Happyending

Happyending

医療の表現があります。
ツッコミどころ満載かと思いますが、広い心でお読みいただけると嬉しいです。
***



突如変化したこの状況に戸惑うなって方が無理だ。
けれど、いきなり呼ばれた自分の名前にすぐに我に返った。

「道明寺さんっ!お願い!あなた、奥さんを運んでくれる?奥のベッド、急いでっ!!」


この俺に指示するなんていい度胸だ・・何て言ってる場合じゃねぇ。
緊急事態だ。
この牧野つくしという女もテンパってるんだろう。
さっきまでのノホホンとした雰囲気は消えていた。

「任せろ。」

背中が痛ぇ。
けど、この女に頼りにされていると思えば、体は自然に動いた。
仕事以外では他人の指示に従うことなどない、この俺がだ。

玄さんって奴が乗って来たちっせぇ車の後部座席には、嫁と思われる女が苦悶の表情で蹲っていた。

俺の後ろから毛布を持って走って来た牧野つくし。

「真知子さんっ!しっかりして!!道明寺さん、この毛布に包んで、あっちの入口から入って!」
「分かった。」

慣れねぇ、ダッセェつっかけを履いた俺。
自分の靴は海で濡れちまったから仕方ねぇ。
慎重に妊婦を毛布に包んで抱きかかえ、診療所に入った。

「こっち!」

言われるがままに診察台に妊婦を乗せると、

「診察だから、向こう行ってて。」

運んでやった俺に対して、ずいぶん横柄な態度だと思わなくもないが、事は一刻を争う事態なんだと感じてすぐに廊下に出た。
それでもぼろい診療所のことだ、中の会話は筒抜けで、

「常位胎盤早期剥離だな。」
「どうしてっ、今まで順調だったのにっ!」
「どんなに慎重にしていても起こるときは起こる。」
「そんな・・・・」

母から胎児へ、命を繋ぐ胎盤。
その胎盤が出産以前に子宮から剥がれれば、胎児にも母体にも影響が出る。
二人の命が危ない。
一刻の猶予もならないという緊張感が、二人の会話から伝わって来る。

「緊急で帝王切開。つくしちゃん、準備。」
「はいっ。」
「千尋、血液型B型、たくさん集めて。大学病院に搬送している時間はないぞ。」
「はい。」

それぞれが自分の定位置につく。
唖然とする俺。
だが、今、俺がすべきことも明確だった。

ガラッと診察室の扉を開けた。
先生と牧野つくしが振り返る。

「俺、B型です。」
「道明寺さんっ!だめよっ、あなたも怪我したばかり!」

先生は一瞬だけ考えた様だが、事は一分一秒を争う事態だ。
すぐに決断した。

「輸血頼めるかな、司君。申し訳ない。」
「大丈夫です。」

ではこちらへ、と千尋さんと呼ばれた人間に連れられて行く。
ちらっと牧野つくしを見ると、心配そうに俺を見つめてる。

その横を通り過ぎる時に、

「道明寺さん、ありがとう・・・」

そんな声が聞こえた。




俺はベッドに寝かされて、輸血用の血液採取のために点滴ルートを取られた。
恐怖は全く感じない。
むしろ、この血が役に立つのなら、いくらでも使って欲しいと思った。
いっそのこと、この血が入れ替わってしまう位に抜いてくれ。


すぐ隣のベッドでは、緊急の帝王切開が行われようとしていた。
こんなに小さな施設なのに、手術設備があることが驚きだ。
果たして二人は助かるのか・・・

衝立越しにチラチラと見える牧野つくしの姿は、キリリとしていて、当たり前だが真剣そのものだ。
看護師として働く姿には、ボケた印象なんて微塵も無かった。

どうか、助かってくれ・・

突然遭遇した、思いがけない事態。
命など大切に思ったことなど一度も無かった俺なのに、
心の底からそう祈っていた。



「麻酔は腰椎と硬膜外だけでいくからね。」
「はい。」
「ルートは3本確保、いいね?」
「準備できています。」

テキパキと動く医師と看護師の姿。
ここが出産現場だとは思い難い。
戦場・・そんな雰囲気だ。

「千尋、輸血は?」
「ひとまず250㏄。」
「悪い、司君、もう少しもらうよ。」
「大丈夫です。」

今、俺にできることはこれしかない。


「では、緊急帝王切開、始めます。」

背筋が凍りそうなほどの緊張感の中、
緊急手術が始まった。





カチャ・・カチャ・・カチャ・・
と器械同士が触れる音が続いた。

10分ぐらいが経過しただろうか・・・
いや、もっと早かったのかもしれない。

「よし、出すよ。」
「はい。」


___フギャ・・オギャ・・オギャーッ!


「大丈夫だ。元気な女の子だよ。」

「可愛い・・・せんせ、ありがとう・・・。」

冷静な医師の言葉と、喜びに震える母親の声。


子供が・・・生まれた。
生まれたばかりの赤ん坊が俺の目の前を通り、暖かそうな小さなベッドに運ばれていく。
千尋さんが赤ん坊の状態を確かめ、テキパキと処置を施していた。
その様子を俺は血液を抜かれながら呆然と見つめていた。

子供が生まれる瞬間を初めて目の当たりにした。


だが、

「先生、出血が止まりません!血圧下がってます。真知子さん、しっかりしてっ!」
「落ち着いて。僕が圧迫するから。それから、止血剤投与して。」

まだまだ緊張は続いている。

「出血多いな、千尋、輸血使うぞ。」
「はい。」

赤ん坊を包みなおし、千尋さんが俺から抜いた血が入ったパック持って走って行く。
俺の隣には、生まれたばかりの赤ん坊がいて、俺の方に顔を向けていた。
その瞳は閉じられていて俺を見ることは無い。

サルだな・・・
不謹慎ながらそんなことを思う俺。
真っ赤な顔をした皺くちゃのサルのような動物が俺と向かい合っていた。

これが、人間なのか・・。
誰かが守ってやらなけりゃ、その命を繋ぐことも出来ない程に小さく、か弱い。

自分にもこんな時期があったのか・・と考えてみても、想像もつかなかった。


「他にB型の人間は集まったか?」
「玄さんが今集めてます。」
「もう少し必要かも知れん。処置室のベッドを使っていいから、集めて。」

俺からはすでに2パックの血液が採取されている。
俺の血液だけじゃ足りないってことか。
どうする?どうすればいい?

「先生、私がB型です。」
「つくしちゃんが!?」

医師の介助をしているこいつがその場を離れて大丈夫なのか?
出血はまだ止まらねぇのか?

「先生、俺からもっと抜いてくれ。」

そう言った俺にする返事は無かった。
その代わり、

「いや・・待って。大丈夫だ。出血が落ち着いてきている。」

先生のその一言で、その場の緊張がぐっと和らいだ。




そのまままた数十分が経過した。

___ガチャ

「これで終了。」

手術は無事に成功したらしい。
ふぅーっと、その場にいた全員が安堵の溜息を洩らした。
もちろん、俺もだ。
一瞬全身から力が抜けた。

「バイタル安定しています。」
「ギリギリ間に合ったな。」
「さすが、先生・・よかった・・。」

「真知子さん、聞こえますか?赤ちゃん、今、連れてきますからね!」

牧野つくしの弾むような声が聞こえて来た。
パタパタパタと足音がして、俺の傍に牧野つくしがやって来る。
まだ水色の術衣を着たままだ。

俺と一瞬目が合うと、マスク越しにもその目がニッコリと微笑んでいるのが分かった。

「本当にありがとう・・・道明寺さん・・・。」

「ああ。良かったな。」

「うん。」

牧野が赤ん坊をそっと持ち上げた。

それから、
「赤ちゃん、この人がママを助けてくれたんだよ。」
そう言って、俺にペコリと頭を下げた。




ほっとしたとたんに体が怠くなってきた。
そう言えば、ノンストップでここまで運転してきたんだった。
気が緩んだとたんに眠気が襲って来た。

こんなベッドで、
こんなに無防備に、
寝りこけるなんてあり得ねぇ。

なのに、めったに睡魔など訪れることのないこの俺が、
心地よい疲れを感じ、意識が遠のいていく。

俺の血が、人の命を救った。
こんな血が、役に立つことがあるんだな・・・

金が有り余っていたとしてもできないもの。
道明寺の名前をひけらかしたとしても叶わないもの。

命を救う行為。
そして、偶然の出会い。
それは、もしかすると運命の出会いかなのかも知れねぇ。


妊婦と子供を救いたいと思ったのは嘘じゃねぇ。
だが、俺はそれ以上に、牧野つくしというこのお節介な女が悲しむ姿を見たくなかった。

そうだ。
だから、俺は・・・


良かった・・・


体が眠りに落ちていく感覚の中、
感じたこともない程の満足感に満たされていた。


にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
週末の更新は不定期になりますが、1話はアップしたいなと思います。
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
Happyending  
Happyending

いつもたくさんの応援をありがとうございます!
あっという間に土曜日も終わってしまいますね・・。一日が過ぎるのが早すぎます・・。

さてさて、
花●様
このタイトルですよね~。はて・・どこに夫婦がいるんた??そりゃもちろん!ですよ~(笑)。どんなお話かは・・まだ内緒です!この時点である程度推理しちゃっている方も多いのかな~。ドキドキ・・(;'∀')

澪●様
そう、つくしと出会うまでは生きる意味を見出せない司君が変わってゆく・・はず・・です(^^;ちゃんと最後まで書ききらないとな~。責任重大です。楓さん・・これからどう絡ませようかな・・悩ましいです。

スリ●様
この時点の司君は、つくしちゃんを意識しているけれど、それがなんなのかは分かっていない・・はず。恋をしたことない男だから~(笑)。果たして今後どうなるのでしょう。私の中では決まっていますが、ドキドキして頂きたいです!!

H●様
お言葉ありがとうございます。のんびりやって行こうと言う気持ちと、やっぱり連載はある程度スピーディーに書かないと私も読者さんも内容忘れちゃうんじゃないのか?という心配とありますが・・。忙しいんですよね~(^^; でも、途中で投げ出さずにやって行こうと思います。ぼちぼちとお付き合いください!


不定期にと書きましたが、とりあえず、明日の朝に更新目標として続きを書こうと思います。
ダメなら、明日の夜かなぁ。
次で一区切りつく筈なんですけど・・(^^;
ではでは、また明日に~☆彡

2018/03/24 (Sat) 19:42 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/03/23 (Fri) 18:46 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/03/23 (Fri) 08:55 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/03/23 (Fri) 08:44 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply