花男の二次小説になります。つかつくonlyです。

With a Happy Ending

先日のお知らせに、たくさんの拍手やコメントを頂きありがとうございます。
今週まで仕事が忙しいですが、来週からは通常業務に戻れそうです。

さて!今日は類君のお誕生日ですね~!
お祭りコンビの時には、なんちゃってお話を書いたのに、類君だけ無視と言う訳にもいかず、けれど、私にとって類君は結構難しくて、かなり考えました・・。
こちらは先週書いたお話になります。
いつも通り、類君目線の『つかつく』です。
私が考える類君像がこんな感じ・・ということで・・
では、いってみましょう!
***





「るーい!お誕生日おめでとう!」
「牧野、飲みすぎ。それ、さっきから何回も聞いてるし。」

今日の牧野はご機嫌だ。
いや、ご機嫌すぎる。
こういう時は必ず裏があるんだよね。

「はい。水。」
「いらん。」
「牧野~。」
無理矢理、牧野に水を飲ませた。

プファーとか、オヤジみたいな飲み方をして、牧野がテーブルに肘をつき、手のひらの上に顎を乗せた。

「ねぇ、類。あたしの仕事って、やっぱり、あいつにとっちゃ、大したことない、アリンコみたいな仕事なのかな・・。」
「何それ。司が言ったの?」
「そこまではっきりは言われてないけど。」
「じゃあ、何て言われた訳?」
「ぐぅぅ。。。」

牧野が、ばればれの寝たふりをしようとする。
誰が騙されるかよ。

つい数日前には、『ごめんね。30日がだめになっちゃったから、誕生日会は延期』だって言ってたくせに、当日の今日になって急に俺を呼び出して、散々飲み食いした牧野。
俺だって用事があるかも知れないとか思わないわけ?
でも結局、牧野に呼び出されたら断れないのが俺の性。
牧野が電話してくる時って、絶対司となんかあった時なんだよね。
俺は、愚痴聞き役。
時に、惚気を聞く役のこともあるけどさ。
でも、このポジションは誰にも譲りたくないんだよね。
だって、この二人って、面白すぎるから。
それで、一体何があったわけ?

「牧野?」
「だって、あいつ、《お前の仕事には代わりがいるだろっ》なんて言うんだもん。」

ふーん。ははーん、なるほどね。
ピンと来た。

「代わりがいるからどうしろって?」
「結婚。」
「へぇ。プロポーズされたんだ、司に。」

手のひらに乗せた頭を動かし、コクリと頷く牧野。
普段なら、絶対にこんなこと言わないのに、相当酔いが回っているらしい。

けどさ・・
普通、好きな男にプロポーズされたら、泣いて喜ぶもんじゃないの?
なのに、この牧野の態度は何なのさ。

「で、何が不満な訳?」
「だって、あいつ、あたしの仕事なんて大したこと無いって、そりゃ、あいつは、大企業の副社長なんてやってる訳だから、あたしの仕事なんて大したことないって思われても仕方ないんだけどさ・・」

そう言って、牧野が両方の瞳を閉じた。
何も考えたくないとでも言っているかの様。


ふぅ。
司が約束の4年で日本に帰国してから、もう4年が経つ。
帰国してからの二人の交際は順調だと思う。
今更、司の両親が反対しているわけでもないのに、二人が結婚しない理由。
それは、この牧野の態度に他ならない。

聞く限りでも、司が牧野にプロポーズしたのは、一度や二度じゃないはずだ。
その度に、牧野はのらりくらりとかわしていた。

まだ学生だから、
社会人になったばかりだから、
進がまだ学生だから、
パパとママへの仕送りもしなくちゃいけないから、
いつもそんな理由で。

牧野も社会人として3年が経ち、仕事にやりがいを見出しているのは分かる。
けど、道明寺司という男の恋人である以上、今の仕事を永久に続けることが不可能であることは、本人が一番よく分かっているんじゃないの?


「今度はどんな理由で断るの?」
「類・・」
「あんたが司のプロポーズを受け入れない理由、そこじゃないだろ?」
「・・・。」


牧野が司との結婚に踏み切らない理由。
それは、司が牧野の仕事を軽視しているとか、そう言うことじゃないと思う。
実際、司は牧野の仕事に理解があるし、恐らく結婚しても、牧野が続けたいと言えば、何らかの形で仕事を続けさせてあげるんだろう。
司は、牧野にだけは甘いから・・。
それに、なんだかんだ言っても、司は今まで、牧野の下手な弁解を聞き入れて、結婚は無理強いして来なかった。


牧野が目を閉じたまま呟く。
「だって・・自信ないんだもん。」
「何の自信?」
「道明寺の・・・奥さん?」
「疑問形?」
「だって、あたし、やっていけると思う?」
「まぁ、大変だとは思う。」
「やっぱり・・。」

しゅんとする牧野。
でも、そんなことは、ずっと、ずーっと前から分かっていたことだよね?

「じゃあさ、その自信っていうのは、いつになったら付くわけ?」

俺たちは知っている。
牧野が、司の隣に並ぶために、語学や教養、マナーなんかを必死で勉強してきたことを。
高校時代から今まで、牧野の人生は、相当司に振り回されているにも関わらず、泣き言なんか言ったことは無いんだ。
それは、牧野自身が、将来は司と一緒に歩んでいこうと思っているからだろ?

「そんなの・・分からないよ。」
「そうやって、うだうだしてたらさ、年ばっかりくって、ウエディングドレスが似合わなくなると思うけど?」
「それならそれで、いいもん。」
「まーきの!」

俺がチョンと牧野のオデコをつつくと、肘をついていた牧野がバタンと崩れて、テーブルに突っ伏した。

「もう、やだ。」
「何で?」
「もう、逃げられそうにない。」
「ぷっ。今まで逃げてた訳。」
「そうじゃないけど。」

何が言いたいのか。
酔った牧野の堂々巡りは終着駅が見つからない。

「じゃあさ、別れなよ。司と。」
がばっと、牧野が飛び起きた。
目を大きく見開いて、俺のことを見つめてくる。

「類・・意地悪・・。」

それは、牧野が煮え切らないからでしょ?

「だって、不安なんだもん。不安で不安で、夜もおちおち眠れない。」
「あんたが眠れないことってあるんだ。」
「あるよっ!」
「それ、司に言いなよ。」
「言えないよ。」
「どうして?」
「だって、あいつ忙しいし。今日だって、急にどっかに出張になったって。あたしの話なんて聞いてる暇ないよ。それに・・それに、ウジウジしてるあたしなんて、あいつきっと好きじゃないし・・。」

はぁぁ・・
牧野は本当に分かってないよね。
男は、好きな女に弱音を吐かれたら、逆に燃えるもんなんだ。
どんなことをしてでも守ってやろうと思うもんなんだ。
司なんて、尚更だ。
いつもは強気な牧野がウジウジしたからって、可愛いと思うだけで、嫌いになんてなる訳ない。
牧野が一言司に泣きつきでもすれば、司はどんなに疲れていたって、夜中にだって駆けつけるはずだ。
それで、そんな不安は強引に拭い去るに決まってるんだ。


「牧野、司はさ・・」
「分かってる。分かってるの。あいつはさ、きっとあたしを守ってくれようとすると思うんだ。けどさ、あたしはあいつを守ってあげられるかな?守られるだけの女は嫌なの。あたしもあいつを守ってあげたいのに・・。あたしは、あいつの負担にしかならないんじゃないのかな・・。」

ふーん。そっか。司のことは分かってるんだ。
でもさ、牧野は自分の価値を分かってない。
いったい何年司と付き合ってんの?

守るということは、見た目だけじゃない。
金や権力で守れる力を司は持っているけれど、司の心を守る力を持っているのは、牧野だけなんだ。
牧野はずっと、司の心を守ってんだよ。
もっと自信もちなよ、牧野。


「司がさ、もしまたニューヨーク行くって言ったらどうする?また遠距離恋愛するの?」
「えっ?」
牧野は一瞬言葉を失ったが、すぐにはっきりした口調で答えた。

「今度そうなったら、絶対に付いて行くよ。」
「そっか、じゃあ、なんで結婚はダメなの?」
「・・・。」
「牧野?」
「ダメじゃないもん。」
「ぷっ。さっきまで嫌がってたじゃん。」
「ダメじゃないもん。自信がないだけ。」


「牧野はさぁ。安心しちゃってるんじゃない?今は司がニューヨークから戻って来て、結婚しなくても、二人でいられるんだもんね。」
「う”~。」

図星でしょ?

「でもさ、司の立場なら、いつまた海外転勤になるかも分からないよね?」
「そうなの・・かな?」
「あとは、牧野がその時どうしたいか、でしょ?」
「付いて行くよ、当たり前じゃん。」
「結婚して?」
「もちろんだよ。」

やれやれ。
結論なんて、始めっから出てるんだ。


「普通ならさ、女が結婚を匂わすもんだと思ってたけど、あんたたち不思議だよね。どう考えても、司が結婚したがってる。」
「失礼ねっ。あたしだって、結婚したいもん!でもさ、ちょっと不安なんだもん。だから、迷っちゃっただけっ。道明寺と、結婚したいよ。ずーっと一緒にいたいもん。」
「じゃあ、迷う必要ないでしょ。」
「うん。そうだった。」


牧野がまたパタンとテーブルに突っ伏して、頬をテーブルに乗せた。
「冷たくて、気持ちいい・・」

テーブルに片頬を付けたまま、牧野が俺を睨んだ。
「類、見てなさいよ。あたしのウエディングドレス姿とか見たら、感動して、涙流すかもしれないよっ!」
やっと、牧野らしさが戻ってきた。
まぁ、感動の涙を流すかどうかは別だけどさ。

「あ~、なんだか気が抜けた。ホッとしたら、ふぅ・・眠くなってきた・・かも・・・。」
速効で、クカァー、クカァーと寝始めた。
無防備な奴・・。








「司。」
俺は、壁にもたれつつ腕を組んで立っている、長身の男に手を挙げた。

奴が近づいてきて、牧野の隣に座った。


___『道明寺司』
俺の幼なじみ。
そして、牧野の婚約者。
それは、何年も前から変わらない関係。


「悪かったな。牧野が迷惑かけて。」
司が牧野の髪を撫でる。
「別に。いつものことだし。司こそ、出張だったんじゃないの?」

額に青筋を立てた司が、
「こいつの反応がおかしかったからな。早めに切り上げて来た。」
おいおい、今回の香港出張は、日本で指揮をとる最後のデカいプロジェクトのためなんだろ?

