花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

「マスター。ご無沙汰しています。急に時間が出来てしまって、今日、お手伝いしてもよろしいですか?」
「あぁ、助かるよ、牧野さん。」

牧野さんはすでに、スタッフの制服に着替えている。
これまでにも何度も手伝いに来てくれているから、僕が牧野さんを断ることはないと分かっているのだろう。

フロアに出ようとする牧野さんを呼び止めた。

「カウンター、入ってもらってもいいかな?こちらのお客様、お願いできる?カクテルのオーダーがいっぱいなんだ。」
「はい。」

何も知らない牧野さんが、僕たちの方へ近づいてきた。

「こちらは、実社長。ニューヨーク暮らしで、久しぶりに戻られたんだ。おつまみ、いくつか用意してもらえるかな?」

そう頼むと、テキパキと準備を始める牧野さん。

「実社長、初めまして。牧野です。よろしくお願いします。お好みのものはありますか?フルーツはいかがです?」
「じゃあ、そうしようかな。」
「はい。」

全く・・気づいていない。
ここに、司君の父親がいるということに。
気付かない方がいいのか、それとも、気づくべきなのか・・
その答えは分からない。
どちらにしても、僕には何もできない。

ニコニコと対応する牧野さんを、道明寺財閥総帥がじっと見つめていた。



***



さすがは牧野さんだとしか言いようがない。

相手の正体を知らないということが大きいのだとは思うが、15分もしないうちに、二人は打ち解けている。

「そうですか。ニューヨークから、お子さんの様子を伺いに?」
「まぁね。もう、大きな息子だから、私が管理するような歳じゃないんだけどね。」
「ふふふ。でも、離れていては心配ですものね。」

それが、司君だなんて知ったら、倒れそうだな。
僕も冷や汗ものだ。

「息子は図体ばかりデカくて、我儘で、困った奴なんだけどね。最近恋人ができたみたいでね。」
「そうなんですか。」
「彼女の方も大変なんじゃないかな。息子が、我儘で自分勝手だから。」
「ぷっ。見て来たような言い方ですね。」
「分かるよ。親子だからね。」

二人はクスクスと笑い合っている。

「牧野さんは?恋人はいるの?」
突然自分に振られた質問に、牧野さんは戸惑った様子だったが、
「いますよ。」
と答えた。

「どんな男?」
その質問に目を丸くしながらも、普段聞かれないことを聞かれて、実は嬉しいのかも知れない。
牧野さんが楽しそうに答えた。
相手が自分の全く知らない人物だと思えばこそ・・なんだろうが。
「ええーっと。そうですね。我儘で、自分勝手・・って、実社長の息子さんと同じですね。」

ぷっと笑い出す牧野さん。
そうなんだよ。
同じなんだよ。

「ということは、その男のことで困ってる?」
「いえ・・そんなことは・・。あの・・我儘ですけど、すごく優しい人なんです、彼。」
「へぇ。」
意外そうな、総帥の表情に、牧野さんは気付いていない。

「よく考えたら・・私の方が、我儘なのかも知れません。」
「どうして?」

牧野さんは、お皿をふきんで拭きながら、ゆっくりと話し出した。
「彼には自分だけを見ていて欲しいと思うのに。だけど、自分は・・」
「もしかして、他に好きな男でもいるの?」

「ちっ、違います!そうじゃなくて・・。仕事・・とか、まだまだ頑張らなくちゃいけないことがたくさんあって、彼の想いにきちんと応えられていないような気がします。それに、彼の住む世界は私の住む世界とは違い過ぎて、私が簡単に飛び込んで行けるような場所じゃ無いんです。」

「それで、どうするの?」
「私は、どう頑張っても彼に釣り合うものはもっていないんです。それでも、自分に自信を持ちたくて。以前から希望していた仕事に挑戦したいと思っていて・・。自分に自信が持てたら、彼と幸せになれるような気がするんです。実際には・・そんな簡単なことでは無いのかもしれないですけど。」

「牧野さんがやりたい仕事って何?」
「あ、私、ここ東京メープルで働いているんです。今はブライダル部門なんですけど。でも、元々は海外のホテルで働くことも視野に入れて就職したんです。ホテルウーマンになるのは私の夢でもありますから。もしかしたら、そのチャンスがあるかも知れないんです。」
「へぇ。その、我儘な彼は、許してくれた?」
「一応は・・。」
「一応?」

牧野さんがコクリと頷き、声を低くした。
「実社長、これ、内緒ですよ。誰にも言っちゃだめですよ。」
「うん。」

総帥は面白そうに、牧野さんに耳を寄せている。
牧野さん、すぐ後ろに僕ががいること、忘れてるよね・・。
このお客様が司くんと繋がっているだなんて、全く考えていないんだろうな、牧野さんは。


「彼が、婚約しようって。婚約したら、海外の仕事に行かせてやるって。」
「へぇ・・余程、君のことが好きなんだね、彼は。手放したくない訳か。」

総帥が、笑いを堪えている。
司くんは、牧野さんにプロポーズしていたのか。

「笑わないでください。真剣なんですから。でも、婚約なんて、そんなこと簡単にできるわけないのに・・。現実が見えているのかなぁ、我儘坊ちゃんは。」

ぷっ。総帥はの前で、それはないよ、牧野さん。

「ははは。それで、牧野さんは、現実を考えると難しいと思っている訳だ。」
「はい。彼の気持ちは嬉しいです。でも、それこそ、私が、仕事をもっと頑張ってからでないと、婚約だなんて・・。でも・・ふふふ・・実は、彼から、指輪を貰ったんです。それが、すごく嬉しくて。婚約なんて言ったら大げさだけど、その指輪を貰っただけで、私は頑張れると思っているんですけどね。彼は、婚約するの一点張りなんです。」

総帥の前で、小さく溜息をつく牧野さん。


「仕事も恋愛も、全部手に入れようなんて、やっぱり無理だと思うんです。だから、一つずつ頑張りたいのにな。」

「どうして、無理だと思うのかな。」
総帥が、テーブルに肘をつき、両手の指を組んだ。

「え?」
「両方を手に入れることが、どうして無理なの?」
「どうしてって・・」
「若いんだからさ。もっと、がむしゃらになってみたら?釣り合わない、だめかもしれない、じゃなくて、やってみよう、両方手に入れようってさ。もっと貪欲でいいと思うよ。これは、私の人生経験から。」

「人生経験・・ですか?」
「私の妻はね、両方をとったよ。結婚をしてから、大きな仕事を任されるようになって、初めは涙ながらに仕事をしていたけど、今ではその道で認められる女になった。そんな彼女を見ることが、私のパワーにも繋がったかな。」
「そうなんですか?」
「うん。」

牧野さんは、何やら考えているようだ。
仕事も恋愛も両方とれと言われても、道明寺司との恋愛は二人だけでは成立しないだろう。
その一族から認めてもらえるかどうか・・。
総帥は応援しているように見えるが、一体何を考えているのか、今一つ分からない。


「うちの我儘息子も、そろそろ彼女を紹介してくるんじゃないのかなぁ。」
「そうなんですか?」
「たぶん・・ね。」
「ドキドキしますか?どんな女性かって。」
「そうだなぁ。まぁ、私は、いい年の息子が決める事に何を言う気もないんだけどね。妻がね。」
「奥様が反対を?」
「どうかなぁ。ほら、私の妻は、自分が仕事を恋愛も成功させたものだから、女性を見る目は厳しいんだよね。」
「ちょっと‥怖いですね・・」
「ぷっ。だけど、恐らく、牧野さんみたいに、仕事も恋愛も頑張りたい人は歓迎じゃないかな。」
「あたしっ!?」
「あはは・・まぁ、頑張って。牧野さん。応援するよ。」
「脅しているみたいに聞こえます、実社長・・」

「あはははは・・」

総帥がこんなに笑っているのを初めて見た。
本当に驚くことばかりが起こる。
牧野さんの周りでは。

笑顔を見せる総帥は、ますます司君に似ていると思う。
いや、司君が総帥に似てるのか・・。
ちらっと牧野さんを見ると、牧野さんの手が止まっている。
その視線の先には、総帥。

もしかして・・気づいた?

僕の手も止まってしまった。
総帥もちょっと怪訝に思ったのか、牧野さんに声をかける。

「どうかした?」
「あっ・・いえ、その・・実社長は、もし・・もしも、奥様のお仕事が上手くいかなかったら、どうされたのかなって。結果として、奥様は仕事も恋愛も手に入れたけれど、もしかして、お仕事が上手くいかなかったら・・どうしたのかなって・・。ごめんなさい・・こんな失礼なこと・・。」

「どうもしないよ。失敗したっていいんだ。そんなことで妻を手放す訳ないだろう?けど、そうだな。もし、妻の事業が暗礁に乗り上げるようなことがあったら、私は影から、どんな手を使ってでも、妻を助けてしまうかな。ま、そのためには、自分自身の失敗は許されない訳だけど、そんなことはどうでもいいんだよ。私にとって大切なのは、妻であって、仕事じゃないからね。」

それを聞いて、少し驚いた表情で、じーっと総帥を見つめる牧野さん。
それから、ちょっと笑った。

「実社長の考え方って、ちょっとだけ私の彼と似ています。彼、言ってたんです。仕事なんて出来なくても、そのままの私でいいって。あの時は、素直にその言葉を受け取れなかったけど、でも、そうなのかなって・・ちょっと思えました。」

そんな牧野さんの言葉を聞いて、総帥はむきになって答えている。
「私はその彼とはちょっと違うよ。あくまで陰からサポートするからね。仕事が出来なくていいなんて妻に直接言ったら怒られてしまうからね。」

それは、総帥の本音らしい。
牧野さんが、声を出して笑った。

なんだ、全然気が付いていないのか・・。
安心したような・・少し、残念なような・・。


「しかし、女性は確かに怖いよね。」
「はい?」
「だってさ。今まで、息子のことなんて何にも興味がなさそうにしていたのに、いざ、息子に紹介したい恋人がいると言われたら、私に様子を見て来いなんて言うんだよ、私の妻は。」
「へぇ。どうして、ご自分では行かれないのでしょうか?」
「さぁ。どうしてかな。恥ずかしいのかなぁ。」

そんな訳はないだろう。
楓社長が現れたら、さすがの牧野さんでもすぐに気づくさ。

「私、彼のお母様のこと、尊敬しているんです。憧れているっていうか・・。だから、まだお会いしたくないっていうのもあるかな・・。」
「ほう。」
「その・・彼の恋人としての評価も気になりますけど、んー、まだ仕事もきちんとできていないのに、紹介されるっていうのが・・ちょっと・・。」
「ふーん。そうなんだ。」
「先日、彼のお母様が手掛けた仕事を見たんですけど、本当に素晴らしくて。私もいつか、ああいう仕事ができるようになりたいなって思うんです。まぁ、何年も先の話ですけれど。」
「へぇ・・。」

総帥は何やら考え込み、少し首を捻った。

「それじゃあさ。彼の父親のことは気にならないの?」
「え?」
「普通は、父親の反応を気にするんじゃないの?」
「あ・・そうですよね。そっか。ちょっと、忘れてた・・かも・・」


「「「ブッ」」」

いや、笑ったのは僕だけじゃない。
ほら、近くにいたSPも、顔をそむけただろ?
総帥が、僕を睨んだ。
仕方ないじゃないか。


恐らく、総帥は、牧野さんと司君の恋愛に反対はしていない。
楓社長はどうなんだろう。
総帥の言うことが本当であるならば、今日の会話はきっと楓社長に筒抜けになる。
それがどう評価されるのか。


だけど、どう見ても、牧野さんと司君には強い絆がある。
その絆は、きっと、総帥にも見えただろうと思う。



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GWに入りましたね~。
私は、前半が来客や仕事で忙しくて、後半に余裕がある感じです。
そんな訳で、明日は更新ができません。
その後も、不定期で飛び飛びになってしまうかなと思います。
更新する時間は5:00のままにしたいと思いますので、また、時々覗いてやってください。
では、皆様も、楽しいGWを!
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  1. 続・俺の女
  2. / comment:4
  3. [ edit ]

