花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

讃美歌が響く教会の中で、二人はじっと祈りを捧げていた。
これは、ここ数年ずっとつくしが続けていることで、この日は司もできるだけ休みをとっていた。
本来クリスマスイブは夕方から夜のミサが一般的であるが、この教会はイブの午前中にもミサがある。
その午前中のミサに二人は参列していた。

讃美歌が終わり、主の祈りの間も、じっと教会の固い椅子に座っていた。
つくしは、自分の給料から、この教会へ寄付を行っていた。
道明寺夫人である彼女には、彼女が働かなくとも有り余るほどに自由になるお金はあるのだが、彼女は自分の働いたお金の中から寄付をするということに拘っていた。
かつて司が自分の個人口座から彼女を援助したように、彼女も自分の働いた分の給料が振り込まれる口座から、毎月教会へ寄付を送っていた。
この教会は、「学びたい者への支援」を行っている。
寄付金は学びたい者のために使われる。
もちろん、寄付を受けるには、意欲とそれまでの過程も考慮されるのだが、彼女はとてもその理念が好きだった。
今年もこのクリスマスイブの午前中に、この教会から支援を受け夢を実現した者、まだ努力を続けている者、これからの道を模索している者が集まり、司祭の祈りを聞いていた。
教会からの支援で巣立っていった者たちが、将来教会に寄付をすることで、この支援は続けられているのだった。
つくしは、かつて司から支援を受けた。つくしが大学に進学し、夢をつかむことができたのは司のおかげだ。けれど、その恩を返すことはできなかった。もちろん、司がそんなことは望まないことは明らかだった。彼にとっては、彼女を支援することは自分の夢につながった訳だから、別に恩など感じてもらう必要もない。何より彼は、彼女が自分の隣にいてくれさえすれば、それ以上は何も望まなかった。教会への寄付は、彼女にとっては恩返しのようなものだった。


全ての祈りが終わり、閉祭の歌を口ずさみ、司祭を見送る。
そして二人も立ち上がった。その時に、
「つくしさん。」
と声がかかった。振り返ると、白髪の女性がニコニコと笑っている。
「今日のお茶会には参加されないのよね。残念だわ。」
年に2度ほど行われる、お茶会は毎年このクリスマスイブと6月の1週目の日曜日と決まっていた。
つくしはこのイブのお茶会には毎年出席していなかった。何故なら、隣の男性がそれを許さなかったから。
「これから夕方までは主人とデートなんです。」
「毎年、毎年、仲良しなことね。」
つくしはほんのりと頬を染めて、隣の男性を見上げると、彼も嬉しそうな笑みを返す。
それから、二人は婦人に挨拶を告げ、教会を後にした。




「ニューヨークに来て、もう何年になるかな?」
二人手をつなぎ、教会近くの公園を歩きながら、つくしが言う。
「ボケたのか?10年だ。」
「即答ね。」
「俺がこっちに来てから、15年。お前が来てから10年だな。」

つくしがニューヨークに来てから、10年が過ぎていた。
海外旅行もしたことのなかったつくしにとっては、すべてが初めてのことだらけ。
何も準備しなくていいと言われ、本当に身一つで渡米したことを思い出す。

「ねぇ、あの時の司。恐かったよね。」
「何がだよ。」
「初めてお屋敷に入った時。」

10年前、司が準備した民間機のファーストクラスで、つくしは初めてのニューヨークに降り立った。空港まで迎えに来ていた司と手をつなぎ、ニューヨークの道明寺邸に足を踏み入れた時のこと。
司の母・楓が玄関で二人を出迎えたのだ。
「牧野さんには、明日から私の秘書を務めてもらいます。」と楓が挨拶もなく告げた時に、司の怒りが爆発した。「ふざけんなっ。牧野は俺の下に就かせる。」と怒りを露にした司に、楓が言った。
「あら、そう。それでは、牧野さんとの結婚は遠のくわね。あなたの下では、ビジネスの基本を知るのに時間がかかってしまうものね。」
楓は、道明寺家につくしを迎え入れるために、つくしにそれなりの教育を施すつもりだったのだ。もちろん淑女としてのマナーも、それから、ビジネスの基本も。それを感じたつくしはすぐにその申し出を承諾したのだが、機嫌が悪くなった司は納得しなかった。最後にはなんとかつくしになだめられて、入籍前ではあるが二人が屋敷の同室で暮らすことを条件に、つくしが楓の秘書になることを了承したのだった。

つくしはその後2年間、楓の第三秘書を務めた。海外出張にも付き添い、ビジネスの基本を学んだ。邸ではマナーを学び、目まぐるしい2年間だった。それは司も同様で、一緒の部屋に住んでいながらも、会えるのは月に数日をいうようなこともザラだった。そんな彼らを繋いでいたのはやはりメール。つくしは、「おはよう」「おやすみなさい」は必ず携帯にメールを送っていた。司は、つくしがニューヨークにいてくれるだけで舞い上がるような気持ちで、力がみなぎり、どんな苦労も耐えられた。
初めの1年は、互いに多忙で会う時間が少なくても、それ以前の5年間は全く会えなかったことを考えれば文句もなかった。けれど、彼女の温もりを知り、彼女の隣にいる幸せを知ってしまうと、司はだんだんとその生活に不満を募らせるようになった。
いつまで、彼女は楓の秘書をしているのか。いつになったら正式に、道明寺司の妻として彼女を迎えることができるのか。彼女が夢見る幸福な家族というものが、まったく現実として捉えられていなかった。多忙な道明寺家の実状を知り、彼女の気持ちが揺らいでしまうのではないかと心底焦りを感じた。彼女を幸せにしたい、そして自分もその幸せの中に入りたいと思うのに、どちらかと言えば、道明寺のビジネスに彼女を巻き込んでいるのではないか。彼女は嫌気がさしてはいないだろうか。司は彼女の気持ちを確かめておかなければと思うものの、なかなかそのタイミングがつかめずにいた。

「あのメールは忘れらんねぇ。」
「また言う~。」
「ビビるに決まってんだろうがっ。」
「今だから言うけど、あれ、お母さまが言い出したのよ。」
「はぁ?マジかよ。」
はぁ~とため息をつき、右手で顔半分を覆う司。それを見てクツクツと笑うつくし。

つくしは今でも時々、彼女の「あしながおじさん」にメールを送っている。以前に比べて二人の生活は穏やかになり、メールに託さずとも会話が十分にできる今になっても、それは続いていた。彼女は、何か不安がある時や、恥ずかしくて言葉には言い表せない気持ちとか愛情とか、そういったものを書く時に「あしながおじさん」にメールを書いていた。そのメールは司のパソコンへ転送されるのだ。つくしにとって「あしながおじさん」はいつまでたっても、頼りになる男性だったのだ。例え目の前に本人がいたとしても。

彼女がニューヨークへ来て、2年目のクリスマスイブ。
彼女から、あしながおじさんあてにメールが来た。当時は、悩みの相談や、自分に気合を入れたいときなどに彼女はよくあしながおじさんへメールを出していたのだが、その日のメールに司は驚愕した。

『おじ様へ
おつきあいをしている彼が、プロポーズをしてくれないんです。どうしてだと思いますか?』


そこからの司の行動は早かった。それからすぐに結婚指輪を買い求め、そのまま入籍したのだ。披露宴は準備が必要だったから、翌春に盛大に催された。結婚式後は、つくしは楓の秘書は辞めることになった。何故なら・・・

「あの結婚式。今思い出しても、よく頑張ったと思うのよね。」
「あれは酷かったな。」
「あんたが言うな!」

結婚式と披露宴はニューヨークメープルで行われた。けれど、披露宴中、何度も新婦が退席するという緊急事態。いや、つくしだとて、2時間程度であれば、頑張れただろうが、来賓の挨拶だけですでに2時間が経過していたのだ。そこから、さらに2時間の歓談時間が設けられていた。歓談の時間になるとすぐにつくしは退席し、レストルームへ駆け込んだ。ウエディングドレス姿のまま、トイレにしゃがみ込む新婦などいるだろうか。周りの者たちは、オロオロしながらも必死に彼女を支えた。「頑張ってください。あと2時間です。」
司は心配しながらも、自分までもが中座する訳にもいかず、じっと雛壇に腰を落ち着けていた。すると、会場から、母・楓が姿を消すのが分かった。

「あの時、お義母様に言われた言葉、忘れられない。」

『つくしさん、頑張ってちょうだい。司の子を宿しているのなら、耐えられます。』
その言葉の意味は未だに謎だ。けれど、つわりぐらいなんとかしのげという意味ではなかったはず。司の子供を妊娠しているということは、お腹の中には道明寺のDNAが引き継がれているということ。ひいては、お義母様のDNAも引き継がれているという意味だったのだろうか。

結婚式の1週間前になり、食欲不振や気分不良が続いた。初めは緊張かと思っていたが、妊娠だったのだ。司は、こんなに具合が悪いなら結婚式は延期すると騒いだが、すでに1千人の招待客を迎え入れる準備が整っていた。
つくしは、弱い女ではない。『牧野つくし』の時だって、底力のある女だった。だから、つわりに苦しみながらもなんとか、長い長い披露宴に耐えた。その後は、初夜どころではなかったことは、今となっては笑い話だ。



「なぁ、つくし、幸せか?」
突然司がそんなことを言う。
幸せでなかったら、何なのだろうか?幸せでないはずなどない。
「当たり前でしょう?だって、あたしの夢、叶ったんだもんね。」
それは彼女の家族が、いつも笑っていられる未来。
「司は幸せじゃないの?」
「いや、幸せだ。」
「これから、もっともっと幸せなことがあるよ。きっと。」
彼女がそう言うのならば、きっとそうなのだろう。
けれど、彼は今この瞬間、彼女が隣にいるという事実より他に、望む未来などなかった。
「俺はもう十分幸せだ。」
「ふふふ。あたしが、もっと幸せにしてあげるから・・」
つくしは少しだけ背伸びをして、司にチュッとキスをした。

それから、二人は仲良くリムジンへと乗り込み、ランチへと向かう。
米国で二人の仲睦まじい姿は多く目撃されており、鴛鴦夫婦として有名となっていた。



*****


「「お父さん、お母さん、おかえりなさーい!!」」
夕方、屋敷に帰った二人は、自分たちの私室ではなく、両親の居室へ足を運んだ。

「ただいま~。いい子にしていた?お爺様やお婆様に迷惑はかけてない?」
つくしに纏わりつくのは、7歳と5歳になる息子たち。
その姿を隣で見て、司は呆れ顔だ。

「あら、二人とも早かったのね。もっとゆっくりしてきたら良かったのに。」
「そうだぞ。私たちも孫と遊びたいんだからな。」
残念そうな、楓と保。
「やだ、そんなつもりじゃ。十分ゆっくりしてきたんです。ね?司。」
「いや、俺は久しぶりに二人きりのクリスマスでも良かったけど。」
「だめ!クリスマスイブは皆で過ごすんだからね!」
と張り切るつくしに、その場の皆が苦笑い。

「あっ、プレゼント交換は夕食が終わってからですからね。お義父様、まだ二人に渡していないですよね?」
「あぁ、去年はそれでつくしさんに怒られたからね。今年は気を付けているよ。」
「誰に何が当たるか分からないのが楽しいんですからね。プレゼントは一人一つだけ用意してくださいね?」
「ハイハイ。」
道明寺財閥の総帥である道明寺保は、どうやら嫁のつくしのいいなりらしい。
そんな保の姿をみて、楓は苦笑いをしている。

つくしが道明寺家に来てから、唯一、このクリスマスイブの夜は、必ず家族が一緒に過ごす日と決まった。しかし、皆多忙であるため、なかなか全員がそろうということは難しかったのだが、今年のクリスマスは皆がそろった。


たくさんの笑顔が溢れる家族との生活。
これがつくしの描いていた夢。
そして、司の欲しかった未来。
司が渡米してからすでに15年。
18歳の彼が求めていたものが、今、ここにあった。



*****


家族のパーティーを終えて、つくしが子供たちを寝かしつけている間に、司は書斎でメールの確認をしていた。
すると、一つ転送されてきていたメールに気が付いた。
題名は「あしながおじさんへ」となっていて、つくしがおじ様あてに書いたものだ。

少し緊張しながらメールを開く。
この幸せなクリスマスイブに、彼女は何を送ってくれたのか?


『おじ様へ。
長いもので、おじ様とのメールのやり取りが始まってから14年が経ちます。
おじ様のおかげで、私は夢が叶い、幸せな毎日を過ごしています。
今日は、おじ様に大事なお話があります。

大学生の頃、おじ様がメールで〈かつて後悔したことがある〉と書かれていたことを、今になって思い出したんです。
それは、高校生の時の別れのことですよね?
でも、私は思うんです。
あの時の別れがなければ、私たちは今こうしていないのではないかって。
私は、道明寺司という男性を愛しています。
そして、おじ様に感謝をしています。
おじ様はずっと私の心の支えでした。
それはニューヨークに来てからも同じだったと思います。
けれど、やっぱり、今更気が付いたんです。
その二人は分けちゃいけなかったんだって・・・
だって、「あしながおじさん」はおじ様の後悔が作り出した人物なんですものね。
私はおじ様にもう後悔なんて感じて欲しくありません。
私の愛する旦那様にも後悔なんてして欲しくありません。
それに私は、今までに一度も後悔なんてしていないんです。
だから、これから先、どんなにつらいことがあったとしても、私はもうおじ様にメールは書きません。
私が頼るべき人は、夫である道明寺司だから。
これからもずっと二人で歩んでいくのだから。
私はこれから先にどんなに苦労をしたとしても、彼に後悔なんてさせないつもりです。
ですから・・・おじ様の後悔が作り出したあしながおじさんは、もう、終わりにしましょう。

10年たって、やっと決心がつきました。
私、あしながおじさんから卒業します。
これからは愛する夫である、道明寺司だけを見つめていきます。
おじ様、今まで本当にありがとうございました。
つくし    』



メールを読んだ司は書斎を飛び出した。
そして家族のリビングに向かう。
そこには、二人分のハーブティーを用意しているつくしの姿。
走り込んできた司につくしが驚く。
「司、どうしたの?」
そう言って立ち上がったつくしを、司がきつく抱きしめた。

「つくし・・ありがとう。」
そう言った彼は涙声。
そう、彼はずっと後悔していた。
何も告げることができずに彼女と別れ、5年間独りぼっちにしてしまったこと。
それからもニューヨークでの生活は、つくしにとっては苦労の連続だったはずだ。
「あしながおじさん」が、実は今でもつくしの心の支えになっていることに、小さな嫉妬もあった。それでもそうなってしまったのは自分の責任であったし、今彼女が幸せだと言うのならばそれでいいと思ってはいたのだ。それなのに・・。

「ありがとう・・つくし。」
「司・・ごめんね。あたし。何にも分かってなかったよね。気が付くのが遅くて、本当にごめんね。」
「いや。そうじゃない。つくし・・・俺も、愛してる。」
俺を愛してくれてありがとう。
傍にいてくれてありがとう。
後悔はないと言ってくれてありがとう。
そう伝えたいのだけれど、彼は溢れる想いで胸がいっぱいで言葉にできなかった。


「あのね。」
とつくしが大きな目を輝かせて司に向かって話しだした。
「すごく伝えたいことがあってね。今までは、すぐにあしながおじさんにメールしちゃってたんだけどね。でも、気が付いたの。そうじゃないよね。あたしの夫は道明寺司なんだから。はずかしいことも、うれしいことも、悲しいことも、全部司に伝えなくっちゃね。」
へへへと笑うつくし。
何を言いたいのかよくわからない司は、首をかしげる。


「あたし、妊娠しているみたい。」
今度は司の瞳が大きく開き、これ以上ない輝きを見せた。
司はそっとつくしを抱きしめなおし、二人は溢れる幸せを分かち合った。




司の後悔が作り出したDaddy-Long-Legsはつくしの中で昇華して、二人の中で想い出になった。
これから二人は、ずっとずっと寄り添って、長い人生を歩んでいく。

Good-by Daddy,
Thank you so much.


Fin.



 

にほんブログ村
これにて完結です。
沢山の応援に感謝!です。
本当にありがとうございました。
関連記事
スポンサーサイト

  1. My Daddy-Long-Legs(完)
  2. / comment:7
  3. [ edit ]

管理人のみ閲覧できます

  1. 2016/12/19(月) 00:06:01 |
  2. |
  3. [ edit ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

ありがとうございました(*^^*)

  1. 2016/12/18(日) 21:19:44 |
  2. URL |
  3. Happyending
  4. [ edit ]
沢山の拍手、それからコメント・拍手コメント、本当にありがとうございます。

温かいコメントに涙でました。
こちらこそ本当にありがとうございます。
書いてよかった・・と思います。

このエピローグ、長かったですよね~。
迷ったのですが、下手に削るよりは、このままで・・と思って、長文のまま投稿してしまいました。


このお話はここで終了し、次回は理想の恋人の続編(番外編)になります。
もしかしたら、何か書きたいなと思った時に、番外編を書くかもしれませんが、今は書ききった感がいっぱいで、頭に何も浮かびません(笑)。
あの再会の日の夜・・とか、気にはなるんですけどね。

今から、あとがきもアップします。
また明日も、是非お立ち寄りください。

管理人のみ閲覧できます

  1. 2016/12/18(日) 13:40:58 |
  2. |
  3. [ edit ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

  1. 2016/12/18(日) 10:49:29 |
  2. |
  3. [ edit ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

  1. 2016/12/18(日) 09:39:51 |
  2. |
  3. [ edit ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

  1. 2016/12/18(日) 05:47:57 |
  2. |
  3. [ edit ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

  1. 2016/12/18(日) 05:22:07 |
  2. |
  3. [ edit ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

 管理者にだけ表示を許可する
 
 

プロフィール

Author:Happyending
ときどき浮かぶ妄想を書き留めたくて始めました。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR

« 2017 10  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -