FC2ブログ

Happyending

Happyending

「もぅ、ちょっとは向こうに行ってて!」
「やだね。」



_______よろしくお願いします

小さかったけれど、はっきりと聞こえたつくしの声。
断られると思っていたわけではないが、それでも迷わずOKの返事がもらえるとは思わなかった。

『本当だな、もう聞いたからな!やっぱりだめだとか聞かねぇからなっ!』
『バカ。言わないから。』
『ヤバ・・すげぇ、嬉しい』

そこからは食事どころでは無かった。
今日にも引っ越しを強行しようとしてつくし反対され、それなら両親に挨拶に行くと言ったものの、『逃げないから焦らないで。今日は二人でゆっくりしようよ』というつくしの言葉に思い留まった。

そして今は、『食器を片付けるだけだから向こうに行ってて!』という彼女のお願いだが、それに従う理由はどこにもない。

何故なら彼女はもう、彼の婚約者なのだ。



カチャカチャと食器を洗うつくしを背後から抱きしめ、彼女のお腹の前で手を組んだ。

「暇ならお皿拭く?」
「そんなのメイドに片付けさせればいい。」
「あ、またそんなこと言って。だめだからね。できることは自分でしなきゃ。」
「皿なんか拭いたことねぇ。」
「ほんとお坊ちゃんなんだから。」

司は彼女のこういうところが好きだ。
彼に依存するばかりでなく、きちんと自分の価値観を持っている。彼におもねって、彼に合わせるばかりじゃなく、自分の考えを伝えてくれる。それは時に面倒くさくもあるのだが、そんな彼女が好きで大切にしたいと思うのだから仕方がない。

「で、ゆっくりするって、何するんだ?」
「んー、どうしよっか?」

そもそもつくしにとっては夏祭りに行くことも突然だったのだから、司と二人きりになってもどうしていいのかは分からない。ただ、いつも忙しく、今晩だって出張に出なければならない司に、少しでもゆっくりして欲しいと思うのだ。

「どっか出かけるか?なんだっけ、せんたっきー?買いに行くか?」
「洗濯機だから!それに、絶対あんたには無理なところだから...ぷっ。」

家電量販店に道明寺・・・って、どう考えても似合わないでしょ?

「無理って何だよ。」
「凄い人混みだよ。」
「・・・・・・・。」
「無理でしょ?」
「執事に手配させる。」
「そんなに急がなくてもいいじゃない。ゆっくり行こうよ、あたしたち。」
「俺は今すぐ一緒に暮らしてぇ。」

ブツブツいう司に、つくしはクスっと笑った。
つくしだって同じ気持ちだが、今はただ、将来の約束ができただけで嬉しいのだ。
かつての二人は互いに愛し合っていても未来は見えなかったから、こんな幸せは本当に初めてだ。




結局、その後は、マンションで寛ぐことに決めた。
ポットのコーヒーが冷めたからと、つくしがキッチンにあった粉でコーヒーを淹れた。
リビングのソファーに並んで座り、司がそのコーヒーに口を付ける。

「美味い.....」
「そう?あたし、結構コーヒー淹れるのには自信あるんだよね。あ、紅茶も、美作さんに教えてもらった。」
「コーヒーは誰に?」

そう聞いたのは、口にしたコーヒーが司好みの淹れ方だったからだ。
自分の好きな粉を使っているのだから当然だと言われればそうだし、つくしが用意したものは何でも美味いに違いないのだが、それ以上に何かを感じた。

「コーヒーの淹れ方?そういえば、誰だったかなぁ。」

コーヒー好きの司の好みの淹れ方は、道明寺家に長く仕える者でも難しい。
なのに、しっくりくる淹れ方なのだ。
たまたま...か?

「覚えてねぇのかよ。」
「うーん。類は紅茶派だしなぁ。」
「俺の前で類の話とかすんなっ。」
「何で急に怒るの?」

ここに来て、司にまた同じ疑問が浮かんでくる。
どうして、俺だけがこいつの存在を知らなかったんだろう...。

「なぁ、お前、高校の時、俺のことどう思ってた?」
「どうって...。」

ずっと疑問に思っているのはつくしも同じだ。
これだけ目立つ男の記憶が無い。かといってどうしようもないのだが。
道明寺財閥の御曹司。F4といえば道明寺司がリーダーだ。それなのに、何故つくしの記憶に存在しないのか?

「えっと...赤札...とか貼ってた?」
「嫌なところ突いてくるな。お前、どうしてあいつらと知り合いな訳?」
「どうしてって...。類がよく非常階段に来てて。あたしも良く行ってたから。それでだんだんと...だったかなぁ。」

つくしの記憶もあいまいだ。
でも確かに、赤札なんて最低だと思っていたのに、どうしてあたしはあの人たちと付き合いがあるんだろう。
英徳だって、途中で中退したっていうのに。

「俺だって高3の冬まではいたんだぜ、日本に。」
「そうなの?でも、あんただってあたしの記憶なんてないでしょ?同じじゃない。怒らないでよ。」

女になんて興味はなかったのだから、それもそうかとも思う。
けれど、どうしてか疑問は拭いきれない。

・・・『記憶』

今の今まで忘れていた言葉だ。
司は自分の中に忘れた記憶があるのだと言われたことがあった。
彼自身、あの事件の前後を覚えていない。気が付けばアメリカだったのだが、そのころに姉の椿がそう言わなかったか?そして、あいつらもあの後、しきりにそんなことを言っていなかったか?

忘れた記憶
そもそもあの事件はどうして起こった?
どうして、俺は港にいたんだ?

かつては考えたこともあったが、もうとっくに諦めていた。
けれど、今、何かが繋がりそうな...そんな気がした。

........船?
高校時代の........牧野?

