Happyending

Happyending

「おはようございま・・す。」

新年の経理課に一歩足を踏み入れたあたし。
首元には専務のマフラー。
専務の香りが残っているからどうしても身に着けておきたくて、あれから毎日巻いている。


「あーっ!マキちゃんっ。あけおめっ。っていうか、今日から秘書課じゃないの?」
「えっと、まだ、辞令下りてないし。引継ぎもあるしね。」
「そっかぁ。でも、びっくりしたぁ。経理課から秘書課でしょ?しかも、専務直々の引き抜きだなんて!羨ましい~っ!!」

同期の篠ちゃんはお隣の人事課。いい子なんだけど、かなりミーハーなんだよねぇ。

「宮川さんといい、専務といい、イイ男はみんなマキちゃん狙いかぁ。」
「え・・?」
「だって、あの専務の視線は普通じゃなかったよぉ。仕事の打ち合わせって言ったって、あの登場は無いよね。絶対マキちゃん狙いだと思った!違うの?」

・・何て答えていいのか分かんない。
あの登場には、あたしだってびっくりした。
だからって・・・

「あの後、みーんな、ナマ専務に度肝抜かれて、だーれも二次会行かなかったんだから。」
「なんで?」
「だって、専務を間近で見れた余韻に浸りたいじゃん。で、女の子だけで女子会!」
「わっ、いいなぁ。」
「何言ってんのよ。マキちゃん来たら、袋叩きよ。」

きゃあきゃあ言ってる同期の篠ちゃんとの会話。
経理・総務・人事課がひしめき合うこのスペースで、みんなが聞き耳を立てていそうで怖い。
だって、疚しいことが、あると言えば・・ある。

「で、専務とは結局、どうなの?」
篠ちゃんが、こそっと耳元で言った。

「どうもこうも、仕事のことで呼び出されたんだよ。」

言える訳ない。専務と付き合ってますだなんて。
篠ちゃんのこと信用してるとかどうかじゃなくて、いわゆる社内恋愛・・になるのかな?
しかも相手が上司、しかも専務だなんて、噂になったら大変だ。
いや、もしかしたら大変なのは専務の方なのかも・・あたしとの噂なんて・・・。
せっかく西田さんが上手くその場を取り繕ってくれたんだもの、専務とお付き合いをしていることは、会社では絶対に秘密・・ってあたしは固く誓ってる。

「本当に~?ま、いっかぁ。それはまた今度。で、マキちゃんの仕事、あたしが引き継ぐから、心配しないで。」

きっと、あたしと専務が本気でどうこうだなんて思ってないんだと思う。
篠ちゃんがあっさりと引き下がってくれてホッとした。

「そうなの?良かった。資料は纏めてあるけど、何かあったら内線でコールくれる?」

資料はこの2日ぐらいかけて出勤して整理していた。
ああ、でも良かった。
仕事のことが気がかりだったけど、篠ちゃんなら安心して任せられる。


経理課から秘書課なんて、前代未聞の人事だ。
あたしは今日、辞令がおりたら、午前中に経理課の引継ぎと片付けをして、午後には秘書課に異動する。
2年近くお世話になった経理課を離れるのは寂しいけど、秘書課に行っても頑張るつもり。
だけど、仕事はちょっと不安だ。
専務は「西田が見込んだんだから大丈夫だ。心配するな」なんて言ってくれたけど、西田さんは一体あたしの何を知っているんだろう。
特待生で入学した永林大学の成績は悪くなかったけど、優秀な人材は、入社時点で営業や企画部に回ると言われている。だから、通常は秘書課に移動になるのはそのあたりの部署からばかりなんだよね。経理課に配置されたあたしが会社で一目置かれるとは考えにくい。
一応秘書検定は持っているし、英語とフランス語は大学で完璧にマスターしてる。その他、大学では目一杯講座をとって、知識はたくさん身につけたつもり。でも、自信ないよ、大丈夫かな・・・なんて、ちょっと緊張しながらすっかり頭の中は秘書課へトリップしていたら、

「あ・・ねぇ、マキちゃん。宮川さんなんだけどさ。」
「え?」
「なんでも、来週から、大阪支社に異動になるんだって。」
「大阪?」
「うん。あっちの営業係長になるんだって。だから、一応栄転みたい。でもさ、宮川さんには悪いけど、お付き合いしなくて良かったかもね。だって、いきなり遠恋もねぇ。」
「う・・ん。」

宮川さんにはっきり交際を申し込まれた訳じゃないけど。
大阪に、栄転かぁ。へぇ・・。

「それで、今週末、お別れ会があるんだって。牧野さんも是非にって。集まるのは下っ端だけだから、一緒に行こう!」
「えっ!?」
「別に、今更マキちゃんとどうこうってことじゃないと思うよ。でも、最後だし、態々声を掛けてくれてるしさ、行ってあげようよ。」

そりゃあ、最後だけど。
忘年会では幹事のくせにいきなり消えて迷惑かけちゃったけど・・

・・・無理。
悩むまでもなく・・・無理なのよ!!



元旦から、実は専務には会えてなかった。
彼ははやっぱり多忙な人で、夜は会食や会議が多いし、あたしも家族と同居している身で、そんなに頻繁に外泊っていうのもできないし。ましてや、お付き合いしている人がいるだなんて家族に話してもいない。
専務は結婚・・なんて言ってくれたけど、それだって、実際にはどうなるかは全く分からないもの。初めて好きになった人だから、期待していないっていったら嘘になるけど、今はそういう真剣な気持ちでレンアイが出来てるってことだけで満足してる自分がいる。

彼は毎日電話もメールもくれる。
夜は必ずおやすみのコールもしてくれる。
結構寂しがり屋で、いつも「会いてぇ」ってグチグチ言ってるんだけど、会えないのは専務が忙しいからなんだけどね。泊りに来いって言われても、そんなに何度もうちも空けられないのよ。
それに、か・な・り・心配性だ。
未だに宮川さんのこと気にしてる素振りもあるし、あたしが一日何をしたか知りたがるし。
何より付き合い始めたときから一貫して、「男に誘われても食事に行くな」は崩してない。っていうか、ほぼ毎日言われてる。
職場の公式な行事はともかく、非公式な飲み会とか、合コンは即アウトだと思う。
行くなら俺も行くなんて脅しをかけてた。
全く・・専務にそんな暇ある訳ないのにね。

そんな面倒くさそうな人なのに、あたしは案外嫌じゃない。
束縛されるのが嫌だっていう気持ちはあるんだけど、あたしに関して言うと、もともと飲み会もそんなに好きじゃないし、男性と食事に行きたいとか思ったりもしない。仲良しの滋さんや優紀と、美味しい居酒屋さんとかレストランを探して食べに行くのは大好きなんだけど。
だから、女子会禁止は嫌だけど、男性参加の飲み会禁止はそれほどストレスにならないんだよね。
滋さんには、「道明寺司って、懐狭いのね」って言われたけど、逆にあたしも専務があたし以外の女性と食事に行くのはやっぱり嫌。仕事とか付き合いとか、仕方ないって思うけどさ。自分がこんなことを思うなんて、ちょっと驚きだけど。
今まで、本気で好きになった人がいなかったからなのかな。
恥ずかしいけど、いわゆる独占欲っていういの?
こんな気持ち初めて。
これも恋の仕業なのかなぁ。

うっ・・・うんっ。
まぁ、いずれにせよ、そんな専務が営業課との飲み会なんてオッケーするはずない。


「ごめん。週末は、予定入っちゃってる。」
「ええ~!残念っ!」
「ごめんね。」
「それ、最後なんだから、宮川さんに直接言ってあげなよね。」

うーん。
でも、営業の人となんて、もう会うことは無いと思う。
連絡先も内線しか知らないし、態々内線鳴らすなんて・・ねぇ。



そんなこんなで、午前中の引継ぎを粛々とこなし、部長から正式な辞令を受け取ったあたしは、午後から専務秘書室へ異動することになった。








***ここからは、わたくし、
専務第一秘書西田目線でお届け致します***


「牧野は?どうしてる?」
「午前中は経理課の引継ぎをして、午後からこちらへ上がってもらいます。」
「午後って、何時?」
「・・・・・13時です。」
「あいつ、メシどうすんだ?腹減ると機嫌悪ぃから、なんか用意しておかねぇと。」
「・・・・・・・。」

そわそわ・・そわそわ・・・
今日の坊ちゃんは落ち着きがありません。
完璧に整えられたスーツと父親譲りの癖の強い髪型を何度も確認しては、フランス製の特注の椅子に腰を下ろしてクルクル回っておられます。
そして、上機嫌・・・。
秘書の食事の配慮をするなんて・・坊ちゃん付きの秘書になってこの6年、私に対しては一度もされたことなどないというのに、それもこれも、全ては、牧野さんのため。
この日のために2日間猛烈に詰め込んだスケジュールも文句を言わずにこなされたことは、褒めて差し上げねばなりません。


坊ちゃん・・いえ、当社専務が、牧野さんに出会ったのは、恐らく半年前のエレベーターの中。
女性を毛嫌いする専務が、牧野さんに興味をもたれました。
夏に役員階で見かけてからは、専務は何かと一般エレベーター近くを通ることが多くなりました。
いつもは地下駐車場から役員階直通のエレベーターを使い、一般社員の目に留まることは無かったというのに、外出時にはロビーを通るようになり、時々、経理の牧野さんを見かけると一瞬だけ専務の足が止まることに気が付きました。


牧野つくしさん 24歳(当時)
彼女は永林大学の特待生制度を利用して卒業した優秀な学生で、経済学部卒業後、道明寺HDに入社。
大学当時に秘書検定をとっていたことから、昨年4月に帰国した時点で、私の目に留まっていました。
何故なら、私は日本での専務付秘書を探していたから。
道明寺HDの秘書課に配属を希望する女性社員はとても多く、その目的は、言わずもがな。
何れ帰国する、道明寺司の傍で働きたい・・それが何を期待するものであるかは明らか。
そういった女性たちを専務に近づけないことこそが、専務の仕事をスムーズに遂行する近道であることを十分に熟知している私は、女性秘書の選定には慎重になっておりました。

牧野さんの入社試験の成績は優秀で、最終面接時には「これからの企業に必要なもの」という問いに対して、「ソフト面の強化」、つまり人材教育を上げています。これは今の当社にとって大きな課題でもあり、これからの日本企業を支える柱となる部分で、私はこの回答が非常に気に入りました。
道明寺というハードに依存せず、内部社員の教育こそが基本というのは私の考えに一致。
通常であれば、企画か営業に配属されるであろうほどの好成績であったにも関わらず、彼女は経理課配属となっていました。
それは、同期入社に、それなりの家柄の人物が多かったからで、当時の人事部長の采配。
こういった私利私欲に走った人事をする男は、本社には必要ない。
私は迷わず、この男を北海道に飛ばすように動きました。

経理課での牧野さんの仕事ぶりも、その人柄も、文句の付け所がありませんでした。
しかも、専務が目をつけているのは間違いなく・・
来年には司様の誕生日パーティーが控えているため、そろそろ女性秘書が必要。

私から動こうかと考えていた時に、なんと専務が牧野さんにアプローチを開始っ!
願ってもないチャンスが巡って参りました~!
専務と牧野さんがお付き合いをする→牧野さんを秘書課へ引き抜く→私が楽になる!!
牧野さんが秘書課に異動すれば、専務のためにも、この私のためにも良いではないか!!
まさに、一石二鳥とはこのことです。

専務と牧野さんが上手くいきますように・・・
とひたすら祈りました。


ニューヨークで牧野さんへの指輪を買い求める専務を後ろから眺め、自分の肩の荷が下りる日も近いと確信しました。
万が一、専務が牧野さんに振られでもすれば、きっと道明寺HDは崩壊する。
それぐらいに司様は真剣に、そして終始幸せそうに指輪を選んでいらっしゃった。

牧野さんの誕生日は、各課の忘年会に当たっていて、その忘年会の終了ギリギリに店に寄る手筈だったのに、異様な速さで仕事を終わらせた専務は時間よりかなり前にレストラン前に到着されてしまいました。

長年の勘で、トラブル察知能力の高い私。
・・・まずい・・・・・

案の定、専務はレストランに突入してしまったが、そこはわたくし西田の腕の見せ所。
もう一歩も後ろに引き下がれない状況になっても冷静に対応するのが一流と呼ばれる秘書。
その後チェックした営業の宮川知樹は、大阪支社異動へと手を打ちました。
栄転ですよ、栄転。


そして、私の努力も報われることとなりました。
これで、やっと、長年続いた坊ちゃんの無駄なおもり(ご機嫌取り)から解放されます・・・・






「牧野さんは食堂で食事を済ませてから上がってきますので、その心配は無用です。」
「あ?」
「我が社の昼休憩は12時から13時と決まっております。ですので、牧野さんはその時間に・・・」
「フザケンナッ!俺はそんな休憩貰ってねぇっ!」

時計を見れば、12時10分。
遅くとも10分前には牧野さんがこちらへ来るとしても、まだ時間がある。

・・・まずい・・・・・


「俺も行く。」
「・・・・・・。」
「何黙ってんだ。行くぞ、案内しろ。」


甘かった。
わたくし、余計な仕事を抱えてしまったのかも知れません・・・。


にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

これからどんな展開にしようかな~(笑)。
投稿時間がまちまちですみません。なかなかペースがつかめなくて。
見かけたら応援頂けると嬉しいです!
関連記事
Posted by

Comments 6

There are no comments yet.
Happyending  
こんばんは~(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
書き込みすぎたなぁと思っていたので心配でしたが、楽しんで頂けたようで私も嬉しいです。

さて~
ラー子様
あはは。楽しんで頂けて良かったです。ホント、西田さんに幸あれ~ですねっ(笑)。コメントありがとうございます!

スリ●様
以前にスリ●さんに、宮川さんのその後って言われてたので、西田さんが飛ばしちゃいました(笑)。花晴、ドラマ化なのですねぇ。F4出ないかな~。本当に、そこが楽しみですね!

花●様
こちらの西田さんは楽になりたかったみたいです(笑)。咳のしすぎでぎっくり腰ですか!私ここしばらくなっていませんが、本当になったら相当辛いですよ!気を付けてくださいね~。インフルって仕事とか行けるようになってもまだ辛いですよね。ああ、私もそのうちかかりそうだなぁ。嫌だぁ(>_<)

き●様
ツボで嬉しいです!そうか、やっぱりバカップル好きですか?(笑)。思いがけず、結構いらっしゃるんですよ。バカップルOKの方々が。バカップルしてると先に進まないんですけどね(笑)。次はどうでしょうか?お楽しみに(*^^*)

さと●様
ナマ専務の生絞り!うけたっ!!ピロートークランキング1位でしたか!?やったぁ(笑)。宮っちですね。宮っち。うふふ。それに近い展開にしちゃってます(笑)。ちょっと可哀そうで申し訳ないんだけど、君はもう、そう言うキャラなのだ。ごめん宮っち・・。西田さんにもがんばってもらいましょーっ。コメントありがとうございました。

仁●様
お久しぶりです!お仕事、相変わらずお忙しそうですね。甘ーいのですね(笑)。一応、了解です!そう言われて、毎回西田目線の呟き面白そう・・と思ったりもしたんですが、結構大変そうなので、また気が向いたら西田さんへ(笑)。はい、また更新が途絶えたらお尻を叩いてくださいね。本当に寒いですね、お互い気をつけましょうね~。

he●様
やっぱり雪ですか。こちらもチラチラと降るのですが、積もるまでにはなりません。つくしちゃん、何食べるでしょうね!(笑)。

ではでは、一応、明日。
もうちょっとで書き終わりそうなのでがんばろうかな!

2018/01/26 (Fri) 00:54 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/01/25 (Thu) 12:10 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/01/25 (Thu) 09:18 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/01/25 (Thu) 05:49 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/01/25 (Thu) 00:18 | EDIT | REPLY |   
ラー子  
面白すぎます!

いつも楽しく拝見させてもらっております。

西田さん視点、すごく笑えますー!
坊ちゃんを見守る西田さんに幸あれ。

2018/01/24 (Wed) 23:01 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply