FC2ブログ

Happyending

Happyending

牧野は左耳に障害がある。

牧野がよく触っている左耳。
あれは、聞こえが悪いから?
あいつは左耳が感じやすいと思っていた。
それは、聞こえないから・・だからなのか?

俺は・・何てっ!


思いがけず知ったその事実によろめきそうになるのを必死に耐え、執務室に戻った。
ソファーにドカッと沈み込み、頭を抱える。

再会してから、もう2か月近くになる。
今まで何度も抱き合って、あいつに俺の気持ちを伝えてきたと思っていた。
あの左耳に囁けば、俺の気持ちが伝わると勘違いをして、何度も何度も囁いた。
それが、ほとんど伝わっていなかったということか。
そうなのか?

あいつを快楽に導いているつもりで、そうじゃなかった。
いや、そんなことじゃない。
2か月も一緒にいて、この事実にも気づいてやれなかったなんて・・。
俺は、何て馬鹿なんだ!
畜生っ!!


焦る。
俺は、強烈に焦ってる。
きっと俺が伝えたかったことは半分も伝わっていない。

そうだ、あの指輪。
あれはいったい何なんだ?
それを考えていたはずなのに、牧野に会った瞬間にそんなことはどうでもよくなったんだ。あいつの指から指輪を抜き取って、捨てた。

あの指輪はどこに行った?
俺はすくっと立ち上がり、巨大な窓に走り寄った。
指輪を叩きつけた窓ガラスには、一筋のうっすらとした傷が残っていた。
その傷をたどって視線を下ろしていくと、そこにはあの指輪が落ちていた。

牧野が持ち帰った訳じゃなかった。
なのに、この虚脱感。
あいつは大切にしているものを捨てるような奴じゃないのに。
これを持ち帰らなかったということは、この指輪はもう用無しだということなのか?

それでいいじゃないかと思いながらも、やはりだめだと思い直す。
牧野が大切にしているものだから、俺も大切にしてやりたい。
あいつに男なんていないことは、この2か月で分かっていたんだ。
だから、じっくりあいつの話を聞いてやるべきだったのに。
そうしなかったのは、俺だ。

俺はその指輪を拾い、じっと眺めた。
やはり懐かしい気持ちになるのは何故なんだ。

答えはすぐそこにありそうなのに、辿り着けないもどかしさ。

まずは、あいつの耳だ。
どうして、左耳が聞こえないんだ?
どうしてそれを俺に言わなかった?

俺は指輪をパンツのポケットにしまい、携帯電話を取り出した。

牧野のことを知っているとすれば、こいつしかいない。



***



メープルのラウンジに幼馴染を呼び出した。
類を呼び出したはずが、ほかの二人もついて来た。
どうやら、類が連絡したらしい。

「司、ずいぶん前に帰国してたんだろ?連絡位しろよ。」
「忙しいんだよ、俺は。」

「へぇ・・。毎晩、スイートに出入りしてるらしいじゃん?」
嫌味たっぷりに言うのは、総二郎。

「・・・。」
「結構、話題になってるぜ?知ってんのか?」
少し心配そうなのは、あきら。

道明寺司が毎晩メープルのスイートで女と密会している・・そんな噂が立っていることは知っていた。
だが、俺のプライベートに関してはマスコミに規制をかけているし、牧野のこともSPを使ってカバーしていたつもりだ。
あいつの情報が出ることはないだろう。


「相手・・牧野だよね。」
珍しく、時間に遅れることなく到着した類が、『牧野』という言葉を口にした。

この5年、俺たち4人の中で、『牧野』の言葉を出した奴はいなかったと言うのに。
だが、俺はその問いには答えなかった。
俺の方が聞きたいことが山ほどあるんだ。

「牧野って、今付き合ってる男いるのか?」

そう尋ねた俺に、怪訝そうな表情をする3人。

「牧野の男?」
「いねぇだろ、あいつ。」
「いないね。」

俺だってこの2か月で、あいつに男がいるとは思えなくなっていた。
だが、こいつらは、どうしてそう断言できる?

「お前ら、牧野とどれぐらい会ってんだよ。絶対って言えんのか?」
「一番会ってるのは、類だろ?俺は、半年に一度ぐらいだよ。」
「俺も。」

あきらと総二郎は半年に一度ぐらいの付き合いらしい。

「俺は、牧野と連絡は取ってるけど、この3ヶ月は音信不通。でも、それって、司が絡んでたんじゃなかったの?まぁ、俺は、牧野が幸せならそれでいいんだけどさ・・。」

こいつらによれば、やはり牧野に男なんていない。
じゃあ、あの指輪は一体・・・
それに、左耳はどうしたんだ?