何かを思い出しそうで、けれど何も繋がらない。
思い出したからと言って、今、隣にいるこいつが変わる訳じゃない。
そう思うのに、何故か今になって焦る自分がいた。

「道明寺?どうしたの?具合悪いの?」
「いや...違う。ただ...」

俺には欠けた記憶がある......
思わずそう漏らしそうになって言葉を飲み込んだ。

それを言って何になる?
こいつを心配させるだけじゃねーか。
もしも、いつか記憶が戻ったとしても、俺とこいつの関係は変わらないという自信はある。
それなら、こいつに話す必要はない。

「俺はお前以外の女を愛せそうにねぇなって思っただけ。」

つくしの顔が一気に赤くなった。

「急に何を言うのよっ!もぅっ!!」

パタパタと掌で顔を仰ぐつくしを司が抱き締めた。

「俺にはお前しかいねぇんだから、一生俺の傍にいろよ。」

司の隣にいることが許されるのはつくしだけ。
それは、二人だけが知らない、過去から続く真実。

「うん。」

つくしの嬉しそうな顔。
この笑顔だけは一生守り抜く・・・
司はもう一度自分に誓いを立てた。




夕方まで二人で色んな話をした。
ニューヨークでは、母親だけでなく、父親にも結婚の許しを得るつもりだが、楓が反対していない時点で大した問題ではないと思えた。婚姻届けにサインをもらい、それを持ってつくしの実家にも行くつもりだ。
結婚はしたいが、つくしはすぐにはお世話になっている事務所を辞められないという。司にしても支社長就任直後ですぐに披露宴という訳にもいかないだろうから、とりあえずは籍だけ入れて、あとはゆっくり考えようということになった。

「入籍して一緒に暮らすのは譲れねぇぞ?......チュッ」
「分かったってば。だから、そうやってすぐキスしないで!」
「マーキングだよ。」
「何よ、それ。」
「あっ、ちょっと待ってろ。」

司が急に思い立ち、立ち上がった。
寝室へ消えたかと思うと、すぐに戻ってきて、ストンとつくしの隣に座った。

目をぱちぱちと瞬かせて、つくしが司を見つめた。
司はその瞳を受け止めて笑い、それからつくしの左手を取った。

スルリ・・・

彼女の左手薬指に嵌められたのは、プラチナのリング。

それは雑誌などでも良く見かけるブルガリのアイコン的なリングで、そういったものに興味のないつくしでも分かるぐらいのもの。

「えっ、ちょっと、何??」
「俺のものって印。体にはたっぷり付けたけど、それは他の男には見せらんねぇからな。」
「バカ、何言ってるの!」

パカッと彼の胸を殴ろうとした左手を司が受け止めた。

「これ、俺が高校ぐらいの時着けてたピンキーリング。さっき着替えた時に、どっかから急に出て来たんだよ。やっぱ、お前の薬指にピッタリだったな。」
「だからってこんな.....」

太めのリングは彼女の薬指にはアンバランスだ。
それでも、左手にしていれば男避けにはなるだろ?

「風鈴でプロポーズとかねぇだろーが。仮りで悪ぃけど、とりあえずこれで我慢してくれ。本物はすぐに用意するから。」
「我慢も何も.....」

その気持ちだけで嬉しい。
しかも、つくしの知らない高校時代の司が身に着けていたものだ。

「ごめんね。あたし、あんたにあげられるもの何にもないや。」
「もう貰った。」
「・・・え?」

昨晩の熱く繋がった。
そして、今朝のプロポーズの返事。


「お前の両親に会うの、緊張するな。いや、反対されても負けねぇけど。」
「ぷっ。うちの両親は絶対反対しないと思う。」
「ほんとかよ。」

玉の輿ねらいで娘を英徳に入れる様な母親に、お人好しで呑気な父親だ。
結局つくしは英徳を中退したから、それ以降、二人は真面目に働いているのだが。


「早く帰って来てね。」
「あー、行きたくねぇな、ニューヨークなんて。」
「ふふっ、頑張って。」

つくしが司の頬にキスをする。

はやく一緒になりたい。
二人の気持ちは同じだ。








*****



「随分遅いお帰りだねぇ。」
「十分間に合ってるだろーが。」

つくしをアパートに送り、名残惜しく別れてきた。
別れたばかりなのに、もう会いたい。
それ程に、司はつくしに夢中だ。

幸せな気分に浸っていたというのに、なんとなく使用人頭のタマの機嫌が悪い。

「坊ちゃん、女性を連れ込むのは構いませんが、間違いは起こさないで下さいましよ。」
「間違い?」
「道明寺家の跡取りなんですから、軽はずみな行動は・・・」

珍しく小言を言うタマに、司はカチンときた。


「なんか、勘違いしてんな。俺、結婚するんだわ。」

「へ?」


___カターン


寝耳に水。
タマが右手に持つ杖が廊下に倒れた。




にほんブログ村

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
Happyending  
こんばんは~(#^^#)

いつもたくさんの応援をありがとうございます(*^^*)
いきなりのタマさん登場でびっくりさせてしまったでしょうか?
なんとなく、ここは書きたかったところでして・・。連続して、また5時にセットしました。
けど、眠い...(;・∀・)
なので、纏めてのお返事ですみません(>_<)!!

1週間がまた始まりますね。
今週はたぶん余裕があるので、できるだけお話を進めたいな!と思っています。
頑張りまーす('◇')ゞ

2019/09/17 (Tue) 02:08 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/09/16 (Mon) 12:39 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/09/16 (Mon) 08:32 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/09/16 (Mon) 07:27 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply