ブラックバカラ 7
自分の体にヌルリとした感触。
気持ち悪い・・・
気持ち悪いよ・・・
つくしの両手首は男に掴まれ、身動きが取れない。
誰か・・・
「__助けてっ!!!」
唯一動かせる口を使って大声をあげたものの、
「誰も来ませんよ。コトが終わった後に観客をお呼びしましょう。さぞかし見ものでしょう。」
つくしの声は一笑に付される。
強姦されたつくしの姿を司に発見させる。
それが麗華のシナリオ。
「あなたが悪いのではないのかも知れない。悪いのはあの男だ。」
「だからって...。あなた、勘違いしてる。あたしは、道明寺司の女なんかじゃないわよ!」
「は......何を言う?」
「本当よ?まともに話したのも今日が初めてよ?あ、今日だってまともな話なんてしていないけど...。本当に、あたしとあいつは赤の他人よ!」
「そんなはずは......。」
男は麗華から指示を受けただけ。
司がどんなに甘い顔つきでつくしを見つめていたかを知らない。
だからつくしの言葉に一瞬混乱した。
その時、
ドンドンドンドンッ!!!
と激しくドアが叩かれた。
誰か来たっ!
つくしは男に圧し掛かられたまま、祈るようにドアを見つめた。
「助けて....っ」
「くそっ」
男がどうすべきか逡巡するうちに、
ガンガンガンガンッと蹴りが入れられる音がして、
頑丈な作りの入り口ドアの鍵が破壊された。
そこから飛び込んできた人。
「道.....明寺.....」
つくしの目に映ったのは、息を切らした道明寺司の姿。
その後ろには花沢類、そして黒服の男たちが続いて飛び込んできた。
司は男に組み敷かれたつくしに一瞬息を呑んだが、
「......道明寺、道明寺っ!助けてっ!!」
つくしのその叫び声に一気に床を蹴った。
「てめぇっ、何してやがるっ!!」
だが、司が男に掴みかかろうとしたその瞬間、男がさっと司に向き直り、胸元からナイフを抜いた。
ソファーに寝転ぶつくしの背後に回り、ナイフを首に突き付ける。
そのままつくしを立ち上がらせ、ゆっくりと壁際まで移動した。
司も間合いを見て男を追い詰めていく。
だが、つくしが人質である以上無茶は出来ない。
「道明寺.....」
「牧野、目つぶってろ。」
つくしの真っ赤な目を見て、司が冷静に言った。
つくしは気付いていない。
かつての呼び名で、彼の名前を呼んでいることを。
そして司も、そのことに違和感を感じていなかった。
____ガッシャーン!!!
突然響いた破壊音。
窓ガラスに類が投げつけたティーカップが当たり、砕け散る。
つくしはギュッと目をつぶった。
その音に、男が窓を振り返ったその瞬間、
____ドスッ!!
一気に飛び込んだ司が、男の顔面に回し蹴りを入れた。
不意を突かれた男はよろめき、ナイフを床に落とす。
SPがすぐに男を拘束し、
解放されたつくしを司が抱き留めた。
バクバクバクバク・・・
恐怖と緊張で、激しく鳴る心臓の音。
ピッタリと重なり合う二人には、互いの心拍が聞こえていた。
それが次第に落ち着いていく。
司はふーっと息を吐き出した。
この騒動は自分のせいだと分かっている。
つくしを巻き込んでしまった責任は重大だ。
どんなに責められても仕方がない。
けれど今は、間に合ったことに只々安堵していた。
出来るだけ気の利いた言葉を掛けよう探すのだが、司の頭には何も浮かんでこなかった。
そんな司の耳に聞こえた小さな声。
「......遅いよ。」
つくしがぎゅっと司のジャケットを握った。
「あ?」
「怖かったんだから。」
「悪かった。俺のせいだ。」
「だから自意識過剰も大概にしろって言うのよ。」
「お前も、ノコノコ男について行くんじゃねーよ。」
「そんな言い方っ!」
「お前何回目だよ。俺に助けられるの。」
「ん...........ありがとう。」
色気のない言い合いに聞こえるが、その雰囲気はまるで恋人同士のようで...
SPに拘束された男は、そんな二人を呆然と見つめていた。
「司、こいつはどうするの?」
全員の呼吸が落ち着いた頃、拾い上げたナイフをポンポンと掌に軽く打ち付けながら、類が言った。
徐々に冷静になり、自分と司が妙に密着していることを自覚したつくしは、パッと司の体を押し返した。
司はムッとしながらも、ジャケットを脱ぎつくしの肩に掛け、類に向き直る。
「俺に任せろ。」
「ズルい。司ばっかり良いとこ取り。」
「バーカ、久しぶりに暴れたら体痛ぇよ。」
「昔よくやってたよね。」
「クッ、懐かしいな。」
中等部の頃、彼らはよく年上の不良グループ相手に騒動を起こしていた。
武闘派は主に司と総二郎で、頭脳派は類とあきら。
喧嘩で負けたことないF4だったが、それでも多勢を相手にする時や、警察沙汰になりそうな時、早々に退散を謀る時には、今回の様に類が敵の興味を引き、司が一気に片を付けることもあった。
今回の二人のコンビプレーもまさにあの頃と同じ。
いつからいたのか、あきらと総二郎もすでに駆け付けていた。
「んだよ、俺ら出番なしかよ。」
「残念だな。」
「おー、悪ぃ。お前ら、こいつ連れて部屋に上がってくれねぇ?」
「了解。」
「類、お前、そろそろ会社戻らねぇとヤバイだろ。」
「ん.....牧野が無事だったから、そろそろ行くよ。」
類がつくしの隣に来て、ポンっと頭をに手を乗せた。
「無事でよかったよ。本当に。」
「ごめんね、類。着信に気付いた時にはもうここ来てたの。会社、何かあったの?」
「ん...まぁね。でも、今回のことは100%司のせいだから、司に責任取ってもらうよ。で、牧野、もしかして思い出した?」
「・・・え?」
「なんだ、違うのか。」
「何が?」
「いや、何でもない。こっちの話。」
「なーに、それ!」
そんなつくしと類の軽いやり取りさえ、司には許せないらしい。
「おい、お前らベタベタすんなっ!」
「自分だって、さっきまでベタベタしてたくせに。」
相変わらずの二人の様子に苦笑しつつも、類は少し残念に思った。
二人の記憶は戻っていない。
だが、司のことを自然と「道明寺」と呼ぶつくしも、それを自然と受け入れている司も、きっと心の奥底で繋がっている。
「じゃあ、俺は行くね。」
「うん。気を付けてね、類。」
「司、あいつの処分はお前に任せる。主犯の処分も。分かってるよね?」
「ああ、任せとけ。」
捕らえられた男の顔面は蒼白だ。
全ては見抜かれている。
主犯のことも...恐らく、何もかも。
ポキポキと指を鳴らす司に笑いながら、類は部屋を出て行った。
「ねぇ、主犯って何のこと?」
類の言葉が気になって、つくしが司に尋ねた。
「お前は知らなくていいことだ。」
「ちょっと待って?何考えてるの?」
急に冷たい目になる司に焦る。
「これは道明寺財閥に対する宣戦布告だ。受けて立つ。」
「宣戦布告?」
「そうだ。やられたらやり返す。当然だろ?」
「そう......かも知れないけど........」
つくしは一瞬言い淀んで、それからぱっと顔を上げた。
「この人はね、麗華さんのことが好きなの。それでね、二人はきっと愛し合ってる。だから、許してあげて。」
突然放たれたつくし言葉に、
「「「・・・はぁ!?」」」
司ばかりでなく、あきらも総二郎も、眩暈を起こしそうだ。
どこまで鈍感なんだ。
例えどんな理由があろうとも、レイプは犯罪だろ。
俺たちが間に合わなければどうなってたと思う?
それに男が麗華を愛していたとしても、麗華がこの男を愛しているだなんて考えられない。
四宮家に貸し出したこの部屋が犯行に使われたのは、司たちに発見されるのを見越してのことだ。
麗華にとっては、男が捕まることも想定の範囲内。
つまり、この男は麗華にとって捨て駒。
あと少し遅ければ、ここで司が見た光景は異なったかもしれない。
ボロボロに傷つけられた、つくしの姿だったかも知れないのだ。
許せるはずなどない。
決して二人を許さない。
いや、四宮財閥そのものも...。
司はニヤリと笑った。
それは冷酷な表情で。
「道明寺?」
「分かったから。とにかくお前は先に上に行け。シャワー浴びろ。」
体に残る気持ち悪い感覚。
つくしも早く洗い流したかった。
だけど、これから司が何をするのか心配だ。
自分のせいで誰かが不幸になることなど望まないのがつくしという女なのだ。
「無茶しない?」
「しねーよ。」
「本当?」
「お前の言いたいことは分かった。だから、早く行け。」
「......うん。じゃあ、行くね。」
司のジャケットを胸の前でギュッと合わせ、
総二郎とあきらに連れられてつくしが部屋を後にする。
ドアが完全に締まり、壊れた鍵の代わりにSPが配置に着いたのを確認して、司は男に振り返った。
___ドスッ!
容赦ない蹴りを、男の鳩尾に入れる。
グハッ...と前のめりになったところで、男の頬に冷たいものが当てられた。
銀色のナイフ。
「さて、生きるか、死ぬか、お前はどっちがいい?」

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気持ち悪い・・・
気持ち悪いよ・・・
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唯一動かせる口を使って大声をあげたものの、
「誰も来ませんよ。コトが終わった後に観客をお呼びしましょう。さぞかし見ものでしょう。」
つくしの声は一笑に付される。
強姦されたつくしの姿を司に発見させる。
それが麗華のシナリオ。
「あなたが悪いのではないのかも知れない。悪いのはあの男だ。」
「だからって...。あなた、勘違いしてる。あたしは、道明寺司の女なんかじゃないわよ!」
「は......何を言う?」
「本当よ?まともに話したのも今日が初めてよ?あ、今日だってまともな話なんてしていないけど...。本当に、あたしとあいつは赤の他人よ!」
「そんなはずは......。」
男は麗華から指示を受けただけ。
司がどんなに甘い顔つきでつくしを見つめていたかを知らない。
だからつくしの言葉に一瞬混乱した。
その時、
ドンドンドンドンッ!!!
と激しくドアが叩かれた。
誰か来たっ!
つくしは男に圧し掛かられたまま、祈るようにドアを見つめた。
「助けて....っ」
「くそっ」
男がどうすべきか逡巡するうちに、
ガンガンガンガンッと蹴りが入れられる音がして、
頑丈な作りの入り口ドアの鍵が破壊された。
そこから飛び込んできた人。
「道.....明寺.....」
つくしの目に映ったのは、息を切らした道明寺司の姿。
その後ろには花沢類、そして黒服の男たちが続いて飛び込んできた。
司は男に組み敷かれたつくしに一瞬息を呑んだが、
「......道明寺、道明寺っ!助けてっ!!」
つくしのその叫び声に一気に床を蹴った。
「てめぇっ、何してやがるっ!!」
だが、司が男に掴みかかろうとしたその瞬間、男がさっと司に向き直り、胸元からナイフを抜いた。
ソファーに寝転ぶつくしの背後に回り、ナイフを首に突き付ける。
そのままつくしを立ち上がらせ、ゆっくりと壁際まで移動した。
司も間合いを見て男を追い詰めていく。
だが、つくしが人質である以上無茶は出来ない。
「道明寺.....」
「牧野、目つぶってろ。」
つくしの真っ赤な目を見て、司が冷静に言った。
つくしは気付いていない。
かつての呼び名で、彼の名前を呼んでいることを。
そして司も、そのことに違和感を感じていなかった。
____ガッシャーン!!!
突然響いた破壊音。
窓ガラスに類が投げつけたティーカップが当たり、砕け散る。
つくしはギュッと目をつぶった。
その音に、男が窓を振り返ったその瞬間、
____ドスッ!!
一気に飛び込んだ司が、男の顔面に回し蹴りを入れた。
不意を突かれた男はよろめき、ナイフを床に落とす。
SPがすぐに男を拘束し、
解放されたつくしを司が抱き留めた。
バクバクバクバク・・・
恐怖と緊張で、激しく鳴る心臓の音。
ピッタリと重なり合う二人には、互いの心拍が聞こえていた。
それが次第に落ち着いていく。
司はふーっと息を吐き出した。
この騒動は自分のせいだと分かっている。
つくしを巻き込んでしまった責任は重大だ。
どんなに責められても仕方がない。
けれど今は、間に合ったことに只々安堵していた。
出来るだけ気の利いた言葉を掛けよう探すのだが、司の頭には何も浮かんでこなかった。
そんな司の耳に聞こえた小さな声。
「......遅いよ。」
つくしがぎゅっと司のジャケットを握った。
「あ?」
「怖かったんだから。」
「悪かった。俺のせいだ。」
「だから自意識過剰も大概にしろって言うのよ。」
「お前も、ノコノコ男について行くんじゃねーよ。」
「そんな言い方っ!」
「お前何回目だよ。俺に助けられるの。」
「ん...........ありがとう。」
色気のない言い合いに聞こえるが、その雰囲気はまるで恋人同士のようで...
SPに拘束された男は、そんな二人を呆然と見つめていた。
「司、こいつはどうするの?」
全員の呼吸が落ち着いた頃、拾い上げたナイフをポンポンと掌に軽く打ち付けながら、類が言った。
徐々に冷静になり、自分と司が妙に密着していることを自覚したつくしは、パッと司の体を押し返した。
司はムッとしながらも、ジャケットを脱ぎつくしの肩に掛け、類に向き直る。
「俺に任せろ。」
「ズルい。司ばっかり良いとこ取り。」
「バーカ、久しぶりに暴れたら体痛ぇよ。」
「昔よくやってたよね。」
「クッ、懐かしいな。」
中等部の頃、彼らはよく年上の不良グループ相手に騒動を起こしていた。
武闘派は主に司と総二郎で、頭脳派は類とあきら。
喧嘩で負けたことないF4だったが、それでも多勢を相手にする時や、警察沙汰になりそうな時、早々に退散を謀る時には、今回の様に類が敵の興味を引き、司が一気に片を付けることもあった。
今回の二人のコンビプレーもまさにあの頃と同じ。
いつからいたのか、あきらと総二郎もすでに駆け付けていた。
「んだよ、俺ら出番なしかよ。」
「残念だな。」
「おー、悪ぃ。お前ら、こいつ連れて部屋に上がってくれねぇ?」
「了解。」
「類、お前、そろそろ会社戻らねぇとヤバイだろ。」
「ん.....牧野が無事だったから、そろそろ行くよ。」
類がつくしの隣に来て、ポンっと頭をに手を乗せた。
「無事でよかったよ。本当に。」
「ごめんね、類。着信に気付いた時にはもうここ来てたの。会社、何かあったの?」
「ん...まぁね。でも、今回のことは100%司のせいだから、司に責任取ってもらうよ。で、牧野、もしかして思い出した?」
「・・・え?」
「なんだ、違うのか。」
「何が?」
「いや、何でもない。こっちの話。」
「なーに、それ!」
そんなつくしと類の軽いやり取りさえ、司には許せないらしい。
「おい、お前らベタベタすんなっ!」
「自分だって、さっきまでベタベタしてたくせに。」
相変わらずの二人の様子に苦笑しつつも、類は少し残念に思った。
二人の記憶は戻っていない。
だが、司のことを自然と「道明寺」と呼ぶつくしも、それを自然と受け入れている司も、きっと心の奥底で繋がっている。
「じゃあ、俺は行くね。」
「うん。気を付けてね、類。」
「司、あいつの処分はお前に任せる。主犯の処分も。分かってるよね?」
「ああ、任せとけ。」
捕らえられた男の顔面は蒼白だ。
全ては見抜かれている。
主犯のことも...恐らく、何もかも。
ポキポキと指を鳴らす司に笑いながら、類は部屋を出て行った。
「ねぇ、主犯って何のこと?」
類の言葉が気になって、つくしが司に尋ねた。
「お前は知らなくていいことだ。」
「ちょっと待って?何考えてるの?」
急に冷たい目になる司に焦る。
「これは道明寺財閥に対する宣戦布告だ。受けて立つ。」
「宣戦布告?」
「そうだ。やられたらやり返す。当然だろ?」
「そう......かも知れないけど........」
つくしは一瞬言い淀んで、それからぱっと顔を上げた。
「この人はね、麗華さんのことが好きなの。それでね、二人はきっと愛し合ってる。だから、許してあげて。」
突然放たれたつくし言葉に、
「「「・・・はぁ!?」」」
司ばかりでなく、あきらも総二郎も、眩暈を起こしそうだ。
どこまで鈍感なんだ。
例えどんな理由があろうとも、レイプは犯罪だろ。
俺たちが間に合わなければどうなってたと思う?
それに男が麗華を愛していたとしても、麗華がこの男を愛しているだなんて考えられない。
四宮家に貸し出したこの部屋が犯行に使われたのは、司たちに発見されるのを見越してのことだ。
麗華にとっては、男が捕まることも想定の範囲内。
つまり、この男は麗華にとって捨て駒。
あと少し遅ければ、ここで司が見た光景は異なったかもしれない。
ボロボロに傷つけられた、つくしの姿だったかも知れないのだ。
許せるはずなどない。
決して二人を許さない。
いや、四宮財閥そのものも...。
司はニヤリと笑った。
それは冷酷な表情で。
「道明寺?」
「分かったから。とにかくお前は先に上に行け。シャワー浴びろ。」
体に残る気持ち悪い感覚。
つくしも早く洗い流したかった。
だけど、これから司が何をするのか心配だ。
自分のせいで誰かが不幸になることなど望まないのがつくしという女なのだ。
「無茶しない?」
「しねーよ。」
「本当?」
「お前の言いたいことは分かった。だから、早く行け。」
「......うん。じゃあ、行くね。」
司のジャケットを胸の前でギュッと合わせ、
総二郎とあきらに連れられてつくしが部屋を後にする。
ドアが完全に締まり、壊れた鍵の代わりにSPが配置に着いたのを確認して、司は男に振り返った。
___ドスッ!
容赦ない蹴りを、男の鳩尾に入れる。
グハッ...と前のめりになったところで、男の頬に冷たいものが当てられた。
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