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Happyending

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「ねぇ、どこに向かってるの?」
「バーゲンだろ?」
「どこの?」
「まぁ、任せとけって。」

いまいち成り立っていない会話に、
本当に大丈夫かな...?とつくしの頭に一抹の不安が過る。


一方の司は優秀な秘書を持っていた。
リムジンにつくしを乗せるとすぐに西田が司に耳打ちした。
『バーゲン』とは半期に一度の大安売りのことらしい。
彼からすれば、すでに秋冬シーズンから来年の春物をチェックし終えたこの時期に、バーゲンでは今季の夏物が値を下げるらしい。
それはどこの店でも行われているらしいが、店によっては大群が押し寄せすったもんだになることもあるのだとか.....。庶民のデートっつーのはこのことか?

「それって、うちの百貨店でもやってんの?」
「はい。今が最終ではないかと。」

司はにやりと笑った。決まりだ。
道明寺ホールディングスは百貨店にも出資している。
都内にある有名デパートの筆頭株主は司であり、そこの外商が世田谷の邸に出入りしている。
今の司は買い物に出るということはほとんどない生活をしているが、元々買い物は好きだ。
しかも、何をプレゼントしようとしても受け取ろうとしないつくしの希望なら絶対に行きたい。

バーゲンだかなんだか知らねぇが、
要するに、買い物が出来ればいいんだろ?

「とにかく、俺の言う通りに接客するように伝えろ。」
「畏まりました。」





**



「えっ?ここっ!?」

やって来たのは都内の高級デパート。
つくしも働き出してからは安物ばかり目にしているわけでもなかったが、さすがにこのデパートに出入りすることは無かった。

「バーゲン中らしいぜ。行くぞっ!」

司がさっと左腕を差し出した。
その様子につくしはぷっと噴き出した。
どうやら腕を組めということらしい。

「おいっ!早くしろっ。」
「分かったから、大きな声出さないでよ。あんたそれでなくても目立つのに。」

バーゲンは最終だと言っても、さすがに土曜日の午後。
デパートは人であふれている。
本当にこいつは人目を引く男だけど、人混みに紛れてたら目立たないかな?......なんて考えて、つくしは少しホッとしていた。


「で?どこから回る?」

腕を組むと距離が近い。
つくしを見下ろす司の顔も凄く近くにあって、ドキドキだ。

「あ...えっと。まずはパパの服かな。」
「お前の服じゃねーの?」
「うん。ボーナスが出たから、家族にプレゼント買おうかと思って。って言ってもバーゲン品だけどね。」

つくしが恥ずかしそうにハハハ...と苦笑いをした。

家族にプレゼントって...。
てっきり自分のものを買いに来たのだと思っていた司は軽い衝撃を受けた。
これまで司にすり寄ってきた女たちは、親の金を使い、自分を飾り立てることに必死な奴らばかりだった。
今、隣にいるつくしは、オフホワイトのラッフル袖のブラウスに、シンプルな花柄のスカート姿。
髪はフラワーモチーフのゴムで1本にすっきりとまとめられている。
こいつらしい、身の丈に合った、清潔感のある服装だ。

正直、彼女が何を着ていようが構わないんだが...
やっぱこいつだ・・・と、司はますます彼女に惹かれていく。
人を信じやすくて危なっかしい所はあるが、それだけ擦れてない、綺麗な心の持ち主。
彼女にとって大切なものはお金じゃない。だから、司に対しても特別扱いなどしないが、彼の本質を見抜く澄んだ瞳を持っている。
それは司にとって眩しいぐらいのもので、ずっとこのまま大切にしたいと思う。


司は自然と微笑んでいた。
周囲は驚いたに違いない。
つくしは目立たないと思っている様だが、そんなことはない。
つい先日のパーティーはテレビ中継もされた上に、元々学生時代からF4と呼ばれ芸能人並みの人気がある男だ。今や世界を股に掛けるビジネスマンであり、ここの筆頭株主である司が目立たない筈などない。
しかも、クールビューティーと言われる男が、この上なく優しい表情で隣にいる女性を見つめているのだから尚更。

