Happyending

Happyending

Tururururu…Tururururu…Tururururu……

___カチャ…

でたっ!


「もしもし・・師匠?」

『ああ。』

今日も夜の10時。
あたしは師匠の携帯に電話した。
なんとなく師匠に聞いてもらいたいことがあったから。





間違い電話をかけたあの日から、あたしは時々師匠に電話をしてる。
本当は、困ったときだけかけるはずだったのに、ちょっとしたことでも師匠に話を聞いて欲しくなったりして電話をかけちゃってる。

卒業旅行の行先を迷ってるとか、
友達の優紀は小学校の先生になるんだよとか、
会社勤めになったら毎日パンプス履かないとダメかなとか、

はっきり言って師匠に話すことでもない、どうでもいい話。

いつものあたしなら、大学で仲がいい男の子にだってこんな話はしない。
だけど、少しでも師匠の声を聞きたくて、つい電話してしまう自分を止められないの。
相手の顔を知らないから、くだらない話もできっちゃうのかな。
これって、おかしい?

そんなあたしの話を師匠は結構真面目に聞いてくれるの。
それがなんだか嬉しくて、ついつい携帯に手を伸ばしちゃう。
今日は出てくれるかな?ってドキドキしながら。


それからね。師匠の返事はちょっと変わってるの。
『卒業旅行ってなんだ?』
って聞くから、大学を卒業する記念に友人と思い出作りをするんだよって教えてあげた。
師匠は卒業旅行なんて知らなかったんだって。そんな人いるんだね。
何となく、師匠は大学をきちんと卒業してるビジネスマンの雰囲気なんだけどな。

「どこかお勧めのいいところ知ってる?」
って聞いたら、
『ふーん。そーだな。モンテ・カルロで遊んでくれば?』
だって。
モンテ・カルロってどこよ?って後からネットで調べたら、モナコの高級リゾート地だった。

あたしが考えてる卒業旅行は、海外ならグアムぐらいだし、日本なら北海道あたり。
そう言ってみたら、『しょぼいな』だって。
でもその言い方は嫌味に感じないの。この人の素直な反応で、あたしを馬鹿にしてるわけじゃないみたい。
その証拠に、『北海道か、行ったことねぇな』って、ちょっと羨ましそうだった。

それが可笑しくて笑ったら、『何笑ってんだよ』って怒られた。
冬にはスキーで行きたいよねって言ったら、『スキーはカナダだろ』だって。
やっぱり師匠のスケールは桁違いだったから、また笑った。


やっぱりね・・・声がいいんだよ。
何を言っても心地よく耳に響いてくるヴァリトンボイス。

その声で、
『男も一緒か?』
なんて聞いてくるから、慌てて
「いないよっ!」
って答えるあたし。

これってカレカノみたいじゃない?・・・なんて。
恋愛経験値がゼロのあたしがこんな会話でテンパってるなんてこと、きっと師匠は分かってないんだろうなぁ。


顔も知らない人。
けど、知らないからこそ、自然に話せるのが嬉しくて楽しい。


それに、己惚れる訳じゃないけど、
師匠も口で言うほど嫌がってない・・と思う。
『またお前かよ』とか、『お前の声聞くと眠くなる』とか言うんだけど、
時々忙しそうな時でも、『5分だけ聞いてやる』とか言ってくれるの。

「忙しそうだから切るね。」
って言ったら、
『俺がいいっつったらいーんだよっ!』
なんて、逆切れされることもしばしば。

なんだかんだ言って、
口は悪いけれど優しいんだ・・・師匠は。






「あのね、明日なんだけどね......」

ーーーーガヤガヤガヤ・・・

話を続けようとしたあたしだったけど、師匠の周りの様子がいつもと違うことに気付いて話を止めた。

___ああ、それでいい。
___先に行ってろ。

師匠がそんな指示を出しているのが聞こえた。

いつもは師匠が一人の時に電話をしていたようで、今日の様子にあたしはちょっと驚いた。
師匠のいつもとは違う側面。
ビジネスマンの師匠の一コマ。
しかも、なんだか偉そう・・・
いやいや、上に立つ人って感じがする。
師匠の声は若い感じがしたけど、実はすごく年上なのかも?


そんなあたしたちは、自分の素性はほとんど明かしていない。
あたしの名前が『牧野』だってこと、大学卒業間近だってこと、もうすぐ就職だってこと、
師匠があたしについて知っているのはその程度で、
あたしが師匠について知っていることは、考え方がストレートだってことぐらい。


「忙しそうだね。ごめん、いつもこれぐらいに電話してたから。」
『いや、大丈夫だ。今、ニューヨークなんだよ。こっちに着いたとこだ。』
「ニューヨーク!?」
『あぁ。1週間はこっちに缶詰めだ。こっちで指揮しなきゃなんねぇプロジェクトがあんだよ。』

ニューヨークで指揮を執るプロジェクト?
師匠って・・・一体何者なの?

「大変そうだね。」
『まーな。お前の声聞くと眠くなるところだが、今はさすがに眠れねーな。』
「どうして?」
『プッ。どうしてって、こっちは朝8時だ。時差ってもんがあるだろーが。』
「あ、そうか。」

ニューヨークとの時差ってどれぐらいなんだろう?
すぐには計算できなかった。

「ごめん、変な時に電話しちゃって。」
『大丈夫だって言っただろ?今から移動。』
「だけど......」
『相変わらずウダウダ言うな、お前は。』
「だって!」
『今日の話は何だよ。』

師匠ってば忙しそうなのに、そんな風に聞いてくれるから、

「明日ね、卒業式なの。」
『大学のか?』
「そう。」
『で?』
「卒業式でね。答辞を読むの、あたし。」
『とーじ?』
「うん。」

『今更なんだけどすっごく緊張しちゃってるから、師匠にカツを入れてもらおうと思って。』
「とーじ.............」
『............?うん、そうだけど。』

珍しく?師匠がちょっと口ごもった。

「............どんな話か言ってみろ。」
『ほら、4年間お世話になりましたとか、社会人になっても頑張りますとか、そういうこと。』
「あー・・・。」

「もしかして.........師匠、答辞知らないの?」
『ばっ、そんな訳ねーだろっ!』
「嘘っ、絶対知らなかったでしょ!?」
『・・・っ!俺はアメリカの大学出てんだよっ。日本の卒業式なんて出たことねぇ!』

うわっ・・すごっ。
師匠はアメリカで大学生活を送ってたんだ。
なんか、やっぱり凄い人?世界を股に掛けるビジネスマン?
だから、答辞なんて知らないんだ。
えー?でも本当に知らないの?・・なーんて、首を捻っていたら、耳元に師匠の声。

『つーか、普通にやれよ。カッコつけようと思うな。』

「............え?」


『お前が4年間で培ってきたものがあるんだろ?
 それ以上の話なんてできねぇだろーが。
 力入れすぎんじゃねーぞ。』


うわーっ!キタァーっ!!
いつもの師匠の神発言。
師匠はさらっと凄いことを言う!
さりげない一言があたしの背中を押してくれる。

あたしが4年間培ってきたもの。
必至で勉強してきたこと。
尊敬する教授に習って、経済の仕組みを追求した。
語学が好きで、旅行にも言ったことないのに独学で、英語とフランス語、ドイツ語はビジネス会話レベルに話せる。駅前留学だってしてないんだからっ!あたしの努力の賜物よ。
バイトだって頑張った。
家庭教師を受け持った子たちは、みんな第一志望の大学に入学したんだよ。
「つくし先生のおかげです」って言われて嬉しかったんだから。
だから、これから社会に出たって、絶対に手を抜いたりしない。
大学で努力してきたことを生かして、これからも努力を続けていきたい。


『お前が言いたいことをしっかり伝えればいーだろ?』
「うん。師匠、ありがと。」
『おぅ。頑張れよ。』
「ん。」

あたしの胸がほんわかあったかくなってくる。
師匠の言葉はあたしのエネルギー源。


『悪い、時間だ。』
って聞くと寂しいけど、これ以上師匠の邪魔しちゃだめだ。

「師匠もがんばってね、お仕事。」
『言われなくてもちゃんとやる。』
「さすがです、師匠!」

そうなの、師匠はデキル男なんだよね。
俺様な口調は伊達じゃない。
きっと人一倍努力してなきゃこんな発言できないもの。

『しばらく電話繋がんねぇかも知れねぇけど』
「分かった。しばらくは我慢する。」
『バーカ、我慢ってなんだよ。なんかあったらかけて来いよ。』
『ん.........1週間ぐらいで帰ってくるの?』
「その予定。」
『じゃあ、それ位は我慢する。』

