花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

____ホテルメープル東京 11時00分。


正面ロビーより反対の北側に広がる日本庭園。
広大な敷地を誇るその庭園には、鯉の泳ぐ池や、この夏のうだる暑さをしのぐ東屋もある。

俺は、普段は絶対に歩くことなどないその庭園を、東屋に向かって歩いていた。

あと30分後に、行きたくもねぇ、見合いの席に着かなきゃならない。
面倒くせぇことこの上ねぇが、俺も会社の副社長という肩書がある以上、両親が持ち込んだその見合いを、会いもせずに断ることはできなかった。

まぁ、ビジネスだ。ビジネス。

相手は、白鳥物産の令嬢のなんとかって女だ。
写真も見てねぇけど、見る価値もないだろう。
俺は、この縁談を受ける気なんてサラサラねぇからな。

東屋に向かって歩きながら、胸ポケットを探る。
タバコを出して火を付けようとして、手を止めた。

東屋に先客がいた。
この東屋は知る人ぞ知る東屋。
手前には大きな木があるため、見つかりにくい。
そこは、高校時代に何度か来たことのある、俺にとっては思い出の場所でもあった。


近づいてみると、女が本を読んでいる。
薄い水色のワンピースを身に着けた、色白の女だ。
黒く長い髪を片方だけ耳にかけた、その横顔が見える。
真剣に本を読んでいる姿に、邪魔しちゃいけねぇなと思えた。

俺はたばこを胸ポケットにしまうと、しばらく女を観察した。
見合いまでの30分の暇つぶしだ。
コの字のベンチがある東屋に入り、俺も女の向かい側に座った。
女が一瞬だけ顔を上げ、俺を確認する。
その一瞬だけ、目が合った。
零れそうな、黒目がちの瞳。
すげぇ美人っつー訳じゃなかったが、その瞳に吸い込まれそうだ。

左腕のロレックスを確認しながら、俺も風景を観察している振りをしていた。
女は真剣に本を読んでいる様子で、それ以降、目が合うことは無かった。


俺は本来一人でいることが好きだ。
女と二人きりとか、絶対にあり得ない。
だが、この女が醸し出す雰囲気が何となく心地よくて、女をどっかに行かそうとか、俺が場所を移そうとか、そういう考えには至らない。

悪くねぇ・・・そう思った。


俺は日本トップの財閥系企業の御曹司って奴だ。
28歳にして、副社長の地位についた。
今後社長の座に就くためには、結婚は必須条件と言われている。

条件の良い女との結婚。
はぁ・・・・溜息が漏れる。
それに、何の意味があるんだ。

激務に加えて、家までが針の筵じゃやってられねぇじゃねーか!

と言う訳で、今のところ、俺は結婚なんてする気はない。
そもそも、俺は、女嫌いだからな。
無理する必要なんてないっつーのが、ここ数年で俺が出した結論だ。

でも、もし・・
もし、俺が家庭を持つのなら、こんな女がいいのかも知れねぇ・・
その場に一緒にいるだけで、満たされるような雰囲気・・
なんて向かいの女を見ながら思うのは、今日が、行きたくもねぇ見合いの日だからなのか。


東屋から少し右手の細い小道に沿って、川の様に作られた池が続いている。
日陰になっているその池から、少しだけ涼しい空気が流れて来た。

10分もした頃だろうか。
4-5歳のガキがこちらへ向かって走ってきた。
目の前の女も気づいたようだ。
どこかに両親もいるのだろうが、見当たらない。
きゃっきゃっとはしゃいで、池の鯉に手を伸ばそうとしている。

目の前の女と目が合った。
何気なく。
何となく。
ドキッとした。

女が本をベンチに置いたとたんに、

ドボンッ!!

ガキが池に落ちた。

とっさに立ち上がり、女が駆け寄っていく。
当然、俺も後を追う。

女は、躊躇せずに、池に入った。
幸い池は浅く、溺れるようなことは無かった。
だが、びっくりしたガキは自分で立ち上がれず、女が腰をかがめて引っ張り上げた。
綺麗な薄い水色のスカートが濡れていく。

「こっちに渡せ。」

全身水浸しのガキは重くなっている。
女が池から出すには、重すぎる。
俺は、手を差し伸べて、女からガキを引き上げた。

自力で池から出ようとする女にも、何故か、自然と手が伸びた。

女の右手を引いた時に、小さな声で「ありがとう」と聞こえた。

ガキの両親が駆け寄って来る
池を出た女はすぐに俺の手を離した。
両親はガキの無事を喜び、それから俺達に頭を下げた。

「ありがとうございました。」
「いえ、無事でよかったです。」
「そのお洋服、クリーニングに出させてください。」
「いえ、それより、息子さんの着替えをしてあげて下さい。」

結局、女はクリーニングを断り、家族はホテルの方向へ戻って行った。
父親に抱かれながら、こちら向きに手を振っているガキに、女も手を振り返していた。


それから、クルリと踵を返した女と再び目が合った。

「お前どうすんだ?それ。」

女のワンピースは膝上まで濡れていて、足にぴったりと張り付いていた。
慌てた女が、スカートの裾を掴んでぎゅーっと絞る。
すげぇ大胆な仕草だ。

「もうっ、だから嫌だって言ったのに。お見合いなんて勧めるからこういうことになるのよっ。全くもうーっ!」

その言葉はどうやら俺に対してではなく、独り言らしい。

そして、この女も見合いでここに来ていたのだと知る。

「時間、大丈夫か?」

もう一度声を掛けると、腕時計を確認した女が、
「やっ!大変っ!」
と言って、東屋に駆け戻っていく。

心配してやった俺のことは無視かよ。

荷物を持って、駆け戻って来て、
「それでは、ありがとうございました。」
と勢いよくお辞儀をして、立ち去ろうとするその腕を、思わず掴んだ。

女が驚いた顔で振り返る。
俺も・・自分の行動信じられない。

「あの・・」
「スカート、透けてんぞ。」
「えっ・・ぎゃっ!!」

小さく叫んだ女に、俺は自分のジャケットを掛けた。
女は目を丸くして俺を見て、それから、真っ赤になって俯いた。

「ありがとう。」

女がジャケットの合わせを握りしめながら言う。
「これ、クリーニングしてお返ししますので・・」

その言葉に被せるように、俺も言った。

「お前、今から見合いなのか?」

「え?」
顔の女が再び俺を見上げた。

「見合いなのかよ。」
「あ・・はい。でも、この恰好なので・・」

その恰好だからどうするんだ?
どっかで、着替えを調達すんのか?

「何時から?」
「11時半。」

「どこ?」
「メープルのプライベートラウンジです。」

「相手、誰?」

そんなこと聞いてどうすんだ・・俺。

「えっ・・えーと・・・」
「相手の名前覚えてねぇのかよ。」
「あ、そうだ・・塚狭(つかさ)さん・・という方です。」

つかさ・・?

俺は、じーっと女を見つめた。

こいつが、白鳥物産の令嬢?
いや‥どう見ても、違うだろう。
身に付けているものも、品物は悪く無さそうではあるが、一流品ではない。
時計も、国内有名ブランドものだ。

だが・・

こいつが、俺の見合い相手だったら?

そんな希望が湧いてきた。
ぜってぇ違うだろうと思うのに、0.01%の希望に懸けたい気持ち。


「そうだ、所長に連絡します。そこから、相手の方に連絡を入れてもらいますから・・」

「いや、その必要はねぇよ。」

「え?」

「お前の見合い相手、たぶん、俺だわ。司・・だろ?」

「へ?」

「メープルのプライベートラウンジ 11時半。」

「はい。」

「間違いない。俺だ。」

目ん玉飛び出んじゃね?ってぐらいのびっくり顔。
止めろっつーの。
その顔も、案外可愛いんだ。

ベンチに座っていた時の「静」の表情と、今、俺の前で見せる「動」の表情のギャップにぐっとくる。

俺は、こいつに興味がある。
どうせ見合いをするんなら、こいつがいい。
こいつを、他の男んとこになんて行かせたくねぇ。

女にこんな感情を持つこと自体が初めてだった。


「行こうぜ。」
「ええっ!でも・・」

俺は、女の肩を抱き、女を守るようにして歩き出した。



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昨日思いついたお話です。
長くはならない予定でいます。
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こんばんは。
こちらのお話は、急に書こうかなと思いついたお話で、出だししか考えていません(汗)。
なので、これからの展開は誰にも分からないです。
昨日、晩御飯前にと、とりあえず1話目を投稿したのですが、投稿直後、タイトルのスペルを打ち間違っていました・・(涙)。
初めの30分ぐらいで見られた方。意味分からなかったんじゃないかな?ゴメンなさい。
このタイトルの意味は、まぁ、そのままかな?
私としては二通りの意味に考えています。
また、展開の中で、説明できたらいいかなぁと思います。
では、続きを~。
***




何度も何度も、俺を見上げながら、キョロキョロしている女。
俺は、ただただ正面を向き、歩く速度を変えることは無い。
歩いている間にも考える。
俺の行動は全てSPが把握している。
そして、その行動は西田に伝えられるはずだ。
見合いをブッチしたことはすぐに伝わるだろう。
どうすっか・・。

ホテル内に入り、エレベーターホールへ向かうと、俺に気付いたスタッフが慌てて駆け寄ってきやがった。

「どう・・っ・・」

俺は、そいつらを睨みつけ、右手を挙げて制止する。

それ以上、言うんじゃねぇぞ。
道明寺っつってみろ、お前ら全員、クビだ。

俺の気迫に押されたのか、スタッフが無言で、スイート直通のエレベーターのボタンを押した。

「えっ?あの?えっ?」
「心配すんな。とりあえず、着替えが必要だろ?」
「あ・・いや・・その・・」

現状を把握できていない様子の女を連れて、そのまま到着したエレベーターへ乗り込んだ。

ホテル内は思ったよりも冷えている。
肩を抱いている女が、ぶるっと震えた。

「寒いのか?」
「ええ・・少し。」
「すぐ着く。まず、シャワーでも浴びろよ。」

「シャッ・・・シャワー!!?」

彼女が驚きまくって、俺から離れようとする。

「なに、警戒してんだよ。」
「いや、だって・・」
「着替えるだけだ。心配すんな。」
「本当・・ですよね?」

この俺に向かって、バリバリに警戒したその目つき。
そんな視線、受けた事ねぇぞ。

「俺は、見合い相手にいきなりがっつく程、飢えた男じゃない。」
少し不機嫌を装ってそう言えば、彼女が少しシュンとした。
「すみません。」

うっ・・。
いや、待てよ。
十分がっついてるのかも知れねぇ。
完全に、がっついてる・・な・・。
たぶんこいつは、白鳥の令嬢なんかじゃねぇって分かってるのに、こいつを見合い相手に仕立てようとしている、この時点で。

ポーン。
エレベーターがスイート階に到着した。



***



す・・凄い・・・。
それは、東京メープル40階から見える景色。
思わず、大きな窓にへばりついて、階下を覗き見る。
うっ・・・こわっ。

振り返ると、そこには素晴らしい応接セット。
奥に、ダイニングテーブル。
フカフカの絨毯。
カウンターバーもある。

ここって・・ここって・・スイートルームってところ?
私・・初めて来たっ。

ぐるりと部屋を見渡すと、後ろで、クスッと笑い声。
振り返ると、塚狭(つかさ)さんが、私を見ていた。

「風邪ひくぞ。先にシャワー行けよ。」

「はっ・・はい。」

慌てて駆け出してみたものの、どこがシャワールームなのか分からない。

「こっち。」
彼に背中を押されて、シャワールームへ誘導された。

「使い方、分かるよな?」
「たぶん。」
「よし。」

そう言って、シャワールームから出て行く彼。

「あっ。」
私は、思い出したように声を上げた。

「何だよ。」
「着替えが無い。」
「準備しとくから、先入っとけ。」
「はい。」

バタン。

・・・。
・・・・・・。
ふぅー。


私は、ここで初めて冷静になった。

私、今、どういう状況なの?
お見合い相手の塚狭さんと、ホテルの部屋に一緒にいるって、どういうこと?
あの人・・悪い人じゃなさそうだけど・・。
でも・・なんだか、奇妙な状況じゃないの。

だいたい、どうしてこの部屋に入れるの?
塚狭さんって、一体何している人なんだっけ?
あーもう、どうせ断るからって、ちゃんと話を聞きもしなかった自分を恨む!
スイートルームを予約している人が、私のお見合い相手だなんて、なんだか信じられない。


私が、お見合いを断れなかったのは、2年前からお世話になっている弁護士事務所の所長に勧められたから。
私は駆け出しの弁護士で、所長は地元では有名な弁護士。
近隣の人々や中小企業から頼りにされていて、私も尊敬している女性。
地元密着型の人権派弁護士の先生の元で司法修習を行い、晴れて弁護士となって、そのまま先生の元でお世話になり2年になる。
先日、遺産相続の相談に来られたクライアントがいて、私が担当になった。
クライアントのおばあさんは、何故か、私のことを凄く気に入ってくれて、甥の嫁にどうかって凄く勧めるの。だけど、大体私が遺言状の相談とかしてるのに、その親族の方とお見合いってあり得ないでしょ?
それに、まだまだこれからもっと勉強して、弁護士として一人前になりたいから、結婚なんて考えられない。
だから、お断りしたって言うのに、おばあさんったら、今度は所長にお願いしたみたいで。
所長ってば、私に男っ気がないからって、とりあえず会ってみなさいなんて言うから、仕方なく来た訳なのよ。

けど、甥御さんって・・30いくつって言ってなかったっけ?
さっきのあの人・・・。
まだ20台だと思うんだけどな・・・。


うっ・・ううん!
でも、とりあえず、とりあえず、シャワーを浴びよう。

あの人、変なことしそうには無かった。
あの子供のことも助けてくれたし。

私はそう頭を切り替えて、シャワーブースに入った。
温かいシャワーを浴びて、体温が回復する。

ホッとして、コックを止めて、バスタオルで体を拭いた。

体を拭いて、バスタオルを体に巻き付けて、キョロリ。


あれ・・・?

私の服・・無くなってる。
他に・・着るものはない。
壁にかかっているのはバスローブだけで・・。

ええーっ!!

どっ、どうしたらいいの?
この状況っ!!

おっ、落ち着くのよつくし。
とりあえず、このバスローブを羽織ろう。

そうよっ。さっき、着替えは用意するって、あの人言ってた。
私ったら、何を変な事考えてるのよ、全く・・うん。


とりあえず、さっと髪をタオルドライして、私はカチャリとドアを開け、外の様子を伺いながら、リビングルームへ向かった。




ん・・?話し声が聞こえる。

「あぁ、それでいい。靴のサイズは、これを見てくれ。」
「こちらは如何しましょう?」
「それももらう。」

なんだろ?
そろっと、リビングに入ると、そこには、どこかのショップの店員さんが3人も来ていた。
店員さんは後ろ向きで、顔は見えないけど、塚狭(つかさ)さんと目が合った。
驚いたような彼の表情。

ん?
あっ。
わっ・・わたしっ、バスローブ姿じゃないのー!!


自分の姿に我に返ったとたんに、彼が私に向かって突進してきた。

は?

がばっと私を腕の中に囲うと、そのまま手前の部屋に連れて行く。


すごく高そうなコロンの香りがする。
男の人もこういうの付けるんだね。
私、あんまりこういう匂いって興味がなかったんだけど・・
いい匂い。
なんだか・・・酔いそう・・・。


部屋に入るとそこはベッドルームで、そのまま彼が私から手を離し、片手の手のひらで両目を覆った。

「はぁ。お前、ビビらせんなよ。そんなカッコ、誰かに見られたらどうすんだ。」

「だって・・。」

「だってじゃねーよ。とにかく、服は、今、クリーニングに出してる。とりあえず着るもの用意してるから、大人しくここにいろ。」

だって、誰か来てるなんて思わないじゃないのよ。普通。
そう文句を言いそうになったけれど、ここにいろと言う彼がなんだか切羽詰まっているように見えて、その真剣さに圧倒されてしまった。

「はい。」

それから、彼は、ほっとしたように私の頭をくしゃっと撫でて、部屋を出ていった。


ドクン・・ドクン・・・
ドキドキドキドキ・・・


何?

何で、こんなにドキドキするの。

私は、ガウンの合わせをぎゅっと握りしめた。



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明日は、AM5:00投稿目標!です。
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彼女がシャワールームに消えた後、俺はすぐに西田に連絡を取った。

腕時計は11時40分を示している。
俺も、あいつも、見合いの席には当然遅刻だ。

『俺だ。』
『副社長、先ほどから何度も連絡を入れているのですが。ラウンジにお見えになっていないと、先方から・・。』

この時点で、俺の犯行は確定。
やっぱり、この女は、俺の見合い相手ではなかった。
分かってはいたが、もしかして・・という淡い期待もどこかにあった。
しかし、もう、俺は動き出している。
それは、恐らく、本能で・・・。

『あぁ、ワリィな。本気で気に入った女を見つけた。だから、今日の見合い、断っといてくれ。』
『副社長っ!』
『オヤジたちには、俺から説明する。』
『本気とは、どういう意味でしょう?』
『そのままだ。本気で、結婚を考えたい相手。』
『・・・。』

西田の沈黙。
これが出た時の西田は、すげぇ冴える。
きっとこの状況を切り抜けるだろう、この男なら。

『つまり、今、副社長は、結婚を考えているお相手と一緒にいらっしゃるということですね。』
『そう言ってんだろ?』
『分かりました。こちらのことは全てお任せを。その代わり・・』
『なんだよ。』
『もしも、上手くいかなければ、相応のペナルティを。』

つまり、あれか?
ブラジル出張3か月とか?
極寒ロシアに1か月とかか?

一瞬ぶるっと震えたが、そんなの専務時代にこなしただろうがよ。

『上手くいかなければ、ご両親の勧められるお嬢様とご結婚を。』

は?
何言ってんだこいつ。

『ニューヨークには私から説明します。ですから、副社長、背水の陣で臨んで下さい。』

そうか、そう言うことかよ。
親父とお袋を黙らせるには、それしかねぇってことか。

『分かった。任せろ。それと、ラウンジに塚狭(つかさ)っつー男が見合いに来てるはずだ。相手の女は行かねぇから、適当に帰しとけ。』

俺がそう言っただけで、状況を理解した有能な秘書から冷静な返事が返ってきた。
『畏まりました。すぐに手配致します。ご健闘を祈ります。』


ふぅ・・。
とりあえず、西田を味方につけた。
運は俺に向いている。



***



塚狭さんが選んでくれた服に着替え、部屋を出て、リビングスペースに戻った。
奥のダイニングには、ランチが届けられている。

「わぁ!」

前菜の盛り合わせが手前に。これって・・キャビアがのっかってる?
ホカホカの湯気が出ている、白身魚。
スープは冷製かな?
パンがバスケット一杯に入ってる。何これ、食べ放題?
グラスには、ミネラルウォーターと食前酒がすでに注がれていた。

カチャッとドアが開く音がして、振り返ると、彼がこちらに向かってくる。
彼も着替えたみたい。
よく見れば、凄い美形だ。
見たこともないぐらい。
どうしてさっきまで、気が付かなかったんだろう。

あ・・お礼。
「あの、とても助かりました。着替えも用意して頂いて、ありがとうございます。」
「たいしたことじゃねぇから、気にすんな。」

たいしたことじゃない?
十分たいしたことだと思うわよ?

「腹減ったか?」
「もうペコペコです。」
だけど、お腹は正直だ。

「よし。じゃぁ、食おうぜ。」


ここで、もう一度、私の頭に疑問が浮かぶ。
この人は、本当に私のお見合い相手なんだろうか?
『つかさ』という名前の別人なんじゃないのかな?
今私が着ているオフホワイトのワンピースも、D’&G’のものだし。
大体、この部屋を平気で使っているっていうだけで、普通の人じゃない。
クライアントのおばあさんは確かに資産家ではあるけれど、こんな甥がいる訳ないじゃないの。

なかなか、席に着かない私に向かって彼が言った。
「座れよ。」

「あのぉ。あなたは、本当に、私のお見合い相手なんでしょうか?」
「何で?」
「いや、その・・。メープルホテルのこんなお部屋を使う人とのお見合いだなんて、聞いていませんでした。」
「今日、メープル東京プライベートラウンジ、11時半のツカサだろ?俺のことだ。俺も同じ時間、同じ場所で見合いだと言われてた。名前も合ってる。」
「そうですか・・・。」

私は諦めて、彼の向かい側に腰かけた。
とたんに、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。

『ぐぅ・・』

やっ、やだっ・・・わたしってばっ!
ちらっと彼を見ると、凄く楽しそうな顔をしている。

「ぷっ。まぁ、とりあえず食おうぜ。見合いなんだ。食いながら話そう。」


見合い・・・。

確かにそうなんだけど、なんだかお見合いっぽくないこの雰囲気は何?
お見合いっていうのは、普通、初めましてとかそういう挨拶から始まって、『あとは若いお二人で』とか言われて、庭園を散歩したりとかするんじゃないの?って、私ってばテレビの見過ぎ?

だって、この状況って、なんだかデートみたいじゃないの。

それに・・

「私の想像していたお見合いと違いました。」
「は?」
「塚狭さん、ため口だし。」
「ダメか?」
「ダメじゃないです。でも、お見合いって感じじゃなかったから。」
「いずれ結婚するなら、遠慮してても仕方ねぇだろ?」

けっ・・・けっこん!!?
結婚・・・。

ゴクリ。
このお見合い、断るつもり出来たんだよ?私。
なのに、結婚って。
そりゃ、お見合いなんだから、当然だけど。
でも、じゃあ、目の前のこの人は、私との結婚を真剣に考えているっていうの?

そんな私の戸惑いなんて、全く無視した彼が、グラスを差し出してきた。

「乾杯。」

私はとっさに、食前酒の入ったグラスを差し出して・・
そこから、私たちのお見合いが始まった。





「名前は?」
「牧野つくしです。」
ひゃっ・・キャビアって、こんな味なの?
美味しいのかどうか・・分かんないわ。

「年齢は?」
「27歳です。」
これって、何?ホタテ?違うな。

「職業は?」
「弁護士です。」
モグモグゴックン。

次の質問が無いなと思って、彼を見ると、彼が少し驚いた表情で私を見ている。
あれ?知らなかったのかな?弁護士だってこと。

「ご存知なかったんですか?」
「いや・・聞いてたかな。」

あぁ、そうか、私も何か質問をしなくちゃね。
ええと・・。

「それじゃ、塚狭さん、私から質問してもいいですか?」
「なんでも聞け。」
ぷっ。この人って、どうしてこんなに俺様口調なんだろ。

「自営業ってお聞きしていたんですが、どんなお仕事を?」
「自営っつーか。会社経営だな。多角的にやってる。」
「そうなんですか。」

多角的にって・・?
まぁいっか。
食事が美味しすぎて、会話がやや適当になっている。
だって、本当に、こんなにおいしいランチ、生まれて初めてかも知れない。
モグモグ・・ゴックン。
美味しい・・幸せ。


「随分、美味そうに食うな。」

はっとして頭を上げると、彼が私を見て笑ってる。
彼は食事なんて殆んど進んでなくて、食卓に片肘を突いて顔を乗せ、私をじっと見ていた。

え・・?


「俺は、この見合い、受けようと思ってる。」

超美形の彼から、爆弾発言が飛び出した。



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皆様、この二人の関係、理解できましたか?(笑)

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「俺は、この見合い、受けようと思ってる。」


俺がそう言った時の、この女の間抜けズラったらねぇ。
慌ててナプキンで口を拭き、両手を膝に降ろした。
そして真剣な表情になって、俺を見る。

「色々と親切にしていただいて、本当にありがとうございました。ですが、私、このお見合いを受けるつもりは無いんです。初めから、そう考えてきました。申し訳ありません。」

きっちりと丁寧に断りを入れ、頭を下げる女。
こいつが俺同様に、乗り気じゃねぇ見合いに来ていたことは知っていた。
しかし、この俺をそう簡単に断るなんてな。
少なからずのショックは隠せねぇ。
だからと言って、俺は一度捉えた獲物は逃さねぇけどな。


「理由は?」
「え?」
「見合いを受けない理由は?付き合ってる恋人がいるとか?」
「いっ、いえっ!そんなことではありません。」
「じゃあ、何だ?」

俺に問い詰められるとは思わなかったのか。
彼女がしどろもどろになっている。

「何・・と言われても・・。その・・そうですね。まだ結婚は考えられないんです。弁護士になって2年目で、まだまだ勉強したいこともありますし。」
「結婚しても、続けられるんじゃねぇの?」
「えっ?」
「結婚しても、仕事を続ければ問題ねぇんじゃねぇの?」

俺の提案は思いもかけないことだったのか、彼女はしばらくポカンとし、それから、我に返った。

「いえ。その・・本当に、今、そういう余裕がないんです。翌日の裁判に備えて、晩ご飯も適当に済ませてしまうことも多いし、お掃除も、1週間まとめてしているような状態で。とても、家庭を持つような時間的余裕はないんです。」
「食事や掃除は問題ねぇよ。うちにはシェフとメイドがいるからな。」
「はぁ??」

俺からすると、彼女の言っていることは、全くもって理由にならないことばかりだ。
何が、結婚の足かせになっているのか訳が分かんねぇ。

キョトンとしている彼女に向かい、畳み掛けるように言ってやる。

「むしろ、俺と結婚した方が、生活、楽になるんじゃねぇの?」


・・
・・・・。
・・・・・・。

バン!!!


しばらく俺を見つめたまま、呆然としていた彼女だったが、いきなり、思いっきり机を叩いた。


「そーいう問題じゃないでしょう!?生活が楽になる??結婚って、そんな理由でするものじゃないですよねっ!だいたい、好きでもない人と結婚なんて、考えられませんっ!!」

そう言い切ってから、急に恥ずかしくなったのか、彼女が頬を赤らめて下を向いた。
そして、下を向いたまま、何やらモゴモゴ言い続けている。

「いや・・だから・・。今、無理に結婚しなくても、いつか、自然に好きになれる人が現れたらいいなって思っているんです。お見合いで、結婚を決めるつもりは無いんです。それに、一生そんな人が現れなかったら、それはそれで、仕方がないかなって思うし。」

「一生独身か?」
「そうですね。そうなるかも知れませんし、誰かに出会うかも知れません。」


つまり・・俺のことは好きじゃない。
好きじゃないから、結婚は考えられない。
そういうことらしい。

俺は一目見たときからこいつのことが気になって仕方ねぇのにな。

真剣に本を読む横顔。
躊躇なく池に入る勇気と優しさ。
掴んだ手の温もり。
バスローブから出た、白くて華奢な手足。
俺の前でも、美味そうに大口開けて食う仕草。

彼女の何もかもに魅かれているという自覚が、俺にはある。
彼女を離したくない、離しちゃいけねぇと、俺の本能が訴えている。

はいそーですか、なんて簡単に引き下がる訳にはいかねぇ。


「いつか自然に好きになれる人が現れたら」という彼女。

けどよ。
それが、俺ってことはねぇのか?
俺のことを好きになればいいんじゃねぇのか?
そうだろ?



「どうすれば、俺を好きになる?」

「え・・?」

「俺たちは今日出会ったばかりだ。それで好きかどうかなんて、判断できねぇよな。けど、これから、お前が俺のことを好きになるかも知れない。」

いや、必ず好きになってもらうが。

「それは・・そうですけど・・・。」

彼女が困った様に、俺を見つめている。


「付き合おうぜ。俺達。」


俺は真剣に、本当に真剣に提案した。
付き合っていくうちに、俺のことを好きになればいい。
それくらいは待ってやる。
そんで、絶対、落として見せる。
俺の気合いは十分だ。

なのに・・

「ええ~っ!!」

さも、あり得ないと言うような、彼女の返事。
だからって、諦めねぇぞ。

「いいだろ?結婚前提のお付き合いってやつ。」
「冗談は止めてください。怒りますよ。今は結婚はする気が無いって言いましたよね。」
「なんだよ。チャンスもくれねぇの?」


なんで、目の前の女にこんなにも食い下がっているのか?
自分で、自分が可笑しくなる。
だけど、俺の本能が叫んでる。

____こいつを逃がしちゃだめだ。


つまり・・俺は・・・。



「どうしてそんなに、私にこだわるんですか?あなたなら・・他にもいくらでも、いるんじゃないんですか?」

「俺は好きな女と結婚したい。」

「はい?」

「好きな女と結婚したい。お前だってそうだろ?」

「そうですけど・・。」

女が首を傾げている。


「お前に、一目惚れって奴だ。」


彼女の瞳が、大きく見開かれる。
何度も何度も瞬きをして、恐らく、息も止まってる。


「お前に惚れた。だから、お前と結婚したい。」


俺は今日、
生まれて初めて、女に告白をした。

そして、その言葉は、
生まれて初めての、プロポーズになった。



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いきなりプロポーズ(笑)。凄い本能だ。
  1. Switch(完)
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『一目惚れ』って・・なんだっけ?


目の前の男性からの突然のプロポーズに、私の思考回路はパンク寸前。

私の記憶が正しければ・・
一目惚れというのは、一目見ただけで、恋に落ちるということ・・


そこでもう一度、目の前の、何故か自信満々な男性の姿をチェックする。

野性的な切れ長の目。
西洋彫刻のように彫りの深い、完璧な美貌。
理由は分からないけれど、何故か圧倒的なオーラを放つ人。

この人が私を?
信じられない・・・。
私、揶揄われているの?

自慢じゃないけど、私は、全くモテるタイプじゃない。
容姿だって、十人並みだし。
この歳になれば、自分のことは客観的に分かるわよ。
だから、こんなことを言われたって、浮き足立ったりしない。

私は大きく息を吸い込んで、それから言ったの。

「とても信じられません。」
「どうしたら、信じてもらえる?」
「どうしたらと言われても・・本気になんてできません。」

目の前の彼が、困った様な顔をしてる。
どうして、あなたが困るのよ。
そんな顔、捨て犬みたいな顔しないでよ。
なんだか・・私が悪いことをしているみたいじゃない・・。

「そんな顔しないで下さい・・。」
「振られる男に同情か?」
「ふっ・・振られる!?」
「そうだろ?」
「違いますっ!そんなことは・・」

目の前の彼の寂しそうな顔。
なんでそうなるの?
この人、本気でプロポーズしたっていうの?
私がそれを断ったから、傷つけちゃったの?
そんな・・私、そんなつもりじゃないのに。
だいたい、私たちは出会ったばかりで、そういうことを考える段階じゃないのに・・。
だから、この人を振ったとかそんなことじゃないんだよ?

あ~!もうっ!

