花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

「司さん」はいつも金曜日は22時頃に来店する。
そして、いつも同じ個室に入って、ウイスキーを飲む。
あたしはマスターの指示通りに、ウイスキーボトルとグラスを運んで、彼の前でグラスにウイスキーをダブルで注ぐ。
それから、チェイサー(ストレートでウイスキーを飲む時に一緒に出す口直しの水)を用意する。
時々、マスターが「持って行って」というチーズやハムなんかを持っていくけれど、司さんが自分で注文することはない。
だから、声はあまり聞いたことがないんだ。
ちょっとミステリアスでしょ?


1月に入った頃から、金曜日か土曜日の夜に見かけるようになった。
あたしの勤務していない日にも来ているのかも知れないけど、あたしの知る限りでは金曜日か土曜日かな。
今日で見かけるのは4回目。

司さんは注文なんかしていないのに、マスターがお酒もおつまみも超特急で用意する。
たぶん、すごいVIPなんだと思う。
マスターとはどんな知り合いなんだろう。
司さんが入る個室は、どうやらいつも司さんのためにキープされているらしく、今年に入ってから、他のお客様が入るのを見たことはない。
いったい、何者なのかしらね、司さんって。

ちょっとだけ気になって、少し前にマスターに聞いてみたんだけど、
「あれ?つくしちゃんは知らなかった?ははは。それじゃあ、トップシークレットだ。」
と笑われてしまった。

マスターはあたしのことを「つくしちゃん」って呼ぶ。
バイトを始めたばかりの頃、緊張の連続で、マスターにつくしちゃんって呼ばれるとほっとした。
けれど、仕事中、お客様の前ではマスターはちゃんと「牧野さん」って呼び変えている。
これって、本当に大事なことだなって思う。
ここはお客様をもてなす場なんだもんね。
あたしたちは、裏方に徹するのみ。
お客様に、最高のおもてなしをするのがあたし達の役目。
こういう細かいところも、きちんと気を付けないといけないなって思う。


あ、そうそう、司さんね。
一見するとすごく恐そうなんだけど、
これが、すっごいイケメンなの。
もしかして、芸能人なのかな?
あたしのタイプではないけれど、かなりモテるよ、きっと。

着ているスーツも、左手首に見える腕時計も、きっと一流品。
あたしはブランドなんか詳しくないからよくわからないけど、明らかに量販店のものとは質が違う。
このBarに来るお客様は皆様お金持ちなんだけど、レベルが違うと思う。
あたしにも分かるぐらいの気品。
そんな、すっごいオーラがある人。


あたしがそんな司さんの何が気になるのかっていうと、
____あの冷たそうな瞳。


司さんは、全く笑わない。
注文をしないぐらいだから、声をかけられることもない。
だから、あたしも話しかけることはしない。


ここはお客様中心の世界。
お客様が望まないのに無理に笑いかける必要も無い訳で。
お客様が一番過ごしやすい空間を作るのがあたしの仕事な訳で。


でもね。
やっぱり気になる。

あの冷たそうな瞳はどうしてなんだろう・・・
あの口元は微笑むこととかあるのかな・・・
ちょっとでも・・笑ってくれないかな・・・

そんなことがとっても気になるんだ。



*****



俺がニューヨークから帰国したのには訳がある。
黒字とはいえ、経営の伸び率が少なくなった東京メープルのテコ入れのためだ。
そのために、俺は5年ぶりに日本に帰って来た。


大学はコロンビア大学へ通い、その傍ら家業である財閥の経営に携わった。
大学は3年で卒業し、その後は働きながらMBAを取得した。
高校時代までは、財閥の仕事になど興味のなかった俺だったが、始めてみれば俺には合っているようだ。
大学時代にビジネスの理論を学ぶと、すぐに実践する場は財閥内にあった。
状況を見極め、瞬時に判断し、次の行動に移す、俺はこの能力に優れているらしい。
道明寺の人間はビジネスセンスに長けていると言われるが、それだけじゃない。
アメリカでは寝る間も惜しむ努力をしてきた。
そして、その仕事内容が評価され、『道明寺司』の名前は経済界に広まった。
今回の帰国はいわば凱旋帰国で、日本支社の支社長からのスタートだ。
凱旋とはいっても、その後も成果を上げなければならないプロジェクトが山積みで、休む間などはない。


今年1月1日付けで、道明寺ホールでイングス日本支社、支社長に就任した俺。
日本支社の仕事の引継ぎの他に、今は東京メープルの実状把握に力を入れている。
東京メープルの経営自体は黒字決済で、悪くはない。
しかし、東京には多くの新しい高級ホテルが進出してきている中で、メープルも新しく生まれ変わる必要がありそうだ。
高級路線は維持しながらも、新たな客層を取り込んでいく。
メープルに関しては、短期的な利益回収もさることながら、どちらかというと長期的な目線での経営戦略が必要になりそうだ。
スタッフも含め、全体的な意識改革と新しいホテルプラン作り。
伝統を重んじつつも、新たなプランを展開する。
そのあたりが肝か。
とはいえ、俺もホテル経営は知識がなく、この数年は俺にとっても正念場になるだろう。


日本に帰国してから、俺は世田谷にあるうちの邸には殆ど戻らず、メープル住まいをしている。
会社に近いということもあるが、その方が、ホテルの実状を理解しやすいと考えたからだ。
インペリアルスイートは向こう1年押さえている。
ホテルの業務資料も、このスイートで確認することが多い。



帰国してから、業務に追われて息つく暇もない俺ではあるが、
週末の金曜か土曜には、息抜きのため、この『The Classic』に来ている。
ここは俺が高校時代、悪友たちと過ごした思い出のBarだ。
マスターはその当時から変わらない、臼井っていうオヤジ。
当時から、俺たちの兄貴分だった人だ。
未成年の俺たちに、ダメだと言いながらも、うまい酒を出してくれた。
俺らの若かりし頃の悪行を知り尽くしている臼井には頭が上がらねぇが、俺はこのBarが好きだ。
会員制だから選ばれた客しか来ないのが楽ってのもあるけど、この臼井とは旧知の仲で、俺が自分の部屋以外で、唯一ほっと息抜きができる場所だからかも知れない。


そのBarで俺は一人の女に出会った。
Barのウェイトレスをしている女。
今時珍しく、染めてもいない、ストレートの黒髪を1本に結んだだけのヘアスタイル。
その女が、臼井の指示通りに、酒とつまみを運んでくる。
俺をよく知る臼井が指示をだしているはずだから、信用はできる。

女との会話は一切ない。
余計な会話でもしてこようもんなら、俺は一発で退場させるが、こいつは俺に馴れ馴れしい態度はとらない。
まぁ、格式高いThe Classicの店員という時点でそれが当然なんだが、こういった個室に入ると、俺に近づいてくる女が多いのが現実で、俺はこういう場所で女と二人きりにならないように注意していた。
でも何故か、久しぶりにここを訪れた日から、決まって俺にサーブするのはこの女で、それがいつの間にか定着した。


ウイスキーボトルを持つ手の指先には、控えめなネイル。
爪はきっちり切りそろえられている。
清潔感があって、嫌な気分にはならない。

真剣にグラスに酒を注ぐ、好奇心いっぱいの瞳。
恐らく、上手に注げた時に出るんだろう。
ちょっとだけ、口角があがる口元。
このBarにはそぐわない明るい雰囲気を纏った女。


酒の準備が終わり、
『では、ごゆっくりと。』
と出ていく時に見せる、少しほっとした笑顔。


この女が来ると、いつも冷めた個室の雰囲気が変わる。
一瞬だけ、明るいオーラに包まれる。
女が出ていくと、いつもの寒い空間に戻る。


俺の部屋も、この個室も、常にその空気は冷たい。
全館空調の効いた部屋のはずなのに、俺の周りはいつも冷たい。
その部屋の雰囲気を一瞬で変えてしまう不思議な女。

冷たい空気には慣れているはずなのに、その女の持つ陽のオーラに触れたくなる。


特別美人だって訳じゃない。
会話をした訳でもない。
けど、その存在に引き付けられる。
そんな女だ。



 

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  1. 俺の女
  2. / comment:3
  3. [ edit ]

こんばんは!

  1. 2017/01/05(木) 22:25:56 |
  2. URL |
  3. Happyending
  4. [ edit ]
いつも応援ありがとうございます!

明日は二人が接触します。
ワンパターンだなぁ。まさに(苦)。

どのぐらい続くのかは書いてみないとわからないんです。
いつも頭の中には、こんな風にというのはあるのですが、どれぐらいでどこまでたどり着くかは分からなくて。
でも、今からつくし入社する予定もあるので、しばらくはこれかな。でも、すっごく長いのは無理です(笑)。

管理人のみ閲覧できます

  1. 2017/01/05(木) 10:29:26 |
  2. |
  3. [ edit ]
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  1. 2017/01/05(木) 05:42:18 |
  2. |
  3. [ edit ]
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