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Happyending

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「お寺ではね。賽銭箱にお金を入れて、願い事をするの。」
「ふーん。」

途中のベンチで休んでから、俺たちは目的の寺にまでやって来た。
今、目の前にいる牧野は、すげぇご機嫌だ。
憑き物でも落ちたように、ウキウキしている姿が可愛い。
ハイキングなんて、普通の男女がすることかよ。
でも、こんなに楽しそうなこいつを見られるんだったら悪くねぇ。


「道明寺さんは願い事ってある?」

願い事・・・あるに決まってんだろ。
自分の気持ちを完璧に自覚した今、
俺の願いはお前と一緒に東京へ帰ること。
そしてお前を守ること。

東京での俺には敵が多い。
そいつら誰にも文句の言わせねぇためには、どうすればいいか?
一緒にいたいってだけじゃ、ただの我儘だ。
東京でこいつを傷つける訳にはいかねぇ!

「ある。」
決意を込めて即答する。

「その願い、叶うといいね。」

それはお前次第だ、牧野。
覚悟しろよ。


牧野は、『私が先に行くね』と言って、財布から小銭を出し、賽銭箱に入れた。
それから合掌して、何やら拝んでいる。

こいつは何を祈っているのか・・・。
だが、たかが数百円の賽銭をしただけで願いが叶うとは思えない。
願いは、自分でつかみ取るものだ。
それはこの数年間ビジネスの世界に没頭した俺の経験から言える。
俺も、恐らくはこいつも、自分で動きださなきゃ、未来なんてつかめねぇ。


牧野の願い事が終わり、俺の番になった。
「あっ、道明寺さんは小銭持ってないでしょ?」
そう言って、牧野がまた自分の財布を覗き込んだ。

「やばっ、5円しかない・・・」
「5円っ!?」

神頼みなんてするつもりはねぇが、いくら何でも、5円はやべぇだろ。

「でも、5円は“ご縁に繋がる”ってことで縁起がいいのよ?はいっ!」

牧野が俺の右手に5円玉をねじり込んできた。

「お前はいくら入れたんだよ。」
「うっ・・・125円。」
「ずいぶん中途半端だな。」
「これは、十二分にご縁がありますようにっていう意味なの。」

縁ねぇ。
確かに、牧野と出会ったのは『縁』ってやつかもな。
だとしても、その縁を手繰り寄せたのは俺自身。

「俺はもう、十分いい縁があったから。」

俺は牧野が渡してきた5円玉をジーンズのポケットに入れ、賽銭箱の前に立ち、財布から取り出した1万円札を入れた。

もう縁は掴んだ。
一生一緒にいたいと思える女に出会った。
だから、これ以上の縁は必要ない。


_____俺がこいつを幸せにできますように。

願うとすればこれだけ。


まだ、恋人でも、家族でもない女にこんな感情を抱くなんて、笑われたって構わねぇ。
でも、こいつは俺が必ず幸せにしてやる。
そして、俺も必ず幸せを手に入れる。

ババァの言いなりになんかなってたまるか。
政略結婚なんて姑息な手を使わなくても、道明寺グループを牽引する自信はある。
だから、逃げはしねぇ。
逃げたら、結局はこいつを幸せになんかできねぇだろ?
こそこそ逃げ回るぐらいなら、正面から切り込んでやる。

俺は、牧野も道明寺グループも、両方手に入れるつもりだ。






その夜は、俺が初めて包丁を握り、きゅうりと人参と大根を切って浅漬けを作った。
それから牧野に言われて、ネギと茗荷ってもんを刻んだ。

台所では牧野がなんか作ってる。
こいつはものを食う仕草も可愛いけど、こうやってエプロンを着けて料理してる姿もいいんだよな。
なんか、あったけぇっつーの?
暗い部屋の中に明かりが灯る感じ。
もし、俺が普通の家に生まれていたら、母親ってのはこんな感じなのかもな。
いつも家の真ん中にいて、料理して、洗濯して・・・
うちのババァが普通じゃねぇから、こんな風に女の背中を眺めたり、その背中を見てこっちを振り返って欲しいと思ったり、話しかけたくなったり、こんな気持ちになったことが無かっただけなのかもな。

その背中を抱きしめたくなる衝動をぐっと抑えて、牧野の背後に回った。


「何作ってんだ?」
「んー?さすがにお素麵だけじゃ足りないかなって、玉ねぎとお肉のかき揚げ。揚げたて食べたらおいしいよ!ちょっとだけ食べてみる?」

今日は山歩きで疲れて食欲ないと二人の意見が一致し、『それなら軽くそーめんにしよう』と牧野が言った。
けど、結局それだけじゃ足りねぇって、なんだ、それ。
箸で差し出された『かきあげ』ってやつを口の中に入れると、さくっとした歯ごたえ。

牧野が期待を込めた顔を俺に向けている。

「うめー。」
「でしょ?」

牧野の顔が、弾けるような笑顔に変わった。
嘘じゃねぇよ。マジ、旨かった。

「お前、料理上手いな。」
「んー。そうかなぁ。昔から作ってるからね。お洒落な料理は作れないよ。」
「洒落た料理なんか金払えばいつでも食えるけど、この料理はそうそう食えない。」
「何それ?かき揚げが珍しい?」
「お前の料理を食える方が、俺にとっては貴重で、超嬉しいってこと。」

マジで答えてやったのに、牧野は『へ?』と首を傾げた。

「道明寺さんって、時々言ってること訳わかんないよ。私の料理が貴重なの?家庭料理だよ?お洒落な料理の方が貴重だよ。一体、普段どんな生活してるの?すっごく不思議!」

カラカラっと笑ってる。
惚れた女が作る料理だから貴重で旨いんだって、どうして気付かねぇかなぁ、この鈍感女は。


俺がどういう生活をしていたのか・・・か。
家のことは山で少し話した。
こいつを東京に連れて行くのなら、いつか俺んちの事情ってやつを話さなきゃなんねぇ。
うちには怖ぇババァがいて、俺に政略結婚を迫ってる。
実家は会社を経営していて、両親は跡継ぎを欲しがってる。
ついでに、うちの両親はビジネス優先で、人の血が流れてるとは思えねぇような冷酷な奴らだ。

・・・・なんてこと言ったら、ドン引きだよな。

出会って3日。
こんな俺の身の上話なんて、まだ言える訳ねぇ。




それから、弟が帰って来て、一緒にそーめんを食った。
弟と一緒にテレビで野球を見ていたら、
牧野が少しだけだよって缶ビールをくれた。
弟が、『これが旨いですよ』って渡してくれたスルメイカは予想以上に美味くて嵌った。
七味とか醤油とか、マヨネーズとか、いろいろ試して面白かった。
遅くまで弟の仕事の話なんかを聞いて、盛り上がった。
俺の隣では、牧野がふむふむ言いながら話を聞いている。
幼馴染の奴ら以外とこんなに話をするのは初めてだ。
これまでだったらあり得ねぇ話だが、楽しくて仕方ねぇ。
今日も隣に座る牧野の香りがたまんねぇし。



夜11時を過ぎた頃、
「もう寝なさーい」
という牧野の声で、俺と弟は布団に入った。

その布団の匂いと温かさ。
洗い立てのシーツの匂いと太陽の温かさだ。
それがこれほどに心地いいなんて・・・
この生活を手放したくねぇ。


俺にとっての初めてをたくさんくれる牧野。
俺にはやっぱりこいつしかいない。
それなら、残りの数日をどう過ごすか?

俺は今夜も眠れそうにない。







3人で夕食を食べて、後片付けをしていたら、

「つくしちゃん、ちょっといい?」
と、千尋さんに声を掛けられた。
母屋と離れの出入りは自由で、千尋さんは時々こうして離れに顔を出す。

「千尋さん、どうしたんですか?」

「まずはこれ。もう大丈夫みたいよ。」

渡されたのは、道明寺さんの車のキー。
私達が出掛けているうちに、玄さんの知り合いが彼の車を直してくれたんだ。

「良かった。ありがとうございます。」
「それからね、これなんだけど・・・。」

もう一つ、千尋さんの手にあったのは、ロレックスの腕時計。
道明寺さんのものだけど、海に落ちた時に恐らく岩に当たって、ガラスやブレスレットの部分に大きくキズが入ってしまったから、丁度仙台に行く予定のあった千尋さんに、デパートで修理をお願いできないか聞いてもらうことにして渡していたんだ。

「どうでした?」
「それがねぇ。この時計、特注品らしいのよ。恐らく世界で一本しかないものだって。」

・・・・?

「ええーっ!?」

思わず大きな声が出ちゃって、慌てて口元を抑えた。
居間にいる二人はテレビをつけてビールを飲んでいるから、私の声は気にならなかったみたい。

けど、世界に一本しかない腕時計って・・。

「もし修理に出すのなら、本人がスイスの本社に問合せをしないと無理だって。」
「スイス!?」

日本の代理店じゃダメなんだ。
ロレックス本社じゃないと対応できない時計ってこと?

「そんな・・。どうしよう。」
「それに・・・落ち着いて聞いてね、つくしちゃん。」
「はい。」

千尋さんが眉根を寄せて、チラッと道明寺さんをみて、

「この時計、ロレックス社のオーダーメードで、恐らく5000万円ぐらいじゃないかって・・・」

・・・へ?
今、何て?

「ごっ、5000万!?」

「ねぇ、つくしちゃん。道明寺さんって、一体何をしている人なのかしらね?お寺の人にしては、豪華な時計をしているじゃない?いや、別にいいのだけど、ちょっと気になっちゃって。だって、玄さんも、道明寺さんの車はなんだか凄い車なんだって言ってたのよ。」


道明寺さんはお寺の人じゃない。
それは道明寺さん本人が話してくれた。
ビジネスマンだって言ってたけど、一体どんなお仕事をしているんだろう。
家庭料理はなかなか食べられないだなんて、確かにおかしい。
これまでも家のために生きたきたって言ってた。
彼は一体どんな家の人なんだろう。

お金持ちで、育ちがいい人だとは思ってた。
だけど、腕時計一つが5000万円って・・・

私とは・・・住む世界が違う人?


____その時突然、

「「あはははっ!!」」

道明寺さんと進の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。



その声を聞いて、千尋さんがぷっと笑った。

「でもまぁ、いいわね。道明寺さんがどんな人だろうと。道明寺さん、ずいぶん楽しそうじゃないの。ね、つくしちゃん。」

「そうですね。」


道明寺さんがどんな人であっても、だからって何も変わらない。
彼がお金持ちだからって、私が変わる必要もない

そういえば、彼自身が言っていた。

___『別に俺の職業なんて重要じゃねーし。』


そうだよね。
彼は、私が生まれて初めて、本気で好きになった人。
職業なんて関係ない。


彼はあと数日で東京に帰ってしまうから、
この恋を実らせることはできないって分かってる。

だけど、私の人生をリセットしてくれた大切なこの人を、
きっとずっと忘れない。


何も変える必要なんてない。
残りの数日をこのまま彼と一緒に過ごせれば
・・・それでいいんだ・・・。



こんな風に本当の恋を知るなんて。
今度は傷ついたって逃げたくないのに、
諦めたくないのに、

神様って意地悪だ。
どうして本気の恋は、こんな出会いなの?


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今日が花晴れかと思ってたら、1日間違って、とぼけたことを呟いてました(・・;)
見直して良かったーっ!
眠かったけど、目が覚めた(笑)。でも、寝ます・・zzz
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Comments 3

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Happyending  
こんばんは~(^^♪

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
このお話、本当は神社にしたかったんですよね。お寺ってやっぱり何というかねぇ・・と思って。でも、お寺じゃないと司のお寺問題解決しないから・・(笑)。

さてさて、
スリ●様
細かく書かなかったけど、結構上手に包丁使ってそうですよね。きゅうりとか初心者クラス(笑)。人参は固かったかな?潤君は料理上手ですもんね!(^^)! 司、つくしちゃんにいいとこ見せたくて頑張ってそうです(≧▽≦) これはどっちからどうアプローチしましょうかね?だって、相思相愛じゃんっ!(笑)。迷いますね~。えへへ~( ´艸`)

花●様
そこ!(笑)。私も色々妄想しましたが、さすがに道明寺司ともあろう人間が、5円玉首にぶら下げる訳にもいかず、どこに大切に保管するか・・笑。執務室にこっそり保管かな?? 司と一緒にお料理したらテンションが上がるだろうな~。無理だけど・・(^^;)

小●様
小●様らしいコメントでちょっと笑いました・・ごめんなさい( ´艸`)。そうですよー、スッゴク悩んだんです。ファーストキス・・どうするか・・。私にしては頑張ってくれてやっちゃいましたよーっ、くそぉ。でもだからこそ、つくしちゃんは深く深く傷ついて・・司に出会って、惹かれていく。しかし、この二人、許せません!そして、そこかーっ!なるほどっ!! ずっと覚えているんですよ~。小●様が、ブラックを心待ちにしていることを!(笑)。そうですね、その辺りでめっちゃ怖い司に登場してもらいましょう!!シチュエーション考えねばです(*^^)v


今日は午前中病院で、午後は雨の為予定がつぶれ、比較的ゆったりとした時間が持てました。
ってことで、次の更新は明日の朝に(*^^*)
久しぶりの朝更新、セット間違わないようにしなきゃです!

2018/04/24 (Tue) 21:27 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/24 (Tue) 08:31 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/24 (Tue) 07:34 | EDIT | REPLY |   

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