「なんだよ、その目。ちゃんと仕事はして来てんだよ。」
そんなことを言ったって、これだけ早く帰ってくるには、相当仕事を詰め込んだに違いない。それ位は俺にも分かる。


「わかってんでしょ、牧野の不安。」
「あぁ。けど、もう、待てねぇ。」
「うん。」
「この春には、入籍する。」
「そっか。」
「夏には、ヨーロッパに移る。」

道明寺財閥の社長に昇格するための最後の試練という訳だ。

「それ、牧野知らないんじゃないの?」
はぁ・・と溜息をつく、俺の幼なじみ。

「まぁな。あれだよ。お情けで付いてきてもらっても、仕方ねぇだろ?こいつが、本気で付いてきたいと思ってくれなきゃよ。こいつに後悔はさせたくねぇんだよ。」
「司、牧野に後悔させるつもりなの?」
「んな訳あるかっ。」
「牧野、結婚したいって言ってたよ。」
「聞いた。」

司が、俺たちの前では見せたことも無いような甘い表情で牧野を見つめている。
まさに、目に入れても痛くないという、そんな表情。

牧野の気持ちなんて、きっと、司が一番お見通しなんだろうな。
いつも牧野の気持ちを第一優先にする司。
ただし、今回ばかりは牧野を逃がすつもりは無いってことか。
牧野が自分から飛び込んでくることを待ってたんだな。
俺は、うまい具合にアシストしたってところかな。


今日の俺の役割は、これで終わりみたいだ。

「じゃ、俺、帰るね。」
「類。」

呼び止められ、俺は司を振り返った。

「必ず牧野を幸せにするから。」
司の瞳に迷いはなく、自信だけが覗いている。

「あぁ、分かってる。」
ずっと前から分かってるよ。
牧野を幸せにできるのは、司しかいないって。

「お前には、礼を言っておきたいと思ってた。」
「へぇ。レアだね。一応、受け取っておく。」
「おう。」

「お前が涙流すぐらいに、すげぇ綺麗な花嫁見せてやるから。」
司が愛おしそうに、牧野の頬を撫でる。

その姿に背を向けて、
「楽しみにしてる。」
そう告げた。



「そういや、類。」
3歩進んだところで、再び声がかかったが、俺は振り向かなかった。

足を止めた時に、背中に聞こえた司の言葉。

「誕生日、おめでと。」


プッ。
司に誕生日を祝われた。
これって、激レア。
今まで20年以上一緒にいる親友なのに、言われたことあったっけ?

司は牧野に出会って変わった。
こんな言葉が言えるようになった。
そして、俺も牧野に出会って変わった。
親友の幸せを、心から祝えるようになった。
感情に乏しかった俺に、牧野は人間的な感情を目覚めさせた。

牧野という存在のおかげで、俺たちの関係も変わった。
なんか、人間臭くなったかな・・・照れくさいから言わないけど。


司は俺の親友。
牧野は親友の彼女。
俺にとって、大切なその二人。
彼らが幸せである限り、俺の人生も結構明るい。


俺は右手を挙げて、背中越しに司に伝えた。

サンキュ、司。
幸せになれよ。

 

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私の考える類君は、どこまでも司君の親友・・・
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  1. 短編
  2. / comment:8
  3. [ edit ]

今晩は~。Happyendingです(^^)
いつも、遊びに来て下さりありがとうございます!
拍手やコメントに元気づけられていて、とっても感謝しています。


なのですが・・
今週が仕事がピークで忙しく、今日も帰ってきたのが21時過ぎ。
明日も遅くなってしまうので、現在貯金がない私はお話が更新できません。。。

こんな状況ですので、体勢を立て直すため、数日お休みをして、『続・俺の女』をある程度書き進めてから、更新を再開しようかと思います。
いつも応援頂いているのに、すみません。

もう少し、お待ちいただけると嬉しいです。

なるべく早く更新再開できるように頑張りますので、これからも宜しくお願い致します。


(30日の類君のお誕生日はお話を考えているので、更新する予定です。)
  1. お知らせ
  2. / comment:6
  3. [ edit ]

突然反転した世界に、驚いた顔の俺の女。
名前を呼んだだけで、特別な関係だなんて、可愛いことを言う。
だけど、誰よりも喜ばされているのは俺自身。
洒落になんねぇ。
洒落になんねぇほどに、俺はこいつにイカレてる。

じっと、彼女を真上から見つめ続ければ、だんだんと朱に染まる彼女の頬。
照れたって、解放なんてしてやらない。
俺の視線から、逃れることなんて許さない。

じっと互いに見つめ合ったまま、つくしが何度か瞬きをする。
そして、ごくっと唾をのみ込んで・・

「つかさ・・」


ドクンと俺の心臓が音を立てた。
ぐっと来る。
好きな女に名前を呼ばれた。
それだけのことなのに。
ぐっと来ちまう。

『道明寺司』の名前なんて、こいつの前では意味が無かった。
そんな名前が無くたって、こいつは俺を選んでくれた。
それでも、この名を呼ばれただけで体が熱い。


「もう、いいでしょ?あんまり、見ないで・・」
仕方ねぇだろ?
どうしたって、俺はお前から目が離せないんだから。

「そう思うなら、お前が視線外せよ。」
「はっ、外せないよ。」
「何で?」
「だって・・だって、目を逸らしたら、つか・・さ、怒るでしょ?」


なんだよ・・
俺の悋気がこいつをビビらせてんのか?
でも、いい。これでいい。
ちっとは俺の本気を思い知れ。
一日中、ずーっと俺のことを考えてろよ。
俺が怒ってるのか、喜んでんのか、もっともっと俺を気にしてろ。

俺が、お前のことをずっと想っているように・・


「今日は、容赦しない。」
「今日はって、いつもでしょ?」
ぷぅっと顔を膨らませた顔にすら欲情する。

シーツに縫い付けた手を開かせて、指を絡める。
つくしが言ったんだ。
これは『恋人つなぎ』っていうんだと。
あれから俺はこのつなぎ方が気に入っている。

ゆっくりと目を閉じ始めたつくしの瞼に一つキス。
それから、目じりに。それから、頬に。
それから、唇にキスを落として、
角度を変えて何度も、何度も吸い付いた。
少し開いた唇に入り込み、つくしの歯列舐めまわす。
だんだんとつくしの口が開いて、俺の舌を受け入れた。
舌を追い回し、絡み付け、吸い付いて、離してはやらない。

「ん・・んん・・」
鼻から抜けるつくしの声。
その声に反応して、俺の下半身も膨れていく。

執拗に追いかける俺。
つくしが絡めた指先に力を入れ、両膝をこすり合わせた。
その動きを見逃さない。
逃がさない。

息継ぎもさせずに口腔内を這い回りながら、
つくしのスカートの中に手を入れた。
ストッキングとショーツを同時に降ろす。
途中まで降ろせば、つくしが自ら足を抜く。
自由になった足を広げ、つくしの中心に指をあてがい、ゆっくりと挿入した。

ビクッと跳ねるつくしの背中。
唇を離して、つくしの瞳を覗き込むと、そこには俺を求める女の顔。
グリグリッと中をかき混ぜる。
解放された口からは、喘ぎ声が響く。


「なぁ、キスだけで、濡れまくり。」
「やだぁ・・言わないで・・」
泣きそうなつくしが可愛い。
可愛くて、愛しくて、虐めたくなる。


指を出し入れしながらも、もう片方の手はつくしのブラウスへ入り込む。
背中のホックを器用に外して、解放された乳房をゆるりと揉む。
ブラウスとブラを捲りあげて、つくしの乳首に吸い付いた。

柔らかいつくしの体。
少し力を入れ間違えば、折れてしまうだろう程に細い。
俺の大切な、大切な女。
絶対に壊すわけにはいかない。


この小さな体に俺を受け入れるということは、
こいつにとっては恐らくすげぇ苦痛で、
きっと、いつもいつも一杯一杯で、
体の負担もきっと、半端なくて、
何度もすれば、その分明日に響いちまう。
そんなことは分かっていてもやめられない。

俺が欲するほどに、こいつは俺を求めているのか?
こいつを、最高に気持ちよくしてやりたい。
きつさなんて忘れるぐらいの快感を与えたい。
男だったら、愛する女をこの手で導きたいと思うのは当然だろ?

