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Happyending

Happyending

メルセデスAMG GTの限定モデル。
特注品のエアロパーツは世界で唯一のもの。
攻めの走りに対応するコーナリングの安定性に口角が上がった。

趣味など持たない俺の数少ない楽しみがドライブだった。

1週間の休みと言われても、特にすることなんてない。
結論なんてすでに決まっている。
望まない結婚と子孫を残すという義務。
そんな足枷が増える日まで、唯々時間が過ぎるのを待つしかない俺が選んだのは、宛もないドライブの旅だった。


つまらねぇ・・・
いっそ、この命が尽きてしまえば、道明寺という血からも永遠に逃れることが出来る。
そう分かっていても、死ぬことすらできない自分に苛立った。

気が付けば数時間高速道路をぶっ飛ばしていた。
宮城に入り、日が傾いたところで見知らぬインターを下りたが、ここがどこだかは分からねぇ。
ナビを見たところで、分かりもしない地名だ。

海岸沿いのクネクネと曲がる田舎道を軽快に飛ばしてきた俺だったが、そろそろ潮時だ。
夕日が海に沈む頃、街灯もないこの道は途轍もなく暗くなり、ハイスピード運転は不可能になった。

このまま海に飛び込んじまえばいいのにな・・・
なのにそれが出来ないもどかしさ。
自分の肩に圧し掛かるものが何であるのか、分からないガキでもなかった。


徐々にスピードを落とし、田舎の国道に作られた待避所らしき場所に車を止めた。
既に夕日は沈み、漆黒の海が広がっている。
まるで俺の人生そのもの。
どこまで行っても暗い闇。
毎日昇る朝日も、俺にとっては道明寺の後継者としての義務を果たせと無理矢理に下される宣告に過ぎない。
朝が来ても闇に向かうだけ。
それなら、ずっと闇だったらいいのに・・。
朝を迎えることに何の価値も見いだせないのだから。


ガードレールに腰を掛けて、真っ暗な海を振り返りながら、これからのことを考えていた。
1週間後、東京に戻れば見合いが待っている。
恐らくその場で婚約が整い、早々に披露宴というところだろう。

くだらない・・・
心底くだらない俺の人生。
俺が生まれてきた意味は、この道明寺の血を絶やさないという目的のみ。

ビジネスでは飛ぶ鳥を落とす勢いの俺。
ビジネスの結果は自分を裏切らないから、俺にとっては天職だと思えた。
他のことは何も考えず、ビジネスのみに没頭する・・そんな数年間を過ごしてきた。
それだけが、自分の心に残る僅かな平穏を保っていたんだ。
だが、お袋の言葉はそんな俺をまたしても闇に突き落とした。
両親にとって、俺は財閥を維持する道具に過ぎないんだと。
どんなに努力をしても、逃れられない定め。
どこかで分かってはいたものの、認めたくもない話だった。


いつまでもこうしてはいられない。
こんな田舎に宿があるはずもなく、どこか都会に出ないとと寝泊まりも出来ない。
いざとなれば車で寝てもいいが、シャワーも浴びねぇと・・・

そろそろこの場を動こうと思っていた時に、


「だめよっ!命をを粗末にしちゃっ!!」


女の叫び声と同時に、ふわりとフローラル系の香り。

直後に____ドスンッ!!

牛にでも激突されたのかというような衝撃。


突然の出来事に、俺は足を踏ん張ることも出来ず、そのまま後方へと落ちていった。
スローモーションのように落ちる瞬間に、俺に抱き付いているのは、髪の長い女だと分かった。
俺を守るように俺にしがみ付いている。

下は、岩場のはずだ・・・やべぇっ!

すぐにそう気が付いた俺は、
その時、どうしてなのか・・・
その女を胸の中に抱きしめていた。

落ちる直前に、『命を粗末にするな』と聞こえた気がする。
ああ、それなら俺は、自分の命は要らねぇ。
しょうがねぇから、お前の命を助けてやるよ。
それなら粗末にしたことにはなんねぇだろ?
どうしてか、そんなことを思っていた。



___バッシャーン!!

7月とはいえ東北の海は冷たかった。
冷てぇ!と感じた次の瞬間には、背中に激痛が走った。

だが、予想よりもはるかに海が深く、ゴボゴボと二人で沈んだ後は、周囲の岩にぶつかることは無かった。
意識はしっかりある。
女を抱き抱えて、浮上した。


ザバンッ!!


「ブホッ!!」

水面に顔を出し、すぐに女を岩場に引き上げた。

「おいっ、しっかりしろっ!!」
「ゲホッ・・ゴホッ!ゴホッ!!・・・あ・・れぇ・・?」

どうやらこいつの意識もしっかりしているようだ。
俺も、こいつも生きている。

「姉ちゃん!!」

岩場を伝うように下りて来た一人の男。
この女の弟なんだろう。

「大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃねぇよ。」

海水で濡れた前髪をかき上げながら、間髪入れずに応えてやった。

「・・進?」
「姉ちゃんっ、大丈夫!?」
「あれ?あの人・・は?」
「目の前にいるだろ?」

どんなボケた会話だ。
何度かゆっくりと瞬きをして、漸くしっかりと目を開いた女と目が合った。
大きな瞳が、月明かりに輝いて見える。

「あっ・・あなた、大丈夫!?だけど、死ぬなんてだめよっ!!」
「はぁ?」
「絶対にだめ!何があったのかは知らないけど、生きていればそのうちいいこともあるからねっ!」
「何言ってんだ、お前は。お前が俺を突き落としたんだろーがっ。」

「へ・・?」

拍子抜けするぐらいにボケた女の反応。

「俺は自殺志願じゃねーよ。」
「そっ・・そうなのっ?」
「勝手に早まるな。」

そう言った俺をぽかーんと見つめたかと思うと、急に俺の前で両手を合わせるボケ女。

「やだぁ・・ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」

こんなすっとぼけた女を本気で怒る気にもなれねぇし。
それに俺はこの時、死んでもいいと思っていた事には間違いない。
この女を救って、俺が死んでもいいと・・・

「と、とにかく、歩けますか?医院まですぐですから、歩きましょう。そのままじゃどうしようもない。」

弟は結構しっかりした奴らしい。
海水で身体中がベトベトだ。
口腔内には塩気を感じている。
何て面倒なことになっちまったんだ・・・

「でも良かったぁ、自殺じゃなくて。でも、死のうとしたって、私が助けるつもりだったけどね!」

この女はどうやら俺を救おうと思っていたらしい。
実際には、俺がお前を救ってやったんだが・・なんかおかしくねぇか?
良かった、良かったと何度も繰り返す女を、思わずじっと見つめちまった。
珍しい動物でも見るかのように。
暗闇で顔なんか見えねぇんだけど。

「自殺じゃねぇっつーの。」
「うん。良かった、良かった。」

こんなびしょ濡れになって、一体何が良かったんだ。
それに別に俺が死んだってお前に関係ねぇんじゃねーのか?
俺が死んだところで、悲しむのは道明寺の血が途絶えることを嘆く奴らばかりだ。

「痛っ!」

立ち上がろうとした女がよろめいた。

「今度はどうした?」
「足に何か刺さったみたい・・・」
「返す返すバカだな。」
「・・・・ごめんなさい。」

サンダルでも履いていたのか、靴はすでに流されたらしい。
こんなにどんくせぇ女見た事ねぇよ。
なのにどうして・・・

「背中、乗れ。」
「え?」
「いいから、乗れ。」

どうして俺はこんなことを言っているのか。

「ありがとうございます・・・。」

女が俺の背中に体重を預けた。
その瞬間に俺の背中にはまた激痛が走った。
岩に打ち付けた背中の傷が痛む。
だけど、苦痛には感じなかった。

女の体温を感じながら、弟が先導する岩場を、月明かりだけを頼りに上って行く。
これから先何十年も続くであろう苦痛な人生の中で、その月明かりだけが、初めて俺の人生を明るく照らしてくれているような気がした。
それはどうしてなのかは、分かんねぇけど。



「本当に、ごめんなさい。ありがとう。」
「もういい。」
「けど・・・。」

くくくっ・・・
俺は笑っていた。
心の底から。

「笑ってる・・・」
「何やってんだろうな、俺。」


背中から流れる道明寺の血。
それはこのちっぽけな女を守った名誉の負傷。
この血を流して、感謝された。
それが、何故か嬉しくて、可笑しかった。


「あのさ、今日は、おいしい料理がたくさん用意されてるの。だから、お礼に一杯食べていいから。」
「ぷっ・・・」
「嘘じゃないって!」
「分かった・・・」

俺はまた笑った。
背中の痛みも忘れていた。

俺の顔も名前も知られてはいない。
だが、いや、だからこそ、こうやって一人の人間として普通に接してもらえる。
それは俺にとってはかなり貴重な体験で、

大袈裟かも知れねぇけど、
生まれて初めて、生きていて良かったと思えた。


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いつもたくさんの応援をありがとうございます。
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Comments 4

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Happyending  
こんばんは(*^^*)

いつもたくさんの拍手をありがとうございます。
やっぱり司君でした(笑)。

さてさて、
花●様
暗い人生を背負う司が笑いましたよ(≧▽≦)それに、おんぶまでしちゃいましたよ!むふふ( ´艸`)です。

スリ●様
ここからどんなロマンスが・・!たぶん、予想外・・かも?なーんて思わなくもないです(;^_^A

さと●様
つくしを助けて生かされた・・そうなんです。背中怪我してるのに、おんぶまで・・くぅ~。私もおんぶされたいです!

ふぁいてぃ~んママ様
笑ってしまった・・(≧▽≦)甘くないかも~、いや、どうかな~(笑)。もしかしたら、ふぁいてぃ~んママさん、え~ってなっちゃうかなぁ・・(;'∀')アセアセ…

明日の朝の更新を目指しまーす!では~。

2018/03/19 (Mon) 21:37 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/19 (Mon) 11:02 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/19 (Mon) 07:45 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/19 (Mon) 05:43 | EDIT | REPLY |   

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