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Happyending

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「ねぇ、また来てる。」
「きゃっ、本当だ。また牧野さん........だね。」


そんな囁き声が聞こえ、私がゴホンッと一つ咳払いをすると、目の前の女性秘書が姿勢を正した。

ここは道明寺HD日本支社秘書室。
役員秘書は全員がここに集まり、仕事をしている。
私の席は全員を見渡すことの出来る中央の一番奥。
機密文書を扱うこともあるため個室も与えれれている私だが、最近はできるだけこの大部屋で目を光らせているのだ。

ちらりと廊下を見ると、ガラス張りの秘書室を覗く大男の影。

はぁ・・・・

秘書室を偵察する我が社の専務。
背中越しのその視線に全く気付かないのは、専務秘書で、専務が自分の命よりも大切にする牧野つくしさん。
彼女が専務秘書となり早2週間。
秘書課では、この光景が日常となりつつある。



「牧野」
「きゃっ、びっくりした・・・・専務?」

驚き振り返る牧野さん。

「これ、コピー取りてぇんだけど。」
「コピーですか?すみません、あたしがします。」
「いや、教えてくれたら自分でする。」
「専務にそんなことさせられませんから!」

専務第一秘書となり4年目を迎える私だが、
司様から自らコピーを取りたいなどと言われたことは一度もない。

お二人はコピー機の前に立ち、部数はいくつだとか、両面印刷にするかしないかだとか、肩を寄せ合って検討している。(いや、あれは明らかにイチャついている・・主に司様が。)

「これを押して下さい。」
「おぅ」
「ホチキスはしますか?」
「任せる」
「じゃあ、こっち。」

手元なんて見てはいない。
司様の視線は牧野さんに一点集中。
そのことに気付いていないのは、牧野さんだけ。



「はーっ、専務、健気だよねぇ。」
「専務程の男が片思いとはねぇ。」
「私なんて、何年もここにいるけど、専務にコピーなんて頼まれたことないわよ。」
「そもそも私たち専務秘書じゃないじゃないの。」
「まーね。」
「でも、牧野ちゃんは手ごわいよ、きっと。」
「専務、ファイトッ!」


・・・・・・・・。

彼に靡かない女性など世の中に存在しないと噂される司様が、涙ぐましい努力をしつつ牧野さんに片思いをしているという社内評価に、第一秘書としてどう対応して良いものやら・・・。


しかしこうなったのには理由があるのです。

牧野さんを秘書課に引き抜いた初日。
安全確保の問題などから、秘書課への異動を受け入れて下さった牧野さんでしたが、ただ一つ、牧野さん側からの条件が出されました。

そう......社内では、お付き合いをしていることを秘密にして欲しいと。
司様は交際を秘密にするつもりなど毛頭なく、断固反対の姿勢を取られましたが、「じゃあ、あたし、会社辞めなきゃだめだね。他に就職先探すから。」などと恐ろしいことを言われ、慌ててその条件を飲むことになったのです。(もちろん私も必死にお止めしました。)

それに、一部心配もしていたのです。
牧野さんが秘書課に移り、専務と交際していると噂になれば、牧野さんへのやっかみが出るのではないかと。しかしそれも、杞憂に終わりました。
何故なら・・・


異動初日の朝、私と専務、牧野さんの3人で、海外事業部へ挨拶へ行った時の事。

「牧野、秘書課でも頑張れよ。」
「渡辺さん......あたし、もっとここで働きたかったです。」
「ま、牧野。それは.....ちょっと......。」

両目いっぱいに涙を溜めて、海外事業部エースの渡辺君の手を握っている牧野さん。
困ったような表情で牧野さんの手を離そうとしている渡辺君。
それを鬼のような形相で見つめる司様。


秘書課.....しかも、専務付きとなれば、女性社員の憧れのポジションである筈なのに、喜ぶどころか涙を流して海外事業部との別れを惜しんでいるその姿は、とりわけ周囲の涙を誘うものでありました。

そして、

専務は牧野さんに絶賛片思い中らしい!?
嫌がる牧野さんを無理やり異動させたらしいぞ!!

