花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

「司さん、この資料、出来上がりました。」
「ああ、そこ置いといて。お前、奥で少し横になれよ。」
「え?いや、大丈夫だよ。すこし動いたりしてる方がいい。」
「調子に乗って無理すんなよ。」
「はーい。」


とことことこ・・ストン。
今、あたしが座ったのは、司さんとお揃いのマホガニーのデスクセット。
サイズはちょっと小さめだけど、重厚感はたっぷり。
そして、その席から、左斜め前には、こちら向きの司さんのデスク。

___そう、ここは道明寺HD日本支社・支社長室。




なんで、あたしがこんな場違いなところにいるのかって言うと・・

_____さかのぼること1週間前。


「あぁ!?ニューヨークで産むだぁ?」
「どうして、そんなに驚くの。仕方ないじゃない。」
「はぁ?お前こそ、おかしいんじゃねぇの?」
「ん?」
「なんで、わざわざニューヨークで産む必要があんだよっ。」
「だから、さっき言ったでしょ。まだ仕事が残っているし、もう少し、お義母様の元で学びたいし・・。」

「ダメだ。」
「大丈夫。無理はしない。」
「絶対に許可しない。」
「大丈夫だよ!十分気を付けるから。ねっ!」

司さんの腕を捕まえて、ユサユサと揺さぶってみる。
右側の眉毛だけを器用に動かしている司さん。

「悪阻が終わって、安定期に入ったら、ニューヨークに行って、仕事の片を付けて、また戻ってくるから。」

司さんの眉がまた動いた。

「あたしだって・・離れてるのは辛いんだよ?」
「じゃあ、日本に残ればいいだろ?」
「でもっ。」
「お前の体が心配だ。慣れないニューヨークでなんか出産させられない。」
「あたし、結構丈夫だし。今だって、悪阻はきついけど、案外働いたり、体を動かした方が、すっきりするぐらいだし・・。」

「仕事してた方がいいっていうのか?」
「うん。ほら、お邸でじーっとしていたら、余計に気分が滅入っちゃうっていうか・・ね。」

司さんの右眉が大きく動いた。

「司さん、いつも仕事で遅いでしょ?一緒にいる時はいいけれど、お邸で一人でいるのって、結構辛いんだよ。すごく寂しいし。司さんの心配は分かるけど。妊娠は病気じゃないから、じっとしてなきゃいけないってこともないと思うの。悪阻だって、いつか収まるはずだし・・。」

司さんがあたしをじっと見つめてる。
もうひと押しっ!

「もし安定期に入っても、具合が悪いようなら、もちろん行かないから。」

司さんがちょっと面白そうな顔をして、それから口を開いた。
「へぇ・・そんなに仕事がしてぇの?」
「うんっ。したい。」

「そうかよ。じゃあ、明日から、一緒に出社するか。それで、大丈夫だっていうなら、ニューヨークに行かせる。もちろん俺が同伴するが。そして、出産前には、日本へ帰国する。どうだ?」
「・・・。」
「何だよ?」
「・・・帰国って、いつ?」
「そうだな、8か月には戻ってきた方がいいよな。」
「ええーっ。そんなこと言ったら、3か月位しかニューヨークにいられないじゃん。」
「仕事の指示はババァがメールで送ってくるだろ。今、未来の東京メープルの案も考えてんだろ?こっちでその仕事やれよ。」
「うーっ。」
「嫌なら、いいぜ。ニューヨークには行かせないが。」
「分かった。」

すると司さんが、携帯を取り出した。
発信相手は、どうやら西田さん。

ん・・んん??

「あぁ、俺。例の机、明日で間に合いそうか?あぁ、明日から、つくしも連れて行くから。あぁ、よろしく頼む。」

ピッ。

「ん?」
「何だ?」
「今の何?」
「明日から、一緒に出社するんだろ?」
「どこに?」
「道明寺ホールディングス。」
「はぁ?」
「お前、さっき言ったの聞いてなかったのか?明日から出社して、大丈夫ならニューヨークに戻すって。」
「ええ~っ!?何で??全然意味わかんないっ!」
「仕事してた方が、気分晴れるんだろ?それに、俺がいない邸も辛いんだろ?心配すんな。俺の部屋のプライベートルームで休んでればいいから。」
「うそでしょ?」
「いや、本気。」

やっ、やっ、やられたー!!

「さっ、さっきの電話。もしかして、初めから会社に連れていくつもりだったんじゃないの??」
「まぁな。お前も、何かしてた方が、悪阻忘れられるって言ってただろ。俺も、心配で気が気じゃねぇんだよ。西田もタマに何度も連絡入れるのが、面倒くせぇみてぇでな。あいつが言い出したんだよ。そんなに心配なら、奥様をこちらに呼ばれてはどうですかってよ。」

なっ、なっ、なんですとっ!

「公私混同っ!!」
「はぁ。馬鹿じゃねえの?公私混同して何がわりぃんだよ。」
「やっ、あたし、やだっ。あそこ、秘書さんとかいるし。そんなとこで昼寝したりなんて・・ありえないしっ。」
「だから、プライベートルームがあるから、心配すんなって。あぁ、良かったわ。毎日心配で、仕方無かったんだわ。メシは無理して食わなくても、好きなもの届けさせっから。」
「届けさせるって・・執務室で食べるの?」
「俺も一緒に食うから。楽しみだな。」

ありえないっ!
ありえないっ!!
信じられないっ!!


だけど・・・
ニューヨークでもう少し、メープルの仕事を学びたい気持ちも捨てられない。
安定期の3か月間だけでも、お義母様の元で学びたい。
悪阻が無くなれば、普通に働けるってことを司さんが分かってくれるのなら、会社に行ってもいいかも。
それに、実際、道明寺家でじっとしているのも、1週間ぐらいで飽きてきた。
本来なら、花嫁修業とかするべきなんだけど、あたしが体調不良だからって、周りの皆も何にもさせてくれないし。
毎日、だらだらお昼寝して、散歩している位。
だったら、職場に来れば、もう少し、シャキッとできるかも・・。




そういうことで、1週間前から、あたしは道明寺HDの臨時職員になった。
役職は・・支社長秘書。
あって、無い様な役職なんだけどさ。

それで、司さんの執務室の一角に豪華な机を与えられ、お義母様から言われている仕事を、ちょこちょことこなしている。
今のメインは、東京メープルの新規事業の立案がメインで、そのための資料を集めて纏めたりとか、そんな事。それは、道明寺HDとの共同事業だから、司さんが近くにいてくれるのは有難かった。


眠くなったら、プライベートルームを借りて、ちょっとだけお昼寝をしてスッキリする。

相変わらず朝はダメだから、あたしが出勤するのは、お昼前。
本当は自分でお弁当を作りたいところなんだけど、どうしても、匂いがダメ。
特に、ご飯やお弁当のこもった匂いがダメで、昼食はどうしても食べられない。
だから、お昼といっても、お蕎麦や、そうめんが届けられたり・・。
プライベートルームの大きな冷蔵庫には、あたし用のフルーツやゼリーが入っている。
15時には必ず、ティータイムがあって、またしても、お邸からおやつが届けられる。
これはあたしが凄く楽しみにしているんだけど・・。
って、あたしは皆に迷惑ばっかりかけて、一体何をしているんだろう・・。

こんなことなら、ニューヨーク行きを諦めた方が良かったのかも・・。


だけど・・・
この生活には、思いがけない収穫もあったの。



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投稿時間がまちまちでごめんなさい。
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  1. その後の二人のエトセトラ
  2. / comment:3
  3. [ edit ]

妊娠発覚から1週間。

あたしはまだ、日本にいる・・・。



本当なら、日本での滞在は1週間で、ニューヨークに帰るつもりだったんだけど・・
「本当にお前は心配で仕方ねぇ。このままニューヨークになんか帰せるかっ!」
と司さんが大騒ぎをして、あたしの渡米を反対した。

妊娠が分かった時には、すごく落ち着いていたように見えたのに、一日たてば、びっくりするぐらいに過保護な司さんに変身していた。
いや・・過保護はいつものことではあるんだけど・・。


「やっぱり、俺の勘に間違いはなかった。」
「結婚式前から、おかしいと思ってた。」
とか言い出して、
最後には、
「お前のことは、俺の方が分かってる。」
の一言で、あたしを黙らせた。

まぁね。妊娠に気付かなかったのは、不覚だったけど・・。


それから、ニューヨークのお義父様もお義母様も、渡米に反対したらしい。
7月末に予定されていた、ニューヨークでの披露宴も、一旦白紙に戻すと聞かされた。
招待状を送る直前だったらしくて、そういう面ではギリギリ間に合った?感じ。
なんだか・・道明寺家って、みんな揃って過保護じゃない?
披露宴はメープルで、仕事上のつながりや、政治的なつながりのある方々を招待して、盛大に行うと聞いていた。
そんな披露宴は司さんに全て任せる形になっていて。
どうせ披露宴と言ったって、あたしは座っておくだけだし。
大丈夫じゃない?


なーんて、余裕だったのも先週までで、今週に入ってから、これが悪阻なのね、とさすがに自覚するぐらいに、具合が悪くなった。
食べられないっていう事だけじゃなくて、本当に具合が悪い。
頭は、石が載っているみたいに重いし。
朝は特にダメで起きられなくて、朝食なんて絶対無理で、司さんの見送りもできなくなった。
悪阻がこんなにつらいなんて、全く予想外・・。

少し気分が改善する午後に、果物を食べたり、デザートを食べたりと何とか最低限の食事をしている状態。

日中の気分が良い間に、少しでも仕事をしようと思って持ってきていたPCを開く。
仕事に集中すると、気分が悪いということを忘れられるような気がした。
でも、少しすると疲れちゃって、また寝てしまう状態。
妊娠って・・想像していたよりも大変だ・・。


気分転換は夕方、日が陰ってからの庭の散歩。
水がまかれた広い庭をタマさんと一緒に散歩する。

「しかし、坊ちゃん、いや、若旦那様が父親になるとはねぇ。」
「そんなに意外ですか?」
「そうだねぇ。若奥様に会う前には考えられなかったことだよ。」

タマさんは、あたしを若奥様って呼ぶ。
あたしは今まで通り、つくしって呼んで欲しいけど、それは、他のメイドさんへのケジメのためにダメだと言われた。
だけど、呼び方以外は普通の話し方をしてくれるから、何だか安心できて、嬉しいんだ。
慣れない若奥様生活だけど、タマさんのおかげで何とかやっていけている。


「結婚は、立場上、いつかはするんだろうと思っていたけれど、まさか、こんなに早く、こんなに幸せな家庭を持つなんて、予想もしなかったよ。」
「・・?」
「昔から潔癖だったし、周りにうろつく女性を毛嫌いしていたしね。今でこそ、若奥様のおかげで、ご両親と仲良くされているけど、以前は口も聞いていなかったんだよ。変われば変わるもんだね、人ってもんは。生きているうちに、幸せそうな坊ちゃんを見ることができて、あたしゃ、本当に嬉しいんだ。」

司さんの荒れていた幼少時代。
だけど、それは、お義父様やお義母様が道明寺財閥の経営を盛り上げた結果でもある。
財閥繁栄ための10年以上も家族団欒がなかった道明寺家。
お義母様は、ご自身の後悔と家族の将来への夢を、リゾートアイランドに託した。
忙しいのが当たり前になってはいるけれど・・
これからは、少しでも、家族の時間が取れたらいいなと願う。
そのために、あたしが家族の一員としてできることって、何だろう。

そんなことを考えていたら、タマさんが言った。
「あれだよ。あれ。子供をたくさん産みなよ。」
「はい?」
「どんなに忙しくたって、賑やかな家庭があるっていうのはいいもんだよ。そうして、若旦那様や、ニューヨークの旦那様や奥様を振り回しておやりよ。楽しいよ、きっと。」
「振り回すって・・。」

まだ、一人目で、妊娠3ヶ月なのに。
たくさんって言われても困るよぉ。

だけど、
司さんが、たくさんの子供達に囲まれている姿を想像してみる。
足元に子供たちがまとわりついて、両腕に子供を抱っこして・・。
クルクルの髪の毛が、面白いぐらいに乱れてて・・。
プププッ!
似合わないっ!
あの完璧なスーツ姿が形無しだ。

でも・・案外、いいパパになるんだろうなぁ。
もしも、女の子が生まれたら大変だ。
あたし以上に過保護な扱いされちゃうんだろうなぁ。
メロメロになりそう・・。
それもちょっと寂しかもしれない・・なーんてね。
ププッ!

一人、いろいろと想像を楽しんでいたら、急にタマさんの声が聞こえてきた。

「馬鹿だねえ。たとえ、お嬢様が生まれても、若旦那様が、若奥様以上に大事にするなんて、ある訳ないね。今だって、1時間毎に状況確認の連絡が入るんだよ。やってられないよ、全く。こんなんじゃ、出産の時には大騒ぎになるね。きっと。」

へっ?

「丸聞こえだよ。成長しないねぇ・・。」





何だか上機嫌で、部屋に戻った。
楽しいことを考えると、悪阻が楽になるみたい。
そして、クローゼットを開けて微笑む。
これ、最近のあたしの楽しみ。

このクローゼットを初めて見た時には、その中身に圧倒されて、自分が人形の様に思えて、少し辛い気分になった。
だけど、今のあたしは違う。
クローゼットを開ける度に、笑顔になる。

だって、このクローゼット。
中身は、これでもかっていう位にたくさんの洋服や宝飾品。
これ、ぜーんぶ、司さんが自ら選んで用意したんだって。
あたしがニューヨークに行っている間に、全部。
忙しいくせに・・あたしがいない間にそんな事に時間を割いていたなんて。
聞かされた時には驚いた。

一つ一つ、自分の体に当ててみる。
どおりで、私に似合うはずだよね。
あんなに悩んでいたのが、本当に嘘みたい。
司さんの行き過ぎな位の愛情に、照れつつも、満たされる毎日。

いまや、あたしは司さんがいなくちゃ生きていけない人だ。
こんなんじゃだめだと思うんだけど、司さんに言わせると、「それでいい」で終わりだし。
本当に・・なんだか困っちゃう・・。

ターコイズブルーのドレスを体に当てて、どうやらニヤニヤしていたみたい。
急に後ろから声がかかった。


「何、ニヤついてんだよ。」
「えっ、あれぇ。いつの間に。」

クローゼットの中で一人ファッションショー気分のあたし。
振り返ると、司さんが怪訝な様子でこちらを見てる。
うわっ・・恥ずかしいっ。

ササッと、ドレスを片づけて、
「お帰りなさい。」
そう言うと、
「ただいま。」
っていって、いつもの優しいキスが落ちた。


新婚って・・こういうものなのかな。
ニューヨークでは、お互いにバタバタして、ゆっくりするのは、夜位で。
それも結構慌ただしかった。

今はあたしは仕事をしていないし、このお邸にいる。
司さんが帰宅するときには、必ずここで迎えることができる。
当たり前のことなのかもしれないけど、きっと道明寺家では難しいことでもあったんだろうな・・。
あたしは、やっぱり、自分がどんなに忙しくても、司さんを迎え入れてあげられる家庭を築きたいな、なんて思った。


二人並んで、ソファに座る。
こんなゆったりとした時間も幸せ。
安定期に入るまでは・・・と、夜の営みは無くなって、
帰宅した司さんと、妊娠や育児の雑誌を見るのが、夜の定番。

問題は、司さんの過保護っぷりなんだけど・・。
喉が渇いたと言えば、最近定番のレモンスカッシュを持ってくるし、
お腹が空いたなぁと言えば、これまた定番のプチトマトを持ってくる。
イチゴが食べたいなんてぼやいたら、季節じゃないのに、どこかからかイチゴを取り寄せた。
あたしが言うことは、何でも自分が叶えようとしちゃうみたい。

困った人・・・。
思わず苦笑いが出ちゃう。

だけど・・幸せ・・。


子供服のカタログを眺めながら、今日も二人の夜の時間。
「司さんは、どっちがいい?やっぱり、男の子が欲しい?」
そう聞いてみたら、結構以外な言葉が。

「いや、どっちでもいいな。元気なら。でも、どっちかっつーと、お前に似た女の子が欲しい。」
「えっ?そーなの。絶対、男の子だと思ってた。」

ほら・・跡取り・・とか?
やっぱり、全く気にならない訳もないし。

「お前は?」
「うーん。あたしもどっちが生まれてきてくれても嬉しいんだけど・・」
「けど?」
「あたしは、最後まで知らなくてもいいかなって思ってる。」
「は?」
「ほら、もう少ししたら、エコーで性別がわかるでしょ?でも、あたしは聞かなくてもいいかなって思う。生まれてきてから分かるっていうのもいいかなって。」
「へぇ。」

司さんがちょっと驚いた顔をした。

「生まれた瞬間に分かるっつーのもいいか・・。」
「ね?赤ちゃんが生まれたら、すぐに連絡してあげる。」
「・・・?は?」

怪訝そうな司さんの顔。

「あ?何でだよ。俺は立ち会うつもりだけど。」
「え?無理でしょ?あたし、ニューヨークだし。」
「はぁ??」
「えっ?」

もう少しして体調が落ち着いたら、ニューヨークに戻るつもり・・なんだけど。
まだまだ、やらなきゃいけない、覚えなきゃいけない仕事が残ってるから。
そうすると、ギリギリまで働いて、そのままニューヨークで出産したほうがいいんじゃないかと思ったんだけど・・・。
産後落ち着いたら、日本に戻る。
その間、司さんはちょっと寂しいけど・・。
その後は、ずっと一緒だから。


しーん・・・。

司さんが、目を見開いたまま固まっている。
それから、我に返ったように叫んだ。

「俺がいない所で、産ませるわけないだろうがっ!このバカ女っ!!」


ひえっ。
司さんのクルクル頭が逆立っている気がするよ。
久しぶりに、司さんの怒声を聞いちゃった。



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寝落ちしてました・・すみません・・。
明日も、恐らく5時は無理だと思います。
また、ぼちぼちと覗いてやってください。

  1. その後の二人のエトセトラ
  2. / comment:5
  3. [ edit ]

「お前、やっぱ、おかしいな。病院行くか。」

ん?
びっくりして、司さんを見上げた。
涙も吹っ飛ぶぐらいに驚いちゃう。
おかしい?
病院??


「ヒック・・。大丈夫・・ヒック。おかしくない。」

「いや、おかしい。お前、ずっと食欲もないし、すぐ寝るし、すぐ泣くし、おかしいだろ?」

それは、あたしも、ちょっと気になっていたこと。
司さんも気付いてたんだ。
だけど、どこがおかしいって程じゃないんだけど・・。


「大丈夫だよ。」
「お前・・本当に分かんねぇの?」
「んん?」

小首をかしげたあたしにに、チュッと、司さんからのキス。

「子供・・できたんじゃねぇのか?」
凄く真剣な司さんの声。

「・・え・・?」
思わず覗き込んだ司さんの顔が、うっすらと赤い。

「つーか。こーうことって、女の方が詳しいんじゃねぇの?」
「うっ・・・えっ・・・?」
「いや、もしかすると、俺の勘違いかも知れねぇし、お前が言い出すまで黙っとこうと思ったけど、やっぱおかしいだろ、最近のお前。」

こども・・?
子供って・・?
えっ?
ええーっ!?
赤ちゃんっ!?
・・・にっ、妊娠っ!!??


「にっ・・妊娠してるってことっ!?」
「その可能性も十分あるだろ。やることやってんだから。」
「あっ・・うっ・・」

妊娠・・。
そうだ・・ありえないなんてことは・・絶対にない。
そう言えば、最近生理はいつ来たんだっけ・・?


自分のお腹に視線を落として、ちょっとだけ撫でてみる。
まだ、何にも感じない。
お腹だって、まだ出てきてないし。
だけど、この胃のムカつきや、食欲の無さ。
おかしなほどの眠気。

どうして、気が付かなかったの?あたし・・・。


「司さん・・。」
あたしは司さんを振り仰いだ。
その瞳の輝きは、確信に近いと言っている。

「だろ?」

びっくり顔のあたしの頬にキスが落ちた。



***



それから、あたしは強引に病院へ連れていかれた。
夜に病院に行くなんて非常識だって騒いでみたけど、司さんが、明日は仕事が立て込んでるから、絶対に今日だって言って譲らなかったから。
別に、一緒じゃなくたって・・大丈夫なのに・・。
それに、なんだか恥ずかしい。
産婦人科なんて初めてだし。
あたし、なんの知識も持ってない。


到着した病院は、道明寺系列の病院とあって、特に問題なく、緊急入口から案内されてしまった。

連絡をしてあったからか、対応してくれたのは、産婦人科の女性医師。
もう21時過ぎだというのに、ニコニコと対応して下さって、本当に申し訳ない。
簡単な問診の後、尿検査を提出して、しばらく個室で待った。


凄くドキドキする。
隣では、司さんがずっと手を握ってくれている。
でも・・
今となっては、あたしも、妊娠で間違いがないんじゃないかと思う。
赤ちゃんが・・ちゃんと元気にあたしのお腹にいてくれるのかどうか・・。


コンコンと部屋がノックされ、
「道明寺さん、こちらへどうぞ。」
と別室へ促された。

『道明寺さん』・・
そんな呼ばれ方、恥ずかしいって思ってたけど、なんだか今はしっくりくる。
司さんと一緒に産婦人科に来たというだけで、自分が本当に結婚したんだということが、しっかりと認識できた。
今の今までは、恋愛の延長だったのかも。
だけど今は・・
あたしと司さんは、本当に、本当の家族になったんだって。


司さんに手を引かれて別室へ移動すると、そこには先生が待っていた。

「尿の検査は陽性です。」

・・!!
司さんが、あたしの手をぎゅっと握った。

「今から、きちんとお腹の中に赤ちゃんがいるか、確認しましょうね。」


右も左もわからないままに、看護師さんに促され、司さんと別れて診察室に入った。
本当に知識のない自分が悔しいぐらい。
診察されている最中も、恥ずかしいわ、エコーを見てもチンプンカンプンだわで、いったい何がどうなっているのか・・。

「おめでとうございます。妊娠されていますね。」

その言葉を聞いて、一気に力が抜けた。



___妊娠。
あたしのお腹の中に、司さんの赤ちゃんがいる・・。

胸が詰まるほどの幸せな気持ちと、
自分が自分でなくなったような、不安な気持ち。
親になるという恥ずかしさと使命感。

そんな感情が一気に押し寄せて来て、あたしはもう、どうしたらいいのか分からなくなった。


フラフラしながら身支度を整えて、診察室を出ると、司さんが落ち着かない様子で立っていた。
何も言わないあたしを、心配そうに見つめている。
あたしは、倒れ込むように彼に抱き付いた。

ポンポンと背中を叩かれて、少しだけ落ち着く。

「お腹に、赤ちゃんがいるって・・。」

背中に回された腕に、少しだけ力がこもった。
いつもより、ちょっとだけ手加減してる?
あれ・・ちょっと、震えてる?

「良かった・・。ほっとしたぜ。あぁ、俺・・マジ、嬉しい。」

噛み締めるような彼の一言一言が、胸に響く。
少しだけ不安だった気持ちも消えていくみたい。


「楽しみだね。赤ちゃん。」
「おう、早く会いてぇな。」
「ぷぷっ。そんなにすぐには会えないよ。」

あぁ、幸せだぁ。
赤ちゃんが来てくれたこと。
そして、司さんが喜んでくれたこと。

不安がないと言ったら嘘になるんだけど、
きっとあたしは大丈夫。

だって、いつも傍に、司さんがいてくれるから・・。

赤ちゃんがいると分かった途端に、心の中の霧が晴れていくような感覚。
少し前に抱えていた悲観的な感情なんて、どこかに行ってしまった。


「で?これから、どうすんだ?」
「うーん。また、先生から呼ばれて、いろいろ教えてもらえるのかな?」
「そっか。」

いつもはせっかちな司さんが、ゆっくりとあたしをエスコートして、待合室に向かう。


こんなにも、何の知識もない自分にも呆れちゃうけど、
だけど、司さんだって、妊娠・出産の知識なんてあるはずないし。
これから、二人で、学んでいけばいいね。

隣を歩く司さんの顔が、緩んだり、引き締まったり・・。
その様子がおかしくて、

「あはっ・・!」

思わず、笑い出してしまった。

おかしいなぁ。
さっきまで涙もろかったのに、今度は笑い上戸?


「何笑ってんだ?」

あははっ。

「俺たちの子供って、どんなの出てくんのかな。」

うははっ・・ぷぷっ・・うん、そーだねぇ。

「やっぱ、最高に可愛いだろうな。お前に似たら、真面目くせぇのになるかな。俺に似たら、ちょっとマズイな・・。」

ははっ・・あははっ・・。

「いや、やっぱ、元気だったら、どーでもいいけど。」

うん・・うん・・そうだね。

「ま、いずれにせよ、俺が付いてっから、心配いらねぇ。」


うん。うん。
本当に。
司さんがいるから、きっと、大丈夫だよ。
あたしも、赤ちゃんも。

幸せで、笑いが止まらない。


頼りにしています・・旦那様。
これからも、ずーっと、一緒にいてね。



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昨日は、ちょっとトラブルがあって更新できませんでした。
また、ぼちぼちとお付き合いして頂けると嬉しいです。
  1. その後の二人のエトセトラ
  2. / comment:3
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つくしが楽しみにしていた同期会。
俺の心配は、つくしの体調と、安全面。
それから、つくしに対するの周囲の反応だ。
彼女に対する周囲の目は大きく変わっている。
鈍感なこいつは、あまり気付かないのかもしれないが・・。

西田に手配させた、つくしの同期のリスト。
男5名、女5名。
入社前に課した論文から判断し、それぞれに大なり小なりのテーマを与え、この1年で企画を練らせてきた。
まだ、企画中の奴らもいるが、レストラン部門の黒田、宿泊部門の高木のプランは目を引いて、すでに実行に移されている。それ以外の奴らも、何度かプランの提出があり、修正中だ。
ただ一人、企画の提出が一度もない奴がいた。
それが、山崎恵。

宿泊部門を希望していたのに、初期配属はブライダル部門。
この女は未来のメープルに、ブライダルとのタイアップの強化を挙げていた。
そのプランの可能性を買って、メープル上層部はこいつをブライダル部門へ配属したらしい。
当然、課されたテーマもブライダルだった。
それなりにいい初期プランを出していたが、その後一度もプランの提出がなかった。
初期研修が希望の部署じゃなかった奴はたくさんいる。
しかし、そこで結果を出すことも仕事だ。
プランの提出がないからと言って、ペナルティはないが、評価はされない。
当然、キャリアアップにはつながらない。
単に業務をこなすだけなら、総合職でなく、専門職と同じだ。
それから、もう一つ、この女に気になる点があった。
本人は強く希望したらしいが、今年度の海外勤務の希望が叶わなかったこと。
当然だ。こちらが課したテーマの回答すらないんだからな。


今日は、初めからつくしの同期会に顔を出そうと思っていた訳じゃない。
つくしの同期をチェックしたのは、そのバックにややこしい人間関係があるかどうかが知りたかっただけで、実際そこには問題はないと判断していた。
だが、たまたま、会議が早く終わり、事務処理は明日でも可能な状況になった。
挨拶回りの移動中も、つくしの顔が冴えないことが気になっていた。
だから、強引かも知れないが、早めに連れて帰ろうかと思い立った。

聞いていた店に入ると、SPの川西が驚いた顔をした。
そして、中から、女の甲高い声が聞こえてきた。

『支社長に体を使って取り入った・・とか?呆れちゃう。』


聞き間違いか?
しかし、部屋の中の空気が張り詰めているのが分かった。
さすがの俺も、ここまで低俗な会話がなされているとは予想もしていなかった。
この程度の人間を採用した、メープル幹部にも頭が来る。

そもそも、ホテル業務で重要なことは、洞察力だ。
その人間が何を欲し、何を疎んじているのか。
そして、その人間がどの程度の人間か。
そういった、人を見る目が必要な職種だ。

つくしが、体を使って、俺に取り入った?
もし、それを信じる様な奴がここにいるのなら、こいつら全員クビだ。
それ位に、バカげた話だ。
つくしの仕事ぶりを見て、そんな物の見方しか出来なような奴は、メープルには必要ない。


そのままブチ切れて帰っても良かったが、そんなことをすればつくしの立場もないだろう。
つくしに惚れこんで、妻にしたのは俺だ。
この女の発言は、俺に対する侮辱に等しい。
勘違い甚だしいこいつらに制裁を加えることもできたが、それは問題の根本的な解決にならない。
俺は、怒り心頭に発した頭を振り、冷静さを装って、部屋の中に入った。


はっきり言って、つくしの同期からの評価なんて、どうだって良かった。
だが、こいつが間違った評価をされるのは許せねぇ。
根本的な解決。
それは、俺がいかにこいつに惚れているかを思い知らせてやることだ。
そして、こいつが、いかに俺に相応しい女か知らしめてやる。

こんな奴らと会話するのも、つくしのため。
どうだよ。
こいつが俺に惚れてる以上に、俺がこいつに惚れてんだ。
俺が追いかけて、やっと手に入れた女なんだ。


公私混同だ?
別にいいじゃねぇかよ。
全ての責任は俺が取るつもりなんだから、オメーらには関係ねぇことだ。
かといって、他の奴らには任せねぇよ。
つくしが提案した以上のプランはあの当時なかったし、俺が全責任を背負ってもいいと思うほどの価値は、残念ながら、こいつらには見い出せなかったからな。
身の程を知れ。

・・・と言いたい気持ちをぐっと押さえた。
今では、カリスマ経営者と言われる俺。
俺も、大人になったもんだな・・。






「ねぇ・・司さん・・呆れてる・・?」
二人きりのリムジンの中。
黙ったままの俺に対して、恋人つなぎをしたまま、隣に座っているつくしが、恐る恐るといった様子で話しかけてきた。

「何が?」
「だって・・」
「お前が、あの低レベルな女に言い負かされてたことか?」

ちょっと・・言い過ぎかも知れねぇ。
けど、これからも、きっとこういったことはあるだろう。
こいつが俺の妻になった時点から予想できたこと。
だが、その度に傷つく必要なんかねぇってことを教えてやりたかった。

つくしを妻に選んだのは、俺だ。
そして、つくしも俺を選んだ。

少しショボンしたつくしに言ってやる。

「呆れる訳ねぇだろ?俺を信用してねぇの?」

つくしの大きな目が潤んだ。

「あ・・あたしは、道明寺司の妻なんだから、もっと、しっかりしなきゃだめでしょ?司さんが傍にいなくても、毅然としていたかったのに・・・。ごめんね。」


・・・。
・・・はぁ。
これだから、こいつはバカだっつーんだ。
同期の前では気合い入れたんだろうが、結局のところ、根本が間違っている。
俺が求めてるのは、そこじゃねぇ。


____道明寺司の妻。

その言葉がこいつに課す重みは、分かっているつもりだ。
だが、俺は、別にこいつに毅然としていて欲しい訳じゃねぇ。
むしろ、ダメダメなままで、俺をを頼って欲しいんだ。
そんな事、こいつは望んじゃいねぇんだろうが、それが、俺の第一希望。
何度も伝えてるのに、どうしてわからねぇんだ、お前は。


「お前さぁ。もっと、俺を頼れよ。負けそうになったら俺を呼べよ。」


こいつが、ちょっとのことじゃ、俺を頼りたくないってことは分かってる。
だけど、何度でも伝えておきたい。
俺は、いつでもこいつの味方なんだってことを。
どんなにダメなお前でも、愛してるってことを。
いや、むしろ、ダメなままでいて欲しいんだってことを。


「お前は、道明寺司の妻である前に、俺の女だろ。勘違いしてんな。」


俺の言葉を聞いたつくしが、コクリと頷いた。
やはり体調が悪いのか、だいぶ疲れているのか、言葉が出ねぇようだ。
そのまま、俺にもたれかかってきた。
かなり・・・無理をしている・・
そう感じた。


しばらくの間、つくしの髪を撫でていると、

うっく・・えっく・・
としゃくり上げる、つくしの声が耳に入ってきた。


少し前のつくしなら、俺がどんなに頼れと言っても、強がって、「大丈夫だ」なんて可愛げねぇことを言っていたに違いない。
そして、俺はそんなつくしも可愛くて、彼女をできるだけ自由にしてやりたいなんて思っていた。

だけど、やっぱり、最近のこいつはおかしい。
極端に涙もろいし、感情に流されやすい。
しっかり見守っていないと崩れそうな危うさがある。

それに、握っている手も、撫でている頬も、どこもかしこも、こいつのの身体中が火照っている。
それは、今に始まったことじゃなく、しばらく前からずっとだ。
アルコールが入った訳でもねぇのにな。


ふぅ・・。
やっぱ、このままには出来ねぇな。

俺は覚悟を決め、
つくしの頭を撫でながら言ってやった。


「お前、やっぱ、おかしいな。病院行くか。」



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司さんサイドでした・・えへ。
番外編なのに、10話超えちゃってますよ。
何やってんだ~とツッコミたい・・。
  1. その後の二人のエトセトラ
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「牧野さん・・いえ、奥様を、自分の部下に付けたのは、公私混同ではないのですか?」

山崎さんのその発言で、
その場は、またしても凄まじい緊張感に包まれた。

どうしよう。
どうしたらいい?


その時、隣の司さんから、ふぅーっと溜息。
「公私混同・・かもな。」

そう呟いた司さんを、みんなが驚いて凝視した。
あたしも、隣の司さんを見上げる。
司さんの表情は何も変わらない。
だけど、その目つきは、恐ろしく真剣だった。


「本当のことを言えば、彼女の初期プランを見た段階で、彼女を道明寺HDの企画部へ引き抜くつもりだった。それだけ魅力あるプランだったし、道明寺HDの冠を付けて大々的にバックアップした方がいいと考えた。企画は、俺が直接指揮を執ることが決まっていたから、その方が都合も良かったし、うちの上層部もその判断をしていた。だが、本人の第一希望がメープル勤務だった。彼女の希望を優先した俺は、彼女に二足草鞋を履かせる提案をした。ホテル業務と、企画業務、その両方を新入社員に課すことには、役員からの反対意見が強かったけどな。」

一言一言、ゆっくりと話す司さんが、そこで一度言葉を切り、みんなをぐるりと見渡した。

「正直、キツ過ぎるだろ。通常業務の倍は働くことになる。しかも、道明寺HDが支援する初めての企画を背負うんだ。そのプレッシャーに耐えるのは並みの精神力じゃ無理だ。新入社員を速攻でつぶしかねない。だが、俺は、普通の社員だったらまず無理だと思われる人事を無理矢理通した。メープルの仕事がしたいと言うこいつの希望を、社の方針で奪いたくなかったからだ。そういう意味では、公私混同だな。彼女には、過度な仕事とプレッシャーを掛けてしまったが。まあ、最終的には、当初よりもインパクトある企画を成功させた訳だから、上層部も納得し、結果に満足している。俺も、彼女をつぶさなくてほっとした。」

「だがな。例え、それで彼女がつぶれたとしても、俺が責任をとるつもりだった・・・と言ったら、やはり、公私混同なんだろうな。」
そう言った司さんは、甘くあたしに微笑んだ。


公私混同・・。
でもね。皆は分かっているのかな。
あたしがもし、この企画を失敗していたら、それは全て推薦した司さんの責任になる。
あたしの失敗は、全て司さんの失敗に繋がるんだよ。
そんな大きな仕事に、公私混同なんてするはずがない。


「だからといって、俺は、初めからつぶれることを前提で二足草鞋を履かせたりはしない。面接や論文の内容と人間性を鑑みて、こいつならやれると判断した。他の奴に、同じことをやれとは言わない。出来る訳がない。それ位の見る目はあるつもりだ。」

天性のビジネスセンスを持つと言われる司さん。
その彼の判断が間違っているなんて、きっとこの場の誰も思わない。
司さんの見る目を疑う人なんて、誰もいない。


ここまで一気に話した司さんが、山崎さんに視線を送った。

「お前、こいつ以上の仕事ができるのか?山崎恵。お前に課したブライダルの企画は、未だ俺のところにまで上がってきていないが?」

名指しされた山崎さんが、真っ青になって下を向く。
それを見て、司さんがまた口を開いた。

「俺は、仕事に関して、妥協は許さない。それが、自分の恋人だったとしてもだ。体を使って取り入る?俺を馬鹿にしてるのか?この世界は、そんなに甘いもんじゃない。99%が努力の世界だ。仕事を舐めるな。もしもそんな馬鹿な部下がいたら、俺は即刻切り捨てる。」

淡々と語っていた司さんの言葉に、怒りが籠る。
その場の全員が固まった。
やっぱり・・さっきの言葉を聞いていたんだ。
他のみんなも、きっとそう思ったに違いない。


それから、司さんは再び、みんなに向かって言った。

「昨年から、道明寺HDがメープルの経営に携わっていることは周知されているはずだ。君たちの仕事のうち、優秀なプランは俺の手元に届く。例えば、黒田。君のレストランのプランは、昨年のクリスマスから採用されている。そして、高木、君の企画は、今年の営業の目玉だ。」

「まだ、企画を提出していない奴らもいるだろう。過度なプレッシャーを与えはしないが、君たち自身が、常に評価の対象になっていることを忘れるな。そして俺に、君たちの仕事ぶりを見せて欲しい。もし、俺に直訴するのであれば、まずは与えられたものに対する結果を出せ。話はそれからだ。」

周囲を見回した司さんに、みんなが頷いた。

「「「はいっ!!!」」」



司さんのオーラにみんなが圧倒されたかと思えば、すぐにやる気を引き出された。
凄いよ、司さんは。
本当に凄い。

ちゃんと見てるんだ。
なんて、当たり前か。
この人は、道明寺HDの後継者なんだから。


涙も引っ込んだあたしの顔を満足そうに覗き込んで、

「つくし、そろそろ、帰るか?」
と司さんが耳元で囁く。

コクっと頷いたあたしを見て、司さんがあたしの手を引いけど、
あたしは、その手をぎゅっと握って、もう一度引き戻した。

ん?という司さんの顔を見て、ちょっとだけ笑ってから、あたしはみんなの方に向き直った。



きっと司さんは、あたしがどんなあたしであったとしても、見放したりしない。
今日みたいに情けないあたしを見ても、嫌いになったりしない。
例えあたしが上手く仕事をこなせなかったとしても、軽蔑したりはしない。
あたしのことを、誰よりも理解して、見守ってくれるはずだ。

今日、ここで、あたしを守ってくれたように・・。

だけど・・あたしだって負けられない。
少しでも、司さんの期待に応えたいよ。


あたしは大きく息を吸い込んだ。

「今日ね、ここに、この恰好をしてきたのは、この方が自分らしいと思ったからなの。今日は、結婚の挨拶回りがあって、知らないうちに、プレッシャーを感じてたみたい。用意してもらったセットアップは自分には不相応なんじゃないかと思ったりして・・・本当に馬鹿だよね。何を着ていようが、あたしはあたしなのにね。だから、みんなに合わせたとかそんなことじゃないの。でも、そのせいで、みんなに不快な思いをさせてしまったのなら、ごめんなさい。」

「でもね。同期のみんなには知っておいて欲しいの。あたしは、どんなに頑張ってもあたしでしかない。道明寺司の妻だとか、道明寺家の嫁だとか、自分がそれらに相応しいかどうかなんて、分からない。あたしはただ司さんが好きだから結婚したの。みんながどう思おうと、それが真実。これからも、それはずっと変わらないよ。あたしは、ずっとあたしらしくありたいと思ってる。それに、結婚しても、仕事は辞めないし、絶対に手は抜かない。あたしは、メープルが好きで就職したんだから。だから、これからも、もっともっと努力して、また今度みんなに会う時には、今よりももっと素敵な企画を成功させられる人間になっているつもり。それが、あたしらしくあることだと思うから。そうすれば、いつか、司さんの隣に立つことが自然な女性になれるんじゃないかなって思うの。」

「あたし、頑張るから・・。だから、これからもよろしくね。」


そう言ったあたしを、司さんがこつんと小突いた。
司さんを見て、えへへと笑う。
大きく出すぎちゃったかな。
でも、いいの。
本当にそう思ってるんだから。

あたしは、常に、あたしらしく・・・。
そうすることが、自然体の『道明寺司の妻』に繋がっていくと思うから。



司さんと恋人つなぎをして、お店を後にした。
視界の端っこで、SPの川西さんがちょっとだけ笑ってたような気がする。
心配かけちゃってたのかな・・。


最後にみんなから掛けられた言葉。
『また、絶対に会おうね。』

たったそれだけの言葉が嬉しい。
まだまだ中途半端なあたしだけど、また会おうって言ってもらえるのが嬉しかった。
次に会う時には、もっと成長したあたしでありたい。
そんな風に前向きにここを去ることができるのは、司さんのおかげだ。


お店を出た途端に、チュッと司さんの唇が落ちてきた。
あたしは、ぎゅーっと彼の腕にしがみつく。


あたしの自慢の旦那様。
この人と一緒にいれば、どんなことでも乗り越えていける。

あたしは、この人と結婚して、本当に幸せだ。



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これにて、トラブル編は終了!です。
  1. その後の二人のエトセトラ
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突然の司さんの登場に、みんなはポカーンと口を開けたまま固まってる。
あたしも、ただただ、司さんを見つめてしまった。

一言も言葉が出ない、この状況。
どうしよう・・。


すると、先日司さんと少し話した黒田君が、意を決して立ち上がった。
「道明寺支社長、お疲れ様です。あの・・どうぞ、こちらに・・。」
そう言って、あたしの隣を勧めてくれる。

はっと我に返った涼ちゃんが、慌てて席を移動した。
そして、司さんが、さっとあたしの隣に座る。


ごくっ。
司さん・・何しに来たの?
何で、こんなところに座っちゃうの?
ここは、あたしの同期会だよ?
この雰囲気、分かるかな?
あたし、今、ピンチなの。
あたしが、雰囲気を悪くしちゃったの。
あたしがあんまり考えなしだったから。
だけど、お願い。
どうか、司さんに気付かれませんように・・。


みんなからの視線が痛い。
誰も声が出せないこの状況を司さんはどう思っているんだろう。
だけど、司さんは、なんてことないと言う様に、飲み放題のメニューを見て、あたしに聞いてくる。
「お前、何飲んでんの?」
「あっ、オレンジジュース。」
「つっても、もう氷溶けてんな。新しいの注文するか?」
「ううん。いいの・・。あの、司さん・・は?」
「このメニューじゃ、分かんねぇな。」
「ウイスキー?」
「いや、まだ仕事残ってるから・・。」

司さんがそう言ったところで、向かい側の黒田君が、
「じゃあ、ウーロン茶ですねっ。」
とオーダーをを伝えてくれた。


またまた、しーん。
気まずい・・。
どうしよう・・。

だって、今の今まで、あたしは、山崎さんから攻撃を受けていた。
道明寺司の妻でありながら、勝手に着替えて、それに勝手に満足して。
あたしらしいと思ったことが、そうは受け取ってもらえなかった。
あたしの自己満足っていうだけ・・。
本当に・・バカみたい・・。
だから、司さんのこと、まっすぐに見れないよ。
司さん、どう思うんだろう・・あたしのこと・・。


ちらっとだけ、隣の司さんの様子を伺うと、
司さんは、特にその場の雰囲気を気にする風でもなく、
あたしに視線を落として、
それから、目を細めて、ふっ・・と笑った。

その表情は、いつもと変りなく、とっても優しい司さん。
涙が出そうになるぐらい・・。
だけど、同期のみんなにとっては意外だったみたいだ。
周りのみんなが、驚いたのが分かったから。


「そのカッコ。可愛いじゃん。」
「え・・そう?ありがと・・。」
「あれから着替えたのか?」
「うん。あれだと、堅苦しいかなと思って・・。」
「確かに、借りてきた猫みたいになってたもんな。ぷっ。」
「笑わないで。必死だったんだよ、挨拶回り。」
「分かってる。」
そう言って、司さんが、あたしの髪をくしゃっとした。

それから、今気付いたかのように、司さんがみんなを見回した。

「つくしの夫の、道明寺司です。今日は、妻のために集まってくれてありがとう。こいつも、今日の集まりをずっと楽しみにしていました。」

その司さんの言葉に、同期のみんなが目を丸くする。
だって・・この人は、親会社の日本トップなんだよ。
そんな人が、みんなにお礼を伝えてる。
それは、きっと・・あたしの・・ため・・。

しーんと静まり返ったままの店内。


少しして、涼ちゃんが、あたしに向かって言ったんだ。

「かーっこいい!ね、マキちゃん。やっぱり、支社長はかっこいいねっ!」

その涼ちゃんの言葉は、酔いも手伝っていたんだろうけど、すっごくストレートで。
あたしも思わず頷いてしまった。

「うん。」

「マキちゃん、言ってたもんね~。Barに素敵な人がいるって。でもさ~、支社長だったら、普通気付くでしょ?F4だよ?F4!どうして分からないかな~。」
「涼子、牧野は、F4知らなかったじゃん。覚えてない?」
そう言うのは、涼ちゃんの彼の高木君。
「あ、そうだったねぇ~。マキちゃん、入社式の後、F4のこと調べてたもんねっ。ぷぷっ。」

やっ、恥ずかしいっ。
ちらっと、司さんを見たら、司さんが呆れたようにあたしを見ていた。

「あぁ、そうなんだよな。こいつ、俺と正式に付き合うまで、俺の名前も立場も、知らなかったんだわ。ホント、馬鹿だろ?」
涼ちゃんたちの話に、司さんが相づちを打つ。

「司さん、止めてっ。変な事言わないでっ!」
「変な事じゃねぇよ。事実だろ?」
「やっ、黙って!」

あたしが司さんの口を塞ごうとすると、
「牧野、マジっ?!」
「信じられなーい。道明寺支社長に気付かないなんてっ!」
「それでも付き合おうと思うのが、牧野らしいよなー。」
と口々にみんなが言い出した。

お酒が入っているみんなは、あっという間にいつもの雰囲気に戻っていった。


「支社長、マキちゃんのどこが好きなんですか??」
なんて、ここぞとばかりに聞いている涼ちゃん。

「あー。どこって、全部だな。一目惚れなんだわ。」

うぎゃーっ。何言ってんのっ!?
そんなこと、聞いたことないしっ。

「そっ、それって・・支社長が牧野さんにアタックしたってことですかっ!?」
と他の女の子も興味津々そう。

「そうだな。こいつ鈍感で、言わなきゃ分かんねぇから。結構大変だった。」
しみじみと語った司さんに、

「「「きゃーっ!!!」」」
と、涼ちゃんを含め、女性陣の悲鳴が上がった。


恥ずかしいっ。
恥ずかしすぎるっ。


だけど・・・やっぱり、嬉しい・・・。
司さんの声を聴くだけで安心する。
司さんがいつも傍にいてくれることが、当たり前になっている。
それは、極単純な理由。
あたしは、司さんに愛されているから。


本当なら、司さんが、こんなお店に来る訳ない。
わざわざ出て来てくれたんだ。
あたしのために。
あたしを一人にしないように。

あたしのこと・・心配だって言ってくれてたのは、安全面だけじゃなかったんだ。
あたしは、何にも考えずにこの場に来てたって言うのに。
きっと、こんな風にピンチになることも予想してた?
もしかして、さっきの話、聞かれてた?


洋服がどうのとか・・
SPがどうのとか・・
何を気にしてたんだろう・・あたし。

司さんはいつも自然体で。
何かを取り繕ったりなんかしない。
いつでも、どこでも堂々としてる。
だからあたしも、どんな時でもあたしらしく、
あたしらしい、道明寺司の妻でいたら、それで良かったのに。
あたしは、あたし以上の人間にはなり得ないんだから。


見た目なんて関係ない。
道明寺家の嫁であることは、あたしのオプションに過ぎない。
あたしにとって大切なことは、
あたしが司さんを愛してるっていうこと。
彼からも愛されているっていうこと。
そして、お互いに大好きだから、結婚したんだっていうこと。
これ以上に大切な事実はないのに。
どうして、堂々と言うことができなかったの?


あーあ。
また、空回りしていたのかな。
何を言われたっていいじゃない。
司さんのことが好きだという気持ちさえ、しっかり持っていれば。
司さんに愛されているんだっていう自信があれば。

だって、自惚れなんかじゃない。
司さんは、隠したりなんかしてない。
あたしの事が大好きだっていうことを。



「お前、何泣いてんだよ。」

司さんにそう言われて気が付いた。
あたしの目から、ポタポタと涙が溢れてた。

「あれ・・なんでだろう・・・。」
泣きたくなんかないのに。
悲しくなんかないのに。
司さんのことが好きっていうだけなのに。

司さんが、ハンカチを出して、あたしの涙を拭ってくれた。


皆がニコニコとあたし達を見つめてる。


あたしは、自分の今の気持ちをみんなに伝えたいと思った。
きちんと伝えれば、きっと分かってもらえる。
みんなが思っているような恋愛じゃない。
駆け引きなんてしていない。
あたし達は、お互いに愛し合って結婚した。
ただ、それだけ。
だけど、まだまだ未熟なあたしは、これからもあたしらしく頑張りたいと思ってる。



すーっと息を吸い込んで、言葉を出そうと思った時、
あたしよりも早く、山崎さんが再び口を開いた。


「支社長、一つお尋ねしたいのですが。」

その場の雰囲気が、一瞬にして変わった。
みんなが山崎さんに注目する。
もちろん、あたしも。


「何だ?」
司さんがウーロン茶を口に含んで、山崎さんを見た。


「牧野さん・・いえ、奥様を、自分の部下に付けたのは、公私混同ではないのですか?」

その場にいた全員が、息を飲んだのが分かった。



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続きます・・・。
  1. その後の二人のエトセトラ
  2. / comment:8
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「マキちゃーん!久しぶりぃ。」
「涼ちゃん!!」
「やだーっ。ぜんっぜん、変わってないじゃん!」
「えへへ。」
「牧野っ、久しぶり。」
「牧野さん、久しぶり~。」

18時ジャストにお店に入ると、貸し切りの個室にはすでにみんなが揃っていて、あたしのことを待ってくれていた。

「遅れちゃったかな?」
「いや、みんな緊張して早く来ちゃっててさ。」
「とにかく座りなよ。」

掘り炬燵式のお洒落な居酒屋さん。
あたしは促されて、中央近くに空いていたスペースに座った。
隣には涼ちゃんがいる。

「牧野何飲む?」
「えっと、オレンジジュースでお願いします。」

お茶よりも、すこしさっぱりしたものが飲みたいな。

飲み物を待つ間にも、みんなからいろんな声がかかった。
「まさか、牧野が道明寺支社長と結婚とはなぁ。」
「驚いたよねぇ。」
「誰か、知ってた?」
「っていうか、牧野って呼んでいいのか?」

「みんな、牧野がビビってるぜ?」
そう言ってくれたのは、目の前に座る黒田君。
「俺は、牧野に彼氏がいること知ってたけど、相手は知らなかったな~。」
そう言って、目くばせをしてくる。
一気に真っ赤になるあたし。

「あたしだって、知らなかったんだから。」
隣の涼ちゃんも恨めしそうにあたしを見た。

「いろいろあって、急にニューヨークに行くことになっちゃったから。きちんと説明できなくて、ごめんね。」


それから、あたしのオレンジジュースが運ばれてきて、
黒田君の音頭で乾杯になった。

「じゃ、牧野の結婚を祝して。かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!!!!」」」」



懐かしい居酒屋料理も運ばれてきて、
懐かしい笑顔に囲まれて、
久しぶりの時間が過ぎていく。

皆の近況を聞いて、
あたしもニューヨークでの仕事を話して、
結婚式の話をして・・・


そしてみんなが、2、3杯目のグラスに進んだ時、
「ねえ、マキちゃんは、道明寺支社長のこと、なんて呼んでるの?」
なーんて、涼ちゃんに聞かれた。

周りのみんなも興味津々な様子で、あたしも照れちゃう。
「えっと・・司さん・・かな。」

その涼ちゃんの質問を皮切りに、司さんとの生活とか、どうやって出会ったのとか、そんな質問が飛び交った。

「じゃあ、あのBarに素敵な人がいるって、その人が支社長だったってこと!?」
涼ちゃんがすっごくびっくりしていた。

「それで、入社した時には、もう付き合ってたってことなんだ。」
「う・・ん。そう。」

何となく、みんなを騙していたようで気まずい。
だけど、隠すことはしたくない。
だって、あたしはもう、司さんの妻なんだし、道明寺家の嫁として、いつも堂々としていなきゃダメなんだから・・。

そんな風に思いながら、みんなの質問に答えていると、
右斜め前に座る山崎さんと目が合った。


「いいなぁ、牧野さん。道明寺支社長の奥様なんて、羨ましい。」
「本当ね~。」
「それに、意外。恋愛よりも仕事って言ってた人が、入社前からそんなセレブと付き合っていたなんて。」

「えっ・・。」
予想もしていなかった言葉に、あたしは返事が出来なかった。

「だって、そうじゃない?道明寺支社長を射止めちゃうって、かなり努力したんでしょ?そういう努力には興味ありませんって顔してたのにさ、牧野さんって。とんだ、ダークホースだよね。」

「おい、止めろよ、山崎っ!」

酔っている山崎さんの言葉は、きっと本音。
それを黒田君が止めてくれた。
だけど、山崎さんの言葉は止まらなくて。

「だって、私見たんだ、さっき。牧野さん、東京駅近くのショップに寄ってたよね?本当は、白のシックなセットアップ着ててさ。いかにもハイソな奥様ってカッコだったのに。さっきのショップで着替えて来たんでしょ?あたし達のレベルに合わせてくれたんだ。そうだよね~。それ位計算できる女じゃないと、支社長レベルは射止められないよね~。それで?御自宅に帰る前には、また着替えるの?その恰好じゃ、支社長に嫌われちゃったりして・・。」

「山崎っ、言い過ぎだっ。」

しーん。
静まり返る個室の中。
あたしは、唇を噛んだ。


確かに、あのセットアップじゃ、この場にそぐわないと思った。
この恰好の方が、あたしらしいんじゃないかって。
でも、そっか。そんな風に見られてたんだ。
あたしが、その場に合わせて、取り繕っているんだろうって。
司さんにも色目を使って、猫をかぶってるんだろうって。
なんか、ショックだ・・。


「山崎さん、酔ってるから。マキちゃん、気にしなくていいよ。」

涼ちゃんがそう言ってくれるけど、気にしないって訳にもいかない。
違うって、言わなきゃいけないよね。
だけど、山崎さんの追及が続く。

「何でよ。おかしいじゃない。たいして美人でもない牧野さんが、支社長の奥さんだなんて。支社長の前ではかなーり努力してるんだよね?じゃあ、そんな、あたし達レベルに合わせた恰好とかしてないで、早く着替えた方がいいんじゃない?」

「そんなことっ・・」

「だいたい、牧野さんがいくら優秀だからって、いきなり支社長から直接指導を受けるとかさ。みんなだっておかしいと思ってたでしょ?」


その場は山崎さんの独壇場。
次々とあたしに対する非難が浴びせられる。
みんなも固まってしまって、何も言えない状況。


「支社長に体を使って取り入った・・とか?呆れちゃう。」


・・・!!
ひどいっ。

だけど、言い返せない。
そんなことは絶対にないけど。
あたしが司さんから直接指導を受けたのは、あたしが司さんの恋人だからっていう理由は少なからずある。
でも、あたしが考えた企画をちゃんと評価してるからだって言われてた。
俺はそんなに甘い経営者じゃないって言ってた。
だけど、それを今ここでどうやって説明する?
どうしたって、言い訳にしか聞こえないよ。