だから帰ってきたら電話してねって言いそうになった。
だけど、それは言えないよね。
だってあたしはそういう事を言える立場にない。
師匠の恋人じゃないもん。
だけど、自覚してる・・・自分が師匠に依存してるって。

あたしは今まで誰かを頼りたいと思ったことなんてなかった。
なんでも自分で解決したくて、頼ることが苦手だった。
なのに、師匠の声を聞くとつい弱い自分が出ちゃう。
そんなあたしの話を、師匠は何も言わずに聞いてくれる。

けど............
あたしが勝手にこの人を師匠と呼んで頼っているだけで、師匠からあたしに電話がかかって来たことは、一度もないんだよね。ふぅ......。


『プッ。無理すんなよ。』
「大丈夫ですぅ!」

この人はきっと分かってる。
あたしに頼りにされてるってこと。
だから、実はすごく忙しいのに、あたしとの電話に時間を割いてくれている。

あたしも、少しは自立しなきゃね・・・
いつまでもこのままって訳にはいかないんだし。
そのうち師匠の足手まといになって、嫌われちゃうかもしれないもん。
それは絶対に嫌だ。

『じゃあ、またな。』
「うん。」


そして、電話は切れた。
それでも、いつも最後には「またな」って言ってくれる。
また電話してもいいんだって思わせてくれる。
あたしはその言葉にどれぐらい救われてるか、
師匠は知らないでしょ?





***



「なぁ、西田。とーじって何だ?」
「とうじと言われましても、色々とございます。」
「あれだよ。大学の卒業式で読むんだろ?」
「ああ、それでしたら、答辞ですね。通常はその大学を主席で卒業した人間が読むことが多いのでは?」
「は?」

大学を主席で卒業?
あの、ボケ牧野が?


あれから時々かかってくる牧野からの電話。
今でも、俺のことは『師匠』と呼んでいる。
普段の俺だったら絶対に許さねぇその言い方だが、牧野に言われるのは悪い気がしなかったから、いつの間にかそれが定着しちまった。
波田って男とはきちんと切れて、今は最後の大学生活を満喫しているらしい。
卒業旅行は結局北海道に決めたと聞いた。
女同士で行くらしいが、危なくないのか心配だ。
うちのホテルを紹介しようかと思ったが、あいつは俺の素性を知らない。
俺だって、あいつの苗字しか知らない。
牧野のことをもっと知りたいと思う一方で、俺のことは知ってほしくない・・そんな相反する感情がある。

あいつとの会話は、たぶん“普通”ってやつだ。
たぶんっつーのは、俺が今まで女と会話なんて、姉ちゃん以外したことがないからで。
だが、牧野とは普通の男と女が会話するように、自然と話ができている・・と思う。
こんなことは生まれて初めてで、案外それが嫌じゃない自分がいる。
それにあいつとの会話はなんだか心地よくて、いつの間にかあいつからの電話を心待ちにしている俺がいるのは否定できない。
週に2回ぐらいかかってくるあいつからの電話。
夜10時になると落ち着かない。

だが、だからといって俺が牧野に電話をすることはない。
それは・・・自分でも予想できるからだ。
一度電話をしちまえば、きっと歯止めが利かなくなる。
毎日声を聞きたくなる。
あいつとの会話は、俺を道明寺財閥の後継者としてではなく、ただ普通の男に戻してくれる貴重な時間だ。
だからといってその時間に溺れる訳にはいかねぇってことも、俺は十分わかってる。


もしも、あいつが俺の素性を知れば、この心地よい関係は途絶えちまうかも知れない。
俺はそれが怖かった。
だから、踏み込まない。
そう決めた。



それなのに・・・・・



答辞の話をした、最後の会話から1週間。
あいつからの連絡はない。
何度携帯を見ても、あいつからの着信はなかった。

すげぇ落ちてる俺がいる。


日本に帰国してからも、牧野からの連絡はなかった。
そこではじめて気づく。

あいつとの会話がどれだけ癒しだったか。

_____俺のエネルギー源


このまま失えるはずがねぇっ!!



最後の会話から10日目の夜10時。
俺は初めて、牧野の電話番号をコールした。


にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
早くも坊ちゃんコール(笑)!
関連記事
Posted by

Comments 10

There are no comments yet.
Happyending  
こんばんは(*^_^*) ②

まーしゃん様
お久しぶりです!お元気ですか?まだ海外にいらっしゃるんですね~。この時差はどこだろう~と調べてみたけど・・検討がつきませんでした(;^_^A 毎日、忙しいのですが、こうやって二次を書くのも楽しみで書いています。自分の無理ないペースで進めていきますね。温かいコメントありがとうございます(*^^*)そして、これから、どうやって二人が出会い恋に落ちるのか・・・最後まで、チェックしてくださいませ~(≧▽≦)!

洗●様
ご無沙汰しております!そうなんですよ。突然湧いてきた妄想を、書いちゃえって感じで(;'∀') 展開読めないですか?他の方にもそういわれたのですが、ある意味ベタなんじゃないかと不安です・・・(;^_^A 二人がどうやって恋に落ちていくのか・・というかもう落ちてそうですが・・どうぞお楽しみに(*^^*)

あ●様
そうなんですよ!その気になれば、つくしちゃんの個人情報なんてゲットできちゃう立場の司君。そうしないでいるのがまた紳士な感じで、権力を使わなくてもHappyになれるように頑張ります(≧▽≦)!はい、のんびりと書かせていただきます。いつも応援ありがとうございます(*^^*)

道●様
この展開・・ありですか??うわー、良かったです~(*^^*) 不安だったんですよ、凄く!続きもぜひぜひ読んでくださいね(*^^*)

H●様
早くも!ですよ(笑)。どうなると思います?続き、どうぞお楽しみに(*^^*)


続きは明日の予定です。
朝に間に合うかどうかは微妙ですが・・・こんばんは少し余裕があるので頑張りたいです!
ではでは~(*^^*)

2018/06/12 (Tue) 19:34 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
こんばんは(*^_^*) ①

こんばんは~。続きお待たせしてすみません。なかなか仕事が片付かず・・・。
けど、明日には1話アップしたいなぁと思っています。
たくさんのコメントもありがとうございます!って、ちょっとびっくりですよ。だって、このありえない設定が案外楽しんでもらえているんだなぁって・・。私の脳内に湧いてくるかなりくだらない妄想なのに・・(;^_^A でも、一緒に楽しんでいただけて、私も嬉しいです!

さてさて、
スリ●様
ね、もうカレカノのノリ(笑)。くだらない妄想炸裂です(笑)。さて、司君からの電話につくしちゃんは応答してくれるでしょうか?ドキドキドキドキ・・・・、続きをお楽しみに(≧▽≦)!

テ●様
おお~っ!旦那様は素敵な声をされているんですね(*^^*) 私の主人はうーん・・・声はともかく、話は長いし、オチがない・・・。生粋の関西人とは思えず、根本関東人の私がいつも呆れてます(;^_^A 夫婦も長くなると「要点だけでいいよ~」って感じです(;'∀') さて、動き出した坊ちゃん、電話は繋がるでしょうか!お楽しみに!

花●様
あはは、さらっと坊ちゃん節炸裂です( *´艸`) それを素直に聞いているつくしちゃんもレア(笑)。そして、そうそう就職先は~・・・うしし。こちらもお楽しみに(^^)v

こ●様
やっぱり就職先きになりますよね(笑)。これで、花沢物産だったらどうします?あはは。話長くなって終わらないから、たぶんそれはないです・・(まだ書いていませんが・・汗)楽しみにしていただいてありがとうございます!ゆっくり投稿ですが、お付き合いお願いします(*^^*)

2018/06/12 (Tue) 19:24 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/12 (Tue) 18:07 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/11 (Mon) 21:26 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/11 (Mon) 15:44 | EDIT | REPLY |   
まーしゃん  

実生活がお忙しいとのこと。もしやしばらく1ヶ月?いやいや半年とか??お休みされるのかと寂しく思っていました。それが思いもかけずの新しいお話!しかもすごくおもしろい!司が"師匠"って!!
声だけの意外な出逢い方から、これからどうやって実際に出会って二人が恋に落ちて行くのーっ?!っと身悶えています! すごくすごく楽しみです♫ ゆっくりペースでも構いません。無理なさらない程度で…でもお話続けてくださったらうれしいです。更新時間の5時はこちらの夜11時。Happyendingさんのお話が届いているかなぁ〜と楽しみな寝る前の私の癒しの時間です。いつもありがとうございます!

2018/06/11 (Mon) 08:31 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/10 (Sun) 23:38 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/10 (Sun) 22:30 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/10 (Sun) 21:28 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/10 (Sun) 21:26 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply