Happyending

Happyending

しばらく無言で景色を眺めてから、私たちはお寺に向かった。
山の中腹にあるお寺は、古くからの木造建築で、重要文化財にもなっている。
初めて来たけど、風情があってなかなか素敵なところ。
けど、暑い時間だからかな、私たち以外の人手は見られなかった。


「道明寺さんちのお寺もこんな感じ?」

そういえば、道明寺さんもお寺の人だもんね。
そんな思いから聞いてみた。

そうしたら、道明寺さんがバツが悪そうに下を向く。

「あのよ。」
「なに?」

「俺、寺とは関係ねぇんだわ。」
「・・・え?」

「騙そうと思った訳じゃねぇんだけど・・別に俺の職業なんて重要じゃねーし。」

チラッと私を見るその目が、凄く申し訳なさそうで、私の方が胸が痛い。

「わっ、私こそ、ごめんなさい。勝手にお寺の人だなんて決めつけて。」

恥ずかしいっ。
まさか、勘違いだったなんて!

「いや、ただ、お前には嘘はつきたくねぇと思ってるから。」


・・・・ドキン・・・・・

私には嘘をつきたくないと言う道明寺さん。
その言葉がとても誠実で、ストンと胸の中に落ちてきた。


「俺はビジネスマンだ。ビジネスの世界では、毎日他人の腹を探り合って、最後のカードを切るまで絶対に本音は見せない。それができねぇ様じゃ、ビジネスの世界では生きていけねぇ。」
「うん、わかるような気がする。」

「でもな。お前とはビジネスじゃねぇから。俺はお前に嘘はつかない。」
「うん。」

「信じれくれるか?」
「うん。」

私がうんって答えたら、彼は嬉しそうに表情を崩した。

彼から貰う一言一言に心が打たれる。
素直に彼を信じようと思える。

どうして・・・?


答えは簡単だ。
私が彼を信じたいから___ただ、それだけ。
それは直感で、そこに理由なんてない。





不思議だね。
私は男性を信用できなくなっていたはずのに。
ううん。男性だけじゃない。
表面上は優しそうな顔をしている人、全てが信じられなくなっていた。
優しそうな顔をして、本当は怖いことを考えてる・・そんな人がいるって分かったから。


結婚したい女と付き合いたい女は別だ。
結婚するなら、鈍感で少しぐらい頭が悪い女がいい。
それは、浮気をしても気付かれず、責められることが無いから。
そして、妻に求める条件は家事や子育をきちんとこなすこと。
私はその条件にピッタリらしい。

好きでもないのに、そんな考えの男と付き合った、
自分自身を呪いたかった。


その人は、小児科のドクターだった。
助産師として働いていた病院の新生児科でよく一緒になっていた人。
子供たちにも、その親たちにも人気があって、イケメンだってみんなが騒いでた。
2年前、病棟の歓送迎会が終わった後、私はその人に告白された。
『ずっと前から気になってた。付き合って欲しい』って、そう言われた。
みんながいる前で告白するものだから、周りの同僚も大騒ぎだった。
大学時代からずっと一緒で親友だと思っていた環ちゃんにも、「彼、凄く良い人よ。一度ぐらい付き合ってみなよ」なんて背中を押され、いつしか私たちは付き合うことになっていた。

その人のことが好きだった訳じゃない。
だけど、学生時代も、働き始めてからもドタバタの毎日で、恋愛なんてしたことがなかったから、どこかで恋に憧れていたんだと思う。

お食事デートを何回かして、確かに悪い人じゃないのかなって思った。
お洒落なお店に連れて行ってくれたり、私が水族館に行きたいと言ったら一緒に行ってくれたり、優しい人だなって感じた。
好きだいう感情にはならなかったけど、この人のことを好きになれたらいいなって思ったから、キスを受け入れた。