「なぁ、類・・あいつの左手のリングって・・。」

そう切り出した俺に、類が少しだけ笑って視線を投げてくる。

「なんだ、司。やっぱり、牧野に会ってたんだ。あの指輪。気が付いた?懐かしいでしょ?。」
「懐かしい?」
「あれ?分からなかった?」

面白そうに類が言う。
総二郎とあきらも表情を崩した。

「やっぱ、司は牧野かよ。5年もたってんだ。他に女なんてたくさんいるだろうが。」
「俺も、今更、司が牧野に会ってるだなんて、俄かには信じられないな・・」


「「でもよ、愛だよなー。愛!!」」

「牧野の愛が報われたかと思うと、なんか感慨深いよな。」
「あの事故の時は、マジびびったから。」

総二郎とあきらが二人揃って騒ぎだす。
だが俺は、奴らの言葉に、心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けていた。


牧野の・・愛?
事・・故?


ガシャッ!!
思わず、スコッチが入ったグラスをテーブルに落とした。
低い位置だったから溢れはしなかったが、その音でその場が静まり返る。


牧野が事故にあった?
何だそれは?
いつ?
聞いてねぇ・・何も聞いてねぇぞ!

自分の手が、僅かに震えている。


「おい、司、お前、もしかして本当に知らないのか?」
「知ら・・ねぇ。」
「何だよ、俺らはてっきり・・」
「お前なら、牧野のこと、とっくに調べてると思ってた。」

調べたさ。
牧野の現状を。
広告代理店に就職し、男関係は特に見当たらないってことぐらいは。

他に、一体何が?
俺は・・何を見落としてるんだ?



類がふぅーっと息を吐いてから話し出した。

「牧野はさ。高校の時から、ずっと司のことが好きだったんだよね。司んちのおばさんに圧力かけられて別れたけど、忘れられなかったみたい。」

俺はじっとその話に耳を傾けていた。

「大学生になって東京に戻って来たんだ、牧野。俺は、時々会ってた。何度か、告白もしたけどさ、やっぱ司じゃなきゃダメみたいでさ。」

俺は類をギロリと睨んだ。
そんな俺を軽く笑って、類が話し続ける。

「あの土星のネックレス、覚えてる?」
「忘れる訳ねぇだろ。」
「あれ、牧野の宝物。」
「今は、もう持ってねぇよ。」

怖くて聞けなかったネックレスの行方。
俺は帰国後、一度もあのネックレスを見たことがなかった。

「牧野、一年前に事故にあったんだよ。」
「どういうことだ?」
「あいつ、いつもバイトを夜遅くまでしててさ。その帰りに男に襲われた。」
「っ!」
「レイプ目的じゃなかった。物盗りだった。牧野がいつも身に着けてた、あのネックレス狙いだったんだ。あいつ、司と別れてからもずっとあれしてたし、冬は洋服で隠れてたけど、夏は隠せてなかったから。本人も隠そうとしてなかったと思うけど。あれ、司が選んだダイヤとルビーでしょ?誰が見ても高級品だよね。あの土星の形は珍しいけどさ、あれだけふんだんに石を埋め込んでたら、売りさばこうって奴らに狙われても仕方がなかった。」

ガンッ!
俺はテーブルを殴りつけた。
俺が牧野に渡したプレゼントのせいで牧野が襲われた。
その事実にやり場のない怒りが沸騰する。
犯人を絶対に許すことはできない。

「もみ合った挙句に、チェーンが切れて、その男にネックレスを奪われた。相手がナイフとか凶器を持ってなくて良かったんだ。それなのに、牧野は犯人を追いかけて。あいつ、足が速いんだよね。犯人に追いついて、また取っ組み合い。そのまま、大通りに飛び出して、車に引かれた。」

「フロントガラスに全身強打して、意識不明だったんだぜ。」
「でも、手にはしっかりネックレスのチェーンを握ってた。」
「実際には、トップの土星も事故の衝撃で壊れてたけどね。残ったのは、はめ込まれたダイヤが7つ。これ、意味分かる?司。」


聞いてねぇ。
いや、あいつがそんなことは言う訳がねぇのに。
俺が贈ったネックレスのせいで襲われた何て言える筈がない。
俺は一体何を調べてたんだ。
あいつの現在ばかりを知りたがり、俺と離れていた5年間を知ろうとしなかった。
だから、この事故が報告されなかったんだ。

両手の震えを止められない。


「あいつの・・耳・・。」
「あ、それは気づいたんだ。あいつ、結構隠してるみたいだけど、仕事では迷惑かかるからって職場には報告してるらしいね。」

いや、俺は、気づいてなんかいなかった。
あいつの指輪に気を取られて。
あいつの5年間を振り返ってやることもしないで。
過去よりもあいつとの未来を掴もうと必死になっていた。
俺の知らないあいつの5年を知りたくないと切り捨てたから・・だから、俺は気づけなかったんだ。

「事故で左側の耳小骨を損傷した。全く聞こえない訳じゃないけど、かなり聞こえにくいらしい。」


「ねぇ司、牧野のリングだけど・・」
「類・・もう分かった。」

俺は、立ち上がった。

「「「司・・」」」

3人が俺に話しかけようとしたが、それを制して店を飛び出す。


今すぐに会わなきゃならないんだ。
俺は・・・牧野つくしに。


にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
謎は解けましたかね??
週末は多忙なため、続きは月曜日になります。
関連記事
Posted by

Comments 9

There are no comments yet.
Happyending  
こんばんは^ ^

いつもたくさんの拍手をありがとうございます。
スッキリしましたかねぇ。でも、理由に悶々でしょうか?
週末は子供の行事でアップアップしていました。はぁ、夏休みの宿題もまだ残ってるし・・どうしたものか・・。

さてさて、たくさんのコメントもありがとうございます。
バ●様
お仕事お疲れ様です!スッキリしていただけてよかったです(笑)。本当に、あとは幸せにしてあげないと・・ですね!

まー●様
つくしに愛情ダダ漏れの司!いいですよね〜(笑)。この前半とのギャップにどうしたものかと思いつつ・・。明日はもう一つ小さい爆弾落としたりして・・・あは。どうぞ、明日も覗いてやってください!

スリ●様
そうなんです。ここで類くん登場。謎は全て解けた!(笑)。クリアファイル付き前売り券!!そうなんだぁ。しまった・・うちの娘も欲しがるかな・・。でも、内容的に子供はダメですよね?違うのかな?かなり前に小説は買ったのに、ちゃんと読んでない・・。一緒に映画行ってくれる人もいないしなぁ(笑)。

の●様
あはは。予想つきませんでしたか?いえ、いいんです。というか、この1話でもう終わりでいいような気もしているぐらい、ここを書くために、グダグダしていたようなものです。謎が解けてしまえば、あーなるほどってぐらいですよね・・(汗)。引っ張りすぎるぐらいに引っ張ってしまったな・・。明日はもう一つの事実を。また覗いてくださいね!

星●様
1話目にもコメントいただきありがとうございました。途中どなたかにもコメント頂いたのですが、おっしゃる通り、リメイクにはお金かかるよね?という問題も。この辺りは、私の中で、ちょっと番外編的なお話も考えていて・・。本編終了後に余裕があれば書きたいな・・と思っているんです。この1話を予想できた方っているんですかねぇ。ヒントを出すとすぐばれちゃうので、今回は随分引っ張ってしまいました。もう少し、お話にお付き合い下さいね。

ま●様
道明寺もバカですが・・つくしもバカだ・・と思いながら書いていました。でも、これぐらいに愛されてみたいですね〜、本当に!

あ●様
あうっ。坊ちゃん、確かに可哀想なんですよ。別に本人が何かしたって訳じゃないし・・。はっきりて、勘違い?ぐらいなもんなんです。そうなの・・つくし、言えよっ!って言われちゃうと・・その通り・・(汗)。そう、旅行先でのトイレの住人。。でも、最終的には出すものもない・・って感じでしたよ。かつて牡蠣に当たったことがあって、あの時を思ったら、軽かったかも知れない・・と自分を慰めています。

ka●様
司にもらったネックレスがもう無いこと、それがリングになっていること、それが事故のせいであること、その事故がまたネックレスをしていたからであること、全てつくしは言えなかったんですね。でも、司との未来をちゃんと考えてたら言えたと思うんですよね。今だけ一緒に居られると思っているから言えなかったっていうのもあると思うんです。ま、事実を知った司が逃す訳はないですけどね!コメントありがとうございました!


さて、続きは・・明日の5時に。
今から見直ししなきゃです!ではでは〜。

2017/08/20 (Sun) 22:16 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/08/20 (Sun) 18:51 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/08/20 (Sun) 12:19 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/08/19 (Sat) 12:28 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/08/19 (Sat) 11:37 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/08/19 (Sat) 10:22 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/08/19 (Sat) 08:34 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/08/19 (Sat) 07:45 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2017/08/19 (Sat) 07:42 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply