Happyending

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翌日からは2泊3日のアジア出張だった。
朝、相変わらずの怪力で起こされたが、その時の呼び名は、「坊ちゃん」ではなくて、「道明寺」。
「道明寺!はやく起きて!飛行機、乗り遅れる!」
俺はちょっとニヤけた顔を見られたくなくて、布団をかぶった。
それを必死にひっぺがそうとしているこの女。
布団の引っ張り合いをしているうちに、手がすべったのか、あいつがベッドから後ろ向きに落ちた。

「痛った~!」
「大丈夫か?」
とっさに布団から出て声をかけた俺に向かって、
「あんたっ、起きてたんじゃないの!」
「今起きたんだよ。」
「まったく~。あのねぇ。あたし、昨日考えたんだけどね。ほら、あたしはメープルの職員で、あんたは雇い主だけどね。でも不当解雇はできないはずだよね。だから、あたしも、もう遠慮しないから。あたしは、あたしなりのやり方で、メイドするからね!」

そういう牧野の真意はわからねぇけど、つまりは、今まで猫をかぶってたってことだよな。
それは分かってたぜ。
お前、気付いてないかも知れねぇけど、考えはいつもダダ漏れだからな。

「いいんじゃねぇの。好きにやれよ。」
そう言った俺に、
「とにかく、まずは、シャワーして、早く服を着なさい!風邪ひくでしょ!」
と捲くし立てやがった。


朝食は、約束どおり、一緒に食べた。
これが、なんとなく照れくさい。
昨日は西田もいたからそんなに気にならなかったが、女と二人で朝食をとるなんて、初めてだった。
俺との食事だっつーのに、メイド服姿の牧野。
俺に向かって、
「残さず、全部食べなさいよ。」
なんて言ってやがる。
俺は、家族と食事した記憶もねぇな。
姉ちゃんと食った頃が最後か。
「あんた、納豆食べないつもりでしょっ!」
と言いながら、勝手に俺の茶碗に納豆をかけている。
本来なら、ぶっ飛ばすべきその行為だが、俺は顔がニヤけて仕方がねぇ。
メイドと友達っつーのも変な関係だが、こいつはタマのように家族に近い関係のように思えた。


仕事は選り好みしないタイプだが、こんな朝があると、仕事に行きたくないような気がする。
そんな自分にちょっと苦笑しながら、
「行ってらっしゃい。」
と手を振られ、俺はマンションを後にした。


*****


3日間のアジア出張も無事に終了し、香港から飛ぶ予定だったが、天候の影響でジェットの離陸が許可されなかった。
予定通りでいけば、夜9時にはマンションに着けるはずだった。
西田が、
「牧野さんに連絡を入れておかないと、夕食の準備をしてしまいますね。」
と携帯を鳴らし始めた。

何度目かのコールの後、牧野が出たらしい。
西田が、今日は夜中になるか、もしくは最悪翌朝の帰宅になると伝えていた。
恐らく、牧野は夜中でも待っているつもりだったんだろう。
西田が、
「それでは、飛行機の時間が決まれば、メールをいれますので。」
と言っていた。

俺はすぐに西田に電話を代わるようにジェスチャーし、電話口に出た。
「牧野か。夜、遅くなるから、待ってなくていい。先に寝とけ。」
「なに言ってんのよ。そんな訳にいかないでしょ。ちゃんと待っとくからね。」
そう言って、電話が切れた。
俺は、顔が緩むのを抑えられない。
自宅に、俺を待っているヤツがいる。
自分に家族ができたような気分だ。

「支社長、顔を引き締めてください。」
あぁ?西田、うるせぇこと言ってんなよっ。



結局、マンションに戻ったのは、夜中の2時。
西田とは駐車場で別れて、ペントハウスへ上昇した。
けれど、エレベーターが開いても、出迎えがない。
部屋の明かりは点いている。

あいつはどこだ?と思いながら、リビングに入ると、リビングのソファにもたれるようにして床に座り込み、眠っている牧野。
「おい、こんなとこで寝んな。」
そう言いながらゆすると、
「んん・・。あれ、道明寺。お帰り。」
そう言って、目をこする牧野に、
「ただいま。」
と返すと、こいつが嬉しそうに笑った。

目を覚まして、俺の着替えを手伝ったり、荷物を片づけたりしている牧野に、
「寝るなら、せめてソファで寝ろよ。」
と言ってやったら、
「さすがに、雇い主のソファでくつろぐ訳にはいかないよ。」
と言う。
案外、律儀で堅い奴だ。


そんなこいつに、翌日、こいつ専用のリラックスチェアを取り寄せた。
届いたチェアがリビングの置かれると、あいつは驚いて、
「こんなど真ん中でくつろげないでしょ!」
と、ちょっと怒ってやがったが、
「でも、まぁ、ありがと。もう気をつかわなくていいからね。」
と微笑んだ。

姉ちゃんとも、タマともちがう、でも家族のようなこの女。
俺にとっては、失いたくない女になっていた。


 

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たくさんの拍手ありがとうございます。
過去の記事にも拍手やコメントを頂けてうれしいです。
現在は、起承転結でいうと、承ぐらいかなと思います。たぶん・・。
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Comments 2

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happyending  
いつもありがとうございます。

本当に、あなたに会いたくての頃が、懐かしい…というよりは、恥ずかしいです。
あの時は、ちょっと書いてはポチっと公開という感じで。
初めの方とか、本当に短いし(笑)。

今でも、慣れたとは言いませんが、量を調節しようと心がけるようにはなりました。
とは言っても、丁度良いところで切るのは難しいですが。

初めの頃から読んで頂けているのは、うれし、恥ずかし、です(笑)。
今後ともよろしくお願いします。

2016/10/26 (Wed) 19:24 | EDIT | REPLY |   
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2016/10/26 (Wed) 06:38 | EDIT | REPLY |   

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