花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

あたしは、ウエストチェスターの道明寺邸に入り、以前に通された司の部屋で彼を待つことになった。

恐る恐る出たスマホから聞こえてきた司の声。
「お前、ニューヨークで何してやがった?」
今まで、一度も聞いたことがないぐらいに低い声。
どれだけ司が怒っているかが伝わって来た。

「ごっ、ごめんなさい。」
そういうだけで精一杯なあたし。
「謝罪は後で聞く。これからのことはそれからだ。邸で待ってろ。」
それだけ言われ、スマホは切られた。

出会ってから今まで、司に本気で怒られたことなんてあっただろうか。
きっと、無かったと思う。
心臓が縮み上がりそうなほどに、恐い声。
当たり前だ。
あたしが司を騙していたんだから。

相手はお父様だし、岡田さんもずっと一緒で、やましいことがあった訳じゃないけれど、ねつ造しようと思えばいくらでも下世話な記事になり得る話だった。
すぐに対処してくださったお母様には頭が上がらない。
変な噂にでもなれば、道明寺の株価に影響する事態になっただろう。

明後日は司の誕生日だと言うのに、もう、お祝いを考えている場合じゃない。
どうすれば許してもらえるのか。
ううん。きっと許してなんてもらえない。

さっきの司の言葉が、耳から離れない。
____謝罪は後で聞く。これからのことはそれからだ。

これからのこと・・・
それは、あたしと離婚するってこと?
あたしたちのこれからは無いってことなの??



***



「オヤジの奴、小賢しいことしやがって。」
いてもたってもいられずに、俺はすぐに手配していたジェットに飛び乗った。
元々、ニューヨーク出張が決まっていたから、ジェットの手配もしてあった。
メールで送られてきた写真は、ある意味ねつ造されたもんだ。
ババァが二人に灸を据えるために撮らせたんだからな。

けどよ、オヤジに肩を抱かれている妻をみれば、やっぱ腹も立つってもんだ。
だいたい、あいつは警戒心が無さすぎる。
これを機に、俺もあいつに灸をすえてやろうと思っていた。
ジェットの中であいつに電話を掛けると、あいつが俺にビビってんのがすぐに分かった。
俺はお前を怒ってなんていねぇよ。
そりゃ、渡米理由が嘘だったり、オヤジの秘書をしていたことはムカつくけど、でも、それだって、俺のためだったって知っている。
あいつは、オヤジに良いようにと言いくるめられちまったんだろう。

あいつがビクビクしている姿を想像して、可哀そうだとは思ったが、あいつにも少しは反省してもらわねぇとな。
邸で待つようにと、それだけを伝え、俺は冷たく電話を切った。


これからのことだが・・
俺はつくしのことを考えて、結婚式までは、つくしをマスコミに公表するつもりはなかった。
発表すれば、道明寺司の妻として、今以上に忙しくなるだろう。だから、せめて結婚式までは少しでも自由にしてやりたかった。
けれど、俺は今回のことで考えを改めていた。
すぐにでも、結婚の発表をして、あいつを世界に知らしめてやる。
仮に、オヤジのパートナーを頼まれたとしても、俺の妻として堂々と出席してほしい。
オヤジにも、調子こいたことしてんじゃねーぞとタンカを切りに行くつもりだった。


ジェットの中でも西田に仕事をさせられて、ヘトヘトになりながらも、俺がニューヨークの邸に着いたのはニューヨーク時間の午後7時。
けれど、つくしの出迎えがねぇ。
まさか、逆切れとかしてんじゃねーだろうな。
あいつが、今回こんなことになった理由は、姉ちゃんからも聞いていた。
あいつは俺のことを想って計画してくれていたのに、それに便乗したオヤジがわりぃんだ。

玄関に出迎えに出てきた執事に、
「つくしはどうした?」
と聞くと、
「お部屋にお声は掛けたのですが・・」
と曖昧な返事。

具合でも悪くなってるのかと、気が気じゃなくなり、俺は部屋に走り込んだ。
シーン。
部屋の中は物音がしない。
シャワールームにもつくしの姿はなく、奥の寝室を覗いてみれば・・
寝てやがる・・

はぁ。ビビらせやがって。
ゆっくりと近づくと、つくしの目には涙の痕。
シーツもまだ濡れているようだった。
ベッドサイドに腰を下ろし、ゆっくりとつくしの髪を撫ぜる。
こんなに泣くぐらいなら、俺にコソコソすんじゃねーよ。
俺はジャケットを脱いで、ベッドに横になり、つくしをそっと抱きしめた。



やっぱ疲れてたんだな。
しばらく眠ってしまったらしい。
はっと気づくと、腕の中に囲っていたはずのつくしがいない。
あせって飛び起きると、リビングのソファにつくしが座っていた。

「つくし?」
と声をかけると、振り返ったつくしの目は虚ろで、顔には表情も無くて。
「つくし、どうした?」
俺は、すっかり怒った振りをしていたことなんて忘れてつくしに寄り添った。

つくしの隣にはキャリーバッグ。
一体どうしたって言うんだよ。

「司・・あたし、本当にごめんなさい。こんなことになるなんて、思ってもいなかったの。」
つくしから聞こえる声は小さくて、とてもいつものつくしとは思えなかった。

「あたし、日本に帰るから。最後に、ちゃんと謝りたくて待ってたの。」

「ちょっと、お前、何言ってんだ?馬鹿か?俺がこっちに来たのに、お前が帰ってどうすんだよ。」
つくしは俺に視線を合わせようとしない。
「おい。」
「本当にごめんなさい。」

つくしは立ち上がって、左手の薬指からマリッジリングを引き抜こうとした。
それに焦って、こいつの手を掴みその行為を止めさえる俺。

「離してよ!」
「離すかよ!」
二人で指輪を巡って、つかみ合い。
俺は自分右手をつくしの左手に絡め、左手でこいつを抱きしめた。



 

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次のアップは今度こそ0時!
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  1. まさかのHappy Birthday
  2. / comment:0
  3. [ edit ]

こんばんは。
Happyendingです。

今日は、たくさんのサイトで司君のお誕生日企画で盛り上がっていますね!!
私も、現在、マッハで執筆中。
なんでこんなにギリギリなんだってことは置いといて・・

先ほどの記事で、次は0時と書きましたが、
第5話を23時
第6話を0時
に投稿します。

理由は・・・書いてみて気付いたのですが、5話で切ると、司君に怒られちゃいそうだから・・・です。

6話でも完結はしていないのですが、その後は、明日中にアップという感じで考えています。
ひとまず、0時まで、あと2話、頑張りまーす。


それから、コメントのお返事など、全くできていなくて、申し訳ありません。
バタバタでして・・・

ではでは~。




  1. お知らせ
  2. / comment:1
  3. [ edit ]

本当に我が夫には呆れる。
夫が、つくしさんを「マキ」に変装させて、同行させようとしていることは、実はつくしさんが渡米する時から分かっていた。

何故かと言えば、結局司から連絡があったから。
「あんまり、つくしをこき使うんじゃねーぞ。」
司も司、母親に対してその態度は何なのか。
しかし、私にはつくしさんを呼び付けた記憶など全くもって無い。

それから、椿から連絡があった。
夫の第一秘書の岡田を絞り上げて、今回の計画を聞き出した。
それで発覚したつくしさんの渡米理由。

本当に道明寺家の男達には呆れたものだわ。
けれど、我が夫がそれほどまでに、秘書とパーティーに参加したかっただなんて。
私のプライドが許さないわ。
つくしさんも、いくら司の誕生日パーティーのためとはいえ、こんな手に引っかかるなんて、まだまだね。

二人には、本当にお灸を据えるしかないわね。


けれど、夫もさすがに道明寺の総帥だったわね。
セキュリティーの高いメープルの部屋を準備し、パーティーもマスコミ対応のないものを選んだようだ。
今までに家族以外の女性をエスコートしたことのない道明寺忍が、秘書とはいえ女性をエスコートすれば、要らぬゴシップネタになる可能性があることは本人も分かっていたのだろう。
マスコミ対策には念を入れていたようだ。
何より、司にバレたら、あの人だって困るでしょうしね。

けれど、甘いわ。
今回は、反省して頂くわ。
私は、自分の腹心、第一秘書の金城に今回二人の写真を撮るように指示した。
金城すらも、総帥の奇行には驚いていたわよ。
本当に恥ずかしいったら無かったわ。

岡田を引き込み、金城とタッグを組ませ、証拠写真は出来上がった。
岡田は夫の腹心であるけれど、道明寺財閥をこよなく愛する男。今回の会長の行動はやりすぎだと判断したようだ。
持ち込まれた写真をみて、開いた口が塞がらなかったわ。
だいたいあのような立食パーティーで、秘書と仲良く食事をとるなんてあり得ない。

つくしさんも、まだまだだわ。
まぁ、結婚したばかりなのだから仕方がないけれど。
道明寺の男達は詰めが甘いのよ。その詰めの甘さを補ってこそ、一人前の道明寺の嫁。
司の手綱は上手く引いてくれているようだけれど、さすがに総帥には言われるがままだったようね。
けれど、これで分かったでしょう?
例え道明寺財閥の総帥と言えども、嫁である自分がしっかりしなければならないと言うことが。

でも、少し懲らしめ過ぎたかしら。
つくしさん、震えていたわね。
でも、私の夫の秘書だなんて、今まで一人も女性秘書を容認したことが無かったのよ。
それを、遊び半分で引き受けてしまうだなんて、私の怒りも当然でしょう?


司には、今回の写真をメールで送るとともに、電話で状況の説明をした。
司すらも、開いた口が塞がらなかったようだ。

「つくしを振り回してんじゃねーぞ!」
そう言って怒り狂っている息子。
「それは、総帥に直接伝えなさい。どうせ、ニューヨークに来る予定だったでしょう。」
「すぐに向かう。」
そう言って、ブツッと電話は切られた。

本当に溜息しか出ないわ。
司は司で、夫につくしさんをとられたことに怒り心頭のようだ。
黙っておくべきだったかしらね・・・


***


「楓・・すまない。」
必死に頭を下げてくる夫。
だけど、私が聞きたいのは、謝罪の言葉じゃなくてよ。

「あなたはそこまでして、秘書の女性とパーティーに出たかったというの?」
「それは・・」

道明寺の総帥ともあろう男がしどろもどろになるのは私の前でだけ。
それが面白くもあるのだけれど・・ここはすぐに許す訳にはいかないわ。

そんな私に、夫からの言葉。
「だけど、元はと言えば、君が悪いんだぞ。」
「なぜ私が。」
「君が司を生んだ後、私は、私の秘書になって欲しいと君に頼んだだろう?」
「けれど、あれはお父様がメープルを任せると言ったから、無理だったわ。」
「私はずっと、君が秘書になってくれるものだと思っていたんだ。」
「今更そんなこと。」
「今でも君と一緒にパーティーにでるのは僕の一番の楽しみだよ。」
「ならば、どうして?」
「でも、司が羨ましかったのさ。秘書として、つくしさんを傍に置いて、パーティーから何からずっと一緒にいられる司がね。私だって、君を秘書として連れ回したかったんだから。私が今まで、いくら優秀であっても女性秘書を雇わなかったのは、別に君がそれを嫌がるからじゃないよ。」
「ええっ?」
「僕の欲しい女性秘書は君だからだ。」
「あなた・・」

「マキさんに会ってみたかったのも本当だよ。それに、勝手ばかりしている司にちょっと意地悪をしてやろうと思ったんだ。」
「・・・」
「それに、あの写真を撮らせたのは、君だろう?どうせ、岡田がしゃべったんだろう。あいつは初めから乗り気じゃなかったからね。」
「分かっていらしたの?」
「僕が道明寺を危険にさらすとでも思うのかい?」
「・・ごめんなさい。私も、つくしさんに嫉妬していたみたいね。」
「なぁ、いつか、君が僕の秘書になってくれないかな。」

そんな子供じみたことを言う夫。
けれど、その望みは、きっと本物なのだろう。
「司とつくしさんが一人前になれば、私があなたの秘書になって差し上げてもよろしくてよ。」

そう言ってあげれば、夫が嬉しそうに肩を抱き寄せて来た。

道明寺の男は、どうしようもないほどに単純なのよね。
つくしさん、ごめんなさいね。
虐めすぎてしまったわ。


「あなた。つくしさんを虐めすぎてしまったわ。」
「司がなんとかするさ。心配するな。」

そうね、結局私たちは、道明寺の男たちに惚れてしまったのだものね。


 

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次のアップは午前0時です。
⇒変更して、第5話を23時、第6話を0時にアップします。
  1. まさかのHappy Birthday
  2. / comment:2
  3. [ edit ]

お父様の腕に手をかけて、パーティー会場に入った。
さすがは道明寺財閥総帥の登場に、周囲はどよめいている。
マスコミはシャットアウトされていると聞いているけれど、コレ、本当に大丈夫なの??と心配になる。
もちろん、このパーティーの内容が日本に報道されることは無いと思うけど、司に内緒というだけで、なんだかドキドキだ。

会場内で多くの財界人と挨拶を交わすお父様。
あたしのことは、新しい会長秘書だと説明していた。
あたしも、その紹介に合わせるように、ひたすら笑顔で対応した。

すると、
「ハーイ!シノブ!」
人だかりの向こうから、ジョージ・ウィルソン氏が奥様と一緒にやって来た。
彼は、貿易会社の社長で、以前に日本でお会いしたことがあった。(『理想の恋人25』)
どうやら、あたしのことをひどく買ってくれているらしいということは、お父様からもお母様からも聞いていた。奥様は、お母様のライバルみたいだしね。

「ハイ!ジョージ。」
「シノブ。マキさんと一緒じゃないか!」
「まぁね。年末に息子と結婚したんだけど、今日は特別にお願いして、私のパートナーを務めてくれているんだ。」
「いいねぇ。シノブ。」

そこへ、ウィルソン氏の奥様が、
「あら、あなたったら。でも、こちらが、司さんのお嫁さんなの?カエデが自慢していたお嬢さんなのね。可愛いらしいわ。」
「ありがとうございます。」
あたしはこんな格好でどうかと思ったけれど、一応丁寧に御挨拶。
「結婚式はいつ?」
「4月に予定していますので、ご出席いただけますと嬉しいです。」
「まぁ、うちは昨年盛大に披露したところよ。そちらも、楽しみにしているわ。」
「是非、出席させてもらうよ。」
「ああ、失敗だわ。うちのお嫁さんも連れてきたらよかったわね。きっと華やかになったわ!」
なるほどね・・お母様の気持ちが分かったわ。

ウィルソン氏と別れた後も、右へ左へと移動しては挨拶を繰り返した。
思ったんだけど・・・
お父様って、すごくエスコート上手。
それにすっごく優しい。
初めの印象とは大違い。
司はお母様似だって思ってたけどそうじゃないかも。
お父様の隣にいると、つい司と一緒にいる気分になる。
時々目があうと優しく笑うところとか、本当にそっくりでドキッとしちゃう。
それに、総帥自らがあたしにお料理をとってくれたり、あり得ない気配りが満載で。
いつの間にかあたしは、司と二人でパーティーに出席しているような気安さを感じていた。
それはたぶん、あたしがつくしの姿ではなく、マキの姿であることも影響していたんだと思う。
すっかり、楽しくなってしまい、周りへの警戒心が抜け落ちていた。


パーティーが終わって、お父様と二人でリムジンに乗り込んだ。
あたしをメープルまで送り届けてくれるお父様。
そのお父様が、もう少し飲みたいというものだから、あたし用に用意していただいたスイートルームにご案内した。
ルームサービスを頼み、岡田さんも一緒にワイワイとお酒を楽しんだ。
あたしはあんまり飲めないけど、お父様はザルってやつなのね。
いくら飲んでも酔うことは無いみたい。
深夜になって、お父様と岡田さんは
「いや~、楽しかった。明日もよろしく。」
と言って、帰って行った。
地下駐車場まで見送る間、お父様の手はあたしの肩に置かれていた。

まさか、こんなところを写真に収められているなんて、思ってもみなかった。



それから、数日、マキに変装したあたしは、総帥の秘書として、お父様の仕事に付いて回っていた。
執務室ではコーヒーやお茶を入れたり、出先では、資料の整理をしたり。

お父様は、女性秘書が初めてだと言っては、あたしにあれこれ用事を言いつけて、それは楽しそうにしていた。そんなお父様を見て、あたしも案外楽しくやっていた。夜は岡田さんも交えてメープルの部屋で食事をとることが殆んどだった。さすがにフラフラと、レストランに出入りするのもどうかと思うし、これはこれで良かったの。
けれど、その奇行はすぐにお母様にバレることとなったみたいだ。


総帥の執務室に乗り込んできたお母様。
「これはいったいどういったことかしら!!!」
その目は笑っていない。

会長を横目で見ると、ちょっとだけビビってる?
うそでしょ?笑い話になるって言ってたじゃないのっ!

お母様が手にていた茶封筒を、一気にテーブルにぶちまけた。
そこには・・・たくさんの写真。

パーティーでお父様にエスコートされているマキ。
一緒に立食を楽しむ二人。
一緒にリムジンに乗り込む二人。
一緒にメープルに入る二人。
お父様に肩を抱かれているマキ。
しまいには、メープルの部屋に一緒に入って行く写真まで・・・・

これは・・・いったい・・・
反対側を見ると、岡田さんは直立不動だ。


「いや・・楓。これは・・」
「分かってますわ。つくしさんの変装だと言うことぐらい。」
「マスコミは?」
「すでに、抑えました。」

ほっとするあたし達。

「けれど、一歩間違えばゴシップネタになり、道明寺の経営に影響を与える事態になったのですよ。」
お母様の声に、あたしは震え上がった。


お母様はあたしを見据えて溜息をついた。
「つくしさん、お久しぶり。」
マキの姿で挨拶をしなければいけない、この肩身の狭さ。

「お母様、この度は大変な迷惑をおかけしてしまいました。軽率な行動をお許しください。」
そう言って頭を下げる。

「この写真は、日本の司にも送られています。先ほどすぐ、司がジェットに乗ったようよ。 」
その言葉を聞いて、あたしは目の前が真っ暗になった。


「つくしさんに無理なお願いをしたのは私だよ。」
お父様があたしをかばおうと口を開いたところを、お母様が一喝した。

「そんなことは分かっています。もちろん、総帥であるあなたの方が責任重大ね。けれど、つくしさん。あなたの行動も問題です。司の妻が変装をしているなど、言語道断。今回の件では司も相当呆れているでしょうね。あなた方夫婦の今後については、司にに任せますが、覚悟をされた方がよろしくてよ。」


そんな・・
あたしは・・ただ。
司の誕生日パーティーを開こうと思っただけだったのに。
まさか、こんなことになってしまうなんて。
倒れ込みそうになる足に、ぐっと力を入れて、何とか踏ん張るので精一杯で・・

あたしは、バッグの中で震えている携帯電話をとることもできなかった。



 

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あわわ・・・誕生日なのに、この展開。
そして、次のアップは本日22時予定。
多少前後してしまったらごめんなさい。
  1. まさかのHappy Birthday
  2. / comment:3
  3. [ edit ]

すみません!
15時に2話予約投稿しちゃってました。
電車でチェックして良かった〜〜。
ご連絡ありがとうございます!

*****




「お前さ。本当に一人で大丈夫か?」
「なっ、何が?」
「ニューヨーク。ババァの秘書なんて、結構大変だと思うぜ。」

お父様の計画で、あたしはお母様の指示を受け、ニューヨークメープルの視察に行くと言う名目を背負い、司の誕生日の1週間前からニューヨーク入りすることになった。お父様の仕事との接点なんて、あたしには全く無かったから、この名目しかなかったんだと思う。本来、お父様の秘書なんて、絶対あたしで務まるはずがない。

「だいたい、ババァもババァだよな。なんで、この時期に視察しなきゃなんねぇんだよ。やっぱ、俺から断り入れるか?」
「だっ、だめっ。」
「何でだよ。」
家族で司の誕生日をお祝いするためだよ!
そう叫びたかったけど、言える訳がない。

「だっ、だって。おっ、お母様は、あたしに期待してくれてるんだと思うし。お断りするなんて、そんなことできないよ。」
「だからって、新婚なのに、1週間も離れるんだぞ。耐えらんねぇ。」

ベッドの中。そう言いながらも、司があたしの首筋に顔を埋め、あたしの鎖骨に吸い付いてきた。
「あっ・・ん。だめ・・だよ。あした、早いんだ・・から・・。」
だからって全く止める気なんてない、司の手があたしの胸を揉んできた。
「明日は、うちのジェットで寝て行けばいい。だから、いいだろ?」

そう言って、司がどんどん攻めてくる。
こうなったら、この人は絶対に容赦してくれない。
普段は、甘々なぐらいに甘いのに、この時だけは本当に野獣。
確かに、この人を1週間一人にするなんて、あたしもちょっとだけ心配だよ。
だから、1週間分。
フライト時刻のギリギリまで、あたし達は愛し合った。


翌朝のフライトには、一人で歩くこともできなくて、司に抱きかかえられたまま飛行機に乗ったあたし。
座席に降ろされて、更に名残惜しそうにキスされて、まるで今生の別れかというような扱いで、あたしは日本の地を飛び立った。


***


「ニューヨークで司のお誕生日パーティーするの、楽しみにしていて!」
なんてつくしに言われた時には驚いた。

丁度、ニューヨーク出張が月末に決まっていた。
誕生日は一緒にいられないかも知れないと思っていたから、何ならこいつも秘書として連れて行くかと目論んでいたところで、つくしもニューヨークに行くと聞いた時には嬉しかったが・・
なんで、俺より1週間も早く行く必要があるんだよ!
何でも、ニューヨークメープル視察を兼ねて、ババァと行動を共にするらしい。

あいつは、誕生日ケーキは自分が作って準備するとか、お料理も向こうで教わるからとか、やけに張り切ってやがったけど、俺はそんなのどーだっていい。
俺の家族になってくれたつくしと過ごせるのなら、どんな誕生日だっていいんだ。
はっきり言ってニューヨークで、オヤジやババァに会うことすらも面倒くせぇ。

俺の理想の誕生日は・・・そうだな。
つくしと24時間ベッドで過ごす・・とか。
あいつを俺の召使にして、俺の言うとおりにさせる・・とか。
いやいや、違うな。
どっちかっつーと。
俺はあいつに尽くしたいタイプなんだよな。

俺に24時間甘えて欲しい。
つくしは、結構やせ我慢するタイプだから、普段なかなか我儘を言ってこねぇし。
絶対してくれねぇとは分かっているが、俺は、俺の誕生日に、つくしにトコトン甘えて欲しい。
そして、つくしをトコトン甘えさせてやりてぇ。
あいつにベタベタされてぇな。
24時間俺から離れない・・とか言われてぇ。
あいつの世話を全部やりてぇな。
シャワーで体を洗ったり、俺が選んだ服に着替えさせたり・・。
あいつが甘えてくれたら、俺はいくらでも甘えさせてやるのに。


そんな妄想で頭がいっぱいになっていた俺。
あいつは仕事で甘やかされるのは嫌だろうけど、一発ババァに牽制の電話を入れておくことにした。
ババァめ。俺のつくしを虐めんじゃねーぞ。


***


プライベートジェットから降り立ったニューヨーク。
すぐに迎えに来ていたリムジンに乗り換えて、あたしはニューヨークメープルに移動した。
通されたのは、プレジデンシャルスイートルーム。
驚くほどの広さと、豪華な家具に囲まれたあたし。
しばらくの間、緊張しながら待機していると、お父様付きの秘書「岡田さん」が現れた。

「つくし様。この度は、ご足労を頂きまして。」
「やだ、顔を上げてください。こちらこそ、いろいろとご迷惑なお願いをしてしまったみたいで。」
「いえ、こちらは大丈夫です。それに、会長はこの話が決まってから、この1週間のスケジュールを楽にするために、それはそれは凄まじい働きぶりでして。ですので、この1週間は、わりと楽なスケジュールで会長に同行していただけます。」

楽なスケジュールに同行って、どういうことなのよ?

「あの・・それで、あたしは具体的に何をしたらいいのでしょう?」
「はい。まず、お住まいはこのメープルのお部屋でお願いします。楓社長にも内密にしておりますので、ウエストチェスターのお邸には入れないのです。」
「はい。」
「必要なものは全てこちらに用意をしておりますが、何か足りない物などございましたら、この私にご連絡ください。」
そう言われて、差し出された名刺を受け取った。
会長の第一秘書だよ。この人。

「それから、今晩から早速になりますが、会長と一緒にパーティーに出席していただきます。」
「えっ?パーティーですか?」
「はい。会長は、つくし様と一緒に出席することを殊の外楽しみにされておいでです。」
「それはもちろん、マキの姿でということですよね?」
「もちろんです。まだ、正式に結婚発表前のつくし様を勝手に連れ出したと分かれば、司様が黙ってはいないでしょう。」
「けれど、お父様だって、困るのではないですか?」
「マキさんであれば、楓社長も納得するでしょうし、問題ありません。」
「でも、お母様にも内緒だと聞きましたが。」
「さすがに初めから知っていれば了承はされないでしょうが、そうなってしまえば笑い話になるとふんでいるようですよ、会長は。」
「はぁ。そんなものでしょうか・・」

「少しご休憩いただいて、14時には、メイドをよこします。口の堅いメイドですから、ご心配なく。ドレスもクローゼットに用意しておりますし、あとは、その・・マキさんに変装していただく必要がありますから。私は16時にお迎えに上がります。」
岡田さんが、ちょっと苦笑いしている。
会長秘書も、大変だよねぇ。

「はい、よろしくお願いいたします。」
あたしがそう伝えると、岡田さんは深く頭を下げて退室した。



16時に迎えに来てくれた岡田さんは、あたしの完璧な変装に舌を巻いていた。
「とても、同一人物とは思えません。」

とはいっても、夢美ママのおかげなんだけどね。
今回も久しぶりだから、いろいろとアドバイスはもらってきていた。
それに、手伝いに来てくれたメイドさんも優秀で、かつらが分かりにくいようにヘアアレンジしてくれたりして、至れり尽くせりだったんだ。

それから、道明寺ホールディングス・ニューヨーク本社の地下駐車場で、あたしはお父様と合流した。

お父様ったら、挨拶もそっちのけで、
「これが、マキさんか!!」
と驚きつつも、すごく嬉しそう。
「いやぁ、マキさんとパーティーに参加できるなんて嬉しいよ。司には内緒だけどね。」
ホントだよ。司にバレたら、後で何を言われるか。

「お父様、私、会長秘書なんて無理だと思うんですけど・・」
「なに、心配は要らないさ。司ともパーティーには出席しているだろう?」
「はい。でも・・」

「いや~。私も、女性秘書を同行させるなんて、実は初めてのことでね。ドキドキしているんだよ。よろしくくね。つくしさん。いや違ったか、マキさん。」
この人たちって、人の話は全然聞いてないのよね。

ふぅっと大きく息を吐いた。
「よろしくお願いします。会長。」
あたしも、秘書モードにギアを入れ替えた。



 

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次のアップは15時『まさかのHappy Birthday 3』です。
ちらりと覗いてみてください。
  1. まさかのHappy Birthday
  2. / comment:2
  3. [ edit ]

寮とは思えないぐらいに豪華な部屋を、グルグルと見て回った。
炊飯器も、オーブンレンジも、コーヒーメーカーまである。
コーヒー豆はメープルで初めて飲んだ『ブルーマウンテン』。
こんな高級コーヒー豆がなんでこの場にあるのかな。
廊下の扉を開けると、収納には掃除機が入っているし、洗面所は広いし、洗濯機も最新型で乾燥機能付き。
バスルームを覗くと、シャンプーや石鹸も新品が用意されている。よく見たら、バスタオルも用意してあるし、はっきり言って、ホテルに泊まるような感じだ。

おかしい、おかしいと思いながら、写真を撮っては司さんにLINEで送る。
こんな部屋にあたしが住むなんて何かの間違いだと思う。
しばらくして、既読になっていたけど、返信はなかった。
やっぱり忙しいんだろうな。
初めての一人暮らしがこんなに豪華なお部屋だなんて、なんだか気遅れしちゃうけど、契約書は確認したし、確かに家賃は3万円だった。

『こんなにそろっている部屋なんて、おかしいと思う?総務に聞いてみたけど、この部屋で間違えてないって言うの。本当にここに住んでいいと思う?』
と書いて送った。

それから、ベッドルームに入って、キョロキョロとあたりを見回した。
ん?ん?
ベッドメイキングまでされているってことにも驚くけど、このベッド、シングルサイズじゃない。
恐らく、ダブルサイズって位だと思う。
どうして・・?

あっ、でも、待って?
もしかして、本当は新婚さんが住む予定だった部屋なのかも。
それが、たまたま空いたのかな?
それなら、本当にラッキーだ。

ベッドルーム続きのウォークインクローゼットを開けてみると、さすがにそこには何も入っていなくって、ちょっとホッとした。
新婚さんの持ち物とか残されていたら、びっくりするもんね。

冷蔵庫を覗くと当然のことながら空っぽで、あたしは近くを散歩がてら買い物に出た。
歯ブラシなんかの日常品や、お砂糖とか、お醤油とかの調味料、それからすぐに必要になりそうな飲み物や食材を買って戻った。
重くて、一度では運びきれず、2回に分けて運んだ。
そうするとすでに、時間は17時を回っていて、あたしは慌ててバイトに出かけることになった。


今日は、The Classicで働く最後の日。
この5か月はあっという間で、とても楽しくて、また勉強になった。
一般庶民のあたしが、ホテルの高級Barでウェイトレスとするということは、これから東京メープルで働く上でとっても役立つと思う。
司さんに出会えたのも、このバイトのおかげ。
今までのお礼をしっかり伝えたくて、あたしは持ってきていた手作りクッキーの大きな箱を持って、マンションを後にした。



*****



マッハで仕事をしたとはいえ、全ての業務が終わった時には、すでに23時近かった。
バイトの迎えに行くことは伝えてあるから、絶対にあいつはいるはずだけど、あいつの仕事の最後に立ち合いたかったから、俺は急いで執務室を後にした。
手には、バラの鉢植え。
案外重てぇけど、俺が持ってやるし、これを口実にあいつの部屋に上がり込んでやろうかと思ってる。
そして、「結論」を聞くつもりだ。


最近はBarで飲むことは少なくなっていたが、今日はカウンターのいつもの席に座った。
それに気が付いた牧野が、満面のの笑みを見せた。
ほらな、やっぱり、こいつ俺に惚れてんじゃん。
そう思うと、やっぱりニヤけちまうな。

トコトコとカウンターに戻って来た牧野。
小さな声で、
「今日は飲むの?」
なんて聞いてくる。
こいつは俺とのつきあいをBarの連中には知られたくないらしい。
つっても、きっと臼井にはとっくにバレてると思うぜ?
さっきから見える臼井の横顔は口角が上がってる。

「いや、今日は止めとく。」
「じゃあ、コーヒーにする?」
「あぁ。」

そう言って牧野が奥に消えると、すかさず臼井に話しかけられた。

「牧野さん、今日で最後ですね。こちらは寂しくなります。」
「そうだな。」
「司君は、何か良いことでもありましたか?」
「まぁな。ま、これからが本番って感じだけどな。」
「牧野さんのこと、泣かせないでくださいよ。」
「なんで、お前にそんなこと言われなきゃなんねぇんだよ。まぁ、もちろんそんなことさせねぇけど。」
「はは。このBarで起きたことは全て僕の責任ですからね。一応は。」
「なんかムカつくな。」

臼井の奴。
俺と牧野のキューピットだとでも言いたそうだ。
でも、あながち嘘じゃねぇってとこもムカつくけど。
ガキの頃から知っている臼井は、俺が信用している、数少ない人間の一人だ。
牧野が初めて俺に酒を運んで来た時、いつもの俺だったら、きっと女なんて叩き出していたはずなんだ。今でも思うが、なんであいつなら良かったのか。
それは、臼井が信用しているやつだと思ったからじゃねぇかな。
そんなことは意識もしてなかったが。
そう思えば、やっぱりこいつはキューピットって奴なのか?

「一番初めの時にね、牧野さんが、司君のテーブルにグラスを運んだのは、僕の指示じゃなかったんですよ。」
「あ?」
「もちろん、僕が運ぼうとしたんですよ。でも、牧野さんは仕事が速いから。さっと、司君のいる個室へ持っていってしまった訳です。けど、常々女は入れるなって豪語している司君が、彼女ことは追い出さなかったですからね。僕が多少なりとも協力したのは、その後からですよ。」

臼井が、面白そうに俺を見る。
それはどういうことなんだ。
つまりは、俺たちの出会いは偶然だったってことか。
それとも、出会うべくして出会う運命だったとか。
それで、俺があいつに惚れたのはまさしく本能ってことなのか。

「ですから、それほど感謝いただかなくてもいいですよ。」
ちっ。臼井の奴、恩着せがましいこと言いやがって。
まぁな、昔はこのBarには迷惑かけたからな。
多少は目をつぶってやる。

「今からが本番なんだよ。まだ、油断は出来ねぇ。」
俺がそう言うと、臼井が少し目を大きくして言った。

「ご健闘を祈ります。」

臼井がそう言った後に、牧野がコーヒーを手にして戻って来た。
それから閉店まで、俺は牧野の最後のウェイトレス姿を見つめていた。



 

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ゆっくりペースですみません。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
本日0時より、司君Birthday企画をスタートしています。
次回のアップは本日AM 8時『まさかのHappy Birthday 2』です。
  1. 俺の女
  2. / comment:1
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司くん、Happy Birthday!!!
私の大好きな司くんのお誕生日を記念して、本日から2-3日でこちらのお話を不定期時刻にアップしていきます。
まだ最後まで書ききっていないのですが、予定では・・7~8話じゃないかと思われます。
次回アップする時刻は、記事の最後に記載します。

このお話は、『理想の恋人』のその後です。
読んでいない方ももいらっしゃるかと思いますので、ざっと説明。
『司君のマンションに住み込みメイドとなったつくしちゃん。そのつくしに惚れちゃった司が、つくしを変装させて、マキという秘書に仕立てます。ごちゃごちゃしたけど、ふたりはハッピーエンドで結ばれました。』というお話です。(←ざっとしすぎっ!)

すでにクリスマスに結婚式を挙げて、夫婦となった二人。
その後の初めての司のB.D.がやってきました。
さて・・どうなる??
スタートは、すっとぼけ気味の道明寺パパから・・

***




私の名前は「道明寺忍」。
言わずと知れた、道明寺財閥の総帥だ。

私には強く反論したいことがある。
世の中では、道明寺家は家業にかまけて、子育ては蔑ろにしているなんて言われているが、そうじゃない。椿にも、司にもそれなりの愛情を示してきたはずなんだ。
だが、ニューヨークと日本という距離と時間の差があっては、なかなかその愛情が伝わらないのは当然だろう?
それに、大学生になって、やっとニューヨークに渡って来た司と、いきなり仲良し親子なんてやれるわけがないだろう?
だから、傍目からすれば、私たち親子には壁があるように見えるかも知れないが、実際にはそれほどのわだかまりなど、私たちは持っていないんだ。

昨年のクリスマス、愚息が、ついに結婚した。
クリスマスに二人だけで結婚式をやろうなんて甘いんだよ。
私たちを舐めちゃいけない。
妻の楓だって、黙っているはずがない。
結局、椿も一緒に日本まで押しかけて、二人の結婚式を見守ったさ。
当然だろう、親としては。

そんな私は、少しだけ、司とつくしさんに不満があった。
まずはつくしさんだが、嫁としてこれ以上ない人だと思ってはいるものの、一つ残念なことがあった。
それは何か・・・
是非とも会いたかった「マキさん」に、私は、結局一度も会えなかったのだ!
クリスマスにつくしさんに会った時に、私は恥を忍んで聞いてみたさ。
「私も、〈マキさん〉を見てみたかったな。」とね。
その答えはこうだ。
「もうマキにはならないって、司さんと約束したんです。ですから、もうマキにはなれません。」
司の奴め。
自分だけ、恋人を秘書にして、イチャイチャ楽しみやがって。

そうそう、もう一つの不満は、司にある。
司の奴。私でも置いたことのない「女性秘書」をマキさんにやらせていたと分かった時には、嫉妬で怒り狂いそうだった。
何故かって?
それは楓が、私が女性秘書をつけることを許さなかったからだ。
道明寺に入って、すでに30年以上が経っているが、私は一度も女性秘書をもった経験がなかった。
だけど、一度ぐらい、女性秘書にコーヒーを持ってこられたり、パーティーに同伴させたりしてみたいだろう?
だいたいパーティーは楓か椿だし、彼女たちの都合が悪ければ、一人で参加するしかなかったんだ。
それなのに、司は、つくしさんを「マキさん」という秘書に仕立て上げ、聞くところによると、仕事も同じ執務室で行っていたとか。パーティーにも会食にも、必ずマキさんを連れ歩いていたとか。
何が、ゲイの噂があるだ。アホ息子め。
司が、マキさんを狙っていることなんて、誰に聞かなくても明らかだった。
だから、司がつくしさんを連れて来た時には驚いたなんてもんじゃなかったな。
まぁ、ああいうからくりだったってことには、もっと驚かされたが・・・


そんな時、椿から電話が入った。
「お父様、さっき、つくしちゃんから電話があったの。今度の司の誕生日、家族でお祝いできないかって。丁度その頃に司のニューヨーク出張があるから、その時に皆で集まれないかって。」

その話を聞いて、私はひらめいた!
ここは、人生初の「女性秘書」を経験するチャンスだ。
相手がつくしさんだとすれば、楓が文句を言うこともないだろう。
つくしさんには、「マキ」に変装してもらう。
何て言ったって、ウィルソン氏が絶賛していたマキさんを、私は一度も見たことがないなんて、私のメンツにかかわるだろう?(ウィルソン氏は「理想の恋人25話」でマキと会っています。)

「椿、この件は、もう楓に伝えたのかい?」
「まだですわ、お父様。」
「それなら、あとはこちらで都合をつけるから、つくしさんに私から連絡を入れると伝えてくれ。」
「それは、一応はOKと受け取っていいのかしら。」
「あぁ。31日は必ず空けるよ。」
「良かった。約束よ、お父様。私も絶対参加するから。楽しみにしているわ!」

ヨシっ。
私にもチャンスが到来した。
楓に相談すれば、一発で却下されるから、内緒にしておかなくてはならない。
そうと決まれば、すぐにでもつくしさんに連絡を入れるしかないな。

私は第一秘書の、岡田を呼んだ。
この男は私の腹心だ。
私が何を計画しようとも、完璧にバックアップする男だ。
今回の計画を話すと、初めて岡田が難色を示した。

「楓社長と、司様に知れた日にはまずいことになりますよ、会長。」

何を言うか。
私は、道明寺のトップだぞ。
何があったところで、誰にも文句なんか言わせるものか!



*****



司と結婚式を挙げて、あたしは「道明寺つくし」としての生活を始めていた。
マスコミへの結婚発表はまだだったけど、4月にはニューヨークで披露宴が予定されている。
いろいろあったけど、あたし達は、世田谷のお邸で暮らし始めた。
あたしは、司の秘書とメープルの仕事を続けている。
忙しいけど充実していて、司にも愛されて、あたしは幸せな日々を過ごしていた。

そして、今月末には、司の誕生日が来る。
司は、以前にあたしが西田さんの誕生日パーティーを準備したことを未だに根に持っていて、「なんでお前が西田の誕生日なんか知ってんだよ。」とか「お前がわざわざしてやることなんてねぇのに。」とか文句を言っていた。
たぶん・・だけど。
司もお誕生日ケーキをみんなで囲んで食べたいんじゃないかなっていうのがあたしの予想。
あたしにとっては、初めての司の誕生日。
二人きりっていうのもいいかなと思ったんだけど、あの様子をみたら、きっと家族でお祝いするような誕生日がしたいのかなって考えた。

それに、西田さんにこっそりと確認したところ、どうやらこの月末は司はニューヨーク出張になりそうなんだって。それなら、好都合。あたしも向こうへ行って、椿お姉さんにもロスから来てもらえれば、お父様とお母様の都合が合えば、家族でパーティーができるって気が付いた。

さっそく椿お姉さんに連絡をしたら、どうやらお父様が都合をつけてくれるみたい。
ドキドキしながら、お父様の連絡を待った。


RRRRR・・・

「はい。」
「あぁ、つくしさん。私だ。」
「お父様、先日の結婚式は出席下さりありがとうございました。」
「ははは。それはいいんだけどね。今回の司の誕生日だけど。」
「はい。」
「31日、こっちの邸でパーティーをするっていうことでいいのかな?」
「本当ですか!きっと、司さんも喜びます!」
「うーん。でも、こちらにも条件があるんだよね。」
「え?条件ですか?」
「つくしさん、すこし早めにこっちに来て、私の秘書をしてくれないかな?」

ええ?秘書?
会長秘書なんて、無理でしょう??

「あの・・」
「それが嫌なら、私も誕生日には協力できないな。」
「そんな。」
「それから、秘書はマキさんの恰好でしてね。」

マキっ!?
今更、どうして??

「ほら、私は、マキさんに会ったことがないから。一度会ってみたいんだよ。」

なんで、マキに会う必要があると言うの??

「つくしさんが、マキになって私の秘書をしてくれるって言うんなら、何でも協力してあげるけどね。」

「でも、司さんが、何て言うか。」
「だから、あいつには秘密だよ。」
「ええ~っ!」
「ついでに楓にも秘密だから。」
「お母様にもですかっ!」
「どうする、つくしさん、嫌なら司の誕生日は・・」


「やっ、やります!やります!すぐにニューヨークへ向かいますっ!!」

何がどうなっているのか???
でも、愛する司の誕生日を家族皆で祝うため、あたしはお父様の条件を飲むことにした。
これが、とんだ波乱を引き起こすなんて、そんなことは全く予想をしていなかったんだ。



 

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  1. まさかのHappy Birthday
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ホワイトデーの後から、あたしのバイトの帰りは、必ず司さんが家まで送ってくれるようになった。
司さんは、Barでゆっくり飲むことはなく、あたしのお迎えだけのために来てくれている感じで申し訳ない。
でも、本人がそれでいいって言うし、あたしもやっぱり会いたいと思うから、甘えてしまっている。

