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Happyending

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「準備できたか.........っ.....!」


カチャっと、ゲストルームの扉を開けて息を呑んだ。
ゆっくりと振り返った牧野が俺を見上げてはにかむ。

「どうかな?」

薄いクリーム色の布地に四季の花が丁寧に描かれた、京友禅。
若草色の帯に入った菖蒲の刺繍も見事だ。
俺と牧野が一目で気に入った姉ちゃんの振袖。
だが俺には、姉ちゃんがこの振袖を着ていた記憶なんてない。

「綺麗だ。」
「.....ありがと。」

着物を着たせいか、牧野が普段より淑やかに見える。
長い髪を編み込んで、ゆるくアップにした姿にぐっとくる。
この首筋すら誰にも見せたくねぇよ。



ここはメープルのエグゼクティブスイート。
講演会を終えた俺達は、ひとまずこの部屋に入った。

講演会では、現在開発中の新型ワクチンは特に小児に有効であろうと説明された。
高齢者医療に国の財力が使われる中、小児医療はどう発展していくのか。
そこにうちの会社はどう介入していけるのか。

「師匠、疲れてる?」
「いや、そんなことねーけど。」
「なんだか難しい顔してる。」

牧野が俺の眉間を人差し指で撫でた。

これから始まるレセプションで、CEOと話をする予定だ。
もちろん牧野を連れて。
夢のような新薬の開発に、道明寺が一枚噛むことが出来るのか?
俺の頭の中は、半分ビジネスマインドだったらしい。

「ねぇ、研究するにあたっては、たくさんの資金が欲しい筈よね。なのに、どうしてドイツ薬品は出資に制限を設けてるのかな?たくさんお金が集まったほうがいいでしょ?」

「元々資金はそれなりにあるんだろう。あとは、どの企業と手を組むか・・じゃねーかな。」

「会社のイメージ?」

「そういうこと。」

特に小児をターゲットとした薬品開発。
ドイツ薬品が重視しているのは、その透明性と安全性。
道明寺は介護や医療の分野に進出しているものの、薬剤に投資することは今までほとんどなかった。
そんな道明寺をCEOがどうみるか・・・。

「あたしは......どうしたらいいの?」
「さっきの講演、聞いてただろ?」
「うん。」
「もし何か聞かれたら、お前の思ったことを答えたらいい。それが、会社の利益になるかどうかは俺が考えるから。お前は思ったことを口にしろ。」
「それでいいの?」
「ああ。口先だけの言葉なんて、すぐに見抜かれるからな。」


実際、英語で語られた講演の内容は興味深かった。
この領域に投資するということは、道明寺にとってもイメージアップにつながる可能性がある。
未来の子供たちを守る、未来への投資だからだ。

こいつがどこまでそれを理解したのかは分かんねぇけど、時々、ウンウンと頷く姿が可愛らしく、俺と同じタイミングで納得している様子を見ると流石だなと感心した。
俺はこの5年をアメリカで過ごしたから英語が出来て当たり前だが、牧野は違う。履歴書によると、留学経験はないし、話を聞く限りでは海外に出たことは一度もないらしい。それなのに、専門用語が飛び交う講演内容をそれなりに把握できていたようだったからだ。

ババァが目をつけるだけはあるってことか・・・


「あれ?お前、時計は?」
「あ、お着物の時は外しましょうって言われて。こっちの鞄に入れたんだけど。」
「そっか。けど、必ず持ってろよ。」
「うん。」

この時計には、超小型高性能GPSを埋め込んでいる。
それを言ったらこいつが嫌がるだろうから言えねぇ。
けど、携帯電波なんてすぐに遮断されちまうし、電源落ちたら役に立たねぇ。

牧野に出会い、俺がこいつの恋人になった時に決めたんだ。
こいつは全く危機感がねぇけど、俺の隣に立つ時点で、危険に晒される。
本当だったら、こいつを常に安全な場所に隔離してやるのが一番手っ取り早いんだが、たぶん、そんなことをすれば、こいつは俺から離れて行っちまう。それに、生き生きと動き回っているこいつを見るのが俺は好きなんだ。だから、どんなボロマンションに住んでいようが、毎日人混みに揉まれつつ通勤していようが、俺がこいつを守ってやる。

それは、俺の使命で、最重要事項だ。



そんな俺の想いを知っているのか・・・
牧野はスイートのリビングをキョロキョロと見渡している。

「わぁ!さっきは見る余裕がなかったけど、凄く素敵なお部屋!!」
「気に入った?」
「うん。こんなところ初めて!」

パタパタパタと駆け出して、いろんなところを確認してる。
ミニキッチンやバーカウンター、それから更に奥の扉を開けた。

「あっ........」

牧野の動きが急に止まる。
俺は背後に近づいて、そっと耳元に囁いた。

「今晩はここに泊まり....いいよな?」

俺達の目の前には、キングサイズのベッド。
その上には、バラの花束が置かれている。

帯が崩れないようにそっと後ろから抱きしめると、
牧野がコクンと頷いた。









夕方からのパーティーは定刻通りに始まった。
当然の事ながら、CEOの周りには人だかりだったが、
それとは別に、俺の周りにも引っ切り無しに人が押し寄せる。
俺の今日の目的はドイツ薬品だが、うちから資金提供を得たい会社は他にもわんさかあるからな。

しかも今日の俺は女連れ。
その女が振袖姿だと分かれば、周囲がざわめくのは当然で、
牧野が俺の大切な女だと周囲が気づくのに時間なんてかからなかった。
そして、俺だけでなく、牧野にもオベンチャラを言う輩が後を絶たねぇ。

心配になって牧野を見ると、小さく溜息をついたことに気付いて、すげぇ焦った。
そりゃ、ここはビジネスの場ではあるが、牧野にこんな顔をさせるのは論外だ。

「パーティーはまだ続くし、奥でなんか食うか?」
「いいのっ!?」

ぷっ・・・ホント素直だな。
急に牧野の目が輝き出した。
実際、ハウアー氏に会うのが目的で、それ以外はどうでも良かった。

「行こうぜ。」

牧野の腰に軽く手を回し、ビュッフェの方に歩いていく。
その間も、俺と牧野に絡みつく視線は無くならねぇけど。

「ハウアーさんはまだまだ囲まれたままだね。」
「まだ時間はたっぷりあるから、少し空いてから行く。」
「うん。」
「まずは腹ごしらえな。」
「うんうん。」

牧野が笑顔になるとホッとして嬉しくなる。
俺は、本当にこいつに惚れてるって自覚する瞬間だ。


「あれ?」
「ん?」
「あの子?」

ビュッフェはかなり空いているが、そこに一人、5歳位の男のガキが、料理を取ろうと奮闘していた。
さっと牧野が俺の腕から抜け出して、そのガキに近づいていく。

「どうしたの?」

振り返ったガキは青い瞳。

「これが、食べたいんだ。」

話す言葉はドイツ語だ。
それを聞いて、牧野の口からドイツ語が飛び出した。

「どれ?お姉ちゃんがとってあげる。」

牧野とそのガキが仲良くビュッフェを回って行く。
俺は牧野のバッグを持ってやり、後ろからついて行った。
牧野のドイツ語は完璧だ。
いや、そんなことはどーでもいい。
ガキに優しく接してる牧野を見るのがなんだか幸せだった。
あー、やっぱ、俺が選んだ女はイイ女だ・・最高!

それから、壁際に用意されていた3人掛けのソファーに座った。

「一緒に食べよっか。」
「うん。」

牧野はちゃっかり自分の分も取って来たらしい。
二人がいただきますと言って食べ始めた。

「おじちゃんは食べないの?」
「おじちゃんじゃないよ、お兄ちゃん。」

微妙な訂正を入れる牧野が面白れぇ。

「お兄ちゃんはね。お姉ちゃんと一緒に食べるから大丈夫。ねっ?」

そう言って肉の欠片を俺の口に押し込んできた。
ガキが心配すると思ったのか、結構ムリヤリだ。

「おいしい?」
「まぁな。」

そんな俺達の姿を見ていたガキが、

「いいなぁ......」

なんて言い出した。
そりゃ、羨ましいだろ。
だけど、こいつは俺の恋人だからな・・・と、ガキ相手に優越感に浸ったが、

「じゃあ、ボクにも......はい、あーん........」

は?

「オイッ、ちょっと待て。」

パシッと牧野の右手を掴んだ。

それはねーだろ?
お前は、俺の恋人だろーが。
俺は牧野を挟んでガキと反対側に座っていたが、慌てて立ち上がり、ガキの左隣に座り直した。

「ちょっと、、、師匠?」

牧野は焦って右側に詰める。
俺はガキの皿を奪い取り、フォークにウインナーを刺した。

「俺がしてやる。ホレ。」

ガキに差し出してやると、思いがけずガキが嬉しそうにそれを食った。

「旨いか?」
「うんっ!」
「良かったねぇ......お兄ちゃんに食べさせてもらえて。」
「うんっ。」

次々とフォークを差し出すと、そのままガキが食っちまう。
なんか、親鳥になったみてぇ。
ガキの向こう側では、牧野がそんな俺を楽しそうに見てやがる。
本当はこんなことしたくねぇけど、牧野がこいつに食わせるよりはマシだと思えばすんなり出来た。

「師匠は子供好き?」
「あ?」
「だって、似合ってる。」
「バカ。俺が好きなのはお前。」
「もうっ、今はそういう事を言ってるんじゃないのっ!」

俺達の会話は日本語で、このガキは分かってねぇ。

「師匠は、いいパパになりそう。」
「ふーん。じゃあ、お前が俺をパパにしてくれるんだよな?」
「えっ!?あ......いや......」

「お前がガキ欲しいっていうなら、俺はガンガン協力する。」
「だから、そーいうつもりじゃなくて.....」
「まずは、今晩第一歩を踏み出さねぇとな。」
「.........っ//」

牧野が真っ赤になって、口をパクパクさせている。
今更何照れてんだよ。
あと数時間後には・・・・・だろ?

「師匠......そういうこと、今、言わないで。」
「師匠じゃねーし。」
「...........専務?」
「......ちげぇよ。」

俺が呼ばれたい言葉はそんなんじゃねー。
こいつ、本当に分かってんのかよっ!



と、そこへ・・・

「「申し訳ありません!」」

ドイツ語で駆け寄ってきたのは、ハウアー夫妻。
旦那は会社のCEO、奥さんは研究者であり、今回の新型ワクチンプロジェクトチームのリーダーだ。
そっか、ということは、このガキは・・・

「パパ!ママ!」

「すみません、目を離した隙に......」

このガキは遅くに授かった子供らしい。
恐縮する男は、40代も後半。奥さんの方も40代前半位だ。

俺はゆっくり立ち上がり、牧野は走り出そうとしたガキの口元をハンカチで拭いてやってから俺の隣に並んだ。
ガキはぴょんぴょんと夫婦の元に駆けていく。
牧野が少し俺の袖を引き、俺を見上げて笑った。
楽しかったね・・と言いたいらしい。
楽しかったっつーか、なんか新鮮だったな。
実際、牧野との結婚は真剣に考えているが、ガキがいる生活までは想像していなかったから。
ぼんやりと数年先の未来が見えた様な気がした。


「初めまして。道明寺HDの道明寺司です。」
「カール・ハウアーです。」

の挨拶を皮切りに、俺達の会話は弾んだ。
ガキが牧野の周りをちょこまかと動き、終始笑いが絶えない。
それこそ予想外の展開だが、悪くねぇ。
牧野が一緒だと、俺の周りは予想外でいっぱいだ。


「牧野さんのお着物.........とても素敵だわ。」
「ありがとうございます。これは、専務のお姉様からお借りしたものなんです。」

「まぁ、道明寺さんの?もう、家族同然のお付き合いなのね。それでは、ご結婚も近い?」

クスクスと笑いながら、ハウアー婦人が悪戯っぽく聞いてくる。

「えっ、いえっ......。」
「はい。近いうちに出来たらと。」

たぶん牧野はぎょっとしてるんだろうが、そんなもんは軽くスルー。

「まぁ、やっぱり。とてもお似合いだもの。」
「そんな......」

「私達は結婚が遅かったし、なかなか子供を授からなくてね。授かった時には本当に嬉しかったわ。だからこそ、かけがえのない子供のための安全な薬を作りたいの。」
「素敵です。そんな目標があるなんて。」


「道明寺HDは私たちの研究に出資してくださる予定があると?」

黙って俺達の話を聞いていたCEOが口を開いた。

「今日の講演を聞いて、研究に未来を感じました。利益も重要ですが、次の世代への投資をしたいと思います。」

これは俺の本心だ。
リスクは承知。だが、それでも投資すべきものもある。

「道明寺さんは子供がお好きですか?」

CEOが唐突に俺にそんな質問をしてきた。
さっき、牧野にも聞かれたばかりだ。
子供が好きかどうか・・・
俺は何と答えるべきだ?


「好きだよねっ、ツカサ。僕にウインナー食べさせてくれたもんねっ!」

CEOの足元から突然飛び出してきたのは、あのガキ。
その様子をみて、牧野とハウアー婦人がクスクス笑ってる。
ガキめっ。俺を呼び捨てにしやがって。
牧野にすら、まだ呼んでもらってねーっつーのに。


ギロッ睨みそうになった時に、隣から柔らかい声が聞こえた。


「可愛いなぁ。
 私たちにも、こんな子供ができたらいいね。司さん。」


「...........え...?」


一瞬心臓が止まったかと思った。

空耳・・・か?
ばっと隣を見ると、照れたように笑う牧野がいた。
その強烈な上目遣いに、倒れそうになる。

___『司さん』
その単語が、何度も俺の頭の中でリフレインした。


そして、


「彼が子供好きかは分からないんですけど......
 とても優しい人であることは間違いありません。」

牧野はCEOに向かって、そう言い切った。



その言葉を聞いたCEOが、満足気に俺に向かって右手を差し出してきた。
俺もその手に右手を差し返す。

「ははは。私もね、自分が子供を授かるまでは、子供が好きかどうかなんて分からなかったよ。」

そう笑われながら握手を交わした。


「道明寺HDからの出資をお待ちしています。」
「よろしくお願いします。」





俺は、もちろん子供好きなんかじゃねぇ。
牧野と俺の子供だったら何人でも欲しいし、愛せるだろうけど、基本ガキなんて苦手だ。
それはCEOだって分かっていたんだろう。
ただ、表面上の言葉ではなく、本心から、人を救いたい気持ちがあるかどうか、それが知りたかっただけなんだろう。
会社の利益とは、また別の次元の尊い感情。
この社長はそれを大切にしている。
そして、俺のことを優しいと言い切った牧野の言葉を信用したということだ。


ったく・・・お前はすげぇ女だよ、牧野つくし。
ただ、隣で笑っているだけようで、それだけじゃねぇ。
俺にとっては太陽のような存在。

しかも、このタイミングで『司さん』とか呼んてんじゃねーよ。
今は俺が手を出せねぇって分かってんだろ?
今すぐベッドに引きづり込みたくなるだろーがっ!!




立ち去っていくハウアー親子にいつまでも手を振っている牧野。
俺がどんだけお前を抱きたいかなんて、こいつはきっと分かってねぇ。

でもよ、これだけ俺を煽ったんだ。
今夜は覚悟しろよ。

手加減なんて、きっと出来ねぇからな。



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いつもたくさんの応援をありがとうございます。
台風来ましたね。被害がありませんように・・。
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Comments 4

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こんばんは(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
忙しくて、まだ続きゼロなんですけど・・(;^_^A 
実はすっごく迷ってます!!
このままラブモードに突中するか・・・一つ、爆弾落としてみるか・・・
迷うーっ!!! どうしようかなぁ。
日々疲れて投げやりになっているせいか、爆弾落としたくて仕方なかったり・・
いやいや、ここはラブラブに・・・と思ってみたり・・・
でも、もう眠いし・・・(笑)。 迷うーーー●~*

さてさて、
スリ●様
迷っておりますよ~。そして、また迷うコメントいただいちゃったから~( *´艸`) どうしようかなぁ。やっちまおうかな(笑)。書いてみて・・・繋がるかどうかも考えなきゃです!

花●様
やっぱり、ご褒美あげると思いますよね(;^_^A?? そこを、ちょっと爆弾・・●~* どうでしょうか??でも、まだ迷ってる~。わーん(>_<) 爆弾落としたらごめんなさい~( ;∀;)

さと●様
ドイツ人の子供はウインナー好き( ´艸`)。いや、知らないけど(笑)。そして、そうだそうだ、その場面では何と呼ばせるべき?やっぱり・・・師匠?(笑) けどその前に、爆弾入れるかも・・すでに、お返事書きながらも相当爆弾に傾いている・・(笑)。

ま●様
本当にお久しぶりです!!いつ追いついてこられるかなぁと楽しみにしておりました(*^^*) コメントを拝見しなくなって、1年近くになりますか?どうかされたのかなぁと心配しておりました。でも、お元気そうで、また過去のお話から読んでいただいて、恐縮です(;^_^A お仕事おやすみになったんですか??懐かしい面白拍手コメントも凄く嬉しかったです。今は以前ほど頻回に更新が出来ていないのですが、また楽しんでいただけると嬉しいです!続き、もう少しお待ちを~(*^^*)


さてさて、続き書かねばと思うのですが、なかなかエンジンがかからず。
もう少しだけお待ちください(*^^*)

2018/07/30 (Mon) 23:18 | EDIT | REPLY |   
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2018/07/30 (Mon) 16:12 | EDIT | REPLY |   
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2018/07/28 (Sat) 23:57 | EDIT | REPLY |   
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2018/07/28 (Sat) 23:35 | EDIT | REPLY |   

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