金曜日まで、二人きりでリゾートを楽しんだ。
誰の目を気にすることなく、自然体で過ごせる時間。

隣を歩くつくしの指には、贈ったばかりの婚約指輪。
俺が拘って選んだ、ハート型のダイヤモンド。
つくしは、何度も自分の左手を見ては、「可愛い」と言ってくれる。
けれど、彼女が喜んでいるのは、そのダイヤの価値なんかじゃない。
きっと、そのダイヤの価値なんて知りやしない。
ただ、このダイヤに込めた俺の想いは、十分に伝わったはずだ。


つくしが職場に土産を買うとか言ったから、リゾート内のショップを見て回った。
散々迷った末に、つくしが選んだのは、結局食い物。
「やっぱりさ、食べ物が外れがないのよね。」
けどよ。
沖縄行ったはずのお前が、アメリカ製のチョコレート菓子とか買って帰ったら、おかしいんじゃねぇの?と思ったが、それは敢えて言わずにおいた。
これに決めるまでも、かなりな時間がかかっていたからな。

再び歩き出した時に、ふっと目に留まった、木製の器。
俺の趣味という訳じゃなかったが、つくしが好みそうな器がディスプレイされている。
俺の視線につくしも気付いた。
「あ、これ、サラダボウルかな?」
「買うか?」
「いいの?」
「お前、ホントに、俺を誰だと思ってんだよ。」
「そういう意味じゃなくて、たくさん野菜を食べさせますよっていう意味。」
「はぁ?プロポーズの記念だぞ?」
「ふふっ。いいかもね。結婚したら、野菜をちゃんと食べさせますよっていう記念。」
「今だって、お前が出したものは食ってる。」
「ピーマン苦手なの知ってるんだからね?」
つくしが、楽しそうに、俺の顔を覗き込んだ。

以前に、つくしが言った言葉を思い出す。
何かの記念に少しずつ、愛着のある食器を集めること。
そんな風に、少しずつ、二人の思い出を増やしていきたいと思った。



帰りのジェットの中で、俺はつくしに言った。
「帰ったら、両親にお前を紹介する。」
「・・・。」
「何だよ。」
「それって、やっぱり必要?」
「は?」
「そりゃあね。プロポーズは嬉しかったし、もちろんお受けしたんだけど・・やっぱり、ご両親にも会わなくちゃダメかな?」
「会わなきゃ、婚約になんねぇだろ?」
「二人の間で約束しているっていうだけじゃダメ?」
「はあ??」
「あたし、この指輪を貰って、教会で誓っただけで十分なんだけど・・。」
つくしが、得意の上目遣いで俺を見る。

・・・。
・・・。
「却下。」
ここは、絶対に譲れねぇ。


「だって・・まだ、海外研修に行けるかどうかも決まってないのに・・早すぎるよ。」

確かに、つくしが、海外研修の希望を出したからといって、それが通るとは限らない。
だが、恐らく、通るだろうとは予想できる。
それ位に、こいつはメープルの有望株だ。
こんな社員を育てずして、誰を育てる?
メープル幹部も馬鹿じゃないだろう。
なまじ俺の部下として付かせていることも、逆にこいつを海外へ送る後押しをするに違いない。
俺が手を回せば、その話を無しにすることだってできる。
けれど、もちろん、俺はそんなことはしない。

こいつが望むことを、叶えてやりたい。
それを見守ってやらなきゃいけない。
俺の女だからこそ、
俺が与えてやれるものは全て与えてやりたい。

つくしは言ったんだ。
『道明寺司の恋人として、海外で働きたい』と。

俺の女の切なる願い。
それを叶えてやらなくてどうするんだ。

だけど、行かせてやるためには、条件が必要だった。
つくしをきちんと俺の婚約者として公表する・・そうでなければ行かせられない。

こいつが言う、「俺の恋人」という立場じゃ弱い。
それだけじゃ、こいつを守り切れない。
むしろ、こいつを危険にさらす可能性だってある。


できることなら、入籍だけでもしちまいたい位なんだ。
こいつは鼻で笑いそうだが、俺は本気だ。
つくしは、指輪を貰っただけで頑張れるなんて言ってやがるが、俺はそんなもんじゃ満足できねえ。

俺がつくしの海外研修を許可する条件。
俺にとっての最低ライン。
それが、「婚約」だ。



リゾートから戻り、俺はニューヨークに電話を入れた。

『お母さん、紹介したい女性がいます。時間をとって頂けませんか?』



*****



「臼井、久しぶりだね。」

水曜日の21時前。
突然現れた道明寺財閥総帥、道明寺実氏に、僕は我が目を疑った。

さっと周りを見れば、当然の様にSPたちが、少し離れた周囲の席を囲む。
それを見て、とりあえずはほっと一息だ。

「あれから随分経つのに、SP気質は抜けないか?」

ふっと笑みを溢した総帥の表情が、司君と重なった。
やっぱり、親子なんだな。


「何年ぶりになる?」
「以前にこちらに来られたのは8年前だったかと。」
「司の誕生日だったか?」
「そうでした。」

カウンター座る総帥に、周囲は誰も気付かない。
こんなところに堂々と、道明寺財閥総帥が現れるなんて思いもしないだろう。
しかし、8年ぶりに総帥が、日本の、しかもこのBarに来た理由。
それは、きっと・・僕が考えていることで間違いはないだろう。


「ここは、どうだ?案外、お前に合っているのか?」
「勧められるがままにここへきて、もう、15年近くなります。居心地がよくなければ続きません。」
「昨日、佐伯のところに行ってきたよ。」
「そうでしたか。私も、行きました。命日に。」
「そうか。」

佐伯先輩は、総帥を狙撃から守って殉死された。
だが、総帥が、今でも佐伯先輩の墓を訪れていたとは、驚きだった。


「あれから、15年か。それでは、私も年を取るはずだ。」
「まだまだ、現役でお願いします。」
「はは。私も、仕事を止めたら、ここで働こうかと思っていたのに。」
「ご冗談を。」

たわいもない冗談を口にする。
だけど、この男は・・道明寺財閥総帥は、そんな緩い男じゃない。
そろそろ・・本題が来る。


「君に少し聞きたいことがあってね。」

ほら・・。
背中にぞくっと、緊張が走った。

「牧野つくしさんという女性のことを教えてもらいたい。」

僕はポーカーフェイスを装ったが、きっと緊張は伝わってしまっただろう。
総帥が尋ねられたことに、答えない訳にはいかない。
どのみち、牧野さんがここでバイトしていたこと、そして、司君と付き合っていることはご存じなのだろう。

牧野さんは今でも月に一度程度はここに顔を出す。
そのこともご存じなのだろうか?

僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
こんな緊張は久しぶりだ。


「どのようなことをお知りになりたいのでしょう?」
「そうだな。彼女の恋人を知っているか?」

ふーっ。

「知っていますよ。総帥もご存じのはずです。」
「お前は、相変わらずだな。」

微妙な駆け引きが続く。
総帥は何が知りたいというのか?
調べようと思えば、彼女の情報などいくらでも知りうる立場だ。

それに、彼女に秘密などない。
ただ、『道明寺司の恋人』だということ以外には。


しばしの沈黙。
その時、バックヤードが騒めいた。
周囲を警戒しているSPに緊張が走る。

背後から聞こえる声。

『あれっ、つくしちゃん。久しぶり。今日、入ってくれるの?』
『はいっ。急に時間ができちゃって。フロアでいいですか?』
『助かる~。あ、マスターに挨拶してね。』
『は~い。』


手からグラスが滑りそうになった。
本当に驚かされる。
このタイミングで現れるなんて。
ある意味、彼女が『道明寺』に振り回されるのは、宿命のような気がする。

ちらりと総帥を見る。
当然理解しただろう。
つくしという名前は珍しい。


「臼井。私は、実さんね。ニューヨーク在住で、馬鹿な息子を持つ、日系企業の社長だ。」
そんなことを言う、総帥の表情は穏やかだ。
僕はそんな総帥を信じるしかない。

「承知しました。」



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  1. 続・俺の女
  2. / comment:5
  3. [ edit ]

ざざーっと、白波が引いては寄せてくる。
司さんと手をつないで、白い砂浜に足跡を付けながら歩く。

こんな時間を二人で過ごせるなんて、すごく贅沢だよね。
司さんの時間には途轍もない価値があるんだって、桜子が言ってた。
その時間を、あたしのために使ってくれる。
何もせず、何も考えず、こうして二人だけでいる贅沢。


あたしが司さんに出会う前に抱いていた自分の未来。
いつか、誰か好きな人ができて、その人と結婚して、その人の子供を産んで、あっ、きっと共働きで、あくせく働きながら子育てをする。
そして、年に1回は家族で国内旅行をして、贅沢だね~なんて言って、幸せをかみしめる。
そんな未来。

ふふっ。
でも、おかしいよね。
結局は同じなの。
今、あたしの隣にいる男性は、なんだか凄い男で、なかなか自由になる時間がなくて、こうして初めて一緒に旅行にきて、こんな幸せな時間が持てた。
そしていつか、司さんと結婚して、司さんの子供を産んで、きっと共働きで、相変わらず忙しくて、そんな中で子育てをして、そうやって二人で生きていきたい。
あたしが描く幸せな未来は、『道明寺司』という男と一緒になったとしても、きっと、叶えられるに違いない。


「何、笑ってんだよ。」
「え?ふふ・・。あたしってさぁ、安上がりな女だったはずなのにね・・。」
「は?この俺を捕まえて、そんなこと言う女はお前だけだな。」
「ほんとだよねぇ。好きな人が傍にいてくれるだけで、そんな時間があるだけで、それ以外の何が欲しい訳でもないのに、こうして、一緒にいること自体が貴重な男と付き合っているなんて・・。」

「なんだよ、その、貴重な男って。」
「だって、司さんと毎日一緒にいるからつい忘れちゃうけど、道明寺司の時間には途轍もない価値があるんでしょう?」
「はっ。アホか。俺の時間は、全てお前のためにある。どんなに多忙だったとしても、お前との時間を削るつもりはねぇよ。お前との時間がなくなるんだったら、もう仕事もしない。」
手をつなぎながらも、ぷいっとそっぽを向く司さんが可愛い。

「またぁ。そんなこと言って。西田さんに怒られちゃうんだから。」
「だったら、責任とって俺と婚約しろよ。今すぐ。なんなら、今すぐ入籍してもいい。」
「せっかちだなぁ。」
「お前を絶対に手放すつもりはない。お前にとっては、ややこしくて、面倒くさい男なんだろうが、お前を完全な自由にしてやることはできない。」


あたしは、司さんから自由になろうなんて思ってない。
司さんに囚われている幸せが、どんなに心地いいか分かっているもの。
何より、彼以外の男性と、あたしが幸せな未来を築くことなんて絶対に出来ない。

だから、婚約でも結婚でも、今すぐしたいと思ってるよ。
海外に研修に行くとしても、道明寺司の女として、堂々と行きたいと思っているんだよ。
司さんから離れることなんて、もう、あたしにはできないって分かったんだもの。

でもね・・
現実は、そんな簡単じゃないでしょう?
今は、お互いの、その気持ちがあればいいんじゃないかな?
互いに、将来は一緒になろうと思う気持ち。

それなのに、まったく、この人は、せっかちなんだから・・
クスクス・・

少し先に、チャペルの十字架を見えたから、
性急な彼に呆れつつ、半分冗談で言ってみる。

「じゃあ、今すぐ結婚する?」



***



「じゃあ、今すぐ結婚する?」

つくしの一言に、俺は心臓が止まるかと思った。
足が止まって、動けねぇ。
逆につくしに手をツンと引かれた。

「冗談だよ。大丈夫?司さん。」

はっ??冗談??
目を大きく開く俺に、つくしがクスクスと笑った。

「結婚って、そんなに簡単にできないでしょ?それに・・司さんのご両親だって、どう思うかな。そういうの考えたことある?」
つくしがちょっと不安そうに、俺の顔を覗き込んだ。

考えたことなんて、あるに決まってる。
お前に覚悟ができたら、オヤジ達に紹介する気でいたんだ。
絶対に反対なんかさせねぇ。


「俺の辞書に、冗談っつー文字はない。」
「えっ?」

俺はつくしの手を引いて、どんどん、どんどん歩いていく。
「ちょっと、司さんっ!」

お前が言ったんだ。
結婚しようかって。
だったらいいだろ?
神なんて信じてねぇんだけど、その前で誓ったって。


ここは、ババァの肝いりで3年前にオープンさせたリゾート。
「道明寺楓」が自ら指揮を執った、メープル系列の完璧なリゾートということで、かなりな人気を誇る。
ここのチャペルで結婚式を挙げるセレブも多い。

チャペルはホワイトとブラウンを基調とした、完全なコロニアル調。
家具は全て、マホガニーで統一された豪華な空間。
このリゾートに咲く花で飾られたチャペルは、豪華な中にもアットホームな雰囲気を醸し出すと評判だ。

そのチャペルの前に立つ。


「うわぁ。可愛い教会。素敵・・。」

つくしの手を引いて、誰もいない教会に入っていく。
正面に掲げられた十字架が、俺達を見守っている。
その十字架の前で立ち止まった。


つくしに向かい合い、その両手を握る。
すぅっと息を吸い込んだ。

「牧野つくしさん。僕と結婚して下さい。」


これは、俺の本気のプロポーズ。
つくしが目を見開いて俺を見つめる。
俺はその視線を受け止めた。

頼む。
拒むな。
これは、冗談なんかじゃない。

つくしは、ゆっくりと俺の手を離した。
一瞬、息を飲んだ俺の胸に、
ボフッと彼女が飛び込んで来る。
彼女の腕が、俺の背中に回った。

「どうぞよろしくお願いします。司さん。」


俺は反射的に、ぎゅっとつくしを抱きしめた。

ビビらせてんじゃねぇぞ、この俺を。

速まる鼓動を沈めつつ、俺はポケットに手を入れた。
本当のことを言えば、ずっと前から用意していたもの。
いつか渡したいと思っていた。

名残惜しく、彼女を胸から離し、その左手をとった。
左手の薬指に指輪を滑らす。
ハートの形をしたダイヤモンド。
プロポーズには、指輪は必須だろ?

「司さん、これ。」
「前から、プレゼントしたいって言ってただろ?」
「でも・・」
「プロポーズしたんだ、これは拒むな。」
「うん。ありがとう。」
「絶対に外すなよ。」

ん?
つくしが微妙な顔をする。

「何だよ。」
「だって、ホテルウーマンは、結婚指輪以外は認められていないんだよ。」
「はぁ?」
「だから、ずっと着けてることはできないの・・。」
つくしが、上目遣いに俺を見る。

「だったら、今すぐ、結婚しよう。今すぐ、マリッジ買いに行くぞっ!」

焦る俺をクスクス笑いながら、つくしが俺に手を引かれてついてくる。

「司さん。ネックレスに通してずっと身につけておくから、それでいいでしょ?」

俺はつくしを振り返った。

「絶対に毎日着けておけよ。」
「うん。」

つくしの背中に手を回し、勢いよくキスをする。
十字架の前での誓いのキス。
絶対に破られることのない約束のキスをした。




その日は、つくしとこの島を見て歩いた。
片時も、彼女の手を離さずに。

プライベートアイランド。
この島自体が貸し切りなんだ。
島には5つほどの区画があるが、この3日間は、俺が全てを貸し切った。

コロニアル調の邸宅が各区画に配置されている。
それぞれに、コンセプトは異なる。
俺が今回選んだのは、『マリアージュ(結婚)』。
教会のある区画だ。
そのほかに、『ファミーユ(家族)』『メナージュ(夫婦)』『リヤン(絆)』『キャマラード(仲間)』の区画に分かれる。


「すごく大胆な発想だね。メープルリゾートならでは・・こんなリゾートがあるなんて、知らなかった・・。」
「まぁ、一般客にはあまり知られてねぇのかもな。いかにも、ババァが考えそうなことだぜ。」
「ババァって・・もしかして、楓社長のことを言ってる?」
「それ以外に誰がいんだよ。」
「やっぱり・・」

つくしが遠い目をしていた。
『ファミーユ』の区画に入ると、そこには、子供達が遊べるプールや公園が付いている。一つ一つの区画が、別荘といった感じだ。プライベートが完全に確保された空間。

「やっぱり、楓社長は凄いなぁ。」

つくしがぼんやりと呟いた。

「何がだよ。」
「あたしはね。お客様に非日常を楽しんでいただこうと思ってた。」
「そうだな。」
「それが間違いだとは思わないんだけどね。でも、これだけのプライベート空間を大胆に配置したリゾートを見て思ったの。非日常って、いつもと違うことをするだけじゃないんだね。こうやって、完全に守られたプライベートな空間で、誰の目も気にすることなく、大切な人と過ごすこと。それが、非日常になるのかもしれないね。」

「もしかしたら、楓社長はこういうところに家族と一緒に来たかったのかな?」

つくしが俺に笑顔を見せる。

分かんねぇ。
ババァが何を考えていたかなんて。
少なくとも、俺はババァやオヤジと家族旅行をした思い出は無い。
だから、ババァがそんな希望を持っていたとは考えられない。

「やっぱり、楓社長を尊敬しちゃうな。」

ビジネスにおいては、俺の更に上をいく、鉄の女。
そんな母親に、俺が生涯を共にしたい女を紹介する日が近づいて来た。



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  1. 続・俺の女
  2. / comment:3
  3. [ edit ]

「ねぇ。あたしを司さんでいっぱいにしてくれる?」

と、つくしが言った。
つくしは最近、上の空になることが多くて、何かを真剣に考えていることは分かっていた。
それが、どんなことであるのかも、粗方の予想は付いていた。

それでも、つくしが話し出すまでは、黙って見守るつもりだった。
そして、心のどこかでは願っていたと思う。

俺から離れるな。
俺がいなければ生きられない女になれ。
一生俺に甘えてくれていたら、それでいいのに・・。

だけど、こいつは沖縄に行くと言った。
将来を客観的に考える時間なんて言っていたが、結局のところ、俺と離れる選択をできるかどうかを考えているんだろう。

お前を俺でいっぱいにしたら、俺から離れないでいてくれるのか?
そうしてくれるんだったら、俺はもう仕事も行かず、ずっとお前の傍で、お前の事だけを考えて生きてやるのに。
だけど、それじゃダメなんだろ?

俺をいっぱいに感じて、俺だけを想っているくせに、
こいつはきっと俺と離れる選択をする。
もう、確信だ。

金ならいくらでもあるのに。
きっと、俺の傍から離れたがらない女なら、世の中に掃いて捨てるほどいるのに。
俺が欲しいと思う女は、俺のそばに留まっていてはくれない。

何も要らないのに。
お前以外に欲しいものなんかないのに。
どうして。

彼女の細く、白い体に唇を這わせる。
こいつは俺の女・・・
俺だけの女だ。

自分自身を挿入して、彼女とつながる幸福。
彼女に出会わなければ、決して知ることのなかった感情。

5年前、彼女に出会わなければ、俺はきっとあのまま、ろくでもない人間になっていた。
そして、帰国してからも、彼女に会わなければ、こんな幸福を知ることはなかった。


彼女に深く沈み込んだ。
「あっ・・」
俺の首に絡まる腕に、力が入る。

彼女の息遣いが耳を擽る。
きっと彼女も、俺に出会わなければ、こんな幸福はなかったと言うんだろう。
だけど、違う。
違うんだ。
俺の方が、彼女を必要としている。
彼女がいなければ、生きていけない。
絶対に手放せない。

一気に彼女を攻め立てた。
のけ反る背中を抱えなおして、なおも執拗に攻めていく。

目を閉じたまま、俺に揺すぶられているつくし。
その瞳に自分を映したい。
俺だけのことを考えて、俺だけを見つめて欲しい。

両膝を抱えて、一気に突いた。
「はっ・・あぁ・・」
最奥を突いた衝撃で、つくしの息が一瞬とまり、大きく呼気を吐きだした。
それと同時に開いた扇情的な瞳に、俺自身が映る。
彼女を、つくしだけを追い求めている俺の姿。


「司さん、大好き。愛してる。」

こんな時ばかり、素直になる女。

本当に、この女はズルいんだ。
俺を愛しているくせに、俺から離れようとする。
そして、きっと、俺はそれを止めることはできないんだ。

どうしてかって・・
それは、俺が彼女を愛しているから。
これ以上は無いというほどに、愛して止まないから。
彼女の望みを何でも叶えてやりたいと願うから。
例えそれが、ひと時俺から離れることだとしても・・


その想いを確認した瞬間に、大きな波が襲ってくる。
「くっ!」

歯を食いしばっても、この波に飲み込まれる。
ずっとこのままでいたいのに。
このままずっと、彼女の中に沈んでいたいのに。
彼女を翻弄しているようで、そうじゃない。
彼女という波に翻弄されているのは、俺自身だ。


つくしの中に俺の精を放つ。
そしてそのまま、彼女の上に落ちていく。
彼女の細い体を抱きしめたまま、
彼女の髪に顔を埋めて、呼吸を整えた。


彼女は俺の女。
体も、心も・・・全て、俺のものだ。



*****



朝から何度も彼女を抱いた。
イク瞬間に思うことは、いつも同じだ。

彼女は俺の女。
絶対に手放さない。
手放せない。

それは、肉体のことだけじゃない。
彼女の心も全て。

常に彼女に寄り添って、彼女と共に歩む人生を送りたい。
肉体だけが傍にあるのでは意味がない。
生き生きとした明るい彼女の心が無ければ・・

その心を守ってやることも、彼女の男である、俺の使命。


抱かれ続けて意識を無くしたつくしのこめかみに、軽くキスを落とす。
このまま、俺の腕の中にいてくれたら・・という女々しい想いは、まだ持っている。
だが・・・


「司・・さん?」

つくしが目を覚ましたらしい。
彼女の瞳を覗き込む。
その瞳には、迷いは無くなっていた。


「あたし、来年の海外研修、希望を出そうと思う。」




分かってた。
言われると思っていた、その言葉。
けれど、現実に言われてみれば、息が止まりそうになった。

俺は大きく息を吸い、それから吐き出した。

「自分を俺でいっぱいにしろとか言ったくせに、そんな事を言うんだな。」
「司さん・・」

「そう言うと思ってた。」
「え?」
「お前が入社試験で書いた論文も、当時の面接内容も把握してた。始めからだ。」
「始めから?」
「お前が、メープルの社員に内定してると知った時から。自分が直で見る部下だぞ?その社員情報を知らない訳がないだろ?知ってたよ。お前が、海外勤務を希望してメープルに入ったって事。」

そう言った俺に、つくしは何も答えなかった。
俺が知っていたことが意外だったのか。
そうかも知れないな。

「だけど、行かないかも知れないとも思ってた。だって、お前、俺のこと好きだろ?好きで、好きで、仕方ねぇだろ?」
「うん・・。」
「なのに、どうして行きたいんだ?」

「あたし、今、すごく幸せだよ。司さんと一緒にることができて、その中で守られている幸せ。だけど、あたしは我儘で、自分の夢も叶えたいの。」
「お前の夢?」
「道明寺司の恋人として、仕事でもプライベートでも自信をつけたい。そのために、頑張りたい。海外で働くことは、あたしの昔からの夢。その結果を出したい。」

「今の仕事じゃだめなのか?自信は付かないのか?」
「経験が足りないの。圧倒的に。だから、東京メープルの未来を担う企画は、あたしでは役に立たない。誤解しないで?司さんに守られているのが嫌なんじゃないの。その中ですら、司さんの役に立てない自分が嫌。だから、もっと成長したいの。」

「俺は、今のお前でいい。自信なんかなくたって、俺がお前を幸せにしてやるから、そばにいて欲しい。そう言っても無理か?」
「そんな風に言わないで。決心が鈍っちゃうよ・・」

鈍れよ。
鈍ればいい。
だけど、それじゃあ、彼女を本当の幸せには導けないんだろう。


「別れる訳じゃねぇぞ。」
「うん。」
「海外研修の希望が通るかどうかもわからねぇぞ。」
「分かってる。でも、チャンスが欲しい。道明寺司の恋人として、どこまでできるか知りたいし、頑張りたい。我儘だと思う。だけど、司さんに見守って欲しいの。」

ふぅー。
俺は、大きく息を吐き出した。


「一つだけ、条件がある。」
「何?」
「もし、海外に研修に行くんだったら・・」
「行くんだったら?」


「俺と婚約してから行け。
俺の、婚約者としてなら、行かせてやる。」



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  1. 続・俺の女
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「ったく、目を離すとキョトキョトしやがって・・。」

「司さん・・なんで?」

桜子を見ると、苦笑いをしている。
「桜子・・あんた、知ってたの?」
「知りませんよ。でも、予想はしてましたから。」
「予想?」
「道明寺さんは、悩んでる先輩を絶対に一人になんかしませんよ。」

はっと、司さんを見ると、ちょっとだけ寂しそうな顔。
あたしは、できるだけ自分のことは自分で決めたいと思ってきた。
自分の考えをしっかりまとめたくて、この旅行に来た。
でも、それは、司さんを傷つけていたのかもしれない。

二人の未来を考えなくちゃいけないのに、
一人で悩んでどうするの?

それにあたし、やっと自分の気持ちの整理ができた。

「司さん・・あたしっ。」
「じゃ、行くぞ。」
「え?行くぞって、どこに?」

と聞いた途端に、あたしを椅子から立ち上がらせる司さん。

「じゃ、あきら、俺ら行くから。あと、適当にやっといて。」
「無茶すんなよ、司。」
「バカ言え。」

「桜子っ!」
「先輩、また、東京で!」

桜子がニコニコ笑ってる。
ちょっとぉ。女二人の旅行だったはずなのに。
あ・・そうか、美作専務が来たんだもんね。
そりゃ、嬉しいか・・。
あたしだって、司さんに会えて、嬉しい・・。
昨日の今日なのに、会いたいと思ってた。

腕をとられ、引きずられながら、司さんの顔を覗き込む。
司さんは何だか拗ねているみたいに見える。
きっと無理をして、西田さんに迷惑をかけまくって、時間を作って来てくれたんだと思う。
その気持ちが素直に嬉しい。
だから、あたしもあたしの気持ちを真剣に話そう。


あたし達はどんどんコテージの方向から離れていく。
「ねぇ、司さん、どこに行くの?」
そう言ったあたしを、ちらっと見て、また前を向いた司さん。
「どこって、旅行だろ?」
「コテージはこっちじゃないよ。」

司さんはあたしの質問には答えずに、どんどん歩いていく。
すると、少し開けたところに大きな機体。

「ヘリ?」
「あぁ。」
「これでどこか行くの?」
「俺んちがやってるリゾート。」
「なんで?ここも綺麗だよ?」
「人目のつかない所がいいだろ?」
そう言って、司さんがちょっと笑った。
その顔にホッとして、あたしもちょっと笑う。

司さんは、いつもあたしの事を考えてくれている。
あたしは、素直に彼に従って、ヘリに乗り込んだ。
ヘリで那覇空港まで戻り、その後は自家用ジェットに乗り変えた。


一体どこまで行くんだろう?

「眠かったら寝てもいいぞ。着いたら起こしてやるから。」
そう言って、あたしの膝にブランケットを掛けてくれる。

「ありがとう。」

司さんがあたしの手を握ってる。
言いたいことがたくさんあるはずなのに、なんだか幸せで、その幸せにそのまま浸っていたくて、言葉が出てこない。


ねぇ、あたし、ずっと司さんの傍にいたいの。
この先の未来もずっと。
そのためには、仕事で認めてもらわなくちゃって思ってる。
それに、海外で働く夢も捨てきれないの。
道明寺司の恋人として、研修に行きたい。

ねぇ、司さん、そんなあたしをどう思う?
こんなあたしを、見守ってくれる?

あたし、一生懸命頑張るから。
必ず、あなたの元に戻るから。
遠くで働くあたしを、応援してくれる?

あなたは、あたしが恋人であることを後悔しないでいてくれる?
こんなあたしを、あなたの恋人でいさせてくれるかな?


司さんがつないでくれる、その手が温かくて、心地よくて、
あたしはいつの間にか眠ってしまっていた。



*****



チュン・チュン・チュンとスズメの声。

朝だ・・

薄く目を開くと、目の前には司さんが眠ってる。

広い部屋に置かれたキングサイズのベッド。
目の前の大きな窓から、青い海が見える。
今日も快晴だ。

どこだろう、ここ・・
昨日はいつここについたのかも記憶にない。
ぐっすり眠っちゃってたみたい。
あたしは花柄のキャミワンピのまま。
司さんは、下着だけで眠ってる。
きっと、仕事無理してきたんでしょ?
だったら、もう少し眠らせてあげなきゃ。

そーっとベッドから降りようとしたら、司さんの長い腕につかまった。
「起きてたの?」
「ん?いや、今、起きた。」
「だったら、もう少し寝てて・・」

って言ったのに、ぐっと腕を引かれて、ベッドに戻された。
朝から、濃厚なキス。
あたしの唇に吸い付いて、そうかと思ったら、舌を絡める。
寂しかったのかなあ。
たった、1日離れていただけのに・・。
だけど、あたしは、こういう司さんが好きだ。
あたしにしか見せない、こうして甘えてくれる司さんが。

ピチャ・・クチュ・・クチュ・・

あぁ、幸せ。
ずっとこうしていたいな・・
何もかも忘れて、何もかも捨てて、ずっとこうしていられたらいいのに・・

あたしの頬を包む司さんの手。
その手にそっと触れてみると、司さんがゆっくりと唇を離した。

「おはよ。」
「うん。おはよう。」
まったりとした朝の挨拶に、幸せが溢れる。

「お前、昨日はキスもしてねぇのに、爆睡しやがって・・」
なんて言う司さんは、いつもの彼だ。
昨日は、ちょっとご機嫌斜めだったから、ホッとする。
「ごめんね。なんだか、手を繋いだら、安心して眠くなったんだもん。」
「ったく。」

じっとあたしを見つめている司さんは、
あたしの中に、何か答えを探しているみたい。

何か言わなきゃ・・そう思ったけど、次の司さんの言葉にさえぎられた。

「こういう朝、初めてだな。」
「ん?」
「こうやって、ゆっくりできる朝。いつも、ゆっくり抱いていたいって思っても、なかなかゆっくり出来ねぇだろ?」
「そうだねぇ。」
「非日常ってやつだな。」
「ほんとだね。」

普通の恋人同士にとっては当たり前の時間が、あまりとれていなかったことに改めて気づく。
毎日一緒にいても、常にあわただしいあたし達。
こうして、何もない休日を過ごすのは、初めてかも知れない。

去年の今頃のことを考えたら、今こうして、司さんといることはあり得ないことなのに、
いつの間にか、彼と一緒にいることが当たり前になっていた。
そして、こんな風に二人でゆっくりできる時間が、かけがえのないものになっている。
あたしは安上がりな女だと思うのに、手に入れたい男は、数日の休みをとるのも大変な人で、その休みのために、すごいお金を掛けちゃう人。
だけど、そのおかげで、こんな幸せな時間を過ごすことができるなんて、なんだか可笑しい。


笑い出しそうな幸せな気分で、ニンマリとしたあたしに、そのまま覆いかぶさって来る司さん。
あたしは慌てた。
だって・・
「ちょっとまって、昨日シャワーしてない。」
「そんな必要ないだろ。」

必要ないなんてことはないでしょ。
いつものあたしなら、絶対にシャワーを浴びなくちゃ嫌。
だから、一人でもシャワーを浴びに行くはずなのに、今日は、そんな必要はないという司さんの言葉に同意してしまう。
今すぐに司さんが欲しいと思う。
そんな気持ちを、気づかれているみたいだ。
司さんがニヤリと笑った。

「いっ、一回だけだからねっ。」
悔しまぎれにそう言ってみると、
「俺と離れて寂しかったんだろ?」
なんて、得意げに言う司さんが、憎たらしいんだけど・・
だけど、それは本当のこと・・


「じゃあ、あたしを司さんでいっぱいにしてくれる?」


海外勤務が現実になれば、当然、しばらくの間、司さんと離れなければいけない。
その覚悟を、ちゃんとしなくちゃ。
あたしを司さんでいっぱいにして、
司さんもあたしでいっぱいにして、
そうじゃなきゃ、あたし、どこにも行けない。
だって、やっぱりこの選択は、あたしにとって、ううん、二人にとって、寂しくて、辛いことだから。


リゾートの部屋は開放的。
よく考えたら、お庭から、あたし達って丸見え?ってぐらい。
いや、もちろんね。きっと、そんなことはないんだろうけど。
朝の光が部屋中に差し込んでいる。
こんなに明るい部屋で抱き合うあたし達。

耳を甘噛みされながら、
「愛してる」と囁かれる。

あたしのドレスを脱がすと、眩しそうに目を細める司さん。
あたしの首筋に吸い付いて、いくつもの花弁を散らす。
そこは見えちゃうところだから、いつもは付けないはずなのに。
だけど、今日はいい。
あたしを、司さんでいっぱいにしてもらうんだから。
あたしは、司さんの、司さんだけの女なんだから。

胸に吸われ、乳首をコロコロを舌で転がされると、
じんわりと、あたしの中が濡れていくのが分かった。
彼の指が襞を広げて、あたしの蕾を刺激する。
その快感を逃そうと必死になるあたし。

だけど、逃れられる訳がない。
快感の上に、快感が襲ってくる。
あたしの中に入れられた指は、あたしのために緻密に動く。

何も考えたくない。
何も考えない。

あたしが司さんのことを愛してるっていうこと以外に、
何も考えなくてもいい時間。

彼の事だけを想える、愛しい時間。

ずっと、この時間が続けばいいのにな・・


あたしは、司さんの事だけを感じていたくて、
ぎゅっと、彼にしがみついた。



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  1. 続・俺の女
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翌日は水曜日。
朝から快晴。

目が覚めて、お腹が空いたな~と思ったら、朝からピンポーンとお部屋のチャイムが鳴った。
運ばれてきたのはベーグルサンドとフレッシュジュース。
当然のことながら、司さんがオーダーしていたもの。
ここまでくると、完全な保護者だわね。

司さんの過保護っぷりにも、慣れてしまうのが恐ろしい。
美味しく朝食を頂いて、午前中はプールに入った。
誰も見ていないプールだからと、ビキニに着替えて飛び込んだ。
「冷たーい!けど、気持ちいい!!」
凄い解放感。
こんなの、久しぶりかも知れない。

桜子は日焼けが嫌だと、室内のカウチで本を読んでいる。
「先輩は色白しか取柄がないんですから、焼きすぎちゃだめですよ。」
なんて、冷静な桜子。
あんたはもっと弾けた方がいいよ。

冷たいプールで泳ぎながらも考えるのは、司さんのこと。
たった一日会わなかっただけなのに、自分が望んでここへ来たのに、頭からは司さんが離れない。
今ですらこんなので、海外勤務なんてできるのかな・・。


プールから上がって、着替えをして、
「これからどうする?」
と桜子に聞いてみる。

「エステでも行きましょうか?」
「ええ~っ!せっかく沖縄に来たのに、それはないでしょっ。あんた、いつもやってるんでしょ。沖縄といえば、水族館だよ。ほら、これ見て。美ら海水族館。これ、行こうよ。」
そう言って、あたしがガイドブックを差し出せば、
「まったく、パンピーはこれだから。」
なんて、桜子が言う。

「じゃあいいよ。一人で行くから。」
「冗談ですよ。お付き合いします。」
「じゃ、どうやって行くか、考えなきゃ。」

出かける準備をして、フロントに向かってテクテクと歩き出す。
「桜子、運転できる?」
「できませんよ。」
「あたしも無理。」
「タクシーで行けるんじゃないですか?」
「ええ~っ。一体いくらかかるのよ、それ。」
「先輩、そんな心配しなくても・・」

と、突然、隣を歩く桜子に影ができた。
桜子の隣には、大柄な黒服の男性が立っている。
間違いなく・・SPさんだ・・。
「どちらか、お出かけですか?」
「あの・・水族館に行こうかと・・」
なんか・・怖っ!
その男性が、耳元に手をやり、小声でぼそぼそと話し出した。

「正面玄関のロータリーに車を待機させています。」
そう言われて、あっという間に、ロータリーから、リムジンに乗せられた。


「ほらね。心配いらなかったでしょう?」
「まったく、もう。」
そんな文句を言いながらも、いろんなところに司さんの影を感じることも嬉しくて仕方ない。司さんに守られていることが、いつの間にか当たり前になってしまったみたい。あたし、大丈夫かなぁ・・こんなことで・・。


しばらく、リムジンに揺られて、美ら海水族館に到着した。
9月の平日ということで、それほどの混雑はない。


「うっわー。これが、ジンベイザメだよっ!桜子っ!」
「すごく、大きいですね。あ、隣はマンタだそうですよ。」
「すごい、すごいっ!」
いい大人が、二人で大はしゃぎ。
大きな水槽の前で、きゃぁきゃぁ言い合う。

「先輩。あのジンベイザメとマンタって、道明寺さんと先輩みたいじゃないですか?」
「ええっ?」
「悠々と泳ぐ巨大なジンベイザメ。その周りをチョロチョロ自由に泳ぐマンタ。ね、似てるでしょう?」
「そうかなぁ。」

そんな会話をしていると、ジンベイザメの解説が目に留まった。
【ジンベイザメ】動きは緩慢で、性格はいたって温厚。人が接近しても危険性は低い。非常に臆病で、環境の変化に弱いため、飼育は難しいとされる。

「ぷっ。やっぱり、全く違うね。」
「でも、飼育は難しいとされるっていうところは合ってますよね。道明寺さんは先輩にしか懐かないでしょう?」
「ん?」
「道明寺さんと一緒に暮らすことができるのは、先輩だけだと思います。人を寄せ付けない道明寺さんが、同棲しているなんて、初めに聞いた時は凄く驚きました。だって、同棲って実はすごく忍耐が要りませんか?」
「忍耐?」
「相手に気を使ったりとか。」
「うん。どうだろ。あたしは割と自由にさせてもらってるかな・・。忍耐とか考えたことなかった。」
「道明寺さんにとっても、先輩といる時間は自由なのかも知れませんね。忍耐なんて必要としない、心安らぐ唯一の時間。」
「司さんの・・自由?」

「昨日の続きですが・・・。道明寺さんも、あきらさんも、そうですね、西門さんも、花沢さんも、人が羨むほどの家柄をもって生まれてきたけれど、自由じゃありません。私も・・そうです。だからこそ、自由に生き生きとしている先輩に惹かれるのかもしれない。先輩のことを見守っている時間が、道明寺さんの自由な時間なんでしょう。ほら、あのジンベイザメも、マンタが自由に動き回っているのを幸せそうに見ているような気がします。」


____ジンベイザメに見守られている自由。

「それって、あたしは司さんに守られていた方がいいっていうこと?」
「それは考え方次第だと思いますが。先輩がどう感じるか・・」
「司さんに守られているだけじゃ、あたしはダメなんじゃないかな。」
「守られるのは嫌ですか?」

「嫌っていうか。司さんの手の内で頑張っているだけじゃ、だめだと思うの。もっと一人で何でもできるようになって、自分に自信をつけなくちゃダメだって。そうじゃなきゃ、司さんと一緒にはいられないんだって。」
「どうしてです?たとえ、守られた環境にいても、成果を出せることの方が重要じゃないですか?どんなに恵まれた環境にいても、成果が出せない人間もいるんです。逆に聞きたいんですが、道明寺さんが傍にいたら、仕事がきちんとこなせない人間なんですか、先輩は。」
「え?」

「道明寺さんは、自由な選択なんかできない立場の人です。その中で、当然のように仕事にも、それ以外の事にも、全てにパーフェクトを求められる。そんなプレッシャーの中で、成果を出してきた人です。」
「プレッシャー・・」

「道明寺司の恋人だから何なんです?それをプレッシャーに感じながらも、成果を出すことはできるはずです。先輩のおっしゃることは、プレッシャーを感じずに、成果だけが欲しいという我儘な気がします。」


桜子の言葉が胸に刺さる。
あたしは、何を思いあがっていたんだろう。
自信を付けなきゃ、彼の傍にいられないんじゃない。
あたしに勇気がないだけのこと。
「道明寺司の恋人」という看板を背負って、そのプレッシャーの中で働く勇気。
正当な評価が得られないなんてことはない。
あたしが、そのプレッシャーを跳ねのけて、その分だけ結果を残せばいいだけなんだ。
それでも、あたしが躓く時には、素直に司さんに甘えればいい。

海外研修の夢。
どうして、司さんと別れる必要があるの?
あたしが、道明寺司の恋人として、堂々と行けばいいんじゃないの?
彼なら、きっとあたしを見守ってくれる。
だって、そういう中で努力してきた人なんだもの。

どうして、そう思えなかったんだろう。
一人で考えて、一人で悩んで・・・
まず初めに、彼に相談すべきだったのに。
あたしは、本当に、身勝手だった。

「桜子・・」
「ごめんなさい、先輩。生意気なことを言って。」
「ううん。あたし、目が覚めた気がする。ありがと、桜子。」

桜子がニコリと綺麗に笑う。
これは自分に自信がある人の笑顔だ。

あたしも、いつか、こういう笑顔ができる女性になれるかな・・。



*****



何だか吹っ切れたあたしは、急にお腹が空いてきた。
昼食は、水族館の帰りに、ガイドブックに載っていた沖縄そばのお店に寄り道した。
SPさんたちは焦っていたけど、旅とはトラブルが付きものなのよ。許してね。

沖縄そばの見た目のシンプルさに、桜子がうっと唸ったけれど、口にしてみれば、どうやってとったのか分からないぐらいに美味しい出汁に、目が飛び出しそうになっていた。
あたしは、当然、ソーキそば。やっぱり、お肉は頂かないとねっ。

遅めの昼食をとったから、もうお腹はいっぱいで、夕食のレストランはキャンセルした。
夕方からは、プールサイドでジャズパーティがあると聞いて、出かけることにしたあたし達。

クローゼットを覗き込みながら、うーんと悩んでいると、桜子がさっとドレスを決めてくれた。
花柄のキャミワンピ。
それに、ウェッジソールのサンダルを合わせて、リゾート風に。

桜子もロングワンピを着て、リゾート感満載だ。
「桜子、気合入ってるね。」
「こういったところで、どなたにも声を掛けられないのは、問題ですから。」
「ふーん。」


プールサイドはオレンジ色にライトアップされていた。
各テーブルにはLEDのランタンが置かれていて、お洒落な雰囲気。
席についているのは、カップルや夫婦が多いみたいだけれど、女性同士や男性同士の姿も見られた。
良かった・・あたし達、特に浮いているわけじゃないみたい。

席を決めて、ワンドリンクをオーダーする。
「ねぇ。ジャズはいつ始まるのかな。」
「さぁ。」
「さぁって・・」
「しっ、先輩、黙って。」

桜子が口元に人差し指を立てた。
そこへ、
「ねぇ、君たち二人だけ?俺達も一緒にいい?」

顔を上げると、20代後半と思われる男性が二人。

「え?それはちょっと、困ります。ね、桜子。」
「ええ、困ります。」

「ええ~。いいじゃん。二人なんでしょ?」
「どうします、先輩?」
「どうしますじゃないでしょ、桜子っ!」

「なになに?君たち、大学の先輩後輩なの?」
「いえ、そうではなくて・・」
と言っているうちに、男たちが隣の椅子に滑り込んで来る。

「ちょっと、本当に困りますっ!」
と少し声を荒げてしまったら、
「なんだよ。調子に乗んなよっ。」
と男に睨まれた。

恐いっ。
もうっ、どうしてこうなるのよっ。
桜子を睨んでみたけれど、桜子は平然としてどこか遠くを見ている。


すると、突然、隣の男の姿が消えた。

ドッボーン!!

プールから上がる、大きな水しぶき。

はっと振り仰ぐと・・・
そこには、司さんが立っていた。



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桜子・・いい女です。
  1. 続・俺の女
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「おい、あきら、協力しろよ!」
月曜日の午後一番に、俺はあきらの執務室に乗り込んだ。
あきらが会社にいることはリサーチ済み。

「なんだよ、司。暇なのかよ。」
何を呑気なことを言ってやがる。
んな訳ねーだろ。
午前中の会議をかっ飛ばして、時間作ってきたんだっ。

「お前の女、毎度厄介だな。つくしを旅行になんか誘いやがって。」
「桜子が?」
「二人で沖縄行くんだと。聞いてねぇのかよ!」
「へぇ、まぁ、いいんじゃねーの。俺も忙しくて、長期の休みは取れねぇし。牧野が付き合ってくれたら助かるわ。」
「そーじゃねーだろっ!」


話を聞いた時には、俺は自分の耳を疑った。
つくしも忙しくしていて、旅行なんて行く時間がないと思っていた。
それが、あの女と旅行にいくとか。
俺とだって、旅行になんか行ったことがねぇんだぞっ。
旅行どころか、まともなデートだって・・

しかも、まさか、俺の恋人が、飛行機にも乗ったことが無いなんて。
それどころか、どこも行ったことが無いなんて言われて・・
この俺が、どこにも連れて行ってやってねぇってことだろーがっ。
それなのに、なんであんな女と旅行に行かせなきゃなんねぇんだよっ!

あームカつくっ!!

いや・・けど、それは百歩譲る。
譲るしかねぇ。
だが・・

『俺との将来を考えるために、自分を客観的に見つめなおしたい』・・だと?

つくしの真剣さに負けて、旅行の許可はしたものの、そんなことを言われて、俺が黙っていられる訳がねぇだろ?
あいつは俺と別れる気はないというが、ここ最近、特に夏の大きなプロジェクトが終わってから、つくしは何となく考え事が多くなっていて、俺と話していても、上の空ということが度々あった。

いや、思えばもっと前からかも知れねぇ。
俺は単純に、メープルの企画が上手くいくことが、つくしとの将来につながると考えていた。
けれど、つくしの考えは恐らく違う。
何か、別なことを考えている。

つくしが何を考え、何を迷っているのか。
全く、検討が付かないという訳じゃない。
けど、まさか、こんなに早くそんな時期が来るとは思っていなかった。

俺は、つくしの決断に真っ向から反対するつもりは・・ない。
複雑な心境であることは確かだが、話も聞かずに反対するようなことはしない。
だが、そのつくしの決断の場には、必ず俺が傍にいたいと思う。

あいつが俺には言えない悩みを抱えている。
つまりは、俺には関することなんだ。
それなのに、黙っていられるわけがねぇ。
俺とのことだからこそ、一緒に悩むべきじゃねぇのか。

あいつに関することは全て知りたい。
結論だけを聞きたい訳じゃない。
全て話してほしい。
あいつの悩みも含めて、全てを俺が包んでやりたい。

あのハンカチが無かったとしても、俺の運命の女はあいつなんだ。
だから、俺はどんなことがあったって、あいつを手放したりはしない。
そのことを、絶対に伝えないといけないんだ。

そのためには・・・


「あきら、お前も休みとれ。」
「バカ言うな。」
フン。俺に向かって、そんなことを言えるのも今のうちだ。

「お前んとこに、高木物産が手掛ける大型ビルの内装、全部任せるって言ったら?」

あきらがぱっと顔を上げた。
「マジかよ。」

決まりだな。

「急だったから、俺も明日はどーしても無理なんだわ。水曜の夜から行くぞ。」



*****



高速道路を降りてからも、しばらく一般道を走った。
リムジンが減速して、着いたのかなと思って外をみると、そこはどう見ても高級ホテル。
この景観・・・メープル沖縄だっ!!


「桜子・・」
「こんなことだろうと思ってましたよ。」
「ご・・ごめんね。」
「いいえ。道明寺さんが、自分のテリトリーから先輩を出すとは思えませんでしたからね。想定の範囲内です。ま、当然、宿泊代も、飲食代も道明寺さんもちでしょっ。派手にやりましょうよ、先輩!」
そう言って、桜子がウインク。

「はぁ。ま、そうだね。楽しもう・・か。」


そんなあたし達が案内されたのは、メープル沖縄のプライベートコテージ。
解放された掃き出し窓からすぐにプールが繫がっている。

「すっごーい!プールと海が繫がってるよ~!!」
「凄いですね。流石はメープル。」
「海外リゾートに来たみたいだねっ。」
「本当に。」
「うわーっ。プール入ろうっ!」
「私は、日焼けはダメなんで。」
「ええ~!あんた、何しに来たのよ~っ!」
「ゆっくりしに来ただけですよ。」
「はぁ~??」
「観光とか、あくせく動くのはパンピーだけですよ。」
「パンピーで悪かったわねっ。」
「まぁ、お付き合いしますけど、プールは無理です。」
「もうっ。」


パタパタと二人、部屋の中を見て回る。
「総大理石の床ですね。」
「滑ったら、頭打って、死んじゃう?」
「バスルーム、すっごく広い!」
「溺れないでくださいよ。」
「「キャハハ。」」

二人でワイワイ盛り上がる。
なんだかんだ言って、桜子だって楽しそうだ。
寝室はツインルームになっていて、クローゼットは左右に用意されていた。


何気なくクローゼットを覗いてみると・・
「わぁー!」
「どうしたんですか?」
「これっ!」

クローゼットの中には、カラフルなドレスたち。
サンダルやバッグも置いてある。
引き出しを開けると水着やランジェリーまで。

こういうことかぁ。
司さんが余計な荷物は持っていくなとか言って、あたしの荷物までチェックしていた理由が今分かった。
全く、無駄遣いなんだから。
数日間の服なんて、持ってくればいいのに。
だけど、思えばあたしはこんなリゾートでくつろぐ服なんて持ってない。
持ってきたのはショートパンツとTシャツと羽織物ぐらい。
そんなあたしにリゾートを満喫させようとしてくれる司さんの気持ちが嬉しい。


あっ・・ということは・・もしかして・・

反対側のクローゼットを空けると、そちらにはややシックな洋服が。
ランジェリーも大人っぽいもの。
「こっちは、どう考えても桜子用だね・・。」
「はい。」
桜子も苦笑いだ。
「美作専務も一枚かんでるね、絶対。」


そこへ、Rurururururu・・・と着信。
司さんからだ。

「はい。」
「着いたか?」
「うん。すっごく素敵なお部屋だよ。それから、司さん、いろいろありがとね。」
「おう。嵌め外しすぎんなよ。」
「うん。また、夜に電話するから。」

そう言って電話を切ったあたしを見て、桜子がニヤリと笑った。
「へぇ。先輩も、結構可愛いこと言うんですね。ちょっと安心しました。」
ボっと赤くなるあたし。

すると今度は桜子の携帯が鳴り響く。
画面をみて、ささっと隣の部屋に移動する桜子。
自分こそ、結構可愛いんだからっ。


さーてと、女二人の旅行は、まだ始まったばかり。
これから3泊4日。
ゆっくりと自分と向き合いたい。

あたしが、あたしらしくあるために、
どうすべきなのか・・結論を出したい。



お部屋できゃあきゃあ騒いでいたら、いつの間にか夕方。
すっかりお腹も空いてきて、晩御飯の算段に移った。

「ねぇ。ご飯どうする?今からじゃ、レストランの予約なんて無理だよねぇ。コンビニでも行く?」
「何ですか、コンビニって。」
「コンビニ知らないのっ?」
「知ってますけど、晩御飯は買えないでしょう?」
「なぁんだ。知らないんだ。結構おいしいモノ売ってるよ。行ってみる?」
「ご遠慮します。」
「じゃあ、どうすんのよっ。」
「心配しなくても・・」


RRRRR・・・
と内線電話の音。

桜子が電話をとると、満足げな表情。



沈む夕日が見えるレストラン。
ベストな時間の、ベストな席。
当然、予約していたのは、司さん。

本当に過保護だ。
あたしの洋服から、食事の心配まで。
あたし達のこと、子供扱いだよね、これ。

「そんなに怒らなくたっていいじゃないですか。このワイン、凄く美味しいです。さすが、道明寺さん。」
ワインまでセレクトされていた。
テーブルにはグリル料理。
それをぱくつきながら、桜子に言う。
「なんであんなに過保護なんだろ?」

するとプッと桜子が吹き出した。
「先輩のこと、愛して止まないのでしょう?」
クスクスと笑い続けている。


「それで、先輩、道明寺さんとの付き合い、いつまで隠しておくんですか?」
「いつまでって・・」

それはまさに、今あたしが真剣に悩んでいること。

「ねぇ。桜子、前に言ったよね。あたしのこと、フツーの人だって。」
「言いましたね。」
「あれって、どういう意味?」
「どうって、言葉の通りですよ。先輩、フツーの人でしょ。地位も、名誉も、美しさも、何も持っていない、フツーの人。」

ズバリと言われれば、さすがにショックを受ける。
分かってるけど・・
だから、司さんにふさわしくないと思ってる?

「だけど、道明寺さんにとっては、先輩以上の人はいないでしょうね。」
「え?」
「だって、そうでしょう?先輩に出会う前の道明寺さんだってすごく魅力的だったのに、先輩に出会ってから、道明寺さんは本当にいい男になったと思います。」

・・・?

「意味がわかりませんか?」
「うん。」
「私ね。ずっと、道明寺さんに憧れていた時期がありますから、分かるんですよ。道明寺さん、帰国してからすごく変わりました。以前より、素敵になったなと思います。それって、先輩のおかげでしょ?」
「?」
「道明寺さんは、先輩のためにいい男になってるんですよ。ま、過保護だとは思いますけどね。」
「あたしのため?」
「だってそうでしょう?先輩は、道明寺司のステータスには興味がない。だったら、自分が魅力ある男になって、先輩を惹き付けるしかないでしょう?」

「司さんは、そんな努力しなくても、十分魅力的だよ。」
「その他大勢の女なんてどうでもいいんですよ。先輩から見て、道明寺さんが魅力的かどうかの問題です。地位も、名誉も、美しさも、何もかもを持っている道明寺さんが、唯一自分で手に入れたいと思う女性が先輩なんですよ。先輩のために、道明寺さんはいい男になったんです。」
「そんなこと・・。司さんは、あたしには、もったいない位に魅力的な人だよ。あたしには、釣り合わない人だよ。」

桜子が、ちょっと意外そうな顔をする。


「先輩、もしかして、道明寺さんと別れるつもりですか?」
「どうして?」
「そんな言い方をするから。」
「別れるつもりなんてないよ。でも、このままじゃだめだと思ってる。」
「どうしてですか?」

あたしはその質問には答えない。
まだ、答えられない。
まだ、迷ってる。

「ねぇ、司さんてさ、こんなフツーのあたしのどこが好きなんだと思う?」
「そうですねぇ。その、お人好しなところですかね。何にでも一生懸命で、欲がないところでしょうか。でも・・きっと一番は、道明寺司を特別扱いしないところじゃないでしょうかね。」
「特別扱い?」
「そう、道明寺司だからといって、チヤホヤしないところ。先輩は、道明寺さんのステータスを好きになったんじゃないでしょう?ありのままの道明寺さんを受け入れてくれる女性。だから、惹かれたんじゃないですか?」

確かに、あたしは司さんのステータスを好きになったんじゃない。
Barで初めて会った頃は、冷たそうな人だと思った。
そんな司さんがちょっとでも笑ってくれると嬉しくて、その笑顔をに惹かれていった。
俺様な態度なのに、実は繊細で、不器用な優しさを持つ彼を、いつの間にか好きになっていた。

だけど、あたしが司さんを好きになったというだけのことなのに、実際には、それだけでは済まされない現実があった。

「ねぇ。もし、あたしがさ、司さんの恋人として公表されたら、きっと周りからの見る目は変わるよね。」
「そうですね。道明寺司の恋人・・ですから。」
「あたしね。それが怖い。自分が、自分でいられなくなる、そんな気がする。」
「どうして?道明寺さんを信じていればいいじゃないですか。どんなことを言われても、道明寺さんがが守ってくれます。」
「桜子は、たぶん、生まれながらのお嬢様だから、そう思うんだよ。お嬢様ってだけじゃない、自分で起業もしてる。羨ましいよ。だけど、あたしには、何もない。自分が自分らしくあるための何も持っていないの・・まだ。」

「つまり、それを手に入れるまでは、公表できないということ?」
「いま、それを悩んでいるところ・・」


ふぅと桜子が溜息をついた。
「先輩は考えすぎです。案外、解決の糸口はシンプルなところにあるものなんです。全て道明寺さんに相談されては如何ですか?案外さっと解決のするかもしれません。」

「そうだね。そうしなきゃいけないと思ってる・・・」


だけど、桜子。
あたしは、欲がないんじゃないの。
実は、すごく我儘なの。

付き合いを公表されたくない。
だけど、あたしだけを見ていて欲しい。
仕事はきちんとできるようになりたい。
だけど、別れたくない。

あたしの考えていることは、すごく自分勝手なことばかりで。
その突破口は、簡単には見つけられないよ。



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今日、明日分の下書きが消えてしまって、昨晩一から書き直した今日のお話。
こんなに長かったはずはないと思うのに、どうしてこうなったのか・・
長いモヤモヤ話ですみません・・。
  1. 続・俺の女
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ブウォーン・・・

今、やっとあたしは機上の人。

とにかく、心配だからと火曜日にの朝に無理やり乗せられたのは、道明寺家のプライベートジェット。
しかも、離陸ギリギリまで、心配性の司さんが、あたしのシートベルトをチェックしたり、荷物をチェックしたりとせわしなくウロウロとして、あたしの方が落ち着かず、桜子すらも苦笑いだった。

はぁ~。

「さすがは道明寺さんですね。」
「何が?」
「だって、先輩のためにプライベートジェット用意したんですよね?それで、那覇空港にはリムジン用意しちゃってますよね、きっと。ま、私はラッキーです。エコノミーなんて冗談じゃないと思ってましたから。」

全く、この人たちは、考え方がオカシイ。
そんなに簡単にプライベートジェット飛ばすなんて、馬鹿げてるのに。

「でも、あんなに心配性なのに、道明寺さん、よく旅行を許してくれましたね。」
「そうだよねぇ。」
あたしは、思わずニンマリと笑ってしまった。

「何?何なんです?何かいいことあったんですか?」
と興味津々の桜子。

「えへへ・・」






先週土曜日の夜。
司さんの机の引き出しにあったパンダ柄のハンカチ。
あれを見て、あたしはとっさにペントハウスを飛び出した。

司さんがモテることぐらい知ってた。
だけど、いつもあたしだけだって言ってたのに。
以前の司さんは、女性に興味なんてなかったって、桜子も、美作専務も言っていた。
だから、余計にショックだったのかな。

だって、あのハンカチは、カップルでもつハンカチだったから。
大切にしていた誰かにもらった、思い出のハンカチなんでしょう?
あたしがそれに文句をいう筋合いなんて全くない。
そんなことは分かってるけど、あたしはその場で平気な顔なんてやっぱりできなかった。

部屋を飛び出しても、行くところなんてどこにもない。
あたしは、The Classicに駆け込んだ。
何かをしていないと、すぐにハンカチのことを思い出しちゃう。
だから、何も考えないで働こう。
そう思ったのに、1時間もしないうちに、司さんがお店に入って来た。

マスターと話している司さんをちらっと見る。
ホント、無駄に見た目がいいんだから。
だから、ハンカチの一枚や二枚、貰ったっておかしくない。
だけど、それをずっと仕事部屋に大切に持っているなんて、よっぽど思い出のあるものなんだよね。

はぁ・・・

フロアのテーブルを拭きながら、そっと窓の向こうを覗く。
東京の夜景は、今日も綺麗だ・・
なんて、感じた途端に、

グッと腕を引かれて、振り向かされた。
あたしの目の前には、困ったような顔の司さん。

無言で、有無も言わせない勢いで、文句を言う隙も無く、あたしはBarから連れ出された。
そのまま、リムジンに乗せられ、マンションのあたしの部屋に戻された。
終始無言・・

ソファに座らされたけれど、何も言われない。
隣に座った司さんが、ポケットから出したのは、あのハンカチだった。
何よ・・何の説明をするつもりなの?


「これ、お前、知ってんだろ?」

何言ってんのよ。
知るわけないでしょ?

「俺、高校の時、すげぇ荒れてて喧嘩とかしまくってた。あの日も、ムシャクシャして、適当に喧嘩をふっかけてた。そしたらよ。すれ違った女が、俺にハンカチを渡すんだよ。口から血がでてるっとか言ってさ。」

あたしは、ポカンと彼を見つめた。
・・何となく知っているようなエピソード。
街灯の明かりで、唇の端が切れた男の顔がちらっと見えて。
だから、とっさにハンカチでそいつの唇を抑えたんだ。
あたしのパンダハンカチで・・。

あの時の男の人が、司さんだったっていうの?

嘘でしょう?
あれが、まさか、あの時のハンカチだったなんて。
あの日、あたしが渡したハンカチだったなんて。
こんな偶然ってあるの?

司さんはあの日に、ニューヨークに行く決心をしたんだって。
あの日、「俺が誰だか分かって言ってんのか?」って聞かれたのを覚えてる。
あたしは、「知る訳ないでしょっ」と答えた。
もしもあの日に、彼が『道明寺司』だと名乗ったとしても、あたしはその名前にピンとは来なかったと思うけど。


あたし達が実は5年前に出会っていたなんて・・・
そして、5年という歳月を経て、また出会った。
それがハンカチのおかげだなんて考える柄じゃないけれど・・
それでも、思わずにはいられない。

『これって・・運命だと思わねぇ?』

そう言った司さんの言葉。
そっくりそのまま返したい。

『うん。あたしも、運命だと思う。』






「なんですか~?先輩。ニヤニヤしちゃって。気持ち悪い。あ、もしかして、たかが、4日間、道明寺さんと離れるからって、結構濃厚にやってきちゃったりしてます?先ほどの道明寺さんの愛情ダダ漏れっぷりは尋常じゃなかったですよね。片時も先輩のこと離したくないんでしょうね。で、どうなんです?道明寺さんって、H激しいんですか??」

うっ。
何てこというのよっ、桜子!
だいたい、激しいかどうかなんて、司さんしか知らないあたしに分かる訳ないでしょーが。

だけど、あの夜は・・そりゃあ・・ね・・。
だって、この人があたしの運命の人だって思ったんだもん。
この人になら、何をされても構わないって思った。
司さんが激しいかどうか・・はよくわからないけど、でも、あたしにはいつも優しい。
無理やりなんてことはない。

何度突き上げられても、愛おしいと感じる。
もう無理だと思っても、それほどに愛されていると思える。


____運命の人。

それを信じれば、あたしが今悩んでいることは、大したことじゃないのかもしれない。
運命の相手であれば、あたしが今、例えどんな選択をしようとも、必ず一緒になれるはず。

道明寺司の恋人であり、牧野つくしというただの女。
あたしはどちらも大切にしたい。
どちらも大切にするためには・・
今選択すべきことは見えていると思う。


今こうして、司さんに守られている幸せがある。
だけど、守ってもらわなくても幸せになれる自分でありたい。
そうじゃなきゃ、あたしが司さんを幸せにしてあげることはできないんじゃないかな?

そのために・・・


「司さん、あたし、桜子と旅行行くからね?」
「お前っ、まだそんなこと言ってんのか?」
深く繋がった後に、二人ベッドの上で微睡んで、その話を切り出した。

「だって、あたし達って運命の二人なんでしょ?あたしのこと、信用してないの?」
「そんなことねぇよ。ただ、心配だし・・。それに、俺が連れて行ってやりてぇんだよ。俺とだって旅行に行ったことなんてねぇだろ?それに、飛行機も初めてなんだろ?全部俺が傍にいてやりたい。」
「ぷっ。本当に過保護。」
「何とでも言え。」
ふてくされている司さんがすごく可愛い。

「ねぇ。あたしさ。将来のこと、考えてるんだ。いろいろ・・」
「将来・・・いろいろ・・?」
「うん。どうすれば、司さんとずっと一緒にいられるのかなぁって。」
「どうするも、こうするもないだろ?今だって、こうしてずっと一緒にいるだろ?」

「そうじゃなくて、もっと先の未来。」
司さんが、凄く真剣な顔つきになった。

「このままじゃ、だめだと思うの。」
「どういう意味だ?」
「それをじっくり考えたい。だから、行かせて?」
「沖縄行ったからって、その答えが見つかんのかよ。」
「分からないけど。今は日常に追われて、自分を客観的に見つめることが難しいの。しばらく、ここから離れて、冷静な目で考えてみたい。」

「・・それって、俺と別れることが前提じゃねぇよな?」
心配そうな司さん。
仕事ではいつも自信満々なのに、あたしの事になると急に弱気になる。
それだけ、あたしを愛してくれている。

「何言ってんの?今さっきまで、運命だって言ってたじゃない。そんなつもりはないよ。ただ、まだどうしたらいいのか分からなくて、迷ってる。ちゃんと考えがまとまったら、司さんに聞いてほしいと思ってるの。」

あたしの真剣な気持ちが、司さんにも伝わったのか。
それとも、頑固なあたしに呆れてるのかな。
司さんは、我儘坊ちゃんだけど、あたしだっていつも我儘だ。
二人の付き合いを内緒にして、自由にさせてもらっている。
二人のことを公表したいって言っている司さん。
だけど、最後には、いつもあたしの願いを叶えてくれるんだ。


「分かった。行って来い。その代わり、つくしの安全は俺が確保するから、それは譲れない。」
「うん。ありがと、司。」

そうして、あたしの沖縄行きは決まった。







9月も後半の那覇空港に降り立って、やっぱりまだ日差しがキツイと桜子がすかさず日傘をさした。
空港を出るとすぐに見たことがある黒服の男性が近づいてきて、やっぱりリムジンに誘導された。
あの人、司さんのSPだよねぇ。
こんなところにSPを派遣してるなんて、本当にどうにかしてるわっ。

沖縄の自然を眺めながら、桜子の別荘へ向かう。
オレンジ色の屋根がたくさん見える。
台風の多いこの島独特の平らな屋根。
窓を開ければ、からっとした風。
台風が来なくて本当に良かったぁ。

「桜子、あれ、見てっ、人食い花が咲いてるっ!」
「そんな訳ないでしょ、先輩。」
「何よ、せっかく沖縄に来たのにっ。あんたも、もっとノリなよね~!」
「先輩がガキくさいんですよ。」

「あたし、こういう旅行って初めて。あ、大学時代にゼミで1泊旅行に行ったな、それ位。卒業旅行も行ってないし。」
「そうですか。わたしも、女同士で旅行なんて初めてです。」

「なんか不思議だねぇ。」
まさか、社会人になってから、こんなセレブのお嬢さんと友達になって、こんな旅行をするなんて考えても無かったもん。
あたしが、そう切り出すと、
「そうですね。」
桜子も楽しそうに笑った。



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このお話は『ある日のThe Classic ⑦』へ繋がります。
***




「どうした?封筒なかったか?」
とつくしに問いかけてみるが、返事はない。
タブレットから顔を上げるとつくしが、ぼーっと机を見つめていた。

「何だよ。」
俺は立ち上がって、つくしに近づいて行くと、彼女がビクッと体を震わせた。

ん?
なんか、あったか?

つくしの隣に立ち、彼女が覗いていた引き出しに視線を落とす。
そこには、白地に黒の柄の入ったハンカチが入っていた。

なんだ?これ?


あ・・
これって、もしかして・・
俺は過去の、少し情けない、懐かしい記憶を思い出しつつあった。

あの時のハンカチ・・


「司さん、これって・・女性物だよね?」
「あ?」
「どうしてここにあるの?」
「え?」
「司さんって、こういうの大切にする人なんだ。いや、別にいいんだけどね。物は大切にすべきだしね。うん。」
「つくし・・?」

つくしは俺を見ようとしない。
それに、言葉も刺々しい。
メチャクチャ珍しいその反応。

「あっ、あたしっ!来週、桜子と沖縄行くからねっ!司さん、絶対について来ないでよねっ!!」

ドンッ!

不覚にも俺はつくしに両手で胸を押されて後方へよろめき、
その隙につくしはスルリと俺の脇を通り抜けて、部屋を出て行ってしまった。


俺・・呆然・・。

今・・何が起こった?
俺は、引き出しに残されたハンカチを手に取った。
懐かしい、パンダ柄のハンカチ。


俺が高3の誕生日に、通りすがりの女から渡されたハンカチだ。
喧嘩に明け暮れていた俺に、「一円でも自分で稼いでみろ。」「両親に感謝しろ。」と言った女がいた。
その女が、俺に無理やり渡してきたハンカチだ。
恐らく、ニューヨークにそのまま持っていき、俺の帰国とともに、いつの間にか、この部屋に戻されていたんだろう。


しかし、一体つくしはどうしたっていうんだ?
三条と旅行に行くとか言って、飛び出していきやがった。
俺が時間を作るって言ってんのに何考えてんだ?

さっぱり訳分かんねぇ。


けど、つくしの機嫌が悪くなったのは間違いない。
俺は今更ながら慌てて、6階のつくしの部屋へ急いだが、部屋に彼女はいなかった。

どこ行ったんだ?あいつ。


携帯を鳴らすが出ねえ。
今日は仕事って訳じゃなかったから、つくしにSPは付けていなかった。
時計を見れば21時を回ってる。
この時間に女一人で飛び出して行きやがって。

俺は慌てて、専用エレベーターでロビー階に降りた。
ロビーに待機しているSPが俺にピタッと付いてくる。

「つくしが下りて来ただろ?誰か付いたか?」
「森田が付いていきました。」
「よし、でかした。」

そのうちSPから連絡が入るはずだ。
俺は地下のリムジンに乗り、連絡を待つ・・・が、なかなか来ねぇ。


大体・・なんでいきなり飛び出していくんだよ。
こんなハンカチごときで・・


って、え?


もしかして・・
このハンカチを渡した女に嫉妬してるとか?
いや、まさか。
こんな安モンのハンカチに?

まじか?
まじかよっ!?
つくしが嫉妬とか・・考えらんねぇ。

俺は思わず、口元を押さえた。

俺は大概モテるが、あいつがそれについてどうのこうのと言うことはほとんどない。
ま、俺自身、つくし以外の女を近くに寄せ付けないこともあって、つくしは俺が女と一緒にいるところなんてほとんど見たことがないはずだ。

嫉妬・・。
やべっ、ニヤける。
それって、俺のことが好きで、好きで、仕方がねぇから起こる感情だよな?
いや、当然と言えば当然の感情だ。

でも、ちょっと待てよ?
このハンカチの女とは全く何の関係もないんだぜ?
あの日の事がきっかけでニューヨーク行きを決めたのは事実だが、あの女とはその後会っていないし、どこの誰かもわかんねぇ。
それに、このハンカチだって、敢えて捨てはしなかったが、大切にとっていた訳でも無い。
ここにあったのも、偶然なんだ。
一緒にニューヨークへ行き、一緒に帰って来ただけだ。


あいつ何、誤解してんだよっ。
つくし以外に大切にした女なんていねぇのに。
そんな訳ねぇのに。あいつ!

早くあいつを探し出さねぇと。

どこだ?
どこへ行きやがった?
どこにも行くところなんてないはずだ。
とりあえず探すとすれば・・実家・・か?

そこまで考えを巡らせたとき、俺の携帯が鳴った。


どうやら、つくしはThe Classicのホールにいるらしい。
あいつは今でも時々、The Classicに顔を出しているからな。

ったく、余計な心配してんじゃねぇよ。
とりあえず、早く誤解を解かなきゃなんねぇ。


俺はメープルに急いだ。
地下駐車場から、専用エレベーターに飛び乗って36階を目指す。
エレベーターが開いた瞬間からダッシュして、The Classicに走り込んだ。



***



いたっ!

メープルに走り込んだ俺の目に飛び込んできたのは、カウンターでグラスの準備をするつくしの姿。

ったく、心配させやがって。

俺を認めたつくしは、一瞬ビクッとしたが、さっと俺を無視して、フロアに戻ろうとした。

カッチーン。
わざわざ迎えに来た俺にその態度かよっ!

さっとつくしに近寄って、彼女の腕を掴んだ。
「いい加減にしろよ、帰るぞ。」
「仕事では他人だって言ったでしょ?」
上目遣いで俺を睨むつくしが、俺の手を振り払ってフロアに消えて行く。
俺は、その後姿を呆然と見送るのみ。
完全にキレてんな。


ちぇっ。
少し、時間をおいた方がよさそうだ。
視線をカウンターに戻すと、微妙な顔をしている臼井と目が合った。
カウンターに座り、しぶしぶ臼井に事情を話すと、
俺は、予想もしていなかった事実を聞くことなった。


『あのハンカチはカップルで持つと幸福を呼ぶそうですよ。』

『牧野さんもあのハンカチを持っているんですよ。』

『彼女が高校生の時、バイトに行く途中で出会った、喧嘩帰りで唇を切っていた男に、その対のハンカチをあげてしまったそうですよ。』


___あのハンカチの持ち主についての真実。

つまり、俺にこのハンカチを渡したのはつくしで、
俺の幸福を呼ぶハンカチの片割れは・・・つくしが持っているということだ。


こんな偶然があるなんて。

あいつ、分かってんのかよ。
お前が嫉妬している奴は、お前自身なんだぜ?

だいたい、幸せを呼ぶハンカチを見ず知らずの男に渡すなよ。
だけど、そっか、俺がそれが引き寄せたんだから、それでいいってことか。


なぁ、今の俺の気持ちを、どう表現すればいい?

お前は俺の運命の女だ。
ここで出会った時からそう思ってる。
俺の人生を変えた女。

だけど、それだけじゃねぇ。
もっと前から惹かれてたのかも知れない。
何を言われても響くことがなかった俺の心に刺さった言葉。
彼女に言われた一言で、ニューヨーク行きを決めた。
自分の価値を見出すため、俺はニューヨークで戦って来た。
だからこそ、今の自分がある。

俺が、俺であるために。
俺の傍には、いつもつくしが必要だ。
もう、こいつ無しの人生は考えらんねぇ。


俺は立ち上がって、つくしの腕をつかみ、引きずるようにして店を出た。


こいつに伝えたいことがたくさんある。

どんなにお前が大切か。
お前に出会って、俺がどれだけ変わったか。
5年前だけじゃない。
今もだ。

今この瞬間も、
お前にいいところを見せたくて、
お前の仕事にいい影響を与えたくて、
お前に、いい男だと思って欲しくて、

今となっては、俺の人生は、お前に認めてもらうためだけにある。
ただ、お前の傍にいるために・・・。


そして、
俺がどんなにお前を愛しているか、お前は分かってんのか?
俺が、俺自身よりも大切に思う人間、
___それがお前なんだ。


お前のためなら、何でもしてやる。
お前の夢なら何でも叶えてやる。
だから、お願いだ。

ずっと俺を支えて欲しい。
ずっと俺を見ていて欲しい。

これから先もずっと、俺だけの女でいて欲しい。



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「沖縄っ!?」
「うん。急だけど、来週の火曜日から3泊4日。」
「3泊っ!?」
「うん。桜子んちの別荘があるんだって。あたしも、夏休みとってないし、平日休みに会わせてくれる友達なんていないしさ。それに来週は、まだ担当のお客様がいないから休みやすいの。」
「・・・。」

「飛行機も空いてるみたい。桜子ったら、ファーストクラスじゃなきゃやだとか言うけど、国内線だし、それは空席ないから、エコノミーだけどね。それで十分だっつーの。っていうか、あたし、飛行機自体初めてだし。緊張するなぁ。」
「つくし・・飛行機・・初めてなのか?」
「うん。だって、どこにも行ったことないんだもん。」
「どこにも行ったこと無いって・・」

「だって、大学の時もバイト三昧で旅行に行く余裕もなかったし、卒業旅行も行かなかったし。」
「じゃあ、俺を誘えよ。お前に誘われれば、いくらだって・・」
「あはっ。何言ってるの?司さんが行ける訳ないでしょ?」
「あ?」

「あたし、知ってるよ。司さん、毎日この部屋に戻ってくるために、分単位のスケジュールをこなしてるんでしょ?メープルの経営にも乗り出しているから、更に忙しいんだって、西田さん言ってたよ。そんな人が、どうしてお休みなんて取れるのよ。」
「取る。」
「だから、無理だよ。それに、あたし、無理に旅行に行きたい訳じゃなくて、今回はたまたま・・」
「たまたま・・なんだよ。」
「う・・うん。たまたま、桜子も学生で平日にお休みできるから。気分転換でもしようかなって・・」

そのあたしの言葉を聞いて、司さんの顔つきが険しくなった。
気分転換なんて言い方がまずかったかな。
司さんとの、この生活に不満がある訳じゃないんだよ。
でも、最近もやもやと考えていることを、少し一人になって整理したいと思っていた。


「とりあえず、その話は保留だ。」
「なんでよ。勝手な事言わないで。もう飛行機予約しちゃったし。」
「セキュリティーを確認しなきゃ、行かせられねぇ。」
「司さんっ!」
「とにかく、俺もなんとかすっから。」
「何言ってんの?司さんは関係ないでしょ?」
「関係ないってことねぇだろーがっ!」

こうなるとなかなか彼を止めることは困難なのはわかってる。
急に電話を掛けたかと思うと、スケジュールの調整とか始めちゃった司さん。
ちょっと、別に司さんを旅行に誘ってるんじゃないのよ?
桜子と行ってくるって言ってるじゃないの?
本当に頭が堅いんだからっ!


「司さん、本当に止めて。司さんがスケジュール調整する必要とか全くないから。」
「何言ってんだ。そうと決まれば、ちょっと仕事するわ。」
「え?」
「休み取ろうと思えば、仕事詰め込んでおかねぇと。おっしゃ、やる気出て来たわ。俺、上に行って仕事するから、お前も後で上来いよ。寝る時は一緒だ。」
「寝る時は一緒だって言ったって・・。どうしてそんな急に張り切るのよっ。もうっ・・!!」

あたしが文句を言おうとしたら、もうすでに司さんはあたしの部屋を後にするところだった。
ホント困る。
これって、司さんも旅行に行こうとしてるんだよね?
でもさ、桜子と一緒に行くって言ってるのに、どうしてそーなるかなぁ。

はぁ・・。


あたしは、取り合えず、夕食の片づけを済ませた。
すでに、航空券もとってしまっているし、今更どうすることもできないのに、どうやって司さんを説得すべきかしら?
だって、出発はもう来週だよ?
今日は土曜日のすでに20時前。
今から司さんがどんなに頑張ったところで、スケジュールを開けるのは無理だよ。

でも・・。
確かに・・司さんと旅行かぁ。
行ってみたいなぁ。
楽しそう。
それに、ゆっくり将来のこととか、話し合ってみたいような気もする・・。


なんてことをいろいろと考えながら、あたしはしっかりとお泊りの準備をして、司さんのペントハウスに向かった。




ペントハウスへは、専用のエレベーターで直通。
聞いた話では、本来、地下駐車場とロビー階、ペントハウスを繋いでいたのに、あたしの入居に合わせて6階にも止まるように作り直したらしい。
信じられないけど、あの時って、あたし達はまだ正式に付き合ってもいなかったはずで、そんな頃から準備をしてくれていたのかと思うと、頬が緩んじゃう。
本当にびっくりするような愛情表現。
住む世界は違う人なんだけど、人を想う気持ちは一緒なんだよね。
お金持ちだからとか関係なくて、司さんのあたしへの愛は深い。
それは十分に感じてる。
だから、できるだけ早く、あたしも何らかの結論を出さないといけない。



ペントハウスに着くと、中から怒鳴り声。
『だから言ってんだろっ!来週だっ!火曜日から4日、休みにしろっ!!』

やれやれ・・
大変だな、西田さん。
絶対に出来る訳ないと思う。

とりあえず、コーヒーでも入れて、司さんに持っていこう・・。
あのカチカチ頭を何とかしなくちゃ。

ブルマン100%のコーヒーをゆっくりと入れて、静かになった司さんの仕事部屋をノックする。
そーっと部屋に入ってみると、司さんがパソコンと睨めっこ。
その表情は真剣なんだけど、動機は不純だから、ちょっと笑えちゃう。


「司さん、ちょっとだけ休憩して?コーヒー飲んで・・ね?」

司さんがタブレットを持ったまま、ソファにやってきて、あたしの隣に座った。

「お休み、取れそうなの?」
「わっかんねぇ。」
「そんな、無理する必要ないでしょ?」

ギロリと睨まれたけど、怖くないし。
司さんはコーヒーを飲みながら、タブレットを操作している。

「これ・・さっきの報告と違うな・・」
なんてぼそっと呟くから、
「何?」
と聞けば、
「さっき見た書類・・どこやったかな・・いつもは西田が管理してっから・・」
と立ち上がろうとした司さんに気づいて、あたしが先に立ち上がった。

司さんのご機嫌を取っておかないとね?
桜子との旅行も行けなくなっちゃうもんね。
書類・・書類・・っと。


ささっと移動して司さんの机の上を見るけど、書類はない。
「書類なんてないよ。」
「あー、引き出しかもな。2段目に茶色の封筒ねぇかな。」
「うーん・・」

マホガニー材でできた、高級な机。
その2段目の引き出しを開けてみる。

・・・とそこには。


茶色い封筒なんか入ってない。
入っているのは、高級そうな万年筆の豪華なケースとか、象牙の文鎮とかそんなもの。
それと一緒に・・


_____ハンカチ。

女性もののハンカチ。


あたし、これ、知ってる。
カップルで持つと幸せになれるっていう・・

パンダハンカチがそこにあった。



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ご心配をおかけしました。だいぶ元気になっています。
お話の方は、つくしちゃん恒例のもやもやっぷりです。
あ、ハンカチ、覚えていますか?
知らないよという方は、「ある日のThe Classic」を読んで頂けたら・・・と思います。
実は、あの頃、司さんは「牧野」呼びで書いています。
そのあたり、さらっとスルーでお願いします(;^_^A
  1. 続・俺の女
  2. / comment:8
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Author:Happyending
ときどき浮かぶ妄想を書き留めたくて始めました。

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