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Happyending

Happyending

すっかり深い眠り就いた牧野から、未練たらたらながらもなんとか己を引き抜くと、なんとも言えない喪失感に襲われた。
本当に、もう俺はこいつなしでは生きられねぇ。
疲れ切って眠る牧野は子供の様で、くぅくぅと眠る姿が堪らなく可愛らしくて、一瞬たりとも目が離せない。

そっと彼女に布団をかけて、俺は風呂場で軽く体を洗った。
それから洗面器に湯を張り、タオルを入れて部屋に戻る。
何度か湯を運んで、牧野の体を拭いた。
この俺が、女の体を拭いてるんだぜ?あり得ねぇっつーの。
しかしこんなに体を触られても目を覚まさねぇっつーのもある意味すげぇ。
まぁ、そんだけ、俺が疲れさせちまったってことか・・
そう思えば、どうしたって頬が緩んだ。


全身を清めた後、もう一度牧野に布団を掛けなおし、俺は携帯電話を手に取った。
休暇をもらってから、一度も携帯を見ていなかった。
持ってきていたタブレットも開いていない。
仕事のことも財閥のことも、何も考えなくていい時間など、これから先に二度と来ることはないんだと思えば、この1週間ぐらい全てのことを忘れて自分と向き合いたかった。
そんな1週間になる筈だったのに・・・

今は、
これからこいつをどうやって幸せにするか、
俺たちがこの先どうやって幸せになるか、
俺たちがどんな夫婦になり、家族になるのか、
そのことだけで頭がいっぱいだ。

俺は牧野とのことをこそこそするつもりはねぇ。
両親には正々堂々と紹介するつもりでいる。
その上で、政略結婚などあり得ないと宣言してやる。
もう成人した大人である俺が決めたことだ。
惚れた女も、財閥も両方手に入れる。
そのために自分の人生があるんだと気づいたんだ。
やってやる。
それに、俺の両親がどこまで文句を言ってくるのか、ある意味見ものでもある。


携帯を充電器に繋ぎ、深呼吸してから電源を入れた。

画面を見ると、夥しいほどの着信履歴。
それはすべて第一秘書の西田からだった。
一瞬心臓にドスンと重りが圧し掛かったように苦しくなった。
なるほど・・どうやら、俺は少し緊張しているらしい。
守りたいものができるということは、同時に弱みができることでもある。
牧野を絶対に傷つけたくない。
絶対に守らなきゃならない。
俺んちの複雑な家庭環境に振り回される必要はねぇと思ってる。
政略結婚など、俺は絶対に受け入れねぇし。

着信履歴だけで携帯にメールは入っていない。
タブレットを開けばビジネス用のアドレスには山のようなメールが溜まっている筈だが、

どうすっかな・・・


隣で幸せそうに眠っている牧野の髪を一撫でして、
俺はプツンと携帯の電源を落とした。

休暇はまだ残ってる。
俺の気持ちも固まってる。
今、くだらねぇ情報は必要ない。

生まれて初めて知った人のぬくもり
だから、もう少しだけこのままで・・・

俺は、充電器にささったままの携帯をぽーんと放り投げた。


それから、彼女の首元に左腕を差し入れて、彼女の体を引き上げた。
半分俺に乗り上げるような形になってもまだ眠っていて、
「うーん・・」とか言いながら、俺の背中に腕を回してくる。

あったけぇ・・・

俺の宝物。
牧野を抱きしめたまま、俺もゆっくりと目を閉じた。




***



初めて道明寺さんと繋がった後、私は完全に意識を飛ばしていた。
次に目覚めた時には、すでに窓から日が差し込んでいて・・・
私は彼の左肩を枕に、彼の上に身を投げ出すような姿勢で眠っていた。

慌てて身を起こそうとしたら、すぐに彼の胸に引き戻されて、
「どこ行くんだよ」って、怒られた。

「まだ、5時半だよ。もう少し寝てて。私、シャワーしてくる。」
「夜、体拭いといたけど?」
「・・・え?」
「やっぱ、ベトベトするか?」

体を拭いた?
ベトベト・・?

