Happyending

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牧野と出会って4日目。
俺の休暇はあと3日。
圧倒的に時間が足りない。
俺の気持ちは一晩寝ただけでも強くなるが、彼女の気持ちは全く予想ができない。


外は今日も快晴だ。
昨日と同じように朝から畑で野菜をとった。
今日はちっせぇトマトが大量。こんなに食える訳ねぇだろって位に籠いっぱいにトマトの山。
牧野によると、母屋のドクターにも分けるから丁度いいらしいけど。
その後はやはり洗濯物干しだったが、『今日は手伝わなくていいからね』と釘を刺された。
今日も竿にはお揃いのTシャツが揺れているのを見て、やっぱり嬉しくなった。
たまんねぇよな、これ。


今日は海に行って、釣りをしようと決めた。
母屋にトマトのおすそ分けに行ったついでに、ドクターに傷口を見てもらった時に、『釣りに行ってみたらどう?今日は釣れそうだ。』と言われたからだ。

俺はかつて釣りが趣味だったことがある。
中高のつまんねぇ時間、ふと思い立つと釣りをしていた。
海釣りだって、かなり経験してる。
釣りの腕前を見せれば、こいつは俺に惚れるかもな。
あー、俺の釣り竿、持ってくれば良かったぜ。

道明寺ホールディングス副社長という肩書がない俺は、今、ちょっと焦ってる。
地位も、金も、女が喜んで飛びつきそうなものを何も持っていない俺のことを、牧野は好きになってくれるのか。
そうして、東京まで一緒に来てくれるのか。




準備をして、さて出掛けようという時に、

「こんにちは~。」
と、庭先から声がかかった。

それは男の声で、俺の神経が一気に尖る。
そんな俺にはお構いなしに、牧野は「はーい」と出て行った。
俺はこっそりと後をつける。
だって、気になるだろ?
ここにきて必死ぶりに聞く、弟以外の男の声だ。

襖の陰に身を隠しつつ、俺は牧野の様子を伺っていた。

「前田さん。どうしたんですか?」
「ちょっと近くに寄ったものだから、そろそろビール切れる頃じゃないかと思って。」
「ありがとうございます。じゃあ、一ケース買おうかな。」
「まいど。」

どうやら相手は酒屋らしい。
年は30前後だな。
しかし、こっちが注文もしていない酒を届けに来るっておかしくねーか、と疑念を抱いたら、ほら案の定だ。

「つくしちゃん。今日は時間ある?」
「え?いや、ちょっと用事があって。」
「今は仕事していないって聞いたよ。」
「そうなんですけど・・・色々あって。」
「色々って?」
「色々っていうのは・・色々です。」

何だよこの会話。
色々じゃなくて、俺と約束しているからだろ。
はっきり言えばいいだろーが。
怒鳴り込んでいこうかと覚悟を決めた時に、思いがけない会話が始まった。

「つくしちゃん、考えてくれた?・・・俺とのこと。」
「そのお話は、ずっと前からお断りしてます。」
「でも、今は働いていないんだし、ちょうどいいタイミングじゃないかなって俺の両親も言ってる。」
「何がですか?」
「だから、つくしちゃんが俺のお嫁さんになってくれたらって、もう親父たちが期待しちゃって。」
「はっきりお断りしたはずでです。そんなこと言わないでください。」
「誰か好きな男でもいるの?親父もお袋も、つくしちゃんみたいなお嫁さんだったら、店も任せられるし安心だって。家庭も安心だし、子供の世話もきちんとしてくれそうだし。」

・・・・・はぁ?
この男、まさか、牧野にプロポーズでもしたのか?
牧野が迷惑がってるのが分かんねぇのかよ。
しかも、親父とお袋がってなんだよ。てめぇの気持ちはどうなんだ。

家庭が安心?子供の世話?
バカ言ってんじゃねーよ!
なんで牧野がお前んところの世話しなきゃなんねーんだよっ!!


「私っ・・・」

「ざけんなっ!!」

ガタンと態と音を立てて襖を開き、ドスドスと床を踏みしめて歩く。
こんなに腹立たしいのは久しぶりだ。
ババァにも感じた苛立ちを思い出した。

俺はまず、牧野の肩をぐっと抱き寄せた。
それからこの男を睨みつける。


「なんでこいつがお前のガキを産まなきゃなんねぇんだよ。」

「えっ・・・・いや・・・そのっ・・・・。」

「なんで、好きでもねぇ男の子供を産まなきゃなんねぇんだ。あ?出産っつーのは命がけなんだよっ。なのになんで、牧野がお前の子供を命かけて産まなきゃなんねぇんだっ!ふざけたこと抜かすなっ!!」

「ひぇーっ!すっ、すみません!!」

男が、一瞬泡吹いた状態で硬直して、その後、転げるように逃げて行った。
ちっ、どうしようもねぇ男だ。



忌々しい嵐が去って、気が付けば俺の腕の中には牧野がいる。
カッとして、思わず抱き寄せちまったが・・・。
牧野の顔を見らんねぇ・・・かといって、この腕を離したくもねぇ。

しばらく無言でそのまま立ち尽くした。
牧野は俺から逃げようとしない。
どうしたんだ・・・?

恐る恐る牧野顔を覗き込むと、彼女の頬には涙が伝っていた。

「うぉっ!お前、まさか、あの男のことが好きだったのかよっ!!」

「ちっ・・違うっ!」

「じゃあ、何で泣いてんだよ。」

「だって・・・だって、嬉しかったんだもん。」

「何が?」

「私が言いたかったこと、全部道明寺さんが言ってくれたから。」

涙をぬぐいながら俺も見上げた牧野。
ぐちゃぐちゃなその顔が、強烈に可愛かった。




***



結局その後は、釣りには行かず、道明寺さんの車でドライブをすることになった。
あんなことで涙を流す私を心配してくれたんだと思う。

「ドライブでも行こうぜ?」

道明寺さんは自分の車のキーをポンと真上に放り投げて、パシッとキャッチした。
その姿にやっぱりキュンとした。

さっきの道明寺さんのセリフが胸に残ってる。
今度もまた、彼の言葉に心が打たれた。

『なんで好きでもねぇ男のガキを産まなきゃなんねぇんだ。』

そうだよ、そう。
思わず、笑っちゃうよ。
それこそが、私が言いたかった言葉。

それって、私がずっと気にしていたことだった。
多くの人は、私のことを「結婚するのに都合のいい相手」だと思うみたい。
2年前のあの男もそう言っていた。
そして、悪気はないのかも知れないけれど、前田さんも。
真面目で、浪費癖が無くて、嫁にするにはちょうどいいって。
だけど、そんな風に言われるのは嫌だ。
私は、私のことをちゃんと愛してくれる人と一緒になりたい。

出産は女性が命を懸けてすること。
そうよ、どうして好きでもない人の子供を産めるのよ。
バカじゃないの?

道明寺さんに出会ってはっきりわかった。
本当に好きな人の子供だから欲しいと思うんだ。
産んで育てたいと思うんだ。
誰かが敷いたレールの上を指示された通りに走るなんて嫌。
嫁として都合がいい女だなんて言われたくない。
私のことが好きだから、ずっと一緒にいたいから結婚したいって言ってくれる人に出会いたい。


それが、道明寺さんだったらな・・・
なんて思うのは、おこがましいことだけど。


隣でハンドルを握っている道明寺さんは、私の自動車を運転している時とは全く違う。
真っ黒なメルセデスベンツが本当によく似合ってる。
ハンドルを握っているだけで色っぽいなんて・・・
男の人を綺麗だと思うなんて、この人が初めてだよ。


あぁ、どうしよう。
どんどん彼に惹かれちゃう。
あと少しでお別れなのに、まだまだ一緒にいたくて仕方がない。


「なぁ。」
「ん?」
「お前、なんで助産師になったんだ?」

心地よい沈黙を破って、道明寺さんが私に話しかけてきた。

「昔ね、目の前で妊婦さんがお腹が痛いって蹲ったの。すぐ近くの助産院で出産予定の人だったから、そのまま医院に運び込まれて、そこで男の子が生まれたの。私はずっと妊婦さんに付き添っていたんだけど、すっごく感動したの。だから、私も子供が生まれる現場に立ち会いたいなって思ったの。」

「ふーん。それで、お前自身はどうなんだ?」
「私?私がなに?」
「お前は子供を産みてぇとか、育ててぇとか思ってんのか?」
「そりゃ、いつかは・・って思ってたこともあるけど・・・」
「けど?」

あなたに出会うまでは諦めてた。
だけど、あなたに出会って、私はまた自分の夢を思い出した。

大好きな人と結婚して、その人の子供に恵まれて、家族で仲良く暮らす夢。

だけど、現実は・・・なかなか難しいと分かってる。


「無理かなぁ。」
「何でだよ?」
「私の事、ちゃんと好きになってくれる人ってなかなかいないもの。」

「・・・・・は?お前、何言ってんの?」

私の答えが意外だったのか、道明寺さんが慌てて車を路肩に止めた。



「ちょっと待て。お前のことをちゃんと好きな男がいたら、お前、結婚する気あるのか?」

道明寺さんがあまりに真剣に聞くから、

「うん。」

私は普通にそう答えてた。


だって、私は本当の恋を知って、もう一度夢を思い出したんだもの。

私が好きになった人が、私自身を好きになってくれたら、
どんなことがあっても、その人のことを手放したくない。
ずっと一緒にいたい。
その人と幸せになりたい。


道明寺さんがフリーズしてる。
どうしたの?

しばらくじっと私の顔を見つめていたけれど、


「お前、男性恐怖症ってやつじゃなかったのか・・・?」


思いがけないことを彼が言い出した。


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Comments 7

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Re: タイトルなし

小●様
またまたコメントありがとうございます(*^^*)
もう名前も出してもらえない前田(笑)。しかも、なんでつくしが酒屋手伝わなきゃならねーんだ!(笑)確かに!
まさに寝言は寝て言え!です。この人物の登場はかなり初期から考えていたので、絶対に外せない場面でした。エキストラながら前田かなりなグッジョブです(笑)。
そして、大岡裁きは・・もう少し先ですね~。どんな裁きにするかなぁ。うーん!司が本気出したら殺しちゃいそうだから・・(;'∀')じっくり考えねば!です(笑)。

2018/04/26 (Thu) 23:29 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/26 (Thu) 01:02 | EDIT | REPLY |   
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こんばんは(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます!
今日も一日疲れました。はぁ。
お話の方は、おおっ、だいぶ進んできたかな?実は、この司が怒鳴るシーンは、二人が海に落ちるシーンと司が赤ちゃんを抱っこするシーンの次に頭に浮かんだ場面で、やっとここまで来たなっていう感じです。あ、私はプロットは無い人なので、その時々、こういうシーンが書きたいなっていう目標に向かってフラフラと書き進めていくタイプです(笑)。合間を適当に埋めているんですが、今回合間が長かった・・(^^;) しかし、こんなんで良く書いてるなと自分でも感心・・(とか言って、後から読み返したらあれ?ってところはありますが・・(;^_^A)

さてさて、
花●様
前田はこのシーンで終了です(笑)。えへへ・・つくしちゃん、何て答えるでしょうね??もうちょっとお待ちを~( ´艸`)。私も二人をくっつけたくて、ウズウズしております!

さと●様
やっと司らしいところが出て来たでしょうか?カッコよかったですか?良かったです(*^^)v つくしちゃん、前向きになっています。まっすぐな司の言葉で癒されていくつくしちゃん。この二人はお似合いだと思います!

あ●様
そろそろ司に火をつけないとですね!グッジョブ前田(笑)!はい、出番はこれで終了です。そうなんですよ~。好きってだけで司に付いて行けるのか?どこまでどう話すのか?嘘はつかねぇって言っちゃってるから、私も頭を悩ませています(;^_^A まだまだ課題は山積み・・。二人に頑張ってもらわねばです!

スリ●様
一日お疲れ様です。私も、今日は何気に忙しかったです。司君、颯爽と登場(笑)!やっと本来の猛獣魂が出て来たでしょうか?初めに男性恐怖症という知識が入って、つくしちゃんの前では結構猫かぶってるから(笑)。司も自分がある意味特殊な人間と分かりつつ、ここでの生活に馴染もうとしているんだと思います。じれったさ・・確かに(笑)!つくしちゃんを傷つけまいと必死なんでしょうね。けど、この理由を知ったら・・どうなっちゃうんでしょうね?司君は?絶対に奴らを許しませんね!(笑)。

ふぁいてぃ~んママ様
焦ってますか?(笑)。そうなんですよね。自分で設定しておいてなんですが、1週間ってやっぱり短いですよね・・(;^_^A 次回20話目にして、まだ4日目を書いている・・。最低速で進んでいるかも・・。そして、そう!つくしは悪くないんだから、堂々と!私もそう思います。これは大切な事じゃないかな~。焦れ焦れモード・・どうか、楽しんでください!(笑)

今続きを書いて、今後の内容なども頭の中で調整していますが、もうだいぶ眠いので、早くて明日の夜更新かなと思っています。相変わらず不定期でですみませんが、お付き合いどうぞよろしくお願いします。

2018/04/25 (Wed) 23:14 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/25 (Wed) 19:48 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/25 (Wed) 19:03 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/25 (Wed) 15:06 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/25 (Wed) 05:34 | EDIT | REPLY |   

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