Happyending

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「いやいや、災難だったねぇ、司君。」
「本当にねぇ。」
「だから、ごめんなさいって、何回も謝ったのよ!」
「つくしちゃんはおっちょこちょいだから~。」

大柄なゲストが一人加わって、思ったより和やかな誠先生の引退パーティーになっていた。
私の勘違いで助けたつもりが海に突き落としてしまったこの人は、『道明寺司』さんと言うらしい。





びしょ濡れで戻って来た私たちは、それぞれにシャワーを浴びた。
私は離れで。道明寺さんは母屋で。
私の左足の裏には石が刺さっていて、それを誠先生がピンセットでとって処置してくれた。
歩くとやっぱり痛かったけど、そんなこと言っていられなかった。
だって、私が着ていた白いブラウスにはべっとりと血が付いていたから。

あの人、怪我してるんじゃないの!?

急いでさっとシャワーをして、ワンピースを被って飛び出した。
それから、彼がいる脱衣所に向かったの。
私のブラウスに付いていた血はかなり多かった。濡れた衣服に滲み込んだから余計に広がっていたのだとしても、それでも普通の傷じゃないことは、看護師である私には分かった。
おんぶしてもらった時に付いたんだ!間違いない!
しかも、海に落ちる時、私は彼を守ろうとして抱き付いたつもりだったけど、次の瞬間には彼の胸の中にすっぽり包まれていた。
そのまま重力に従って落下して、ドボンと海に入った時にも私には痛みなんてなかった。

あの人が、私をかばってくれたんだ・・・絶対に。


母屋の脱衣所の戸を引くと、そこには上半身裸の男の人。
初めて明るいところできちんと見た彼は、実は凄い美形だった。
スラッと通った鼻筋。切れ長の目。薄い唇。
うちの一番大きい甚平のズボン短すぎて、申し訳ないぐらいに背が高い。
私は看護師をしているし、別に男の人の裸なんて見慣れている筈なのに、いきなり目の当たりにしたその体に戸惑ってしまった。
綺麗な体・・そう思って。

その体を直視できなくて、後ろを向くように伝えたら、目に入ったのは背中のざっくりとした傷跡。
20センチぐらいで真ん中はかなり深い。
何が、大したことないよっ!バカ言わないで!
素人が見たって病院行きのレベルじゃないの!!

慌てて誠先生を呼んで縫合をお願いした。
先生は70歳という年齢だけど処置がとても速くて上手なの。
だから、安心して任せることができた。
無麻酔で縫合できるのだって、処置が的確で速いから。
そうじゃなかったら、たとえ少しぐらい傷が汚くなったって麻酔を使った方がいい。
だけど、痛かったよねぇ・・・
処置の間中、看護師である私の手を握っている患者さんはたくさんいる。
だけどこの人は口をぐっと引き結んで目をつぶり、じっと痛みに耐えていた。
絶対に痛いはずなのに、ピクリとも動かない。
処置となると案外男の人の方が大騒ぎすることもあるのに・・。
こんなに我慢強い人、初めて見たかも知れない。

この仕事をしてると分かるんだ。
大けがとか、思いがけないアクシデントで病院に運ばれた時って、本当にその人の本質が現れる。
この人は、とても冷静な人だ。
自分が置かれた状況の判断が早く、すべきことを即実行できる能力を持っている。
だとしたら、どうしてこの人は、私のことを抱き締め、助けてくれたんだろう。
冷静なこの人なら、私を助けなければ自分が怪我をすることなんて無かったかも知れないのに・・・。



背中の縫合糸は15針。
皮膚の中も縫合しているから、合計30針近くの大きな処置。
その傷跡を消毒してテープを貼りながら、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

これはどうやって償うべきなの?
このまま帰してしまうなんて出来ないし、どうしたらいいのかと考えあぐねいていたら、彼は一人旅中だと言う。
少しだけほっとした。
それなら少しぐらいここでゆっくりしてもいいよね。
1週間後には糸を抜かなきゃいけないし、それまではお世話ができるかな?
どれぐらいの猶予があるのかわからないけれど、できるだけのことはさせて欲しい。

それにね。
なんといっても私は明日から無職。時間はあり余るほどあるんだ。
そうだ、この辺は市場もあるし、山の方に行けば綺麗なお寺もあるから、観光もできると思う。

私は、自分ができることが見つかって、嬉しくなっていた。
精一杯、この人におもてなしをしてあげよう。
彼が、良いと言ってくれれば・・・






「ねぇ・・髪型。さっきと違うね。」

シャワーの直後はストレートになっていた髪型が、今はクルクル巻き毛になっていた。
凄いわ、この変貌。印象がだいぶ違う。
いずれにしてもその美貌は変わらない訳だけど。

「天然パーマ・・。濡れるとストレートになる。」
「へぇ・・初めて知った。面白いね。」

道明寺さんは、自ら口を開くことは無いけれど、質問には淡々と答えてくれる。

「司君は、東京から?」
「はい。」

誠先生の質問にも、一言で答えてる。

東京・・・かぁ。
ズキン・・・と胸が痛んだ。
私も大学卒業後2年間は東京にいた。
だけど逃げ出してきたんだ・・東京から・・・。

そう言えば、道明寺さんは、どうして一人旅をしているんだろう。


「道明寺って珍しい名前ですね。」
と言ったのは進。
確かに、珍しいかも・・・。お寺っぽい。

「お寺さんじゃないのかい?」
「千尋さん、私も今、そう思ったの!ね、そうでしょ?」
「まぁ、そんなもんか・・・。」
「やっぱり!」

道明寺さんは、お寺の人かぁ。
思わず、またクルクル巻き毛を見てしまったら、こちらを見ていた道明寺さんと目が合って焦った。
美しい顔のこの人。
だけど彼の瞳は、どうしてか暗くて。
私をおんぶした時は笑ってたよね。
背中越しだったけど、きっと優しい笑い方をするんだろうなって思ったんだ。
だから、この人には、もっと楽しんで、笑って欲しいと思ってしまう。


「道明寺さんはどうして一人旅?」
「・・・・。」
「やだ・・もしかして・・・・。」
「何だよ・・。」

道明寺さんが眉を潜めただけなのに、
少しでも表情が変わるのが嬉しい。

「お寺で坊主になるのが嫌だとか?」
「ちっげーよ!!」

「「「あははは!!」」」

道明寺さんが顔を赤くして膨れてる。
だけど本気で怒っているんじゃないのは分かる。
だって、楽しそうだ。
道明寺さんの顔が笑ってる。

良かった・・・
笑ってくれて、良かったな。



初めは怖そうな人だなって思った。
あまりにも綺麗な顔立ちだから近寄りがたいっていうか。
だけど、ふっとしたときの表情が柔らかくてドキッとして、悪い人じゃない・・そう感じた。

用意した食事は恐る恐る食べている感じで、もしかしてこういう食事苦手なのかなって心配したけど、一口食べたら「美味い」って言ってくれて嬉しかった。
「それ、私が作った煮っころがしなの」って言ったら、不思議そうな顔をしてて笑えた。
もしかして煮っころがしを知らないの?まさかね・・。
時々眉根を寄せながら恐る恐る箸をつける、だけど口に入れた後は満足そうな顔をする。そんな表情が可愛い感じがした。
言葉遣いは少し乱暴だけど、お箸の使い方はとてもきれいで、そういえばお行儀がとてもいい。
焼き魚は骨を綺麗にとって食べていた。
そうか、お寺の人だったら鮎の塩焼きとか食べ慣れているのかも・・なんて思った。

なんていうか、不思議な人。
厳しく育てられた感じがするのに、態度が横柄だったり。
そうかと思えば、おんぶをしてくれたりして優しかったり。
私はこういう人、嫌いじゃないな。



「ねぇ、いつまでこの辺にいるの?良かったら・・・」

せめて抜糸が終わるまで、ここにいて、私にお世話をさせてもらえない?
助けてもらったお礼に・・・

そう言おうと思った時、



「先生!!助けてくれよっ!!うちの嫁がっ!!」


家に走り込んできたのは、近所に住む玄さん。
さっきもちょっと顔を出してくれていた。
最近までうちで妊婦検診を受けていた奥さんは、もうじき里帰りするはず・・・。

「いきなり腹が痛いって、出血して、おかしいんだよっ!!」

「すぐに運んで!!」

先生が真剣な顔つきに変わった。
千尋さんが、慌てて病院を開けに行く。

「どうしたらいいんだよっ!」
「玄さん、落ち着いて!」
「つくしちゃん、助けてくれよっ!!」
「大丈夫!!進っ、玄さん向こうに連れて行って。」

だめだ、人手が足りない。
こんなにパニックになっている玄さんじゃ、どうしようもない。

誰か・・・

突然の事態に驚いた顔をしている道明寺さんと目が合った。


「道明寺さんっ!お願い!あなた、奥さんを運んでくれる?奥のベッド、急いでっ!!」


この人は私の命の恩人で、
私はこの人のお世話をしたいと願っているのに、

気付けばこの人の名前を大声で呼び、
助けを求めている自分がいた。


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Comments 4

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Happyending  
こんばんは(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
今日は夜の勉強会があってバタバタでした。美味しいお弁当もらえたけど・・。

さてさて、
スリ●様
そうそう、つくしだって東京生活長いはずなのに、道明寺と聞いて閃かないの(笑)。企業に勤めてないから興味無って感じと考えています。F4と聞いても、きっと、ふーん、ぐらいかと(笑)。さて、つくしちゃん以外のみんなはどう思っているんでしょうか・・ね? そうそう、私も前に同じようなこと書いたなとは思ったんですが、自分でもどのお話だったのか・・記憶がないのです・・(;^_^A

花●様
哀愁漂わせてる司・・(≧∇≦)!あんまり暗くてどうしようと心配しちゃう。でも、つくしちゃんとの出会いできっと心が温かくなることでしょう!頑張れ、司!!

さと●様
梅宮T夫さんも30針と聞いて、思わず同じにしてしまった・・。良く考えたら背中だったら、そんなに細かく縫わなくてもいいだろう・・とも思いました(^^; 玄さん、自分で嫁さん運びなよ~と思ったけど、ここは司君に活躍してもらわないとねっ!背中痛いのにごめんよ~(;'∀')

ふぁいてぃ~んママ様
まだ寒いですね~。司、どうなるでしょう?抱っこですよね。考えてる、考えてる(笑)。もうちょっとお待ちくださいね(*^^)v


ここで切りたくないので、明日はどうしても更新したい!と思います。
ではでは、また明日に~!

2018/03/22 (Thu) 23:31 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/22 (Thu) 17:42 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/22 (Thu) 09:18 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/22 (Thu) 07:38 | EDIT | REPLY |   

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