たらたらとあふれ出す愛液を確認して、
一旦指を抜き、スカートとブラウスを脱がせ、俺も自らを解放する。


脱力した体は俺に為されるがまま。
半開きの唇がテカテカと濡れていて、艶めかしい。

ゆっくりとつくしの腕が上がれば、それは俺を受け入れる合図だ。
つくしの両足を広げたと同時に、つくしが俺の首に手を掛ける。

「しっかりつかまってろよ。」


コクンと頷くつくしを確認して、
俺ははち切れんばかりの自分自身を沈めていった。

つくしが息を吐きながら、俺を受け入れていく。
つくしの狭い内壁を、俺が押し広げていく感覚。
強い征服欲と同時に、泣きたいほどの幸せが全身を巡る。

この女に出会えたことに感謝する。
どうか、つくしを俺から奪うな。
俺の腕から消えるな。
他の誰にも、渡さない。


突き上げる度に揺れる胸。
汗で額に張り付いた前髪。
瞳を閉じて、俺を感じている表情。

俺無しでは生きられない女になれ。
他の奴らになんて、どう思われてもいいだろ?
俺以外の男なんて、視界に入れるな。
お前を幸せにできるのは、俺だけだ。


滴った汗が、つくしの頬を流れた。
何度もつくしの内壁をこすり、更に奥へと導かれていく。
ピストンを繰り返すたびに、つくしの中が締まっていく。
ぎゅーっと喰いつかれるような感覚に体が痺れた。


「つくしっ」
「つかさっ」


彼女の口から洩れた、自分の名前が耳に届くと同時に、
彼女の体をきつく抱きしめて、自らの全てを吐き出した。



つくしの中に留まったまま、彼女をやんわりと抱きしめる。
二人で息を整えていく間も、少しも離したくはない。


「俺、すげぇ幸せ。」
「あたしも、凄く幸せ。」

目が合って、笑い合える。
この瞬間が、俺にとって、かけがえのない幸福な時間。



 

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  1. 続・俺の女
  2. / comment:14
  3. [ edit ]

牧野を隠すようにして抱き上げて、俺たちはリムジンへ乗り込んだ。
リムジンの中でも、牧野を膝に置いたまま離さない。
コントロール不能な独占欲。
男なら、誰もが抱く感情。
俺は牧野に出会うまでは感じたことが無かっただけだ。

俺のだけの牧野を誰にも見せたくない。
こいつは、俺の、俺だけの女で、他の男の前になんて出したくない。
それが、俺の幼なじみである、総二郎やあきらだったとしてもだ。


「司さん・・苦しいよ。」
酒も入ってるせいか、少しトロイ牧野が俺の腕から逃れようともがく。
けど、離せる訳ねぇ。

ったく。
こいつは、バカッつーか。お人好しっつーか。
何でお前があきらの女のためにそこまでする必要があるんだよ。
余計なことに首突っ込んでんじゃねっつーの。


こいつは俺の根性を叩き直すと言っていたが、
こいつと出会う前の俺を知っている奴からすれば、今の俺はすでに別人だ。
牧野に出会い、人を愛する気持ちを知った。
まぁ、牧野限定だけどな。
だけど、こんな気持ちは、生まれてから一度も持ったことは無かったんだ。
家族の愛情や家庭の意味を知らない俺。
今までは、一人で気楽に暮らしてきた。
そんな俺が、24時間、四六時中、一緒にいたいと思う女。
俺の腕から離さずに、ずっと囲い込んでおきたい。
俺はどんだけこいつに狂ってるんだ。

牧野が傍にいてくれるだけで、世界が輝く。
今まで見て来た景色は、もう思い出せない。
それ程に、牧野に出会った俺が激変しただなんて、きっとこいつは知らない。



リムジンがマンションの駐車場に着いた。
「一人で歩ける。」
と言い張る牧野を、無理やり抱きかかえてエレベーターに乗り込む。

上昇する箱の中で、牧野に小さくキスを落とした。
牧野は抵抗を諦めたのか、大人しく俺の腕の中だ。

なぁ、どうしたら、この悋気はなくなるんだろうな。
お前を何度抱いても、もっと欲しいと思う欲望は留まるところを知らない。

こいつからの電話に驚き、執務室を飛び出した俺。
そんな自分の行動も信じられない。
今日は、書類の確認中だったが、これが重要な会議だったとしても、もしかしたら俺は、会議を放置して、飛び出したかも知れない。
実際、本当に会議をすっぽかしたら、こいつに説教食らうに違いないんだが。

馬鹿げてる・・・
一人の女にこれほどに入れ込むなんて。
こいつに愛想を尽かされたら、生きていけねぇ。
って、何で俺がこんなに怖気づいてんだっつーの。
だが、そんな自分が、案外気に入って、少し笑えた。


「何、笑ってんの?」
「いや。」
言える訳ねぇ。こんなこと。


エレベーターが開いて、真っすぐ寝室へ向かう。
俺の悋気に気付いているんだろうか?
牧野の抵抗はない。
ベッドに降ろした牧野が少し弾んだ。

ネクタイを緩めて、一気に外す。
カフスをとり、サイドテーブルに置いた。
俺の動きを、じーっと見つめている牧野。

「ねぇ。司さんってさぁ。綺麗だよねぇ。あ、男の人に綺麗ていうのも変だけどさ。桜子さんがね、言ってた。司さんは、桜子さんが昔、憧れていた人なんだって。あーんな綺麗な人でも、司さんに憧れてるんだね。」
横向きになって俺を見上げながら、
そんなことでクスクス笑う彼女。
ベッドに流れる艶やかな黒髪。
無意識に俺を煽るその姿。
お前以外の他の女の話なんてどーでもいい。

「興味ねぇよ。」
「ん?」
「お前意外の女に興味はない。」
俺はシャツを脱いで、上半身裸になり、ベッドの牧野の脇に寝転んだ。

自分で話を振っておきながら、俺の言葉に真っ赤になった牧野は、目のやりどころに困るのか、キョロキョロとしている。

俺はお前意外に興味はない。
お前以外に優しくするつもりもない。
何回言ったら分かる?


「俺はお前の特別な男になりたい。」
「特別?」
「あぁ。」
「特別って、今も特別でしょ?あたし達、付き合ってるんだよね?」
「そうだな。でも足りねぇ。」
「あたしの初めては司さんばっかりだよ。初めて・・キスしたのも、初めての恋人も・・それから・・・全部だよ。あたしにとって、司さんは特別な人だよ。」
「でも、足りない。」
訴えかける様に牧野を見つめ続ける。
俺がどれだけお前を想っているか、伝わるように。

「困った人だね。」
至近距離にある俺たちの顔。
牧野が右手を伸ばして、俺の髪の毛を撫でる。

小さな手で髪を撫でられる。
世間の奴らからしたら、大したことない行為かも知れないが、俺にはガキの頃からそんなことをしてくれる人間は周囲にいなかった。

今になって初めて気付く。
こうして、自分が求めている人間に受け入れてもらえることは、途轍もなく幸福な事なんだということを。
それは、いくら金を積んだとしても必ずしも得られるものではなく、また逆に、金がなくともそれを手に入れることのできる幸運な人間もいるのだということを。
そして、牧野に受け入れられたことで、俺の人生にも初めて幸福が訪れたのだということを。


しばらく俺の髪を撫でていた牧野が言った。
「特別っていうのも変だけどさ。今日、美作専務がね、桜子さんのこと、桜子って呼んでたの。なんかちょっといいなぁって。司さんに、名前で呼ばれたら・・あー、恥ずかしいかなぁ・・。でも、あたしのこと名前で呼ぶ男の人、今までいなかったから。名前で呼んでくれたら、あたしにとってはすっごく特別だよ?」

俺はすぐに牧野の右手首を掴んだ。
今言われたことを確かめたくて。
名前で呼べって?
マジかよっ!!

「いいのか?」
「うん。タダだしね。ほら、あたし、司さんにあげられるもの、何にもないし。」
へへへと牧野が笑う。

そのまま牧野の右手を引いて、俺の上に乗せ、思いっきり抱きしめる。


「つくし・・」
初めて彼女の名前を呼んだ。

やべっ、結構恥ずかしくて、顔が見れねぇ。
自分の顔が緩んでいることを、はっきりと自覚できる。

「うん。なんか・・いい。うれしい。でも・・思ってたより、かなり恥ずかしい・・ね。」


ひとしきり抱きしめて、彼女の温かさに酔いしれる。
名前を呼ぶだけで幸せになれる。
彼女が言うように、タダでもらえる幸せが、これ程に愛おしいなんて。

ずっと浸っていたくなる幸福の中、
「お前も、司って呼べよ。」
そう言ってみれば、
「ええ~。それはいいや。」
とバッサリ拒否。

何だよそれ。相変わらず、空気が読めない奴。
この状況なら、お互いに名前で呼び合ったっていいだろ?
タダだぞ、タダ。


「じゃあ、呼ばせてやる。」

俺はクルリと身を回し、つくしをベッドに縫い付けた。



 

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  1. 続・俺の女
  2. / comment:5
  3. [ edit ]

あきら達が去った後のプライベートルーム。

「これは・・その・・あれぇ??」
目をぱちくりとして、俺の膝の上に座っている牧野。

「どうしてここに司さんがいるのかなぁ・・?」
キョロキョロと落ち着きがない。
「とぼけんな。」
そーっと俺の膝から降りようとするこいつを、がっちりホールドして捕まえた。
ポフッと俺の胸に落ちてくる、このバカ女。

どうしていいのか分からないといった様子で、目ん玉をあっちにこっちにと動かしている。
それから、どうやら覚悟を決めたらしい。
俯きながらもモゴモゴと話し始めた。

「あのね。だって、司さんが、昔悪いことしたって言うからさ・・。だから・・」
「だから?」

牧野がガバッと顔を上げた。
「だいたいねぇ。女の子にブスとか言わないでしょっ。フツー。」
こいつ、開き直りやがったなっ!

「で?」
「でっ・・て・・。だから・・・。」
「俺が、暴言男だったら、どうするんだよ?」
「どうするって・・」

しどろもどろの牧野。
俺が悪い奴だったら、どうするっての?
別れるとでも言うのか?
つい先日、何があってももう離さない、離れないと約束したばかりじゃねーか。
この嘘つき女め。

「だからっ、あたしが司さんの根性を叩き直してやろうかと思ったのっ!」

大声で言う牧野に、しばし唖然。
この道明寺司の根性を叩き直すという俺の女。
じっと俺の目を見据えている。
面白れぇ。
本当にこいつは面白れぇ。
俺がいい奴じゃないと知っても、俺を見捨てたりはしないらしい。
あんま褒められた言葉を言われた訳じゃないが、俺は心底安心した。


ゆっくりと牧野の髪を撫でる。
「お前、何杯飲んだ?」
「うーん。三杯・・かな?」
牧野は、俺が反撃にでないと分かるとホッとしたようで、両手の人差し指をクルクルと回して俯いている。
「俺がいない所で、酒は飲むなって言ったよな?」
「言ったっけ?」
そーいや、俺も記憶にねぇな。言ってなかったか?
ってことは、こいつには叩き込んでおかないといけねぇことが山ほどあるな。

男と二人きりになるな。
俺がいない所で酒は飲むな。
男に微笑むな。
男と目を合わせるな。
・・・あ~、畜生!限がねぇよ!
いっそのこと、もう仕事辞めろ・・って言えたらどんなにいいか・・。

はぁ・・


仕方なく、俺は話を変えて、さっきの騒ぎの真相を聞くことにした。
だいたい、何で俺が謝る必要があったんだ?