などという憶測が、数時間にしてこの道明寺ビルを駆け巡ってしまったのです。


蓋を開けてみれば、牧野さんへの同情の嵐。
牧野さんへのやっかみなど皆無でした。
いささか専務が哀れでなりませんでしたが・・・・




「牧野ちゃーん。今日は専務とランチしてあげて~。」
「......へ?」
「機嫌悪いんだって、加藤君が困ってる。」

今では影の猛獣使いと名を馳せる牧野さん。
秘書課には二人への応援ムードが漂っている。
それは喜ばしいことではあるのですが・・・・


こうなると心配なのは、専務の方です。
もともと牧野さんとの交際をオープンにしたい司様のこと、
このまま黙っていられる訳はないのですから・・・。





***



牧野が俺の秘書になって1か月が過ぎた。
牧野は西田に、秘書業務のイロハを直接叩き込まれている。
大学時代にたくさんの資格を取得し、語学も堪能だ。
柔軟性もあって、仕事はスポンジが水を吸う様に覚えていった。

秘書室を覗けば牧野がいる。

1コールで、牧野が資料を持ってくる。
1コールで、牧野がコーヒーを淹れてくれる。
1コールで、彼女の声が聞ける。

最近では、嫌がっていた昼飯も一緒に食ってくれる。
あいつが作った弁当を、専務室で一緒に食う。
弁当が作れねぇぐらいに疲れさせちまった翌日は、メープルからサンドイッチを取り寄せると彼女の機嫌は一発で治る。


だが、物足りねぇ。
家に帰れば牧野がいるっていうのに、何かが足りねぇ。
なんなんだ、この気持ち。

それに、なんだか秘書課の奴らが俺に同情的な視線を向けるのは気のせいか?





今日は、新しくうちの傘下に入った会社の幹部とのランチミーティングがあった。
こういう時には牧野はまだ同席しない。
俺に同行するのは能面西田だけだ。
俺のテンションもガッツリ下がる。

会社に戻ったのは15時少し前。
15時にはあいつがコーヒーを淹れてくれるから、この時間は厳守だ。
専務室に入る前、わざわざ秘書室を覗いていくが、
あいつの姿が見えず、俺は急に不安に襲われた。


あいつが交際は絶対に秘密だというから、会社ではむやみには近づけない。
コールしても要件を済ませるとすぐに出て行っちまうしな。
無性に顔が見たくなったら理由をつけて秘書室に押しかけてるけど。
マンションに帰れば彼女がいるってのに、俺はすげぇ焦ってるらしい。

たぶんそれは、あいつが俺を頼ってこねぇからだ。
秘書の仕事は西田が指導しているし、マンションでは、晩飯作って、朝飯作って、掃除や洗濯まで頑張ってる。それなのに、あいつは「大丈夫だよ」の一言で、俺に弱音を吐かねぇ。
けど、少し前までは電話でたわいもないことを聞かされていた俺のポジションが無くなっちまったような気がして、気が気じゃねぇんだ。
あいつは、頑張り屋で、上司である俺に弱音は吐かねぇから。
あの頃、電話でバカなことも何でも話していたように、楽しいことも、辛いことも、不安なことも、全部俺に話して欲しいのに。
交際を隠しているこの関係じゃ、会社でなにかあっても頼ってくる訳ねぇし。

結婚の返事だって、まだもらえてねぇ。
たぶん、今の状況だとあいつは結婚なんて言い出さねぇだろう。
同棲してるんだ。焦る必要なんかねぇという気持ちと、結婚して何が不都合なんだ、今すぐ結婚すればいい、そうすりゃ、昼も夜も堂々と二人でいられるじゃねーか、と思う気持ち。

近い距離にいるからこその不安。
そんなものを感じ始めていた。



15時を過ぎても、牧野の姿は見えなかった。
誰も気にしていないようだが、俺は気になって仕方ねぇ。

胸ポケットの携帯を探った。
仕事中は互いの携帯には掛けないという二人の約束があるんだが、この際関係ねぇ。
俺にとっては緊急事態だ。

携帯の牧野の番号を呼び出そうとした時に、
突然携帯が鳴り出した。

Tururururururu.......Tururururururu.......


ディスプレイには『牧野』と表示されている。
俺はすぐに通話ボタンを押した。



「師匠......?」

頼りなげなその一言に、こんなにもホッとするのは何故だ?
体中に穏やかな感情が巡って、さっきまでの焦りが消えていく。

「どうした?どこにいる?」

心配で仕方ねぇのに、
口から出る言葉は、どうしてか甘くなった。

「グス.....。地下の資料室。足....捻った。」

「すぐ行く。」

「........うん。」


久しぶりに駆け出した。
何故か笑いが込み上げてくる。
俺は追いかけるのが性に合っているのかもな。
もちろんターゲットはあいつだけだ。

役員専用エレベーターに飛び乗って、牧野との出会いを思い出していた。

あいつはどんなに頑張ってても、ボケた奴なんだ。
俺を師匠と呼んで頼ってくるあいつが可愛かった。
あいつが専務秘書として頑張ろうとしていることだって分かってる。

だけど・・・・


___ガタン


資料室の扉を開け中に進むと、
脚立の脇に座り込んでいる牧野を見つけた。

でっけぇ目で俺を見上げ、半泣きだ。


「プッ.....何やってんだ?」
「梯子から落ちたの。あと少しだと思って気が緩んだ。」
「ドジだな。」
「どーせ。」

ぷいっと横を向く牧野が可愛くて仕方ねぇ。

「けど、俺を呼んだのは正解。」
「......怒ってないの?」
「何で?」
「会社では電話しちゃだめって自分で言ってたのに。」
「バーカ。怒るかよ。電話してこねぇ方が怒るに決まってんだろ。」


牧野に頼られたい。
師匠としてって訳じゃねーけど、
男として頼られたい。
男として守りてぇ。


「足首か?」
「うん......右足。」

彼女の細い足首を触ると、熱をもって腫れ出していた。

「行くぞ。」
「きゃっ!」

軽々と牧野を抱き上げた。
慌てた牧野が俺にしがみついてくる。
それが強烈に嬉しかった。


「......俺、もう隠さねぇから。」

絶対に覆さねぇ、俺の最終結論。


「え?」
「好きな女と付き合って何が悪ぃんだ。愛してる女が傍にいて誰に迷惑かけてんだよ。そうだろ?」
「ほぇ......?...............ええーーっ!!」


騒いだって無駄だ。
俺はもう、十分我慢した。
これ以上の我慢なんてしねーからなっ。

久しぶりに俺本来の血が騒ぐ。


「こらっ、師匠っ!!」
「何も聞こえねーっ!!」

こいつの気持ちは十分汲んだだろ?
あとは俺のやりたいようにやる。


牧野を抱いて登っていくエレベーターの中、
俺はすっきりとした気分で、声を上げて笑った。



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Comments 5

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Happyending  
こんばんは(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます(*^^*)
初めから付き合っているとやっかみが多いかなぁと思って、苦肉の策(笑)。
いつか、こそこそお付き合いのオフィスラブを書くのが夢なのですが、コメディ苦手な私にはなかなかハードル高くって(笑)。ここでちらっとかけて満足デス(*^^*)

さてさて、
スリ●様
こっそり付き合うなんていうのは、この司君は我慢できないようです( *´艸`) そして、そうなるとつくしちゃんはどうすると思いますか?そして、私Happyendingが最後に決めたENDINGは?? 最後までドキドキ見守ってください(≧▽≦)!
(あ、まだ、もうちょっと続きます・・笑)

花●様
鋭いです☆彡 思っちゃったりしちゃったりしてる・・と思います( *´艸`) その辺りをどうまとめていくか・・でラストに繋げていく予定・・です( *´艸`) 金子さんは出してあげられるか・・(笑)。まだわかりません・・ププッ('ω')

ふぁ●様
あはは、実はまだそこまでたどり着きません( *´艸`) プププ。でも、そうですよ。司君は絶賛片思い中。原作でもそうなのですが、常につくしちゃんを追いかけてる。そこがまた健気でキュンと来るんですよね(*´▽`*) もう少し辛抱してお付き合いくださいませ~(*^^*)

すず●様
えへへ、コメントありがとうございます。そうそう、秘密のお付き合いは鉄板です!( *´艸`) どうしても書いてみたかった(≧▽≦)!! でもまぁ、こちらの二人は付き合いがまだ浅いですからねぇ。隠しきれねぇです(笑)。そして、お話はラストステージへ・・最後までお付き合いくださいませ! 


さてさて、明日からまた忙しいのですが、出来る限り進めたい!!
明日はラストステージへの第一歩。
お話はラストへ向けて動き出します(≧▽≦)
是非、明日の5時に遊びにいらしてください(*^^*)

2018/08/17 (Fri) 22:34 | EDIT | REPLY |   
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2018/08/17 (Fri) 18:49 | EDIT | REPLY |   
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2018/08/17 (Fri) 01:33 | EDIT | REPLY |   
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2018/08/17 (Fri) 00:35 | EDIT | REPLY |   
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2018/08/16 (Thu) 22:38 | EDIT | REPLY |   

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