Happyending

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朝、目覚めると、そこは天蓋付きのベッドで、開け放たれたカーテンからは真っ青な海が見えた。
キラキラと朝の光に反射する水面が眩しい。

・・・・あれ?
ロッキングチェアがある・・
あたし、あれに隠れてたんじゃなかったっけ?


だんだんと頭がクリアになって、ガバッと身を起こした。

「よう、起きたかよ。」

朝から心地よく響くヴァリトンボイス。
後ろを振り返ると道明寺がカフスボタンを留めながらこっちを見ていた。
ただそれだけのことなのに、凄い色が気漂って、あたしは自分の顔が赤くなるのが分かった。

「くくっ・・・お前、爆睡だったぜ?」

何となく気まずいあたし。
そっか、あのまま寝ちゃったんだ。
そろっとベッドから起き出して、道明寺のところまで歩いていって、背の高い恋人を見上げた。

「おはよう。」
「はよ。」

朝の挨拶。
当たり前のことができる喜び。
ボタンを留め終えた道明寺に思わず抱き付いた。

だって、これで終わりなんでしょ?
もう、仕事に行っちゃって、バイバイなんでしょ?

去年、桜子たちに連れられてアメリカに行った時もそうだった。
ほんの数時間ずつ仕事の合間に会えただけで、ずっと一緒にいることは出来なかった。
こいつがそれほどに忙しいって分かってたけど、やっぱり寂しかった。
だから昨日は一晩ずっと一緒にいられると思って嬉しかったのに・・・まさか寝ちゃうなんて。

道明寺があたしの背中を抱き締めてくれる。

胸いっぱいに道明寺匂いを吸い込んで、元気を補給。
次に会える時まで・・・そう思った時に、

「お前の着替え用意してるから、急いで着替えろ。」
「え?」
「もうすぐ西田が来るから。」
「あ、そうなの?大変!」

まったりしている余裕もない。
パッと道明寺から離れたら、彼の顔が斜めに近づいてきた。
チュッというリップ音。

「朝はこれぐらいしろよ。」

なんてニヤッと笑う道明寺。
そんな俺様な笑い方が好きだなんて絶対に言えないけど、あたしはこいつのこういう愛情表現が好き。



道明寺が開いたクローゼットにはいつの間にかあたしの服が掛けられていて、その中を覗いたら、そこには紺色のスーツが掛けられていた。
あたしだって来年からの就職活動にあたって、スーツぐらいは用意してるけど。
目の前にあるスーツは明らかに高級品で、そっと手を振れると肌触りがとてもいい。

「あたしもスーツ着るの?」
「ああ、それしかねぇからとりあえず着替えろ。パジャマって訳にもいかねぇだろ?」
「う・・うん。」

急いで顔を洗って、それから紺色のスーツに着替えた。
インナーにはシルクのボウタイのブラウス。
スーツの絶妙なシルエットと言い、お洒落なブラウスといい、あたしが持っているリクルートスーツの雰囲気とは全く違う。
まるで、道明寺の秘書にでもなったみたい・・・
そんな風に思ったあたしは、持ってきた鞄の中に入れていたバレッタで髪を一つに纏めた。

なんか・・・いいかも?
姿見を見ながら自己満足していたら、声が掛かる。

「準備できたか?」

階段を上がって来た道明寺が目を見張った。

「ど・・・どう?」

「いいな、すげぇ似合う。」

「そう?」

良かったぁとほっとしながらもドキドキしているあたしの全身を眺めて、道明寺ってば凄く嬉しそう。
あたしの腰に腕を回して、あたしを階下へエスコートする。


「おはようございます、牧野様。」
「西田さん!?」

階段を下りたリビングには西田さんが直立不動で立っていて、
思わずドンッと道明寺を突き飛ばしちゃった。

「おいっ!いてぇじゃねーか!」
「だって!」

「ゴホンッ!!」

西田さんの咳払いにビシッと姿勢を正す。
隣の道明寺も姿勢を正していて笑っちゃう。


「牧野様。」
「はっ、はい。」
「本日の午前中は、司様の臨時秘書をお願い致します。」

りんじ・・・ひしょ?
真面目な顔をして、この人ってば何を言うの?

「ご・・御冗談・・を・・・」

「冗談なんかじゃねぇ。行くぞっ!!」

またしても道明寺があたしの腰に手を回した。

ちょっと、ちょっと待ってよ!!
そのままグイグイと引っ張られてしまうあたし。

「西田さんっ!!」

「まずは、司様の朝食のお付き合いをお願いします。」

「西田さんってばっ!!」

「秘書らしい振舞いをお願い致します。」


ええーっ!!
なんでっ!!




***



なんていうか・・・あたしって、順応性が高いのよね。
ほら・・昔から色んなバイトをしてるし?人間関係もいろいろ見てるし?

「コーヒー、お代わり頂きますか?」
「ああ、頼む。」

目の前に座る男は、あたしの上司・・・という設定。
すっと手を挙げてボーイさんにコーヒーを淹れてもらった。

「コーヒーばかりじゃなくて、こちらのサラダとオムレツにも口を付けてください。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」

ぷっ・・・って、同時に二人で吹き出した。
どんな遊びよ、これって。

「いいな、これ。」
「ん?」
「お前が俺の秘書だったらいいのに。」

あたしが道明寺の秘書だったら・・かぁ。
そんなのあり得ないけど。

「今日だけね。」
「おう。」

この時間は、西田さんがあたしたちにプレゼントしてくれたもの。
本当はこんなのできないって断りたかったけど、表情には出さない西田さんの気持ちが嬉しかったから、あたしはそのまま道明寺の後ろを歩いて朝食会場へやって来た。
そうなると不思議なもので、この仕立てのよいスーツのせいか、いつもより高いヒールのせいか、持たされた黒い皮の鞄のせいなのか、気分はすっかり道明寺の秘書になっちゃっている。

向かい合ったあたしたちは、たぶん恋人同士じゃなくて、上司と部下に見えるはず。
そんな雰囲気もあたしの気持ちを軽くしてくれた。

鞄の中の手帳を開くと、1ページ目に今日の予定が書かれていた。

9時半から、このホテルのカンファレンスルームで、ドバイ政府官僚との面談。
その後は、メープルで航空会社との面談があるらしい。
それが終わったら、午後はオフ。
頬が緩むのを抑えられないのは・・あたしだけじゃないよね?





ドバイ政府との面談。
このドバイに多くの資本を投入している道明寺グループと、その恩恵に預かっている政府とでは道明寺の方が有利に話を進めている印象だった。

道明寺の隣には当然西田さん。
その隣に、何故かあたし。
テーブルに並べられた資料を見つめながら、英語で交わされる会話を唯々聞いていた。

ビジネスのことなんてさっぱり分からないあたしだけど、道明寺が口を開いた瞬間にこの空間に走る緊張感は痛い位に感じられる。
この男が何を話すのか。彼が話す内容にその場にいる誰もが注目する。
決して口数は多くない。冷静・沈着。
そして、恐らく・・・的確。

西田さん以上に変わらない表情はあたしと一緒にいる時には絶対に見ることはない。
その視線の鋭さ。
あたしより1つ年上なだけなのに、この存在感はなんだろう。

道明寺が政府の代表者と握手を交わす頃には、たぶん道明寺グループに有利な方向で話は決着していたんだと思う。
けれど部屋を出てからも、道明寺の緊張は揺るがない。

ホテルの廊下を歩いていれば、誰もが道明寺を振り返る。
彼の後ろを歩くあたしにはそれがよく分かった。


道明寺が世界を相手に戦っていることは知ってる。
こいつが、実は凄い仕事をしていることだって分かってる。
あたしには到底口を出すことなんて出来ない世界で戦っている人。

そんな彼に、あたしは何をしてあげられるんだろう?



ホテルの地下で、迎えのリムジンへ乗り込んだ。
西田さんは助手席へ。
もたもたしていたあたしは道明寺に言われるがままに、後部座席へ座った。
運転手さんがドアを閉めた途端、

「はぁ・・疲れた。」

ふうっと表情を緩め、あたしを抱き締める道明寺。

その姿はさっきまでの彼とは全く違う。
いつもあたしの前にいる彼の姿。
結構甘えん坊なんだから・・・

ああ、そっか。
あたしはあたし。
彼が必要としてくれているのは、いつも通りのあたしなんだ。

トントントンと道明寺の背中を軽く叩く。

「お疲れ様。」

子供をあやすみたいに言ったけど、本当はあたしの方が満ち足りていた。

だって、彼がこんな姿を見せるのは、きっとあたしの前でだけ。
そう思えたら、それが凄く嬉しかった。
何にももってないあたしだけど、あたしにも彼に与えられるものがある。
緊張の合間に、少しだけど安らぎを・・・
あたしも、少しは彼の役に立ってているのかな?

ほんの1分位そうしてから、
道明寺が体を起こした。


「あと1つで終わりだから。」
「うん。頑張って。」
「午後は何をしたいか考えとけ。」


顔を上げた道明寺は、もうビジネスマンの顔に戻っていた。
その横顔は見惚れるぐらいにかっこいい。

黙って次の面談の資料に目を通す道明寺を見つめながら、

ドバイに来て良かったなって、
こんな彼の姿を見ることができて良かったなって、
あたしも日本で頑張ろうって、
本当にそう思った。



えへへ・・・
今日の午後はオフだから、もう少し頑張ってね。

午後には何をしようかなぁ。


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Comments 4

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Happyending  
こんばんは(^^)

いつもたくさんの拍手をありがとうございます。

さてさて、
花●様
私もつくしになった気分で書きました(笑)。っていうか、いつの間にこんなに素直なつくしちゃんに・・(^^;)
完璧私の欲求不満?(笑)。ちょっとぐらい甘くてもいいよね~ってことで!

スリ●様
そうそう、思わず素直なつくしちゃんになってしまいました。だって、天邪鬼なつくしちゃん、書きにくいんだもーん(笑)。最近バタバタしているから、原作っぽくとかあんまり考えてなかったかも(笑)。やれやれ・・です。

あ●様
ね~、羨ましいですよね~。私もつくしちゃんになりたいです、ホント!そして午後は・・?覚えてました??やっぱり、それかなぁ・・(笑)。講習会、がっつり聞いてきましたよ~。今後もいくつか受けないとですが、まぁ、何とかなるでしょ~!でも、若かりし頃よりも断然記憶力が落ちてる・・ショック・・(^^;)

明日の朝更新をめざして頑張ろうと思います!

2018/03/13 (Tue) 22:17 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/13 (Tue) 00:04 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/12 (Mon) 17:54 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/12 (Mon) 09:52 | EDIT | REPLY |   

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