「で、さっき話は何だったんだよ。」
今度は優しく聞いてやる。

「うーんとね。桜子ね、美作専務のことが好きなんだって。で、整形したのは、司さんのせいで。」
「ふーん。で?」
なんで、お前が他人の恋愛話に首を突っ込んでんだ。

「美作専務は、桜子が司さんを好きなんだって勘違いしてたの。だから、元はと言えば、司さんのせいかなって。」
「なんで?」
「なんでだろ?」
幼稚舎のことまで持ち出して、俺に責任を押し付けてくるなんて非常識だ。
それに、あいつらは俺からの謝罪をわざわざ要求してくるような奴らじゃない。
こいつが完全に遊ばれてたってことだ。


「お前さぁ。言っとくが、とっくにバレてんだよ。総二郎にも、あきらにも、あの女にも、俺らのこと。」
「ん?」
牧野が俺と視線を合わせた。

「お前が俺の女だってこと、皆知ってんだよ。」
「えっ、えええっっ~~!!!」
今更そんなに驚くなよ。
さっき、あの女が言ってただろ?
お前が俺の女だと分かっていて、俺を呼び出させたんだ。

ちっ、あの女、牧野をコケにしやがって、今度会ったら許しちゃおかねぇ。
牧野がフツー?
フツーじゃねぇよ。俺をこれ程に振り回す女なんて、この世に二人といない。
しかし、あれを言われて、バレてるってことに思い至らないお前も、どうかしてるぜ。

「西門先生も?」
「あぁ、間違いねぇ。」
「美作専務も?」
「とーぜんだろ?」
「なんで?」
「お前の態度でバレバレだろ?なんで、お前が俺のプライベート用のスマホの番号知ってんだよ。」
「あっ・・・」
まぁ、スマホ出すまでもなく、バレてただろうけど。
今更、気が付いてんじゃねーよ。


「からかわれてたんじゃねぇの、あいつらに?」
「まさか・・うっそぉ・・。」
本気で青くなってるこいつは、どこまで鈍感なんだ。

「だって・・それに、幼稚園の時のことだとは思わなかったし、からかわれてたなんて・・うーっ。本当に?」
「完璧、遊ばれてたな。」
「なんでよ~。もう~っ。」
両手で顔を覆う牧野。
そんなの、お前が俺の女だからに決まってんだろ?
ったく、だからこいつは目が離せねぇんだよ。
隙がありすぎる。


今日だって、牧野にはSPが付いていた。
あきらと三条って女と、三人でこの店に来ていたのも把握していた。
それでも、あきらが一緒だからとイラつきながらも許容していたんだ。

それなのに、執務室で決算書類に目を通している最中に鳴ったスマホ。
牧野からの着信に、俺がどれだけ焦ったか。
「今すぐ来てっ!」
という、こいつの声に、どれだけビビって駆け付けたか、こいつは全く分かってねぇな。
そもそも、普段なら仕事中に電話なんかかけてくるような奴じゃねぇのに、西田を通さずに直接電話してくるという時点で、普通じゃななかった。まさか、酔っ払いだったとはな・・。


すっかり酔いが冷めたらしい牧野が、申し訳なさそうに俺を見る。
「ねぇ。仕事、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇよ。」
「ごめん・・ね?」

「許さねぇ。」
そう言った俺は、大きく目を見開いた牧野を見つめながら、唇を合わせた。
牧野の目が更に大きく開かれたのが分かったが、そのまま、こいつの顎を少しだけ下にずらす。
そこにできた唇の隙間から、そっと舌を挿し入れた。

「ん・・」
懺悔のつもりか・・抵抗はない。
牧野がゆっくりと目を閉じて、俺もじっくりと味わうべく、瞼を閉じた。


ピチャ、クチュっと卑猥な音。
自然と俺の手が牧野の服の中へ滑り込む。

「あっ。」
と漏れた声を、もう一度塞いだ。

唇を合わせながら、ブラをずらし、牧野の胸をやわやわと揉む。
すげぇ、気持ちいい。
いつも思うが、こんなに柔らけぇもんって、他にねぇよな。
俺の手のひらに収まるボリュームも丁度よくて、こいつは俺のためにできている女だと確信せざるを得ない。

俺の腕の中にぴったりと納まる牧野。
俺はこいつの為なら、何だってできる。
謝れっつーんなら、謝ってやる。
だけどそれは、自分の為なんかじゃねぇよ。
全て、お前の為だ。
いつの間にか、俺の世界は牧野を中心に回ってやがる。


すっと、スカートの中に手を挿し入れると、
うっとりと蕩けていたはずの牧野に力が入った。

重たそうな瞼を必死に開いて、トロンと俺を見つめる。
「ここじゃ、だめだよ。」

訴えかけるような瞳に抑えが効かなくなりそうになったが、
俺だって、こんなところで愛する女を抱く気なんてない。


俺はこいつを抱き抱え、こいつのデカいバッグを持ち、ドアを蹴り開けた。
すぐに、近づて来た俺のSPが牧野のバッグを持った。
それから、牧野に付けたSPが、牧野を抱く俺に驚いて、代わろうとした。
ガンッとそのSPの脛を蹴る。

「こいつに触るな。」

俺の胸に顔を隠していた牧野が、俺の声に驚いて顔を上げた。
その顔はさっきまで俺が蕩けさせていた女の顔で、
そんな顔は誰にも見せられる訳が無い。

「顔、伏せとけ。」
牧野が慌てて、もう一度俺の胸に顔を埋めた。



 

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20分後・・・

バッターンッ!と大きな音がして、プライベートルームのドアが開いた。
入ってきたのは、額に汗を滴らせた、凄まじいオーラを放つ男。
生まれつきのモデル並みの体型に、仕立ての良いビジネススーツを寸分の隙もなく着こなした、俺の幼なじみだ。

その男がじっとこの部屋の、ある一点を見つめている。
俺は全くもって、奴の視界には入っていない。


「誰だ?」
腹の底から発される低い声に、司の凄まじい怒りを感じる。
「誰が飲ませた?」

司の視線の先には、桜子とイチャイチャしている牧野。
このプリン美味しいねぇとか、
おにぎりは注文できないのぉとか、
自分で呼び出したくせして、司を完全無視。
つーか、おにぎりなんて置いてねぇし。

「二人で勝手に飲んだんだぜ?」
と俺が言えば、
「嘘つくなっ!!」
と司が大声を上げた。

その声に、牧野が司を見上げて言う。
「シシャチョー、まぁ、座りなさいよ。」
やべぇ・・ベロンベロンだ。

「牧野、お前・・大丈夫か・・?」
酔っ払いの牧野に呼びかける司の声は、今までに一度も聞いたことがない程に甘い。
心配顔の司が牧野の隣に座ろうとすると、牧野が司の腹をグーで殴った。
うぉっ・・すげぇパンチ。
グエェとあの司が呻いた。


「シシャチョーはあっち。」
そういって、俺の隣に座らされる司。
一瞬だけ目が合ったが、危うく俺は凍り付くところだった。


しーん。
この沈黙が恐ぇよ。



「司さん、桜子に謝ってくださいねー。」
目が据わっている牧野が、桜子に腕を絡めながら話を切り出した。
つーか、『司さん』って、初めて聞いたぜ。
へぇ、普段は『司さん』って呼んでるんだな、ほ~。

「何でだよ。」
すかさず言い返す司。
ま、当然だよな。

「だってぇ、桜子が、司さんのせいで、ショックを受けて、整形までしたって・・」
「はぁ?」
司が牧野の隣に座る桜子を見て、首を捻っている。
そりゃそうだろう。
幼稚舎の頃の話なんて、覚えているはずもない。
俺らだって、忘れてたんだ。


「記憶にない。」
「っか~。ほらっ。お偉いさんは、すぐ記憶にないって言うっ!」
「つーか、本当に知らねぇんだって。」
酔っ払いの牧野に、真面目に答えている司が面白れぇ。
こんな司、見た事ねぇ。
いつもの司なら、この時点ですでに半殺しだ。


「どんな理由があるにせよ、乙女に向かってブスだなんて・・許されることではありませんっ!!」
牧野が眉間に皺を寄せている。
隣の桜子は、今にも吹き出しそうだ。


「全く~。何なのよ。西門先生は~女ったらしだし、美作専務は~マダムキラー?、司さんは~暴言男だし。F4って一体何なわけ??あれ、F4って・・一人足りない??」
指を1本ずつ折りながら、牧野が首を傾げた。
類は・・万年寝太郎だぜ?とはややこしくて言えねぇ。

「周りの奴らが勝手にイメージ作ってんだよっ。いい奴の集団なんかじゃねぇって言っただろーがっ。」
文句を言った司が、その次にはーっと溜息を洩らした。
「つーか、なんで、牧野がこんなになってんだよ。あきら、どうなってんだ?」

