花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

今日の仕事にひとまずの目途がつき、彼はニューヨーク本社ビル51階の窓から夜景を眺めた。
観光名所としても名高いマンハッタンの夜景を、この場から眺めることができるのはごく一部の限られた人間のみだ。しかし、多くの人々を魅了すると言われるその美しい輝きも、彼に特別な感慨も抱かせることはない。ただ、そこに景色があるだけで、色付いて見えることはない。極端に言うならば、昼であっても、夜であっても、晴れであっても、雨であっても、彼にとっては、そこに映る景色は同じ色合いなのだ。
灰色・・・彼の心と同じように・・・。
それから彼は、ゆっくりとデスクへ戻り、ノートパソコンを開いた。そして、今でも彼の心を掴んで離さない、ただ一人の女性のためだけに用意された、専用のフォームからメールの確認を行った。
 

 
『おじ様へ
 
お仕事お疲れ様です。
先日書いていらした、難しいプロジェクトは成功しましたか?
きっと、おじ様のことだから、うまくいったんだろうな。
 
私の方は、先日2学期のテストが終わりました。
おじ様が大事だっておっしゃっていた語学は、かなり頑張りましたよ!
テスト結果が出たら、またご報告しますね。
 
もうすぐクリスマスですね。
ニューヨークはとっても寒いと聞いています。
お風邪など召されないように、お体ご自愛くださいね。
 
つくし      』
 

 
他愛もない文面にもかかわらず、彼の表情が緩む。
今の彼にとっては、唯一の楽しみ。至福の時だ。
彼が人間らしい感情を思い出せる、唯一の時間。
 
 

彼の名前は道明寺司。
言わずと知れた、道明寺ホールディングスの後継者で、その経営手腕は、先日のアメリカの大手服飾メーカーの買収を機に、着実に世界に知れ渡ることとなった。
地位も、名誉も、美貌さえも当然であるかのように手にする男。
ただし、まだ若年でもある彼の周りは、彼に取り入ろう、もしくは取り込もうとする、腹黒い人間たちばかりが取り巻いていた。
しかしながら、彼はまた、そういった人間の扱いには慣れたもので、母親譲りの冷徹さを兼ね備え、ビジネスに関しては寸分の隙も与えない男でもあった。
天性のビジネスセンスを持ち、莫大な資産を継ぐ男。彼の周囲には、彼と一晩だけでも共にしたいと虎視眈々と狙いを定めてくる女達が群がることも必然だった。
そしてその美貌。微笑むことなど微塵もないそのクールさもまた彼の魅力となり、彼は年頃の女性たちからの注目を一身に集め、どこぞの令嬢が彼を射止めるかということは、常にニューヨークのゴシップ誌の話題になっていた。
彼自身も当然そのことを自覚していたが、当の彼はそんな女達に興味など示さず、ひたすらにビジネスを極めようと貪欲であった。それもそのはずだ。彼には目標があったのだから。

『自分の初恋の女性をいつか必ず迎えに行く』
それだけが、彼の原動力だったのだ。
 




 
 ***** 
 
「牧野さん。」
高校3年生の牧野つくしは、下校しようと鞄の整理をしていたところで、担任である女教師に呼び止められた。
「すこし、お話があるの。いいかしら?」
 
職員室隣の来客用の部屋へ入ると、そこには英徳学園の学校長が腰を下ろしていた。
「牧野さん、大学は受験しないということですが?」
学校長が話し始めた。
「はい。お恥ずかしながら、うちには大学に通うほどの金銭的な余裕がありません。国立大学を考えてはいるのですが、弟も高校に入りますし、何かと物入りなんです。」
つくしは、正直に説明した。
「この英徳高校でトップレベルの成績である牧野さんが、大学進学をしないことについては、全職員が残念に思っているところです。是非英徳大学に進学してもらいたいと考えています。」
「・・・・。」
つくしは黙ってしまった。自分だって、大学進学は夢ではあるのだ。しかし、現実問題を考えると難しく、就職せざるを得ない状況だった。
「牧野さん、実はあなたに、学費を支援したいというお話があります。」
「えっ?」
「優秀な学生に学費を援助し、将来の日本の発展に寄与してもらいたいと考える企業や団体はたくさんあることは知っていますか?」
「なんとなくは・・。」
「あなたの学校での成績を知り、あなたを援助したいとの申し出がありました。企業によっては、自分の企業に就職するように斡旋するケースもありますが、今回は、純粋に大学の学費の援助をするということです。」
「誰が、そんなこと・・。それに、条件を聞かないことには、話は進められません。」
 
学校長の話す条件とは、とても簡単なもので、週に一度、大学での様子や、成績などをメールで報告すればよいのだという。
本当にそれだけで?
ただより怖いものはない、と実生活の中で学んでいるつくしとしては、考えられないことだった。
匿名の援助なので、支援してくれる相手は分からないが、学校長が言うには英徳学園の出身者であるとのことで、匿名であることもまたこの援助の条件だった。
将来的な就職先についても制限はしないとのことで、では何のために?という疑問を抱かざるを得ない。
そもそも、この英徳学園に援助を必要とするような学生など殆んど存在しないのだが、つくしのように特待生として入学した数名の学生にとっては、英徳大学への進学はかなりな費用を要するため、英徳には進学せず、国立大学を狙う者もいた。学園長としては、優秀な学生を英徳に残すことのできる、このような援助を今後も活用したいのだと言う。
 
「先方は純粋に、未来を担う学生へ投資をしたい。いわばノブレス・オブリージュの精神を体現したいそうです。その対象として牧野さんが選ばれた。どうです?牧野さん、受けてみませんか?」
「では、両親とも相談をして、お返事をさせてもらってもいいですか?」
 
 


つくしは一般家庭の出身で、父は中小企業のサラリーマン、母はスーパーでパートをしていた。3つ年下の弟は現在中学3年生で、高校受験を控えていた。
その夜、両親に援助の件を相談すると、母の千恵子は喜んだ。
「良いお話じゃない。あんた、大学に行きたいんじゃないの?ほら、パパとママじゃ、大学には行かせてあげられないから、そんなお話だったら受けたらどう?」
相変わらずの能天気さだ。玉の輿狙いで、つくしを英徳に無理やり入学させたのも母だった。特待生とは言え、高額な制服や学用品、学生らしくもない修学旅行費用など、予想以上の出費のせいでうちは万年金欠状態なのに・・・と思うつくしであったが、母の思いも理解していたため、文句は言わずに卒業するつもりだった。
「それに、あんた結局、玉の輿には乗れそうにないしね。高校生にもなって、彼氏のひとりもいないなんて。」
「ママ!またそんなこと言って。」
そこへ、つくしの父・春男が口を挟んだ。
「まぁまぁ、つくし。パパは自分が不甲斐ないせいで、つくしが大学に行けないと思うと悔しいんだ。パパのためにも、このお話、受けてみてはどうかな。」


もし、英徳大学を卒業したら・・・いつか、彼ともう一度出会うことができるだろうか。
彼女はそんなことをぼんやりと考えていた。



 

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一応書いておきますが・・・サスペンスではないです・・・。
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  1. My Daddy-Long-Legs(完)
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すみません!
明日に予約投稿していました。。。
昨日は日をまたいで投稿したので…ごめんなさい!

*****




つくしは母の勧めで、英徳学園高等部を外部受験し、見事特待生として合格した。
しかし、入学した学校は異世界で、セレブ家庭出身の学生達の中、自分はただただ息をひそめて、ひたすら勉強に励むだけの日々。特に目立つこともなく、淡々とした学生生活を送ることになった。
中等部からの持ち上がり組が大半の中、外部受験組は数名。元々の生活レベルが異なるため、友人などできるはずもなく、当然のことながら、つくしには英徳学園に一人の友人も存在しなかった。

学生たちは、学生専用のカフェでランチをとる者が殆どであったが、彼女は母が手作りした弁当を持参していた。この学園のランチは高額で、牧野家の経済状態ではとても毎日食べることなどできなかった。その上、カフェで弁当を食べている学生などつくしの他にはおらず、彼女は必然的に、学校の非常階段で弁当を食べるようになった。当然一人で。