普通の恋人同士なら、土日にデートとかするのかもしれないんだけど、年度末と言うこともあり、司さんも仕事が相当忙しいみたい。
いつも、「デートできなくてごめんな。」なんて言って、何かしらのプレゼントを渡そうとする。
あたしにとっては、バイトの迎えに来てくれる、その時間を作ってくれるだけで、本当に嬉しいと思っているのにな。
ブランド物の鞄とか、時計とか、「社会人になったら必要だろ?」なんて言われるけど、そんなの持っていなくたって、社会人にはなれるんだよ、司さん。
だから、あたしはプレゼントは受け取らない。
プレゼントを受け取らないと、司さんはすごく寂しそうな顔をする。だからって、理由もなく受け取る訳にはいかないよ。
「あのさ。こんなプレゼントなんてもらわなくても、会う時間を作ってくれるだけで嬉しいよ。」
そう伝えたら、司さんが目を大きく見開いて、それから嬉しそうに笑って、ゆっくりと唇を重ねて来た。


会う度にキスをする。
それが至極当前のことになっている。
そのキスが、日を追うごとに深くなっていく。
時々、司さんの目が凄く切なそうで、あたしがもっとキスをしてあげたくなる。
そして、司さんのことをもっと知りたいと思うようになった。

あたしは司さんに聞いてみた。
「ねぇ。あたしのどこが好きなの?あたし、何にも持ってないよ?」
そうしたら、司さんが言ったの。
「別にお前から何かもらおうって訳じゃねぇよ。ただ、俺の隣でお前が笑ってくれていたら、それだけで幸せなんだ。どこがっつったら、全部かも知れねぇな。」

そんなすっごい殺し文句を、しれっと口にしてしまう人。
この人は、きっと嘘なんかつく人じゃない。
だから、あたしも自分に素直になろうと思う。

自分で言ったことだけど、お試しなんて必要なかったみたいだ。
あたしは、やっぱり、司さんが好き。
勘違いなんかじゃ・・ない。
これをきちんと伝えなきゃいけないって思ってる。



卒業式が終わり、あっという間に3月も終わりになった。
今日は、3月31日金曜日。
突然、メープルからあたしの元へ連絡が入った。
もう入れないかと思って諦めていた社員寮に入寮できるという連絡で、その手続きにすぐ来て欲しいとのこと。
うわっ、めちゃ嬉しい!
けど、もう今日は31日で、あと残すところは土日しかない。
月曜日には入社式が控えていた。

仕事中だと分かっていたけれど、あたしは司さんにLINEした。
『あたし、社員寮に入ることになったよ。』
すぐに返事なんて無いと思ってたのに、すぐに既読になったかと思ったら、
『良かったな。』
と返事が来た。
今、仕事忙しくないのかなぁ。
『今から、鍵とかもらいに行ってくる。それで、明日、明後日ですぐに引っ越しするね。』
そう書いたら、やっぱりすぐに返事が来た。
『明日の土曜日空けとくから、俺も手伝う。』

ええ~?!
司さんが手伝うって、マジで?
自慢じゃないけど、あたし本当にお金ないから、必要最小限のものしか置かないつもりだし、人手なんて、弟の進だけで十分なんだけど・・

『弟が手伝ってくれるから大丈夫。』
とメールすれば、
『俺に任せろ。』
という返事。

いったい、何を任せると言うのか、ちょっと不安になった。
それでも、一人暮らしができる嬉しさが大きくて、あたしはそんな不安はすぐに忘れて、メープルの総務課へ直行した。夕方からは最後のバイトが入っていたから、お礼のために作ったクッキーも忘れずに持って、自宅を出たんだ。


場所や契約内容を確認して、書類にサインをし、その場で担当者に渡した。
「牧野さんはラッキーだね。今月に入って、急に総合職で社員寮希望の場合には、入寮させるようにという通達があったんだけど、空きがなくて困っていたら、丁度親会社の寮が空いていたからね。」
「親会社ですか?」
「そう。うちの親会社は道明寺ホールディングスだからね。不動産はたくさんあるって訳。」
「なるほど。」
「そこ、かなりいい部屋だよ。良かったね。」
「本当ですか!?」

そんなこんなで、あたしは有頂天。
確かに、あたし以外の新入社員はもっと前に入寮が決まっていたから、あたしはもう入れないんだと思ってた。
よかったぁ。残りものには、福があったのかな。ラッキー!。

書類のやり取りをした後、今から管理人さんが立ち合って案内をしてくれると言うことで、あたしはメープルを出て、指示された寮まで歩いた。
部屋の間取りなんかも確認しなきゃいけないし。
最低限の雑貨とかは買わなくちゃ。
冷蔵庫は絶対に必要だよね。
ベッドは無くても、お布団引いたらいいかなぁ。
月曜日には入社式。
引っ越しはこの土日で終わらせないといけないなんて、本当に急だけど、あぁ、楽しみ。

決定した社員寮の場所はメープルから歩ける距離。
タクシーで、ワンメーターもかからないぐらい。
こんなところに寮なんてあるんだな。
さすが道明寺ホールディングス。
なんて考えながら歩く。

あれぇ?
確かに、ここだと思う住所には、ドデカイ高級マンションがそびえ立っていた。
でも、何度見返しても、マンション名は間違いない。
会社の寮にするにしては、凄すぎない?
本当にあたしが借りるのはここのお部屋なんだろうか?

マンションには、管理人さん?コンシェルジュさん?が常駐しているみたい。
入口のインターフォンを押して、
「あの~。」
と話しかけてみると、
「あぁ、メープルの牧野さんですね。聞いてますよ。ご案内します。」
と言われた。
良かった。間違ってはいないみたい。


指紋認証登録をして、カードキーの使い方も教えてもらい、あたしは6階に案内された。
ここに来るまでの廊下や内装も凄く豪華で、ちょっとあたし、何か間違っちゃった気がするんだけど・・

カードキーで案内先のドアを開けると、
「うわぁ。綺麗。」
ピカピカの廊下、真っ白の壁。
まっすぐに廊下を進むと、そこにはダイニングルーム。
キッチンも広くて使いやすそう。

「ベッドルームはこちらです。」
えぇ?まだ部屋があるの??
そう思いつつ、廊下に戻り、手前の部屋を覗き込むと、そのお部屋には、ベッドやドレッサーが置いてあった。

でも・・あれ?
「あの・・これ・・」
「あぁ、家具は初めからついていますから。」
「そうなんですか!?」
「オーナーが準備したと聞いています。」
「オーナーが・・」
「では、あと不明な点があれば、いつでも呼んでくださいね。電化製品の使い方はすべて、こちらにまとめてありますので。引っ越しの日時が決まればまたご連絡ください。」
そう言って、コンシェルジュさんが出て行った。

電化製品??
慌ててダイニングに戻ると、隣のリビングスペースにはテレビやソファがいてあるし、よく見たら、ダイニングにもテーブルが置いてある。テーブルクロスまでかかっているし・・
まさかと思って、キッチンへ行くと、食器棚には食器が入っていて、システムキッチンの扉を開けると、包丁やまな板、お鍋なんかが全部そろっていた。

うそ・・・でしょう??

これが社員寮な訳ないよ。
あたしは慌てて、メープルの総務課に電話をしてみたけれど、ここで間違っていないのだと言う。
他の同期に聞いてみた方がいいのかな。
それとも、あたしだけラッキーでここに入れちゃったのかな。

これだけ揃っていたら、あとは、仕事で使うデスク用品とか、もともと少ない洋服たちを持ってくるだけで済みそうだ。
それなら、わざわざ司さんに出てきてもらう必要なんて全くない。

『今、寮に来たんだけど、すごく豪華なお部屋で、引っ越し、そんなに手がかからなそう。土曜日は手伝ってくれなくて大丈夫だよ。』
そうメールしておいた。
返事はなかったから、きっと仕事が忙しかったんだと思う。



*****



「おい、西田、まだあんのかよ。」
「ございます。」
「マンション、ちゃんと用意できてんだろうな。」
「ご指示通りに仕上げております。」
「それならいい。」

俺は携帯画面を見ながら、笑いを堪えていた。
あいつからのLINEに次々と部屋の画像がアップされている。
それから、スーパーに買い物に行ったらしい。

今日は牧野のバイトの最終日。
俺は絶対に夜にあいつを迎えに行くと決めている。
花でも用意すっかな。
でも、あいつ、あんまりプレゼントとか喜ばねぇんだよな。
なかなかデートをする時間が取れない代わりに、バイトの迎えは絶対に欠かさない。
俺の本気を示すため、会う度に『好きだ』と伝えている。
総二郎曰く、女が喜びそうな、バッグやアクセサリーを毎度渡そうとするが、一切受け取らない牧野。
「お試し」の間は、受け取りたくないってことなんだろうか。
あまりにも嫌がるから、無理やり渡すことはしていない。
けど、花ぐらいなら、持って行っても構わねぇよな。

今日で、3月も最終日になった。
あいつの結論を聞く日になる。
特に急かしたつもりはねぇけど、あいつだって分かっているはずだ。
けれど、俺の勘は間違いない。
あいつは俺に惚れてる。
本人が自覚したかどうかだけの問題だ。

会う度にするキスだって、全く嫌がっていないし、むしろどんどん深くなっている。
初めはキスだけだったが、今では抱きしめたり、髪の毛を触ったり、背中を撫でたりするのだって、嫌がってない。
はっきり言って、「お試し」なんて終わってるとは思うが、そこはあいつを納得できたかどうかだ。
ビジネス場面ではスピーディーな俺が、あいつに関しては時間をかけて落とそうとしているんだから、自分でも驚きだ。

そんなことを考えながらニヤつく俺に向かって、西田が言った。
「支社長、このペースでは、夜に牧野さんを迎えには行けませんよ。」

その言葉で俺ははっと我に返り、その後は一心不乱に仕事をこなした。
そんな俺を、まさか、西田が笑ってみてやがったなんて気が付かなかったが・・。



 

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  1. 俺の女
  2. / comment:3
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どれぐらいの間、牧野と舌を絡ませていたのか。
このままじゃ止まらなくなりそうだと思った頃、ノックの音が部屋に響いた。

我に返り、慌てて俺を押しのけようとする牧野。
それを見て不機嫌になる俺。

「無視しとけばいいだろ?」
って言ってやったら、牧野に睨まれた。
その牧野の唇は、テカテカと濡れている。
ふん。そんな顔で睨まれたって、恐かねぇよ。
大体、お前、腰抜けてんだろうが。

そんな彼女を支えて立たせ、椅子に座らせた。
それからメインの料理を持ってきたウェイターに代わりのカラトリーを頼み、俺も席へ戻った。

キョロキョロとして、俺に視線を合わせようとしない牧野。
キョドリ過ぎだっつの。
お前がキスを拒否しない時点で、お前の答えなんて決まってると思うのに、どうしてこの女は素直じゃねぇんだ。
まぁ、そーいうところもいーんだけどな。

メインの魚料理に箸が進まない牧野をみて、
「どうした、もう腹いっぱいか。」
と言ってやったら、
「何となく、司さんの気持ちが分かった気がする。」
なんて言いやがる。

お前も、俺のことを想って、いっぱいいっぱいだっつーのは嬉しい。
けどよ。こんなことは言えねぇけど、
俺はお前が考えているよりも、ずっと先のことまで考えてるし、キスより先のことをしてぇと思うし、今でいっぱいいっぱいのお前より、俺の頭の中はもっとすげぇ妄想炸裂中だ。
だけど、急ぐつもりはねぇよ。
少なくとも、こいつが「お試し」なんて必要ねぇって気づくまでは待つつもりだ。


「勿体ないから。」
と言いながら、再び食べだして、結局最後のドルチェまで食い切った牧野。
「あは。結局、全部食べちゃった。ごちそうさまでした。」
と言って、照れ笑いをした。
こいつが食ってる姿を見ると、こっちが幸せな気分になるから不思議だ。
傍から見れば、食い意地貼ってるだけなんじゃねぇのって思われるのかも知れねぇけど、こいつに美味いもんをたらふく食わせて、その笑顔を見るだけで満足しまう俺は、きっと相当こいつにイカレてるんだと思う。
それが何でなのかは、よく分かんねぇ。
強いていうなら、俺の本能がこいつを求めてるとしか言いようがねぇな。


レストランを出て、リムジンに乗り込んだ時間は22時30分。
せっかく早い時間から会えたんだから、もう少し一緒にいたい。
どうすっかな・・

すると牧野が、
「ねぇ。司さんはメールとかしないの?」
と聞いてくる。
「電話はなかなか掛けにくいから、連絡するならメールの方がいいかなって。連絡もらってたら、今日だって、もう少しマシな恰好してきたよ。」

お前の恰好なんて、ホントに気にしてねぇのに。
何なら、俺が一式揃えてやるのに。

「チマチマ打つのは、好きじゃねぇな。」
「LINEは?」
「LINE?」
「しないの?」

LINEは何となく知っているが、アメリカでは他のツールがメインだったし、日本に戻ってからは、誰かとまめに連絡をとる必要性もなくて、使おうとは考えてもいなかった。

「司さんがLINEで繋がってくれたら、あたしから連絡しやすいけど。司さんは返事くれなくても、既読ってなったら読んでくれたのは分かるから。」
「ふーん。で、どうすりゃいいの?」
「スマホかして?」

俺はロックを解除して、プライベート用のスマホを渡した。
俺のスマホをいとも簡単に手にする女はお前だけなんだけど、こいつはそーいうことには無頓着みてぇだな。
俺の携帯番号を知っている奴なんて、ホンの一部の限られた人間だけなんだぜ?
仕事関係の奴らや、どっかの女どもがどんなに俺の連絡先を知りたがったとしても、絶対に教えはしない。
それなのにこいつと来たら、俺が伝えるつもりだった俺の名前も立場も言わせないまま、俺と「お試し」で付き合おうなんて言ってんだから、本当に可笑しな奴だよな。

「んっと。そうそう、コレをダウンロードして。これ、登録してくれる?」
「はぁ。めんどくせぇな。」
「お願い。」

うっ。
こいつにお願いされたら、嫌とは言えねぇ。
仕方なく、俺はスマホを操作して、なんとか、「つかさ」という名前で登録した。

「あは。平仮名の〈つかさ〉にしたんだ。可愛い。あたしも、〈つくし〉だから、ちょっと似てるね。」
そういって、サクサクと操作して、俺の友達にはたった一人、〈つくし〉が入った。

すかさず、牧野がメールを打っている。
『司さん。よろしくお願いします。』

うぉっ。来た。
これって、返事しなくていいっつーけど、やっぱり返事したくなるよな。
それで、俺もチマチマと返信。

『早く、俺のこと、本気になれ。』

隣の牧野が笑っている。
やべぇな。
これはこれで、仕事が手につかなくなりそうだ。



*****



久しぶりに何もない平日に、あたしは幼なじみの優紀とランチに来ていた。
大学はもう、卒業式を残すのみ。
大学の友達は、卒業旅行やら何やらでみんな忙しそうだけど、あたしは卒業旅行には行かなかった。というより、やっぱり金銭的な問題もあって、行けなかった。
もし、社員寮が当たれば、一人暮らしをしてみたい。そのためには、お金を貯めておかないと、やっぱりちょっとは家具を買ったり、食器を買ったりしたいもん。
だから、こうやって、友達とランチに行くことぐらいが残された学生生活のあたしの楽しみだった。


「へぇ~。超奥手のつくしが〈お試し〉とは言え、付き合うなんて、意外だな。」
「自分でもそう思う。」
「だけどさ。お試しなんて必要あるの?それって、結局つくしにしたら、自分がフラれたら悲しいからっていうだけの、保険みたいなもんなんじゃないの?」
「うっ。」
図星・・かも。

「やっぱり・・そう思う?」
「誰でもそう思うでしょ?」
「司さんもそう思ってるかな?」
「どうだろうね。」

「だってさ。あのBarに来る人って、上流階級の人達ばっかりなんだよ。そんな世界の人が自分の恋人になるだなんて、やっぱり考えにくいんだよ。」
「それって、向こうからしても同じだよね。なんで、つくしなんだろうね。」
「遊ばれてると思う?」
「うーん。話を聞いただけじゃわからないけど、私だったら、わざわざつくしみたいな初心者マーク付けた女なんて、面倒だから遊びの対象にはならないと思うけど。」
「初心者マーク・・」
「マーク丸出しだよ、つくし。22歳にしてファーストキスなんて、一体どこのお嬢様なのよ。」
「うう~っ。」

「ねぇ、キスはどうだった?」
優紀がニヤニヤ笑ってる。
「どうって・・普通・・」
あたしは思わず司さんとのキスを思い出しちゃって、顔が赤くなった。

「キスが嫌じゃないってことは、その先も近いね。」
「その先?」
「当たり前でしょ?高校生じゃないんだよ。」
「お試しでもそういうのあり?」
「それも含めてのお試しかと思ってたけど?」
「ちっ、ちがうし!」
「ええ~!絶対、相手だってそう思ってるって。」
「やだよ。お試しでそーいうのなんて。」
「じゃあ、お試しを辞めることだね。」

別に、そーいうことがしたい訳じゃないし。
でも、司さんはどうなんだろう?

「あのさ。そーいうことって、あたし次第なのかな?」
「ん?」
「だから、あたしがOKだったら、そーなるのかな?」
「うーん。男の人が抑えてくれる保障はないけど、嫌がる女を無理強いするようなことはないんじゃないの?だったら、つくしがいいと思えたら、その時、じゃないのかな。」

あたしがいいと思えたら・・か。

「ねぇ、つくし。これは、私からのアドバイス。ちゃんと聞きなさい。」
優紀が真剣に話しだした。
あたしは姿勢を正す。

「頭で考えすぎないこと。」
「うん。」
「後悔しないと思えたら、そのまま流れに任せること。」
「うん。分かった。」

「つくし・・その人のこと、好きなんでしょ?」
「う・・ん。」

ぎゅっとあたしの手を握った優紀。
「私は、いつでもつくしの味方だからね!」


ありがと、優紀。
やっぱり、持つべきものは親友だね。
恐がる必要も、不安になる必要もない。
司さんと付き合いたいと思っているのは、間違いなくあたしだ。
お互いにもう大人なんだもん。
自分のことは自分で責任をとれるんだから。

だから、後はあたしがどうしたいかというだけだ。
司さんの恋人なるのなら、司さんとそーいう関係になってもいいってことになる。
司さんと舌を絡めても、嫌な気持ちなんか全然なくて、むしろ時間が止まっちゃえばいいのにって思った。
この先に、そーいう関係があるのだとすれば、あたしはきっと受け入れられると思う。
それは・・あたしは、司さんのことが好きだから・・・


あたしに必要なものは、一歩踏み出す勇気だけなんだ。



 

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なかなか進まないなぁ。
  1. 俺の女
  2. / comment:6
  3. [ edit ]

慌てて着替えたあたし。
分かっていた事だけど、ロッカーの鏡に映る自分はごくごく普通の女。
鞄に入れていた化粧品は本当に必要最小限で、ファンデとリップのみ。
リップすらも、薬用リップじゃ笑えないよ。

けど、仕方ない。
お試し期間だし、頑張ったところで、すぐにボロは出るもんね。
そう思って諦めて、あたしは職員用通路に出た。

先日と同じように司さんが、壁にもたれて待っていた。
「じゃあ、行くか。」
そう言って、あたしの右手を引いて歩き出す。
あたしは彼の手を引っ張って聞いてみた。
「ねぇ。どこ行くの?」

司さんが急に立ち止まって、あたしを斜めに見下した。
「今日って、ホワイトデーなんだろ?」
「あぁ、そうだったっけ?」
「何だよ、覚えてねぇのかよ。」
あたしにとっては司さんに会える火曜日ってことの方が大事だったから、ホワイトデーなんて忘れてた。
それに、司さんが、ホワイトデーを知っている方が意外だったけど。

「あのムースのお返しってやつだ。」
「お返しって?」
「まぁ、とにかく、行こうぜ。」

そう言って、地下駐車場へ降りると、今回はリムジンの登場。
「今日はリムジンなんだ。」
「まぁな。」
そう言う、司さんがちょっと照れているみたいに見えた。


リムジンにのり、10分もしないうちに到着したのは、銀座のお店。
司さんに連れられて、お店の中に入ると、そこはどうやら靴屋さん。

「こいつの足に合う、パンプスを頼む。」
それだけ言って、あたしを前に出した。
「待って。何?パンプス?」
「黒のパンプス買うんだろ?」
「何で?」
「ホテルで履くんだろ?」
「どうして、それ。」
「お前、酔って、そう言ってたぞ。」

あちゃー、そうなんだ。記憶にないけど、そーなんだ。
「だからって、司さんに買ってもらおうなんて思ってませんから。」
そう言ったあたしにちょっと不機嫌な司さん。
「俺はお前のムース食ったのに、お前は俺からのプレゼントは受け取らねぇってことか?」
「あれ、そんなにお金かかってないし。」

それに、このお店、普通のお店じゃないでしょう?
明らかに高級店だ。
靴一足がいくらになるか、恐ろしい。

「あの・・如何なさいましょうか?」
あたし達を見守っていた店員さんに声をかけられた。

「あっ、えーと。」
お店まで入って来ちゃったのに、どうしよう。
オロオロしているあたしを他所に、
「とりあえず、こいつの足、測ってやって。」
司さんはそう言って、あたしを無理やり奥の部屋へ誘導した。


それから、小一時間。
結果的に言えば、すごく楽しい時間が過ぎていた。
靴ってオーダーできるって知ってた?
皮の質から、ヒールの高さ、内張りの素材、もちろん色まで。
パンプスもブーツも、お金持ちは自分の足に合わせて作るもんなんだねぇ。
知らなかった。
そのカタログがたくさんあることに驚いて、一気にテンションが上がってしまったあたし。
当然のことながら、店員さんもお勧め上手で、会話も弾んでしまう。
結局、あたしの足におすすめの、疲れにくい靴をオーダーすることになった。
隣で見ている司さんも楽しそうで、なんだか断りにくくなって、あたしは結局一足だけパンプスを作ってもらうことになったんだ。
満足そうな司さんを見ただけで、なんとなくあたしも幸せな気分。
でもさぁ。仕事は立ち仕事だから、すぐに履き潰しちゃうかもしれないのに、こんな高級な靴、もらっても仕方ないんだけどね。
きっと、仕事じゃ履けないな。
特別仕様の靴になっちゃうな、なんて思って思わず一人笑ってしまった。


その次に連れて行かれたのは、赤坂にあるイタリアン。
当然のように個室に入った。
「コートをお預かり致します。」
なんて言われて、自分が本当に普段着なことに焦った。
コートだって、ブランドものじゃないし。
今日の司さんは、いつもよりだいぶカジュアルな恰好をしてる。
たぶん・・あたしに合わせてくれたんじゃないかなって思う。
個室にしたのだって、きっとあたしのためのような気がする。
あたしが、こんなお店には似つかわしくないから・・・
あたしは、本当に恥ずかしくなった。

席について、司さんが「何か食いたいもんあるか?」って聞いてくれたけど、あたしの頭の中は恥ずかしさでいっぱいで、それどころじゃなかった。
ブンブン首を横に振ると、司さんが、適当に料理を注文してくれた。
やっとウェイターさんがいなくなって、ホッと一息。

「どうした?」
と司さんの声が聞こえた。
顔を上げると、司さんんが向かい側から心配そうにこっちを見てる。
「うん。なんか。ごめんね。いろいろ。」
「いろいろって何だよ。」
「あたし、もう少し、お洒落してくれば良かったね。いや、それでも、高級店に出入りできるような服なんて持ってないけど。司さんに、恥をかかせちゃったみたいで、申し訳ないよ。」
やばっ。なんか、あたし、泣きそうだ。

下を向いたあたしに向かって、
「そんなの気にしてんのか?俺はなんも思ってねぇけど?今日だって、お前を誘って連れてくることだけで精一杯だ。それに、だいたい、見てくれを気にするんだったら、初めからお前を誘わねぇし。」

・・・
あんまりと言えば、あんまりな気もするけれど。
あたしのみた目なんて気にしてないってことはホントかも。
だって、本当に恥ずかしいなら、あたしなんか連れてこなければいいんだもんね。
ちょっとだけ、ホッとした。

「うん。ありがと。」

司さんとあたしの間には、大きな壁があると思う。
それは、貧富の差とでもいうのかしら?
でも、そんなことは気にしていないと言う司さん。
そう言えば、司さんはいったいあたしの何を好きだと思ってくれているんだろう・・・

うだうだと考えているうちに、お料理が運ばれてきてた。
そのお料理がまた美味しくて、あたしは悶々とした気持ちがいつの間にかどこかへ飛んで行ってしまっていた。

「すっごく、美味しい!」
「良かったな。」
よく見たら、司さんはあたしの方ばっかり見て、全然食事が進んでないみたい。
「司さん、全然食べてないじゃん。」
もぐもぐ、ごっくん。
「俺は、お前をみているだけで、腹いっぱい。」
「何?それ。おかしいよ。」
「なんで?好きな女見ていられたら、他のこと何てどーでもいいだろ?」

うっ。
その言葉に、喉がつまり、持っていたフォークとナイフを落としてしまったあたし。
下は絨毯だったから、大きな音はたたなかった。
「ゲホッ、ゲホッ。」
むせながらも、慌てて、椅子から降りて、フォークとナイフを拾おうと床に屈み込んだ。

すると向かいの席から司さんも降りてきて、屈んだあたしの背中を叩いてくれた。
「驚き過ぎ。」
「コホッ。おっ、驚くでしょっ。もう」
そう言った途端に、見えた司さんの顔は超至近距離で。

「あっ。」
っと後ろに下がろうと思った瞬間には、後頭部を支えられて、そのまま司さんにキスされていた。
カクッと絨毯に膝をついて、そのまま、何度もキスを繰り返す。
司さんに唇を舐められて、驚いて口を開けた瞬間に、舌が入ってきた。

ここは食事をする場所だよ、とか、
あたしの口の中はさっき食べたカルパッチョの味かも、とか、
そんなことは思うのに、
このキスを止めようとは思わない。

司さんの言う通りかも知れない。
あたしは、もうお腹がいっぱいで、何も食べられそうにない。



 

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