体を触ってみたけど、ベトベトはしていない。

「なんで?」
「なんでって・・そりゃ・・・まぁ、そのままでも良かったかも知れねぇけど、ここの風呂は二人で入るには狭すぎるだろ?」
「ちっ・・違うっ。そういうことじゃなくって!」

思わず彼の胸の上に手を置いて、上半身を引き起こすと、
ズキッと下腹部に鈍痛を感じた。

「おいっ、大丈夫か?」
顔を顰めた私に驚いて、道明寺さんも身を起こす。

「・・・大丈夫。」
・・と思ったけど、何となく内股にヌメヌメした違和感がある。

あれぇ・・
うそっ・・もしかしてっ!?

「どうした?」
首をかしげて私を覗き込む道明寺さん。

「あっ、あのね、あの、えっと・・・避妊って・・した?」
恐る恐る、道明寺さんに視線を合わせてみる私。

お願い、したって言ってーっ!!
だけどあの時、そんな余裕あったっけ?

ちょっと申し訳なさそうに私を見つめる道明寺さんのその表情が答え。

いやーっ!!
ちょっと待って!私、生理いつ来たっけ?

「う・・そぉ・・」
「わりぃ。そんな余裕なかったし、正直、避妊具も持ってなかったから、外に出そうと思ったんだけどな。」

道明寺さんがちらちらっと私の顔色を窺っている。
私、怒ってるわけじゃないのよ。
その・・結婚まで考えている人だもの、ダメってことはないんだけど。

でも、私、助産師なのに・・
そういうこと、指導する立場にいたのにな。
そうよね・・雰囲気に流されちゃうことってあるのよね・・うん。

____って、そんな訳あるかーっ!!


「そんなに怒るなよ。な?」
「怒ってるんじゃないの。自己嫌悪。」
「何で?」
「だって、私、避妊は男性任せにしてはいけませんとか、指導してたのに。」

「それって、望まない妊娠のことじゃねぇーのかよ。」
どんよりしている私に、不服そうに彼が言った。

確かに、産後すぐの妊婦さんとか、まだ妊娠はできない状況の人に説明することが多かったんだけど。

「でも・・・。」
「俺はちょっと期待した。」
「何を?」
「お前に子供が出来たらいいなとか。楽しいだろうなとか、そんなこと。」

相変わらずストレートな道明寺さんに、赤面しちゃう。

「気が早いよ。まだ結婚した訳じゃないのに。」

そうよ、そう。
道明寺さんのご家族がなんていうか分からないっていうのに。
東京に行くって決めても、一番の問題が残ってる。

「俺はこの先もずっとお前と生きていくつもりだからな。」
「うん。」

それはそう。
私だって、道明寺さんのご両親に認めてもらうまで頑張るつもり。
ダメだって言われても、諦めない。
この手を絶対に離さない。

彼の大きな手を握ると、
彼が私にチュッとキスをした。

「ひゃっ。」
「明日からは、お前からしろよ?」

私を覗き込むその瞳はやっぱり甘くて、優しい。
どうしたって逆らえないのよ・・・
返事をせずに、ちらちら道明寺さんを伺っていたら、

「で?いいのか?」
「え?」
「お前、体、丸見えだけど・・・」

ぎゃーっ!!

私は慌てて布団を掴んで、体を隠した。
そうしたら、今度は丸裸の彼が見えちゃって・・・

うぎゃーっ!!
もうっ!朝から刺激が強すぎるったら!!

あははって笑ってる道明寺さんは、
出会った時とは比べ物にならないぐらいに楽しそう。
ねぇ、己惚れてもいいよね?
この笑顔は私と一緒にいるから見られるんだって。
そう思ってもいいよね?






シャワーを浴びて、朝7時には、パパとママが部屋にやってきた。
何も悪いことなんてしてないんだけど、なんとなく気まずい。
だけど、隣の道明寺さんは堂々としているから、私も平静を装って朝食を食べ始めた。

「道明寺さん、お汁のおかわりはいかが?」
「頂きます。」
「どうぞ、どうぞ、若いんですから、たくさん食べてね。」

朝から、汁椀にたっぷりの豚汁。
それを相変わらず綺麗な所作で食べている道明寺さん。
私も一緒に汁物に手を伸ばして、ほっと一息。
おいしい・・・

「白米にはこちらね。青森のねぶた漬け。数の子入りだから、子宝祈願になるかしら?」

「ぶーーーーっ!!」
突然豚汁を噴出した私に、

「何やってんの、お前。」
道明寺さんが、すっとハンカチを取り出して、私の口元を拭いてくれた。

「つくしったら、恥ずかしいわね。それでも女の子なの?」
「だってっ!」
「結婚するんでしょ?これから子供ができることだってあるじゃないの。」
「そ・・そうかも知れないけど・・・。」