そんな彼女が高校2年生になった頃、非常階段の1つ下の階に、自分の他にも学生がいることを知った。何故なら、つくしにはいつも非常階段で独り言を口にしてしまう癖があって、偶然その独り言をその人に聞かれ、大声をで笑われてしまったから。
その学生の名前は、花沢類。つくしより一学年年上で、花沢物産の御曹司だった。今までにも様々な独り言を聞かれていたと教えられた時には、つくしは顔から火が出そうな程に恥ずかしかった。
類は常に非常階段に現れるわけではなかったが、いつの間にか、つくしにとって、非常階段は学園で唯一のオアシスになっていた。つくしは学園で誰とも口をきくことはなかったのだが、ここに来れば、たまに訪れる花沢類と話をすることができたから。元来つくしは活発な少女で、英徳学園に入学していなければ、恐らくたくさんの友人に囲まれた、有意義な学生生活が送れていたはずだった。
花沢類は一風変わった人間で、一緒にいてもつくしばかりが話をしていた。聞いているのか聞いていないのか分からない態度をとりながらも、時々鋭い一言を放つ花沢類。
英徳学園という小さな社会の中には、当然のように両親の職業や資産の額に応じて階級があり、高校生と言えども、皆その腹の内を探り合うような学生生活を送る中で、常に自然体な花沢類の言動は、つくしに高校生らしさを思い出させてくれた。つくしは彼に対して自分を取り繕うようなことはせず、自分が貧乏学生であることは正直に話していたし、そんな彼女を類が揶揄するようなこともなかった。
 


道明寺司は、当時高校3年生だった。
道明寺財閥の後継者として常に注目を集める彼は、何かに飢えていた。多忙を極める両親とは、年に一度彼の誕生日に顔を合わせる程度で、ヨーロッパの宮殿を思わせる広い屋敷には、彼の姉が嫁いでしまってからは、彼一人だけが住んでいた。
少年が当然受けるべき両親からの愛情に満たされず、青年になろうとする時期になっても、その飢えから逃れることができないままでいたのだろう。しかし、彼自身はそのことに気がついてはおらず、常にイライラとした自分の精神状態を持て余し、何かといえば難癖をつけて、喧嘩に明け暮れる日々だった。


彼が牧野つくしの存在を知ったのは、偶然だった。
めったに学校になど顔を出さない司であったが、週末に行われるパーティに一緒に参加するよう打診しようと、友人の花沢類を探していた時だった。ビクビクとしながら、「花沢さんは非常階段だと思います。」と答える学生にイラつきながら、司は非常階段への扉を開けた。
するとそこには、綺麗な黒髪を肩下まで垂らした、生き生きとした瞳をした少女が弁当を広げている姿があった。すぐに踵を返そうとした司であったが、どういう訳か、彼女に話しかけていた。

「類の奴、知らねぇか?」
まともな返事など期待していなかった司。
何故話しかけたのかは、彼にも分かってはいなかっただろう。
まさに本能で、そこに理由などなかったはずだ。
「花沢さん?さっきまで一緒にいたんですけど。また、どこかに眠りに行っちゃったのかな?」
驚いたことに彼女からまともな返事が返ってきた。
それは、彼女と類が知り合いだということに他ならない。
司は反射的に、目の前の女のことを、もっと知りたいという衝動にかられた。

「そうか。それでお前はここで何をしているんだ?」
「何って・・。ここでお弁当を食べているだけですけど・・。」
「類も一緒に?」
あの類が女と弁当を食べるなんて信じられない、と考える司。
「いえ、花沢さんはさっきちょっとだけ現れて。でも、この卵焼きはおいしいって言っていましたよ。」
「卵焼き?」
「知りませんか?花沢さんも知らなかったみたいだな。お坊ちゃんはこういうの食べないの?」
そんなつくしの口調に驚く司。
誰に向かって口を聞いているんだ、という苦々しい気持ちもあったが、それ以上に愉快な気分になった。
「俺にも、くれよ。」
自然とそんな言葉を口にする自分自身に司は心の中で苦笑した。
彼はどうしてそんなことを言い出したのか。
類が食べたのなら、自分も食べたいという負けず嫌いな気持ちだったのか。
それとも、もっと彼女に近づきたかったからなのか。あるいは、その両方か。

「ええ~。さっき花沢さんにも1つあげちゃったから、私のが無くなっちゃうな。でも、ママの卵焼きは絶品だから、おすそ分けしてあげます。」
そう言って、つくしは箸におかずをとって持ち上げた。
司は一瞬なんのことかわからず怯みそうになったが、これを食えということだなと理解ができると、つくしの隣に腰を下ろしてからゆっくりと口を近づけ、一切れの卵焼きを口の中に入れた。
「うまい。」
自然と言葉がでた、次の瞬間、
「もう~、駄目じゃない。こういう時はお箸には口をつけないの!おかずだけとってよね!」
と言って、箸をハンカチで拭いているつくしの姿を司は茫然と見つめてしまった。
「どうしたの?」
とつくしに声をかけられた司は、
「お前、俺の名前知ってるか?」
と尋ねた。
すると彼女は、当然というような口調で返してきた。
「知るわけないでしょ。今日会ったばっかりなんだから。あっ、花沢さんのお友達ですか?」
「まぁ、そうだけど。」
類のことは知っているのに、司のことは知らないという彼女。
自分ことを知らない人間などこの学園に存在しないと思っていた司にとっては衝撃だった。

「花沢さんの友達ってことは、きっとかなりな変わり者ね。あなたも。」
そう言いながら、弁当を片づけ始めるつくし。
その時、午後の授業開始前を知らせる予鈴が鳴り始めた。
「もう行かなくっちゃ。」
彼女はさっと立ち上がり、パンパンとスカートの埃を払った。それから司を振り返り、
「じゃあね。」
と言って、彼を見つめながら微笑んで、階段を駆け上がって扉から消えて行った。
彼女が去って行った後、一人残された司はしばらく動くことはなく、彼女が消えた扉の先をじっと見つめていた。


この英徳学園で、彼におもねることなく接してきた少女。
彼女が彼を見つめた視線は柔らかくて、今まで感じたことのない温かさ。
司は生まれて初めて、全身に血液が巡るような感覚を覚えた。



 

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まずは出会いから・・・。
  1. My Daddy-Long-Legs(完)
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翌日、やはり彼女が気になった司は、昼休みを狙って非常階段に向かった。
ゆっくりと扉を開けると、そこには楽しそうに会話をするつくしと類の姿。
司に気付いた彼女が、「あっ。こんにちは。」と声をかけた。
振り返った類が驚いた顔をしていた。
「司、どうしたの?」
「花沢さん、彼ですよ!さっき話していた人。」
「へぇ。」
何か面白そうな表情の類に少し腹を立てながら、司はズカズカと二人に近づき、類の隣に腰を落ち着けた。

「昨日、お前を探してたんだよ。」
「ああ、昼から帰ったから。何か用だった?」
「いや、急ぎじゃねぇけど。静の誕生日パーティーのことでさ。」
「今回は参加するよ。静のエスコート頼まれてる。」
「マジかよ。あきらと総二郎も女連れらしいし。」
「別にパートナー必須じゃないでしょ。」
「あいつらが女連れてくるとややこしいんだよ。」
つくしは弁当を食べながら、彼らの話を聞くともなく聞いていた。すると、ふいに花沢類がつくしに視線を流した。
「ん?」
怪訝な表情のつくしを無視して、
「司は牧野を連れていけばいいんじゃない?」
などと言い出した。
「はぁ?牧野ってこいつか?」
「ちょっと!失礼ですね!」
「牧野を連れていけば、女除けにはなるでしょ。」
「花沢さん!いい加減にしてください!」
つくしは、いい加減なことをいう花沢類に対して、ひどく怒っていた。
司は、女性同伴など考えてもいなかったが、これほどあからさまに自分を拒否されるのも腹立たしい気がした。司の知る女達というのは、司のパートナーになりたくて、司に色目を使ったり、媚びたりするような者達ばかりだったのだ。

「そうだな。こいつ、連れて行くわ。」
司は自然とそう口にしていた。
自分の隣に女が並ぶことなどを想像などできないというのに、彼女を自分の隣に立たせたくて仕方なかった。司には、自分のことを拒否するつくしに自分の価値を知らしめてやろうという思いも多少はあったが、本当のところを言えば、そんなことよりも、もっと彼女のことを知りたいと思っていた。
司は、彼女を連れて歩く自分を想像すると、幸せな気持ちになれるような気がした。彼女を知れば、どうして自分がそんな気持ちになるのかが分かると思った。
「はぁ?本当にいい加減にしなさいよ、あんたたち!」
つくしは怒り心頭だった。
すると司はにやりと笑い、
「お前、今週土曜日空けとけよ。パーティーは17時からだ。」
「冗談じゃありません。絶対に行きませんから!」
つくしは、途中までしか食べていない弁当に蓋をして、鼻息も荒く去っていったのだった。




「・・・ブッ。ハッ、ハハハハ・・・。」
と同時に笑い出す、司と類。
「類、あいつ誰なんだよ。」 
類を見ながら、司はおかしそうに類を問いただした。
「牧野つくし。高2だよ。」
「お前とはどういう関係?」
「非常階段友達。」
「はぁ?わっかんねぇな。」
「で?司は、本当に牧野を連れて行くの?」
「面白れぇからそうすっかな。」
すると、類は意外そうな目をして司を見た。
この幼なじみが女どころか、人間嫌いで、誰のことも信用していないことは知っていた。その司が、見知らぬ女を同伴するというのだ。
「一応忠告しておくけど、牧野、庶民だから。」
「庶民?」
「高校からの外部入学者だよ。一般家庭の出身。」
「へぇ。ま、その方が面倒くさくねぇか。」
下手に上流階級の女を同伴したりすれば、すぐに週刊誌ネタになるだろうし、その伝手をたどって、彼にビジネスの橋渡しを頼んでくる輩が増える。彼にとっては、何をするにも面倒な世界に生きているのだ。その点、一般家庭出身の女は、そんな駆け引きを必要としないだろう。道明寺財閥の御曹司としてではなく、ただ一人の男として、彼を見てくれるのではないか。実際に彼女は、彼が「道明寺司」であることを知らないぐらいなのだから。司は、彼女には彼が「道明寺司」であることを知られなくてもいいとさえ思った。





藤堂静はつくしよりも3つ年上で、藤堂商事の社長令嬢であり、才色兼備のお嬢様だった。パリコレにも出場経験を持つほどの美貌の持ち主。そんな彼女は、海外ボランティアに積極的に参加したり、モデルとしてのギャラはすべて寄付をしたりしていることも有名で、ひそかに、つくしの憧れの人でもあった。
そんな人のお誕生日会って、どんなだろうな・・・そんな憧れや興味もあったが、もちろんつくしはパーティに行く気などさらさらなかった。
学校では同級生たちが、どこぞのパーティーに行ったとか、有名ブランドの最新作のドレスを購入したとか、そんなことを話ているのは聞こえてきたが、所詮自分には縁のないことなのだと思っていた。


パーティー当日の土曜日。つくしは朝から団子屋でのバイトの予定で、バイト先に向かっていた。すると、見たこともない黒く大きな車が団子屋の前に停車している。お客さんかな?と思ってつくしが脇を通り過ぎようとした時に、車から男性が降りてきた。
「あれ?あんた。」
と驚いた様子で司を見るつくし。降りてきたのは、類の友人だと言った男性だった。
「司だ。」
「司さん?」
「おう。行くぞ。」
それだけ言って、つくしの腕をつかむ司。
「行くぞって何よ。ちょっと、離しなさいよ!あたし、これからバイトなんだから!」
「女将に話は付けてある。」
司はグイグイと彼女の腕を引っ張った。
「何言ってんのよ!は~な~せ~!」
と腕をつかむ司の手を引き剥がそうとするつくし。
しかし、男の力に敵うはずもなく、あれよあれよという間に、つくしは黒塗りの車に押し込まれた。

「つくしちゃんのバイト代は時給850円ですから~。」
という女将の呑気な声が遠くから聞こえてきた。
 


 

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昨日は投稿ミスでご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。
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連れてこられたのは、お城?と見間違うほどの立派なお屋敷だった。つくしは、大きく口を開けたまま玄関前に棒立ちになってしまっていた。
「早く入れよ。」
司に斜め上から見下ろされて、つくしはますます不安になった。
「パーティ、本当に行くの?」
「あったりめぇだろ。」
さも当然とでも言うような、司の態度。
「無理だよ。それにあんた、あたしのこと知ってるの?」
「牧野つくしだろ。調べた。」
司は、つくしのことをある程度調べていた。だからこそ、バイト先に先回りしていたのだ。
類が言ったように一般家庭出身で、英徳の特待生。牧野家は、司が想像もできないほどに貧しいようだ。
ついでに、洋服のサイズから靴のサイズまで調べさせていたのだから、金持ちのすることは計り知れなかったが、そのことについてはさすがの司も触れなかった。

「だったらわかるでしょ。パーティーって何よ。行ったこともないわよ。」
「ただの誕生日会だよ。緊張するもんでもねぇよ。」
「本当に?嘘ついたら、ただじゃおかないんだからね!」
結局、強引な司に負けて、つくしはパーティーへ同伴することとなった。けれど、つくしの心の隅で少しだけ、藤堂静の誕生日パーティーを見てみたいという気持ちがあったのも嘘ではない。


その後は、つくしにとっては想像を絶する体験。
全身のエステを受け、何故か髪も軽くカットもされ、毛先をふんわりカールされた。それからドレスに袖を通し、用意されたジュエリーを身に着けたつくし。ドレスは幾重にも重なったフリルが可愛らしく、ピンクのグラデーションが美しい、オーガンジー素材のもの。ミニ丈なのに上品で、庶民のつくしでさえ、令嬢に見える。元々線が細く、綺麗な足をしているつくしの魅力が存分に発揮されている。ピンクの色合いも初々しい彼女にはぴったりだった。
鏡の前に立ち、「ほぇ~」と自分の姿に呆けてしまうつくし。しかし、つくしとて年頃の女の子だ。こんな格好をすればうれしくもなる。
鏡の前でクルクル回ってみたり、肩や背中の開き具合を心配そうに確認したりと、落ち着きがない様子の彼女を、司は部屋の入口に寄りかかって、満足そうに見つめた。
ドレスや装飾品は、彼女を連れて行くと決めたときに、彼が自ら選んだもの。
プレゼトなど選んだことなどない司だったが、彼女が喜ぶ表情を見てみたくて、ああでもない、こうでもないと外商達を困らせながら、やっとのこと選んだ品物だった。
目の前の彼女は、彼が思い描いたイメージそのまま。可憐で初々しい。まっすぐで強気な瞳が印象的な彼女だったが、その彼女の瞳がますます輝いて見えた。

「似合ってる。」
そう呟いた司。それは、彼の本心だった。その声に、はっと入口を振り返ったつくし。
いつから見られていたのだろうか?と恥ずかしくなり、頬を染めた。
「このドレス、短すぎない?」
照れ隠しで、彼女は早口になった。
「静の誕生日パーティーなら、モデルなんかも来て華やかだし。完全フォーマルじゃねぇから、これぐらいで丁度いい。」

司は彼女に近づいていき、そばにあったファーストールを彼女に巻いた。
ますます真っ赤になるつくしに、司は思わず微笑んだ。
「いいんじゃね。お嬢に見える。」
つくしが彼を見上げ、少し戸惑いながら、
「イミテーションだけどね。」
と苦笑いをすると、、司は額に青筋を立てて憤慨した。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。この俺がイミテーションなんか使うか。そのネックレスもブレスも、イヤリングも、すべて最高級のダイヤを用意したんだぜ!」
「ええぇぇぇぇ!」
つくしは自分のことを「偽物のお嬢様」と言ったつもりであったのだが、返ってきた返事は予想もつかないもので。
「最高級って・・。やだ、落としちゃったらどうしよう。」
とイヤリングを触って、焦るつくし。
「弁償しろなんて言わねぇから、心配すんな」
不安そうなつくしを安心させようと司は必至になった。このコーディネートに1億円をかけたなどと知れば、きっと彼女はドレスを脱いでしまうに違いない。
金をかければいくらでも高級なものは手に入る。けれど、彼の選んだドレスを身に着けた彼女の嬉しそうな姿は、きっとどんなに金を積んだとしても手に入れられないのだと彼は分かっていた。


しばらく黙っていたつくしだったが、持ち前の前向きな性格からか、はたまた逆で予想をはるかに超える現状にまともな思考回路が働いていなかったのか・・・戸惑いは残るものの、腹をくくったようだった。

「司さん、よろしくお願いします。」
と真面目な表情でお辞儀をするつくし。
「おう、俺がエスコートすんだから、安心しとけ。」
「えっ?エスコートって何?」
つくしにとっては、その言葉は初めて聞くようなものだったのだ。エスコートという言葉は知っているものの、実際にどんな扱いをされるのかは分からなかった。パーティーに参加すること自体が初めてだったし、だいたい、パートナーとは何なのかすら、実のところつくしには分かっていなかった。
「俺が隣にずっと付いていてやるってこと。」
「本当に?」
瞳を大きく開き、司を見上げるつくし。
「良かった~。」
つくしはほぅと息を吐き、緊張した表情を崩した。

そんな彼女の態度に司は胸の高鳴りを自覚した。
生まれてから今まで、司の周りにはモノが溢れていた。
けれど、それらを自分が守りたいと思ったことは一度もなかった。
道明寺財閥ですら、彼の守りたいものではなかった。
けれど、彼女の隣に立って、彼女を見守りたい。
彼女に自分を頼ってもらいたい。



司は彼女をソファーに導き、座らせた。そして、四角い箱を開けて、中からオープントゥのハイヒールを取り出した。彼女の前に身をかがめて、その靴をはかせるために、彼女の足首を持った。
「ちょっ、ちょっと、待って。大丈夫っ。自分で履けるからっ。」
焦りまくるつくしであったが、足首を持たれていては何を抵抗することもできず、されるがままに靴を履かされる。
アンクルストラップのついたハイヒール。きっと、ヒール靴など慣れていないであろう彼女のために、司が短期間で特注させた品物だった。

「素敵・・」
ドレスと同系色で、キラキラと輝くエナメルのハイヒール。
履かされた靴を吸い込まれるように見つめているつくし。
そんな彼女の手を引いて、司は彼女を立ち上がらせた。

「じゃあ、行くか。」
うんと頷くつくしを司が確認して、二人は歩き出した。



 

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この靴はつくしちゃんをどこへ導いてくれるのでしょうね。
  1. My Daddy-Long-Legs(完)
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パーティ会場はすでに人で溢れていた。
司とつくしは一緒に会場に入った。慣れないヒール靴でふらつくつくしに笑いを堪えながら、司が優しくつくしをエスコートしている。つくしは右腕を司の左腕に絡めていたが、実のところ、ふらつく体を支えるため、かなり強い力で彼の腕につかまっている状況だった。そんな状況を微塵も感じさせない、司の身のこなしはさすがとも言える。

「司さん、足がもつれそう。」
司の腕を握りしめて、斜め上にある彼の顔を見上げる彼女。そんなつくしを見おろして、面白そうに微笑んでから、彼は自分の左腕を彼女の腰に回した。それから、彼女の耳元まで口を近づけて、囁いた。その声は低音で、つくしを安心させるような優しい声色。
「俺が支えてるから大丈夫だ。コケさせねぇから安心しろ。」
そんなヒソヒソとしたやり取りも、周りの者たちから見れば、恋人同士の密談のように見える。
女性など同伴したことのない道明寺財閥の御曹司が、見かけたことのない女性を連れて登場した。あの令嬢は誰なのか?周囲は騒然とした雰囲気であったのだが、当のつくしは自分のことで精一杯で周りの空気など読める筈もなかった。
 

「司、ひさしぶり。」
彼らに、藤堂静と類が近づいてきた。
「司、こちらは?」
「牧野つくし。」
その静の質問に類が答えると、静はとても意外そうな目をして、「ふぅん。」と笑った。
他人に興味を抱くことのない類が名前を憶えているなんて・・、と静は思っていた。
「司の彼女なの?」
「いえ!違います!」
つくしが即答した。あからさまに機嫌が悪くなる司に、類は吹きだし、話題を変えてつくしに話しかけた。
「牧野、かわいい。」
「あっ、ありがとうございます。花沢さん。」
つくしが顔を真っ赤にして、答える。
「おい!俺にも礼を言えよ!」
「むっ。ありがとうございますっ!司さん!」
明らかに対応の違うつくしに、司も怒り心頭だ。そんな3人の様子を、静は微笑ましく見つめていた。
すると、次につくしが勢いよくに静に話しかけた。
「あのっ、初めまして。牧野つくしです。20歳のお誕生日おめでとうございます。でも、てっ、手ぶらで来てしまって、なんのプレゼントも持ってきていなくって・・。」
そんなことを言うつくしに、他の3人は笑い出した。
一通り笑った後に、
「気持ちだけでうれしいのよ。ありがとう。つくしちゃんの良さが分かるわ。ゆっくりしていってね。」
と静は言い残して、類と去っていった。

その後ろ姿を眺めながら、つくしが呟く。
「藤堂静さん、綺麗だねぇ。ますます憧れちゃう。」
すると、
「お前と静は違うだろ?」
と司が言った。
「そうだけどっ、そんなにはっきり言わなくたっていいでしょう?」
ちゃんと身の丈をわきまえていますと言わんばかりの表情のつくしに、司は焦った。
司が伝えたかったのは、静が美人で、つくしはそうではないということではなかった。つくしにはつくしにしかない魅力があって、自分はその魅力に惹かれているのだと、そう伝えたかったはずなのに、なかなかうまく表現できなかった。
事実このパーティー会場に入ってから、つくしに多く注がれている男性陣からの視線に司は気付いていた。それでも、司はそんな輩は相手にしていなかった。彼女の魅力は見た目じゃない。その瞳の芯の強さなのだと気づいているのは自分だけだと分かっていたから。
 
「お前さぁ、手ぶらでって、何を持ってくるつもりだったんだよ。」
話を変えるためにわざとあきれ顔をつくって、司はつくしに尋ねた。
「誕生日だったら、やっぱりプレゼントだよね。ほら、手作りクッキーとかさ。あたしは高価なものは買えないけどさ、気持ちは込められるもん。」
「手作りクッキー?!」
思いがけない言葉に心底驚く司。
「あれ?もらったことないの?司さん。口は悪いけど、結構モテそうなのに。可哀想。」
女に可哀想などと言われるとは・・・。普段の司であれば、そんな口をきかれようものならば、半殺しだ。しかし、彼女に対しては不快な気分になることは全くなく、むしろ楽しい気持ちだった。
「じゃ、俺の誕生日には、クッキー持って来いよ。」
「ふふふ。可哀想だから、持って行ってあげるね。」
と二人で笑い合っていた。
あの、道明寺司が女性と笑い合っている・・そんな衝撃の場面に居合わせた人々は声も出せないほどに驚いていた。
 

「ねぇ、あっちにお料理があるよ。行ってみよ。」
「食い過ぎんなよ。」
「だって、もったいないよ。いっぱいあるし。」
慣れない足元でフラフラとしながら皿をとるつくしに、司は横から皿を奪い、
「どれが食いたい?」
と聞く。つくしは目を輝かせて、あれこれと料理を指し示す。「これはなんのお魚だろうね~」「うわっ、これ、フォアグラなの?初めて見た!」などと、ウキウキした様子の彼女に相づちを打ちながら、司が彼女のために料理をとる。そして、皿に盛られた料理を二人で仲良くつまんだ。
「おいしいね~。幸せ。」
そういう彼女の表情は本当に幸せそうで、そんな彼女を見つめる司の表情も幸せそのもの。
「おいしい、おいしい」と喜ぶ彼女をずっと見ていたくて、司は彼女に何度も料理をとってあげた。
幸せそうな二人は互いのことしか見えていないようで、周囲の反応など気にするそぶりも見られない。
 

その時、「司。」と声がかかり、
西門総二郎と美作あきらがそれぞれ女性をエスコートして近づいてきた。
「おう。」
「へぇ、こちらが、つくしちゃん?」
どうやら静から情報を聞いていたあきらが、つくしに話しかけた。
つくしは慌てて口元を抑え、
「牧野つくしです。初めまして。」
と答えた。
「君たち、すっごく目立ってるって分かってる?」
と総二郎。
「えぇ?」
驚くつくしとは対照的に、司は知らんぷりだ。注目されるのはいつものことだったし、つくしと過ごす時間は彼にとってとても幸福な時だったから、今日は誰に見られていても構わなかったのだ。だから、敢えて周囲は無視し、つくしとの時間を楽しんでいた。
「司さん、知ってた?何かおかしかった?もしかして、食べ過ぎ?」
というつくしの発言に、みんな爆笑だ。
「道明寺司が女を連れてるって、注目の的だぜ。」
「どうみょうじ、つかさ?」
不思議そうに呟くつくし。
「そう、こいつ。知らないわけがないだろ?」
「いえ、司さんとしか。司が苗字かと思ってた・・」
その返答に、さらに爆笑が続いた。
「こいつは、道明寺司。道明寺財閥の御曹司。女嫌いで有名なんだぜ。」
「・・・・・。」

つくしは無言になった。道明寺司といえば、噂にきくF4のリーダーだ。友人のいないつくしでも名前だけは知っていた。そして、道明寺司といえば、赤札遊びで生徒を退学に追いやるという人物だと記憶していた。もしや、あたしを退学させる気なの?

つくしは自分がつかんでいた司の左腕を離し、彼をまっすぐに見上げた。
「もしかして・・、もしかして、あたしに赤札を貼るんですか?」
 

しばしの沈黙の後は、割れんばかりの爆笑の渦。何事だとつくしは耳を塞いだ。当の司にしてみれば、道明寺と聞いて、どう驚くかと思えば、赤札と来たもんだ。彼の名前を聞けば媚びを売り、取り入ろうとする女性ばかりを見てきた司にとってはこれ以上に新鮮な反応はなかっただろう。
 
笑いながら、
「そんな気はねぇよ。心配すんな。」
と司は優しく答え、もう一度彼女の手をとった。



 

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