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Happyending

Happyending

否応なしに取らされた1週間の休暇が、こんな展開になろうとは思いもしなかった。

___けど、悪くねぇ。
そう思う。

自分の思うままに生きてみたい。
かと言って、自分がどんな風に生きたいのかも分からない。
仕事以外にすべきことなんて無かったし、したいと思うことも無かったから。
だったらここで、このお節介な女と過ごすのも悪くない。
俺は、この女が嫌いじゃない。
むしろ、一緒にいたいと思っているから。



「着替えは車にあるから取って来る。」

出掛けると言っても、とりあえず着替えをしなきゃ動けねぇ。
このダッセェ甚平のままって訳にもいかねぇし。
昨日履いていたチノパンはすでに洗濯されていた。
Tシャツは血まみれで破れていたらしく、処分していいかと聞かれ、そうしてくれと伝えた。

「あ、そうそう、車ね。ほら~、昨日バタバタしてたから、あのまま海岸沿いに置きっぱなしだったのよ。」

「あ・・・。」

そういえば、すっかり車を放置していた。
買ったばかりのメルセデス。

「でね、あの車、ライト付けっぱなしだったじゃない?」
「そうだったな。」
「進が夜中に気が付いて移動させようとしたら、バッテリーが上がっちゃってたの!あ、キー付けっぱなしだったよ?不用心だわね~。」

って、俺は海に落ちる予定なんてなかったんだから仕方ねぇだろ?と思うが、こいつはそんなことは疑問に思っていないらしい。

「だから、村の人がレッカーしてくれて、今医院の駐車場にあるから。はい、キーはここ。で、こっちに来て!」

牧野に案内されて医院の目の前の駐車場に向かうと、そこには確かに俺の車が置かれていた。
牧野がきょろきょろと車の周りを歩いて観察している。

「へぇ、綺麗な黒ね。ピカピカ。」とか、「シート皮なんだ、汗かいたら大変じゃない?」とか、ぶつぶつ言ってる牧野はとりあえずスルーして、俺は着替えを詰めた鞄と、助手席に放置していた財布を確認した。
免許証やカード類はきちんと残されていて、ひとまずほっとした。
盗まれたら盗まれたで厄介だからな。


「この車で出掛けるか?」

そう聞いた俺。
出掛けるとなれば、男が運転するのが当然だ。
女なんか乗せたことねぇけど、こいつなら構わねぇ。
そう思ったのに、

「無理無理っ!バッテリー上がってるんだって。明日玄さんの知り合いがなんか持ってきてなんとかしてくれるって。だからしばらくは車は乗れないの。ごめんね・・・。」

「マジかよ・・。」

車が動かねぇんなら、俺が東京へ帰ると言ったところで帰れなかったじゃねーか。と、このボケボケ女にツッコミたくなる。

「・・って、じゃあ、出掛けるって言ってもどうするんだ?」

「大丈夫よ。私の車があるから!」

「お前の・・・?」

半端なく、嫌な予感がする。

「私のはね~、裏の駐車場にあるの。見る?」

こっち、こっちと言われ、ついて行った俺が見たのは、マジちっせぇ赤い車。
昨日玄さんが乗ってた車も小せぇと思ったが、この車は玩具じゃねーのかと心配になる。

「・・・この車、大丈夫なのか?」
「え? 何で?」

きょとんとするこいつ。

「いや・・・何となく。」
「うーん。まぁ、道明寺さんの車よりは小さいけど、十分走るし、小回りもきくから便利だよ。」

車は走ればいいってもんじゃねーと思うが。
乗り心地とか、サスペンションの安定性とか、いろいろあるだろーが。
何より、牧野の車は安全性が欠如してると思うのは俺だけなんだろうか・・・。

よく分かんねぇ。
だが、ここに残ると決めた以上、こいつの指示に従うしかねぇし、従ってみたいと思う自分がいる。
道明寺財閥の後継者としてではなく、ただの男としてここに居るんだからな。

ここは俺の会社じゃねぇし、こいつは俺の部下じゃねぇ。
こいつは俺のことを対等に扱う。
媚びへつらったりはしてこない。
牧野のそんな態度が心地よかった。

それに、俺の車が動かない以上、どうしようもねぇし・・。
結局、俺たちは、牧野の赤い車に乗って出かけることになった。









道明寺さんが、ここにいると言ってくれた。
1週間の休みなんだという道明寺さん。
ということは、ここに居られるのはあと6日。
その間に抜糸ができるかどうかは傷の治り次第だけど、私はとても嬉しかった。

どうしてそんなに嬉しいと思うのか。
看護師として、怪我をした人、ましてや自分のために怪我を負わせてしまった人をそのままになんてできない。

だけど、決してそれだけじゃない・・・。


彼の事が気になってる。
暗闇の中、海をじっと見つめていた人。
一体何を考えていたの?

自殺志願じゃないなんて言ってたけど、あの時見えた姿はとても寂しそうだった。
そして、2年前の自分と重なった。
だからこそ、彼が海に飛び込んでしまうんじゃないかと思った。
とっさに彼の腕を掴もうとして、突き飛ばす形になってしまったけど。

でもね。
落ちていく時に、彼が私を抱き締めてくれたのは絶対に間違いじゃない。
その証拠に彼の背中には岩でできた大きな裂傷がある。
私を助けなければ、そんなことになっていないはずだよね。

ねぇ、どうして私のことを守ってくれたの?
見ず知らずの私を、どうして救おうとしてくれたの?

それは、本当に無意識だったのかもしれない。
だけど私は、そんな彼の行動に胸が熱くなった。

だってね。
私こそが、2年前、
この海に飛び込んでしまおうかと思っていたんだもの。





2年前、私はある出来事をきっかけに、東京を離れた。
人を信用できなくなって、誰も知らない土地に行きたくて。
心のバランスを崩した私がたどり着いたのが、この医院だった。

『ようこそ、赤ちゃん』

その看板を見て思い出したんだ。
ああ、そうだ。私はこの世に赤ちゃんが生まれるお手伝いをしたくて看護師になったんだ。
それなら、ここでそのために生きていけばいいんだ。


この村での生活は私の心を癒してくれた。
先生も奥さんの千尋さんもとても親切で、尊敬もできた。
出産に限らず、村のいろんな救急疾患を扱うこの医院で働くことは、スキルアップにも繋がった。
弟の進は突然東京からやって来た私を心配して、一緒に暮らそうと言ってくれた。

仕事が生きがい・・

看護師として、助産師として、誰かに求められ働くことが楽しかった。
そこに自分が生きる意味を見出すことが出来た。
それは決して間違いじゃなかったと思う。


だけど、幸せって何だろう・・と時々考える自分がいる。

看護師としての幸せ。
それとは別に、私の自分自身の幸せ。

2年前までの私は、ごく自然に夢見ていた。
いつかは愛する人と結婚をして、子供を産んで、家族としてのささやかな幸せを築くんだって。
例え貧乏でも手を取り合って、家族みんなで生きていく。
そんな家庭を持つことが理想だった。

だけど、2年前の出来事から、私は人と付き合うことが苦手になって、そんな夢も見られなくなった。

誰も信用できない。
特に男の人は嫌。
私のことを好きだと言ってくれる人の言葉を素直に受け入れられない。
どうしても、だめなの。

そんな私が、どうして他人と家族になることが出来る?
人を好きになれない人間が、どうして幸せな家庭を築くことができるの?

こんな自分が、誰かから大切にしてもらえるはずがない。




そんな風に諦めていたのに、
私は、道明寺さんに出会った。

彼は私を抱きしめて、私を守ってくれた。
そんなことをしたって、彼には何の得にもならないのに。
そればかりか、妊婦の真知子さんも救ってくれた。
それこそ、血液型なんて言わずに見過ごすことだって出来た筈なのに。

そんな彼が、とても素敵に見えて・・・
そして、とても幸せな気持ちになった。


生きるのがつらいと思っていたのは私。
そんな私をあなたが守ってくれた。
あなたが私を救ってくれた。


道明寺さんが一人旅をしている理由は分からないけど、
あと6日経てば東京に戻る人だってことは分かってる。
ずっとここにいる人じゃない。

だからこそ、私は大胆になっていた。
ドライブだって、男の人を誘ったことなんて今まで一度も無い。
この車の助手席には進だって乗ったことが無いんだから。

医院とはいえ、男の人に一晩付き添ったことなんて無いんだよ。
全部道明寺さんが初めて。

道明寺さんが特別。



私と道明寺さんは少し似てると思う。
どこかで生きることを諦めてる。
だけど、本当は、誰よりも真っすぐに生きていきたいと願ってる・・・・


道明寺さんと一緒にいると、私は私らしくいられる気がする。
それがとても嬉しくて、もうしばらくここにいて欲しいと思ったのは、看護師としての責任感からだけじゃない。

彼の傍にいたい。
彼といるとほっとして楽しい。
せめてこの6日間だけでも、久しぶりに自分らしくありたい。


私はこの出会いに感謝していた。
道明寺さんには笑われちゃうかもしれないけど、
これって運命の出会いなのかもしれない。

それは、愛とか、恋とかそういうことじゃないの。
彼を見ていると、私は生きていていいんだって思えるの。

だから・・・

ごめんね道明寺さん。もう少しだけ一緒にいさせて。
この6日間は思いっきり楽しく過ごそうね。

助手席でちょっと緊張気味の道明寺さんに、そっと心の中で謝った。


それから、

「出発!」

私はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。


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Comments 4

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Happyending  
こんばんは~(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
つくしちゃんにも、暗い過去が・・・。なんて、暗いお話なんだ・・(;'∀')
そして、そんな二人は・・どうなるのでしょう・・ね??

花●様
このお話、なんとつくしちゃんも司に好意をもってるんですよ~!おおっ!?けど、ここからどうなる?どうする?とりあえずはドライブへ出発です!

スリ●様
このつくしちゃんの過去がですね・・。上手く表現できるかどうか・・。海に飛び込みたくなるような過去・・一応展開は大体考えているのですが、お話になるのかどうか難しいなぁと悩み中です。二人のドライブはどこへ向かうのでしょうかね(≧▽≦)!

まり●様
お忙しそうですね~。そちらはもう満開ですか!?私、関西なのですが、まだ3分咲きです。でも日中は温かいですね(*^^)v 日本の素敵な田舎・・分かります。私の祖母の家もそんな感じでした。イメージはそこからかも・・。さて、ドライブです。一緒に追いかけましょう!!

展開を間違わないように、いつもより慎重になっています(笑)。
ですが、とりあえず、明日は1話更新したいと思いますので、また朝に!
ではでは~。

2018/03/27 (Tue) 21:35 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/27 (Tue) 15:32 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/27 (Tue) 07:40 | EDIT | REPLY |   
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2018/03/27 (Tue) 06:39 | EDIT | REPLY |   

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