「ねぇ~?道明寺さん。」
「はい。俺はいつでも大丈夫です。」

当然といった感じのママに、これまた当然といった感じの彼の返事。
真っ赤になる私と、青くなってるパパ。

「もうね~、パパったら、昨日もやっぱり結婚前の男女を同じ部屋にしちゃいかーんとか言い出して、二人の部屋に行こうとしたのよ?」

「「えっ!?」」
思わず同時に声を上げたのは、私と道明寺さん。

「けど、諦めてしょんぼり帰ってきたの。本当に、子離れできてないんだから、パパは。」

どっ、どういう事?
もしかして、パパったら私たちの部屋、覗き見たんじゃないよね?

「違うよ、一緒にトランプでもやろうかと思ったんだよ。けど、もう寝てるみたいだったから・・・。」
残念そうに言うパパに私は心底ほっとしてしまった。

「そっ、そうなの。疲れてて、すぐに寝ちゃったのよね?道明寺さん。」
「おっ、おう、そうだったな。」

さすがに道明寺さんも焦ったみたい。

それでも寂しそうなパパに向かって、
「自宅にお父さんとお母さんの部屋も用意しますから。いつでも遊びに来てください。待ってます。」
そんな風に言ってくれた。

パパってば感動して泣いちゃってるし・・・
彼の左手をそっと握ると、ぎゅっと握り返された。

私ってば、本当に素敵な人に巡り合ったんだなぁ。
私の両親のことも大切にしてくれる、本当に優しい人。





ゆっくりと朝食を食べ終えてから、
パパとママに見送られ、私は道明寺さんの車に乗り込んだ。

「体に気をつけなさいよ。」
「うん。また連絡するね。」
「入籍は先に済ませて、式はゆっくり考えたいと思っています。」

えっ?って道明寺さんを見上げたら、なっ?って感じで髪の毛をクシャってされた。

「楽しみにしています。」
そう言ってくれたパパにちょっと泣きそうになる。

大好きな両親と弟、そしてお世話になった先生たちのいる宮城を離れる寂しさはある。
だけど、この先もずっと道明寺さんと一緒にいたいから・・・


「行ってきます。」


ここから再出発をする私。

運転席の道明寺さんに視線を向けて、

「行こう!」
と笑顔で告げた。

大きく一つ頷いた彼。

それから独特なエグゾースト音が鳴り響いて、
私たちは東京に向かって走り出した。



全開の窓から吹き込む潮風。
それを胸いっぱいに吸い込みながら、


どうか・・・
    この先には幸せが待っていますように


私は強くそう願った。



【そんな夫婦の物語 第一部 完】

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いろいろとあり、一旦ここで区切りますね。
いつも温かい応援を本当にありがとうございます。
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Comments 11

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Re:

it●様
初めまして(#^^#)
実は私もGWの最後の方は、古い二次様を巡っていました。とっても癒されてしまった( *´艸`)
好きな展開は、先がわかっていても、何度読んでも楽しいです(≧◇≦)
素敵な二次様を読むと、別に自分が書かなくてもいいか...と思うのですが、たくさんコメを頂くと、やっぱり頑張ろって思います(*^^*)気分屋さんデス(笑)。でも、みんな書き手なんてそんなものなんじゃないかな~と思うんですよねぇ(笑)。

このお話が好きと言ってくださる方、時々おられます。
コメ頂いてからふっと続きが妄想出来て、色々調べなくてはいけないことがありますが、頑張って書こうかなという気持ちも数パーセントに上がってます(←低いか?笑)少しだけややこしいお話になりそうなので躊躇するのと、自分でも下調べがかなり必要そう..。なので後回しにはなってしまいますが、いつか必ず完結させようと思っています。
もうしばらくお待ちください。
他のお話も楽しんで頂けて嬉しいです。
コメントありがとうございました(*^^*)

2020/05/10 (Sun) 20:45 | EDIT | REPLY |   
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2020/05/09 (Sat) 14:56 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/17 (Sun) 16:19 | EDIT | REPLY |   
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こんばんは(*^^*) ②

き●様
コメントありがとうございます(#^^#)楽しんで頂けて嬉しいです!体調は悪くないです。お薬は飲んでいますが、もう少しで終わりかなって感じです。ただ、日々忙しくて・・。少し休憩したらまた続きをと思います。その前に、気分転換に短編とか書くかもですが(;'∀') また是非覗いてくださいね~。

さ●様
そうなんです。第二部はまさに東京編になる予定です。どんなお話にするのかは目下検討中です(笑)。楽しみにしていただいていると聞くと頑張れます(笑)。ありがとうございます!

さと●様
本当ですね~。鬼ヶ島にいざ出陣です(笑)。
そうそう、ここで、ゴムとか出してきてたら、え?用意してたんだっ!って絶対言われる(笑)。
私は、避妊したよね?って聞くつくしちゃんもどうかと思いました(;^_^A わかるだろーっ。してねーよっ!って自分でツッコミましたよ~(笑)。豚汁ブーしても、優しく拭いてあげる司。もう、恋は盲目です(笑)。
無事に合体して、いざ東京へ。何が起こるか・・これから考えまーす(笑)。

H●様
強烈な出会いから開通まで(笑)。第二部もついてきていただけますか?えへへ、ありがとうございます!もう少しお待ちください~(*^^*)

マ●様
はじめまして~(#^^#) 楽しんで頂けて、私も嬉しいです。お話の始めはあんなに暗かったのに(笑)、ラブモード全開で東京へ向かっています。続き、少し後になると思いますが、また覗いて頂けると嬉しいです!


さてさて、少し休憩して、また更新再開したいなと思っています。
ひとまず第一部、最後まで読んで頂き、ありがとうございました!!

2018/05/22 (Tue) 00:57 | EDIT | REPLY |   
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こんばんは(*^^*) ①

ここまで読んで頂いて本当にありがとうございます(#^^#)
第一部だったのかよーっという声もあるかと思いますが、もう、今色々限界で。少し前から一旦切ろうと思っていたんです。
しばらく休憩をと思いまして・・(;^_^A

第一部は、出会いから二人が愛し合うまで。
タイトルにある『夫婦』にまで持ち込むことができなかったのは悔やまれますが・・・。
いずれ第二部でそうなるということで・・(笑)。

さてさて、
スリ●様
いつもコメントありがとうございます(#^^#) 司君、甲斐甲斐しいですよね・・ププ。つくしちゃんは助産師という職業柄自己嫌悪(笑)。しかし、パパさん入ってきて体拭いてるとことか見ちゃったらやばかったですよね(笑)。まぁ、ラブラブな二人を見て、安心して送り出したようですよ?そう、この先はちょっと休憩。俺の女の時にも同じぐらいで休憩しました。長編は本当に疲れる・・。で、そうそうHappy Daysとか書きたいなとは思うんですが、時間がなくて・・。空いた時間に短編とか書きたいんですけど、どうなることやらです。

花●様
もうすっかり司のペースです(笑)。これから東京編になります。まだいろいろ考え中です(;'∀')えへ。いろいろと書かなきゃなことがあるんですよね~。プロット立ててみようかなぁ・・とか思ってます。いつも一緒に楽しんで頂けて嬉しいです。少し休憩しますが、また続きで(*^^*) もう少しお待ちください~!

あ●様
つくしちゃん、ぼっこぼこにされないように、坊ちゃんに頑張ってもらわないと・・です。ここで切ったのに、あっさり楓さんが「あら、いいじゃない」とか言って、一発OKだったら・・どうでしょう?もう、終了ってことで、第二部は10話とか(笑)。あはは。じっくり考えますね~。 そうそう、パパさん、納得した・・かな?いずれ道明寺邸を訪れて度肝を抜かれることでしょう(笑)。

2018/05/22 (Tue) 00:43 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/21 (Mon) 13:53 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/20 (Sun) 23:54 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/20 (Sun) 22:50 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/20 (Sun) 21:43 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/20 (Sun) 21:36 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/20 (Sun) 21:29 | EDIT | REPLY |   

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