「じゃ、行くか。」
「んっ!」


何も分かっていないつくしと、状況を分かっている司。
二人はエスカレーターを上りながら、5階フロアを目指す。
その時、ふと司の脳裏にある光景が浮かんだ。

「お前の父親って、あの短足親父?」
「短足って・・当たってるけど。あれ?あんた、うちのパパのこと知ってる?」

......ん?
と司は自分の首を捻った。

頭の中で、小太り短足の眼鏡親父がランニング姿で躍っている。
その隣では、エプロンを着けた金太郎みたいな髪のオバさんがフライパンを持って騒いでる。

何の記憶だ...これ?

「道明寺?」
「あ、いや.....知らねぇ。」
「だよねぇ、びっくりした―っ!」

あははっ...とつくしが笑うから、司は、自分が勝手に妄想していただけかと納得した。


それから、真剣に紳士服のフロアを見回って、つくしが一枚のシャツを手に取った。
それは薄手のリネンのシャツ。
暑がりのパパにピッタリかも。

「うわっ、やっぱり百貨店のは違うね。チクチクしない!」
「それにするか?」
「んー、でもこれバーゲン品じゃないや。」

そもそもこの店ではバーゲン品自体が少ない。
つくしはバーゲンだから来たのであって、定価で買うつもりはないからこれはナシだ。

司がチラッと店員を見ると、ささっとフロアの支配人が近づいて来た。

「お客様、こちらの商品でございましょうか?」
「あ、いいんです。見ていただけなんで。」
「丁度こちらは6割引かせて頂けます。」
「えっ!?6割引きっ!??」

つくしの顔がわぁ...っと輝くから、司は隣で吹き出すのを必死で堪えた。

「どうしようかな?」
「いいんじゃねーの?これ包んでくれ。」
「えっ、ちょっと待ってよ!」
「何だよ、バーゲン品がいいんだろ?」
「そうだけど...って、じゃなくて、どうしてあんたが払うのよっ!」

いつの間にか、司が勝手にカードを出している。
それを止めようとするつくしに、司が真面目な顔で言った。

「お前の親父ってことは、俺の親父でもあるだろーが。」

ピタリとつくしの動きが止まった。

「・・・・・・・え?」

つくしが固まっているうちに、いつの間にかラッピングまで施された商品がつくしに渡された。

「で、次は?」
「えっと......」

さっきのセリフって何?
お前の父親は俺の父親...って、まるで結婚した夫婦みたい。
いやいや、まさか、何考えてるのよっ、あたしったら!

「あの....お金......」
「いらねぇよ。つーか、お前んち行くときに手ぶらってのも何だろーが。」
「あたしん.....ち?」
「付き合ってんだから、挨拶行った方がいいだろ?」

・・・・・っ!!

つくしは目を見開いた。
本気っ!??


「なに驚いてんだよ。次はどこだ?母親か?」
「えっ、あっ・・・・うん。」

流されるがままに到着したレディースフロアでも、つくしが立ち止まって見ていた涼し気なワンピースを司が勝手に購入する。
弟が大学生だと言えば、『さすがにもう夏物はいらねぇだろ。秋物だ。』とだんだん強引になって、英国ブランドのパーカーをチョイスした。戸惑うつくしだが、正直年頃になった弟の趣味はよく分からなかったし、司のセンスは傍目にも抜群だったから、文句を言うことも出来ずに流されるがまま...。



つくしが一つ、司が二つ、紙袋を持って歩いていく。

「で?お前は?」
「あたし?」
「せっかく来たんだからなんか買おうぜ?」
「いや....あたしはいいよ。なんか、ごめん、こんなに買ってもらって。」
「1週間も寂しい思いをさせたんだ。なんでも我儘聞いてやる。言えよ。」
「そう言われたって....ちょっと、近いんだって!」

つくしの家族へのプレゼントは決まった。
けど、本当に買いたいのはつくしへのプレゼントなのだ。

グイグイと近づいてくる司の顔に焦って、つくしはパッと横を向いた。


「あっ!」
「何だ?」

つくしの目に入ったもの。
それは、紫陽花の柄が描かれた浴衣。
青い地に描かれた白い紫陽花がとっても上品。

そうだ、今日は夏祭りだ。
地元では人気のあるお祭りで人出も多いが、何となく行けずにいた夏祭り。
今は記憶のないつくしだが、あの司の事件以来、お寺や神社という場所は一度も訪れていなかった。
『司の命よりほかには何も望まない』.....そう誓った、あの時の願いはもう叶えられ、それ以上の願いは彼女には無かったから。

でも......本当は願いたかったのかも知れない。
心のどこかで期待していたのかも知れない。

___『道明寺の記憶が戻りますように。』

それはとても言葉にはできなかったけれど。





「今日ね、うちの近所の夏祭りなんだ。」
「知ってる。」
「え?」

司がガサッと胸ポケットを探り、700円分の金券が付いたチラシを取り出した。

「.....なんであんたが持ってるの?」
「行きたかったんだろ?俺、このために仕事頑張ったんだぜ?」

その言葉は、つくしの心をいっぱいいっぱいに満たした。

この男は、大財閥の御曹司で、お金なら腐る程持っている。
だけど、自由になる時間は少ししかなくて、その時間は途轍もなく貴重だ。
そのことは、恋人歴の浅いつくしでも十分に分かっていた。

だからこそ嬉しいんだ。
どんなにお金を積んだって、なかなか手に入れられない彼の時間。
それは彼が無理やりにでも努力しないと手に入らないもの。

なのに、夏祭りのために仕事を頑張ったなんていうこいつ。
それって、あたしのこと......本気だってことだよね?
信じていいんだよね?



「何笑ってんだよ。」

「えー、なんか......幸せ?」


つくしが今日一番の笑顔を見せた。




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Posted by

Comments 5

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Happyending  
こんばんは~(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
あー、連休が終わってしまう...。私はお盆も仕事ありなので...ガーン(>_<)!!です。
しかも、続きを書いていましたが...ちょっと変な妄想に取り付かれ、あんまりお話は進んでいない(>_<)!!
まぁ、もう開き直って行くしかないんですけどね(;^_^A

kah●様
自分の家族も大切にしてもらえるって嬉しいですよね~(*^^*) そして、秘密のバーゲン(笑)。さすがは司です(笑)。夏祭りに行く前に、ちょっとだけ寄り道にもお付き合いください(^^;)

ハル様
二人が幸せだと私も幸せです( *´艸`) コメントありがとうございます!(*^^*)

花●様
そんなつくしちゃんだから惹かれるんでしょうね~!(笑) もう、司のツボを突きまくりなんでしょうね(笑) やっぱりね、浴衣です!少しだけ寄り道しちゃってますので、どうぞお付き合いを~(*^^*)

小●様
そうそう、例え記憶が戻らなくても・・幸せそうです(笑)。浴衣はね、やっぱり必須アイテム?(笑)。いろいろと伏線回収がややこしくて...以前考えていた展開を半分忘れていたりして...(;・∀・)エ? 正直この先どうなるのか私もちょっと分かっていないのですが(;^_^A 最後までお付き合い頂けると嬉しいです(*^^*)

あー、明日からの仕事が憂鬱です...
続きも書かねば...
ではでは、また~(*^^*)

2019/08/12 (Mon) 23:40 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/12 (Mon) 08:54 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/11 (Sun) 20:35 | EDIT | REPLY |   
ハル  
幸せ

幸せのお裾分けいただきました(^^)

2019/08/11 (Sun) 19:40 | EDIT | REPLY |   
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2019/08/11 (Sun) 15:07 | EDIT | REPLY |   

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