Happyending

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俺があいつに初めて電話をかけたのは、日曜日の午後10時。
姉ちゃん以外の女になんて電話したことねぇんだから、緊張するのは当然だ。
しかも、携帯をタップしたのはほとんど勢いで、話す内容なんて考えてない。

ただ、あいつの声が聴きたい・・・それだけだ。



Tururururu…Tururururu…Tururururu…

出ろ出ろ出ろ・・・・

Tururururu…Tururururu…Tururururu…

いい加減出ろよっ!
6コール目で、俺のイライラは最高潮。
あと3コールだけ待ってやる・・・けど、それ以上は待たねぇからなっ!
なーんて強気で攻めようとするものの、

Tururururu…

あと2コール・・・頼むから出てくれよ・・・
と僅かな期待を捨てきれず携帯を握りしめる俺。


Tururururu…Tururu…___ガチャン!


___でたっ!!




『師匠っ!?』

聞こえてきた牧野の少し焦った声に、顔が緩みそうになるのをぐっと抑えた。

「てめぇ、俺がかけてんだからすぐに出ろよ。」

『あ、ごめん。だって、お風呂に入ってたんだもん。』

風呂っ・・//!!
って、何焦ってんだ、俺っ!!

つーか、今風呂入ってたってことは、今日も俺に電話する気はなかったってことだよな。
それがやっぱ残念で、こいつとの縁が切れそうで不安になる。
かといって、自分がどうしたいのかもよく分かんねぇ。
ただこいつと繋がっていたい、声が聴きたいと思う。
・・・それは俺の我儘ってやつなのか?

ごくっと唾をのんで、なんとか頭の中から会話の糸口を探す。
生まれて初めての経験だ。


「髪、乾かしたのか?」
『......うん。』

『師匠、帰ってきたの?』
「......ああ。」
『いつ?』
「2日前。」
『お疲れ様。』

こいつから聞こえた『お疲れ様』の言葉に胸が熱くなる。
仕事するのなんかするのは当たり前だ。
俺は会社の専務で、俺の経営手腕に、何万人という社員の人生がかかってる。
そいつらの生活を守って当然の立場だから、24時間戦闘モードでいるのは当然だ。
お疲れ様だだなんて気休めで、そんなことを言われたからって、俺の気が休まる時はない。
だから、誰に“お疲れ”と言われようが、たいして気に留めたこともなかった。

今、この時までは。

不思議だ。こいつの言葉は自然と心に響いてくる。
誰に褒めて欲しい訳でもなかった筈なのに、こいつに労われることで疲れが吹っ飛んで、肩の力が抜けていく。

「おう。」

と、返事をしてみるものの、これ以上会話が続かねぇ。
いつもは牧野がくだらねぇことをペラペラペラペラしゃべるから、その声が心地よくてじっと聞いていた。
なのに、こいつがしゃべらないからますます不安になる。
だから、何とか会話をひねり出そうと、俺なりに頭の中をフル回転だ。
ビジネスじゃ、こんなことありえねぇのに。
自分の言葉に対する相手の返事なんて読めてるはずなのに、こいつに関しちゃ、全く予想ができねぇ。


『.........お前も、忙しかったのか?』
「ん?」
『忙しかったのかって聞いてんだよ。』
「忙しいっていうか、そうだ、北海道行って来たよ。楽しかった。空気がおいしくてね。景色も最高!」
『空気がうまいって何だよ。空気に味がある訳ねーだろ?』

ああ、そっか、こいつは北海道に行ってたのか。
だから電話ができなかったんだな、と勝手に結論付ける俺。

『えー、空気もおいしいよ。』
「............腹減ってたのか?」
『ちがうっ!山とか、川とか、湖とか、そういう自然がいっぱいのところで胸いっぱいに吸う空気は格別なのっ!』

必死になって説明してるこいつ。
いつもバイト、バイト言ってるから、旅行行ってもメシ食う金がなくて空気で我慢してたのかとマジ焦ったが、そうじゃないらしい。

「楽しかったってことか?」
『うんっ。』

旅行を楽しんで、無事に帰って来ていたらしい。
そのことに安心して、

「無事に帰ってきたんなら電話ぐらいしろよ。」

ついこんな言葉を吐いちまってから焦った。
俺は、そんなこと言う立場じゃねーだろうがっ。
まるで電話を待っていたかのような・・そんなもの欲しそうな言葉。
この俺がだ・・・くそっ、ありえねぇっつーんだ。

やべぇ・・・こいつはどう思った?
変な汗が背中を流れた。


が、俺の予想に反して、

『電話して良かったの?だって、師匠ニューヨークだったし。時差とかあたしよくわかんないし。一週間って言ってたけど、本当に帰ってるか分からないから、そんなに大事な話もないのに電話できなかった。』

なんて、牧野は殊勝なことを言い出した。

はぁ~。電話してこなかったのはそんな理由かよ。
その事実に俺は心底安心した。
俺との繋がりを切ろうとした訳じゃねーんだなって。

「今まであれだけ電話してきておいて、いきなり電話こねー方が心配になるだろうが。」
『.........心配してた?』
「あったりめぇだろ。」

素直にそんな言葉を吐く、自分が信じられねぇ。

恋人でもない。
顔も知らない、見ず知らずの女。
牧野という名前と、この声だけが俺の知る彼女のすべて。

こいつが大学を卒業すると聞いて、実はニューヨークで時計を選んできたとか、絶対に言えねぇ。
会う理由もない女のために、俺が卒業記念のプレゼントを選ぶなんて。
しかも、ショップに行く時間はないから、夜中にニューヨーク中のブランドを外商に集めさせただなんて。
渡せるはずもないその時計を選ぶのに、たっぷり1時間以上かけただなんて。

____死んでも言えねぇ。



『.........嬉しいな。』
「は?」
『だって、初めて師匠が電話かけてきてくれたんだもん。』
「あ?」
『電話するのはあたしだけだと思ってたから、なんか嬉しい。』

えへへ・・と笑う牧野。
今日初めて聞いた笑い声に心が和む。
やっぱこいつの声が好きだ。
手放せねぇ・・・な。


『あっ、答辞、ちゃんと読めたよ。』
「そっか。」
『ありがと、師匠のおかげだよ。』
「まぁ、とーぜんだな。俺はお前の師匠だからな。」
『............プククッ』

牧野から聞くありがとうの言葉は何回目だろう。
俺は実際何もしてねぇのに、こいつはいつもありがとうと言う。
だから、こいつには俺が必要なんじゃねーかと勝手に思う自分がいる。
俺にとって、こいつが必要なように。



『ホントはね。師匠に電話したかったんだ。』
「何を?」

いつの間にか自分の声が、自分でも聞いたことがねぇぐらいに優しくなってる。
だがもうそれはどうでも良かった。
俺はこいつを手放したくねぇんだから、これでいい。

『明日から、社会人になるの、あたし。だから緊張してる。』
「あー、そうか、明日からうちも新入社員が来るな。」
『でしょ?師匠も後輩とか面倒みてあげるの?』
「俺はそーいうことはしねぇ。」
『.........ぷっ、俺様。』


『俺はお前だけで手いっぱいだからな。』

深い意味はねぇ・・筈だ。
だけど本当のことだ。
忙しい毎日の中で、自分の仕事以外に手を差し伸べる余裕なんて本来ねぇんだ。
けど、お前のことは面倒みてやりてぇ。
どんな話でも聞いてやりてぇ。

『あっ、ありがとっ//』

牧野の声が上ずっていて、こいつが照れてんのがまるわかり。

「おぅ。ありがたく思えよ。」
『もぅー、やっぱり俺様だ.........ぷぷっ。』

ははっ...と俺の口元も緩んだ。
声を出して笑うなんて何年ぶりだ?・・そんなことを思いながら。


「新入社員が初めから出来るなんて誰も期待してねぇから。だが、2回も3回も同じ指示を受けてる奴はクズだ。仕事は1回で覚えろよ。」

こいつが何の仕事に就くのかなんて知らねぇし。
一般OLがどこまで求められるのかなんて興味もねぇ。
多少きついかも知れねぇが、俺が認める最低ラインがここだ。
それをこいつに求めるなんてどーかしてるのかも知れねぇけど。

『はいっ、分かりましたっ、師匠!』

ぷっ、気合入りすぎだっつーの。


「心配すんな。失敗したら、俺が慰めてやる。」

『......うん。ありがと。』


俺はこいつの師匠だからな。
出来なければ慰めてやればいい、そう伝え、牧野を社会へ送り出した。



____お前、一体どこに就職するんだ?

聞きたくてたまらなかったその質問は、
何とか自分の胸に留めた。





***



お風呂上り、バスタオルを巻きつけたままドライヤーで髪を乾かしていた。
ある程度乾いたら自然乾燥。その方が経済的だし、髪にも優しい?
髪の毛は半乾きのままリビングに戻ったら、テーブルの上の携帯が鳴っていた。

時間は夜10時。
まさか・・・まさか・・・ね?

そう思った瞬間には、携帯に飛びついてた。
ディスプレイには《師匠》の文字。
通話を押すのがこんなに速かったことはないと思う。

電話がなかったから心配してくれたっていう師匠。
師匠を頼ってばかりいちゃだめだと思って、電話をかけずにずっと我慢していたから、そう言われた時には、思わず泣きそうになるぐらい嬉しかった。

それからまた、いつものように取り留めのない話をしたけど、師匠もいつものように笑って聞いてくれた。
北海道で見た景色すごく素敵だった。
心が洗われるような、雄大な景色。
山も谷も、平原も、ここ東京では見られないもの。
お土産ショップでみつけた、世界的に有名なフォトグラファーの写真集には、そんな北海道の景色が納められていた。
その本をパラパラっと捲った時に思ったの。
この景色を、たとえ写真でもいいから師匠にも見てもらいたいなって。
心が癒されるでしょって言いながら、一緒に見たいなって。
そう思ったら、その写真集を買わずにいられなくなった。
卒業旅行のお土産なんて、渡せるはずないのにね。


明日からあたしは社会人になる。
仕事、ちゃんとできるかな?不安だよ。
そんなあたしに、やっぱり師匠の神発言。
肩の力がすっと抜けた。





そして迎えた入社式。
会場は東京メープル。

会場前には、『道明寺ホールディングス入社式』の立て看板。
あたしが入社するこの会社の入社式は、系列ホテルであるここ東京メープルで行われる。
会場前の受付を済ませて、席へ着く前に一度トイレへ向かう。

はぁ・・さすがは5つ星の東京メープルね。
豪華なトイレの豪華な鏡に映る、ごく普通のネイビースーツ姿のあたし。
ミスマッチさハンパないわ。
それでも、すこしでもきちんとしてるって思われたい。
白いブラウスの襟元を確かめてから、ピンク色のリップを薄く引いた。
特に美人でもないあたしの唯一のトレードマークともいえるのは長い黒髪。
肩甲骨ぐらいまで伸びた黒髪は1本に束ね、お気に入りのアクセで留めてきてる。
少し大きめのリボン風に編まれた黒いビーズのヘアアクセ。


よし、オッケー。


気合を入れて、勢いよくトイレを出た時に・・・・


____ドンッ!!


「きゃっ!」


目の前にはグレーのスーツ。
ふわっと香るのは、高そうなコロンの香り。


「あっ」___ドスンッ

跳ね返された勢いでよろめいて、あたしは尻もちをついていた。

イッタぁ・・・なんて思ったのも束の間、
目の前にはクレーのパンツとピカピカの黒の革靴。
そしてあたしの周りを黒パンツの集団が囲んでる。


「ごっ、ごめんなさいっ!!」

あたしは勢いよく立ち上がり、ガバッと頭を下げた。


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いつもたくさんの応援をありがとうございます。
そして、さっそく出会っちゃう二人(笑)
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Comments 5

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Happyending  
こんにちは~(#^^#)

いつもたくさんの応援をありがとうございます!
こんなに簡単に出会っちゃって大丈夫かな~(笑)。そして、この先、どうなるでしょう??私の頭の中には、大体の道筋はあるんですけどね(≧▽≦)

さてさて、
こ●様
やっぱり出会っちゃいましたね!(笑)。気づくか・・どうでしょうか?お話気に入って頂けて嬉しいです。続きお楽しみに(*^^*)

スリ●様
うしししし・・・(´艸`*) どうでしょうか?えへへ・・・お口チャックしておきます。意外・・かも知れませんよ?

mi●様
コメントありがとうございます(#^^#)ホント、こんな恋をしてみたいですね~。実は相手は大企業の御曹司だなんて・・プププ。一緒に楽しんで頂けて嬉しいです!続き、もう少しだけお待ちくださいね~。

花●様
そうなんです。お互いにプレゼントやお土産を用意して・・これ、いつ渡すことができるでしょうか・・?そして、司は気付くのか・・?うしし・・。ここは秘密で!(笑)。

ふぁ●様
ラグは乾きましたか?私もお布団干しましたよ~。ふふふ、この続きはどうでしょう?もう少しジレジレしましょうか?うはは・・・(笑)。って、自分の中ではだいたいのお話の流れは珍しく決まっています。お楽しみに(*^^*)

H●様
とりあえず出会いましたよ!次もぜひ読んでください(≧▽≦)!


さて、次の場面は、私の中では結構珍しい場面じゃないかなぁ・・と。妄想はばっちりなんですが、書けるか、伝わるか・・が不安です。このお話を書く上で、どうしても書きたかった場面でもあったりして(;^_^A なので、じっくり書きたいのですが、今、だいたい半分は書けていますので、早ければ今晩、遅くとも明日の朝には更新できるかなと思います。続き、もうしばらくお待ちください~(*^^*)

2018/06/14 (Thu) 14:20 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/13 (Wed) 12:36 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/13 (Wed) 10:02 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/13 (Wed) 09:24 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/13 (Wed) 06:50 | EDIT | REPLY |   

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