、互いのことにそれほど干渉なんてしちゃいねぇ。
俺たちJr.の未来なんて、結局、自分の家に縛られるだけだ。
いずれは縛られると分かっているからこそ、今だけは自由でいたい。
それが、俺たち共通の願いだ。

見えているようで先が見えないトンネルの入り口で、俺たちは不安になりそうな気持ちを、それぞれの方法で吹き飛ばす。
総二郎たちだって、馬鹿じゃねぇ。女で遊んでるってだけで本気になんてなりゃしねぇ。それでも、女を抱くと満たされるらしい。

だが、俺は・・違う。
女を抱いたからって、満たされるとは思えねぇ。
じゃあ、何が俺を満たしてくれんのかも分かんねぇ。
女なんて気持ちワリィし。
馬鹿で、したたかで、物欲しげに俺のことを見やがって。
中坊の頃は付き合いでキスぐらいには応じていたが、高校に入ってからはそんな遊びすらもしてねぇ。
つーか、気持ち悪くてそんなことできねぇ。
女なんて、近づけるのも嫌だった。

なのに・・
「おっ、あの子たちいいんじゃね?」
「まぁまぁだな。許容範囲か。」
とまた、お祭りコンビの悪ノリが始まった。

めんどくせぇ。
「女呼ぶなら、俺、帰るわ。」
「おい、ちょっと待てよ、司。お前の誕生日だろうが。ここは一発決めとけって。いつまでもドーテーじゃ、F4リーダーの名が泣くぜよ。」

ガンッ!!!
俺はテーブルを蹴りあげて、奴らを睨みつけると、地下の店を後にした。


面白くねぇ。
つまんねぇ。
やってらんねぇ。

一体、俺は何のために生きてんだよっ!!


むしゃくしゃした俺は、リムジンにも乗らず、新宿の街を歩き続けた。
飲み屋の前には酔っ払い達がたむろしている。
俺の恰好の餌。

奴らの一人と肩が触れた。
その瞬間に、
バキッ!!!
と俺の拳が奴の顔面にヒットした。
条件反射って奴だ、悪く思うなよ。

そのまま立ち去ろうとした俺に、奴の仲間が掴みかかって来た。
んなもん、お見通しだっつーの。
背後から近づいてきた瞬間に回し蹴りでK.O.
ちっ、大したことねぇな。
そう思ったところに、更にもう一人が殴りかかって来る。
奴のパンチが、俺の左ほおを掠った。ちっ。
そのまま俺も右ストレートを見舞ってやる。
ドカッ!!!


これで終了だ。
唇の左端がわずかに切れた。
グイッと手の平で血をぬぐい、俺は再び歩き出した。

つまんねぇ・・・
こんなことを繰り返したところで、憂さなんて晴れねぇことは分かってた。
けど、やらずにはいられねぇんだ。
俺は、本当にどうしたいんだろうな?

女に逃げる気もねぇ。
拳を振るうのも、意味がねぇ。
どうすれば・・・


歩き続けると、見知らぬ界隈にやって来た。
暗くてよく見えねぇが、向こうから小せぇ人間が歩いてくる。
女か?
寒そうに手のひらをこすり合わせて、こっちなんて見ちゃいねぇ。
女じゃ殴る訳にもいかねぇな。
そう思って、近寄りたくもねぇ女を避けようとした時・・
その女と目が合ったような気がする。

「ちょっと、あんた、口から流血してる!!」
丁度点いたり、消えたりを繰り返す電灯の下ですれ違い、俺の顔が見えたらしい。
口から血を流した俺に驚愕する女。

俺は女を無視して素通りしたはずなのに、いつの間にか付いてきた女が、持っていたハンカチで俺の唇の左側を押えた。
あまりに一瞬のことで、避けることもできなかった俺。


「全く。喧嘩なんかするからよっ。そんな暇あったら、一円でも稼ぎなさいって。あんたが遊んでいられんのは、あんたの両親が働いているからでしょーがっ。全く、もう~。」

なんだ、この女。
頭おかしーのか?
お前、俺が誰だか分かって言ってんのかよ?
俺は道明寺司だぞ。

「おい、お前、俺が誰だか分かって言ってんのか?」
「知る訳ないでしょっ。」


ムカつく女の声。
街灯から外れたここでは、女の顔はよく分かんねぇ。

だが、女の言葉が頭に響いた。
確かに、そうだ。
だから、何だっつーんだ。
俺が道明寺司だから、何なんだ。
道明寺司だったら、どうなんだよ。

周囲からの視線を気にしてるのは俺自身。
けど、俺自身が何者であるかは、これから俺が自分自身で示すものじゃねぇのか。
俺自身の評価はまだ、何もされていない。
この女が、俺を知らなかったからって、それは問題にもなんねぇんだ。
中身のねぇ俺なんて、知られている価値もねぇんだから。


「はぁ、あたし、これからもう一軒バイトだから。そのハンカチ返してくれなくていいからね。もう、喧嘩とか止めなさいよ!ちゃんとご両親に感謝しなさいよ!」

そう言って、おかっぱ頭の女が走りっ去って行った。


両親に感謝とか、ありえねぇんだっつーんだよ!
好きで道明寺に生まれた訳じゃねぇ。

でもよ。そーだな。
今の俺は、親の価値で評価されている。
俺の中身は誰も知らねぇ。
だから、俺は、俺本来の価値ってやつを自分でつかみ取らなきゃなんねぇ。
それが、結局は道明寺を継ぐことになるんだとしても。
やってやるしかねぇんだ。

俺が自分自身で、俺の価値をつかみ取ることができれば、
この意味不明なイライラから解放されるんじゃねぇか・・


やったろーじゃん!
俺の価値を見出してやる。
女を抱いてる暇なんてねぇんだよ。
女を抱いて憂さを晴らすより、俺は俺自身の価値を見つけてぇ。


そうすれば、俺は、この見えるようで見えないトンネルの先にたどり着けるような気がしたんだ。



 

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原作の司君って、つくしに出会ったからこそいい男になったんですよね。
この司も、実は過去につくしに会っていた。
そんな設定の番外編。
明日から、舞台はThe Classicへ。
このままじゃ、題名意味ないし(笑)。
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  1. ある日のThe Classic
  2. / comment:4
  3. [ edit ]

その後結局、俺はリムジンを呼び寄せて、メープルに向かった。
目指すは『The Classic』。
俺はむしゃくしゃすると、ここで酒を飲んだ。
それこそ中坊の頃からだ。
ここのマスター臼井とは、ツーカーの仲。
あいつら幼なじみの奴ら以外で、俺が唯一気を許せる男だ。

このBarでも、何度も喧嘩を吹っ掛けたり、吹っ掛けられたりした事もあった。
その度に、臼井はいつも冷静な判断で、その場をうまく取り持った。
そりゃそうだ。ここは会員制で、顧客は上流階級の奴らばかり。問題になるようなことは避けなきゃなんねぇのは当たり前だ。
だけど、臼井はいつも、どっちかっつーと客の奴らよりも、俺たちをかばってくれるような素振りがあって、俺らは皆、臼井を慕っていた。
今日みたいに羽目を外したい時は、あきらが適当に店を見つけてくるが、そうじゃねぇときはこのBarの個室を使うことが多かったし、俺は一人になりたい時も、ここに通っていた。

臼井はオヤジが連れて来た男らしい。
『別に御父上に恩なんてものはないんですけどね、このBarの居心地がいいもので、続けているんですよ。
このBarは僕の好きにして良いそうなんでね。文句を言われるようなら、速攻辞めてやりますよ。』
初めはオヤジの息がかかった奴だと思った。
けど、だんだんとそうじゃねぇと分かった。
オヤジのことを道明寺の総帥とは思ってないらしい、潔い態度が気に入っていた。

ある時は、俺に近づきオヤジとの接点を作ろうとする馬鹿な男の戯言に、思わずイラっとして手が出そうになった時、俺の手拳を左手1本で止めた臼井。
案外強ぇってことを知った。
また、ある時は、馴れ馴れしく話しかけてくる女にウイスキーをぶっかけてやろうかと思った時に、自分がわざとその女に酒をこぼして、退席させた。
臼井はスゲェ奴なんだ。
俺にもし兄貴がいたら、こんな奴だったらいいのによ・・と思ったこともある。
だから、今日も、何となく、The Classicに足が向いた。


ハンカチで口元を抑えながら、俺はBarへ入った。
すると、カウンターにいた臼井が驚いた表情だ。
なんだよ、そんなに顔腫れてんのか?
相手のパンチなんて掠った程度だったのに、なんか頭くんな。

「司君、何かあったのですか?」
少し焦った臼井の様子が珍しい。
「あぁ、ちょっとな。そんなに腫れてるか?」
「ぷっ。違いますよ。そのハンカチ。どう見ても司君の物ではないでしょう?女性の物ですか?」

その時になって思い出した。
このハンカチはさっきのおかっぱ女に渡されたもんだっつーことを。
恐る恐る口からハンカチを離してみると、

_____そのハンカチは、パンダ柄。


呆然とする俺の耳に、臼井のクスクス笑いが響いた。



*****



「それで、その女の子はどこへ?」
「知らねぇよ。バイトつってたか。」
「へぇ、この時間からバイトですか。」
「よく分かんねぇけど。親に感謝しろとかふざけた事言ってたな。」
「もう夜9時ですよ。今からバイトだなんて、何か事情があるのかも知れませんね。」
「事情?」
「世の中には、お金があるところにはあり、無いところには無いものです。彼女は何か事情があって、夜もバイトをしないといけないのでしょう。」

俺は金に困ってねぇ。
けどそれは、俺が道明寺家の長男だからだ。
親が会社をやってるからだ。

だからか?
1円でも稼いでみろ。
自分の親に感謝しろ。
そー言うことか。


でもよ、残念ながら俺の場合はそうじゃねぇよ。
金稼ぎをしたい訳じゃねぇ。
俺は、俺自身を、自分の存在意義を、親とは切り離してやりてぇんだ。

俺が、ビジネスに身を投じる理由。
俺が、道明寺を継ぐ理由。
それは、あえてそうすることで、俺自身の価値を、世間に見せつけてやるためだ。
もちろん、失敗する可能性もある。
だからって、このまま逃げて、何もしない訳にはいかねぇんだ。
中身のない、名前だけが独り歩きするような男にはなりなくなかった。


「俺、決めたわ。ニューヨーク行く。」
「どうしました?やっと火が付きましたか?」
「堂々と、道明寺司だと名乗れる男になってやるぜ。」

すれ違った女に、自分の名前も堂々と言えないような、そんなつまんねぇ男はまっぴらごめんだ。

「やっと決めましたね。」
「あぁ。俺が何者であるか、きっちり証明してきてやるぜ。」
「期待していますよ。」
「言っとくけど、親に感謝とかしてるわけじゃねぇよ。ただ、自分の存在意義を示してくるっつーだけだ。」
「君ならできます。」
「俺が戻ってきたら、お前の上司になってやるから、覚悟しろよ?」
「それは、楽しみだ。」

その日、俺は臼井とじっくり語り合い、翌日にはNY行きの手続きをとった。
あのハンカチは、俺と共にニューヨークへ渡った。



ニューヨークでの俺は必至だった。
今まで適当かましてた勉強不足のツケもあったし、ビジネスだってもちろん初心者だ。
日本ではチヤホヤされていた部分もあったが、ここではそうじゃない。
初めて自分の無力さを知った。
けど、今で良かった。
今知ったからこそ、俺は本気で自分と向き合えたんだ。
下手に年ばっか食っていたら、プライドばかりがデカくなって、ますます自分をコントロールできなくなっていたに違いない。

パーティーで、女に言い寄らられることは変わらなかった。
隣に置く女の価値で、男のステータスも測られるという。
だから、未だに政略結婚なんて話もでるような世界だ。
馬鹿かっつーの、そーじゃねーだろ?
俺は、自分の価値は自分で築き上げてやる。
そこには、女の力なんて必要ない。


俺はそこから約5年。
死に物狂いの努力で、『道明寺司』という男を作り上げた。
女なんて必要ない。ビジネスに特化した才能の持ち主。
天性のビジネスセンスを持つ男。
そして、アメリカで、多くのビッグチャンスをモノにした。



その後、俺は凱旋帰国を果たすことになる。
帰国した俺が、女嫌いのこの俺が、一人の女に囚われて、その女のために仕事をするようになるだなんて、誰が想像できただろう。
しかもその女を手に入れる時には、あれほど苦労して手に入れた『道明寺司』という名前は全く役には立たなかったなんて、今では笑い話だ。



 

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ありゃ、また長くなっちゃった。。。
  1. ある日のThe Classic
  2. / comment:5
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「マスター、1番席にドンペリの黒です。」
そう言いながら、この名門Barにはそぐわない明るい笑顔を振りまく女の子。
来年4月から、東京メープルの総合職として内定が決まり、急に人手が足りなくなったうちのBarにバイトに来てくれている牧野さんだ。

まだ大学生で、笑顔が可愛いと大評判。
会員制のうちのBarで、爆発的人気の彼女。
お父さん世代にバカ受けしている。
当初は少し心配もしたものだが、彼女はするりと店に馴染んだ。
仕事はすぐに覚える頭の良さ、プラスアルファの仕事までこなす柔軟性、瞬時の判断には抜群に優れている。
更に相当な努力家で、酒に弱いくせに、お客様にお出しする酒の味を知っておきたいと、仕事の最後や合間にちょっと舐めては、感想をメモしている。
東京メープルの見る目は流石のようだ。きっと彼女は将来、メープルを担う人材になるだろう。


僕が休憩をとるためにバックヤードに入ると、入れ替わりで牧野さんが、ハンカチで手を拭きながら出てくるところだった。
僕は、そのハンカチの柄に見覚えがあった。

そう、あの____パンダ柄。


「つくしちゃん、そのハンカチ・・・」
「あっ、これ、お店でファンシー雑貨はまずかったですか?」
ささっとポケットにしまっていたが、忘れもしないあのパンダ柄。

「いや、そのハンカチって、何か有名な物なの?」
「えっ?いいえ、そんなことは無いと思います。これ、むかーしから持ってるんです。近くのファンシーショップで激安で。二枚で100円になってたんです。バレンタインデー用に、二枚一組のカップル仕様だったんですよ。でも、バレンタインデーの後は激安セールのワゴンに入ってて、買っちゃいました。これは赤いパンダで、もう一枚は黒いパンダなんですけど、カレカノで一枚ずつ持つと幸せになれるっていう、幸福を呼ぶパンダなんですよ。まぁ、あたしはそういうのを信じている訳じゃなくって、ただ安かったから買ったんですけどね。。。」
そう言いながら、えへへと笑う牧野さん。

黒のパンダ・・・確か、あの時、司君が持っていたハンカチの柄は黒いパンダだったんじゃ・・・

「付かぬ事を聞くけど、つくしちゃん、その黒いパンダのハンカチ、今も持ってるの?それとも、誰かにあげた?」
カップル用だということは、牧野さんも誰かにあげたのだろうか?

「えっ?えーと。うーんと。今は、持って・・無いです。高校生の時に、唇切っていた人にあげちゃったから。」


僕は、驚いた。
それはきっと司君だ。恐らく、間違いない。
こんな偶然ってあるんだな。
丁度、来月から司君が、日本に戻って来る。
あの頃よりも、一回りも二回りも成長して帰ってくる。
僕はそれを楽しみにしていた。

司君がニューヨーク行きを決めた理由は、結局のところ本人にしか分からない。
あのパンダ柄のハンカチで唇を抑えながら入って来たあの日。
司君は、ニューヨーク行きを決意していた。
あの日に、一体なにがあったのだろう?
女の子にハンカチを渡されたことは聞いていた。
それ以外に何かあったのだろうか・・?


「つくしちゃん、そのけがをしていた人のこと、覚えてる?」
「うーん。どうだったかなぁ。でも、こーんなつりあがった目をしちゃって、馬鹿な喧嘩してきましたって感じで。だから、あたし言ってやりましたよ。そんなことしてないで、一円でも自分で稼げって。今のあんたがいるのは親のおかげなんだから感謝しろってね。あー、あの人、大丈夫だったかなぁ。」

そう言って、ぺこっと僕に頭を下げて、フロアに戻っていく牧野さん。


僕は一瞬唖然とした後に、急に笑いが噴出して止まらなくなった。
へぇ。
あの司君が、彼女のそんな言葉に打たれたのか。
確かに、「親に感謝しろ」と言われたようなことは言っていたけど、けれど、あの道明寺司に向かって、「一円でも稼いでみろ」とは、喧嘩を売っているとしか思えない。
そして、その喧嘩を、司君は買った訳だ。



僕は、バックヤードで休憩をとりながら、過去に想いをめぐらせていた。

あの頃、道明寺財閥の一人息子として、目に見えるものは全て与えられていた彼。
けれど、中学3年生の時に初めて出会った時から、彼の心の闇は深かった。
僕は道明寺財閥の現総帥・道明寺実氏を知っている。
分単位で世界中を駆け回る男だ。その妻である、楓社長も然り。家庭を顧みたくとも、顧みれない二人だった。そんな彼らの息子である司君は明らかに愛情に飢えていた。

何故、僕が総帥を知っているのか。
それは僕は若い頃、当時財閥副社長であった、道明寺実氏のSPだったからだ。
大学卒業後、僕は実氏のSPに採用された。当時はまだ財閥の副社長となったばかりだった実氏は、若い僕を可愛がってくれた。その翌年に司君が生まれたことはよく覚えている。
僕は10年間、実氏と共に世界を回った。それは常に危険との隣り合わせで、道明寺財閥の世界経済への影響力というものを日々感じていた。もしも実氏が亡くなれば、世界経済に激震が走る。現に、先代がお亡くなりになったことで、実氏の肩には財閥の全てが圧し掛かっていた。
SPとして10年目を迎えた年、ドイツ視察の最中に、当時すでに総帥の地位についていた実氏が狙撃された。それを阻止した先輩のSPは命を落とし、僕は左足に銃弾を受けた。

重症を負った僕はSPを続けていくことができなくなった。その時に、総帥からこのBarで働かないか提案を受けたのだ。僕がその提案を受けたのには、深い理由はない。ただ、何かをして働かないといけなかったし、向いていなければやめるつもりだった。けれど、思っていたよりも、この世界は自分に合っていて、いつの間にか支配人にまでなっている。

司君は14歳の年に初めてこのBarにやって来た。
『どこの店も飲ませてくれねぇから、ここで飲ませてくれよ。』
今思えば、あれは姉の椿さんが結婚する前後だったんだろうな。
僕は少し迷ったが、彼をカウンターの隅に座らせて、ウイスキーのロックを出した。
『サンキュ。』
御曹司に礼を言われることが意外だった。
それからも時々訪れては問題を起こしたり、起こしそうになったりを繰り返す。けれど、僕は彼を拒否することは無かった。
それは恐らく、道明寺を継ぐということが、どれだけの危険と隣り合わせにあるかを身をもって知っていたからだと思う。家族愛が欲しければ、ニューヨークで暮らしたって良かったはずだ。けれど、家族が離れて暮らしていたのは、ビジネスという側面が大きくはあるが、それと同時に子供たちの安全を考えた親の愛でもあったはずなんだ。日本だって、完全に安全ではない。けれど、このBarで飲んでいる限りであれば、彼の身は守れると思った。


彼の闇は日に日に深くなった。
当時、自分自身に対する苛立ちを抑えきれない司君を見守るしかできなかった僕。
彼の身を守るものは、彼自身が身につけなければならない。それは、ビジネスでもあり、彼の人間性でもあった。実氏がもつようなカリスマ性が彼にあるのかどうかは未知数だ。かつての僕たちSPが総帥を守ったように、本気で身を挺してまで守るべき価値のある存在に、彼自身が成長しないことには、結局彼は自分の身を守ることはできないんだ。


それが分かっていたにも関わらず、何もできずにいた僕とは対照的に、司君に喧嘩を売った少女がいた。
「1円でも稼いでみろ」「自分の親に感謝しろ」と言い放った。
誰もが薄々は気が付いていた事。けれども、直接彼に進言した者はいなかっただろう。

その少女の声を聴いて、司君は目覚めた。
「自分の存在意義」を確かめ、それを世間に知らしめることを決意した日。
彼が、自分自身の価値を見出すと言うことは、自分の身を守ることにつながる。
そう、あの決断の日、司君は牧野さんに会っていたんだ。



かつては親の庇護のもと、勝手ばかりして周囲に迷惑をかけていた司君が、今では名実ともに、道明寺財閥の後継者に成長した。もう、あの頃の彼ではない。
誰もが、彼の稀有な能力を高く評価し、彼の価値を知った。
そして、彼を取り巻く環境も変わっただろう。
周囲は彼をサポートし、彼の身の安全のために動くはずだ。

そう考えれば、牧野さんは司君の命の恩人だとも言える。


そんな牧野さんは、司君のことを覚えていない。
そして、帰国する道明寺司は有名人だ。
その司君を見て、牧野さんが高校生の時のことを思い出すとは思えないな。
すると、この事実を知るのは僕だけと言うことになる。


あの日、司君は、あのハンカチをパンツのポケットにしまっていた。
あのハンカチはあの後どうなったのだろう?


この事実を誰かに伝えたいような、でも、これから起こることを静かに見守りたいような、そんな楽しい気持ちで、僕は司君の帰国を待つことになった。



 

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臼井さん、勝手にしゃべり出しちゃった。
長い語りですみません。。。
  1. ある日のThe Classic
  2. / comment:7
  3. [ edit ]

司君が帰国した。
久しぶりに来店したのは、1月7日土曜日。
今や、道明寺ホールディングス日本支社長となった司君をカウンター席に案内することはできず、角の個室へ案内した。
前もって連絡をくれればいいものの、こうやってふらっとやって来るところは相変わらずだ。

「久しぶり。」
片手を少しだけ上げる司君。
すでに、支社長の風格は半端ない。
「お久しぶりです。司君。立派になりましたね。」
「ホントにそう思ってんのかよ。まぁ、いいけどよ。俺、しばらく、ここの上に泊まってるから、時々来るわ。」
「では、この個室を空けておきますね。」
「サンキュ。」
18歳の頃とは違う、大人の男性になったと思う。
物腰に余裕を感じる。
あの頃の、粗削りな様子は影を潜めた。
自分の置かれている立場も当然のことながら、きっちり理解しているのだろう。
けれど、あの鋭い目つきは相変わらずだ。
誰も近付けないとでも言うような、誰も信じていないと言うかのような、そんな鋭い目つきは健在だった。
この5年の間も、気の抜けない毎日だったに違いない。
彼の信じるものは、自分自身だけ・・ということか。


「何を飲まれますか?」
「そうだな、マッカランの30年モノ、置いてるか?」
そう言って、ニヤッと笑った司君。
その笑いに、18歳の頃の彼が思い出され、少しほっとした。
「当然です。」
それは以前から、司君が好んでいたウイスキー。
だいたい高校生の分際で酒なんか飲んでるなんて、その時点で犯罪なんだけど、彼らが背負う重圧ってものも、僕なりに理解していたつもりだ。
だから、彼らにひと時の犯行と自由を許してあげていた当時を思い出す。

「マッカラン、ストレートで頼むわ。」
「了解しました。」

僕が、司君の信頼を得ているかどうかは問題じゃない。
だけど、僕は彼に引き付けられた。
この男は、周囲が守るに足る男になったと確信した。



カウンターに戻り、司君用のグラスとウイスキーボトル、チェイサーを準備した。
それから、何かつまみをと考えているうちに、あっとトレーが持ち上がった。

「マスター、これ、個室のお客様ですね?」
そう言って、さっさと運んでしまう牧野さん。


その時僕は、止めようかと思ったんだ。
「僕が運ぶよ。」と一言言えば、止められた。
けれど、結局は止めなかった。
どうしてかな。
女嫌いで有名な司君の個室に、女性スタッフが入れば、きっと彼は怒り出すに違いない。
下手をすると、僕にとばっちりが来るのも分かっていた。
だけど、あの二人は、おそろいの色違いのハンカチを持っているはずなんだ。
司君があの後、あのハンカチをどうしたのかは分からない。
だけど、あの日、間違いなく、司君の心は打たれていた。
だったら、今日、また何かあるかも知れないじゃないか?
司君の心を動かす何かが。
誰も信用などしていない司君の心が動かされるかも知れないじゃないか。
それって、ちょっと面白くないか?
僕はそれを期待してしまった。

ちょっとしたいたずら心も同時に働いて、僕は牧野さんを止めなかった。
もし、司君に追い出されたら、その責任は僕が取ってあげるから。
そんな風に思いながら、彼女の後ろ姿を見送った。


しばらくして帰って来た牧野さんは、極々普通だった。
5年前のあの日のことを思い出している訳でもなさそうだ。
そして、司君も同様に、何も気がついてはいないらしい。
けれど、あの司君が、部屋に牧野さんと二人きりになっても、機嫌が悪くはならなかった。
それどころか、牧野さんは何度も個室に入っては、ウイスキーを注ぎたしていた。

これは・・何かある?
長年Barで養ってきた僕の勘は冴えている。
僕は、黙って見守ることにした。




その後も、何故か司君は、牧野さんの勤務日にばかり現れる。
別に誰かが教えたって訳じゃない。極々、偶然。
そして、当然のように、牧野さんが司君の担当になってる。
決して僕が指示した訳じゃない。
僕はお酒の準備をしているだけ。

初めて牧野さんが、僕に司君のことを尋ねた。
「マスター、司さんって、何者なんです?どこかで見た事あるような気もするし・・。」

ぷっ。
これから東京メープルの幹部候補生になる牧野さんが、司君の正体を知らない。
しかも、なんだか見たことありそうだって?
そりゃそうだろ、今はマスコミへの露出はないとはいえ、高校時代は日本でだって有名だった。
いや、待てよ。
もしかして、5年前のことを言っているのかな。
5年前の彼を少しでも覚えているのだろうか?
この二人の出会いは、偶然なのか運命というものなのか。
もしも運命であるならば、きっとこの二人は、僕が何をしなくとも、結ばれるのかも知れないな。
二人がお互いのことを知るまでに、僕が何かをする必要はない。

「あれ?つくしちゃんは知らなかった?ははは。それじゃあ、トップシークレットだ。」
僕は、司君の素性を語らなかった。



それからの二人を見ているのは、楽しかった。
二人とも、たぶんお互いをかなり意識している。
特に司君。
来店すると、個室に向かう途中で、必ずフロアを確認している。
そう、牧野さんがいるかどうかを見ているんだ。
牧野さんがいると分かると、少し口元が緩む。
で、牧野さんはというと、
うーん。この子はなかなか読めないな。
だけど、司君の部屋へ飲み物や食べ物を運んでいく彼女は、とてもいい顔をしている。
時々司君の部屋を覗いては、酒を注ぎ足したり、チェイサーを交換したり、自主的に動いている。
でもね。支社長の個室なんて、本来だったら、呼ばれない限りは入らないものなんだよね。
彼の立場を知らない彼女ならではの行動だ。
そして、驚くことに、司君は彼女を追い出さない。
自分が呼びもしないのに、勝手に入って来る彼女を黙認している。
いや、それどころか、彼女が入って来やすいように、結構早いピッチでグラスを空けているようだ。


やはり・・・二人は運命の相手、なのだろうか?



 

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  1. ある日のThe Classic
  2. / comment:3
  3. [ edit ]

1月31日 火曜日。
1月末は司君の誕生日だと記憶している。
だけど、さすがに支社長として帰国してからは、彼が平日に店に来たことは一度も無かった。
彼にとっては、誕生日なんていつも無意味なものの様だったけど、彼がニューヨーク行きを決めたのも、やはり1月31日だったということは、何か理由があるのだろうか。


21時過ぎに、司君が店に現れた時には驚いた。
彼が平日に現れるなんて。
何事も無いかのように、冷めた様子で個室に入る司君。

その姿を見て、5年前の誕生日を思い出した。
あの頃の司君が飲んでいたのは、マッカランの「ロック」。
今でこそ、ストレートを好む司君も当時の定番はロックだった。
ニューヨークでは、僕には想像できないほどの苦労もしてきたんだろう。
仕事のストレスを発散させるのは、マッカランのストレート。
けど、今日は、司君の誕生日。
ゆっくり疲れを癒してほしい。


僕は、いつもと同じヴィンテージボトルとグラス、そしていつもとは違い、アイスペールと多めのつまみを用意した。

牧野さんが当然のように近づいてきて、
「あれ?今日はロックですか?」
と聞いてくる。

「あぁ。平日だしね。飲み過ぎちゃ、ダメだろう?」
そう言った僕に、
「そうですね。」
と彼女が笑った。


それでも、結局司君は、ストレートで飲んだらしい。
牧野さんが心配そうにしているなと思ったら、どうやら酒のことではない。
「お客様の誕生日だから」と言って、厨房を使いたいと言い出した牧野さん。

もしかしなくても、司君の誕生日だよな。
どうしてそれが分かったんだ?
聞きたい気持ちを押し殺して、僕は厨房を使う許可を出した。

甘ったるいお菓子の匂いが裏の厨房に充満した。
そんな中で、コーヒーをドリップし、司君に運んでいく牧野さん。
コーヒーなんてメニューはこのBarには存在しない。
彼女なりに、司君の体を気遣っているのだろう。

もはや、このお菓子を司君に渡すのは間違いないな。
司君が、女性からの贈り物を喜ぶとは到底思えない。
しかも、甘いモノが苦手な司君だ。
大丈夫か・・・?


僕の心配をよそに、司君がマフィンを持ち帰った時点で、やはりと思った。
本来ならば、いくら僕が彼女のフォローをしたからと言って、司君が女性からもらったお菓子なんて、持ち帰るはずはないんだ。
それなのに・・・
やはり、二人はどこかで結ばれている。
それは、僕が何か教えてあげる必要なんてないぐらいの強い絆の様だ。



誕生日の後から、司君の目つきは変わった。
カウンターの端に座り、牧野さんをつまみに酒を飲む。
冷静沈着なその男が、牧野さんを見つめる瞳はただの男。
司君は、間違いなく牧野さんに恋してる。

僕は、司君の姿に総帥を重ねた。
ビジネスセンスは両親譲りと言われている司君。
けれど、きっとそれだけじゃない。
総帥も、一度志したものを諦めることはしない男だった。
今の司君は、その総帥と同じ目つきだ。


牧野さんは・・・
彼女は鈍感そうだからな。
彼にあれだけ熱い視線を向けられたら、普通だったら気づきそうなものなのに、何も感じていないらしい。
しかも、あれほどの容姿の男と一緒にいても、取り入ろうともしないようだ。
恐らく、そんなところも司君のツボだ。
彼は、近づいてくる女には拒否的なんだ。
やっぱり、牧野さんが運命の相手か。



バレンタインデーには、牧野さんがそわそわ・そわそわ落ち着きがない。
聞いてみれば、司君にチョコムースを用意したんだとか。
マフィンは甘かったから、今度は甘さ控えめにしたんだとか。
だけどね。僕らスタッフには、ムースは配られなかった。
僕らには箱入りのチョコレートだけだったんだ。
彼女にとって、このバレンタインデーは、ある意味特別なものだったのは間違いない。
12時前になって、今年のバレンタインデーが終わりかけるギリギリで、司君が店に現れた。
司君と一緒に、店内へ戻って来る牧野さんの嬉しそうな表情は忘れられないな。
だから、僕は「もうあがっていいよ。」と彼女に声をかけてあげた。
牧野さんが本当に嬉しそうに瞳を輝かせた。
当然、彼女の勤務時間は終わっていたんだしね。
これぐらいはいいよね。

二人隣同士に並んで、ファンシーなカップに入ったデザートを食べている。
あんな幸せそうな司君を、僕は初めて見た。
彼の笑いは、いつもどこか皮肉めいていた。
こんなに自然な笑い方ができる男だったのか・・
隣の牧野さんも、そんな司君を見て、嬉しそうだったな。



これで彼女も司君への恋心に気付くかと思っていたら、そうではなかった。
彼女はどこまでも鈍感だった。
けれど、バレンタインデーを境に、司君は積極的になった。
そりゃ、手作りのムースを貰えば、その気にもなるだろう。
俄然やる気を出した司君は、研修後に店を訪れた牧野さんを、個室に誘った。

はっきり言って、この時は、僕も緊張したね。
牧野さんがお酒が弱いのは知っていたし、すでに同期との飲み会で1杯は飲んできている様子だった。
もう1杯飲めば、酔い潰れてしまうだろう。
すでに恋心を隠していない司君と二人きりにするのはどうなんだ?と思いもしたが、これは司君が仕掛けた事。僕は軽くアシストするのみ。

12時半を回って、閉店の準備ができた頃、僕は二人の様子を見に行った。
僕が牧野さんに作ったカクテルには、リキュールは半分以下の量だったのに、牧野さんはグデングデンになって司君にもたれかかっていた。
そんな彼女を、優しそうな視線で見守っている司君。
牧野さんが司君に色目を使っているわけではないことは一目瞭然。
しかし、これ程に酔ってしまえば、きっと帰ることはできないだろう。
僕は本気で彼女をここに泊め、僕も別室で寝るつもりだった。
それをさえぎったのは、司君。
想定内のことではあったけど、けれど、本当に二人を一緒にしていいのかどうかは判断に迷った。
もしも、酔っている牧野さんに、司君が何かをしたら・・・。そういう可能性だってある。

迷った僕が、次に見た光景は、司君が牧野さんの前髪を愛おしそうに払う姿。
前髪から続くサイドの髪を耳にかけてあげていた。
あぁ、この様子なら大丈夫だ。
司君は、牧野さんに本気だ。
本気の男が、本命の女に、こんなところで手なんて出す訳がない。


「司君のこと、私もつくしちゃんも信用していますので。」
僕は、司君に牧野さんを預けた。



 

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