Happyending

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「食器片付けちゃうね。」
そう言って、するっと俺の腕の中から抜け出そうとした牧野をもう一度抱き寄せて、軽く触れるだけのキスをした。

「バカっ!」
って、キョロキョロしてるけど、誰も見てねーし。
真っ赤な顔をして立ち上がった彼女の背中を名残惜しく見送った。


東京に行くことには前向きな牧野。
けど、結婚にはどうやら慎重な様だ。
『付き合ってみてお互いに良かったら・・・』
そういう考えが一般的だってことは理解できる。
俺だけが焦ってることも承知してる。

けど俺は誓って言える。
俺にはこいつ以外の女なんて女には見えねぇし、頭のてっぺんからつま先までこいつの全てが俺のタイプだし、一生一緒にいる女はこいつしかあり得ねぇと脳細胞が叫んでる。
だから、結婚という言葉に迷いなんて微塵もない。
だからこそのプロポーズだったんだ。
軽い気持ちでなんて言ったんじゃねーぞ。



この1週間の休暇の意味がやっと分かったような気がするんだ。

『あなたが今、すべきことが何なのか、自ずと分かることでしょう。』
そう言った俺の母親。
ババァが言ったその意味は、道明寺財閥の跡取りとしてふさわしい相手と結婚し、子孫をもうけろということだったんだろう。
代々世襲の家柄であるこの道明寺家の為。俺が道明寺を名乗る限り、この宿命からは逃れられないと。

だが、そうじゃねぇ。
俺が、今、すべきこと・・それは人生を諦めることじゃねぇ。
牧野だ。愛する女を手に入れることこそが、今、俺がすべきこと。
道明寺家の跡取りとしてじゃなく、道明寺司という一人の男として、一人の女を幸せにして、俺自身も幸せになりたい。
自分の人生を財閥のために犠牲にはしない。
もしも犠牲にしなきゃならねぇんなら、俺が道明寺を出ればいい。

俺はやっと、道明寺という重い足枷を外す決意をした。
それは、牧野という愛する女を見つけたからだ。
それが、この休暇の意味。


鼻歌を歌いながら食器を洗っている牧野を見るとほっと気持ちが和む。
そう、こいつが全てだ。
やっと見つけたんだ、俺のすべきことを。
今の俺に、こいつ以上に欲しいものなんて無い。
金も、地位も、何も必要ねぇ・・ただ、彼女が隣にいてくれさえすれば。




そっと立ち上がった。
一旦弟の部屋に戻り、持ってきていた鞄を開けた。

俺が取り出したのは、一通の白い封筒。
それは東京を出る時に母親から渡されていた。
これを渡された意味は、はっきりとは分からねぇ。
何かを言われた訳でもなかったが、
普通に考えれば、結婚の覚悟を決めろと言うことだろう。

渡されたものは、婚姻届だ。
まだ何も書かれていない。
妻の欄も、夫の欄も空欄だ。
俺がこの紙にサインをすれば、ババァが用意した女の名前を書き入れ、そのまま政略結婚は成立するのは間違いない。相手がどんな女かは知らねぇが、財閥にとって都合のいい女を用意してるんだろう。

だが、この欄に、俺が愛する女の名前を書いて戻ればどうなる?

ババァは度肝を抜かれるに違いねぇ。
そうさ、思い通りになんかさせねぇ。
この紙切れに、俺の覚悟を書いてやる。
認めねぇっていうのなら、俺は道明寺を出る。
道明寺に未練なんて微塵もねぇ。
ただ、今まではそれ以上に手にしたいも物が無かったってだけのこと。
仕事自体は、嫌いじゃなかったし、辛くも無かった。
仕事以外に興味も無かったから、ある意味仕事に没頭すれば他の全てを忘れられた。
俺が女に興味も抱かずにビジネスに徹してきたのは、決して財閥のためなんかじゃねぇ。

けどよ、ババァにしても、それは分かっていたんじゃねぇのか。
どうして、この時期に結婚なんて話を出してきたのか・・その疑問は今も残っている。

だが、ババァにどんな策略があるにせよ、
牧野と出会った俺は、財閥なんかよりも大切なものを見つけた。
こいつを絶対に手放さない。
こいつ以外の女なんて論外だ。

この結論を、俺の両親がどう思うか・・・。
それは戻ってみなきゃ分からねぇことだが、俺は諦めねぇ。




封筒を持って居間に戻った。
今日、この紙にサインをする。
俺とこいつと。
それが永遠に二人を繋ぐ足枷になる。
これまで嵌められていたような足枷じゃねぇ。
俺が自ら嵌りに行く、甘くて重い鎖。
早いとこ嵌っちまいてぇ。
法的にも、こいつが俺のものであると見せつけてやるために。


じっと牧野の背中を眺めていたら、洗い物を終えた彼女が振り返った。

「道明寺さん、ビールでも飲む?」

ニコニコと微笑んでるその表情が無償に愛しい。
知れば知るほど好きになる。
やっぱりこいつしかいねぇと再確認した。

「ビールは要らねぇから、こっち来いよ。」

愛しい女を隣に呼んだ。
エプロンを外して、トコトコトコと歩いてきて、当たり前のように俺の隣に座った牧野。

「何?」

って聞いてくるその顔がすげぇ近いし。
態とじゃねぇんだろうけど、どう考えても俺を煽ってるようにしか思えねぇ。
けど、そう感じても仕方ねぇよな?だって、俺たち両想いなんだぜ?

