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Happyending

Happyending

「行くなっ!!!」


いきなり起き上がった司は、ハァッ、ハァッ、と荒い呼吸を繰り返した。
額にはびっしょりと汗をかいている。


「どうされましたかっ!?」

司の叫び声に、自身も仮眠を取っていた西田が慌てて駆け寄ったが、彼は放心したように目を見開き、肩で息をするばかりだ。

「誰か、水をお持ちして!」
「いらねぇ。」

司は辛うじて右手を上げ、それを制した。

「ここは.....どこだ?」

未だ焦点が定まらない様子で、司が西田に問う。
これは現実なのか、夢なのか。
いや、目覚めた時から震えが止まらない自分に気づけば、これは現実で、自分は最愛の女を忘れるという大罪を犯した男だという事実を受け入れざるを得なかった。

ただ、認めたくない。
自分がつくしを傷つけ、捨てた事実など認めたくなかった。

あれから......何年経った?
俺は何をしてるんだ?
あいつは.....どこにいる?

司は頭は混乱し、冷静に現状を見つめられずにいた。



「ニューヨークへ向かう機内です。」
「ニューヨーク...」
「スケジュールは申し上げた通り、約3日の滞在予定です。交渉によってはそれ以上...」

ニューヨークに3日?
違うっ!俺がしなきゃなんねぇことはそんな事じゃねぇっ!!

「戻れ....」
「司様?」
「日本に戻れっ。あいつを、牧野を捕まえろっ!逃がすなっ!!」
「落ち着いてくださいっ!」

いきなり立ち上がった司を、西田は両手を広げて制した。
この尋常でない様子を見れば明らかだった。
思い出したのだ。
6年前の記憶を。

この時を想定して何度もシュミレーションしていたというのに、さすがの西田の声もわずかに震えた。
だが、自分が取り乱す訳にはいかない。

「このままニューヨークへ参ります。」
「ふざけんなっ!」
「あなた様がすべきことは、ニューヨークにあります。」
「んな訳ねーだろっ!戻れっ!!」

司は西田の肩を掴み、コックピットに向かおうとしたが、

「牧野様と約束されたのではありませんかっ?!」

西田がそう一喝すると、司の動きがピタリと止まり、その腕をダランと下ろした。







『両親から結婚の了承ってのをぶんどってくる。』
『......うん。あんたのお母さんに、よろしくお伝えしてね。この前、初めてお会いした時はこんなことになるなんて思わなかったから、失礼な事しちゃったかも...。』
『確かにな。お前すっとぼけてたし。』
『だって、あの時は付き合ってなかったじゃん!』
『大丈夫だろ、ババァも認めてるらしかったからな。』
『そうだといいんだけど...。』

俺がリフォームしたアパートのドアの前。
あいつがそう言って俺のジャケットを掴み、はにかんだ。


そうだった。俺はあいつと再会して、
あいつと結婚するんだ。


『ニューヨークかぁ。遠いね。行ったことないや。』
『一緒に行くか?』
『なんでよ、明日から普通に仕事だよ。』
『休み取れねぇの?』
『あのねぇ。普通そんな簡単に休めないから。職場に迷惑かかっちゃうでしょ?』
『離れたくねぇ。』
『ふふっ、あたしも。でも......』

帰ってきたら一緒にいられるんでしょ?
はっきりと聞こえたわけじゃねーが、たぶんあいつはそう言おうとしてた。

そうだ、大丈夫だ。
あいつは、俺を待ってる。
早く帰ってきてって、あいつは言った。



いや・・・・・待て。
やっぱ、おかしいだろ?

一瞬安堵仕掛けた司だが、直後に恐ろしいぐらいの違和感に気付く。


今の彼女と6年前の彼女。
明らかに同じ女なのに、重なるようで重ならない。

何かがおかしい。何かが変だ。
ツーッと司の背中に冷や汗が流れた。


考えろ.....いや、思い出せっ!




『......あなたは?』
『お前の命の恩人だ。』

石段から落ちた後の病院で、あいつは俺を見てきょとんとしていた。
6年ぶりの再会だったはずだ。
なのに、まるで他人を見るかのように...

『だって、あたしたち出会ったばっかりなのに。』
『そんなの関係ねぇな。』

俺が告白した時も、出会ったばかりだって断ろうとした。
出会ったばかりの訳ねぇ。
なのに、あいつは真剣そのもので。

違う、根本、そんな事じゃねぇ。
そんな事じゃ...