ジト目で司が俺を睨む。
「説明するにはややこしすぎるんだよな・・」
と司に同情しつつも、今更どう説明していいのか分からなくなった俺。

正面の牧野はじっと司の返事を待っている。

「ったくよー。」
ガツッ。
司が、俺の脛に一発ガンっと蹴りを食らわせた。
いってぇ。

「俺の記憶にはねぇが、お前が謝れっつーんなら、謝る。」

俺は、脛の痛みも忘れて、思わず、司をガン見。
桜子も驚いたように司を見ている。

だってそうだろ?
この道明寺司が、自分の非かどうかも確かめないままに、牧野が言うなら頭を下げてもいいと言ってるんだ。
信じらんねぇ・・。


「じゃあ、謝って。はい。どーぞ。」
牧野・・お前、この後どうなっても知らねぇぞ・・・
俺の背中に、ダリダリと冷や汗が滴った。

「おい、女、悪かったな。」

「「ブッ・・ブブッ・・!!」」
その言い方に、俺も桜子も爆笑だ。
必死に抑えるが、笑いが込み上げてきて止まらねぇ。
だが一人、牧野だけが笑っていない。

「心がこもってなーい。」


はぁ・・全く。
俺はもう、どうでもよくなった。
俺と桜子の問題はほぼ解決したしな。
後は、お前らでやっといてくれよ。

「牧野、お前が知らなかっただけだぜ。お前と出会う前の司は、ホントひでぇ男だったよ。女なんて、虫けら同然。カス扱いだったな。」
「ひどいっ!」
「黙れ、あきら。」

俺への怒りを露わにする司に、桜子が笑いをこらえながら言った。
「もういいですわ。牧野・・センパイ。だって、幼稚舎の頃の話ですもの。」


その言葉を聞いて、牧野が怪訝な顔つきで桜子を見る。
そして、首を傾げて、
「幼稚舎?」
と呟いた。

「ええ。」
「それって、なーに?」
「幼稚園ともいうな。英徳では幼稚舎。」
と俺が説明してやれば、
「よ・う・ち・え・ん~!??」
と牧野がびっくり顔になった。


「もしかしかしてぇ、さっきの話って、幼稚園の時の話なのぉ?」
「そうですよ、先輩。」
「幼稚園の時に、ブス呼ばわりされたってことぉ??」
「ええ。」

一瞬唖然とした牧野。
次に我に返ると、桜子からポンと離れた。
「あんたっ。そんなの覚えているわけなくない??どんだけ執念深いのよっ。」
「あら?別に、私、道明寺さんを恨んでるなんて、一言も言っていませんわ。先輩が勝手に、道明寺さんを呼び出したんでしょ?」

そう言われて、牧野はポカーンと口を開けている。
女が、そんな阿呆面してんじゃねぇよ。
虫入るぞ。


それから牧野は、自分の方が分が悪いと思い至ったのか、そろーっと司に視線を向けた。
その視線の先には、凶悪面をした司。
牧野の背筋が伸びたぞ?
司が、両膝に肘を置き、前傾姿勢で両手の指を組んだ。
やべっ。司のスイッチが入った。

「どーゆーことか説明してもらおうか?」
「いや・・その・・これは・・・・」
急にしどろもどろになる牧野。
お前、さっきの勢いはどこいった?

このままじゃ、危険だ。
俺たちは退散だな。

「じゃ、俺たちは帰るわ。桜子、行くぞ。」
俺は立ち上がってジャケットを羽織った。

「それでは、先輩、道明寺さん、失礼します。」
結構飲んでたわりに、シャキッと立ち上がる桜子。
こいつ、絶対ワザとだな。
ワザと牧野に司を呼び出させた。


「先輩、ありがとうございました。すっきりしましたわ。」
「すっきりって・・なんで・・・」
「だって、道明寺さんの恋人が、どうしてこんなフツーの人なのか、確かめたかったんですもの。」
「はぁ・・??」
「今までに女性との噂なんて一度もなかった道明寺さんの初スキャンダルですよ?相手の女性がどんな人物か知りたくもなるでしょう?」
「すきゃんだる・・・」
「でも、本当だったんですね。先輩が道明寺さんの恋人だっていう話。まさか、こんなにフツーの人だとは思いませんでしたけど。」
「あっ、あんたっ、フツー、フツーって。」
アワアワとして、軽くパニック入っている牧野。
お前、分かってんの?
フツーってことの前に、お前が司の女だってこと、俺たちずっと知ってたんだぜ?

司はと言えば、桜子をジロリと睨みつけている。
「おいこら、ブス、黙れっ。牧野は世界一可愛いんだよっ。」

「司さんっ!そんな言い方っ!」
「ブスにブスっつって何がワリィんだよ。あぁ?」
「だから、人を傷つける様な事は言っちゃだめっ。」
「俺は本当のことしか言わねぇし、お前は世界一可愛い。」

司が甘ったるい目で牧野を見つめている。
はぁ、もう、勝手にやってくれよ。
このバカップルめ。


「だけど、納得しました。道明寺さんが牧野先輩を選んだ理由。ふふ、これからも宜しくお願いしますねっ、セ・ン・パ・イ。」
桜子がフフンと笑って、俺の腕につかまり、俺たちはその場を後にする。


「いや、ちょっと・・待って・・待って、桜子っ!」

背後から聞こえる牧野の焦った声に、一度だけ振り返ると、
俺たちを追いかけようとしてふらついた牧野を、すかさず司が引きずりよせていた。


「ちょっとっ!待って!置いてかないでっ!」
往生際悪く、バタバタと騒いでいる牧野を放置して、桜子と二人店を出た。





結局のところ・・・
桜子は、牧野がどんな女か試したかったということか。
俺のことが好きだと言うことは信じている。
けど、司のことだってずっと好きだったんだろ?
その司が認めた女に興味を抱いたんだろう。
俺の親父も気に入った女ってこともあっただろうしな。

そして、試した結果、納得したってとこだな。
司に謝罪までさせた女。
なんせ、俺たち二人を前に進めてくれたのは、牧野つくしだからな。


あはは。
ワリィな牧野。
けど、めちゃ、感謝してる。
ここからは、俺がビシッと決めるから。
お前は、司のこと頼んだぜ。



 

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牧野と桜子を乗せた車の中。
運転する俺。
助手席の桜子。
後部座席の牧野。

お袋が欠けたこの三人では、なかなか会話も弾まない。
と、突然桜子が話し出した。

「牧野さんは、道明寺支社長のお気に入りの新人さんなのでしょう?」
「あのっ、お気に入りという表現は違う・・と思いますが、今回の企画も含め、支社長から直接ご指導を頂いています。」
牧野・・・お前は、完璧、司のお気に入りだろうがよ。
総二郎じゃねぇが、隠してっとややこしーんだよっ。
この空間で、司と牧野の関係を知らない奴はいないんだぞ。
俺は思わず溜息をついた。

「私、もう少し、牧野さんとお話がしたいわ。あきらさん、どこか、お店に行きましょうよ。」
桜子が、柔らか気な口調とは裏腹に、俺には鋭い眼光を向けた。
おいおい、なんだよ、勘弁してくれよ。

俺が返事をせずに黙っていると、牧野が口を開いた。
「あの・・私はお邪魔だと思うので、お二人で行ってください。私、ここで降りますから。」
バカ言え、お前が桜子のターゲットだ。
逃げられるはずねぇよ。

「プランのお話ももう少ししたいし、牧野さん、是非、お願いしますわ。それに、邪魔だなんて。私とあきらさんはそういった関係じゃありませんよ?」
「ええ~っ!」
牧野、驚きすぎだ。
つーか、桜子、お前もなんでそんなことをわざわざ言うんだ。

「でも・・昨日、ホテルに二人で・・」
と呟いた牧野が、はっと口を閉じる。
客の個人情報の口外は厳禁だ。
なるほどな・・昨日のことを目撃されていた訳だ。

「ふふっ。牧野さん、面白い方ですね。恋人じゃなくても、ホテルに泊まることぐらいありますでしょ?」
桜子のその口調に、俺はどうしたらいいのか、分からなくなった。





結局俺たちは、俺が経営するBarの個室へ。
まだ18時の開店前だったが、仕方なく、無理やり店を開けさせた。
突然のオーナー登場に、店の奴らもビビったはずだ。

はぁ・・しかし・・

一杯目のカクテルを飲んだ女二人は、妙な話題で盛り上がっている。
「マダムキラー・・ですか?」
「ええ。年上の既婚女性ばかりをターゲットにする人のことです。」
「へぇ・・。美作専務が・・。」
牧野が、軽蔑したかのような顔で俺を見ている。
違う・・俺はもう卒業したんだ・・。

「てっきり、お二人は恋人同士だと思っていました。とてもお似合いでしたから・・」
「そうですか?」
ちらりと、桜子が俺を見る。
だから、俺にどうしろっつーんだよっ。


二杯目のカクテルも運ばれてきた。
桜子は酒に強いが、牧野は大丈夫なんだろうか・・?

「牧野、お前、酒、強いの?」
何かあったら、司に殺されるぜ?
「まぁ、この程度は大丈夫です。」
「そっか。」


・・・が。
その後あたりから、牧野の様子がおかしくなった。

「だいたいー、マダムキラーってなんなのーっ?」
牧野の口調が妙にトロくなり、完璧なタメ語になっている。

「ですから、あきらさんのことです。」
「桜子さーん。そんな男なんてー、さっさと、すっきり・きっぱり別れちゃいなよ。」
「それができれば苦労はしません。」
苦労はしませんって・・
お前はなんでそんなに冷静に答えてんだよ。
おい、牧野っ。お前、酒は大丈夫だったんじゃねぇのかよ。

「優しそうな顔してー、ホント最低な男ですねー。」
本人目の前にして言うか・・普通?


「まぁ、私は昔から男運が悪いんです。」
「ええ~??」
「以前に憧れていた男性には、ブスッ、ブスッ、ドブスと言われましたし。」
「ブスっ!?桜子さんにっ?誰っ?誰っ?そんなバカなことをいう男はっ!」
急に動きが活発になり、大袈裟に左右を見ている牧野。
つーか・・・お前の男だよ。

「その男のせいで、何度痛い思いをして、整形したか・・。」
桜子はウイスキーに入った。
相変わらず強ぇ。

ポカーンと口を開けた牧野。
「信じらんない・・・その男のせいで、整形をしたっていうの?」
「ええ。私の美の追求の原点ですね。」
「はぁ・・でも、その男、自分はよーっぽどいい男なんでしょうねっ。」
息まく牧野に、桜子が笑っている。
こいつは何を考えてんだよ。


「桜子、今でもその人のこと、忘れられないの?」
三杯目のカクテルに口を付けながら、牧野が言った。
すでに、呼び捨てになっている。

「いえ、もう過去のことですから。私、整形をしたこと、後悔してないんですよ。そのおかげで、この美しさを手に入れたんですから・・。」
「うん。うん。そっか。そっか。そうだよねー。努力したんだもんねー。うん。うん。えらい、えらい。で、なんで?専務は、桜子が綺麗だと思わないんですかっ?まさか、年下はダメだとか?」
牧野が、なんで、なんでを繰り返す。
そんなんじゃねぇよ。
整形なんて、なんとも思っちゃいねぇ。

「さぁ、どうしてなんでしょうね?」
と小首をかしげる桜子。

「もしかして・・桜子は、専務のことが好きなの?」
牧野が、さらっと爆弾を投下した。
俺は息を飲んだまま、フォローもできなかった。

「はい。」


今・・今、なんつった?
桜子が・・俺を好き・・?
はぁ??

「美作専務っ、今の聞いたっ?聞いたのっ??あんたのことが好きだって言ってんだよ?何とか言いなよっ。」
牧野がバンっとテーブルを叩いて、俺に返事を促すが、俺も頭が混乱してる。

「いや・・ちょっと‥牧野、お前、落ち着け。」
「落ち着いてられるかぁっ!こんな可愛い子に好かれて。それなのに、中途半端なことしてっ。何が、マダムキラーよっ!あほかっつーのっ。F4が聞いて呆れるっ!!」
ガミガミと説教を垂れる牧野。
頼む、お前は黙っといてくれ。
俺も、頭がパニックで・・。


「桜子・・お前、だって・・あいつのこと・・」
「あいつって誰??」
俺の言葉にすぐに牧野が反応する。
あーもう、牧野がうるせぇ。

「あきらさんは、今でも私が昔好きだった男を忘れられないと思っているんですよ。」
桜子はいたって冷静だ。
「昔って・・桜子をブス呼ばわりした男のこと?」
「はい。」
「でも、もう何とも思ってないんだよね?」
「ええ。」
「うーん。うん。うん。で、美作専務はどうなんです?」
すっかりその場は牧野に仕切られている。

「いや・・俺は、桜子が今でもあいつのことを好きだと思ってたから・・だな。」
「遠慮してた?」
頷く俺に、なるほど~っと腕を組んで頷く牧野。
お前は、お見合いおばさんか?

「なんだぁ。これにて、一件落着じゃーん。あー、良かった。良かったねぇ、桜子。」
隣に座る桜子の肩を遠慮なく、バシバシと叩く牧野。
そんな牧野にニコッと笑う桜子。
俺は何と言ったらいいのか・・。
まさか、こんなタイミングで告白することになるとは・・。
俺、カッコ悪過ぎんだろ。


「そうなるとさぁ。その男。ブスって言った男。そいつが全部悪いよね。桜子を傷つけてさぁ。そんで、二人の仲を誤解させるような男でしょ?最低じゃん。」

その言葉を待ってましたとばかりに、桜子が口を開いた。

「その人、道明寺司って言うんですよ。道明寺HDの支社長の。」


・・・
しーん。



それを聞いた牧野の顔は何と言ったらいいのか・・
鳩が豆鉄砲をくらったような顔ってやつなのか。
今までの勢いはどうしたんだよ・・おい。

「道明寺司・・?」
「ハイ。」
「その最低男が?」
「ハイ。」
桜子は完全に面白がっている。


それから、
牧野は手に持っていたカンパリオレンジを一気飲みすると、
すぐにスマホを取り出して、勢いよくタップした。



 

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やっと明日は坊ちゃんに会えます(笑)。

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あきら君目線のお話になります。
***




親父とお袋に頼まれて、今日は午後から、「東京メープルの牧野さん」の接待をしろと言われていた。
総二郎から話は聞いていたから、「牧野が司の女」だということは、十分に分かっていた。
俺からしたら、そんなややこしそうな接待なんてブッチしても良かったんだが、心のどこかで、「司の女」を見てみたいと言う好奇心があった。

総二郎の話では、お嬢ではなく、パンピーだという。
そんな女に司が入れ込んでいる?
しかも、あの総二郎が、女を尻軽扱いせずに、「地味だけど、イイ女だぜ。」なんて評した。
一体どんな女なんだ。

実際に会った牧野は、総二郎の言っている意味が分かるような、地味な印象。
けれど、表情が豊かで面白い。
つい、話かけたくなるような女だ。
お袋の言動に心底戸惑っている表情も面白かったし、俺とのことを条件に挙げられれば、本気で焦っているのも丸わかりだった。
落ち着きはないが、クルクルと変わる表情が可愛い印象だ。
これが、「司のタイプ」か・・。
ま、ぶっちゃけ、俺のタイプではねぇな。

話の流れから、桜子を呼ぶことになった。
俺はこの時、深くは考えていなかった。
どうせ、桜子は牧野のことを知らねぇんだから、問題ないだろうと・・




カチャリとドアが開く音がして、桜子がリビングに入ってきた。
「おば様、ご無沙汰しております。あきらさん、こんにちは。」
そう言って、優雅に挨拶をする。
シフォンのスカートにシルクのブラウス。
繊細な編み目模様の施されたピンクの羽織。
お袋のツボを心得てるな。
今日は、柔らかめのメイクをしている。
相変わらず、完璧だ。


桜子は、世間では俺の恋人と噂されているが、実際のところはそうじゃない。
大学時代に、いつの間にか俺たちF3に近づいてきた。
どういうきっかけだったかは忘れたが、俺が年上の女とのデートで揉めた時には、桜子が何かと助けてくれるようになった。
今では、様々なパーティーのパートナーに、俺は桜子を指名する。
彼女も特に嫌がってはいない。
かといって、俺に興味があるような素振りもない。
体の関係は・・・ある。
それは不思議と、俺が仕事で疲れた時だったり、気分的に落ちている時だったりするんだよな。
桜子を抱くと、面倒くさいことを忘れられる。
俺は、何度も桜子に助けられているのを自覚している。

桜子は、過去に、司の暴言のせいで人間不信に陥って、顔面整形を繰り返した過去がある。
こいつとっては、司が初恋だったんだろうな。
こいつが俺に近づいたのは、いつかは司に会って、今の自分を認めさせたいと思っているからじゃねぇかと思う。
決して本人がそう言った訳ではないが、恐らく・・そうなんだろう。
じゃなきゃ、なんで俺との関係を続けてるのか理由が分からない。

そんな利害が一致して、俺たちは、互いに割り切った関係ってやつを貫いていた。


俺が初めに桜子に抱いた感情は、同情だったかもしれない。
けれど、少しずつ桜子の細かい気遣いや女らしさに魅せられて、いつの間にか惹かれていた。
気遣いができる女なんだ。本当に。
いろんな面で細かいことが気になる性分の俺に、深い安らぎを与えてくれる女。
年上の女との付き合いは、それはそれで楽な部分も多いが、それでも自分が背伸びをしない訳ではなかった。
桜子は、俺がが背伸びなんかすることなく、等身大の自分として付き合える女だった。
可愛くないところが多いが、自分が傷ついた過去がある分、人の痛みにも敏感だ。
俺が疲れた時には、必ずと言っていいほどのグッドタイミングで携帯が鳴る。
そして、互いの肌を合わせる。
体の相性は、今まで付き合ったどんな年上のテクを持った女よりもいい。


俺たちの割り切った関係。
俺が本気になったところで、どうしようもない関係。
桜子自身が俺のことをコマとしか思っていない以上、俺が動くことはない。
ただ、彼女を見守っているだけだ。
本当は、俺はもうマダムたちとなんかとっく切れているが、それをこいつに伝えたことはない。
俺の本気は、桜子にとっちゃ迷惑な話だろうしな。
俺の気持ちを知れば、こいつは逃げていくかもな。
だって、桜子は、今でも司が好きなんだ・・たぶん・・いや、きっと。




「桜子ちゃん、本当に久しぶりねっ!元気にしてた?」
きゃーっと騒ぐお袋。
お袋もオヤジも、桜子のことは以前から知っている。
俺がパーティーに同伴している女ということで、何度か家に来たこともあったから。
二人は、俺と桜子のことは、英徳大学の先輩・後輩の関係だと思っている。
俺が桜子をそう紹介したから。
まぁ、それが今の俺たちの関係の全てではあるが・・。


「桜子ちゃん、こちらはね、東京メープルの牧野さん。」
「牧野です。どうぞよろしくお願いいたします。」
牧野が名刺を差し出すと、桜子が受け取った。

「牧野・・つくしさん。先日、メープルでお会いしましたわね?」
「はい。」
「近いうちにお会いできると思っていました。」

俺は衝撃を受けていた。
桜子の奴、すでに牧野に会ってたのかっ!?

俺は油断していたんだ。
てっきり、俺が言わない限り、桜子は牧野が司の女だと言うことに気付かないだろうと思っていた。
けど、違ったようだ。
すでに、桜子は、牧野が司の女だってことは気付いている。
この間の総二郎との会話・・うまく誤魔化したと思っていたが、やはり内容を聞かれていたらしい。
こいつは、司の女である牧野の偵察に行ったに違いない。
こいつは、一体何を考えてるんだ?


ひやひやと俺が落ち着かずにいる間にも、淡々とメープルの企画の話は進んでいき、一通り牧野が説明を終えたところで、
「じゃぁ、今日はこの辺でいいわよね。桜子ちゃん、じっくり考えてくれる?」
とお袋が、企画の話を終わりにした。
「はい。」
「じゃあ、ケーキの時間にしましょうっ!」
「あっ、私手伝います。」
張り切るお袋に、牧野が付いて行った。


リビングに桜子と二人きり・・
「お前、牧野に会ったことあるのか?」
「ええ。ほんの偶然ですわ。」
「あの時、総二郎との話、聞いてたんだろ?」
「私が牧野さんにお会いしたら、あきらさんに不都合でも?」
「いや、ねぇよ。」

「牧野さんは、道明寺さんの恋人。」
俺をみた桜子の視線を受け止める。
「それから、美作社長のお気に入りで、あきらさんに紹介しようとしている女性。」
桜子が確認をするように呟いた。

「お前、何を考えてる?」
「別に、何も。ちょっと、興味が沸いたってだけです。」
桜子からは特に何も探れない。


しばらくして、牧野とお袋が戻ってきた。
お茶をしながら、話が弾む。
いや、弾んでいるのは、お袋だけか・・。
エステやヨガの話から始まり、自分とオヤジの話まで。
楽しそうに話すお袋を、桜子も牧野も上手に聞いてやっている。

「あっ、そう言えば、パパったら、つくしちゃんには彼がいるのに、あきら君にどうかって。本当に困っちゃうわよねぇ。ね?あきら君っ。」

お袋に急に話をふられ、焦る俺。
別に疚しいことがある訳じゃねぇが、桜子にはこれ以上、その話は聞かせたくなかった。
司はともかく、俺は牧野とは一切無関係なんだ。
変な誤解もして欲しくなかった。

ちらっと桜子をみると、鬼の形相で俺を見ている。
ズキッとする、胸の痛み。
桜子の視線が痛い。
俺と桜子は割り切った関係のはずなのに、どうして、俺が罪悪感を抱くんだよ・・。
それに、お前のその視線は何なんだ・・?

それから、桜子はいつの間にか、いつも通りの優雅な表情に戻り、
「牧野さんの恋人って、どんな方なんです?」
と素知らぬふりで尋ねている。

その質問に、少し考えた牧野。
「そうですね。優しい人・・かな。」
「優しい人・・」
「感情がストレートというか。」
と言いながら、牧野の顔が緩んでいる。

「そうですの。」
と、桜子がちらっと俺を見る。
司が優しい人だなんて、桜子にはあり得ねぇんだろうな。
実際、俺にとっても、司が優しい男という印象は皆無だ。
それだけ、牧野の前ではレアな司がいるってことだ。


「では、あきらさんのことは?」
急に、俺とのことまで質問しだした桜子。
「ごほっ。それは、美作社長が、勝手に言い出したことで・・・。紹介だなんて、あり得ませんっ。ねっ、美作専務っ。」
紅茶にむせて、焦る牧野に、俺も同意した。
「あぁ、そうだな。」

俺が同意すると、ほっとした様子の桜子。
目が合うと、彼女がわずかに笑った。
桜子の心情は読み取れないが、少しでも笑ってくれただけで俺は安心する。
桜子が牧野にどんな感情を抱いているのかは読めないが・・。


だけど、俺は、桜子に言ってやりたい。
過去に司が吐いた暴言に、お前は深く傷ついたのは同情する。
でも、それって、幼稚舎の頃の話だろ?
もう、20年近くも経っている。
だったら、もう司なんかに囚われず、本来のお前の良さを分かってくれる男と幸せになったらどうなんだ?
例えば・・俺・・とか?


グルグルと考えているうちに、紅茶が冷めてしまった。
「美作専務、新しい紅茶、淹れましょうか?」
突然話かけてきた牧野に、俺が返事をするよりも前に、

「私が淹れますわ。」
桜子が俺のカップをとった。


桜子が何を考えているのか、分からない。
そして、俺自身もどうすればいいのか・・

いつもは司の強引さに辟易するが、
こういう時には、司の俺様っぷりが羨ましくなる。

あいつなら、自分の思った通りに突き進むんだろうな・・。



 

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いつの間にやら、あきら×桜子・・。
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今日は、午後から美作社長のご自宅に呼ばれていた。
もちろん、夢子先生の料理教室についての提案をさせて頂くためだ。

高級住宅地には、バス停なんてあんまりなくて、結構歩いてやってきたのは、レンガで囲われた広いお邸。
チャイムを鳴らすと、自動でゲートが開き、中から使用人が案内に出て来てくれた。
お邸の玄関まで、薔薇のアーチをくぐっていく。
夢子先生がメルヘンチックな印象があるものだから、このバラのアーチも頷ける。
歩いていくと、白い外壁の立派な建物が見えた。

お邸の中に案内され、夢子先生が待っているという、リビングスペースに通された。
一歩中に入ると、そこは・・・
童話の世界??
うさぎ型の背もたれが付いた椅子。
テーブルは切り株のような一枚板。
その奥には、ピンクのソファーセット。
カーテンはピンクとイエロー、ホワイトの花柄模様。
どっひゃーっ!想像していた以上に凄い世界だよっ!

そして、
「いらっしゃーい!」
と元気よく出て来たのは、夢子先生。
ふりふりのロングワンピース。
ふわふわの髪の毛が揺れている。

「あなたが、牧野つくしさん?」
しばしパカーンと口を開けて、阿呆面していたあたしだったけれど、自分の名前を言われて慌てて口を閉じた。
「はっ、はい。東京メープルの牧野つくしと申します。」
びっくりしたよ~!
あたし、もしかして、人選間違ったんじゃない??
って、今更だけど・・
全身から汗が吹き出しそう。


「まぁ、パパが言っていた通りね。可愛いっ!」
そういって、グーに握った右手を口元に当てた夢子先生。
これは、わざとじゃないよね?素なんだよね?
今どき見たこともないぶりぶりっぷりに、言葉もない。
うちのママとの違いに、驚くばかり・・。
これが、カリスマ性というものなの・・?
しかも、この人って、成人した息子さんがいるんだよね?
とても、そんな風に見えない・・

「お袋、牧野さんがビビってるだろ?」
夢子先生の後ろから出てきたのは、顎までのストレートヘアの男の人。
この人って、きっと・・

「あきらくんっ、ほらっ、牧野さんに挨拶しなさいよ。」
そう促されたその人が言った。
「美作あきらです。初めまして。」

美作あきら・・たしか、美作商事の専務で、司さんの幼なじみ。
やっぱり、F4のメンバー。
司さんの鋭かった第一印象とも、西門先生の人当たりよさそうな第一印象とも違う。
なんとなく、落ち着いた感じの人。

「はじめまして、美作専務。道明寺支社長から、お話は少し伺っておりました。」
でも、どうして、今日、ここにいるんだろう?
「そっか。俺、司の、いや、道明寺支社長の幼なじみなんだ。」
そう言って笑った様子は、とても優し気だ。
「はい、お伺いしています。」

夢子先生はあたしと美作専務を隣同士のうさぎの椅子に座らせると、紅茶を運んできた。
「二人とも、緊張しないで。ほら、あきら君、牧野さんにお砂糖聞いて?」
「いえ、自分でできますからっ。」
「いいよ。いくつ?」
「あの・・じゃあ、1つで。」
「オッケ。」

優雅な手つきで紅茶に角砂糖を1つ入れてかき混ぜる美作専務。
かなりなフェミニストの様だ。

「まぁ、二人、お似合いじゃない?」
そういって正面で微笑んでいる夢子先生。
けど、どうして、こんな話になるのか、首を捻りたくなる。

「お袋、牧野さんが困ってる。今日は、仕事に来たんだよね?」
美作専務がさらっと話を振ってくれた。
「はい。企画書でも提案した通りですが、夢子先生に、メープルで、母娘を対象とした、お料理教室をプロデュースして頂けないかと・・。」

すると、夢子先生は、大袈裟にパンと手を叩いた。
「聞いているわ、牧野さん。企画書も読みました。」
「そうですか、忌憚なくご意見を伺いたいです。」

「うーん。そうね、協力してもいいわ。」
「本当ですか!?」
「でも、牧野さんが、うちのあきら君とお付き合いしてくれたら・・だけど。」
「お袋っ!」 
美作専務が焦って、夢子先生の暴走を止めてくれる。


そりゃ・・焦るよね。
あたし、ちゃんと覚えてる。
昨日メープルに来た綺麗な人。
あの部屋は、美作専務の名前で予約してた。
ということは・・・
あの人が、美作専務の恋人だよね?


「ゴホッ。うっ、うん。えっと、牧野さんは、恋人、いるんだよね?」
美作専務があたしに話をふってきた。
何故かすでに恋人が〈いる〉前提だ。
でも、助かった。

「はい。今、お付き合いしている人がいます。」
そう言うと、夢子先生はとっても残念そうに、
「なーんだ。パパがつくしちゃん、つくしちゃんっていうから、是非あきら君におすすめしたかったのに。」
「俺のことと、仕事の件は別だろ?」
と、当然のことを言ってくれる美作専務。
けど、夢子先生は、あの女性の存在を知らないのかな・・。

「そうね~。本当に協力はしたいと思うわ。でも、そのプラン。どうかしら?だって、お料理教室って、そんなに珍しいものではないわ。私が協力したとしても、メープルのお客様が自ら料理することをを望むかしら?」
「夢子先生のお料理教室であれば、人は集まるのではないかと思うのですが・・」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、私なら、母娘で出掛けるなら、娘と一緒に女子力がアップするようなイベントに参加したいわ。それこそ、メープルならではといった・・ね?」
「女子力アップ・・」
「そう、お料理は・・正直、自分で作る人は多くはないわね。それに、自宅のシェフに教えてもらえるでしょ?それぞれのお客様にも、プライドがあるでしょうし。私なら、健康を意識した誰でも作れるような簡単なサンドイッチを作って食べたり、デトックスティーでリフレッシュしたり、母娘でエステとヨガを楽しむとか、娘と一緒に美を追求したいわね。」
「なるほど。」
「難しい料理でなくても、母娘の絆は深まるし、それこそ、サンドイッチをつくることだって、非日常と感じるお客様も多いと思うわ。メープルのベーカリーも有名よね。あそこで特別にパンを焼いてもらうとか。それから、メープルのエステは、いつも混雑していて、なかなか予約が取れないのよ。そのエステが特別に受けられたり、それだけじゃなくて、今流行りのメイクを教わるとかどうかしら?親子でメイクを楽しむのもいいわねぇ。私も、娘たちと行きたいわっ!」
夢子先生がぱぁっと夢見る少女のようになっている。

健康、美、女子力、エステにメイク・・かぁ。
あたしが一番苦手な分野かも・・。

「そうだ、あきら君、桜子ちゃんに頼んだらどうかしら?」
「桜子?」
「だって、桜子ちゃんは、売れっ子のメイクアップアーティストじゃない。桜子ちゃんのお店も予約はなかなかとれないって話よ?」
「まぁ・・な。」
「せっかくだから、桜子ちゃん、呼びましょうよ!ねっ。」


仕方が無さそうに、美作専務が席を立ち、携帯で連絡を取り始めた。
「今から、出て来るって言ってるけど、1時間弱はかかると思う。牧野さん、時間は大丈夫?」
「あっ、はい。大丈夫です。」
「じゃあ、来てもらうね。」


気が付けば、思いがけない方向に話がすすんでる。
だけど、夢子先生に言われて、目が覚めた思いだ。
何も特殊なお料理を習う必要なんてない。
健康や美に注目したアクティビティもいいかもしれない。
メープルならではの、注目度の高い企画にしたいと思った。

そのために、三条桜子さんが来てくれることになったんだ。


___三条桜子さん。
旧華族出身のお嬢様。
現在、英徳大学の4年生。
夢子先生の話によると、美作専務の大学の後輩だという。

大学生にして、エステやヨガ教室、マナー教室等を経営。
自身も現在、雑誌でも引っ張りだこのメイクアップアーティスト。
過去に整形した事実があり、その事実を公表している。
美に対しる探求心は留まるところを知らず、彼女の潔い態度に崇拝者も多数いるらしい。
夢子先生自身、三条さんのファンだという。


あたしは、その名前を憶えていた。
昨日、メープルを訪れた、あの人だ。
そして、恐らく、美作専務の恋人・・。
これは・・偶然なの?



 

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一緒にお風呂に入った司さんを見送って、あたしはタマさんと一緒にお茶をしている。
タマさんの部屋は純和室で、落ち着くんだよねぇ。

「司さんって、本当に女性嫌いだったんですか?」
「そうだねぇ。女嫌いもそうだけど、人嫌いかね。誰のことも信用していなかったね。」
「人嫌い?」
司さんのあたしに対する態度は、ちょっと行き過ぎてることもあるけど、愛情に溢れてると思う。
そんな彼が、人嫌いだなんて、想像できない。

「このお邸で、姉の椿様と二人で育ったようなものだからね。ご両親は多忙でずっとニューヨークだったしね。」
タマさんがあたしに語る話は、何から何まで、あたしが考える家族像ではなかった。
多忙な両親。
愛情に飢えた少年時代。
繰り返す非行。
あたしはお茶をすすりながらその話を聞いていた。

楓社長は、道明寺財閥の女社長で、メープルの統括も行っている。
メープルの名前は、その社長のファーストネームから付けられたもの。
楓社長の経営手腕を知らないメープルの職員などは、存在しないに違いない。
あたしにとっても、楓社長は雲の上の人で、憧れの人でもあった。

ビジネスにおいては、自分にも他人にも厳しい、社員なら誰しもが畏敬の念を抱く女社長。
多忙で、子育てどころではなかったのかも知れない。
あたしはこの時になって初めて考えていた。
いや、どうして今までそこを考えていなかったんだろうとも思う。

メープルを統括する楓社長が、司さんのお母さん。
そんな人が、あたしと司さんの付き合いなんて認めるんだろうか・・・


「あんたは、あんたらしくいればいいんだよ。あんなに優しい顔をする坊ちゃんを、あたしゃ、初めて見たよ。坊ちゃんには、あんたが必要なんだ。離れないでやっておくれよ。」

タマさんに言われなくたって、離れるつもりなんて無い。
けど、ますます、司さんとあたしの格差を思い知った。
楓社長に認めてもらうには、まずは、仕事。
メープルの仕事を絶対に頑張らなきゃいけない。
あたしは、司さんに釣り合うものは何も持っていない。
せめて、仕事では、一目置かれる人間でありたい。

あたしはとても険しい顔をしていたみたいだ。
「そんな怖い顔をしなくても、大丈夫だよ。さて、そろそろ夕食の支度じゃないかい?その茶碗とやらを使うんだろ?どれ、どんな茶碗にしたんだい?」
タマさんにそう言われて、あたしは今日の武勇伝を語った。
店員さんにバレないように値段をチラッと見た事とか、司さんを追い出してなんとか1万円の買い物ができたこととか・・

豪華な木箱から取り出したお茶碗をもう一度眺めてみる。
白なんだけど、少しだけ青っぽく見える。
形は丸い感じで、手になじむ。
やっぱり一目見ただけで心惹かれるお茶碗だ。

「へぇ・・・これが1万円かい。」
「そうなんです。すごいでしょ?」
「・・まぁ、さすがは坊ちゃんだね。」
「なんで、そこで司さん?」
「いいよ、あんたは・・さて、厨房に行こうかね・・」


その日あたしは、帰宅した司さんと、お邸の司さんのお部屋で食事をとった。
白いお茶碗によそった炊き立ての白米は、いつもよりおいしく感じた。
あ、お米自体もあたしが買うものとは違うだろうな。
お邸で和食が出ること自体が珍しいみたい。
司さんはちょっと驚きつつも、喜んでくれた。

「次は、いつ、買いに行く?」
「ん?何の話?」
「食器。」
「ええ~?そんなの決めてないけど。また何かの記念に・・かなぁ。」
「じゃあ、このプロジェクトが成功したら、また買いに行くか?今度は俺がプレゼントする。」
司さんはすごく行きたそうだけど・・
「司さんと買い物すると、なんか疲れるんだけど・・。」
正直に言っただけなのに、司さんに睨まれた。

「いやっ、だってね。緊張するっていうか。司さんと一緒に行動すると、目立つ・・でしょ?」
しどろもどろになって言うと、
「俺が目立つのは仕方ねぇだろ?」
「うん。」
「俺は、早く、お前を恋人として連れて歩きたい。」
「うん。分かってる。」
「本当に分かってんのか?」
「分かってるって・・。」

だけど・・
司さんのお母さんである、楓社長はどう思うんだろうとは聞けなかった。
だって、まだ、聞ける段階にも達してない。
社会人として、仕事で、結果を出さなきゃだめだ。



あたしは、その日はお邸に泊って、次の日からはマンションに戻った。
仕事をしっかり頑張らなきゃいけない。
お邸はメープルから遠いし、それに、司さんのお世話になりっぱなしなのもよくない。
あたしは、あたしで頑張らないと・・。                                                                                                                                                                                          

どうしてか分からないけれど、仲良くなったメイドさんに泣かれてしまって困惑した。
「牧野様、また是非、お待ちしています。」だって。
タマさんに至っては、
「早く、子作りでもして、あたしを安心させてくれないかねぇ。」
なんて言って、あたしを焦らせた。
「またあんたが来るのを待ってるからね。」
そう言って、タマさんは優しくあたしを送り出してくれた。

先のことはまだ分からない。
けれど、今すべきことは、司さんが指導してくれるプランを成功させることと、ホテルでの研修に邁進することだ。
あたしは、大きく手を振って、道明寺邸を後にしたんだ。



*****



西門流とのコラボとも言える、海外外国人宿泊客向けの茶道教室の企画は順調に進み、早ければこの8月からお客様にプランを提供できそうだ。
それに向けてのプロジェクトチームがメープル内に作られて、あたしは今、西門先生と作ったプランを具体化していくために、その準備で忙しい。
それと並行して、美作夢子先生のお料理教室のプランも、明日の午後にご自宅へ招かれると言う形で、アポイントメントが取れた。




___フロントで、宿泊客の対応に追われる時間帯。

「チェックインでございますね。」
17時前後はチェックインで込み合う。
今、目の前に現れた女性は、色白の美人。
緩いウェーブが可愛らしく、お人形さんのような顔立ち。
「美作で予約が入っていると思います。」
みまさか・・・偶然?
一瞬、その名前に戸惑いそうになったけれど、すぐに気を引き締めた。
「はい、確かに、今晩より1泊、美作あきら様で2名様ですね。スイートルームにご案内となっております。」
カチャカチャとキーボードを打ち、チェックインの確認を行う。
記入をお願いした台帳には、『三条桜子』との文字。
「お部屋は、3501号室になります。只今、係りの者がご案内致しますので、あちらのソファに掛けてお待ちくださいませ。」
そう言って、お客様をソファへご案内しようとすると、
「あなたが案内して下さる?」
とその女性が言った。

えっ?と思ったけど、ここで怪訝な表情をする訳にはいかない。
ホテルウーマンはどんな状況にも冷静に・・だ。

「はい、畏まりました。少々、お待ちくださいませ。」
あたしは、フロントチーフに事情を話し、フロントを空ける許可を得てから、彼女の元へ戻った。

「お荷物をお預かり致します。」
お客様の鞄を持ち、高層階専用のエレベーターに案内する。
特に会話はない。
お客様も求めているようでもない。
階の説明とエレベータの使い方の説明のみ淡々と行う。
無言のまま部屋の前まで歩き、カードキーの使い方を説明しようとすると、
「分かるからいいわ。」
と断られ、部屋の中へ入った。
荷物を荷物棚に置き、
「エアコンや浴室の使い方はご存知でしょうか?」
と聞いてみると、
「ええ、あとは大丈夫、ありがとう、牧野さん。」

あたしは、自分の名前が呼ばれたことに焦った。
「一度、あなたを見てみたかったの。ありがとう、牧野さん。」

もう一度、名前を呼ばれた。
自分のジャケットには、ゴールドのプレートで『Makino』の文字。
名前を呼ばれたこと自体は不思議ではないのかも知れないけど、でも、『あなたを見てみたかった』というのはどう考えてもおかしい。
どう返答したらよいものか分からず、お客様を正面から見てしまったけれど、向こうもあたしをじっと見つめていた。
どうして、こんなに見られているのか全く見当が付かない。
だけど、オカシイということは分かった。

「失礼ですが、以前にお会いしたことがありましたでしょうか?」
そう聞くと、
「いいえ、無いわ。」
という答えが返ってきた。
なら、どうして・・?

その後、彼女の視線が逸らされた。
「ただ、興味があったの。また、お会いできるといいわね。」

訳が分からない・・
そう思うけど、それ以上どうしようもなくて、
「失礼します。」
あたしも部屋を下がった。



 

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