「あの・・お見合いに来たくせに、結婚する気がないなんて、失礼なことを言ってごめんなさい。だけど、お見合いじゃなかったとしても、今日初めて出会った人と結婚の約束なんて、やっぱり私は出来ません。結婚は、好きになった相手と・・と思うから・・。」

「俺のことは、好きになれねぇって、そーいうことか?」
「いや・・その・・そう言っている訳じゃなくて・・」
「じゃあ、好きになるのか?」

そう聞かれて、私も考える。

この人を好きになる?
私が?
私、この人のことどう思っているんだろう?
一緒にいて、苦痛はない。
この人の俺様口調も、案外心地いい。
この人が、優しい人だってことは分かってる。

だけど・・

「あの・・でも・・。私たち、今日出会ったから、お互いのこと何も知りませんよね。お互いを知りもしないで、好きになるかどうかなんて、分からないと思うんです。」
「だったら、付き合おう。互いを知ればいいだろ?」
「その・・意味が分かりません。付き合う・・って、まだ好きになっていない人と付き合えますか?」
「俺は、お前が好きだから、問題ねぇけど?」

うっ。
この人、今、何て言った?
私のことが好き?
好きって言ったの?
嘘でしょう?
こんなにストレートな告白・・初めてだよ。

「でも・・。」
「なんだよ。やっぱり、振るのかよ。」

この人を説得しようとしたら、やっぱり、寂しそうな顔をされた。
私が、この人を傷つけている。
本当に、そんなつもりは無いのに・・。
どうしたらいいの?
どうすれば、彼を傷つけずに済む?


「あのっ、振るとか、そういうことじゃないんです。私たち、まだ、そういう段階じゃないですよね?だから、そっ、そうだ!まずは、お友達になるって言うのはどうですか?お友達として、お互いのことを知れば、あなたのことを好きになるかも・・」

わっ、わたしってば、何言っちゃってんのよっ!
なんて中途半端な事言ってんの!?
でも、ダメなのよ。こういう目をされちゃうと、どうしても強気にいけないの。
うーっ。
もし、好きにならなかったらどうするのよ。
余計に、この人を傷つけちゃうじゃないの。
だいたい、まだ、結婚なんて考えていないのに・・。

思考回路の中を、グルグル迷走している私。

そんな私の言葉を聞いて、目の前の彼が、嬉しそうに笑った。

ドキン・・
あ・・今の顔・・凄く素敵・・・

この顔を見てしまったら、少しくらい流されてしまってもいいような・・そんな気分になってしまう。


「仕方ねぇから、それで手を打つ。」
「お友達から・・でいいの?」
「俺のことを好きになるまで、逃さねぇから。」
「いや、その・・好きになるかどうかは・・わかりませんが・・」
「そんなこと言ってられるのも今のうちだ。覚悟しとけ。」

ぷっ。
なんだか、この人、憎めないなぁ。
勝手に話を進められてるような気がするけど、でも悪い気はしない。
こういう強引なタイプって苦手なはずなのになぁ。

まぁ、いっか。
お友達になるぐらい。
好きになるかどうかは、そこから考えたらいいことだし。
もしかしたら、この人の熱が冷めるかもだし。

「よろしくお願いします。」
思わず、そう言って、笑ってしまった。

「おう。とにかく、食うか。今から、メインとデザート来るからよ。」
「メインっ?」
「肉、いらねぇの?」
「いえ、いります。」
「だろ?」
「デザートも食べます。」
「おう、任せとけ。」

目の前の男性が、楽しそうにどこかへ電話している。


男友達っていうのもいいかも知れない。
いきなり付き合うっていうのはハードルが高いけど、男友達に遠慮する必要なんてないもんね。


それから、私たちは、結構いい雰囲気で、食事を楽しむことが出来た。
私の幼少時からの苦労話なんかを、彼が笑いながら聞いている。
奨学金で大学を出た事とか、バイトの掛け持ち最高5個したとか・・そんな話。
彼はどう見ても、お金で苦労なんてしていないタイプ。
それなのに、私のこと、馬鹿にしたりなんてしないのね。
そんなところにちょっと惹かれた。


食事も終わって、お腹もいっぱいで、時計を見たら、もう、夕方の4時。
コーヒー飲みながら、こんなに話をしていたなんて・・
また会いたいなって、素直にそう思った。


「夜は仕事あんだよな。」
そう言って、面倒くさそうにしている彼が、なんだか可愛い。

それから、胸ポケットから名刺を取り出し、そこへボールペンで何か書き込んでいる。

「俺の連絡先。」
「あっ、じゃあ、私も。」

私も慌てて、バッグから名刺入れを取り出した。

お互いに名刺を交換する。

そして、その名刺に視線を落とした。


え・・・?
・・・・?
なに・・これ・・?


そこに印刷されていた文字を見て、私の思考回路は完全に停止。
名刺を持った手が震えて、一気に冷たくなる。


だって・・
だって、そこに書かれていたのは・・


【道明寺ホールディングス 副社長 道明寺司】



知っているようで、全く知らない人物の名前。

私は、声を出すことも、その名刺から視線を逸らすこともできなくなった。



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正体をしれっと暴露。大丈夫でしょうか・・?
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