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Happyending

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「いつもありがとう。ごめんね。」
「お前のありがとうとゴメンは聞き飽きたって。」
「そうだけど・・。」


1週間入院し、退院の許可が下りた牧野を、俺は自宅へ連れて帰った。
左手足の骨折は複雑なものではなかったけど、2か月程度ギブス固定が必要だったし、その間一人暮らしは難しかった。
牧野の両親は地方で仕事を持っていたし、弟も地方大学に入学したところだったから、東京で牧野の世話をできる人間はいなかった。

「気兼ねしなくていいよ。」
「うん、ありがとう。」
「ほら、また。」
「あっ。」

ふふっと笑い合う。
俺は自分の気持ちに完全なる終止符を打ったけど、これで牧野とは完全な友達付き合いをするという意思表示にもなった。
何も気にしなくていい。
だから、もっと頼ってよ。
見返りなんて心配しなくていいからさ。
それが友達ってもんじゃない?

「けど、就職、内定しててよかったね。」
「うん。だけど、まだ、耳のことは・・」

事故の割には骨折も軽度で済んで良かったと思っていたけど、
実は、牧野の左耳は聞こえが悪くなっていた。
詳しい検査の結果、左耳の耳小骨の連動が悪くなっているとのこと。
手術をしても、それほど大きな改善は望めないらしい。

「それでもトライしてみてもいいと思います。」
と言った医師に対して、牧野は答えた。
「日常生活をしてみて、大きな不自由があるようなら考えます。」

実際、左耳では小さい声は聞こえない。
でも普通の日常生活は十分に可能だ。
右耳を塞ぐことがない限りは困ることはないだろう。


「就職のことも心配しなくてもいいと思うよ。」
「どうして?」

俺は一冊の雑誌を取り出した。
牧野のことが掲載された日本の経済雑誌。

「こんなに優秀な学生を取り損なうようなら、花沢で牧野をもらうから、心配いらないって。」
「もうっ。」

結局、怪我のこと、耳のことも含め、牧野の内定が取り消されることはなかった。
俺としては、牧野を花沢に入れたって良かったんだけどね。
まぁ、本人が嫌がるだろうけどさ。


ネックレスのリメイクは俺が手配した。
ジュエリーデザイナーを自宅に呼んで、牧野に紹介した。
デザイナーは残されたダイヤのクオリティーに驚いていた。

「この土星の台座は、リングに加工できますか?」
「プラチナ台ですね。もちろん可能ですよ。」

ほっとした様子の牧野。
土星の球体はなくなってしまうけど、それをリングに変えることでずっと身に着けておくことを選んだ。
そして残された7粒のダイヤ。
牧野が選んだのは、エタニティリングのデザイン。
永遠を意味するように、ダイヤが一列に並ぶデザインだ。
完全にリングの一周を取り巻くほどのダイヤは残されていなかったけど、一粒がある程度大きいから、半周は回りそうだ。

「ハーフエタニティになりますね。素敵です。」
「ありがとうございます。」
「こういったデザインは、マリッジリングとの重ね付けにもピッタリなんですよ。」

そう言われた牧野は曖昧に笑っていたけれど、
いつかその日が来るとしたら、それを作ってやれるのは司しかいない。
牧野は期待なんてしていないんだろうけど、いつかそんな日が来る。
俺はそう信じている。




それからしばらくして、牧野のギブスが外れた頃、
道明寺グループがアメリカの半導体メーカーの買収に成功したというニュースが世界を駆け巡った。

その新聞記事をじっと見つめる牧野。
その左手には、あのリングが輝いていた。



***



目標としていた半導体メーカーの買収に成功した。

次の一手がない状況に追い込まれた俺がとった手段は、ある意味で賭け。
まず、半導体技術の売り込み先を攻めた。
地元電子機器メーカーへの投資から入る。
うちが投資する電子機器が売り上げを伸ばせば、その半導体技術も注目される。
その地元メーカーへの技術提供を希望したいと思うようになる筈だ。
日本への技術輸出は避けたいという希望がある半導体企業だ。
道明寺が、地元アメリカに多くの市場を持っていれば、M&Aの条件も変わってくる。
この半年で、道明寺が電子機器への投資を拡大させていることを強みに、交渉に乗り出したところで、ライバル会社の不正が発覚した。
これはまたとないチャンス。
結局そのまま道明寺が半導体の権利を買い取った。

俺は無意識でガッツポーズをしていた。



「司様、楓社長がお呼びです。」

西田の声に振り向く。
西田がちょっと笑った気がしたのは気のせいか?


それから、社長室へ入り、ババァの向かいに座った。

「危なかったわね。」
ライバル会社の不正が発覚しなければ、勝てなかったかも知れないということについてだ。

「運も、実力だと教わりました。」
「それはそうね。間違いではないわ。」

それから一息ついて、ババァが口を開いた。

「約束を覚えているかしら?」
「一任するとは、何についてでしょう?」
「あなたに一任しようと思っているのは、あなたの伴侶についてです。」
「伴侶?」
「あなたと生涯を共にする人は、あなた自身の選択に任せるわ。」
「誰を選んだとしても、文句は言わないということですか?」
「ええ。」
「俺が、牧野つくしを選んだとしても・・ですか?」
「ええ。」

この時俺は、この5年で初めて『牧野つくし』という言葉を口にした。
軽々しくは口に出来なかったその言葉に、俺の決意を乗せて。

そして、ババァが牧野つくしを認めた。
それは俺にとっては途轍もなく大きな見返りだ。
だが、どうして・・・

「あなたは、どうして今になって牧野つくしを認めるのですか?」
「そうね。何故だと思う?」

俺がこの4年、ニューヨークでそれなりの結果を出したからか?
だがそれは、道明寺財閥の長男として生まれた俺には、当然すぎる結果だろう。
事実これまでに、労いの言葉など掛けられたことなんてなかった。

黙っている俺に向かって、ババァが言った。

「牧野さんがいる限り、あなたは道明寺を捨てないと思ったからよ。」
「・・・どういう意味でしょう?」
「あなたは牧野さんの為にここへ来た。そして、学業とビジネスに打ち込んだ。今のあなたは道明寺を捨てたりしないでしょう。あなたの元で働く何万人という社員を路頭に迷わすようなことはきっとしない。でも、4年前のあなたは違ったわね。彼女の為なら道明寺を捨てるつもりでいた。」

それは、間違いじゃない。
あいつが、牧野が一緒に逃げてくれと言ったら、俺は絶対に一緒に逃げていた。
道明寺財閥なんて、俺にとって大切なものじゃなかったから。

「この道明寺家に生まれた以上、逃げることは許されないわ。人は気持ちが逃げた時点で負け。4年前のあなたは、牧野さんをとることを道明寺から逃げる言い訳にしようとしていた。そんな人間は、逃げたとしても幸せにはなれない。」

「知ったようなことを言うな。」

腹が立った。
何もかもを知ったふうな口を利くババァの態度に。
あの時、牧野に別れを告げられた時、俺がどれほどの地獄を味わったか。
その地獄はこの目の前の母親が仕組んだ企みだ。


「恨まれても構わないわ。でも、これは確実。あの頃、あなたたちの付き合いを許していたとしたら、あなたは道明寺を継ぐことはできなかったでしょう。何かにつけて彼女を理由にするような男は、道明寺には必要が無いのですから。」

「今ならば、その資格があると?」
「今のあなたなら、可能でしょう。でも、それは、牧野さんの存在があればこそね。違うかしら?」
「俺は今でも、財閥よりも牧野を選ぶと言ったら?」
「ふっ・・。彼女がそれを許すかしらね。」

確かに、牧野は絶対にそんなことを喜ばない。
事実、そのせいで振られたんだからな。
だが今の俺は、牧野を手に入れたからといって、揺るがないだけの力を手に入れた。
俺があいつを守ってやれるだけの力を。


「もちろん、未だに彼女があなたのことを待っていればの話でしょうけどね。」

面白そうに高笑いするババァ。

「あいつは・・待っています。」
「まぁ、凄い自信ね。」

俺はこぶしを握りしめた。


今すぐに会いに行きたい。
牧野に会いに行きたい。


そんな俺の心を見透かしたようにババァが言う。

「かといって、今すぐは無理よ。来年には日本支社のトップとして赴任してもらいます。それまではこちらでの引き継ぎを徹底して頂戴。」

ここまできて、1年後かよっ!
だが、俺が今までしてきた仕事の整理と引き継ぎがある。
今回の半導体についても、軌道にのるまでは見届けたい。
仕方ねぇ。

「はい。」

そうと決まれば、片づけなきゃならない仕事はたくさんある。
日本へ行くまでにやるべき仕事が残っている。
ガタンとソファーから立ち上がり、はやる足取りで出口に向かう俺の背中に、ババァの声が聞こえた。


「待っていてくれるといいわね。」







執務室に戻り、すぐに次の仕事に取り掛かる。
パソコン画面を確認しようとした時に、デスク上の一冊の雑誌が目に留まった。

日本の雑誌。
今の俺には読む必要の無い物だ。
どうしてこんなもんが置いてある?
西田か?

パラパラパラとページを繰り、あるページで手が止まった。

そこには、俺が会いたくて、会いたくて、会いたくて・・・
夢にまでみる女の笑顔があった。


大学4年生の牧野。
真っ黒なストレートの髪の毛は出会った頃と同じ位に長くなっていた。
俺に宣戦布告して来た頃を思い出す。
だが、あの頃より、滅茶苦茶綺麗になっている。

そして気付いた。
その胸元。
そこには、あの土星のネックレスが輝いていた。

マジか?
マジかよっ!

これって、そういうことか?
お前も、俺のことを忘れてねぇってことか?
俺のこと、待ってくれているのか?

俺は、あの雨の日に牧野に振られた。
俺のことは本気で好きではなかったんだと言われた。

でも、そんなこと嘘だって分かってた。
その嘘をつかせたのは、力の無かった自分。
分かっていても辛かった。

でもこのネックレスを身に着けている牧野を見れば、
あの時言えなかっただろう牧野の言葉が聞こえてくるようだ。

俺のことを、一人の男として、好きでいてくれたんだ。



食い入るように牧野の写真を見つめ続けた。
文章を読んでみれば、牧野はインターンシップで広告代理店の仕事をしているらしい。
牧野が提案した、企業内社員食堂への広告案。
それが採用され、利益を生んでいると書かれていた。

あいつ、自分が食い物が好きだからって、そうくるか?
ぷっと笑いが漏れちまう。


会いたい。
早く会いたい。
会って、たくさん話がしたい。

頼む。そのままで。
俺が迎えに行くまで、そのままで待っていてくれ。



俺はその雑誌をデスクの引き出しに大切にしまった。

あと1年。
俺が牧野に会いにいけるまで、あと1年だ。


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いつもたくさんの応援をありがとうございます。
夜中に誤字チェックしてたつもりが、一回公開しちゃってました(笑)
多分そんなに変わっていませんが、拍手下さった方すみません・・。
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Comments 4

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Re: タイトルなし

ka●様
さっき返信コメントを書いているうちに、コメントをいただいていたみたいです(笑)。
コメントありがとうございます。
それも愛・・そうだなぁと思います。

明日の記事書いているのですが、私もね、昨日コメント頂いてから、類くんの老後が心配で・・(汗)。
この最終話をどうやって締めようか悩んでいます。
類くんにも、本当に幸せになって欲しいんですよね!
本当に、二次にはいろんなタイプの類くんがいますね。総二郎やあきらくんは原作に似ている気がするけれど、類くんに至っては、キャラが結構いろいろいるし、お話も多岐に渡っている気がします。って全部は読んでいませんが・・汗。
F4全員に言えることは、本当に全員が独占欲が強い!(笑)。
まぁ、そこがいいんですよねぇ。
私の一番はやっぱり司なんですが・・(笑)。

2017/09/05 (Tue) 22:03 | EDIT | REPLY |   
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こんばんは!

いつもたくさんの拍手をありがとうございます!
はぁ、明日で終わりですが、まだ書けてない・・。
でも一気に終わりにしたのでがんばりたい。


さてさて、
スリ●様
今日もコメントありがとうございます。誤字のご指摘もありがたいです。またお願いします・・って本当は自分でチェックしなきゃなんですが・・すみません。本当に、パソコン欲しいなぁ。このiPad入力は慣れたものの、いまいちで。
そう、楓さん・・。
あのまま別れずに二人が付き合っていたとしたら・・どうだったかな?という観点から。もしかしたら、うまくいかなかったかもしれない。もちろん、二人が努力して別れずともうまくいったかも知れない。それはわからないんですよね。でも、楓さんが選んだのは二人を引き離すこと。母親としてはわかるような気もするんですよね。
そして、そうなっても想い合っている二人ならば許すしかないことも。
はぁ、とにかく明日で終われるように頑張ります!


では、一応、明日も5時に!

2017/09/05 (Tue) 21:54 | EDIT | REPLY |   
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2017/09/05 (Tue) 21:52 | EDIT | REPLY |   
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2017/09/05 (Tue) 09:07 | EDIT | REPLY |   

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