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Happyending

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「今、なんて言いました?」

呆然とするタマに、司は仕方ねぇな...と杖を拾い上げ渡してやりながら、

「結婚決めた。」
「・・・・・・」
「何だよ、その顔。いつもは跡継ぎがどーのこーのって言うくせによ。ま、いいや。結婚してもしばらくはマンションで暮らすから。新婚だし、あいつもいきなりこの邸じゃ気を遣うだろうし。」
「結・・婚・・・?」
「ああ。その前にニューヨークだけどな。めんどくせー。」

それだけ言うと、自室である東の角部屋に向かって歩き出した。



坊ちゃんが結婚だって・・・?

タマは我が耳を疑った。
何故なら、タマは司の相手を知らなかったから。

昨晩遅くに、女性用の着替えをマンションに運ぶように指示された。
まさか、女嫌いの司が女性を連れ込むなんて...と思うものの、いい歳の青年なのだから、こんなことがあっても不思議ではない。執事が持ち帰ったのは紫陽花柄の浴衣だったと聞いて、司の相手に興味を抱いたのは事実だが、まさかすでに結婚を決めたとは...。


あの港での事件の後、タマも度々ニューヨークへ飛んだ。
その度に、司に女っ気がないことを確かめると、口では「道明寺家の跡継ぎはどうなるんですかねぇ」なんてぼやきながらも、内心ではホッとしていたのだ。

タマは高校時代のつくしを気に入っていた。
司が姉の椿以外に唯一心を開いた女性。つくしを司の専属メイドとして雇った時、それを知った司は心底嬉しそうだった。あんなに楽しそうな司を見るのは幼稚舎の頃以来じゃなかったか。この子がいなくなったら坊ちゃんはダメになっちまう...そう思ったから、楓の妨害からつくしを守ろうと必死になった。

タマだって、人生はそんなに甘くないと知っている。だから、二人が納得の上で別れを決めたのであれば、それは仕方がないと思えただろう。けれど、結局二人は、司が記憶を失うという形で別れを迎えた。
司がニューヨークに去ってから、つくしが一度だけタマに会いに来たことがあった。
あれは、つくしが英徳を辞めると伝えに来た時だったか。

『公立高校に行きます。だから、これ。道明寺に貰ったものなんで返そうと思って。』

つくしが持って来たのは英徳の制服と鞄。以前につくしの制服がボロボロになった時に司が揃え直したものだ。もう一つの紙袋には、マイクホール80号ホームランの記念ボールと、楓が捨てようとしたうさぎのヌイグルミが入っていた。

『つくし.....』
『先輩、そんな顔しないでください。』
『坊ちゃんのことは...』
『あたしは、あいつの命が助かっただけでいいんです。神様にもそうお願いしたから。あたしは雑草だから大丈夫です。先輩もお元気で。』

タマはそれ以上何も言う事は出来なかった。
自分を気遣う様に、無理やり笑顔を作って去って行ったつくしを今でも忘れられない。
だから、もしも司がつくしのことを思い出せば......そんなことを、タマは心のどこかで期待していた。




はっと我に返ったタマは、東の角部屋へ急いだ。
ノックもせずに司の部屋のドアを開ける。

「坊ちゃん!」
「うぉっ、何だよ。フライト迫ってるから、シャワー浴びんだけど。」
「結婚って、お相手はどんな女性なんです!?」
「あ?どんなって...帰ったらタマにも紹介してやるからそんなに食いつくなよ。」
「いつからそんな......お付き合いを...?」

司が帰国してからまだ1か月と少しだ。
いつの間に結婚を決めるほどの女性に出会ったというのか?

「前にちらっと見た時からいいなと思っててよ。就任パーティーで再会したんだよ。すげぇいい女だから、きっとタマも気に入るぜ。」

らしくもなく照れまくる司を見て、タマは呆然とした。
司に愛する女性ができたのだ、道明寺家に長年仕える者としてこれ程喜ばしいことは無いはずだ。
けれど同時に、司の記憶の中に埋もれたつくしの存在も忘れられない。

「お、奥様は何て.....?」
「ババァも認めてんだよ。あいつに俺を任せるとか言ってた。」
「奥様が...認めて...」
「ああ。あのババァのことだ。跡継ぎのこととか考えてのことじゃねーの。」

楓が認める女性ということは、この家に釣り合うどこかの令嬢に違いない。
そんな女性が司の相手で、何よりも司自身がこれほどに幸せそうなのだ。祝福しない訳にはいかない。
いや、タマだとて、幼い頃からずっと大切に見守ってきた司の幸せは自分の幸せと同じだ。


でも.....

「坊ちゃん!!」
「だから、なんだっつーの。」

予定フライト時刻まであとわずかだ。

「少しだけでいいんです。このタマに付き合ってくださいまし!」
「はぁ?」

タマが杖を振り回し、司を部屋から叩き出す。

「おいっ、どこに行く気だっ!」
「タマの最期の頼みですから、付いて来ておくんなまし。」
「怖ぇーこと言うなっ。」

ビシビシと叩かれながら、司が誘導されたのは、数ある客室のうちの一つ。
以前は色んな部屋を寝床として使っていたこともあったが、この部屋は記憶にない。
なのに、何故か懐かしい.....司はふとそんな気がした。


「なんだよ、ここ。」
「ここは坊ちゃん専用メイドの部屋だったんですよ。」
「はっ?専用...メイドっ!?何言ってんだよ、タマ。とうとう耄碌したのか?」

驚愕する司を無視して、タマがクローゼットを開けた。

「ほら、この服も、椿様が用意したんですよ。」
「ただのメイド服じゃねーか・・・・」

黒地のスタンドカラーのワンピースに真っ白なエプロン。
それは道明寺家メイドの正規のユニフォーム。

...........!?

一瞬、つくしがそのメイド服を着た姿が頭を過り、なんつー妄想だと司はブルっと首を振った。
やべぇ...もう欲求不満かよ。

つい、そのユニフォームに手を伸ばしそうになり、その隣に掛けられた服に気付く。

「なんだ、これ。英徳の制服か?姉ちゃんの?」
「坊ちゃんが専属メイドに用意してあげた制服なんですよ。」
「はぁっ!?お前、タマ!いい加減にしろよ!!」

何でこの俺様が、メイドに制服を買ってやるんだ。

「坊ちゃんがお気に入りのメイドだったんです。」
「覚えてねぇ。」
「この部屋で二人で星を見てましたよ。」
「.....星?」

窓際には今も天体望遠鏡が置かれていた。
タマが時々入っては、今でもこの部屋を掃除しているのだ。

「このボールも、二人で野球を見に行った時のものだとか。それに、このうさぎも...」
「これ、俺がガキの頃持ってたやつか?」
「ええ。奥様がお持ちだったんです。奥様が捨てようとしたのを、そのメイドが持ち帰ったんですよ。」


お気に入りの専属メイド?
そんな奴がいた記憶はない。
けれど、タマが嘘をついているようにも見えない。

・・・・・欠けた、記憶?
ずっと見つけられなかった答えが、ここにあるって言うのか?


「そいつは、今どこにいる?」
「さぁ。タマも分かりません。」
「じゃあ、どうして今更そんなことを言うんだ?」

タマは慈愛に満ちた瞳で司を見つめていた。

「タマはいつでも坊ちゃんの味方です。でもね。だからこそ、覚えておいて欲しいんです。坊っちゃんにとって、そういう大切な人がいたんだってことを。坊ちゃんの今の幸せは、その子のおかげかも知れないんです。思い出せなくてもいい。でも、そういう人がいたんだってことはどうか覚えていてください。」

司が幸せになることがタマの喜び。
けれど、それは『牧野つくし』という一人の少女の犠牲の上にあるのだ。
だから、思い出せなくても、その存在を消したくなかった。



「よく分かんねぇけど、それが俺の欠けた記憶なのか?
 だが、もし思い出したとしても俺にはあいつしかいない。
 俺は牧野しか考えらんねぇから。」

司は迷いなく断言した。
どんな記憶が埋もれていようとも、彼にはつくししかいない。



「え・・・・・牧野?」

タマの口があんぐりと開いた時、

___バタンッ

入り口のドアが開き、西田とSPがなだれ込んだ。


「こちらでしたか。フライト時刻です。お急ぎを。」
「チッ、シャワーし損ねたじゃねーか。じゃあな、タマ、言いたいことは分かった。」

司がサッと踵を返し、部屋を出て行く。

タマは瞬きを繰り返した後で、大声で叫んだ。


「坊ちゃん!ちょっとお待ち―っ!!」

だが、その声は長いコンパスでズンズンと進む司には届かない。

代わりになんとか追いついた西田の足を杖で払った。

「うっ.....タマさん...」
「あんた、これはどういうことだいっ!?」
「はい?」
「坊ちゃんのお相手だよっ!!」


ヤバイ・・・
と西田は思った。

まさか、タマが司の相手を知らなかったとは。
てっきり、楓か椿が話しているのだろうと思い込んでいた。

西田は西田で、司のスケジュール調整でいっぱいいっぱいだったし、
だいたい、展開が早すぎるのだ、あの二人は。


「コホン...。お相手は、楓社長も交際を認められている....」
「早くお言いっ!!」

「___牧野つくし様です。」


タマの目が飛び出さんばかりだ。
西田は「行って参りますっ」と、ダッシュでその場を去っていく。




しばらくその場に立ちすくんだ後、

「あんたらっ!この年寄りを殺す気かいっ!!!」

タマは自慢の杖を振り回し、


「なんだい。あたしゃ、まだまだ死ねないじゃないか。」

そう呟いて、ニンマリと笑った。




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Comments 9

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Happyending  
こんばんは~(*^^*) ②

kah●様
タマさん、いい仕事してるでしょ?みんながじっと見守る中、一人知らなかったとはいえ、司に専用メイドの存在を知らせます。これが司にとっていい方向に働くようですよ。グッジョブ!!タマさん!! 本当に、司は椿さんとタマさんがいなかったらどうしようもない男だったかもですね...(;^_^A なんだかんだ言っても優しいのは(つくしにだけだけど...)、タマさんのおかげだと思います(*^^*)

澪●様
本当に、今頃ブツブツ文句言ってるかも( *´艸`) でも、タマさんも嬉しくて仕方ないと思います(*^^*)

二次●様
タマさん、お年寄りなのに心臓に負担かかっちゃったなぁ(;^_^A 坊ちゃんのことが大切で、でもつくしのことも大切で...。タマさんは本当に愛情深い人なんじゃないかなぁ。あー、良かった(*^^*)

ふじや寿様
タマさん、おいくつになってるんでしょうね(笑)。けど、二人の子供を見るまでは元気でいてもらわねば!このことは、後々までグチグチ言いそう( *´艸`) 早くタマさんにも会わせてあげたいけど...そこまでたどり着けるのか(笑)。

拍手コメ Lu●様
あはは。タマさんナイス!!ですね(≧▽≦) 楽しんで頂けて嬉しいです(*^^*)


さて、いったん寝よう...
ではまた、続きで!!

2019/09/20 (Fri) 00:20 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
こんばんは~(*^^*) ①

いつもたくさんの応援をありがとうございます(*^^*)
先ほど27話を投稿。0時1分になっちゃったかも(;・∀・)アハ
ようやく・・・・です(;^_^A

さてさて、
タマさんにもたくさんの拍手をありがとうございます(*^^*)

スリ●様
タマさん焦ったでしょうね...(;^_^A タマさん、ごめんなさい(;^_^A でも、一人ぐらい分かってない人もいそうじゃないですか?(笑) タマさんが教えた謎のメイド。その正体は・・・。どうぞ27話へ!

花●様
イヤッホー(^o^)/ 時間があるかと思いきや、思ったより時間が取れず、更新が遅れてます(;^_^A 今日も夜中になってしまったけど...。なんとかギリギリ投稿できました(´艸`*)

みみまま様
ここにもコアな西田さんファンがっ!?(´艸`*)ププッ。実は結構いらっしゃる西田さんファン(笑)!! オリキャラファンさんとか、俺の女の時は臼井さんも人気がありました(笑)。見た目は原作の西田さんなんですが、キャラ的にはついついドラマの西田さんになってしまいますね~( *´艸`)プププッ

2019/09/20 (Fri) 00:11 | EDIT | REPLY |   
ふしや寿  
きゃーっ\(//∇//)♪

もーぉっ♪なんて良い日なんだっ♪

心配しましたね…でもお相手がつくしだったしスッゴイ嬉しいですねっ♪
タマさんっまだまだずーっと死ねないですよっ!
いつまでもずっと元気でいて下さいね♪

坊ちゃんとつくしの子を抱かなくちゃっ
覚悟してください?
沢山生まれちゃいますよっ笑

邸がメッチャ賑やかに幸せになりますからねっ❤️

タマ先輩好きーっ笑

本当素敵なお話ありがとうございます❤️

2019/09/17 (Tue) 23:29 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/17 (Tue) 22:48 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/17 (Tue) 09:18 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/17 (Tue) 08:59 | EDIT | REPLY |   
みみまま  

連日、素敵なお話ありがとうございます。

西田さんが足を杖ではらわれるとか、
西田さんの焦りとか、
西田さんの早すぎる!なんて愚痴とか、
西田さんのダッシュとか、

西田さんファンの私にはニヤニヤなお話でした。

それに、坊ちゃんの浮かれ具合やタマさんへの
優しさが、つくしちゃん登場してないのに甘く
感じました〜。

楽しかったです❤️

2019/09/17 (Tue) 08:00 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/17 (Tue) 06:00 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/17 (Tue) 05:54 | EDIT | REPLY |   

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