『何でだよ。類も、あきらも、総二郎もお前を知ってるのに、何で俺だけ知らねーんだよっ!』
『仕方ないでしょ。あたしだってあんたのこと知らなかったし...』


___アタシダッテ、アンタノコトシラナカッタ


どういうことだ?
あいつはどうして俺のこと知らないなんて.....

まさか、俺に嘘を吐いていた?
いや、違うっ。

混乱する司の脳内。
だが、これだけは言える。
あいつは嘘なんて吐ける女じゃない。

それなら......何故?
まさか.........







ガタン.........とシートに座り込んだ。
頭を抱え、司は俯いた。

「西田.....」
「はい」
「いつからだ?いつから、あいつに俺の記憶が無い?」

考えられる可能性はこれしかなかった。

「あの日、牧野様が石段から落ちた時からだと伺っております。」
「誰に聞いた?」
「あの病院は道明寺系列ですし、詳しいことは花沢様より連絡を頂きました。」
「じゃあ、なんですぐに俺に言わねぇんだよっ!」

教えて欲しかった。
あいつが俺の大切な女で、傷つけた女で、ずっと不安にさせてたのは自分だと。
もっと早く知りたかった。


「それを知ってどうなりますか?」

声を荒げた司に対して、西田はどこまでも冷静だった。

「ご友人たちがずっと言わずにいたのは何故だと思いますか?」
「あいつら...」

二人の過去を知りながら、誰も口に出さなかった。
まるで初めて出会った二人であるかのように接していた。
だから、俺は当然のようにあいつのことを好きになって、あいつは......過去を忘れていたからこそ、素直に俺を受け入れた。

「あなた様が6年前、牧野様にした仕打ちは...」
「言うなっ!」

司は思い出していた。
霧ががかったように思い出せないでいた、事件前後の記憶も。
自分が、つくしに対してどんなに酷い言葉を投げつけたのかも。

「言うな.....」
「教える必要がありましたか?」
「...........。」
「牧野様にとって、忘れてしまいたいぐらいに辛い記憶だったのです。今更、それを知ったからといって、あなた様はどうなさるおつもりですか?」

過去を思い出した俺は、どうするのか...。


「何も変わらねぇよ。俺はあいつを世界一幸せにする。」

ずっと一緒にいて欲しいと言ったあの言葉は、きっと過去の俺に対して言いたかった言葉に違いない。

謝ったところで過去は変わらない。
それなら、これから先で償うしかない。
もう要らないってぐらいにあいつを幸せにしてやるしか、俺に残された道はない。
そうだろ?


西田は満足そうに頷いた。
なんだかその態度が腹立たしかったが、こいつのおかげで冷静になれた。

「あと2時間でニューヨークです。」
「分かった。少し一人にしてくれ。」

あいつに会いたい。
けれど、あいつを幸せにするためには後戻りはできない。




司は携帯を取り出した。
道明寺の所有するプライベートジェットは、地上同様に全世界で携帯通話が可能だ。



プルルルル.....プルルルル.....プルルルル.....

あいつは怒ってなんかいない。
それが分かっていても、携帯を持つ手が震えた。
けれど、もう、俺はお前を手放さない。



「ん......道明寺?」

3コールで愛しい女の声が聞こえた。
自分の名前を呼んでくれる、この声が聞こえただけで安堵する。

「悪ぃ。起こしたか?」
「んーん。そろそろ起きようと思ってたところ......ふわぁ...。」

恐らく、日本は朝6時前。

「どうしたの?何かあった?」
「お前の声が聞きたくて。」
「もぉー、そんなんで、仕事大丈夫?」

まだ少し眠たげなつくしの声が心地いい。

「牧野」
「.....ん?」
「ごめん......ごめんな。」

言うべきじゃない。
謝っても、それは自己満足に過ぎない。
けれど、言わずにはいられなかった。

「本当にどうしたの?何かあったの?」

急にトーンが変わり、心配そうな彼女の声に、司はハッと我に返った。


「いや、昨日は無理させちまったから。」
「バ、バカっ!!そんなこと、サラッと言わないでっ!!」
「体、大丈夫かよ。」

初めての時は、イテーイテーって騒がれて、次の日も不機嫌だったっけ。
そんなことも思い出し、司は少しだけ頬を緩めた。
あの時の牧野も、すげぇ可愛かった。
そんなこいつを忘れちまうなんて、俺は本当に大バカだ。
けど、もう離さねぇから。
幸せにするから。


「あのね...。心配してたよりは大丈夫だった...。」
「ブッ!」
「あ、何で笑うのよーっ。あんたが心配してそうだから、思い切って言ったのに。」

本当は初めてじゃねーんだ。
そりゃ、本当の初めてよりはマシだったんだろ。
その初めての相手も俺なんだから文句もねぇ。


「相性がいいからだ。」
「......え?」
「すげぇキモチ良かっただろ?俺ら、最高の相性だってこと。」

電話の向こうでつくしが固まっているのが分かる。

司は目を閉じた。
過去のつくしと今のつくし。
その二人に、同時に伝えたい。



「お前は俺の運命の女だからな。」



自ら手放した彼女の手を、もう一度捕まえた。
そこには多くの人間の協力があったことも、今では分かる。

でも、やっぱり運命だ。
そうじゃなきゃ、こいつが石段から降ってくる訳ねぇ。
この俺が、二度も同じ女に一目惚れするなんてありえねぇ。


それで、お前にとっても俺は運命の男だ。
記憶を失っても、俺を好きになってくれた。

そうだよな、牧野?




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Comments 6

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Happyending  
こんばんは(;・∀・) ②

スリ●様
記憶を無くしても惹かれ合う二人。それでHappyendかと思いきや....。やはり本当の意味でのHappyendはもう少し先のようです(;^_^A 司もつくしも、あと少し、本当の幸せを手に入れて欲しいと願っています!(*^^*)
PTA相変わらずお忙しいんですね(;^_^A 私は今回大きな仕事はほぼ終わっています。良かったぁ。こどもの習い事の役員の方が今は大変で...。なかなか難しいですね~、役員というのは...(;^_^A

拍手コメ まり●様
そうなんです!宇宙の神様が...( *´艸`) 必ず幸せにしますので、見守ってあげてください(*^^*)

拍手コメ Lu●様
私も同じですよ~。坊ちゃんの幸せが私の幸せ...( *´艸`) でも、今回は私にしては珍しく、つくしちゃんサイドも細かく書いてるかな~。坊ちゃんを幸せにできるのは、悔しいけど(笑)、つくしちゃんだけですもんね!!

ではでは、29話、微妙なところで切ってしまったので、
早く更新できるように、続き頑張りまーす。

2019/09/23 (Mon) 00:24 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
こんばんは(;・∀・) ①

いつもたくさんの応援をありがとうございます(*^^*)
司、完全に思い出しましたね。そして、つくしちゃんはまだ思い出していません(;´・ω・)
つくしちゃんの記憶の鍵は何だと思いますか?
そこが、このお話を書きながら、ずーっと考えていたことだったりします。(考えてから書けよって話ですが...汗)
そんなわけで、本当のHappyendに向けてどんどん展開していくつもりです!!
リレーも来るかもなぁ。なんとかこちらを進めたいっ!!

さてさて、
二次●様
そうなんです。そうなると、つくしちゃんの記憶は・・?ですよね。ここからは、つくしちゃんサイドも展開しつつ、ハッピーエンドに導きたいっ!!頑張ります(*^^*)

花●様
あうーっ。まだ、まっしぐら...でもないかも~。でも、二人の気持ちは決まってるんです。あとは、つくしちゃんが勇気を振り絞るだけっ!!頑張れ~、つくしちゃんっ!!

みみまま様
ふふっ。緊迫からの甘々。そして今度はまたプチ爆弾●~* まだまだ安心はできません(;'∀') でもでも、ハッピーエンドまで見守ってくださいね(*^^*)

2019/09/23 (Mon) 00:15 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/22 (Sun) 11:03 | EDIT | REPLY |   
みみまま  

緊迫からの甘々で、スマホ持つ手に力入っちゃいました。

アストン会長!さっさとフィフティフィフティでケリつけさせて、早く司を日本へ返して〜。

司の帰国お待ちしてます。

2019/09/22 (Sun) 02:13 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/21 (Sat) 20:56 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/21 (Sat) 19:02 | EDIT | REPLY |   

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