ニヤけそうになる顔を、ぎゅっと引き締める。
今はまだ、そんなことを考えてる場合じゃねぇんだ。
そうだ。
浮かれるのはまだ先だ・・・。

生まれて初めて、背中に汗が流れる感覚。
めちゃくちゃ緊張してる。


「牧野、これ。」
「ん?」

ガサガサガサと封筒から取り出した一枚の紙をテーブルに開いた。

「ん?・・・・えっ!」

牧野が大きく息を飲んだ。
そりゃ、驚くか。驚くよな。
だってこいつは、まだ結婚までは考えてねぇんだから。

それでも、

「俺の気持ちはもう決まってる。お前にも伝えてる。」

「・・・・・・。」

牧野からのリアクションがない。
けど、俺の気持ちはこれからも絶対に変わらねぇから。



俺は万年筆を取り出した。
それは、アメリカの大学を卒業するときに、世話になった教授から貰ったもの。
俺が唯一といっていいほど尊敬してる、いわゆる恩師と言える人間。
この万年筆で、デカイ契約をいくつも結んできた。
何事にも執着を見せない俺が、ただ一つ大切にしているペン。
その万年筆を手に取って、


『夫となる人』の欄に、

_____道明寺司

自分の名前を一気に書き入れた。


そして、牧野の目の前に万年筆を置く。




家中の物音が全て消えた。
いや、そう感じてるのは俺だけかも知れねぇ。
聞こえてくるのは、お互いの息づかいだけ。

早まったか・・俺。
けど、俺の本気をこいつに示したかった。
それに、この覚悟が無きゃ、あのババァには太刀打ちできねぇ。


「書いてくれねぇの?」

情けねぇぐらいに弱気な声が出る。
それもそうだ。
俺との未来はこいつにとっては茨の道かも知れねぇんだ。
そんな世界にこいつを引きずり込もうとしている俺はズルイ男なんだろう。
後ろめたい気持ちが無いとは言えねぇ。
けど、どうしたって諦めらんねぇんだよ!!


「あ・・あのね。その前に、ちょっと・・聞きたいことがあるの。」
「聞きたいこと?」
「うん。」

俺に聞きたいことがあると言う牧野。
正直、嫌な話は聞きたくねぇ。
けど、俺もまだ話していないことがある。
本当は、まだ言いたくねぇけど。

「それ聞いたら、サインしてくれるのか?」
「え?」

「前も言っただろ?お前に嘘はつかねぇ。すべての疑問に答えてやる。そうしたら、ここにサインしてくれるか?」
「・・・・うん。」

少し困った様な牧野の表情。
けど、うんと答えてくれた。
彼女の答えも、きっと決まってる。
そう思えて、少しだけ力が抜けた。

「ホントだな?」
「・・・脅し?」

牧野がちょっとだけ笑った。
確かに、俺の態度は、焦るあまりに脅しに近い。
けど、どうしてもサインして欲しい。
どうしてもお前が欲しい。
そのためには、俺も・・・


「俺も、お前に話しておかなきゃなんねぇことがある。本当はサイン貰ってから言うつもりだったけど、やっぱそれはずりぃよな?」
「なに?なんの事?」

牧野が目を丸くした。

俺んちの事情を話さない訳にはいかない。
本当は、無理やりにでもサインしてもらってから言いたかった。
ずりぃって言われてもそうしたかった。
誰にも内緒で婚姻届を出しちまったら、誰も文句は言えねぇだろ?
それ位に俺は焦ってた。

それに、今、こいつに俺の事情を話したらどうなる?
俺との結婚どころか、付き合い自体を辞めたいって言うかも知れねぇ。

怖ぇ・・


「お前から・・」
「道明寺さんから・・」

気まずい・・・




その時、

「はーっ、すっきりした。姉ちゃん、ビールあったっけ?」

突然聞こえて来たのは、この緊迫感にはそぐわない弟ののんびりした声。


俺たちの目の前には、婚姻届。
しかも、サインは俺だけって・・・お預け状態。


一瞬目を瞬かせた牧野が、
パパッとテーブルの婚姻届を折りたたんだ。

それから、俺の手を掴み、「こっち」と俺の手を引いた。


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Comments 4

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Happyending  
こんばんは!

いつもたくさんの応援をありがとうございます!

司、婚姻届を持っていたとは!驚きですf^_^;
さてさて、

スリ●様
ね、楓さんはどういうつもりだったのでしょうか?未だ悩んでおります・・私もf^_^;
この司くんは焦るあまりにだまし討ちしようと思っていたようですが・・結局は腹をくくりました。お互いにどんな話を切り出すのでしょうかね?そして、つくしはサインするでしょうか?

花●様
このタイミングで進(笑)!二人は移動して行きましたよ〜。甘い時間は訪れるでしょうか?(笑)。もう少しお待ちくださいませ〜!

さと●様
ご指摘ありがとうございました!そして、爆笑!!やばかったです、司、鐘が命の寺の息子になるところでした(笑)!!昨日、寝る前にタブレットでコメントみて、慌てて直しました。もしかしたら、コメント頂いた直後だったかも!そのまま寝ちゃったのでお返事遅くなりごめんなさいです。そして、二人とも、とっとと鎖に嵌りなさいと言いたい!


GWもあと1日。最後まで、地域行事で潰れます。
明日1話更新できたらいいなと思っていますが、またしてもPCが調子悪くて、どうなることやらです。こちらはiPadからお返事を書いているのですが、書きにくいんですよねタブレット・・(・・;)
ではでは!できれば明日に(*^^*)!

2018/05/05 (Sat) 22:35 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/05 (Sat) 00:29 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/05 (Sat) 00:09 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/04 (Fri) 23:50 | EDIT | REPLY |   

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