花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

道明寺ホールディングス、日本支社長。
道明寺財閥の直系の長男。
次期総帥候補の筆頭。

それが、俺の肩書。

見目麗しい、カリスマ経営者。
クールな美貌は世の女性たちを惹きつけて止まない。
俺がが描き出すビジネスプランは、必ずや成功を収める。
今や世界経済に影響を及ぼす男。

それが、俺の世評。




**朝7時 俺の執務室**

「おはようございます、支社長。こちらがブレックファーストミーティングの資料になります。」
「分かった。」

秘書の西田は優秀だ。
必要事項を纏め上げ、的確なタイミングで持ってくる。
俺はそれに対して、俺の持つ全スキルを使って判断し、指示を出す。

「本日は12時よりメープルで、岡田様との会食がございます。その後は、商業施設建設予定地の視察、16時には帰社頂き、17時半より衛星会議となります。楓社長よりこちらの案件について報告をと指示がありました。」

西田に追加の資料を渡される。
その資料をみて、俺はニヤっと笑った。
そう来たかよ。

「この件に関しては失敗は許されねぇ。」
「心得ております。」

俺は軽く頷き、まずは早朝会議の資料に目を走らせた。



**7時30分** 

いつものようにスマホを手に取る。
さっとスクロールしていつもの番号を呼び出す。

RRRRR……

『道明寺・・?』

聞こえてくるのは愛しい女の声。

「おう、起きたかよ。今日、遅出なんだろ?」
『うん。さっき、起きたとこ。ごめんね、朝、起きられなくて。朝ごはん・・食べてないでしょ?でも、あんたのせいなんだからねっ。』
「こっちで、ブレックファーストミーティングがあんだよ。」
『そうなんだ。じゃあ、ちゃんと食べなよね。私も、そろそろ準備しなきゃ。今日、遅くなる?』
「いや、晩飯は一緒に食おうぜ。21時には帰るから。」
『うん。用意しとくね。』

彼女へのモーニングコールは俺の日課。
一緒に住み始めた今でも、朝、会話が出来なかった日は必ずコールする。
あいつが元気でいることを確かめなきゃ、一日が始まらねぇ。



**9時 ブレックファーストミーテイング**

「この事業は伸びてないな。不振の原因は?」
「開始当初より電気料金が値上がりしたため、その分の減収となっているようです。」
「打開策は打ってあるのか?」
「代替エネルギーにしても、初期投資が必要です。」
「プランを早急に再考して、来週中にあげてくれ。」
「はい。」

業績不振は早期に手を打たないと火種が悪化する。
報告の遅れが、大きな負債に繋がることもある。
プランの見直しに投資が必要であれば、検討しなければならない。
尻込みしている時間はない。

担当部署にプレッシャーをかけていく。
それもトップに立つ、俺の仕事。


会議が終わると、西田がデスクにコーヒーを運んでくる。
そして、会議中見ることのできなかったスマホを確認する。

『会社に着きました。今日も一日がんばろ。』

あいつからのいつものメール。
これがないと安心出来ねぇんだよな。

『がんばりすぎんな。』

あいつにはプレッシャーはかけたくねぇ。
そうじゃなくても、十分に感じてるだろうからな。
あいつはあれでかなり優秀な社員で、社内でも一目置かれてる。
でも、俺のために、それ以上に頑張ろうとしてんだよな。
ぶっちゃけ、お前に関しては、そんなに頑張ってくれなくていいんだけどよ。
なんならまとめて俺に任せてくれりゃいいんだけど・・・なんてことは、あいつに怒られちまうから言えない。
他の社員に聞かれたら、俺の沽券にかかわるしな。



**12時 東京メープル**

「では、その件は合同で立ち上げましょう。」
「ご協力ありがとうございます。」
「いえ、ではこれで失礼します。」

話が纏まれば長居は無用。
俺はすぐに退席の意思を示す。

「お待ちください、道明寺支社長。」
「まだ、何か?」

仕方なく、俺はもう一度座り直すのはいつものことだ。
次のセリフにも見当がつく。
うぜぇ。

「うちにもね。君と同じ年頃の娘がいるのだが。どうかな。一度会ってみてくれないか。」
「そういったお話でしたらお受けできません。もう、決めた女性がいますので。」
「噂の女性かな?」
「噂かどうかは分かりませんが。」
「うちの娘は器量が良いのだけどね。」
「申し訳ありませんが。」

丁重に断りを入れて立ち上がる。
後ろから西田が付いてくる。

「支社長。」
「これ以上ごちゃごちゃ言うようなら、提携しねぇぞ。」
「はい。」

うちの娘『は』ってな、どーいうことだ。
あいつ『は』ダメだっつーのか?
思わず拳に力が入る。

以前は、これで相手を蹴散らし、あいつに大目玉を食らった。
以来俺も、ちょっとばかり大人になった。

あいつに危害が無ければ良し。
万が一にも、あいつに危害を加えるようなら容赦はしない。
それが俺の判断基準。



**14時 郊外の商業施設建設予定地**

「商業施設自体はこの1/3で5ヘクタール余り。残りは、レジャー施設と駐車場になります。」
「周囲の環境は?」
「このあたりの一部木々の伐採は必要です。」
「できるだけ森林を残すようにプランしてくれ。あと、水だ。周囲河川の汚染に配慮しろ。」
「もちろんです。」
「この下流には、農家が多い。絶対に被害を出すな。」
「はい。」

この下流域には、郊外の畑作農家が広がる。
商業施設開発の一番の問題点は環境への配慮だ。
あいつが言うんだ。
美味いもんは、綺麗な土と水と空気から出来ているんだって。
そしてそこからできる美味いもんを食うと幸せになれるんだって。

俺もそう思う。
そりゃ、一流シェフの作る料理は美味い。
もちろん、一流のもんを仕入れてるっつーのも当然ある。
だが世の中の全ての人間が一流のもんを食えるわけじゃねぇ。
けど、あいつを見てれば分かる。
一流じゃなくても美味いもんはたくさんあるんだってな。
それは大切にしなきゃなんねぇ。
俺は、あいつが美味いもんを食って、幸せそうにしているのが何よりも嬉しい。
だから、コストがかかっても、環境への配慮は絶対だ。
どんなに美味いレストランが出来ても、ここの川や土が汚れちまったら、きっとあいつが悲しむから。

会社へ向かうリムジンの中。
先ほどの商業施設の計画書に目を通しながら、時間を確認すれば、もう15時だ。
この時間はあいつが休憩をとると知っている。

ピッとスマホを操作して、通話履歴の中からあいつを選ぶ。
つーか、俺のプライベート携帯は、あいつとの通話履歴がほとんどなんだけどよ。

「俺だ。」
『もうっ、何よっ。こっちは仕事中。』
「わりぃな。」
『もう~っ。何っ?早く、要件言って。』
「お前さぁ、なんとか大根が好きだとか言ってたよな。」
『あー、うん。練馬大根?おっきい大根ね。好き好き、たくあんがおいしいの。』
「オッケ、そんだけ。」
『ええ~?』

あいつが好きだというたくあんがここで作られている。
だから、絶対に環境汚染は許されないっつーことの確認。
ま、それだけじゃねぇけど。
やっぱ俺のモチベーションに繋がるから、確認は怠れねぇ。

と、向かいに座る西田が言う。
「支社長、いずれにせよ、環境対策には万全を期しておりますので、牧野様に確認するまでもありません。」

ちっ。
わーってるっつーの。
要するに、あいつの声を聴きたいだけだろって言いたいんだろ?
そーだよ。そう。わりぃのかよ。

「ふぅ・・。」
と西田の溜息。
そこに言ってやる。

「今日、決めてやるから。」
すると西田が怪訝そうな顔をした。

「今日は、何かご予定がおありでしたか?」
「大あり。俺の一生と、この会社の未来を左右する。ババァには今日報告する。」

一瞬にして、西田の表情が引き締まった。
「承知致しました。」



**17時30分 衛星会議**

ニューヨークのババァや、ヨーロッパの幹部たちとの話し合いの場。
活発な討論が繰り広げられたその最後に、母親である道明寺楓が言った。

「Do you have anything to report from Japan?」
(日本からは、新しい報告はあるかしら?)

来たな。今日、聞かれると思っていた重要案件。

「I wil show you good news before long. The big economic effect can be expected.」
(近いうちに良い報告ができそうです。大きな経済効果が期待できます。)

画面上のババァが笑ったとたんに、衛星会議で拍手が沸き上がる。
ちと早ぇんだけど・・・。
ま、絶対に結果は出す。
今や会社中から期待されている、あいつを捕まえに行く。



**20時半 帰宅中のリムジンの中**

俺は帰宅途中にいつもメールを打つ。
マンションに帰る前には電話はしないと決めている。
もうすぐ会えると思うと、我慢できる。
我慢した後に聞くあいつの声には、最高に癒されんだ。
てのもあるけど、実は、あいつ、忙しい時に電話すっとマジ切れするからな。
食事の準備なんかでテンパってる時には電話すんなと言われてる。
「どうせ帰ってくるんでしょ。」なんて可愛くねぇこと言いやがるが、何だかんだ言って毎晩俺のこと待っててくれる。
すげぇ可愛い俺の恋人。

『あと20分で着く。』
『りょうかい。』

ホラな。すぐにレスが来る。
結構、あいつも俺にメロメロなんだ。

てか、あいつ・・今日が何の日か、分かってんのかな・・?



**21時10分前 俺たちのマンション**

予定通りに、マンションへ到着した。
二人の愛の巣、俺所有のペントハウス。

あいつが就職して2年目だった去年の夏。
互いに忙しすぎてすれ違い、1か月以上会えなかった。
俺は、あいつが心配で仕事になんねぇし、あいつは・・まぁ、案外元気にやってたんだけど、でもやっぱ、あいつをあのセキュリティーもへったくれもないボロアパートに一人置いておくのは俺の気が休まらなかった。
っつーことで、同棲を始めた。
さすがに1か月以上会えないと、あいつもちょっとは寂しくなるようだし、どうやら西田にも説得されたらしく、案外簡単に同棲のOKは出た。
どうせならその場で結婚でもよかったが、そう簡単にはいかない女なんだ。
職場では俺との関係は秘密だし、まだ言える状態じゃないとかいうのが、結婚は無理だという一番の理由だった。
結婚しても仕事は続けたいから、もっと周りに認められるようにならなきゃだめらしい。
そんなの、俺の秘書でもすりゃ解決すんだろってのが俺の考えだけど、あいつがイカるから言えねぇ。

エレベーターでペントハウスを目指す。
同棲開始から、今日でちょうど1年だ。

よしっ。
俺はネクタイを締めなおした。

ここらが、俺らのターニングポイントだろ?


エレベーターが開くと、晩飯のいい匂いが漂ってきた。

「どーみょーじ、お帰りぃ。」

最愛の女の可愛い声。
そこから続く、足音。

パタパタパタ・・・

なんだ珍しいじゃん。
お出迎えかよ。


そして、リビング前で鉢合わせ。
俺の愛する女が走り出てきた。

___牧野。

俺がこの世の中で、唯一愛する女。
俺の初恋の相手。
俺を殺すのも、生かすのもこの女次第。
それ位に、惚れて、惚れて、惚れぬいてる。



「「あっ・・。」」


互いの左手が目に入り、二人同時に驚く。

俺の手にも、牧野の手にも、バラの花束が握られていた。


「「なっ・・なんで?」」


って、なんでもなんもねぇよな。このシチュ。
ぷっ・・と同時に吹き出した。

そして、見つめ合う。


「俺と結婚してください。」
「私と結婚してください。」


二人同時にプロポーズだ。
くすっと笑い合いながら、バラの花束を交換する。
それから、牧野をぐいっと抱きしめた。




俺の大切な一日。
今日は、結婚を決めた日。

だけど、プロポーズをした日だから大切なんじゃない。
この結婚が会社に及ぼす影響なんて、どうでもいい。

彼女を、俺の守るべき存在として、その確固たる地位を与えてやれた。


俺の一日は全て牧野のためにある。
牧野を幸せにするためにある。
彼女の笑顔を守るために生きている。

その一日、一日、すべてが大切だ。

俺がしっかりしてなきゃ、こいつを守ってやれねぇから。
一日たりとも気が抜けねぇ。
俺は毎日努力する。
いつも、牧野を想いながら。

そして、こいつの前ではただの男になる。
肩書きも、世間の目も、何も必要のない関係。
ただそこにこいつがいるだけで癒される。
彼女の前でだけ、俺は自由になれるんだ。


だから、毎日が大切な日。
こいつを想う大切な日。


結婚して、牧野が俺の妻になっても、それでも牧野を想い、牧野を守る俺の一日は変わらないだろう。

全ては牧野のために。
毎日を大切に生きていく。


これから同じ苗字になるこいつと、
毎日愛を確認し、見つめ合いながら、
ずっと隣を歩いていく。


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ブログ1周年ということで・・
つかつく同棲1周年の同時プロポーズを書いてみました(笑)。
いつもたくさんの応援に感謝!です。
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  1. 短編
  2. / comment:13
  3. [ edit ]

こんばんは。Happyendingです。

いつもとは少し毛色の異なるお話、『Eternal』に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
一度書いてみたかったんです。プチ鬼畜な司(笑)。プチ・・です。プチ(笑)。
最終的には、いつもの司。まぁ、私のお話ですから、こんなもんです、ハイ。


さてさて、この度、8月26日で、この『With a Happy Ending』も1周年を迎えました~。
パチパチパチ・・・
いつも覗いてくださる皆様に、とっても感謝しております!!


1周年。
長い様で、短い。
短いようで、長い、ですね。

長編を書いている時は、長ーいって思いましたし、書かずにいるとあっという間に1週間が過ぎる。


ブログを始めたきっかけは、『幸せなつかつく』を書きたい、読みたい!と思ったからでした。
それまでは、たくさんのつかつく作家さんが書かれたお話をひたすら読んでいました。
続きが気になって仕方が無いって思う毎日でしたね(笑)。
そして気付いたんです。
結局、私が求めているものって、『幸せなつかつく』なんですよね。
どんなお話を読んでいても、つかつくが幸せになることばかり考えてる(笑)。
それなら、そういうのを自分で書いちゃおうかっ!て何故か思ったんですよねぇ。

ブログ自体初めてで、というか何もかもが初めてでした。
右往左往しながら、それでも結局この1年で、お話をアップする以外のブログの機能は全く知りませんが・・・(汗)。

楽しみながら、時に苦しみながら・・・

この1年続けてこれたのは、やっぱり拍手だったり、ランキングのポチだったり、そういう応援があったからなのかなと思います。
それがすべてでは無いのですが、やっぱり読んでもらえてると実感できるのが嬉しいのかな。
コメントも一つ一つ大切に読んでいます。
全てを読者さんに合わせることはできませんが、時々頂くコメントにヒントを頂くことも多いです。
それにも感謝!です。


応援くださる皆さんに、本当に、感謝!!
それ以外に言葉はないです!
いつも応援いただきありがとうございます。


これからは、どうかな。
ペースを考えながら、あと1話の長さとかも考えながら続けていきたいなと思います。
忙しい時には、予告なくお休みすることもあるかと思いますが、懲りずに覗いていただけると嬉しいです。

次に書くお話は迷っていて、まだ決めていないんです。
少し休憩してからまた始めたいな。


それで、1周年に感謝!といっても、私からできることってないんですよね。
だけど、何か感謝の意を示したいなぁ。
でも、私ブログ音痴だし・・難しいことはできない。

お話書いてアップするぐらいしか・・頭に思い浮かばず。
なので、何かお話を・・と思って、夕方からちょろちょろ書いています。

急に思い立ったので、どうかな・・(笑)。

今日中に間に合うのか不安ですが、1周年の『感謝!!』の気持ちを込めて。
今晩、ひとつ短編をアップします。

急いで書いているので、後からちょこちょこ直すかもですが・・(笑)。
また覗いてください。


ではでは、これからも、ぼちぼちと続けていきますので、温かい目で見守っていただけたらと思います。


Happyending

  1. お知らせ
  2. / comment:23
  3. [ edit ]

「悠、寝たのか?」
シャワーを浴びて、頭をタオルでガシガシ拭きながら、司が寝室に戻って来た。

「うん。ぐっすり。」
悠はもうすぐ3ヶ月になる。
司に再会してから、もう1年が経つんだ。

「マジ可愛いな。」
「うん。寝顔は司そっくりね。」
「目を開けるとお前そっくりなんだよな。」
「そうかなぁ。」

ふふふ。
私たちの結婚生活は至って順調で穏やか。
再会した頃の激しさが嘘のようだ。

妊娠が分かり、結婚が決まってから、私は司に隠し事をすることは一切無くなった。
私が良かれと思って黙っていることは、決して彼を幸せにしないと痛い程分かったから。
辛いことも含めて、全てを共有できる人だから。
司を信じているから。
だから、もう、絶対に隠し事はしない。



暫く二人でベビーベッドに眠る悠を覗き込んでから、
司が私の手を引いて、広いベッドの端に座らせた。
そして、司も私の隣に腰を下ろす。
こんな時、司は必ず、私の右側に座る。
それは、私は右耳の方が良く聞こえるから。

「どうしたの?」

さっきまでとは違い、真剣な表情の司。
私は、司の顏を覗き込んだ。
少しだけ悲しそうなその表情に、不安になる。
こんな顔、もうさせたくないのにな。

司が私の左耳をゆっくりと撫でた。

「つくし。左耳の手術、受けないか?」
「え?」
「完全には戻らなくても、もう少しは聞こえるようになる可能性はある。アメリカでは耳小骨の手術も盛んだ。だから・・。」

あぁ、この人は、ずっと私の耳を心配してくれていたんだね。
事故は決して司のせいじゃないのに。
もしかすると、ずっと責任を感じていたのかも知れない。
だけどね。

「ありがと、司。でもね。私、今のままでもいいの。」


司が、怪訝そうに私を見つめる。

私のお守りだった土星のネックレスはダイヤの指輪に変わり、今でもマリッジリングと重ね付けをしている。そう出来るように司がデザインしてくれたんだ。
司と離れていた5年間、私を見守ってくれた土星のダイヤモンドと、再会してからもらったダイヤのマリッジ。その両方が、私たちの愛の証。

そしてもう一つは、私の左耳。
あの事故で、私の左耳は聞こえが悪くなったけど、それは私が道明寺司をずっと愛していた証拠。司への愛の証なの。

だから、このままでいいの。
このまま、司の隣に居させて欲しい。
それは独りよがりな考えかも知れないけれど・・。

「司がどうしてもっていうなら手術を受けるよ。でも私は今のままで十分幸せ。生活に不自由もない。ううん。それだって、司が心を配ってくれてるからだって分かっているけど。でも私は耳のことよりも、こうして司と悠と3人でいられたら、それだけでいいの。幸せなの。司は違う?」

そう言う私をじっと見つめ、司がゆっくりと首を振る。

「いや、俺も、お前がそばにいてくれるだけで十分だ。」

私を優しく抱きしめてくれる、司の逞しい腕。


ありがとう、司。
いつも私のことを気にかけてくれてありがとう。
こうして抱きしめてくれてありがとう。
私はそれだけで幸せだよ。
これ以上を望んだら、バチが当たりそう。
それぐらいに幸せなの。
この幸せがずっと続いて欲しいと思ってる。

耳が聞こえにくいことは悲しいことじゃ無い。
むしろ私の誇りなの。
だから、そんなに心配しないで。



いつも通り、司のキスが落ちてくる。
しっとりと温かくて、愛がいっぱ詰まったキス。

それから、右耳にも、左耳にも交互にキスが降ってくる。


私の右耳は、司の愛を聞くためにある。
「愛してる」の言葉を聞いて、私も「愛してる」と伝えるために。

そして、私の左耳は、司の愛を感じるためにある。
聞こえが悪くても、彼の鼓動を感じることができる。
熱い吐息も感じられる。
彼の愛撫に敏感に反応して、私の体を熱くする。


右耳に囁かれ、左耳で感じて、私は司に溺れていく。
そして今日も、体中に愛を感じながら、幸せな眠りにつくんだ。






***


今夜も、俺の腕の中につくしがいる。
俺の子供を宿し、俺の妻になってくれた最愛の人。


俺はかつて、愛なんてもんを信じてはいなかった。
目に見えないものを信じようとはしていなかった。
世の中は金が全てで、人の心さえも金で買えると疑っていなかった少年時代があった。
そんな俺を変えたのがつくしだ。

永遠に風化しない想いなんてあるのか?

昔の俺だったら、そんなものは無いと言っただろう。
それは決して目に見ることはできないものなのだから。

だが、今の俺は言える。
永遠に風化しない想いはあると。

何故なら、それを俺自身が知ったから。
つくしに出会い、一発で惚れた。
惚れまくって付き合いだした途端に別れを経験し、5年間会うことは叶わなかった。
それでも、俺の中でつくしへの想いが色褪せることはなかった。

これから先も、こいつへの想いが風化することは決して無いと断言できる。


だが、自分の想いには断言できても、相手にまでその想いを求めることはできない。
どんなに願ったとしても、人の気持ちまでを強引に手に入れることはできない。
それは、かつてつくしが俺に教えたこと。

永遠の想いがあるとすれば、それは相手に求めるものではなく、自分の中にだけ存在する。
自分だけが確信できるものなんだ。


1年前にこいつに再会した時、俺は強烈な怒りを覚えた。
俺以外の男を愛することができるのか?
俺はお前しか愛せないというのに。
そんな身勝手な怒りだった。

何度抱いても、焦りばかりが募った。
しかし、それは当然だ。
愛を強要することなんてできやしない。
ましてや、永遠の想いだなんて、尚更だ。

俺への永遠の想いが存在するとしても、それはつくしにしか分からない。
それは、決して、俺の目には見えないはずだった。


だが、俺は幸運にもそれを知ることができた。
それはつくしの犠牲の上ではあったのだが。
つくしが怪我を負ってまで守った土星のネックレス。
それが彼女の左手の指輪となっていた真実を知った時の衝撃は凄まじかった。
それこそが、つくしの俺への偽らざる愛を証明していた。

激しく抱き合うよりも、どんな言葉よりも、ダイレクトに俺に伝えてくれた。
つくしの俺への一途な愛を。


つくしは左耳が聞こえにくいままでいいのだと言う。
きっと、そこにも、俺への愛が溢れてる。
この怪我はつくしにとって誇りなんだろう。
それなら、いい。
俺は、今のままのつくしを最高に愛しているんだから。




俺はつくしの愛を手に入れた。
それは同時に永遠の幸せを手にした瞬間だった。

誰に笑われようが、呆れられようが、何度でも言える。

この世の中に、永遠に風化しない想いはあるのか?

その答えはYESだ。


何故なら、俺たちの愛こそが、永遠だから。
これから先、何年経ったとしても、薄れることは無い。


例え俺たちの命が終わっても、その後も続いていくもの。

それは、

____Eternal Love


俺たちの中に芽生え、決して枯れることのない、永遠の愛だ。


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なんとか完結となりました。
たくさんの応援、本当にありがとうございました!
  1. Eternal(完)
  2. / comment:7
  3. [ edit ]

翌朝の新聞の一面記事は・・・

____道明寺司氏 結婚!!



デカデカと書かれたその見出しに、目が飛び出しそうになった。
どこから漏れた情報よ?と考えてみたけれど、考える間も無く思い至る。
だって、昨日は病院前で散々大騒ぎしていたんだもん。
昨晩、道明寺が私を連れて系列病院の産婦人科を受診した。
病院側が極秘にしてくれたところで、病院の外であれだけ騒いでいればそりゃすぐに話題にもなるわ。
夜中だとは言え、他の患者さんが見ていたかもしれないし。

もちろん、今更こんなことでぎゃあぎゃあ言っても始まらない。
道明寺と一緒に生きていくって決めたんだもん。
結婚だって覚悟はできてる。

まぁ・・デキ婚ってことになるのかな?

ソファーで隣に座る道明寺は終始ニヤついてるけど。
あんた、専務って立場でデキ婚って、体裁悪くないの?

なんて思いつつ、道明寺が広げる新聞を横から覗き込んだ。

・・ん?
・・・・んん?

・・・・・・っ!!

『お相手は、高校時代の初恋の女性。』
『密かに育んできた5年間の遠距離恋愛。』
『総帥も公認のお付き合いから5年を経て、本日入籍へ!』

って、なにこれーっ!!
私の妊娠のことなんて書かれていない。
そこに書かれていたのは、初恋の女性との長年の遠恋を実らせたという、道明寺司の恋愛秘話。

「あっ・・あっ・・あんっ・・・」
「何だよ。あんあん言って。やりてぇの?俺的には、昨日相当我慢したんだぜ?やっぱ、今はマズイだろ?」
「バカッ!そんな訳あるかっ・・って、そうじゃなくて。これっ!これって、もしかしてあんたが?」
「当然だろ?つーか、ほぼ事実だろ?」
「全然事実じゃないでしょっ。」
「嘘も方便って奴だ。」
「急に、賢そうなこと言うなっ。」

なんか・・なんか、道明寺にエンジンがかかってる。
そうよ、そうなのよ。
こいつは、こういう奴なのよ!
こうと決めたら一直線。
誰にも止められないのよっ。

再会してからのこいつは、まともな精神状態じゃなかった。
耳の事を隠していたから、余計にややこしいことになってしまったんだけど。
道明寺は、相当我慢してたんだと思う。
私には他に付き合っている男性がいると思っていただろうし。

それが違うと分かった今、猛然と突っ込んでくる道明寺を止めようがない。
いや、止めなくていいんだけど・・ね。


道明寺が私の髪にキスを落とす。
焦って見上げれば、甘い表情の道明寺。
凄く・・嬉しそう・・。
再会してから、ずっと苦しそうだったもんね。
だけど、これからはこんな笑顔をいっぱいさせてあげたいな。

もう、どこにも行かないよ・・。

「ねぇ、道明寺。私があんたを幸せにしてあげる。」

そう言った私を、道明寺が力一杯抱きしめた。


「やってもらおうじゃん。けど、俺がその倍はお前を幸せにしてやるから覚悟しとけよ。」

うん。
だけどね。私もこの5年で分かったんだ。
昔、あんたの気持ちの1/10しか好きじゃないなんて言ったけど、私は絶対間違ってた。
離れていた5年で思い知ったもん。
5年間ずっと忘れることが出来ないぐらい、あんたのことが好きだったって。

私ね、あんたと同じぐらいに、あんたのことが好きなんだよ。
信じてね。


5年前には手に入らなかった幸せが、目の前にある。
あの頃は眩し過ぎて掴めないと思っていた幸せを、私は今、掴もうとしている。


永遠に無くならないもの。
それは、簡単に手に入れることはできないもの。
心の奥底で大切にしまっていたもの。
だからこそ永遠なのだと思っていた。

だけど、目の前に掴めそうな幸せなが見えた今、
それでも、これだけは言える。

私の愛は永遠。


彼を愛することを止めるなんて、絶対にできない。
彼の愛を掴んだ今も、それだけは確信できる。
たとえ彼の愛を一生掴めなかったとしても、
私の愛は決して風化しないけれど・・。


だけど、今、もう一度誓うよ。

____私は、あなたのことを永遠に愛します。







***



「しっかし、あの時の司は笑えたな。」
「あれはヤバかったな。道明寺の株価下がっただろ?」
「バカ言え、俺の微笑みには数百億の価値があんだよ。」
「自分で言うなよ、恥ずいな。」

俺んちのリビングで、総二郎とあきらが俺を茶化す。
こいつらが言うのは、昨年末のつくしとの結婚式のこと。
式・披露宴ともに、東京メープルで行った。
身重のつくしのことを考えればそれがベストと判断した。
少し腹の目立ったつくしに合わせた、エンパイアラインの純白のドレス。
マジ可愛くて、その場で押し倒しそうになった。

俺の両親もつくしの両親も揃って出席し、仕事関係の出席者は1000人を超え、盛大な披露宴になった。
自分では気づかなかったが、その披露宴の席で俺のニヤケ顔が半端なかったらしい。

仕方ねぇだろ。
超惚れてる女との結婚式だぜ?
あんな幸せってねぇんだよ。
何よりも、つくしが幸せそうに笑ってくれたのが嬉しかった。
世界中に見せびらかしてぇと思った。
俺とつくしの幸せを。

「おい、ビデオねぇの?もう一回見てぇよ。」

あるけど、お前らに見せる必要はねぇよ。
結婚式と披露宴のビデオは、悠(はるか)が大きくなった時に・・。


はっと気付く。
いつの間にか、類の奴がここにいねぇ。
あいつ、またつくしのとこに行ってんなっ。

ガバッとソファーから立ち上がり、俺とつくしの私室へ急ぐ。
そこには、どうやら授乳が終わったらしいつくしと類の姿が。

「ねぇ、牧野。悠、抱っこしてもいい?」
「うん。いいよ。首、気を付けてね。」
「もう何回も抱っこしてるから大丈夫。」
「凄いね、類。パパみたい。」

だーっ。こいつらーっ。
ガターン!!

「あ、司が来ちゃった。」
「もう、司ったら、大きな音立てないで。」

「類、悠を俺に返せ。」
「ちぇっ。うるさいパパだね。」
「もうっ、悠のことになるといつもこうなんだから。」

悠のことじゃねーよっ。
お前のことだよ、お前のっ。
本当に、相変わらずの鈍感女だ。
ま、そー言うところにも惚れてんだけど・・。


類は、週に一度はここへ来て、つくしと悠に会っている。
総二郎やあきらも、結構な頻度でやって来る。
滋や三条も頻繁らしい。
大概俺が出張なんかで不在の時っていうのがまたムカつくところで、目障りなことこの上ねぇが、いきなり結婚してこの道明寺邸に入ったつくしのことを気遣って、皆が来てくれているのは分かってる。しかも、俺が不在の5年間、ましてやあの事故後のつくしを支えたのは類だと知れば無碍にも扱えない。ま、何よりも、類は俺のダチだしな。

「俺、悠と結婚しようかな。」
「はあ〜?お前、いい加減にしろよっ。」
「冗談に決まってるでしょ。司、熱くならないで!」

「司には牧野がいるじゃん。」
「悠も俺のもんだ。」
「悠はいつかはお嫁に行くんだからね。」
「つくしっ、お前まで、何てこと言いやがる。少しは俺の味方しろよっ。」

「「あはははっ!!」」


こうして、俺たちの関係は続いている。
総二郎、あきら、類。
こいつらに支えて、今の俺たちはある。
つくしの愛を手に入れ、俺らが夫婦になると同時に、こいつらとの新しい関係も始まった。

それは、きっと、これからもずっと続いて行く。


とりあえず機嫌が悪い振りをする俺の耳元に、つくしが囁いた。

「悠がお嫁に行っちゃっても、私がずーっと一緒にいるからね。」


あー、俺、マジ幸せ。
そんなこと、本気で心配してる訳ねぇんだけど。
こうしてつくしが俺を気にかけてくれる。
そんな小さなことにもつくしの愛を感じる。


俺の隣につくしがいる。
1年前には想像していなかった幸せを、俺は手に入れた。


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今日でラストのつもりが、長くなってしまい2話に分けました。
明日で完結します。
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「だから、違うって!」
「いや、間違いないな。」
「やだって、離してっ!」
「離すか、ボケ。」

私たちは、今、道明寺系列の病院前。
もう、夜の11時近い。
それなのに、道明寺に無理やり連れられて、ここまで来てしまった。
当然彼が、事前に連絡を入れてのことだけど。

妊娠検査薬の結果は陽性。
だけど、本当に妊娠しているかどうかはまだ分からない。

一人で産むつもりだったのに。
どうしてこんなことになってるんだろう?
道明寺に妊娠したことを知られたら困る・・と思っていたけれど、さっきの話だったら、もうそんな心配は要らないのかも。
そう思うんだけど、やっぱり素直に飛び込んでいけない。
だって・・急に、こんな展開になるんだもん。

もう、あのお母さんが反対してないなんて、信じられる?
私が妊娠していることを道明寺は疑いもしない。
むしろ、今すぐ確かめると言って聞かなかった。

「今や俺のレーダーに狂いはねぇ。」
「はぁ?」
「だいたい、お前の妊娠を望んでたのは俺だからな。」
「ええっ?!あんたっ!」
「当たり前だろ?あんだけ生でガンガンやってたんだぜ。その覚悟は初めからしてた。」
「かっ・・覚悟って・・。」

「俺ら、結構いい親になると思うんだよな。」
道明寺がとても嬉しそうに私の顔を覗き込む。

「親・・。」
「そうだろ?」

そうだよ、そう、そうだった。
こいつは、こういう奴だった。
いつでも自分の思う通りに行動して、それは羨ましいほどにブレてない。
俺様で自分勝手だって思うんだけど、案外こいつのいうことは、いつも真実だったりするんだよね。


「行くぞ!」
道明寺が強引に私の腰を抱き、病院の中へ入って行く。

私・・これからどうなっちゃうんだろう?




***


「おめでとうございます。妊娠ですね。」

お願いだから、絶対に逃げないから、だから診察室には入ってこないで。
そう懇願して、何とか道明寺同席の診察だけは免れた。
そして、エコー検査の結果、私の妊娠が確定した。

予想通りではあるけれど、お腹の中に道明寺の赤ちゃんがいる。
この子を産んで、幸せにしてあげたい。
心の底から、そう思った。


そして、今、道明寺と並んで先生の説明を聞いている。
そんな私たちは、夫婦のようにみえる・・と思う。

「もう、お母さんなんですよ。区役所で母子手帳をもらって下さいね。」
優しく説明して下さる先生とは対照的に、道明寺が焦った声を上げる。
「区役所・・?って、おい。まだ入籍してねぇだろ。まずは、直ぐに籍入れるぞっ!」
「ちょっと、道明寺っ、うるさいっ!」

「まだ妊娠初期ですから、無理はしないように。」
と先生から注意を受ければ、道明寺もうんうんと頷いている。
「分かったか、牧野。直ぐに、俺んちに引っ越せよ。」
「だから、うるさいよ。」

「かと言って、妊娠は病気ではありませんから、過度に制限をする必要はありませんが、安定期までは気をつけて。」
「安定期っていつだ?」
「そうですね、今が3ヶ月目ですから、あと2ヶ月ぐらいでしょうか。」
その先生の答えに、道明寺は満足気な顔をした。

「じゃあ、その頃に結婚式だな。準備もあるから丁度いいな。俺が全部手配するから、お前は無理すんな。」
「だから、ちょっと待ってよ。まだ、結婚するなんて言ってないでしょっ!」

「はぁ〜??」「え?」

思わず叫んでしまった私に、道明寺ばかりか、女医先生も驚いている。
聞き様によっては、天下の道明寺司からのプロポーズに待ったをかけた形だ。
あちゃ。
そりゃ、私だって結婚したくないって訳じゃないんだよ。
妊娠が分かって、はっきり思う。
ここにこうして道明寺がいてくれるのに、一人で育てるなんて傲慢だ。
それに、この子を幸せにしてあげるのは私の役割でもあるけど、隣にいる彼の役目でもある。だって、この子は二人の子供なんだから。

「あ・・いや、その・・だって・・。」
「お前、俺に不満でもあんのか?」

不満なんて・・ある訳ない。
だって、相手はこの5年間ずっと想ってきた男だよ。
こんな幸せな話ってない。
だけど、展開が急すぎてついていけないのよ。

ちらっと道明寺を見れば、ぎろっと睨み返される。
その気迫に押されちゃう。

「いえ・・無いです。」
「じゃあ、グダグダ言うな。」
「はい。」

「ぷっ・・」
先生に笑われてしまった。

「ご両親が仲良くしていることが、安定した妊娠につながります。喧嘩もほどほどにね。」
「だってよ、つくし。」
「・・っ!!」


ああ。
これは現実なんだ。
私たちは本当に一緒に親になれるんだ。

道明寺はいつも大切なものを見失わない。
だから彼と一緒にいれば、私はもう、大切なものを手放すことは無い。

私にとって大切なもの。
それは、道明寺とこのお腹の中の赤ちゃん。
私は二人を幸せにすることができるのかな・・?

「できるに決まってんだろ。」

気がつけば、リムジンの中。
私の右側に座っている道明寺が自信たっぷりに言う。
あれ?私また、独り言言ってた?


「なぁ、牧野。あの指輪、どうして、持って帰らなかった?」
「え?」
「ずっと大切にしてくれてた指輪だろ?何で持って行かなかったんだよ。」
「それは・・。」
「指輪以上に大切なものができたから・・か?」
「・・・。」
「そうだろ?」
「うん・・・ごめんね。」
「ったく・・マジ、勝手なのはお前なんだよ。」
「本当にごめん。」

本当に、私は勝手だった。
左耳から聞こえる声を聞こうとしなかった。
嫌なことを言われてると思い込んで。
聞きたく無いことに蓋をした。
それは、私が道明寺を信じていなかったということになる。
そして、お腹の赤ちゃんも、パパがここにいるのに、彼から引き離そうとしていたんだ。
一緒になる努力をしなかった。
勝手に、逃げようとしていた。
自分だけが苦労すればいいと思っていたなんて、とんだ思い上がりだ。

私は結局、5年前からあまり成長していないのかも・・

「本当に反省してんのかよ。」
「してるよ。」
「じゃあ、今から、この荷物持って俺んちに移動な。」
「ええ〜っ。待って、それはまた今度。」
「抜かせ。もう、離さないって言ってんだろ。」
「でも、あんたの家って、もう長いこと行ってないし・・。」
「丁度荷物纏めてて良かったな。だいたい、どこ行くつもりだったんだか。」

道明寺は私の言葉なんて全く聞いてくれなくて、むしろ呆れ顔で私を見てる。
その瞳は少し寂しそう。
それは私のせいだ。
私がいつまでもグズグズしてるから。

このままじゃ、5年前と本当に何も変わらない。
いい加減に、私も前に進まなきゃ。
道明寺と一緒なら、絶対に幸せになれるんだから。
これは、夢じゃないんだから。


すーっと息を吸い込む。

「道明寺・・大好きっ!」

自分から、道明寺の胸の中に飛び込んだ。
道明寺に抱きしめられて、彼の胸に左耳を寄せた。
左耳は聞こえ難いけど、彼が呼吸する度に振動を感じる。
彼の傍にいれば、彼の温もりを感じることができる。
それ以外には何もいらない・・。

自然と涙が溢れ出した。
一人で育てていこうと決心した時の涙じゃ無い。
二人で親になれる。
その幸せの涙。


安心したら、自然に頬が緩んだ。
見上げれば、道明寺も笑ってる。
寂しそうな表情は消えていて、私を優しく見つめてる。
あぁ、良かった。
一緒にいると決めたんだから、これからはずっと道明寺を笑顔にしてあげたい。

私の唇に道明寺の唇が合わさった。
何て優しいキス。
触れるだけのキス。
それがこれほどまでに胸を震わせる。
激しく抱き合うだけが全てじゃない。
こうして二人で寄り添うだけでも幸せになれる。


道明寺が私の左手をとった。
彼の反対の手の平には、あのダイヤの指輪が乗っていた。
もしかして、拾って来てくれたの?

「これは、やっぱりお前に持っていて欲しい。」

そう言って、私の左手の薬指に指輪を落とし込んだ。
私の指に戻ってきたその指輪。
引き抜かれた時には、軽くなってしまった自分の指を寂しく思った。
だけど、また戻された。
当たり前だけど、しっくりと馴染んでいる。
一年前から今日まで、一日も外したことはなかった私の宝物。

「ありがとう。」

両手は道明寺に握られている。
私はそのまま少し伸びあがって、道明寺にキスをした。

私を忘れないでくれてありがとう。
私を追いかけてくれてありがとう。
ずっと好きでいてくれてありがとう。


「牧野、愛してる。」

道明寺から、キスが返ってくる。
長い口づけの後に、
チュッ、チュッ、チュッと、顔中にキスが落とされた。
啄むだけの優しいキス。
それは私を許してくれる、幸せなキス。



その優しい唇が離れて行くと、道明寺がちょっと笑った。

「言っとくけど、マリッジは揃いのモノを俺が作るから。これはそれまでしておけよ。」
「え?あんたも指輪するの?」
「しちゃわりぃのかよ。」
「いや、何と無く、意外で・・。」
「お前は俺のモノ、俺はお前のモノっていう印だろ?」
「違うよ、マリッジリングは愛の証。」
「尚更、必要だろうがよ。」
「・・そうだね。」

こいつは案外ロマンチックな男だってことを忘れてた。
ふふっと笑っちゃう。

ありがとう。
過去にもらったこのダイヤも、これから貰うことになるマリッジリングも、その両方をずっと大切にしたい。


「忙しくなるな。早く婚姻届出さねぇと。お前の両親に挨拶に行かなきゃ始まんねぇな。」
「あっ、あんたの両親にもお会いしなきゃ。」
「それはいいだろ?今、お前を飛行機に乗せる訳にもいかねぇし。」
「嫌だよ、そういうのはきちんとしたい。」

「じゃあ、電話すっか、ババァに。」
「・・・そっちの方が怖い。」
「だよな・・。」

しーん。

ぷっ。ぷぷっ。
真剣に話しをしていたのに、急に可笑しくなった。
お互いに顔を見合わせて笑い合う。

あー。本当に久しぶり
道明寺と、こうやって笑い合うこと。
これが、最高に幸せ。


そんな幸せに浸っていたら、いつの間にか懐かしい道明寺邸に着いていた。

この日は、明け方まで、たくさん道明寺と話をした。
こんなにゆったりと道明寺と話をしたのは、実は初めてだったかも知れない。
道明寺と離れていた5年間のこと。
そして、彼の5年間の話を聞いた。
話は尽きることはなくて、もっと道明寺の話を聞きたかったのに、私はいつの間にか眠ってしまったみたいだ。


そして、幸せな夜から一夜明けると、
世間はとても騒がしくなっていた。


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「俺は、お前が好きだ。今まで、一度も忘れたことなんてない。」

俺の告白に、牧野は目を大きく見開いた。
その瞳に映っているのは、間違いなく俺だ。
そして、牧野が口を開いた。

「私も、道明寺が好きだよ。ずっと好きだった。ごめんね、あの日、言えなくて。あんたを傷つけてごめん。」

牧野からの告白に胸が踊る。
牧野の瞳に溢れた涙を、俺の親指で拭った。

「そんなことはもういいんだ。俺は、お前と生きていきたくて、お前との未来を掴みたくて、この5年間ずっと努力してきた。だから、お前が俺のもんになってくれねぇと困るんだ。いいだろ?俺のもんになるよな?」

「ちょっと・・待って。そういうことは、じっくり考えないと・・ね?」

この後に及んで、まだグダグダ言っている牧野に腹が立つ。

「じゃあ、お前はなんでこの数か月俺に抱かれてたんだよっ!」
「ぎゃっ、そんなこと大きな声で言わないで。」
「言われたくなきゃ、とりあえず、中に入れろ。」
「うわっ。やだっ。」

玄関先で大きな声がを出していた俺たち。
牧野が慌てて俺の腕を引く。
ホントバカな女。
だけど、初めて牧野が俺の手を取ってくれた。
それが強烈に嬉しかった。


あの指輪は、俺が贈った土星のネックレスに事故後残されていたダイヤを移植したものだ。
つまり、こいつは俺と同じように、この5年間ずっと俺のことを想っていたんだ。

だが、牧野の左耳が聞こえなくなったのは俺のせいだ。
俺はどうすればいい?
この償いは、どうすれば出来る?

この答えはただ一つだ。
俺がこいつの面倒を一生みてやる。
俺がずっと側で支えてやる。
嫌だって言われても構わねぇ。
俺はもう、お前から一生離れねぇよ。


狭い廊下を通って、招き入れられたリビングスペース。
高校時代のこいつの部屋も大概狭かったが、ここも大差ねぇな。
風呂が付いてるってぐらいの広さの違いだ。
ワンルームって奴なのか。
目の前にはベッドまである。

「えっと・・何か飲む?」
「要らねぇよ。それよか、話、しようぜ。」
「話?」
「これからのことに決まってんだろっ!」

思わず大きな声が出ちまった。

お前はさっきの話を聞いてたのか?
俺はお前が好きだ。
お前も俺が好き。
つまりその先にあるのは、結婚とかそう言うことだろ?
一体何の問題があるってんだ。
じっくり考えることなんて何もねぇよ。


「とっ、とりあえず、じゃあ、道明寺はここに座って。狭くてごめんね。」

あたふたとしつつも、俺を落ち着かせようとする牧野。
俺は、差し出された座布団に腰を下ろした。
ふっと目をやると、小さなテーブルの上には貯金通帳や印鑑、そしてテーブルの脇には大きめの鞄が置いてある。
俺がじっとそれらを見つめて、何やら考えていると、牧野が「あっ」と小さく叫び、それらを隠そうとした。

しかし、どうやら、俺の嗅覚は完全に戻って来たらしい。
左耳の障害に気付くことができなかった。
指輪の謎も自分では分からなかった。
だが、それは、牧野が他の男のもんになっちまったという不安によるもので、その不安が完全に払拭された今となっては、俺の牧野レーダーは完全復活だ。


「お前・・また、どっか逃げるつもりだろ?」
「・・え?」

とぼけようとしても、目が泳いでるぜ。

「もう、逃さない。地獄の果てまで追いかけるって言っただろ?」
「道明寺・・。」


牧野との未来のために尽くして来た5年。
その間の牧野の生活を知ろうとしなかった。
ただ、こいつを取り戻すことだけで頭がいっぱいで、こいつが過ごして来た5年を無視していた。
その結果が今の俺だ。
取り戻したい。
そして、やり直したい。
一から、全てを。

そのためには、まずはこいつの話をじっくり聞いてやるつもりだ。
だが、結論は決まってる。
お前と結婚する。
道明寺つくしとして、俺の側に置く。


「なぁ、何が不安なんだ?」
「何がって、分かってるでしょ?」
「分かんねぇな。」
「バカッ。」
「はぁ?バカはお前だろ。お前は考えすぎなんだよ。言ってみろよ、何が不安だ?」

牧野の腕のを引き寄せて、俺の前に座らせた。
そしてその小さな体を後ろから抱え込む。
逃しはしない。

牧野がポツポツと話し出した。

「ねぇ、5年前。どうして私たちが別れたか覚えてる?」
「俺はお前に振られたな。あれは正直きつかったな。」
「それ・・さっき謝ったでしょ。」
「じゃあ、問題ねぇだろ。」
「そうじゃなくってっ。」
「ババァのことか?」

ウッと、牧野にが返事に詰まった。
あの当時、ババァが俺たちの付き合いに反対し、牧野の周囲に圧力をかけていた。
こいつは別れを切り出すしかなかったのだと分かっていた。
俺にはどうすることもできなかった。
あの当時の俺には力が無かったから。
結局はババァの力に屈した。

だが・・・

「もう、解決してる。」
「え?」
「1年前にアメリカで半導体メーカーを買収した。その見返りが、お前だ。」
「見返り?」
「あのメーカーの買収に成功すれば、お前を俺の妻として認めると言われてた。」
「つっ・・妻っ!」
「だから、俺らにはもう何の障害もねぇんだよ。」

牧野は唖然として、息が止まってる。
俺がもう一度柔らかく彼女のを抱きしめ直すと、ふぅーっと息を吐き出した。

「何で、言ってくれないのよ・・。」
牧野が下を向いた。

それは俺のセリフだっつーの。

「お前こそ、何で言わなかった?」
「なっ・・何を?」
「まずは・・そうだな。耳の事。」
「・・気づいてたの?」
「いや、秘書に教えられた。」
「そっか。隠してたんだけどな。」
「バカが。俺は、何度もお前を口説いてたのに。聞こえてないなんて・・。ごめんな。ごめん・・牧野・・。」

謝るつもりじゃ無かった。
お前はそんな事を望んでないと思うから。
だけど、結局謝っている。
気づかなくてごめん。
怪我をさせてごめん。
だけど、お前があのネックレスを守ろうとして怪我をしたんだと聞けば、それは俺にとっては途方もなく感動しちまう話でもあった。

「私も、ごめんね。あの土星のネックレス。壊れちゃったの。」
「類たちに、事故の事は聞いた。残ったダイヤをリングにした。そうだろ?」
「うん。」
「何で言わねぇんだよっ。」
「だって・・迷惑かなって思ったんだもん。重い・・でしょ?そういうの。」

あーもうっ。
なんでこいつはこうなんだ。
勝手に何でも悪い方に考えて。
もっと俺を信用してくれよ。
お前の想いに感動することはあっても、重いだなんて思う筈がない。
いつだって、俺の愛の方がでかいんだ。
そりゃ、聞き様によっては不本意な話かも知れねぇけど、俺はお前を愛してる自分が誇らしいから、それでいいんだ。
そんな事も忘れちまったのかよっ。

俺は、心に決めた女じゃなきゃ、抱かねぇよ。
ましてや避妊もしてないんだ。
こいつを俺から逃さないための、最終手段。
俺は、再会してから、俺の全てを牧野の中に注ぎ込んでいる。
もし俺の子供ができたら、嫌でもこいつを妻にするんだと決めていた。
子供ができれば、牧野は俺を選ぶしかなくなるだろう。
他の男のところになんて行かせるもんかと考えていた。
ま、実際、こいつに男はいなかったんだけどな。
それは、こいつも分かっているはずで・・。


・・・
ちょっと待て・・
テーブルの上の貯金通帳。
その脇に置かれたデカイ鞄。

こいつが逃げようとしている理由。


ちょっと待て・・

だが、恐らく間違いねぇ。
今や俺の牧野レーダーは冴えまくってる。
いや、例えレーダーが無くたって、これは分かるだろう。


「お前、妊娠してるだろ?」

牧野の肩がビクッと震えた。


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「お前が欲しい」

道明寺にそう言われて嬉しかった。
道明寺の本心。
過去に縛られている訳じゃない。
かつての復讐じゃない。
今の私が欲しいと言ってくれた。

あの指輪は、まだ誤解してるんだね。
私がずっと大切にしてきた指輪。
それを道明寺が引き抜いた。
この指輪はあんたがくれたんだよって言おうと思った。
そうすれば、誤解は解けるって分かってた。
だけど、言えなかった。
だって、言ってどうなるの?
言えば事故のことを話さなきゃいけなくなる。
そしてまた、優しいあんたを傷つけてしまう。
私たちには将来がない。
それなのに、私のことを負担に思って欲しくなかった。


そして、私はまた、あんたの前から消えなきゃいけなくなった。
また、あんたのお荷物になってしまうから。
あんたが私を欲しいと思ってくれていても、どんなに私があんたを愛していても、私たちはずっと一緒にいることはできない。
それは5年前から変わらない事実。

だから、消えなくちゃ。

私は、指輪の代わりに大切なものを授かった。
だから、その指輪はあんたに返してあげるね。




私は昨日、妊娠検査薬を使った。
先月も、今月も生理が来なかった。
少し前から何となく体がだるかった。
理由は分かり切っていた。
だって、私たちは一度も避妊をしていなかったのだから。

___結果は陽性。

頭の中で、こうなることを十分予想できていた。
道明寺だって分かってたはずだよね。
毎晩のように抱き合っていれば、こうなることが。


道明寺は私が妊娠したらどうするつもりだったんだろう。
本当に愛人として一生側に置くつもりだった?
だけど、そんなこと許されるはずがない。
これから、誰か素敵な女性との結婚するんだよね。
そこに愛があろとなかろうと、道明寺の為になる人と。
その時に、愛人がいるだなんて、ましてや子供がいるだなんて、道明寺の両親に知られたら、どうするの?

こうなることは覚悟していた。
ううん。どこかで望んでた。
そして、こうなったら最後だと思っていた。
だからこそ、昨日まで検査をしていなかった。
私にはまだ、道明寺と離れる覚悟ができていなかったから。

今日もまだ悩んでいた。
どうするべきか、道明寺に相談するべきか。
でも、まずは病院で確かめなければいけないと思っていた。

だけど、道明寺に指輪を抜かれ、軽くなった左手をみて覚悟は決まった。

大切な指輪が無くなっても、私にはもっと大切なものが出来たんだ。
だから、これで道明寺との関係は終わりにしよう。
私は、この子と二人で生きていく。
愛する人の子供を産んで育てる。
こんな幸せなことってない。
悲しくなんてあるはずがない。

そう思うのに、自然と涙が溢れるのはどうしてなんだろう。
この選択が間違っているはずはないのに・・。


しばらくぼーっとしていた時に、携帯のバイブが鳴った。
液晶画面を確認すれば、そこには「道明寺」の文字。
はっとする。

道明寺に気づかれる前に消えなきゃ。
そうしなきゃ、迷惑がかかっちゃう。
道明寺のお荷物になっちゃうよ。

早く、ここを出よう。


私は、準備を始めた。
頭の中で色々と考えを巡らせて行く。
仕事は、辞めるしかない。
とりあえずの生活は、貯金で・・
そう思って、貯金通帳を確認したけれど、まだ社会人一年目で、これから奨学金の返済もあるのに、出産の費用まで工面できそうにない。

あーあぁ。
せっかく大手の広告代理店に就職したのに、結局また、バイト生活に戻っちゃうな。私の人生って、なんだかんだでいつもあいつに振り回されている。だけど、それが嫌じゃないなんて・・

私ってば、どれだけお人好しなの?
違うか・・
どれだけ、道明寺のことが好きなんだろう・・

貯金通帳や印鑑、それからバッグに衣類を詰める。
ひとまずは、どこかへ隠れなきゃ。
出社しなければ、道明寺が探しに来るかも知れない。
それ以前にSPが付いてるんだっけ。
どうしよう・・。

引っ越しは昔からの慣れている。
ただ、どこに引っ越せばいいのかが分からない。
ホント、あいつってややこしい男なんだから!

自分勝手な男なのに、どうしてこんなに好きなんだろう。
私はどうしてあいつじゃなきゃダメなんだろう。

少しだけ自分に呆れつつ、私は部屋を出る準備をしていた。



***



牧野の携帯に連絡を入れるが出ねぇ。
電源は入っているはずなのに応答しねぇ。
あいつにはSPをつけている。
そのSPに連絡をすれば、あいつはマンションにいると言う。

あいつのマンションに行ったことは一度もなかった。
だが、今は、明日まで待ってなんかいられない。
直ぐに牧野に会いたかった。

リムジンでマンション前に到着し、直ぐにドアから飛び出した。
牧野は、この古臭いマンションの5階にいるらしい。
セキュリティーもへったくれもないマンション。
誰でも乗れるエレベーターは8階で止まっていた。
待ってられねぇよっ!
俺は、近くに階段を見つけて、二段飛ばしで駆け上がった。

5階フロアに到着して、少し息を整える。

リムジンの中でも考えていたが、牧野に言うべき言葉はまだ見つからない。
謝りたい訳じゃなかった。
ただ、あいつに会いたくて、抱きしめたくて仕方がない。

ゆっくりと近づいていく、503号室。
一度深く深呼吸をして、そのドアの脇にあった、ブザーを押した。



「はーい。」
と聞こえてきたのは、愛しい女の声。
俺が訪ねて来たとは思ってもないんだろうが、特に警戒はない。
もっと、警戒しろよ。
悪い男だったらどうするんだ。
事故にまであったんだから、もっとセキュリティーを強化しろよ。

本来言うべき言葉が見つからないのに、あいつへの文句ばかりが浮かんでくる。

流石に、いきなりドアは開かない。
「どちら様ですか?」
と問いかけられた。

「俺だ。」
「・・・。」

当然のように返事はない。
今更居留守も使えねぇっつーのに、本当にバカな奴だ。
ここまで来た俺が、無視されたぐらいで帰る訳ねぇだろ。

「牧野・・俺だ。開けろ。」
「何か、急用なの?」

急用かどうかなんて、関係ねぇだろ。
俺が来たんだ。
早く開けろってんだっ。

「牧野、このドア壊すぞ。いいのか?」
「それは困るっ!」

俺はやるったらやる男だ。
それが分かっているであろう牧野が、慌ててガチャガチャと鍵を回す音が聞こえた。
すげぇレトロなドアらしい。

ガチャッと音がして、牧野がそーっと顔を出した瞬間に、俺はドアを引きあけた。
その勢いで、牧野が俺の胸に飛び込んで来る。
俺はしっかりと彼女を受け止めた。

俺の腕の中に牧野がいる。
ほっとして、今までの緊張が少し緩んだ。
だが、今は、和んでる場合じゃねぇ。

やっと真実を掴んだ俺。
こいつが今でも俺のことを愛してると知っている。

俺が、今、こいつに伝えなきゃいけない言葉。
それは、やっぱ、これしかねぇ。


「俺は、お前が好きだ。今まで、一度も忘れたことなんてない。」


俺は牧野の右耳に、
再会したあの夜と同じ告白を囁いた。


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牧野は左耳に障害がある。

牧野がよく触っている左耳。
あれは、聞こえが悪いから?
あいつは左耳が感じやすいと思っていた。
それは、聞こえないから・・だからなのか?

俺は・・何てっ!


思いがけず知ったその事実によろめきそうになるのを必死に耐え、執務室に戻った。
ソファーにドカッと沈み込み、頭を抱える。

再会してから、もう2か月近くになる。
今まで何度も抱き合って、あいつに俺の気持ちを伝えてきたと思っていた。
あの左耳に囁けば、俺の気持ちが伝わると勘違いをして、何度も何度も囁いた。
それが、ほとんど伝わっていなかったということか。
そうなのか?

あいつを快楽に導いているつもりで、そうじゃなかった。
いや、そんなことじゃない。
2か月も一緒にいて、この事実にも気づいてやれなかったなんて・・。
俺は、何て馬鹿なんだ!
畜生っ!!


焦る。
俺は、強烈に焦ってる。
きっと俺が伝えたかったことは半分も伝わっていない。

そうだ、あの指輪。
あれはいったい何なんだ?
それを考えていたはずなのに、牧野に会った瞬間にそんなことはどうでもよくなったんだ。あいつの指から指輪を抜き取って、捨てた。

あの指輪はどこに行った?
俺はすくっと立ち上がり、巨大な窓に走り寄った。
指輪を叩きつけた窓ガラスには、一筋のうっすらとした傷が残っていた。
その傷をたどって視線を下ろしていくと、そこにはあの指輪が落ちていた。

牧野が持ち帰った訳じゃなかった。
なのに、この虚脱感。
あいつは大切にしているものを捨てるような奴じゃないのに。
これを持ち帰らなかったということは、この指輪はもう用無しだということなのか?

それでいいじゃないかと思いながらも、やはりだめだと思い直す。
牧野が大切にしているものだから、俺も大切にしてやりたい。
あいつに男なんていないことは、この2か月で分かっていたんだ。
だから、じっくりあいつの話を聞いてやるべきだったのに。
そうしなかったのは、俺だ。

俺はその指輪を拾い、じっと眺めた。
やはり懐かしい気持ちになるのは何故なんだ。

答えはすぐそこにありそうなのに、辿り着けないもどかしさ。

まずは、あいつの耳だ。
どうして、左耳が聞こえないんだ?
どうしてそれを俺に言わなかった?

俺は指輪をパンツのポケットにしまい、携帯電話を取り出した。

牧野のことを知っているとすれば、こいつしかいない。



***



メープルのラウンジに幼馴染を呼び出した。
類を呼び出したはずが、ほかの二人もついて来た。
どうやら、類が連絡したらしい。

「司、ずいぶん前に帰国してたんだろ?連絡位しろよ。」
「忙しいんだよ、俺は。」

「へぇ・・。毎晩、スイートに出入りしてるらしいじゃん?」
嫌味たっぷりに言うのは、総二郎。

「・・・。」
「結構、話題になってるぜ?知ってんのか?」
少し心配そうなのは、あきら。

道明寺司が毎晩メープルのスイートで女と密会している・・そんな噂が立っていることは知っていた。
だが、俺のプライベートに関してはマスコミに規制をかけているし、牧野のこともSPを使ってカバーしていたつもりだ。
あいつの情報が出ることはないだろう。


「相手・・牧野だよね。」
珍しく、時間に遅れることなく到着した類が、『牧野』という言葉を口にした。

この5年、俺たち4人の中で、『牧野』の言葉を出した奴はいなかったと言うのに。
だが、俺はその問いには答えなかった。
俺の方が聞きたいことが山ほどあるんだ。

「牧野って、今付き合ってる男いるのか?」

そう尋ねた俺に、怪訝そうな表情をする3人。

「牧野の男?」
「いねぇだろ、あいつ。」
「いないね。」

俺だってこの2か月で、あいつに男がいるとは思えなくなっていた。
だが、こいつらは、どうしてそう断言できる?

「お前ら、牧野とどれぐらい会ってんだよ。絶対って言えんのか?」
「一番会ってるのは、類だろ?俺は、半年に一度ぐらいだよ。」
「俺も。」

あきらと総二郎は半年に一度ぐらいの付き合いらしい。

「俺は、牧野と連絡は取ってるけど、この3ヶ月は音信不通。でも、それって、司が絡んでたんじゃなかったの?まぁ、俺は、牧野が幸せならそれでいいんだけどさ・・。」

こいつらによれば、やはり牧野に男なんていない。
じゃあ、あの指輪は一体・・・
それに、左耳はどうしたんだ?


「なぁ、類・・あいつの左手のリングって・・。」

そう切り出した俺に、類が少しだけ笑って視線を投げてくる。

「なんだ、司。やっぱり、牧野に会ってたんだ。あの指輪。気が付いた?懐かしいでしょ?。」
「懐かしい?」
「あれ?分からなかった?」

面白そうに類が言う。
総二郎とあきらも表情を崩した。

「やっぱ、司は牧野かよ。5年もたってんだ。他に女なんてたくさんいるだろうが。」
「俺も、今更、司が牧野に会ってるだなんて、俄かには信じられないな・・」


「「でもよ、愛だよなー。愛!!」」

「牧野の愛が報われたかと思うと、なんか感慨深いよな。」
「あの事故の時は、マジびびったから。」

総二郎とあきらが二人揃って騒ぎだす。
だが俺は、奴らの言葉に、心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けていた。


牧野の・・愛?
事・・故?


ガシャッ!!
思わず、スコッチが入ったグラスをテーブルに落とした。
低い位置だったから溢れはしなかったが、その音でその場が静まり返る。


牧野が事故にあった?
何だそれは?
いつ?
聞いてねぇ・・何も聞いてねぇぞ!

自分の手が、僅かに震えている。


「おい、司、お前、もしかして本当に知らないのか?」
「知ら・・ねぇ。」
「何だよ、俺らはてっきり・・」
「お前なら、牧野のこと、とっくに調べてると思ってた。」

調べたさ。
牧野の現状を。
広告代理店に就職し、男関係は特に見当たらないってことぐらいは。

他に、一体何が?
俺は・・何を見落としてるんだ?



類がふぅーっと息を吐いてから話し出した。

「牧野はさ。高校の時から、ずっと司のことが好きだったんだよね。司んちのおばさんに圧力かけられて別れたけど、忘れられなかったみたい。」

俺はじっとその話に耳を傾けていた。

「大学生になって東京に戻って来たんだ、牧野。俺は、時々会ってた。何度か、告白もしたけどさ、やっぱ司じゃなきゃダメみたいでさ。」

俺は類をギロリと睨んだ。
そんな俺を軽く笑って、類が話し続ける。

「あの土星のネックレス、覚えてる?」
「忘れる訳ねぇだろ。」
「あれ、牧野の宝物。」
「今は、もう持ってねぇよ。」

怖くて聞けなかったネックレスの行方。
俺は帰国後、一度もあのネックレスを見たことがなかった。

「牧野、一年前に事故にあったんだよ。」
「どういうことだ?」
「あいつ、いつもバイトを夜遅くまでしててさ。その帰りに男に襲われた。」
「っ!」
「レイプ目的じゃなかった。物盗りだった。牧野がいつも身に着けてた、あのネックレス狙いだったんだ。あいつ、司と別れてからもずっとあれしてたし、冬は洋服で隠れてたけど、夏は隠せてなかったから。本人も隠そうとしてなかったと思うけど。あれ、司が選んだダイヤとルビーでしょ?誰が見ても高級品だよね。あの土星の形は珍しいけどさ、あれだけふんだんに石を埋め込んでたら、売りさばこうって奴らに狙われても仕方がなかった。」

ガンッ!
俺はテーブルを殴りつけた。
俺が牧野に渡したプレゼントのせいで牧野が襲われた。
その事実にやり場のない怒りが沸騰する。
犯人を絶対に許すことはできない。

「もみ合った挙句に、チェーンが切れて、その男にネックレスを奪われた。相手がナイフとか凶器を持ってなくて良かったんだ。それなのに、牧野は犯人を追いかけて。あいつ、足が速いんだよね。犯人に追いついて、また取っ組み合い。そのまま、大通りに飛び出して、車に引かれた。」

「フロントガラスに全身強打して、意識不明だったんだぜ。」
「でも、手にはしっかりネックレスのチェーンを握ってた。」
「実際には、トップの土星も事故の衝撃で壊れてたけどね。残ったのは、はめ込まれたダイヤが7つ。これ、意味分かる?司。」


聞いてねぇ。
いや、あいつがそんなことは言う訳がねぇのに。
俺が贈ったネックレスのせいで襲われた何て言える筈がない。
俺は一体何を調べてたんだ。
あいつの現在ばかりを知りたがり、俺と離れていた5年間を知ろうとしなかった。
だから、この事故が報告されなかったんだ。

両手の震えを止められない。


「あいつの・・耳・・。」
「あ、それは気づいたんだ。あいつ、結構隠してるみたいだけど、仕事では迷惑かかるからって職場には報告してるらしいね。」

いや、俺は、気づいてなんかいなかった。
あいつの指輪に気を取られて。
あいつの5年間を振り返ってやることもしないで。
過去よりもあいつとの未来を掴もうと必死になっていた。
俺の知らないあいつの5年を知りたくないと切り捨てたから・・だから、俺は気づけなかったんだ。

「事故で左側の耳小骨を損傷した。全く聞こえない訳じゃないけど、かなり聞こえにくいらしい。」


「ねぇ司、牧野のリングだけど・・」
「類・・もう分かった。」

俺は、立ち上がった。

「「「司・・」」」

3人が俺に話しかけようとしたが、それを制して店を飛び出す。


今すぐに会わなきゃならないんだ。
俺は・・・牧野つくしに。


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いつもたくさんの応援をありがとうございます。
謎は解けましたかね??
週末は多忙なため、続きは月曜日になります。
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俺は、やはり狂っているのかも知れない。
近くにいれば、もっと近くにいきたくなる。
いつもあいつの声が聞きたくて堪らなくなる。
手が触れる距離にいないと不安で仕方なくなる。

そして、あいつを追い詰めているつもりが、追い詰められているのは自分の方だと気付かされる。



「この後、9時から3社ほど面談がございます。その後は、書類に目を通して頂き、12時よりメープルで松田社長との会食。一度帰社して頂いた後、17時より役員級会議です。」
「16時に牧野を呼べ。」
「は?」
「牧野を部屋に呼んでおけ。」
「しかし、今回は広報の仕事は・・」
「呼べと言ったら、呼べよ。16時には俺の部屋に来させろ。1分たりとも遅れは許さない。」
「はっ、はいっ。」

俺の凄みに驚く秘書。
だが、もっと驚いているのは俺自身だ。
自分の欲望を抑えることができない。

この2日間、俺は牧野に会っていなかった。
九州出張から戻り、滞っていた執務に時間を取られた。
昨日の夜、牧野をメープルへ呼び出すつもりが、全く時間が取れなかった。
夜中に会社に呼び出すこともできたが、それはしなかった。
二人の間で、暗黙の了解があるように感じる。
俺たちが会うのは、夜、メープルのスイートで・・と。

だが、今日はもう限界だった。
2日会えなければ耐えられない。
今晩だって、会えるかどうかは分からない。
メディア関係の仕事が無ければ、おいそれと牧野を呼び出せないことなんて分かっている。
けれど、今夜も会えなければ、あいつがどこかに行っちまうかもしれない。
俺は気が狂いそうだった。


12時の会食が思ったよりも長引いたが、14時半には執務室に戻った。
16時になれば牧野に会える。
16時を指定したのは、17時に会議があるからだ。
1時間だけの逢瀬。
リミットを決めておかなければ、ズルズルと牧野に飲み込まれて、俺は仕事もこなせない堕落した人間になっちまう。
欲望のままに生きてみたい。
だが、それをすれば、あいつを捕まえられないことも分かっていた。

1時間で充電する。
そう気合いを入れ直し、山積みにされた書類に向かった。

牧野に会えると思えば、猛スピードで仕事のが進む。
16時前には積み上がった書類がなくなった。
仕事がなくなれば、嫌でも考える時間ができちまう。

早く、牧野に会いてぇ。
そもそも、なんでこんなコソコソした関係になってんだ。
なんで、俺たちはこそこそとメープルで会わなきゃならない?
それに、あいつには、本当に男なんているのか?
あいつからはそんな雰囲気は微塵も感じられないし、事実そんな報告も上がっていない。

だいたい、なんで俺は、あいつに男がいると思ってんだ。
そう考え直す。
そうだ、あのダイヤの指輪だ。
あれを嵌めているくせに俺を拒否しない牧野。
冷静になれば、真面目な牧野が二股なんてあり得ない。
じゃあ、何で?

俺は、何かを見落としてる・・・
それは・・何だ?




____コンコンコン
もう少しで何かを閃きそうだと思った時に、ノックの音。
我に返ると、16時ジャストになっていた。

「牧野です。」

そう前置きをして、牧野が執務室へ入って来た。
牧野の姿を見たとたん、俺の意識は完全に牧野に囚われる。
今まで抱いていた疑問も完全に吹っ飛ぶ。
考えなければならないことを考える余裕も無くなった。

「御用でしょうか?」

そんなつれない牧野の態度を崩したくなる。
御用かどうかなんて愚問だろ?
俺はお前に会いたかっただけだ。
2日会ってねぇ。
2日抱いてねぇんだ。
くそっ!分かれよっ!

ドアの前から動こうとしない牧野。
その牧野に近づいていく俺。

「それ以外に言う事ねぇの?」
「勤務中でしょ?」
「だから何だよ。」

「きゃっ、ちょっとっ!」

牧野の腕を引き寄せ、その華奢な体を抱きしめた。
目を閉じて、彼女の香りを堪能する。
そんな俺を引きはがそうとする、冷たい牧野。
ベッドの上ではあんなに乱れるくせに、ここでは知らんぷりなんだな。
一体どれが本当のお前なんだ?

「お疲れ様とか、何とか言えよ。」

そう呟いた俺に、急に心配そうに牧野が言う。

「どうしたの?疲れてるの?大丈夫?」

「大丈夫じゃない。」

「本当にどうかしたの?」
「なぁ。俺、もう限界かも。」
「何が?どうしたの?」

先ほどよりも格段に優しい牧野の声。
俺を心配してくれている、大きな瞳。
俺のことを本気で心配してくれる女なんて、こいつしかいねぇのに。
ああ、どうして俺が欲しい唯一のものは、俺の手に入らないのか。
なんで、お前は指輪を外さないんだ。
なぁ、俺が贈ったネックレスはどこに行った?
どうして、お前は俺のもんじゃないんだよっ!

彼女に再会し、新しい彼女を知る度に、ますます彼女に惹かれていく。
綺麗になった女が作る懐かしい笑顔も、その甘美な体も、何もかもに。
全てを俺のものにしたいのに、手に入らない。
___このままじゃダメだ。


俺は牧野の体を離して、彼女の瞳を覗き込んだ。

「お前が欲しい。」

驚いたような彼女の表情。
大きな瞳をさらに大きく見開いている。
何でだよ。
何度も言ってんだろ?
愛してる。だから、俺のものになれって。

「道明寺・・それって・・・」

何度も伝えていた言葉なのに、牧野は、今初めて聞いたかのように戸惑っている。

「俺は、もう待てない。」
「待てないって・・何を言ってるの?・・やっ。ちょっと待ってっ!」

俺は、牧野の左手から、ダイヤの指輪を抜き取った。
そして、それを窓ガラスに叩きつける。

ガチッという音とともに、指輪は絨毯へと落ちていった。
その指輪を拾おうと牧野が駆け出していく。

が、そうはさせない。

彼女の腕をつかみ、革張りのソファーへ押し倒した。

そのまま牧野の上にのしかかり、その唇に食らい付く。
髪を振り乱して抵抗するこいつを開放してやるほどの余裕は、この時の俺には無かった。

指輪は捨てた。
牧野が大切にしていた指輪を捨てた。
だからと言って、牧野の心が俺のところに戻ってくる保証なんてどこにもないのに。
だったら、こいつの体を縛るしかない。
そうするしか、俺には道が残されていない。

スカートの中に手を差し入れ、ストッキングとショーツを一気に下ろした。
騒ぎ出す前に唇はキスで塞いでいる。
片手で、牧野の花芯を刺激する。
抵抗していた牧野が俺のジャケットをギュッと握りしめた。

感じてるんだろ?
それなら、このまま俺のもんになれよ。

牧野の中に指を沈め、的確に牧野の弱点を攻めていく。
俺のジャケットを握った手に更に力が込められて、牧野の中がヒクヒクと痙攣した。
全身の力が抜けた牧野から、ゆっくりと体を離していくと、牧野が呆然と俺を見つめていた。
その表情はとても悲しそうで、俺は自分がしたこの行為が正しいことなのか、それとも間違ったことなのか分からなくなり、それまで抱いていた僅かな自信さえもが崩れていくのを感じていた。



***



役員級会議は19時に終了した。
執務室にいるはずの牧野にすぐに会いに行こうとした俺に、秘書が言った。

「牧野さんは、あれからすぐに広報へ戻られました。」
「はっ?あいつを部屋から出すなと言っただろっ!」
「ですが、ご本人が戻ると・・」

牧野の具合が悪いから、俺が戻るまで必ず執務室で休ませておけと言い付けていたのに、こいつら全く使えねぇ。

「すぐに呼び戻せ。」
「今日は、もう帰宅されました。顔色が悪かったので、広報の部長に連絡を入れまして・・」
「勝手なことすんなっ!」
「申し訳ございませんっ!」

あのまま、牧野を帰してしまった。
後悔ばかりが押し寄せてくる。

「しかし、さすがは専務ですね。優秀なご友人をお持ちです。牧野さんはとても飲み込みが早いと、広報部長もおっしゃっていました。あの左耳の障害がなければ、外部の業務もこなして欲しいのにと残念に思われていて・・」

・・・・。
今・・・なんて?
左耳の・・・障害?

スルーしそうになった秘書の言葉が、頭の中を占拠する。

「牧野さんは左耳の聞こえが悪いそうですね。なので、不手際があっては困るからと、外回りの仕事は控えたいとのことで。今は、内勤と専務のPR活動のみに専念してもらっているそうです。」


それからもペラペラと話す秘書の言葉なんて、何一つ耳に入ってこなかった。

左耳に障害?
俺は・・・何も知らねぇ。

首筋に冷たい汗が流れた。


俺が見落としていたもの・・・
それは、このことだったのか?


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私が道明寺ホールディングスに移籍して1か月以上が過ぎた。

初めて出社した日から、私と道明寺との関係は続いている。
勝手に調べたらしい私の携帯番号に連絡が入り、メープルで落ち合う。
私にSPを付けるというのは冗談じゃなかった。
一応は配慮したのか、小さめの、だけど誰が見ても高級だとわかる車が迎えに来て、ホテルの地下駐車場からはスイート階直通のエレベーターに乗せられる。
誰にも見られていない・・言わば、秘密の関係。

会えば、当然体の関係になる。
仕事の会話なんて少しだけ、後はひたすらに抱き合う。
初めての時とは違って、優しく抱かれていると思う。
だけど、私は道明寺の熱を受け止めるので精一杯で、あいつが何を考えているのかは全く分かっていなかった。ううん。分かろうとしていなかったのかな。

初めこそ、明け方には帰ろうとベッドを出ていたけど、今では腕一本で引きとめられて、朝まで一緒に過ごすようになった。

「もう1ラウンドするのと、このまま俺の腕の中で眠るのとどっちがいい?」

心地よいバリトンヴォイスが、右耳に聞こえる。
なのにそう囁く道明寺は、とても意地悪な顔をしていた。
それって、どっちにしても帰さないってことだよね。
それなら・・
私は、ゆっくりと道明寺に背を向けて、それから瞳を閉じる。
道明寺は安心したように、私を両腕で抱え込んで眠りに就くんだ。


あいつは、私の愛人になったなんて言ってるけど、それってどういうことなのかさっぱり分からない。
私も道明寺も結婚している訳じゃない。
どこかの令嬢との婚約という話も、事実ではなかった。
広報部も噂話に踊らされていたとして、厳重注意を受けた。
だから、私たちは、後ろめたいことをしているって訳じゃない。
だけど、この関係は何と言えばいいの?

道明寺は私のことを、大切ににしてくれている。
それは肌で感じられる。
憎しみだけではない、彼からの愛情。
でも、どうして?
私たちは、これからもどうなるの?

道明寺は将来のことを何も語ってくれない。
この関係はいつまで続くのか。
この関係がいつ終わるのか。
どうして、こんな関係になったのか。


22歳になって、初めて知った行為。
道明寺は私の体を知り尽くしてしまった。
的確に私の感じやすいスポットを突いてきて、私を絶頂まで導く。
あれ程痛かった行為なのに、今ではもっとして欲しいと思うなんてなんて、私はどうかしてるのかも。
だけど、いつの間にか、道明寺がいないと安心して眠れないほどに、彼に溺れるようになっていった。

「俺とお前、完璧に相性がいいな。もう、俺なしじゃダメだろ?」

そんな風にまた意地悪を言う。
右耳に聞こえてくるのは、彼からの皮肉ばかり。
一体何が言いたいのよ。
私をこんな体にしてどうしたいの?


それから、道明寺に言わせると、私は左耳が感じやすいらしい。
だけど、私は言わなかった。
左耳は聞こえにくいんだということを。
聞こえが悪い分、とても敏感なんだということを。

道明寺が私の左耳を攻める。
抱き合っている時はいつも左耳に何かを囁く。
彼が達する時にも、左耳に何かが聞こえてくる。

左耳に囁かれる言葉は、上手く聞こえない。
それが、愛なのか、憎しみなのか、何なのか。
だけど、こうして優しく抱かれていると、そんなことはどうでもよくなるんだ。
左耳に囁かれる言葉が何であれ、今、道明寺と一緒にいることが、私の幸せだから。





私は道明寺ホールディングスの広報部で、道明寺司のPRを受け持っている。
私のために用意された仕事。
会社のHP内での道明寺司の自己紹介から始まり、道明寺個人のメディア対応も私の仕事になった。
道明寺自身はマスコミ嫌いで、マスコミへの露出は必要最小限に制限していたから、広報はなかなか道明寺司のPRに動くことができず、これまで苦労していたんだそう。
だから、私が入ってきて、仕事がやり易くなったと喜ばれた。
私はというと、道明寺が行うマスコミ会見や、雑誌の取材など、全てのPR活動を調整し、それらに随行するようになり、必然的に道明寺と一緒にいる時間が増えていった。

そうしているうちに分かってきたことがある。
道明寺がこの5年間で築き上げた地位や名声。
これからも、ますます羽ばたいていくであろう未来。

あぁ、もう本当に、あの頃の、高校生の道明寺じゃないんだね。
世界の道明寺司と言っても、過言ではないね。

それなのに、道明寺は私に何を期待しているんだろう。
道明寺は、「私次第」だと言っていた。
私次第って、何だろう?

『私次第』の意味。
私があんたのことを愛してるって言ったら、どうするっていうの?



5年前の雨の日に、私たちが別れなければならなかった理由。
それは、今も解決なんてしていない。
私は、道明寺にとって、プラスになる人間じゃない。
道明寺グループにとって、役に立つ人間じゃない。
なのに、私たちは、今、何故一緒ににいるんだろう。

先が見えない不安はあの頃と同じなのに・・。

あの頃と変わったこと。
それは、表立った妨害がないことだった。
私と道明寺が密会することを誰にも咎められなかった。

道明寺は、私にとって、今も昔も、ずっと大切な人。
ずっと好きな人。
だけど、いつまでたっても、私たちの住む世界は違うんだね。
私たちは一緒にはなれない。
例え、二人のが愛し合ったとしてもそれは認めなれない。
だから言えないよ。
愛してるだなんて。
伝えてしまえば、別れが辛くなる。

私次第でいいというのなら、
いつか別れる日が来るとしても、それまでの日々を大切にしたい・・本当にそう思った。



***



俺たちは、メープルで逢瀬を重ねている。
あいつの左手にはまだ、あのリングが嵌ったままだ。

この1か月、牧野が俺以外の男と会った様子はない。
SPからの報告もない。
当然、類とも会っていない。

一体、あのリングは何なんだ?
そして、俺はどうしてあのリングに拘る?
無理やりに引き抜いてしまうこともできるのに、そうしないでいるのは何故なんだ。

牧野が、愛おしそうにそのリングを見つめるから。
それほどに大切なものだと分かるから。
そんな牧野の姿が、余計に愛おしくなるから。


俺は、牧野が左手で髪をかきあげて、左耳に掛ける仕草が好きだ。
綺麗なうなじが見える様子が凄くいい。
だが、その手には、あのダイヤのリングが収まっている。

だから、いつもその左手を握りこんでしまうんだ。
あいつを抱く時には、左手を握り、左耳に囁く。

「愛してる。だから、俺のものになれ。」


あいつを抱けば抱くほど、夢中になる。
一晩でも一緒にいられなければ気が狂いそうだ。
その一晩に他の男に取られるかもしれない。
だから、俺は、毎晩のように牧野をメープルに誘い出すようになっていった。


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たくさんの励ましをありがとうございました。
すっかり元気になっています。健康って本当に大切ですね・・。
Eternalは、このまま一気に書きたいですが・・いけるかな?
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