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Happyending

Happyending

「牧野さん、“彼”が来てるわよ。ふふっ。」


ブライダルサロンの一番奥のデスクで、纏め終わった資料をファイルに閉じている時に、主任から声がかかった。その主任の声は・・半分笑ってる。

パッとと入口の方を見ると、道明寺が壁を背もたれにして立っていた。
あたし達が再会してから、1か月が経つ。
あたしの定時は19時なんだけど、この時間になると道明寺が現れるのは珍しくない。


まったく・・・。
道明寺は相変わらず格好いい。
ほら、今だって、打ち合わせが終わって帰っていく未来の花嫁さんが、道明寺に見とれてるじゃないのっ。

細身にシェイプされたネイビーのスーツ。
見ただけで高級で、オーダーメイドだって分かっちゃう。
左腕にはゴールドの腕時計。
こんなの似合うの、こいつとあっち方面の人しかいないよ。
そうやって壁にもたれているだけで、まるでモデルさんが撮影しているみたいに特別なオーラを放つ男。
日本を代表する会社の日本支社長で、天賦のビジネスセンスを持つなんて言われ、これまでもすでにいくつもの難しい事業を成功に導いてきた。
若干25歳にして、この肩書を持っているのは、決して親の七光りじゃない。

そんな男が、あたしの彼。

『彼』・・かぁ。
あたしの初めての彼氏は高校生の時の道明寺で、2番目の彼氏は25歳になった道明寺。
7年前の恋愛はスリルに溢れてて、ある意味毎日がドキドキだったけど、心が落ち着く暇もなかった。
ジェットコースターに乗っているような恋愛、まさにそんな感じだった。
だけど今の恋愛は、安定した恋愛っていうのかな?
相手はおんなじなのに不思議だね。
この7年、離れていたからこそ得たものがある。
誰に見られても堂々としていられるのは、もう二人の関係を隠す必要なんてないから。
それに、あたしも道明寺も、もう1分だって1秒だって、無駄にしたくないと思っているから。






あの日、朝、目覚めたら、道明寺があたしの髪を撫でていた。
あの夜、初めて体を合わせたあたし達。
あたしってば、すっごく大胆なことを言った記憶は鮮明にあって、恥ずかしすぎて、道明寺の顔をまともに見れなくて、道明寺の胸にぎゅっと頭を押し付けた。
その時に言われたこと。

「牧野、籍入れようぜ?」
「籍?」
「入籍・・いいだろ?」
「でも・・」

あたしは慌てて顔を上げた。

「何だよ、今更嫌だとか言うなよ?」
「ううん、嫌じゃない。嬉しい・・よ。でも、ほら、あたしも仕事しているし、いきなりやめるって訳にも・・ね。」

道明寺との結婚、それはちゃんと考えてる。
あたしは道明寺の人生を貰うんだから・・・。
だけど、仕事はどうしたらいい?
中途半端で辞められる?

「じゃあ、いつならいいんだよ。」
「えっと・・・。」
「仕事は、続けたいのか?」
「うん・・。でも、やっぱり結婚したら難しいかな?」
「お前がやりたいっつーなら、俺は反対しない。」
「・・・ありがとう。」

たぶんこれは道明寺の本音じゃない。
あたしだって、道明寺が今、どういう立場にあるか十分理解してるつもりだ。
日本支社長の道明寺の奥さんが、ブライダルサロンの一般職で働いているなんてあり得ないことだ。
なのに道明寺は反対しないなんて言ってくれる。
彼は、凄く優しくなった。

「入籍は、せめて今担当している仕事が終わってからじゃ・・だめ?」
「それって、どのぐらいかかるんだよ。」
「えっと、半年ぐらいかな。」
「半年・・・」

実際には次々と仕事は増えてしまう。
だから、どこかで限を付けないといけないのは分かってる。
だけど、いきなり入籍と言われてもまだピンとこなかったんだ。
結婚が嫌なんじゃない。
ううん、絶対に一緒になりたい。
だけど、結婚したら、あたしは一体どうすればいいんだろうって。
仕事を辞めて、一体何をすればいいのかな。
そんな将来のビジョンが見えなくて。

そんなあたしの迷いを道明寺は見透かしていたのかな。
眉根を寄せて一瞬だけ考えた様だったけど、すぐに答えをくれた。

「分かった。その代わり、俺はお前との関係を隠すつもりはねぇからな。」
「うん。」

あたしだって、隠すつもり何てない。だから、素直にそう言えた。
道明寺がすっごく嬉しそうに笑って、あたしにチュッてキスをした。
見た目は大人っぽくなったんだけど、こういうところは高校生の時のまま、子供っぽくて可愛い。
あたしは、こういう道明寺が好き。
だけどそれが、なんだか懐かしくて、ちょっと切なくなったりして・・・

「おいっ、何で泣くんだよ。」
「なんでかなぁ・・涙腺緩くなったみたい。」
「ったく。もう、どこにも行かねぇよ。」
「うん。」

どうやら、あたしはトラウマになっているみたい。
大切だと気づいたとたんに、離れ離れになった悲しい過去の記憶がある。
だから、とても慎重になってるのかも知れない。
すぐにも道明寺の胸に飛び込みたいのに、この時は、少しだけブレーキがかかちゃったんだ。








「お先に失礼します。」
「牧野さん、お疲れ様。」

居残りの同僚に挨拶をして、職場を後にする。
お店を出たあたしに道明寺が近づいてくる。
・・・忙しいくせに、無理しちゃって。
こうやって迎えに来てくれるのも、きっとこの7年間の罪滅ぼし。
これまでにできなかった『彼氏』らしいことをしたいって言ってくれた。
きっと秘書さんたちは大変なんだろうな。

「お待たせ。着替えてくるからもうちょっと待ってて。」
「お前の荷物なら、もうロッカーから出してきた。」
「はぁ?」
「時間がもったいねぇからな。」
「どうやって鍵開けたのよ・・」
「俺を誰だと思ってんだ。」

それだけ言って、あたしの手を掴んで歩き出す。
まぁ、この辺は、やっぱり道明寺って感じなんだけどね。
あたし、制服なんですけど?
だけど、あたしも怒る気にならないんだよね。
それに、さりげなく恋人つなぎなのが嬉しくて、あたしはこっそり微笑んじゃった。


道明寺があたしの制服姿を横目で見て、目を細めてる。
何を見ているか、あたしは分かってる。
あたしの胸元で光る土星のネックレス。
7年前からあたしのお守りとして、ずっとバッグに入れていたもの。
道明寺と再会してからまた身に着けてるんだ。
「やっぱ持っててくれたんだな」って言った道明寺。
当たり前だよ。
これは、あんたからもらった大切なものだもん。


二人でいることが当然だという様子で、制服姿のあたしを道明寺は遠慮なく連れ歩く。
すれ違うお客さんがびっくりしてるのに、本人は平然としてる。
そんな彼を見て、あたしはやっぱり笑っちゃって、「何笑ってんだ」って頭を小突かれた。


ブライダルサロンに初めて道明寺が現れた時には、スタッフみんなびっくりだったんだから。
「プライベートだから、気にしないでくれ。」
ってみんなの前で言い放って、あの日も堂々と廊下で待っていた。
気にしないでくれって言われても、こんなところに道明寺がいたらみんな気にするでしょっ!ってところは本人は分からないみたい。
どうやら、道明寺の秘書の西田さんがうちの上司に説明してくれたみたいで、ブライダルのスタッフは道明寺支社長が現れても特別な対応はしなくていいということになった。
スイートルームをキープしてるんだから、そこで待てばいいのにね。
だけど、本当はすごく嬉しかったんだ。
こそこそしなくていい関係が。
もう待たなくていい、むしろあたしが待たせてしまってるような、こんな付き合い方が。
普通の恋人同士のようで、道明寺の気持ちが凄く伝わって来て。
このままじゃダメだって分かってるんだけど・・・
ごめんね、道明寺・・もうちょっとだけ待って・・







「何食う?」
って聞かれるのも最近の定番。
「あ、あそこ、行きたい!」
っていうあたしの答えも、かなり定番。
「またかよ。」
なんて笑いながらも、結局一緒に行ってくれるのも、もう何回目だろう。


あたし達が向かったのは、ドイツレストラン。
道明寺のマンションのすぐ近くにある、こじんまりとしたお店。
土日は分からないんだけど、平日はあんまり混雑していないそのお店は、初めてのデートで道明寺が連れて来てくれた。
道明寺と一緒だから、どんな高級レストランに連れて行かれるのかと思ったら、意外にも家庭的なお店で凄く驚いた。


「おじさん、こんばんは。」
「おや、今日はお二人一緒ですか?」
「えへへ。今日はお迎え付きです。」
「それは良かった。」

道明寺の仕事が忙しい時には、あたしは一人でここに来ることもある。
そうしているうちに道明寺が合流してくることもあって。
だから、ここはあたし達の待ち合わせ場所みたいなもの。

実はあたし、今は道明寺のマンションに居候状態になっている。
あ・・同棲っていうのかなぁ。
だったら、部屋で待っていたらいいし、実際手料理をつくって待ってることもあるんだけど、一人で待つのは苦手。特に雨の日はダメ。やっぱり、ちょっとトラウマなんだと思う。帰って来なかったらどうしよう・・とか、未だに不安になることもある。
素直にそう言ったら、道明寺が、この店で待ってたらいいって言ってくれた。
必ず迎えに来るからって。
一人でいるから不安になるんだ、心配するなって。


だから、週に2、3回ぐらい来てるんじゃないかな、あたし。
最近は、1品料理を少しずつ注文しながら、お酒を頂くのがあたし達の楽しみ方。
そして・・・あたしの目の前には、つくし焼酎の白。
これがあたしのお気に入り。

「美味しー。」
「飲みすぎんなよ。」
「道明寺こそ。」

道明寺はいつも、『つくし黒』っていうのを飲んでいる。
「どうしてワインとかじゃなくてそれを飲むの?」って聞いてみたら、「俺のラッキーアイテムだ」なんて道明寺らしくない可愛いことを言ってた。なのに、その理由は教えてくれないんだけど。

「甘いの苦手だったよねぇ?」
「これはそれほど甘くねぇよ。」
「ふーん。ちょっと頂戴・・・うっ、げ、ちょっと濃いかも・・」
「ストレートだからな。」
「焼酎ストレートって・・・」
「水で割ったら酒じゃねぇよ。」
「ふーん。」

こうやって、このお店で、あたしはつくしの白、道明寺はつくしの黒を飲むのがあたし達の定番。
カウンター席に座っている間も、あたしの左手は道明寺に握られたままだ。
だから、道明寺は左手でお酒をのんで、おつまみはあたしが口に運んであげている。
今までのあたしなら考えられないぐらいに恥ずかしいバカップルぶりなんだけど、もう、どこにも行かないの言葉通り、道明寺はあたしを離さないでいてくれる。


こんな風に、この1か月は穏やかに時間が過ぎている。
そのために、道明寺が無理をしているのも分かっている。
それに甘えているのはあたし。
でもそのおかげで、道明寺が一緒にいてくれるから、寂しかった7年間の記憶もだんだんと懐かしい思い出に変わってきてる。
今、二人でいる事こそが現実で、あたし達はずっと一緒に幸せになれるんだって思えるようになってきた。

不思議だね。
一緒にいればいるほどに、もっともっと一緒にいたいと思うなんて。
ねぇ、あたしたち、ずっと一緒にいられるよね。
それで、いいんだよね?



つくしの白はすっきりとした後味で、悪酔いなんて殆んどしない。
初めて来たときに、「お前と同じ名前の焼酎を見つけた」なんてすっごく嬉しそうに道明寺が言うから、興味津々で飲んでみたんだけど、名前が同じだからかあたしに合っているみたいで、このお酒を飲むとふっと気持ちが楽になって、いつもより饒舌になるんだよね。
素直になれるお酒。
あたしの気持ちを伝えてくれるお酒・・かな。
だから、あたしにとってもこの焼酎は『ラッキーアイテム』になっている。

こうやって、少しずつお酒を頂きながら、二人で食事するなんて本当に贅沢な時間。
ねぇ、道明寺。
こうやって、ずっと一緒にいたいね。

だから・・さ・・・


「ねぇ、道明寺・・・」
「ん?」

ストレートのつくし黒を一気に空けてから、道明寺があたしを見た。


「やっぱりあたし、もう結婚したいな。」

何の前触れもなく、突然そんなことを言ったあたしに、
道明寺が目をぱっちり開けたのが面白くて、

「あは、ごめんね、我儘で。・・・ダメかな?」
って聞いたら、

道明寺がすごい勢いで、1万円札を2枚カウンターに置いて、

「釣りは要らねぇっ!」

って言って、あたしの手を引いてお店を飛び出した。




だってさ・・・
もう、十分だって思ったんだもん。

もう、いいよね、あたし達。
だって、7年も待ったんだもんね。
これ以上、待つ必要なんてない。
道明寺に無理させる必要なんてない。

なんで、こんな簡単なことに気付かなかったんだろう。


二人でいるのが当たり前の毎日・・・
それって、あんたの奥さんになれば、叶えられるのにね。


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Comments 5

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Happyending  
こんばんは!②

花●様
どこ行くと思います?私、これ、皆様の期待を裏切ってるかも・・・と思いましたよ、、今更。まぁ、いっか。決めちゃったし(笑)。携帯機種変更されたんですねぇ。私、もう変えたくないです・・。アンドロイドからiphoneに変えたときは本当に大変だった。今思えばアンドロイドの使い勝手の方が良かったかなと後悔もあります。ブックマークありがとうございます!!ということは、スマホからなので、PCテンプレートは見ないかもですが、たぶんスマホ用テンプレートの上のほうにPC表示できるところがあって、そこを押すと新しくアイキャッチ画像が入ったPCテンプレートを覗けます。まだ全部のお話に画像つけてないので、一部ですが・・。お話にカメラマークがついているのはそのせいです!

L●様
拍手コメントありがとうございます。
ね?どこでしょう?これ、意外かも??(笑)。

he●様
忙しいですねぇ。でもこのお話は終わりにしないとっ!と思っています。つくしちゃん、素直ですよね。7年離れていたからこそ・・その通りだと思っています。7話目は、つくしちゃんの我儘を聞いてあげたくて、二人が普通の恋人同士として一緒にいられるところが書きたかったんです。司も少し振り回されないとね!ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。

サ●様
いえいえ、コメント無理されないでくださいね!終わりにするする言いながら、なかなか終わらずごめんなさい。楽しく書いていますので~。もうちょっとお付き合いくださいね!


では、明日5時の予定です!
ていうか、眠いっ!

2017/12/19 (Tue) 00:39 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
こんばんは!

いつもたくさんの拍手をありがとうございます!
しまった・・まだ、終わらないです。終わらせたいのに・・でも、自分で納得いくところまではきっちり書きたい・・みたいな。だから、なかなか短編が書けないんですよね。あと2話・・でいけるかなぁ。

あ●様
コメント、気を使わないでください。思った通りにどうぞ!です。いつも、あ●様のコメント面白いです。いろんな見方があるなぁって新鮮ですよ!そうそう、日曜日は暇を見つけてテンプレートいろいろ変えてました。プレビューだけじゃ分からないこともあって、いったん変えてしまわないと試せないから・・(;^_^A ブログの止め方も分からないし、そのまま何度もテンプレートばっかりが変更していたかも・・そのタイミングでブログを覗いてくださった方はきっと驚かれたと思います。あはは・・・すみません(-_-;)

スリ●様
結婚式・・・いるかなぁ?どうしよう??実は、結婚式がRと同じぐらい苦手です!いつもおんなじじゃんっ!って思っちゃうんです。リレーの時も、結婚式だけは書きたくない~って言ってた気がします・・(^^;) そうそう、アイキャッチ画像。新しいテンプレートに少し入れてます。これ、画像選びも大変ですね。私はセンスないから・・。Switchとか画像選べません・・(涙)。

2017/12/19 (Tue) 00:27 | EDIT | REPLY |   
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2017/12/18 (Mon) 20:58 | EDIT | REPLY |   
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2017/12/18 (Mon) 07:14 | EDIT | REPLY |   
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2017/12/17 (Sun) 23:51 | EDIT | REPLY |   

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