付き合って3週間が過ぎたころ、彼が体のつながりを求めてきた。
私はお付き合い自体が初めてで、もちろん体の関係なんてもったことが無かったから、怖かったし、心が追いつくまで待ってほしいって伝えた。
だけどこの人なら・・きっと好きになれるはずだから・・・そんな風に自分に言い聞かせて努力しようと思ってた。
だって、お互いに子供じゃないんだからそういうことがあっても当たり前、いつかは・・って、覚悟を決めるつもりでいた。
付き合っていくうちに、いつかは好きになって、彼を受け入れることができるかなって、本当の恋をしたことが無い私はそんな風に考えていた。


あれは、付き合いを初めて2か月ぐらいたった頃、彼の当直明けの土曜日の朝のこと。
作ってきたお弁当を手渡そうと、病院の当直室近くを歩いていた。
もしかしてまだ寝てる?
当直室をノックしようとしたら、そのドアが少しだけ開いていた。
なぁんだ、もう起きて病棟にでも行っちゃったのかな・・と踵を返そうとした時に、

『ねぇ、まだ牧野つくしと寝てないの?』

聞き覚えのある女性の声がした。
自分の名前と、その内容に驚いて、私はそっとドアに近付いた。

『すげぇ固いんだよ、あいつ。』
『さっさとヤッちゃいなさいよ。牧野つくしの処女を奪えたら30万。』
『ああ、近いうちに。』

そうだ、この声・・・環ちゃんの声だ。
大きな病院のお嬢さんで、同じ大学の看護科を一緒に卒業した。
今も、同じ産婦人科病棟で一緒に働いていて、ずっと親友だと思ってた。
そういえば彼との付き合いも、彼女に背中を押されたんだった。

なのに、どうして・・・?

ショジョヲウバエタラ、サンジュウマン

言ってる意味が、全く理解できなかった。


『ホントあの子ムカつくのよね。男を知りませんって全面に出して、純情ぶっちゃってさ。だいたい処女が助産師ってどうなの?』
『環、牧野のことそれだけ嫌いなら友達やめろよ。』
『嫌よ。あの子、真面目で単純だから当直変わってくれたりとか便利なの!』
『真面目だけが取り柄の女だからな。けど、まぁ、モテる理由は分からなくもない。』

男性の方の声は、今、自分の恋人だと思っている人だった。

真面目だけが取り柄の女・・・
それが彼の本音。

『牧野つくしがモテる?あなたもそんなこと言うのね。』
『まぁ、一般的な判断だろ。嫁にするなら真面目な女が一番。子育てとか頑張りそうじゃん。旦那が浮気しても気付かないだろうし、牧野は結婚するには最適。結婚と恋愛は別だ。』
『ちょっとぉ、あなた、牧野と結婚する気なの?遊んで捨ててって言ったじゃないの!ホント、みんなどうしてあんな女がいいのか訳わかんないっ!』
『あー、お前、血管外科の佐伯が牧野狙いだったからキレてんだろ。』

血管外科の佐伯先生もまた大きな病院の三男で、環ちゃんが婿養子にしたいと狙ってることは知っていた。そんな話も気軽にできるぐらい、環ちゃんとは仲良しだと思ってたのに・・。

『違うわよっ。処女の女が純情に見えるってだけでしょ。だから、早くヤッちゃってよね、あの女。ほんとムカつくんだからっ!』
『おいおい、そんなイラつくなよ。俺はお前の方が好きだぜ。そういう勝気な環がいいって男もここにいる。なぁ、ちょっとだけ付き合えよ。牧野なかなかやらせてくれねぇから。』
『ったく・・しょうがないわね・・・・・クチュ・・。』





どこをどう歩いたのかは分からない。
気が付いたら自分のアパート前の公園に来てた。
彼は当直明けでお昼前に終わりだし、私は一日オフだったから、今日は私からデートに誘おうと思ってた。少しずつ好きになれるように、私も努力しているつもりだった。
髪の毛も巻いて、おろしたてのワンピースなんて着て来てた。

_____バカみたい・・・・


彼のことが好きだった訳じゃない。
だけど悪い人じゃないって思ってたのに。
これから好きになれるかも知れないって思ってたのに。
簡単にキスを受け入れちゃった。
あれは、私のファーストキスだったのに。

手に持っていたお弁当袋を公園のゴミ箱に捨てた。
ホント、バカみたい。
こんな男だったなんてね。

だけど一番バカなのは自分だ。
初めて告白されて、初めて付き合った人だから、浮かれてたのかも知れない。
好きでもないのに、周りに流されて付き合った。
心のどこかでブレーキをかけていたのに、大人なんだからこういうものだって、どこかで割り切ろうとしていた。
自分がこんなに見る目がないだなんて思ってなかった。
もし好きになれたら、その先には結婚とか家庭とか、そんなことまで考えていた自分が本当に惨めだった。



その日の夜。
私はその男を公園に呼び出した。
もちろん理由は別れを伝えるため。
何も聞かなかったことにすればいい。
環ちゃんのことも知らなかったことにすればいい。
だから、私は何も言わずに『別れよう』と切り出した。

その後のことは頭に霧がかかったようで細かいところまでは思い出せない。
思い出したくない。

『お前、自分がそんなにいい女だとでも思ってんの?』
『お前と付き合うメリットなんて、子供を産んで育ててもらう、それぐらいしかないだろ?俺がお前のことを好きだなんて勘違いしてんなよ!』
『だいたい、お前だって、収入ある男と結婚するのが夢なんじゃねーの?』

そんな風に罵倒され、そのまま公園内の暗闇に連れ込まれた。

『俺をコケにすんのも大概にしろよ。』

公園の電灯が視界から消えて、黒い芝生に押し倒された。
目の前の男の目が光って、体が固まった。
これから起こることが想像できて、怖くて、だけど声が出なかった。

___ショジョヲウバエタラ、サンジュウマン

自分の価値が30万円と値踏みされたショック。
そしてその通りに遊ばれようとしている恐怖。

だけど、私はっ!

力を振り絞ってバタバタと暴れ、近くにあった石を掴んだ。
もう無我夢中で、気が付けばその石で男の頭を殴っていた。
『痛ぇ!』
男の力が抜けた一瞬の隙に、男の腹に蹴りを入れ、私は走って逃げだした。

足がガクガク震えて何度も転びそうになったけど、何とかアパートに辿り着いて、震える手でカギを開け、思いっきりドアを閉めて、鍵を掛けた。


翌日は勤務日だったけど、どうしても病院には行けなかった。
すると病院の事務長が私のアパートにやってきて、あの男が私を傷害で告訴すると言っていると伝えてきた。
私にだっていい分がある。
けど、男に怪我をさせてしまったのは事実だ。
事務長は、その件は病院で丸く収めるから、私は退職するようにと促した。

これ以上、あんな人たちと関わり合いになりたくない。
私だって、辞める覚悟はできていた。

病院を辞めたものの、そのまま東京にいることなんてできなかった。

怖くて。
怖くて。
暗闇に一人じゃいられない。

誰も信じられない。
優しそうに振舞っている先生たちも。
一緒に働いている同僚も。
誰のことも・・・。


それに、

『お前と付き合うメリットなんて、子供を産んで育ててもらう、それぐらいしかないだろ?』

そんな風に見られていたなんて、思ってもいなかった。
その言葉を否定したくても、自分が誇れるものは何なのかも分からなくて。

私にもね。夢があった。
いつか結婚して、子供を産んで、幸せな家庭を築きたいという、女性ならごく普通の夢。
だけど、たったそれだけの夢を叶えることが、実はとても難しいことに思えて、気持ちが疲れきってしまった。

なんのために生きているんだっけ・・・私。
こんなくだらないことに巻き込まれて、傷ついて・・・バカみたい。

生きる意味を見失った私は、この土地にやって来た。
ここで、看護師として仕事をすることだけが私の生きがいになった。

人間を見る目がない私は、誰とも深く付き合いたくなかった。
男の人も、女の人も。

そうやって、この2年間を過ごしてきた。






だけど、違ったのかも知れない。
自分は人間不信に陥っていると思っていたけれど。
そんな自分は生きている資格がないと思っていたけれど。
そうじゃないのかも知れない。

だって、道明寺さんの話は信じたいと思えるもの。
結局は、自分が信じたいと思えるかどうか。
自分が信じたいと心から思える人ならば、その後にどんな苦難があったとしてもきっと乗り越えられる。


そうか・・・。
私は本当に人を好きになったことが無かっただけなんだ。
好きでもない人を無理に好きになろうとして、無理やり信じようとして、そして傷ついたから、情けなくて逃げ回って、自分の殻に閉じこもったんだ。

その人のことが本当に好きだったのなら、最後まで戦えば良かったんだ。
逃げる必要なんてなかったのに、自分が自分自身に後ろめたくて逃げ出した。



『幸せになることを諦めるな。』

そうだよ。
本気で人を好きになってしまったら、例えどんなに傷ついたとしても、想いを諦めることなんてできるはずがないよ。

本当に好きな人に巡り合ったのなら、その恋を実らせようと最後まで頑張れたはず。

誰かを信じることが怖いだなんて、思い上がり。
傷ついてもいいって思えるぐらいの恋をしたことがなかったただけなんだ。



ねぇ、道明寺さん。
私もあなたに出会って初めて知ったよ。


本当の・・・恋をする気持ち。


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2018/04/24 (Tue) 17:33 | EDIT | REPLY |   
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こんばんは(#^.^#) ②

ka●様
そうなんです。今回のお話は、つくしちゃんも司との出会いによって変わっていくお話。もちろん最後はHappyendです!依存的な関係でなく、お互いを想いあって、一緒にならずにはいられない・・そんな二人を書きたいです。って、書けるかな?応援、どうぞよろしくお願いします(*^^*)

あ●様
ダブルパンチですよ~。つくし、辛すぎです。男性恐怖症というよりは、人間不信です。司はまだ男性恐怖症だと思ってるはずですけど・・(;^_^A 坊ちゃんからの報復・・必ずしてもらいましょう。その場面はまだまだだなぁ・・まずは東京へ戻らねば・・。
ご心配して頂きありがとうございます。明日病院に行ってきます。でも、忙しいだけで体調はいいです。町内の仕事で土日とGWは半分以上潰れますが、頭を使わないことなので、そういう意味ではいいかも!旅行は行きませんが、子供たちとの約束もありますね。お話もさっさと限がいいところまで書きたいし・・・。もうっ!時間が足りないです!!

H●様
司に退治してもらわなきゃですね!このまま読み進めてもらえたら必ず・・(笑)。

すっかり不定期更新になっていますが、少しずつ進んでいます。
見捨てずに、どうぞよろしくお願いします<m(__)m>

2018/04/23 (Mon) 23:58 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
こんばんは(#^.^#) ①

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
先ほど19話アップしました~。
すぐにこちらのコメントを書こうと思ったけど、もう一度アップ19話読んだら、やっぱり誤字ばっかりで直すのに時間がかかってしまいました・・(^^;

さて、ついにつくちしゃんの過去が・・予想どうりでしたか??
短く書きたいのに・・結局お話長いし・・(-"-;A ...アセアセ

花●様
腹立つでしょ~?でも、司のおかげで吹っ切れたようですよ!前向きに行って欲しいです。頑張れ、つくしっ!(って、私が書くんですけど・・・えへ。)

スリ●様
お寺の問題、さらっと解決しましたよ(笑)。
そうそう、私もそう思います。初めから相思相愛の人もいると思うけど、付き合いだしてから好きになったり、相思相愛で付き合っても別れたりってありますよね。今回のつくしちゃんの場合、運が無かった・・確かにそう思います。これが、司と出会うためのステップ!と前向きになってもらいたいですね。この過去を司に話すのか・・・。まだまだ書かねばならないことはたくさんでヤバイです・・(;^_^A

2018/04/23 (Mon) 23:45 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/22 (Sun) 13:23 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/22 (Sun) 11:31 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/21 (Sat) 23:50 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/21 (Sat) 23:10 | EDIT | REPLY |   

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