涙が出そう。
でも・・泣くもんか。
だって、あたしは道明寺司の妻で、道明寺家の嫁なんだから。
いつも、毅然と、堂々としていなくちゃダメなんだから。
こんなことぐらいで、動揺してちゃだめ。


今頃になって、気付いた。
あたしはやっぱり、あのセットアップを着て来るべきだった。
だって、あたしは、『道明寺司の妻』なんだもん。
中途半端なことをするから、みんなからも不自然に思われちゃうんだ。
あたしって、なんて馬鹿なのかな。


何か、言わなきゃ。
皆も固まっちゃってる。

何か・・・。



その時・・
ガラッと個室の扉が開いた。

「なんだ・・狭いところで飲んでんだな。」


オーダーメイドのビジネススーツに身を包んだ、あたしの夫。

司さんが、飄々と入ってきた。



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あわわ・・・。
  1. その後の二人のエトセトラ
  2. / comment:9
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「本当に一人で大丈夫か?」
「当たり前でしょう?って、一人じゃなかったら誰と行くって言うの?」
「・・・。」
「同期に会いに行くだけだよ?」
「ちっ、この後会議がなけりゃ、俺も・・。」
「司さんが来たら、みんな驚いちゃう。」
「・・・。」
「そんなに心配しないで?大丈夫だから。」

そういうあたしに、司さんが溜息をついた。

「はぁ・・。やっぱ、心配。店内にSP入れるからな?」
「うん・・。でも、SPさんがいたら、みんなびっくりしちゃうと思うんだけど。」
「客にバレるような付き方はしねぇから、安心しろ。」
「あ、そっか。うん。分かった。」


楓社長の秘書をしながら、司さんの婚約者として、花嫁教育も受けてきた。
ニューヨークでは、社長秘書としての立場で行動することがほとんどだったから、あたしは、まだまだ『道明寺司の妻』としての立場に慣れていない。

だからかな。
どうしても、仕事の同期には、今までどおりに普通に会いたいと思ってしまう。
それって・・やっぱりダメなことなのかな?



今は、リムジンの中。
今日は午後から、司さんと、日本の主要な取引先に結婚の挨拶を済ませてきた。
今日のあたしの服装は、夏らしく、白いサマーツイードのセットアップ。
ハーフアップされた髪には、細かいダイヤの髪飾り。
『清楚な奥様』をイメージした仕上がり・・。


一昨日、久しぶりに日本の道明寺邸に入って、本当に驚いたんだ。
半年前には無かった、あたし専用のクローゼットには、洋服や装飾品がいっぱいで。
はっきり言って、それを見ても、どんな風に着こなしたらいいのか分からなかった。
一体、誰がこんなに用意したんだろう・・。

今朝は、仕事に向かう司さんを見送った後、タマさんに促されるがままに付いて行けば、いきなり、フェイシャルエステが始まった。
そのエステを受けながら、手足の爪のお手入れもされて。

それから、スタイリストさんがあたしの服を選んでくれて、美容部員さんが髪のセットやメイクもしてくれた。
これは、『道明寺司の妻』として挨拶回りをするのだから、当然の事。

ニューヨークでも、お義母様や、椿お姉さんにたくさんの洋服を買ってもらったけれど、でも、基本的に日々着る服は自分で選んで、髪だってパーティーでもない限りは自分でセットしていた。セットって言っても、仕事中は1本に纏める程度だったんだけど。

記者会見や結婚式の時も、同じようにメイクやセットはお願いしたんだけど、それは特別な日だったから、ほとんど気にしていなかった。

だけど・・
日本に帰って来て、当然の様に、スタイリストさんや美容部員さんが付く生活になって、あたしは今、ちょっと戸惑っている。

『道明寺司の妻』として、これからは、恥ずかしい格好なんて出来ないって分かってるし、選んでもらった洋服はとっても素敵で、十人並みの容姿のあたしですら、『清楚な奥様』に変身できた。

でも・・なんとなく、心のもやもやが晴れない。
それは最近、なんだか胃の具合も悪くって、気分がすぐれないせいかも知れないんだけど。


なんだか、あたし・・着せ替え人形みたい・・。


そんな風に思ってしまって・・
お昼過ぎにお邸に迎えに来てくれた司さんは、「おっ、いいじゃん。綺麗だ。」なんて言ってくれたけど、でも、いつもみたいに心底嬉しいっていう気持ちにはなれなくて、ちょっと複雑だった。

だって、これは、あたしが選んだ服じゃない。
たぶん、司さんが選んだものでもない。
忙しい司さんに、そんな暇がある訳ないもん。
『道明寺司の妻』にふさわしいように誰かが用意した品物。
それを着て、人形のように挨拶をするっていうことに、あたしはちょっと抵抗を覚えていた。
この半年で、『道明寺家の嫁』という立場はだいぶ理解できていたはずなのに・・な・・。


そんな悲観的な考えが浮かんでしまって、
あたしは鏡に映った自分を見ながら、大きなため息をついたんだ。




道明寺HD日本支社前で、司さんと別れた。
「お仕事、頑張ってね。」
いつも通り、チュッとキス。
司さんに触れると、安心できる。
あたしの不安が少しだけ晴れた。

「何度も言うけど、酒は飲むなよ?」
「うん。分かってる。」
「約束だぞ?」
「うん。」

何度も繰り返す司さんが可笑しくて、ちょっとだけ笑う。
だけど、本当に、お酒なんて飲むつもりはないの。
最近本当に、気分が良くなくて、落ち込みがちだし。


司さんと別れて、腕時計を見るた。
時刻は17時。
同期のみんなとの約束の時間は18時だから、あと1時間ぐらい余裕がある。
約束のお店は、東京駅近くだから、ここから近いし。

・・どうしようかな?
と考えていたところに、あたしが大好きだったショップが目に入った。

「あ・・。」

どうしてかな、すごく懐かしい感じ。
半年前までは、よく覗いていたお店。
ナチュラルな感じが凄く好きなお店だった。

司さんと交代してあたしの斜め前に座っていた、女性SPの川西さんと目が合った。

「あの・・少し、寄りたいお店があるんです。」





ショップのショーウィンドウを覗くだけでもテンションが上がる。
こうしてショップに一人で来るのは本当に久しぶりのこと。
お店に一歩入ると、そこは、あたしが大好きな世界。
身の丈に合った世界っていうのかな。

マネキンが着ている洋服が可愛らしい。
あ、あのかごのバッグもあたし好み。
バルーン袖のブラウスも今年らしくて一度着てみたかった。
うわーっ、このウェッジソールのサンダルも可愛いっ。

それに、どれも見ても、しっかり値札が付いていて、それもあたしのお給料で十分に手が届く範囲。
地に足のついたお買い物っていうものを久しぶりに堪能できる。


そうだ!
これから向かうのは、創作料理の居酒屋さん。
こんな奥様っぽいスーツじゃなくて、もっとカジュアルな方がいいんじゃないかな。
それなら、ここで買い物して、着替えて行こうかな。
丁度、まだ時間があるし・・。


あたしはますます楽しくなって、お店の中を行ったり来たり。
司さんに言わせたら、
「そんなに迷うなら、全部買ったらいいんじゃね?」
とか言われそう・・なーんて思いながら、あれやこれやと久しぶりの買い物を満喫した。


結局決めたのは、イエローのバルーン袖の大き目のブラウスに、ホワイトのパンツ。
初めに見惚れたカゴバッグと、サンダルを合わせた。
ダイヤの髪飾りを外して、夏っぽいシュシュに変えた。

司さんに渡されているカードもあるけれど、あたしは元々現金派。
今日の買い物だって、全部で3万円ちょっと。
十分自分で払える程度。

「全部着ていきます。」
と言って、現金で支払った。
こうやって買い物をすることすら、久しぶりだと思い出す。

だけど、これが、
あたしらしい・・本当に、あたしらしいような気がする。


SPの川西さんがあたしを心配そうに見ていたけれど、別に大丈夫だよね?
危険なことをしている訳じゃない。
相変わらず体調は今一つだけど、気分転換ができたのか、ちょっとだけすっきりしたような感覚になった。


あたしの左手には、司さんとお揃いのマリッジリング。
胸元には、司さんからプレゼントされた、ダイヤのネックレス。
これは絶対に外さない。
外したくない。

だけど・・
他のものは、あたしが選んだものでもいいんじゃないのかなって、そんな風に思ったんだ。



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むむっ。トラブルの兆しが・・。
  1. その後の二人のエトセトラ
  2. / comment:4
  3. [ edit ]

こんばんは〜。
何だか番外編に筆が進まず、短編を・・。
「俺の女」には、滋ちゃんが出てこなかったので、滋ちゃん目線のつかつくを書いてみました。
***




「いいなぁー。」

「つくし?」


今日は久しぶりのT4女子会。
幹事はもちろん、私、大河原滋。
社会人になってからも、T4は定期的に集まってる。


「先輩、酔ってます?」
「ん?そーでもないけど。」
「つくし、何がいいなぁ、なの?」
「んー。」


ガサゴソとつくしが鞄から取り出したのは、週刊誌。
それも、結構低俗なやつ。
こんなのつくしが持ってるなんて、ちょっと意外。


「何、これ。」
「あ、これって、道明寺さんの記事ですね。」
「どれどれ・・。あー、またかぁ。今度はアメリカの通信会社の社長令嬢ね。」
「なんですか?あっ、熱愛報道?」

週刊誌には、アメリカのどっかのパーティーで、司が金髪美女をエスコートしている写真。
タイトルは、『御曹司の熱愛発覚』・・ね。
その御曹司の意中の女性は、ここにいるんだから、アリエナイんだけどさ。


「つくし、大丈夫?」
優紀ちゃんが心配そうにつくしの顔を覗き込んでる。


大丈夫って言っても、今更じゃん?
司がNYに行ってた4年の間も、2年前に日本に帰ってきてからも、熱愛報道っていったい何回あった?って感じだし。
はっきり言って、誰も本気になんかしてないんじゃないかな。
つくしだって、全然気にしてなかったはず。

だけど、今回の報道はいつもと違った。
金髪美女が、司の腕にしなだれかかっている。
だいたい司は、つくし以外の女性をエスコートなんかしない。
だから、いつも噂になる写真だって、ただ会話してるだけとかそんな写真ばっかりなのに、今回の写真は二人が腕を組んでいる。

これは・・確かにキツイかも・・・


ん?でも、待って?
さっき、「いいなぁ」って言わなかった?
それって・・それって、どーいう意味!?


「つくし?」
「ん?」
「もしかして・・羨ましい・・とか?」
「んー。ちょっとだけ・・。ま、現実には・・ねぇ。」


レアー!激レアっ!!
つくしがこんなこと言うなんてさ。
いっつも、ちょっと司が気の毒っていうぐらいに、私達の前では愛情表現に乏しいって言うか、冷めてるって言うか、そんな感じのくせにさ。

ちらっとみたら、優紀ちゃんも、桜子も、ちょっと驚いた顔をしてる。
だよねー。
驚くよねー、このつくし。
何か、あったのかな・・そう思って、つくしを問いただそうとしたのに、

パタン・・・。
すぅー。すぅー。

つくしはテーブルに突っ伏して寝ちゃった。



凍りつく、私達。

「ねぇ、桜子。さっきのってさぁ。」
「ええ、滋さん。先ほどのって、つまり。」
「つくしも、報道されたいってこと!?」

「「「意っ外〜〜!!!」」」


だってさ。あれよ。
司は、昔からつくし一筋で。
つくし以外、目に入っていなくて。
私とか、桜子とか、ナイスバディの美女とか、一切相手になんかしてない訳。

あれだけ愛されてたらさぁ。
もう、結婚してあげたらいいじゃんっとか思ってるんだよね、私達。
だけどさ。
社会人としての経験積みたいとかさ、訳わかんない理由で、司のプロポーズを断ったりとか、世の中の女子を敵に回してるつくしがだよ?まさか、熱愛報道に憧れてるなんて。


「これって、道明寺さんが聞いたら、泣いて喜びますわね。」
「そっ、そーですよね!まさか、つくしが・・。」
「だいたい、司って、時間があればつくしのアパート通ってるし、結構、その辺のスーパーとかで、つくしと買い物してたりするらしいのに、そう言えばどうして報道されないんだろうね。」
「そんなの決まってるじゃないですか。道明寺さんが、マスコミに圧力掛けているんですよ。絶対。」
「どうしてですか?」
「つくしの・・ためだよね。」
「そうでしょうね。今、噂になったりしたら、先輩の仕事に差し障りがありますもんね。」
「でも、結局、噂になりたいってことは・・つまり、つくしもついに覚悟を決めたってことだよね!」

しばし・・沈黙。


「道明寺さんって、今NYでしたっけ?」
「あ、多分そう。」
「もう、1ヶ月以上会ってないって、つくし言ってました。」
「だからかぁ。つくしも寂しいんだね。きっと。」
「なんだか、ちょっと切ないですね。」
「あっ、私、来週NY出張だわ。りょーかい!司に伝えとく。」
「滋さん、楽しそうですね。」
「でへへ。だって、つくしが喜ぶ顔、見たいじゃん?」

「「「ねーっ!!!」」」



RRRRRRRR……..

あれ?つくしの携帯が鳴ってる・・

他人の携帯は見てはダメ。
だけど・・
テーブルに置かれたつくしの携帯の着信画面。

そこに表示されたのは、『道明寺』の文字。

あたしたち、3人は顔を見合わせた。


出る?出る?出ちゃう??
出るっきゃないよねー!


3人の視線はGoを支持。

爆睡しているつくしを、ちらっとみて、
ちょっとだけ、罪悪感?
ちょっとだけ、高揚感?

酔いも手伝って、私はその携帯をタップした。




***




「しっかし、急だったよなぁ。」
「俺も驚いた。」
「あんだけ逃げ回ってた牧野が、プロポーズに応じるとはな。」
「なんでも、司のお袋さんが、すぐに結婚しろって凄んだらしいよ。」
「まじかよっ!」
「すげぇじゃん、牧野。認められてたんだな。鉄の女に。」


「「「とにかく、よかったよな〜〜!!!」」」


「これで俺たちは、猛獣の世話とは永遠にお別れだな。」
「感無量!!」
「ぷっ。とにかく、二人のとこ、早く行こうよ。」



ほらね、F3の面々も、二人の門出を祝福してる。
そう、今日は、司のとつくしの結婚式。
あの、つくしの爆弾発言から3ヶ月のスピード婚だった。



あの女子会から1週間程して、司のがNYから帰国した。
その直後から、新聞やテレビ、週刊誌も含めて、各種メディアで取り沙汰された、『道明寺司の本命』報道。

そこには・・
相変わらずの完璧な美貌と躯体に、オーダーメイドのビジネススーツを身につけて、つくしのオンボロアパートにせっせと通う司の姿。
そんな司が、薔薇の花束を持ってアパートに入る写真はため息モノ。

さらには、
二人が近くのスーパーで買い物をする姿。
それがなんと司はラフな私服で。
スーパーの袋を持って歩く司とか、激レア万歳!って感じで。
世の中の女子はキュン死寸前!

極め付けは、つくしのアパート前での二人の濃厚キスシーン。
ドラマ顔負けのそのシーンは、なんと動画で撮影されていた。
3分に渡る、二人の熱烈なキッス。
ありゃ、尋常じゃないね。
司の愛情ダダ漏れ。
恐らく、あれは、司の帰国日だね。


当然、連日のようにワイドショーは、司とつくしの話題で持ち切り。
しかも、それが『4年後必ず迎えに来ます』の女だと分かれば、もう世紀のカップルっだってもて囃されて。

つくしは仕事に行けなくなって、道明寺邸に逃げ込んだ。
そこに、現れた楓社長は、とっても冷静で。

「この期を逃せば、二人の結婚は認めません。」
って言ったんだって。

それもそうだ。
司の仕事上のカリスマ性と、本命に対する一途さが高く評価されて、この報道で、道明寺HDの株価は急上昇した。
これが、事実無根、もしくは、司の遊びだったとでもなれば、大変な損失を招く事態。

元々、認めてはいたんだろうけど、結婚を許可するには、ベストタイミングになったみたい。


つくしもさ。
さぞかし嬉しかったんじゃないのかな〜。
憧れの?熱愛報道されたんだしさ。
そして、なんだかんだ言っても、相思相愛の恋人と結婚だよ。

司なんてさ、初恋実らせちゃった訳だしさ。
そりゃ、かつて司のことを好きだった滋ちゃんとしては、辛い時もなかった訳じゃないんだけど。
だけど、今日の二人の幸せいっぱいの結婚式に参列したら、そんな気持ちなんて、吹っ飛んだ。

それになにより、最後に二人のをアシストしたのは、やっぱりT3だったってことが、すっごく嬉しくて。
私も、桜子も、優紀ちゃんも、すごい大役果たしたみたいに鼻が高いよ。
うん。。。涙・・でちゃう・・。



ウェディングドレスに身を包んだつくしを、これ以上ないってぐらいの蕩けた顔で見つめる司。
タキシード姿の司は、ゾクゾクするぐらいにカッコいい。
その司を見上げるつくしも幸せいっぱいの笑顔。

教会から出て来た二人は、
仲間みんなが見つめる中、
熱烈な口付けを交わした。




F3に絡まれている二人の元へ、私達も、レッツゴー。
この結婚式に至るまで、二人に会う機会がなかったもんだから、今日会えるのは、本当に久しぶりなの。

聞こえてくるみんなの話し声。

「しかし、あの報道には驚いたよなー。」
「報道規制解除すると、あんなに凄いもんなんだな。びびったわ。」

「規制解除〜??」
つくしが、素っ頓狂な声を上げている。

「司が、お前のことは表に出ないように、規制かけてただろ?でも、なんでこのタイミングで解除したのかって、疑問だった。」

「え?」
と司を見上げるつくし。
なんだ、つくし、知らなかったんだ。

ここは、T3の出番かな?

「だって、言ってたもんね。つくし、司の熱愛報道、羨ましいって。ねっ?」

「んん?何それ・・?そんな事、言ってないし。」
「言ってたよー。ほら、最後に女子会した時っ!」
「うん、言ってたよ。つくし。」
優紀ちゃんも賛同してる。
桜子も、頷いてるし。

「司がアメリカのパーティーで、金髪美女をエスコートしてた写真みてさ、羨ましいって、言ってたじゃん!!」
「バカ言うなっ。あれは、あの女が勝手にくっついてきただけだっ。俺が、こいつ以外の女をエスコートする訳ねぇだろーがっ!!」

「あー・・あれ?」
「つくし?」
「あれは、そー言う事じゃないよぉ。ほら、あのパーティーにトム・ク●ーズが出席してたって書いてあったじゃん。あれ、いいなぁって。一度でいいから、生で見てみたいなってさ。そーいう意味だったんだけど・・。」


・・・・。
・・・・・・。
「はぁ〜??」

それを聞いた、司の額には、青筋ニョキニョキ。
私達はちょっと尻込み・・。


「お前っ、このちょーカッコいい旦那を目の前にして、トム・ク●ーズだぁ?!」
「だって、ファンなんだもん。」
「俺は、お前が熱愛報道されたいって言うから・・」
あっ、と司が気まずそうな顔をした。

「えっ!ええ〜っ!?もしかして、今回の報道って、ヤラセなの!?」
「んな訳あるかっ。事実だろうーがっ!」

「だけど・・さぁ・・。」
上目遣いで、疑わしい目を司に向けるつくし。


つくし、こんなところで喧嘩とかしないでよね。
そりゃ、勘違いして、けしかけたのは私達だけどさ。
いいじゃん。いいじゃん。
結局は。相思相愛カップルなんだからさ・・。



「何?お前、今更、後悔してんの?」

ちょっと寂しそうな司の顔。
捨て犬みたい。
やだっ。見てらんないっ。
つくしーっ。
ハラハラ・ドキドキ・・・。


「何言ってんのよ?あんた。それこそ、今更、でしょ?」
「・・!」
「あたし以外に、誰があんたを幸せにするっていうのよ。あんただって、約束守りなよ。あたし、もう仕事も辞めちゃったし、今更、後戻りできないんだからねっ!」

司の顔が、パァッと明るくなったと思ったら、
つくしをギューッと抱きしめた。

「ぐぇっ。やだっ。痛いって!」
「黙れっ!」
「ぎぇー。死ぬーっ!」
「絶対、幸せににすっから、安心しろっ!」


カシャッ。





今、私のデスクには一枚の熱愛写真。
親友の結婚式の写真。
モテモテの新郎は、その後一切のゴシップ報道を許さず、今では、愛妻を秘書にして、パーティーやら出張やらへ引きずり回している。
至る所で見かける、二人の仲睦まじい姿。
それは、永遠に続く熱愛報道。


オフィスには、つくしから奪い取ったブーケの押し花を飾ってる。

ふふふ。
そろそろ・・
私の熱愛が囁かれる日も近いかもしれないなぁ。



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番外編・・展開を検討中でーす。
どうしようかなぁ。ちょっとぐらい、ハプニングとか書こうかなぁ。うーん。

追記)金髪美女の謎というご指摘を受け、一部加筆しております。(23:50)
司が、つくし以外をエスコートするのは、私の中でナシ!
単なるトラブルを撮られた設定です。へへ。
  1. 短編
  2. / comment:5
  3. [ edit ]

今日、22時30分に、司君と牧野さんが来店する。
1週間前にその連絡を受けた。
前もって連絡を受けたのは初めてだ。
しかも、直接、司君から。

『つくしが、絶対行くっつって聞かねぇから。Barの開店前は忙しいからダメなんだとか言いやがるし、俺たちのために貸し切りにするのもダメらしいし、夜にちょこっと行くとか言ってんだけど、あいつももうフラフラさせとく訳にいかねーし。』

あーだこーだと電話口で話す司君は、いつもほどのトゲがない。
入籍を済ませ、メディアにも公開した愛妻の牧野さん。
牧野さんの身を守らなければならない彼の責任感と、彼女の希望を聞いてあげたい彼の優しさが垣間見られる。

『それでは、通常営業をしますが、22時以降はカウンターを全て空けさせます。その方が奥様も気楽にお越しになれるでしょう。カウンター周囲にSPの配置を。』

『サンキュ、臼井。・・・でもよ。』
『はい。』
『その・・奥様っての。きっとつくしは喜ばねぇと思うんだわ。』
『しかし・・。』
『いつも通りでいいから。』

いつも通りでいいと言われても、それなりのケジメは必要だ。
彼女は、ここでバイトしていた牧野さんから、道明寺財閥の後継者、道明寺司の妻になった。
だからこそ、彼女の周りもまた、かつての僕のようなSPが周囲を警戒しなければならない。
そんな彼女には、やはりそれなりの対応が必要なんだ。

『あいつは、何にも変わってねぇよ。けど、周囲の見る目は変わってる。だからこそ、俺が昔そこで世話になってたみてぇに、つくしにもいつも通りでいられる場所が必要だろ?』

司君は、牧野さんのことを十分に考えている。
こんなに気配りのできる男だったはずはないが。
全ては牧野さんのため・・か。

『分かりました。いつも通りで。』
『おう、頼むわ。』



*****



「マスター!!お久しぶりです!ご無沙汰してます!」

牧野さんが、以前と全く変わりない様子で、カウンターにいる僕に向かって走り出した。
それを、司君が笑いながら、やんわりと制す。
あっ・・という表情で、はにかんだ牧野さん。
きっと、花嫁教育なんかもきちんと受けているんだろう。
道明寺司の妻としては、常に冷静沈着が求められる。
だけど、司君が彼女を制したのはそういう意味じゃなくて、ただ単純に牧野さんが転ばない様に配慮しただけのことだ。
そんな仲睦まじい様子に、思わず、僕も微笑んだ。

二人が来店する少し前から、司君のSPが、カウンター席の一部とその周囲の席に散らばっている。
司君が、満足そうに、視線を走らせた。
牧野さんは、全く気が付いていない様だ。
二人の周囲を直接警護するSPは2名。
実際には、その周囲にはさらにいるはずだ。
牧野さんには気付かれない様に、彼女の安全に配慮する司君の様子。
牧野さんがここでバイトをしていた頃も、タクシーチケットを出したり、支社長である自らが迎えに来たりと、心配性だったことを思い出した。


「司君、つくしちゃん、ご結婚おめでとう。」

いつも通りでと言われ、いつも通りに出迎えた。

「ありがとうございます!マスター!」
「おう。」

牧野さんがキョロキョロとしながら周囲を伺い、カウンター席を見て、司君を見上げる。
司君が、牧野さんに向かって軽く頷くと、牧野さんはぴょんとカウンターチェアに座った。
司君もゆっくりと、隣に腰を下ろす。

「つくしちゃん、どうですか、ニューヨークは?」
「もう、毎日大変です!楓社長にしごかれています。あっ・・お義母様に・・」
「あはは・・」

いつも通りのつもりだが、あれ・・司君の額に青筋が・・。

「臼井。つくしちゃんとか言ってんなよ。」
「どうしてよ?いいじゃないの。今までだって、仕事では牧野さん、普段はつくしちゃんだったんだよ?」
「さっきの男も、牧野とか言ってたな。気に入らねぇ。」
「それは仕方がないでしょ?今更なんていうのよ。」
「そりゃ、あれだろ?道明寺・・さん?」
「ええ~っ!」

「ぷっ。」

いつも通りにしろと言ったり、独占欲を滲ませたり、司君は本当に人間らしい男になった。
それも、これも、牧野さんのおかげだ。


「マスター。あのね。本当は、今日もフロアに出たかったけど・・それはダメだって司さんが・・。」
「あはは。当然でしょう?さすがに、僕も許可できないな。」
「そうなんですけどね。でも、ここはあたしの原点だから。」
「原点?」
「はい。メープルに就職が決まって、頑張るぞって思ったこと、つい昨日のようです。それに、ここのウェイトレスとして司さんに出会って・・。」

そこまで言って、牧野さんの言葉が止まる。

「出会って・・なんだよ?」
「うっ・・うん。まぁ・・いいや。」
「俺に見惚れた、とか?」
「ちっ、違うからっ。あたしは、マジメに働いてたのっ。」

図星だろうに、焦りまくる牧野さんが面白い。

「つくしちゃんが、ここでマフィンを焼いたのは驚きましたね。」
「わーっ。マスターっ!」
「俺の誕生日な。」
「あれは、どうして渡そうと思ったの?」
「えっ・・えーと、ですね。初めて見た時から、司さんって、なんだか冷たそうな感じで。あの日も、一人で飲みに来てたでしょ?それで、誰かと電話をしている時に、今日が誕生日なんだって分かったんですけど、なんだか寂しそうで。お誕生日に、一人で飲んでるなんて・・ね?」

ちらりと司君の表情を伺う牧野さん。

「同情かよ。」
と、司君がぼやいた。
「違う。この人が笑ったらどんななのかなぁって。司さんに笑って欲しかったんだよ。」

きっと、牧野さんの言っていることは本当なんだと思う。
本気で司君を笑顔にしたかったんじゃないかな。
だけど、僕は、むしろ司君の方に疑問があった。

「ですが、僕からすると、あの日、平日の早い時間に、司君がここに現れたことの方が驚きましたね。それから、バレンタインデーも。」

司君と牧野さんが、お互いに見つめ合いながら、パチパチと瞬きを繰り返している。
どっちが口を開くんだ?

「そりゃ、俺がこいつに惚れてたからに決まってんだろ?」
「始めからですか?」
「出会った時から、気になってた。」
「嘘だぁ。だって、すっごく冷たかったもん。」

「いや、案外本当だと思いますよ、つくしちゃん。司君は、絶対に女性を個室に入れるなって僕に言っていたのに、つくしちゃんのことは拒否しなかったでしょう?」
「女性は入れるなって・・マスターそんなこと言ってなかったですよね?」
「言う前に、つくしちゃんがグラスを持って行っちゃったからね。」
「そっかぁ。じゃあ、出会いは偶然だったんだぁ。」

偶然。
その、偶然が重なれば、運命と呼ばれるのかもしれない。
僕は、この二人の出会いは運命だと思っているんだけどね。

「お前こそ、バレンタインの時は俺にムース渡すために、遅くまで残ってたんだろ?俺のこと、あの時から好きだったんじゃねえの?」

おっ、司君の逆襲が始まった。

「うーん。あの時も、やっぱり、司さんに笑って欲しかったっていうか・・。非日常を味わってほしかったっていうか・・。」
「素直じゃねぇな。好き以外に何があんだよ。手作りなんか渡してよ。あんなことされたら、期待するに決まってんだろ?あっ、お前、まさか、他の男にも手作りの菓子とか渡してんじゃねぇだろうなっ。」
「してません。」

司君の嫉妬も、軽くスルーの牧野さん。
大したもんだ。

僕は笑いながら、司君の前にペリエを、牧野さんの前にフレッシュジュースを置いた。
酒は出すなと前もって言われていたから。
そのジュースに手を伸ばす牧野さんの左手には繊細な輝きを放つリング。
当然、司君の左手にもお揃いのリングが収まっている。
極々シンプルなそのリングだが、埋め込まれたダイヤモンドのクオリティは世界最高級だろう。
照明を落としたこのカウンターでも、牧野さんが手を動かすたびに輝いている。
一片の曇りもない。
まさに、二人の愛を代弁しているようだ。


牧野さんが、ジュースを一口飲んでから言った。
「そうだ、マスター。マスターは、どうして初めから、司さんが道明寺HDの支社長だって教えてくれなかったんですか?」

牧野さんが急にそんなことを聞く。
どうしてか・・と言われても、どうしてなのか。
あの時は、知らなくていいと思ったんだ。
この二人には、余計な情報は必要ないって。

「どうしてかな。二人が幸せを呼ぶハンカチを一枚ずつ持っているって知っていたからかな?」

そう言った僕を、牧野さんはじーっと見つめてきた。
何か、言いたそうだ。

「マスター、ありがとうございます。」
「うん?」
「あたし、あの時、司さんの素性を知らなくてよかったなって思ってたんです。」
「どうして?」
「あたし、恋愛とか全然したことなくて。しようと思っても、頭で考えちゃうタイプで。たぶん、司さんの素性知っていたら、素直になれなかったかなって思うんです。だから、知らないままでよかったなって、今では思っているんです。」
「そう、それは良かった。」

牧野さんの隣では、司君が、水と氷だけのグラスをカラカラと回している。
その表情は幸せに溢れている。
そういえば、途中からは、司君の指示で箝口令が敷かれたんだっけ。

もしも・・
もしも牧野さんが、初めから司君の素性を知っていたとしても、
それでも、きっと二人は結ばれたに違いない。
獲物を狙う司君の本能は、総帥譲り。
一度狙いを定めた獲物を、絶対に諦めたりはしないはずだ。
どんなに時間がかかっても、司君は絶対に牧野さんを手に入れただろう。


「でも・・つくしちゃんは、一体いつ、司君の素性を知ったの?このBarを辞める時には、分かっていなかったよね?」

その唐突な僕の質問に、牧野さんの顔が突然真っ赤になった。

「いっ、いつだった・・かな・・?」
チラッと司君を見て、またすぐに視線を逸らした。

「お前、覚えてねえの?俺、言っただろ、初めてお前を・・」

「だーっ!!!」

慌てた牧野さんが、司君の口を掌で塞いだ。



「くっ・・くっくっくっ・・・」
笑っちゃいけないと思っても、どうしたって笑えてしまう。

こんな風に堂々と、幸せいっぱいの二人がこのBarを訪れてくれる日を、本当に楽しみにしていた。
今日、そんな僕の願いがやっと叶った。


道明寺実氏のSPになり、それからこのBarに来た。
長年ここにいて、様々な人間模様を観察してきたつもりだ。
時には、自慢話を聞き、
時には、愚痴を聞き、
時には、人生の決断に立ち合いながら、
虚栄や嫉妬の渦巻く世界を眺めてきた。
名門のBarと言えば聞こえはいいが、支配人としてここに立つと言うことは、そういった裏の事情を飲み込んでいくということだった。

そんな仕事が、感情を表に出さないように訓練されたSP上がりの僕には案外合っていて、こうして長年勤めてきたように思う。

だけど、今日ほど、僕はここの支配人になって良かったと思えた日はない。
こうして、お客様の幸せを、本気で喜ぶことができたのは初めてだ。
ある意味、特殊な職業を続けてきた僕。
常に先を読み、警戒を怠らない。
SPとしても、ここの支配人としても。
毎日が、ある種緊張の連続だ。

そんな僕に、二人は幸せのお裾分けをくれたようだ。
緊張の中、二人の行く末を見届けることは、本当に、本当に幸せだった。


「臼井。サンキュ、な。あんま言いたくねぇけど、昔から、感謝してた。」

思いがけない司君の一言に、すぐには返事もできなかった。

あぁ、僕もまだまだ甘い。
司君から、こんな言葉を貰うなんて、予想外だ。
先を読むことに長けているはずなのに、意表を突かれた。


「僕の方こそ、ありがとうございます。このBarの支配人であることを、誇りに思います。」

何とかそう答えた僕に、司君の口角が上がった。

僕よりずっと年下の司君が、妻になった牧野さんと繰り広げるこれからの生活。
その中にある幸せを、これからも眺められたらいいと思う。
それは、ここの支配人をしている僕の役得だ。


僕は、司君という人間を通じて、
現実から目をそらさない強さと、
人を信じ、愛することで得られる幸福とういものを肌で感じた。

それは、普段、このBarで見ることはほぼ無いが、
人間としては、必要不可欠なもの。


多くの人間の人生を見てきた、このBarの支配人である僕にとって、
この二人との出会いが、一番の栄誉であることは間違いないだろう。

目の前でじゃれ合う二人を見て、
そんなことを思った。



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