花男の二次小説になります。つかつくonlyです。

With a Happy Ending

今日、22時30分に、司君と牧野さんが来店する。
1週間前にその連絡を受けた。
前もって連絡を受けたのは初めてだ。
しかも、直接、司君から。

『つくしが、絶対行くっつって聞かねぇから。Barの開店前は忙しいからダメなんだとか言いやがるし、俺たちのために貸し切りにするのもダメらしいし、夜にちょこっと行くとか言ってんだけど、あいつももうフラフラさせとく訳にいかねーし。』

あーだこーだと電話口で話す司君は、いつもほどのトゲがない。
入籍を済ませ、メディアにも公開した愛妻の牧野さん。
牧野さんの身を守らなければならない彼の責任感と、彼女の希望を聞いてあげたい彼の優しさが垣間見られる。

『それでは、通常営業をしますが、22時以降はカウンターを全て空けさせます。その方が奥様も気楽にお越しになれるでしょう。カウンター周囲にSPの配置を。』

『サンキュ、臼井。・・・でもよ。』
『はい。』
『その・・奥様っての。きっとつくしは喜ばねぇと思うんだわ。』
『しかし・・。』
『いつも通りでいいから。』

いつも通りでいいと言われても、それなりのケジメは必要だ。
彼女は、ここでバイトしていた牧野さんから、道明寺財閥の後継者、道明寺司の妻になった。
だからこそ、彼女の周りもまた、かつての僕のようなSPが周囲を警戒しなければならない。
そんな彼女には、やはりそれなりの対応が必要なんだ。

『あいつは、何にも変わってねぇよ。けど、周囲の見る目は変わってる。だからこそ、俺が昔そこで世話になってたみてぇに、つくしにもいつも通りでいられる場所が必要だろ?』

司君は、牧野さんのことを十分に考えている。
こんなに気配りのできる男だったはずはないが。
全ては牧野さんのため・・か。

『分かりました。いつも通りで。』
『おう、頼むわ。』



*****



「マスター!!お久しぶりです!ご無沙汰してます!」

牧野さんが、以前と全く変わりない様子で、カウンターにいる僕に向かって走り出した。
それを、司君が笑いながら、やんわりと制す。
あっ・・という表情で、はにかんだ牧野さん。
きっと、花嫁教育なんかもきちんと受けているんだろう。
道明寺司の妻としては、常に冷静沈着が求められる。
だけど、司君が彼女を制したのはそういう意味じゃなくて、ただ単純に牧野さんが転ばない様に配慮しただけのことだ。
そんな仲睦まじい様子に、思わず、僕も微笑んだ。

二人が来店する少し前から、司君のSPが、カウンター席の一部とその周囲の席に散らばっている。
司君が、満足そうに、視線を走らせた。
牧野さんは、全く気が付いていない様だ。
二人の周囲を直接警護するSPは2名。
実際には、その周囲にはさらにいるはずだ。
牧野さんには気付かれない様に、彼女の安全に配慮する司君の様子。
牧野さんがここでバイトをしていた頃も、タクシーチケットを出したり、支社長である自らが迎えに来たりと、心配性だったことを思い出した。


「司君、つくしちゃん、ご結婚おめでとう。」

いつも通りでと言われ、いつも通りに出迎えた。

「ありがとうございます!マスター!」
「おう。」

牧野さんがキョロキョロとしながら周囲を伺い、カウンター席を見て、司君を見上げる。
司君が、牧野さんに向かって軽く頷くと、牧野さんはぴょんとカウンターチェアに座った。
司君もゆっくりと、隣に腰を下ろす。

「つくしちゃん、どうですか、ニューヨークは?」
「もう、毎日大変です!楓社長にしごかれています。あっ・・お義母様に・・」
「あはは・・」

いつも通りのつもりだが、あれ・・司君の額に青筋が・・。

「臼井。つくしちゃんとか言ってんなよ。」
「どうしてよ?いいじゃないの。今までだって、仕事では牧野さん、普段はつくしちゃんだったんだよ?」
「さっきの男も、牧野とか言ってたな。気に入らねぇ。」
「それは仕方がないでしょ?今更なんていうのよ。」
「そりゃ、あれだろ?道明寺・・さん?」
「ええ~っ!」

「ぷっ。」

いつも通りにしろと言ったり、独占欲を滲ませたり、司君は本当に人間らしい男になった。
それも、これも、牧野さんのおかげだ。


「マスター。あのね。本当は、今日もフロアに出たかったけど・・それはダメだって司さんが・・。」
「あはは。当然でしょう?さすがに、僕も許可できないな。」
「そうなんですけどね。でも、ここはあたしの原点だから。」
「原点?」
「はい。メープルに就職が決まって、頑張るぞって思ったこと、つい昨日のようです。それに、ここのウェイトレスとして司さんに出会って・・。」

そこまで言って、牧野さんの言葉が止まる。

「出会って・・なんだよ?」
「うっ・・うん。まぁ・・いいや。」
「俺に見惚れた、とか?」
「ちっ、違うからっ。あたしは、マジメに働いてたのっ。」

図星だろうに、焦りまくる牧野さんが面白い。

「つくしちゃんが、ここでマフィンを焼いたのは驚きましたね。」
「わーっ。マスターっ!」
「俺の誕生日な。」
「あれは、どうして渡そうと思ったの?」
「えっ・・えーと、ですね。初めて見た時から、司さんって、なんだか冷たそうな感じで。あの日も、一人で飲みに来てたでしょ?それで、誰かと電話をしている時に、今日が誕生日なんだって分かったんですけど、なんだか寂しそうで。お誕生日に、一人で飲んでるなんて・・ね?」

ちらりと司君の表情を伺う牧野さん。

「同情かよ。」
と、司君がぼやいた。
「違う。この人が笑ったらどんななのかなぁって。司さんに笑って欲しかったんだよ。」

きっと、牧野さんの言っていることは本当なんだと思う。
本気で司君を笑顔にしたかったんじゃないかな。
だけど、僕は、むしろ司君の方に疑問があった。

「ですが、僕からすると、あの日、平日の早い時間に、司君がここに現れたことの方が驚きましたね。それから、バレンタインデーも。」

司君と牧野さんが、お互いに見つめ合いながら、パチパチと瞬きを繰り返している。
どっちが口を開くんだ?

「そりゃ、俺がこいつに惚れてたからに決まってんだろ?」
「始めからですか?」
「出会った時から、気になってた。」
「嘘だぁ。だって、すっごく冷たかったもん。」

「いや、案外本当だと思いますよ、つくしちゃん。司君は、絶対に女性を個室に入れるなって僕に言っていたのに、つくしちゃんのことは拒否しなかったでしょう?」
「女性は入れるなって・・マスターそんなこと言ってなかったですよね?」
「言う前に、つくしちゃんがグラスを持って行っちゃったからね。」
「そっかぁ。じゃあ、出会いは偶然だったんだぁ。」

偶然。
その、偶然が重なれば、運命と呼ばれるのかもしれない。
僕は、この二人の出会いは運命だと思っているんだけどね。

「お前こそ、バレンタインの時は俺にムース渡すために、遅くまで残ってたんだろ?俺のこと、あの時から好きだったんじゃねえの?」

おっ、司君の逆襲が始まった。

「うーん。あの時も、やっぱり、司さんに笑って欲しかったっていうか・・。非日常を味わってほしかったっていうか・・。」
「素直じゃねぇな。好き以外に何があんだよ。手作りなんか渡してよ。あんなことされたら、期待するに決まってんだろ?あっ、お前、まさか、他の男にも手作りの菓子とか渡してんじゃねぇだろうなっ。」
「してません。」

司君の嫉妬も、軽くスルーの牧野さん。
大したもんだ。

僕は笑いながら、司君の前にペリエを、牧野さんの前にフレッシュジュースを置いた。
酒は出すなと前もって言われていたから。
そのジュースに手を伸ばす牧野さんの左手には繊細な輝きを放つリング。
当然、司君の左手にもお揃いのリングが収まっている。
極々シンプルなそのリングだが、埋め込まれたダイヤモンドのクオリティは世界最高級だろう。
照明を落としたこのカウンターでも、牧野さんが手を動かすたびに輝いている。
一片の曇りもない。
まさに、二人の愛を代弁しているようだ。


牧野さんが、ジュースを一口飲んでから言った。
「そうだ、マスター。マスターは、どうして初めから、司さんが道明寺HDの支社長だって教えてくれなかったんですか?」

牧野さんが急にそんなことを聞く。
どうしてか・・と言われても、どうしてなのか。
あの時は、知らなくていいと思ったんだ。
この二人には、余計な情報は必要ないって。

「どうしてかな。二人が幸せを呼ぶハンカチを一枚ずつ持っているって知っていたからかな?」

そう言った僕を、牧野さんはじーっと見つめてきた。
何か、言いたそうだ。

「マスター、ありがとうございます。」
「うん?」
「あたし、あの時、司さんの素性を知らなくてよかったなって思ってたんです。」
「どうして?」
「あたし、恋愛とか全然したことなくて。しようと思っても、頭で考えちゃうタイプで。たぶん、司さんの素性知っていたら、素直になれなかったかなって思うんです。だから、知らないままでよかったなって、今では思っているんです。」
「そう、それは良かった。」

牧野さんの隣では、司君が、水と氷だけのグラスをカラカラと回している。
その表情は幸せに溢れている。
そういえば、途中からは、司君の指示で箝口令が敷かれたんだっけ。

もしも・・
もしも牧野さんが、初めから司君の素性を知っていたとしても、
それでも、きっと二人は結ばれたに違いない。
獲物を狙う司君の本能は、総帥譲り。
一度狙いを定めた獲物を、絶対に諦めたりはしないはずだ。
どんなに時間がかかっても、司君は絶対に牧野さんを手に入れただろう。


「でも・・つくしちゃんは、一体いつ、司君の素性を知ったの?このBarを辞める時には、分かっていなかったよね?」

その唐突な僕の質問に、牧野さんの顔が突然真っ赤になった。

「いっ、いつだった・・かな・・?」
チラッと司君を見て、またすぐに視線を逸らした。

「お前、覚えてねえの?俺、言っただろ、初めてお前を・・」

「だーっ!!!」

慌てた牧野さんが、司君の口を掌で塞いだ。



「くっ・・くっくっくっ・・・」
笑っちゃいけないと思っても、どうしたって笑えてしまう。

こんな風に堂々と、幸せいっぱいの二人がこのBarを訪れてくれる日を、本当に楽しみにしていた。
今日、そんな僕の願いがやっと叶った。


道明寺実氏のSPになり、それからこのBarに来た。
長年ここにいて、様々な人間模様を観察してきたつもりだ。
時には、自慢話を聞き、
時には、愚痴を聞き、
時には、人生の決断に立ち合いながら、
虚栄や嫉妬の渦巻く世界を眺めてきた。
名門のBarと言えば聞こえはいいが、支配人としてここに立つと言うことは、そういった裏の事情を飲み込んでいくということだった。

そんな仕事が、感情を表に出さないように訓練されたSP上がりの僕には案外合っていて、こうして長年勤めてきたように思う。

だけど、今日ほど、僕はここの支配人になって良かったと思えた日はない。
こうして、お客様の幸せを、本気で喜ぶことができたのは初めてだ。
ある意味、特殊な職業を続けてきた僕。
常に先を読み、警戒を怠らない。
SPとしても、ここの支配人としても。
毎日が、ある種緊張の連続だ。

そんな僕に、二人は幸せのお裾分けをくれたようだ。
緊張の中、二人の行く末を見届けることは、本当に、本当に幸せだった。


「臼井。サンキュ、な。あんま言いたくねぇけど、昔から、感謝してた。」

思いがけない司君の一言に、すぐには返事もできなかった。

あぁ、僕もまだまだ甘い。
司君から、こんな言葉を貰うなんて、予想外だ。
先を読むことに長けているはずなのに、意表を突かれた。


「僕の方こそ、ありがとうございます。このBarの支配人であることを、誇りに思います。」

何とかそう答えた僕に、司君の口角が上がった。

僕よりずっと年下の司君が、妻になった牧野さんと繰り広げるこれからの生活。
その中にある幸せを、これからも眺められたらいいと思う。
それは、ここの支配人をしている僕の役得だ。


僕は、司君という人間を通じて、
現実から目をそらさない強さと、
人を信じ、愛することで得られる幸福とういものを肌で感じた。

それは、普段、このBarで見ることはほぼ無いが、
人間としては、必要不可欠なもの。


多くの人間の人生を見てきた、このBarの支配人である僕にとって、
この二人との出会いが、一番の栄誉であることは間違いないだろう。

目の前でじゃれ合う二人を見て、
そんなことを思った。



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久しぶりの臼井さん目線でした。
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  1. その後の二人のエトセトラ
  2. / comment:3
  3. [ edit ]

こんばんは(*^^*)

  1. 2017/05/21(日) 22:23:33 |
  2. URL |
  3. Happyending
  4. [ edit ]
いつもたくさんの応援をありがとうございます。
久しぶりの臼井さん目線でちょっと緊張しました(笑)。

スリ●様
結局、先ほど、短編をアップしちゃいました。
1話完結は難しいですね〜。でも、気分転換に。

の●様
ええ〜。そうですかっ!?
でも、臼井さんのファンという方も少なからずおられるため、臼井さん目線には手を抜けない(笑)、という姿勢の表れだと思います(笑)。
だけど、今後の展開をどうするかなぁ。番外編なのに、何を悩んでいるのか、自分も可笑しい。。。

先ほど、滋ちゃん目線の短編をアップしてしまいました。
明日の朝は、どうだろう。
まだ、番外編の方向性が決まってなくて、どうするんだーって感じなんです。
ゆっくりとお付き合いいただけると嬉しいです。

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  1. 2017/05/21(日) 17:07:10 |
  2. |
  3. [ edit ]
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  1. 2017/05/20(土) 18:09:39 |
  2. |
  3. [ edit ]
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