花男の二次小説になります。つかつくonlyです。

With a Happy Ending

相当気合が入っていた俺だったが、翌朝出鼻をくじかれた。
パーティー翌日の新聞は、俺と北村京子の記事であふれ返っていた。 

『道明寺司氏、北村貿易令嬢と交際中!』
『両家公認!婚約発表間近か?!』

出し抜かれた!と思ったのも後の祭り。
俺の女嫌いはマスコミにも周知の事実で、今までは女とパーティーで握手したぐらいで、それほど大きな記事を書かれるようなことはなかったし、書かせなかった。
それなのに、これほどに熱烈な恋人関係と書かれているところをみると、北村サイドが書かせたに違いない。
やられたな。
北村め、このままじゃ済まさねぇぞ。


朝食の時、ちらっとあいつを見ても、特に気にしている様子はねぇ。
お前、俺に恋人がいても気になんねぇの?
少しは気にしろよ。

俺は朝食の間もずっと頭を悩ませていたっつーのに、当のこいつからは全く期待外れな言葉。
「ねぇ、道明寺。昨日の、あの人にお礼がしたいの。連絡とってもらえないかな?」
「あ?」
昨日って、類のことか?
「昨日、助けてもらったから、お礼がしたいなって思って。」
まさか・・、お前、類に惚れたとかねぇよな?
「俺が、伝えとく。」
と言った俺に、
「ええ~。そういうことはちゃんと自分で伝えないとダメ。連絡つけてくれるだけでいいから。そしたら、自分で会いに行ってくるから。」
なに言ってんだ?二人きりで会うつもりかよっ。
「分かった。後で、聞いてみるわ。」
後で、適当に類のやつに言っとくか。
「今じゃだめかな?朝、早すぎる?」
牧野の期待のこもった視線。
ハッと気付く。
類の奴は朝に弱い・・よしっ。

牧野の視線を受けながら、無言でスマホを操作する。
3コールで・・・類の奴が出やがった。ちっ、なんだよっ!

「司、なに?」
「お前、何で出んだよ。」
「自分から電話しておいてなに?」
「・・・あぁ。牧野が、昨日お前に助けてもらったらしくて、礼がしたいとか言ってる。」
「牧野?昨日、変な親父にからまれてた子?」
「ああ。俺のメイドなんだわ。」
「ははーん。なるほどね。」
なるほどって、なんだよ。
「お前も忙しくて、時間ねぇよな。」
俺は適当に話を切り上げようとしたのに、類の奴が、
「今日、司んとこで打ち合わせあるよね。その後なら空いているけど。司んちに行けばいい?」
バカかっ。マンションなんかで会わせるわけねぇだろうがっ。
「類、無理しなくていいぞ。」
「別にいいよ。俺、打ち合わせの後は予定ないから。14時からだったよね、打ち合わせ。」
・・・。確かに今日は花沢との打ち合わせが入っていたと思う。
仕方ねぇ。マンションなんかで二人で会わせるぐらいなら、会社で会わせるか。
「じゃあ、それで頼むわ。」
そう言って、溜息をつきながら電話を切る俺。

牧野に視線を戻すと、期待がこもった視線がいてぇ。
「どうだって?」
「あぁ、今日、類が打ち合わせで会社に来るから、その後ならいいってよ。15時過ぎには終わるから、15時頃に会社に来いよ。」
「会社って、道明寺ホールディングス?」
「それっきゃねぇだろ?」
「いや、なんか緊張するな。」
「受付には伝えとくから、IDカードもらって上がって来いよ。」
「大丈夫かなぁ。」
「大丈夫だろ。なんかあったら、西田に連絡入れろ。」
「うん。でも、ありがとね、連絡してくれて。さて、今日は忙しくなるなぁ。早速準備して、時間休とらなきゃ。タマ先輩にも連絡しておかなきゃだわ。」

準備って、なんだよ。
何をそんなに気合い入れてんだよ。
はぁ。本当にこの女は何にもわかっちゃいねぇ。
俺は、牧野に気付かれないように、小さく息を吐いた。


*****


今回、若手経営者たちが企画するプロジェクトでは、道明寺と花沢がツートップの役割を果たす。もちろん、北村貿易も入っているが、俺たちほどの役割は持たせていない。道明寺と花沢を中心に、その他の多くの企業をまとめていく予定だ。
今日は、今後のスケジュールと引き込む企業の分担を確認した。得意分野が異なる2社だったから、それほど揉めるようなこともなかったが、結局終わった時には、15時半を過ぎていた。

類と握手をし、そのまま俺の執務室へ移動した。
その時に、俺は類に尋ねた。
「お前、なんで牧野のこと助けたんだよ。お前って、そういうキャラじゃねーだろ?」
「ぷっ。」
「なんだよ。」
「司、気付いてないの?」
「あ?」
「司、パーティーの時、檀上からずっとあの子のこと見てたよね。」
あぁ?お前、見てたのかよ。
「だから、だよ。」
「はぁ?」
「まさか、司んちのメイドだとは思わなかったけどね。司、あの子のこと気になってるんでしょ。」
くっ、くっ、くっ、と類が笑った。

まさか、類にそんなことを言われるとは・・。
けど、類は個人的に牧野に興味があったってわけじゃねーんだな。
俺は少し、ほっとした。

「司が女に興味を示すなんて、珍しいじゃん。これは、見逃せないでしょ。」
類がいたずらっぽく、俺を見る。
どうやら、俺の気持ちは筒抜けのようだ。


しっかし、類ですら気付く俺の気持ちに、当の牧野は全く気付かねぇって、どんだけあいつは鈍感なんだ。
そんなことを思いながら、俺は牧野が待つ執務室のドアを開けた。


 

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  1. 理想の恋人
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バルコニーで、道明寺と二人きり。
気まずい・・。
「お前、顔色わりぃな。なんかあったか?」
あたしは、さっきの三沢さんを思い出しかけたけど、すぐに頭を振った。
「ううん。大丈夫。なんにもないよ。」
勤めて明るく言ったつもりだったけど、なんだか道明寺が心配そうにこっちを見てる。

本当に、気まずい。
「あっ、あたしも、行くね。仕事中だった。」
そう言って立ち去ろうとしたんだけど、
「俺も疲れてんだから、もう少しここにいろよ。」
とあたしの手首を持って、グラスを持ち上げ、ストローからジュースを飲み始めた。
ひゃっ、こっ、これって、間接キスだよね。
道明寺は気にならないのかな?と思って、ちらっと道明寺を見たけど、
「甘めぇ。」
という、道明寺はいつもの通りで・・。
「甘酸っぱいでしょ?」
そう言い合って、二人でちょっと笑った。

「さっき、類と何話してた?」
「類?」
「あぁ、あいつは俺のダチ。」
「そうなんだ。ちょっと、助けてもらっちゃった。今度お礼がしたいな。道明寺のお友達なら伝えておいてもらえる?」
「ふーん。」
「じゃあ、あたし、そろそろ行くね。道明寺も頑張って。」
小さく手を振って、あたしは道明寺と別れた。




俺は檀上から、ずっとあいつの姿を見ていた。
見るつもりじゃなくても、やたらと視界に入ってくるんだ。
あいつは、今日はメープル社員のスタイルだ。
うちでは髪を1本にまとめているだけだが、今日はしっかりアップにして、襟足全開。
メイクもばっちりしていた。
何気合入れてんだよ!とつっこみそうになった時、あいつがへんな親父にからまれているのが分かった。

おいっ!牧野に触ってんじゃねーよ!
駆け出したかったが、会話の最中で、すぐに動けなかった。
イライラしながら、話しを終わらせ、すぐに壇上を降りても、あいつがいない。

どうなった?

キョロキョロ辺りを見渡すと、あいつがグラスをもって、バルコニーに消えるのが見えて、慌てて追いかけた。

バルコニーには、あいつと類がいて驚いた。
二人が知り合いの訳がない。
類は人嫌いで有名だから、女と会話なんかする訳ねぇのに、あいつと楽しそうに笑っているのを見て、俺はメチャクチャ焦った。

俺のもんだぞ。
手ぇ、出してんじゃねぇよ!


*****


パーティーの後、簡単な打ち合わせを終えて帰宅すると、牧野はもう戻っていた。
「お帰り~、道明寺。お疲れ様。」
そういって、俺の着替えを手伝う。
こいつは、すでにシャワーを浴びたみたいで、スッピンにメイド服姿。
メープルで見かけた姿とはだいぶ違う。
「お前も疲れてんだから、別にメイド服じゃなくてもいいんだぜ。」
そう言ってやると、
「何言ってんの。これも、仕事なんだから、手は抜きません。」

どこまでも俺との関係は仕事だと言い切る女。
こいつときたら、まるで俺に興味がないらしい。
疲れたとか、大変だったとか、少しぐらい俺に甘えてくれてもいいのにな・・なんて思う自分が可笑しい。
俺に媚を売ってくる女はたくさんいるのに、肝心な女からは相手にされていないという現実。
この道明寺司を振り回す女、牧野つくし。
俺はお前の頭の中を覗いてみてぇよ。

じっとこいつを見つめると、
「ん?どうしたの?疲れた?」
とこいつに見つめ返される。
それでも無言で、念力を込めてこいつの目を見つめ続けていると、こいつはちょっと小首を傾げて、
「仕方ないなぁ、飲みすぎだよ。今日は特別。」
と笑いながら、俺のネクタイを外してくれた。
それから、
「早くシャワー浴びてきなよ。飲み物、用意しておくね。」
と言って、脱いだ上着を持って、部屋を出て行った。


はぁぁ・・。
ちくしょう、俺は全くあいつの眼中に入ってないみてぇだ。


チンタラしている場合じゃねぇな。
このまま待っているだけじゃ、あの鈍感女は絶対に俺の気持ちになんて気が付かねぇ。
かと言って、押しまくったところで逆効果ってやつか。
じわじわ追い詰めて行くっきゃねぇな。

牧野、そろそろ覚悟しろよ!
俺は決意を新たに、シャツを脱ぎ捨てた。


 

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この鈍いつくしが困りモノ。
  1. 理想の恋人
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パーティは順調に進行していた。
あたしも、会場内の案内や、指示されたドリンクの運搬などとせっせと仕事をこなしていた。


すると突然、
「牧野君じゃないか。」
と背後から話しかけられた。
どこかで聞いた声だと思って、振り返ると、前の会社の上司の三沢さん。
生島産業も来てたのか・・・。

三沢さんは妻子持ちで、たしか40歳。
でも、家庭生活はうまくいっていないらしくって、仕事でストレス発散しているようなところがあった。
あたしは社会人1年目から三沢さんの下でお世話になっていたんだけれど、2年目ぐらいから、二人きりでする仕事が増えたり、急に手を握られたり、お尻をポンって叩かれたり、そうことが増えた。
おかしいなって思ったけど、最初は我慢してたんだ。
だけど、途中で、やっぱり耐えられなくて、拒否をした。
そうしたら、会社でのそういうことは無くなったんだけれど、今度はアパートの前に来るようになって。
家の中に入ろうとしたり、本当に気持ち悪かった。
あたしが、前の会社を辞めた大きな原因。

あれから、道明寺邸に行っていたり、そのあとは道明寺のマンションに住んでいるから、接触はなくて油断していた。

「へぇ。君、メープルに再就職したんだ。あれから、アパートを訪ねても引っ越ししたみたいだったから、どうしているか心配していたんだよ。」

気持ち悪い。気持ち悪いよ。
あたしはグラスがのったトレーを両手で持っていたから、下手に動くことができなかった。
三沢さんの息がかかる。
吐きそう・・。


その時、
「その子、嫌がってるみだいだけど?」
と声がかかった。
はっと、顔を上げると、背の高い茶髪の男性が隣に来ていた。
「誰だね、君は。」
「誰でもいいでしょ。ほら、行こう。」

そう言って、あたしからトレーを取りあげて、テーブルに置き、あたしの腕を引いて歩き出した。

男性はバルコニーに出ると、あたしの腕を離してくれた。
「あっ、ありがとうございました。」
とお礼を言うと、
「別に・・。ちょっと休んでから戻ったら?」
「いえ、そういう訳には。でも、本当に助かりました。もう大丈夫です。あっ、そうだ、何か飲み物をお持ちしましょうか?」

その人がクスっと笑い、
「じゃ、オレンジジュース、持ってきてもらえる?」
あたしは恥ずかしくって、男性をまっすぐには見れなくて、
「はい、すぐに。」
とバルコニーを後にした。

ジュースを持ってもう一度バルコニー出ると、あの人がバルコニーの柵にもたれていた。
その人にグラスを渡した。
「100%生絞りのジュースです。」
というと、その人は笑って、
「100%じゃないジュースってあるの?」
と聞いてきた。
「ありますよ。10%とか30%とか。」
「へぇ。」
「これは、手絞りですからね。高級オレンジジュースですよ。では、ごゆっくり。」
そう言って、立ち去ろうとしたら、
「これはあんたに。」
そう言って、グラスを返された。
「??」
「あんた、なんか疲れてそうだから、それあげるよ。」
「いや、いえ、勤務中ですからっ。」
そういって断ったんだけれど、その人も強引で、グラスを受け取ろうとはしない。

諦めて、
「じゃぁ、一口だけもらいます。」
そういって、ストローに口をつけると、
「なにこれっ、おいしい!」
思わず疲れも吹っ飛ぶ甘酸っぱさ。
「あんた、面白い。」
そういって、その人がクツクツと笑い出した。
あたしも、思わず声を出して笑ってしまった。


その時、後ろから、
「お前ら、何してんの?」
と低い声がかかった。


振り返ると、そこには不機嫌な表情の道明寺。

「道明寺・・。」
どうしよう、仮にもこの人は、道明寺ホールディングスの日本支社長で、いわば上司なのに。
こんなところでジュース飲んでいる姿を見られちゃうなんて。

あたしがグラスを握りしめて真っ青になっていると、横から、
「働き蟻さんに、ジュースをあげていたところ。」
と男性が言った。

「類、お前こんなところにいたのかよ。お前もちゃんと仕事しろよ。俺は、もうかなり頑張ったから、交代。」
そういって、道明寺は類と呼ばれた男性をバルコニーから追い出した。



 

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  1. 理想の恋人
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牧野が俺付きのメイドになって、もう3か月近くになる。
今の俺たちは、強いて言うならば、ルームメイトって雰囲気だな。
俺は、あいつのことが気になって、気になって、仕方がねぇ。
あの黒い髪を触ってみてぇとか、
あの小さい手を握ってみてぇとか、
あのおしゃべりな口を塞いでみてぇとか、
って、俺、変態か?
中坊でもねーのに、妄想炸裂してしょうがねぇ。
でもよ、若い男女が一つ屋根の下、いや、好きな女が同じ家にいるっつーのは、まぁ、なんだ、いろいろと我慢しなきゃなんねぇことも多いってことが、今の俺の最大の悩み。


こいつが朝からご機嫌だ。
そんなことも、すぐに分かるようになった。
「なんか機嫌いいな。」
出された焼き魚を食べながら、聞いてみると、
「あたしもついに、メープルに行けるの!」
とこいつが嬉しそうに言う。

「あ?聞いてねぇぞ。お前、俺のメイドを辞めるのか?」
「あっ、ちがう、ちがう。まだ修行中だからね。そうじゃないんだけど、今日は、メープルでパーティーが2つ重なって、人手が足りないんだって。だから、あたしもお手伝いに行くの。初めてなんだ~、メープルでの仕事。ああ~、緊張する~。」

修行中ってなんだよ。俺んところで、修行かよ。
俺のメイドが終わったら、メープルに行くってことなのか?
そんなにメープルに行きてぇのかよ。
緊張ってなんだよ、俺の前でこそ緊張だろうがよ。

でも、まぁ、いろいろと突っ込みどころ満載なんだが、
こいつにとっても今やこのマンションが自分の家になっているわけだし、俺は別にこいつに媚びへつらって欲しい訳じゃねぇから、今の状況に不満はない。


俺たちの間にはなんの進展もなく、ただ単に、俺が欲求不満を募らせているだけの状況だ。
牧野は俺のことを、雇い主としか見てねぇのは分かってる。
だからこそ、うかつに手を出せない。
下手に手を出せば、真面目な牧野はメイドを辞めそうだ。
それに、今の関係を崩したくもない。
そんな葛藤があり、俺は現状に甘んじていた。


そういえば、今日は俺も、先日発表された新規事業の発表パーティーがある。俺も含めて、若手の社長や専務たちが合同で行う事業は注目を集めている。
「そういや、俺も夜はパーティーだったな。」
「聞いてるよ。会社から直で行くって聞いたから、西田さんに、パーティー用のスーツ預けるね。あたしが勝手にチョイスしちゃったけど、よかった?」
「あぁ、構わねぇよ。」
こいつは案外センスがいい。コーディネート講座なんかも、学生時代に受けたらしい。そんな講座とってんなよ、とちょっと笑えたけどな。風水なんかも知識があるらしく、勝負どころは赤だなんて、ネクタイ選びも気合が入っているみたいだ。まあ、俺にとっちゃ、そんなことどうでもいいんだけどな。仕事は実力勝負だからよっ。


*****


午前10時にはメープルに集合とのことで、道明寺を見送った後、あたしは慌てて支度をして、マンションを出た。
久しぶりに前に会社にいたときのスーツを着ると、なんだかわくわくした気持ちだった。パンプスは歩きやすいように3cmヒールの黒をチョイスした。


メープルで山崎チーフに再会した。
「牧野さん、頑張っているみたいね。」
と声をかけてもらった。
「はい。少しでもはやく、メープルで働けるように頑張ります。」

あたしの仕事は、玄関フロアでのお客様の誘導だった。
大会場二つが使われるため、間違いなく、お客様を誘導する必要があるとのこと。
これは、初心者の私にもできる仕事だったけれど、トイレやエレベーター、階段の位置などをすべて把握して、何か聞かれたときにはすぐ案内ができるように準備する必要があった。
イヤホンマイクもつけなければならず、慣れていないあたしはてんてこ舞いだ。イヤホンから指示が入ったり、進行具合が報告されたりするのだそう。

だんだんと緊張してきた。
服装は、メープルのフロア担当のスーツに着替えた。
山崎チーフが、お化粧の仕方も教えてくれて、髪はきっちりアップするように指導を受けた。
黒のパンプスはそのままで、黒で履きなれているものであればいいらしい。


開場は17時。スタートは18時だ。
各会場内では、すでに飲み物がセッティングされ、準備万端な様相だった。

17時の段階では、客人はまばらだったのが、17時半にはかなりな人出となり、誘導もある程度大きく声をださなければならないぐらいの混雑になってきた。

1つは政財界の集まりで、年齢層は高め。紳士・淑女も、ドレスアップして来場されていて、堅実な印象のパーティー。
もう一つの会場は、道明寺も来るという事業発表パーティ。どちらかというと、マスコミや若手の企業家、今回の事業に参加する多くの企業の担当者などが出席する、派手な印象のパーティー。

開演5分前になって、正面玄関が一段と騒々しくなった。
駆けつけていたマスコミ各社の焚くフラッシュが眩しい。
イヤホンから聞こえたのは、「道明寺支社長が来場されました」との業務報告。
SPに囲まれていた道明寺をほとんど見ることはできなかったけど、あたしが選んだネクタイは使ってくれているみたいだった。


けど、あいつ、本当にすごいやつなんだ・・
今までだって、別に軽視していた訳じゃないけれど、マンションでみる道明寺は年齢相応に若々しいところもあって、なんとなく近いというか、今では家族のような付き合いになっていたから、こうして、マンションの外でみる道明寺は、妙に大人びていて、遠い世界の人に思えた。

そうだよね。もともと、住む世界が違う人なんだから・・・
あたしは、今更ながら、そんなことを思っていた。


~・~・~・~・~


お客様の誘導が一段落して、落ち着いてきた玄関フロア。
そこからは、二手に分かれて、会場内での案内係になる。
あたしは、道明寺の出席するパーティーの方へ向かった。
すでに開演から30分が経過していて、中では今回のプロジェクトの説明が、道明寺がトップとなり進んでいるところだった。

あいつ、かっこいいじゃん。
そんなことを思いながら、会場内をチェックする。
早くから来られていたお客様の残したグラスなど片づけて歩く。

ふと檀上をみると、きれいな女性と握手を交わす道明寺の姿。
そして、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
何?これ。

マスコミはある程度制限されているため、野次が飛ぶようなことはなかったけど、それでもマスコミがこぞって、二人の写真を収めている。
「明日の朝は、道明寺司と北村京子で決まりだな。」
そんな声が聞こえた。


ふーん。そうなんだ。あいつには、そういう人がいる訳ね。
まあ、お金持ち同志で、お似合いなのかな。
ついつい、ぼーっと二人を見てしまったあたし。
気のせいかも知れないけどけど、道明寺と目があったような気がした。


 

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コメディだったはずなのに、コメディの要素がない・・・。
  1. 理想の恋人
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出張や残業がなければ、俺は基本的に、週末は世田谷の邸に帰ることにしていた。
邸にはジムやプールがあるからだ。
体力維持のために、トレーニングは欠かせない。
ここしばらくは、邸に帰っていなかったが、今週末は久しぶりに邸に戻ることになっている。


金曜日の夜、邸に戻ると、初めて邸で牧野に出迎えられた。
たくさんの使用人やメイドが見守る中、俺の後を付いてくる牧野。
俺の部屋に入って、いつものようにスーツを片付けている。
なんか、照れるな。

着替えを用意したり、バスの準備をしたりと忙しなく動きながら、
「道明寺、何か飲む?先にシャワーする?」
と聞いてくる。
「シャワーするわ。」
「ん。OK。」
そんな会話も最近ではごく当たり前。

他の奴らから見れば、恋人同士、いや夫婦かっつーような会話をしていても、俺たちの間には別に甘い雰囲気がある訳じゃない。
牧野も俺に男を意識しているような様子は微塵もねぇし、俺も牧野を女と意識してる訳じゃねぇ。
だからこそ、俺たちはうまくやっていけているんだと思っている。
俺は、牧野の持つ、この独特な家庭的な雰囲気が好きだ。
この関係を崩したくないと思う。

シャワーから出ると、これまた当たり前のように、牧野がミネラルウォーターを持ってきた。
俺がそれを一気に飲み干す。
これもいつものことだ。


「お前、今日は、こっちに泊まるのか?」
「どうしようかな。こっちにもお部屋はもらっているんだけど、荷物はほとんどマンションだから帰ろうかな。」
おいおい、こんな遅くに、マンションに帰るのかよ。
危ねぇだろうが。

「こっちに泊まれよ。明日も仕事あんだろ?」
「ううん。道明寺が土日にお邸に帰るときは、タマ先輩が仕事を代わってくれるから、あたしはお休みもらえるの。だから、今週末は久しぶりの休日!」
あぁ?
聞いてねぇぞ。

じゃあ、なにか?
明日の朝はお前が俺を起こしに来るんじゃねぇってことか?

「明日は、久しぶりに友達に会うから、すっごく楽しみ!」

なんだよ、俺だってこの週末はちょっとは時間があるんだぜ。
ランチぐらい、いくらでも連れて行ってやる。
そう思って、
「日曜日、どっか、飯食いに行くか?」
と誘ったのに、
「あっ、ごめんね。気を使わせちゃったかな?道明寺も久しぶりにゆっくりできるんでしょ。お邸でリラックスしなよね。」
とつれない返事。

「じゃぁね、道明寺。おやすみ。」
バタン。
と牧野は去って行った。

・・・。
なんだよ。
なんなんだよ。
なんでこんなにイライラするんだよっ。




その週末、俺は、ひたすらジムで走りまくった。
それで、日曜の夜は、早めにマンションに帰ることにした。

エレベーターを降りると、左側の部屋から、慌てて出てきた牧野。
風呂上がりのようで、パジャマ姿に、頭にはタオルを巻いている。
その姿にドキッとする俺。

「えぇ~?帰ってくるなら連絡してよ~。今日はお邸で食事だと思ってたから、何にも準備してないんだから。」

「だったら、お前の携帯番号教えとけよ。」
俺は、照れくさくて、そう切り返し、自分の携帯を牧野に渡した。
「これに入れとけ。」
「ええ~?西田さんに連絡すれば、よかったでしょ。もう~。」
と言いつつも、
「あたしの番号はね、うまい語呂合わせがあるから、あとで教えてあげる。」
といって、自分の携帯に1コール、そして切った。
「ハイ。」
と俺に携帯を戻してくる。
「それ、俺の番号だから、ちゃんと登録しておけよ。そんで、何かあったら、ここに連絡入れろ。」

・・・
牧野は、しばらく、ポカーンとアホ面をしていたが、
その後に、はっと我に返ったようで、
「はいはい、分かりました。で、ご飯は?まだ?あたしだって、今日はoffなんだからねぇ~。簡単なものしか作れないからね!」

そう言って、牧野が用意したメシはオムライスとサラダ。
こいつがメイド服以外の恰好で一緒にメシを食ったのはこれが初めてだった。

こいつの話を聞きながら、昨日会っていた友達っつーのは、小学生の頃からの付き合いの女友達だと聞いて、安心する俺。

牧野の作るオムライスがめちゃくちゃうまくて、俺は思わず、お代わりを催促した。
「へぇ、珍しいね。こういうの好き?それなら、今度トロトロ卵のオムライス作る練習しようかなぁ。」



邸で食うシェフの料理よりも、牧野と食うオムライスの方が断然うまいというこの事実。
牧野が美味そうに食っているだけで、俺も幸せな気分になれるという不思議。
牧野がいない邸よりも、牧野がいるマンションに居たくて、帰ってきちまった俺。
朝は、牧野に起こされねぇとダメだと分かった。


この理由は一つしかないに違いない。
俺は自分の恋心ってやつを認めるしかない。


 

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ふう。司君、やっと自覚。
明日からお話が動いていきます。
  1. 理想の恋人
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翌日からは2泊3日のアジア出張だった。
朝、相変わらずの怪力で起こされたが、その時の呼び名は、「坊ちゃん」ではなくて、「道明寺」。
「道明寺!はやく起きて!飛行機、乗り遅れる!」
俺はちょっとニヤけた顔を見られたくなくて、布団をかぶった。
それを必死にひっぺがそうとしているこの女。
布団の引っ張り合いをしているうちに、手がすべったのか、あいつがベッドから後ろ向きに落ちた。

「痛った~!」
「大丈夫か?」
とっさに布団から出て声をかけた俺に向かって、
「あんたっ、起きてたんじゃないの!」
「今起きたんだよ。」
「まったく~。あのねぇ。あたし、昨日考えたんだけどね。ほら、あたしはメープルの職員で、あんたは雇い主だけどね。でも不当解雇はできないはずだよね。だから、あたしも、もう遠慮しないから。あたしは、あたしなりのやり方で、メイドするからね!」

そういう牧野の真意はわからねぇけど、つまりは、今まで猫をかぶってたってことだよな。
それは分かってたぜ。
お前、気付いてないかも知れねぇけど、考えはいつもダダ漏れだからな。

「いいんじゃねぇの。好きにやれよ。」
そう言った俺に、
「とにかく、まずは、シャワーして、早く服を着なさい!風邪ひくでしょ!」
と捲くし立てやがった。


朝食は、約束どおり、一緒に食べた。
これが、なんとなく照れくさい。
昨日は西田もいたからそんなに気にならなかったが、女と二人で朝食をとるなんて、初めてだった。
俺との食事だっつーのに、メイド服姿の牧野。
俺に向かって、
「残さず、全部食べなさいよ。」
なんて言ってやがる。
俺は、家族と食事した記憶もねぇな。
姉ちゃんと食った頃が最後か。
「あんた、納豆食べないつもりでしょっ!」
と言いながら、勝手に俺の茶碗に納豆をかけている。
本来なら、ぶっ飛ばすべきその行為だが、俺は顔がニヤけて仕方がねぇ。
メイドと友達っつーのも変な関係だが、こいつはタマのように家族に近い関係のように思えた。


仕事は選り好みしないタイプだが、こんな朝があると、仕事に行きたくないような気がする。
そんな自分にちょっと苦笑しながら、
「行ってらっしゃい。」
と手を振られ、俺はマンションを後にした。


*****


3日間のアジア出張も無事に終了し、香港から飛ぶ予定だったが、天候の影響でジェットの離陸が許可されなかった。
予定通りでいけば、夜9時にはマンションに着けるはずだった。
西田が、
「牧野さんに連絡を入れておかないと、夕食の準備をしてしまいますね。」
と携帯を鳴らし始めた。

何度目かのコールの後、牧野が出たらしい。
西田が、今日は夜中になるか、もしくは最悪翌朝の帰宅になると伝えていた。
恐らく、牧野は夜中でも待っているつもりだったんだろう。
西田が、
「それでは、飛行機の時間が決まれば、メールをいれますので。」
と言っていた。

俺はすぐに西田に電話を代わるようにジェスチャーし、電話口に出た。
「牧野か。夜、遅くなるから、待ってなくていい。先に寝とけ。」
「なに言ってんのよ。そんな訳にいかないでしょ。ちゃんと待っとくからね。」
そう言って、電話が切れた。
俺は、顔が緩むのを抑えられない。
自宅に、俺を待っているヤツがいる。
自分に家族ができたような気分だ。

「支社長、顔を引き締めてください。」
あぁ?西田、うるせぇこと言ってんなよっ。



結局、マンションに戻ったのは、夜中の2時。
西田とは駐車場で別れて、ペントハウスへ上昇した。
けれど、エレベーターが開いても、出迎えがない。
部屋の明かりは点いている。

あいつはどこだ?と思いながら、リビングに入ると、リビングのソファにもたれるようにして床に座り込み、眠っている牧野。
「おい、こんなとこで寝んな。」
そう言いながらゆすると、
「んん・・。あれ、道明寺。お帰り。」
そう言って、目をこする牧野に、
「ただいま。」
と返すと、こいつが嬉しそうに笑った。

目を覚まして、俺の着替えを手伝ったり、荷物を片づけたりしている牧野に、
「寝るなら、せめてソファで寝ろよ。」
と言ってやったら、
「さすがに、雇い主のソファでくつろぐ訳にはいかないよ。」
と言う。
案外、律儀で堅い奴だ。


そんなこいつに、翌日、こいつ専用のリラックスチェアを取り寄せた。
届いたチェアがリビングの置かれると、あいつは驚いて、
「こんなど真ん中でくつろげないでしょ!」
と、ちょっと怒ってやがったが、
「でも、まぁ、ありがと。もう気をつかわなくていいからね。」
と微笑んだ。

姉ちゃんとも、タマともちがう、でも家族のようなこの女。
俺にとっては、失いたくない女になっていた。


 

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過去の記事にも拍手やコメントを頂けてうれしいです。
現在は、起承転結でいうと、承ぐらいかなと思います。たぶん・・。
  1. 理想の恋人
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今日は早めに仕事の目途がつき、マンションで夕食をとるつもりだった。
いつものように西田と共にマンションに戻り、地下駐車場で別れようとしたところ、西田も一緒に降りてきた。
「牧野さんに、明日からの出張の説明をしていませんでしたので。」

そんなのメールで済ませればいいんじゃねぇの?と思った俺だったが、深く考えずにエレベーターに乗った。

部屋に着くと、パタパタと足音がする。
牧野が走って出てきた。
「お帰りなさいませ。早かったんですね。西田さん、お待ちしていました!」

ん?西田?
隣を見ると、西田が照れくさそうだ。
なんだ、気持ちわりぃな。

「何だよ。何かあんのか?」
「またまた~。坊ちゃんったら。今日は西田さんのお誕生日でしょ。お夕食、たくさん作ったから、一緒にパーティーしましょっ!」

はぁ~?
何で、俺が西田の誕生日パーティーすんだよ。聞いてねぇぞ。
つーか、お前は何で西田の誕生日なんか知ってんだよ!

「お招き頂き、恐縮です。」
って、西田。俺は呼んでねぇっつーの。

「さっ、坊ちゃん、早く着替えて。西田さんは、こちらへ荷物をどうぞ。」
と牧野がいやに張り切っていた。



テーブルには、完璧にそろえられたテーブルセットが二人分。
「お前、食わねぇの?」
と聞いた俺に、
「メイドが一緒に食べるなんて聞いたことがありません。」
と答える牧野。
だからって、このパーティーを西田と二人でやれっていうのかよ!ふざけんな!

「お前も責任とって、一緒に食えよ。」
やけくそでそう言ってやっただけなのに、牧野がすっげぇ嬉しそうな顔をして、
「坊ちゃん、ありがとうございます!」
と胸の前で両手を合わせて、ぺこりと俺に感謝した。
こいつに、感謝されるなんて、初めてじゃねーの?
俺はちょっと動揺しちまった。


牧野が邸で教わったという、牧野流フレンチディナー。
これが重すぎず、軽すぎず、かなり美味い。
舌が肥えている俺や西田も絶賛した。
牧野は照れて笑い、「お料理が趣味なもんで」なんて謙遜していた。
そういえば、こいつの作る朝食や弁当は、食ったことがねぇもんばっかだったりするけど、どれもこれも美味いんだよな。

シャンパンボトルは特別にこの俺が開けてやった。
「やっぱりこれは男の人の仕事よね~」なんて牧野が呟いていたな。
せっかく俺が開けてやったのに、牧野は酒は飲まなかった。
「仕事中ですから…」
といいながら、俺と西田にはせっせと料理を運んでいた。
結構真面目なヤツなんだよな。


案外和やかに進むディナー。
終盤に、牧野が小さなホールケーキを持ってきた。
「お前、まさかこれ食わせる気か?」
「えっ、はい。実はこのケーキはお邸のシェフに頂いたもので…。だから、絶品ですよ!」

いや、そういうことじゃねぇよ。
じゃなくて・・・
牧野がロウソクを一本立てて、
「じゃあ、坊ちゃん、一緒に歌いましょうか。」

俺に誕生日の歌を歌わせようとする牧野。
「頼む、それだけは勘弁してくれ。」
それで結局、牧野が歌い、俺は拍手をつけ、西田が火を吹き消した。

俺が幼い頃に、少しだけ思い描いたことのある、誕生日パーティー。
自宅のテーブルで小せぇケーキを食うっていう、庶民のパーティー。
それが、現実に目の前にある。
なんで西田だよっ、て事は差し引いても、俺を感動させるには十分で・・。

どんなに盛大なパーティーよりも、俺はきっとこういうパーティーが羨ましかったんだと気がついた。
いくら金を払ったとしても、俺には決して手に入れることのできなかったもの・・。
それを牧野はいとも簡単に出してきた。



思いがけず楽しいディナータイムに、俺は仕事の疲れを忘れていた。
と突然、食後のコーヒーを飲みながら、牧野が言い出した。
「坊ちゃんは、あんまりお友達いないんですか?」
「あ?なんでだよ。」
「ほら、全然お友達を自宅に連れて来たりされないから。」
「今は忙しいから、なかなかプライベートな時間はもてねぇよ。」
「そうですか・・」
なんだか残念そうな牧野。
「なんだよ。」
「だって、ここにいても、お客さんが来ることもないから、お料理を振舞うこともないし、坊ちゃんだっていっつもいないわけだし、お邸にいた方が楽しかったなぁなんて。」

・・・。
俺のところにいるよりも、邸のメイドをしていた方がいいってことかよ。
信じられねぇ。
俺に近づこうとする奴らはたくさんいるというのに、こいつはむしろ俺の近くにいるのは迷惑そうだ。


コホンッ、と西田が咳払いをして、我に返った。
「では、牧野さんが、支社長のお友達になってあげて下さい。」
「ええぇ。無理ですよ。雇い主ですよ。」
「とりあえず、その坊ちゃんという呼び方を直しましょうか。」
「坊ちゃんではおかしかったですか。私もちょっと違和感あったんですけれどね。だって、こんなに図体のデカい男に坊ちゃんって、プププ。」
「おいっ!」
と俺が突っ込みを入れる。
「じゃあ、何がいいかな。支社長?あたし、一応メープルの職員だし?」
「お友達にしては固すぎますね。」
「いやいや、お友達じゃないですから。」


そんな会話をしているこいつらを横目で見ながら、俺は思っていた。
こいつがダチっつーのも悪くねぇな。
今日の食事がすげぇ美味いのは、きっとこいつと一緒に食ってるからだ。
まぁ、西田もいるけどよ。

「好きに呼んでかまわねぇよ。そんで、明日から、食事は一緒に食おうぜ。」
気がつけば俺はそう伝えていた。

牧野は驚いて、デケェ目をさらにデカくしていて、笑えた。



 

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たくさんの拍手ありがとうございます。
寝落ちしそうだったけど、なんとか更新できてホッです。
  1. 理想の恋人
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メイドが牧野に変わり、1週間が過ぎた。

今までは、タマが用意した食事を西田が温めたり、朝も西田が早めに来てリビングで待っていたり、俺が時間になっても起きてこない時には、部屋をノックしたりしていた。だから、牧野が住み込むようになって、西田の業務は劇的に楽になったと言える。
そのせいか、西田にとって牧野は最重要人物人のようで、よく電話口でペコペコしているのを目撃するし、毎朝牧野に感謝の言葉を伝えている。
メイドなんかに、気を使うことねぇっつーのによっ。


俺はだいたい朝8時から9時に出社し、夜は早くて7時、遅ければ0時過ぎ過ぎとまちまちだ。
会食があれば、食事を摂って帰ることも多いし、常にマンションで食事をするわけでもない。
だから、俺がマンションで夕食をとったのも1週間のうちで1度だけで、あとは帰宅して、シャワーを浴びて寝るだけだった。
牧野はというと、朝食を準備し、俺が会社へ行った後は部屋の掃除をしてから、昼までには世田谷の邸に戻っているらしい。邸で仕事をして、また夕食や朝食の下ごしらえを持たされて、このマンションに戻ってくるの繰り返しのようだ。

俺が帰る時間は、西田から連絡を受けているようで、帰宅すると必ず牧野が出迎えるという生活に慣れてきた。
始めはそのうち適当に追い出すかと思ってもいたが、案外こいつとの生活は気を使わず楽だった。タマってわけじゃねぇけど、なんでも言いやすかったし、牧野も淡々と仕事をこなし、終わればすぐに部屋に戻っていく生活で、互いに必要以上に交流をもつこともなかった。


が、朝だけは特別で、牧野は容赦なく俺を叩き起こし、俺を朝食の席に着かせた。
「朝食が一日の活力を生む」らしい・・。
初日こそ、俺にのしかかられていたが、その翌日からは、蹴りやパンチを駆使して俺を起こすようになった。
女とは思えない怪力さで、俺も度胆を抜かれ、最近では朝は自力で起きられるようになっていたが、なんとなくこいつに起こされたくて、朝布団の中で待っていたりする。


今朝も牧野と格闘してから、朝食の席に着いた。
牧野がパンとサラダ、コーヒーを淹れ、卵料理を出してきた。
俺たちが会話するのは、ほとんど朝だけで、夜は俺の着替えなどが終われば、早々に退散している。

そんな牧野が俺に言った。
「坊ちゃん、一度言いたかったこと、今言ってもいいですか?」
「あ?」
「なんで朝食食べないんですか?」
・・・。
「毎日用意しても、食べないなら意味ないです。コーヒーだけなんて、体に良くないよ。晩御飯だって、外食ばっかりみたいだし。」
「昼が会食のこともあるし、朝からガッツリ食えねぇんだよ。」
「会食、会食って、あんたたち、ほんとおかしい。そりゃ、高級料理はおいしいかもしれないけど、毎日そんなの食べてたら、カロリーオーバーで早死にします。」
「だから、仕方ねぇんだっつーの。」
「明日から、朝は和食にして、しっかり食べてもらいます。」
「ああっ?」
俺が驚いて聞き返すと、
「明日から、朝は和食。お昼は会食がない日は、お弁当を持たせます。だから、ちゃんと食べてきて下さい。」
何言ってんだこいつは。
「お前、調子にのんなよ。」
「調子になんかのってないよ。西田さんも心配してたから。お昼も会食以外は食べてないって。だから、西田さんと二人分作るから、ちゃんと持って行って。」
そう言って、俺を睨んでくる。

俺はその話にびびった。
この俺に、手作り弁当を食えという、この女。
どうしたものか、と考え込んでいると、エレベーターが開き、西田が現れた。

「あっ、西田さん。おはようございます。」
「おはようございます。牧野さん。」
なんか西田、ご機嫌だな、と思っていると、
「西田さん、お弁当、用意しておきましたよ~。かなりの自信作です!」
とさっそく西田に弁当を渡している牧野。
それで、俺を見ながら、厭味ったらしく、
「でも、司坊ちゃんは、お弁当はいらないみたいです。西田さんだけでも食べてくださいね。」
と言いやがった。
西田までもが、俺のことを何故か哀れそうに見ている。

なんだよ、その顔は。
ったく、
「いいよ。俺も弁当持っていく。」

すると、二人が表情を崩して、
「さすが道明寺支社長!」
「御英断です。」
ときた。
そんなよいしょ、いらねぇよ。



それから、朝は魚が焼かれて出てきたり、豆腐の味噌汁を飲まされたり、オムレツではなく、卵焼きの中に草?が入ったのを食わされたりと、俺のコーヒーオンリーの朝食は一変した。
昼に会食があるかどうかは西田から牧野に連絡が入っているらしく、会食がなければ必ず弁当を持たされるようになった。

帰宅すると、会話をあまりしてなかった俺たちだったが、このおかずは旨かったとか、これは苦手だとか、米を少なくしろだとか、それはダメだとか、色々と言い合うようになった。
最初は面倒くせぇなと思っていた弁当生活だったが、案外これは名案で、移動時間中でも西田と食えるし、昼間も空いた時間でさっと食事ができるので、食事を飛ばすことがなくなった。
それになにより、手作り弁当なんて食ったことがなかったが、なんとなく残したらわりぃような気がして、必ず食って帰るようになったんだ。



俺は、俗にいう「家庭」というものが、どんなものか知らない。
ガキの頃から、両親とは1年に一度会う程度だったし、家族といえば、姉ぇちゃんとタマぐらいしか思い浮かばない。
でも・・弁当生活が始まって、俺は感じるようになっていた。


家っつうのは、あったけぇもんなんだな
これが、家庭ってもんなのか
こんな生活も悪くなねぇな
なんてことを。


 

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司君、はやくも手作り弁当にやられるの巻。
いつも、応援ありがとうございます!
  1. 理想の恋人
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昨日は衝撃の一日で、夜はあまり眠れないかと思ったけれど、
そこは、あたしの特技なのか、なんだかんだ言いながらも、しっかり荷物の片づけをして、0時には寝てしまった。あはは。

目覚まし時計を6時にセットして、ぴったり丁度に起きた。

お邸からもってきた、パンを温めて、バターを用意する。
サラダを作って、ドレッシングも準備OK。
卵料理は、何でもいいと言われたけれど、好みがよくわからなかったので、プレーンのオムレツにした。

オレンジジュースもあるけれど、コーヒーかな?と思い、コーヒーのドリップを始めると、もう7時前。

8時に迎えが来るって言ってたよね。
あの男、自分で起きてくるのかな?
どうしよう。起こした方がいいのかな?

緊張しながら、部屋をノックするあたし。
でも、全く返事はない。

そーっとドアを開けると、とてつもなく広いベッドの真ん中にあの男が上半身裸で、枕をかかえてうつ伏せに眠っている。
あたしは、近づいて思わず、マジマジと見てしまった。

ひぇ~。
男の人なのに、まつ毛ながっ。
っていうか、この人、肌綺麗だわ。

なんて見ていたけれど、イカン、イカン!
あたしはこいつを起こしに来たんだった。

「坊ちゃん、坊ちゃん、朝ですよ。」
タマ先輩が、『坊ちゃん』って呼んでいたから、あたしも坊ちゃん呼び。

全く起きない・・・。

「坊ちゃん!!朝ですよ!!」
と布団を叩いてみても、全く動かない。

もしや・・・死んでるの?
と思って、あいつの顔に自分の顔を近づけた瞬間、がばっと両肩をつかまれ、ベッドに押し付けられた。

うぎゃー。
恐ろしすぎて、声もでない・・・。

あいつと一瞬目があった気がしたのに、
あいつはそのまま目を閉じて、あたしの上に重なって寝始めた。

おっ、重い~っ。死ぬ~。死ぬ~。

あたしは必至の思いで、手を動かし、あいつの頭を殴った。
『あんたっ、なにすんのよ!!』

ゴインッ!
「あぁっ?いってーな。ふぁぁぁ。」
「って、お前、ここで何やってんだよ。まさか、お前、俺を襲う気か?」
道明寺司が腕をつっぱって、体を離しながら言った。

「ばっ、馬鹿言ってんじゃないわよ~!!
あんたが起きないから、起こしてあげようと思ったら・・・。
あんたがベッドに引きづり込んだんでしょうがっっ!!」

「あぁ。わりぃ。護身術が身に付いてっから、無意識で組み敷いちまったみたいだな。」

わりぃじゃねーよ!
本当に、怖かったんだからねっ。
謝ってすんだら、警察いらないんだから!
あ~、もう、心臓がバクバクするっ。

文句を言おうと思ったけど、ここで揉めてもメープルへの道は遠のくばかり。

「坊ちゃん、朝食の準備はできています。シャワー浴びてきてください。」
とあたしは冷静に言ったんだ。


*****


朝食をとるためにダイニングテーブルにつくと、
「コーヒーは今お持ちした方がいいですか?」
とあの女が聞いてきた。

「あぁ、頼む。」
「はい。」

ふーん。まともに仕事できんじゃねーか。
コーヒーをサーブしながら、女が口を開いた。
「すごいですよね。このお部屋。今朝も、コンシェルジュから連絡があって、新聞をとどけてくれたんですよ。急に電話が鳴るからびっくりしました。」

・・・
別に俺にとってはどぉってことない話だが。
「それぐらい、当然だろう。」

女が俺を見ながら、呆れ顔になった。
「そういうのを当たり前っていうのはどうかと思うわ。少しは感謝したほうがいいと思うけど?そりゃ、お金払ってサービス受けているのかも知れないけど・・」

あぁ?この俺に向かって、今なんつった?
なんだよ、その顔は。
まさか、俺を哀れんでんのか?
こいつ、調子に乗ってんのか??


その時、ポーンとエレベーターが到着し、秘書の西田が入ってきた。
「支社長、おはようございます。」
「牧野さん、おはようございます。支社長が迷惑をおかけしていませんか?」

なんだよっ、西田。俺が、なんの迷惑かけんだよっ。
「いえいえ、迷惑だなんて。仕事ですから。」

・・・
なんだよ、その態度はよ。

正直、俺はモテる。
黙っていても、女がすり寄ってくる。
それなのに、こいつの態度はなんだよ。

なんとなく、気に入らねぇと思いつつ見ていると、
隣で西田が名刺を出し、牧野が受け取っている。
「支社長の予定の変更など、連絡を入れたいですし、その日のスケジュールなど簡単に連絡できるように、電話番号とメールアドレスをお教え願えますか?」

「あっ、はい。」
ごそごそと女が、スカートのポケットを探って、携帯を取り出した。
西田の名刺を見ながら、西田の携帯を鳴らしている。
「アドレスも送っておきますね。」
「助かります。何かあれば、私までご連絡下さい。」
「はい、ありがとうございます。」

おいっ。なんだよ、西田。
お前が、こいつとの連絡係か?
って、そりゃそうか、俺の番号なんて、一般の奴に教えることなんてない。
俺の連絡先を知りたがったって、教えてなんかやらねぇよ。

それでも、なんか、気分が悪い。
俺は、冷めたコーヒーを一気に飲み込んだ。


 

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やっぱり、この朝ネタは私のツボで、どうしても外せませんでした。
ベタでごめんなさい~。
  1. 理想の恋人
  2. / comment:4
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「ええええぇぇぇぇ~~~」
というあたしの絶叫に、道明寺司が言葉をかぶせた。

「お前うるせぇよ。」
耳を塞いで、しかめっ面をしている。

いや、だって、驚くでしょ。
いくら、メイドだからって、男の家に住み込みだよっ。
普通じゃないでしょっ。
ありえないっつーの!

「じゃあ、やめろよ。」
「えっ?」
「嫌なら辞めろ。俺も忙しい、グダグダぬかすやつはいらねぇ。」
そう言って、ソファにふんぞり返り、雑誌をとって読み始めた。

なにそれっ、なにそれっ、むかつく~。
そりゃ、驚くでしょうがっ。
あんた、何様よ~。

こうなったら、やってやるっ!
きっちりやって、はやくメープルに移動になってやる~!!

とこぶしを握りしめたら、

あれっ。
きょろきょろするけれど、タマ先輩がいない。

「タマなら帰ったぞ。」
「ええぇぇ~!」
「だからうるせぇよ!」
「ごっ、ごめんなさい・・・」
タマ先輩ってば、ズルい・・。
なんでよ、もぅ〜。
あたしはどうしようもなくて、仕方なく謝り、食器を片づけるためにキッチンに向かった。


食器をカチャカチャ洗いながら、この状況を思い返した。
あたしの荷物はこのマンションに運ばれちゃっているみたい。
だからって、なんで、ここで住み込みしなきゃなんないの?
仕事なら、通いでだってできるじゃないの。
こんな、横柄な男と同居なんて、できるかっつーの。
いやだなぁ、毎日安らぐ時間もないよ。とほほ・・。


しばらくして、突然道明寺司が話しかけてきた。
すぐ近くの壁に寄りかかって、腕を組んでこっちを見ている。
いつの間にここにいたんだかっ。

「なぁ、お前。」
「牧野つくしです。」
「牧野?」
「はい。」
「そんな、緊張しなくても、残念ながら俺がお前を襲うことはねぇよ。俺に馴れ馴れしくすんじゃねーぞ。仕事だけきっちりこなせ。」

はぁ?なにそれ?
なにが?
残念ながら??
ほんと、自意識過剰のアンポンタン。
お金持ちってみんなこうなのかしら?
ばっかじゃないの?

「あたしも、残念ながら、あなたに全く興味ありませんから。それに言われなくても、仕事はしっかりやります。」
睨みながらそう答えたら、

「そうかよ、そりゃ良かった。」
と鼻で笑われた。

「俺たち、うまくやれそうだな。」
そう言って、自室に立ち去って行った。

なにあいつ~、自意識過剰な傲慢男!
ホント、むかつく~。
自惚れんな!!!

あたしはやけっぱちで道明寺司が寄りかかっていた壁を思い切り蹴った。
けど、イッターイ。
さすが一流の部屋は、ビクともしなかったわ。
ああ、最低・・・。



*****



くっ、くっ、くっ、はははは、くぅ~っ!
笑える。
マジおもしれ~、あの女。
声に出して笑いたいが、あいつに聞こえるな。
ああ、腹いてぇ。

さすが、タマが連れてきただけあるな。
色気もなければ、可愛げもない。
俺に興味がねぇとか言ってやがったが、それはどうか分からねぇけど、馴れ馴れしいやつより、よっぽどマシだ。
確かにあいつは、俺に必要以上に接触してきそうにはねぇな。


俺は女は嫌いだ。
仕事でもプライベートでも、基本、女はそばに置かない。
女たちが俺に媚び諂ったり、香水の匂いをぷんぷんさせていると気分が悪くなる。
俺の第一秘書の西田、第二秘書の斉藤ともに男だ。
秘書課は女が多いが、そいつらと絡むことはまずない。
秘書課の女たちには、俺の執務室に入ることは禁止しているしな。


昨年ニューヨークから帰国して、会社から近いこのマンションに住むようになったが、ここでの身の回りの世話はタマに任せていた。
しかし、さすがにタマも歳をとったのか、最近は毎日の邸からの通いはつらいと言い出した。
タマは邸の管理も任されているから、こっちに泊り込みすることもできないしな。
それでも俺は、他のメイドを付ける気はなかったんだが・・・。


ぷっ。
あの女、自分で思っていることが、独り言で出ちまってることに気付いてねぇな。
俺のことをアンポンタンとか言いやがったな。
そんなことを俺様にいう奴は初めてだ。
面白れぇ。

あの女、メープル所属らしいな。
メープル勤務を希望しているみてぇだが、そう思う通りにはならねぇぜ。
バカめ。
俺をコケにして、メープルなんて行けるわけねぇだろうがよっ。


男嫌いかどうかは知らねぇけど、まあ、しばらく、そばにおいて、様子みるか。
図々しいことをしてきやがったら、速攻叩き出してやる。
女と同居なんてまっぴらごめんだが、仕方ねぇな。


そうして、俺のメイドはタマから牧野つくしに変わった。


 

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  1. 理想の恋人
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