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Happyending

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「何よ......あたしが間違ってるっていうの?」

海には、当時、司がつくしを煙たがっていた記憶しかない。
だから、忠告をしてあげただけ。司と付き合った事実はないが、あのままいけば自分と司は付き合っていたはずだから問題ない。本当の事を教えてあげただけなのに、何で?

「つくしちゃん、怒っちゃったのか。」

嘘を吐いた自分は悪くない。
つくしのために言ったのに、つくしが怒って帰ってしまっただけ。
そうやって何でも人のせいにするのは海のいつものこと。

けれど、今回は相手が悪かった。




海はカフェを出て大通りを歩き出した。

「あーあ、つまんない。」

実は今日付けで、勤め先の病院を解雇になっていた。
理由は『患者家族との度重なるトラブル』。
海が担当していた整形外科病棟は比較的若い男性の入院患者が多く、海は持ち前の明るさですぐに患者と仲良くなり、個人的な連絡先を交換していた。時にそのまま親密な関係になることもしばしばで、患者の家族や恋人から病院へのクレームが絶えなかった。その度に海が言うのは、『相談に乗っていただけです』という言い訳だったが、致命的だったのはあの夏祭りの日。つくしに再会する前に、修羅場があった。一緒にいた男性とホテルを出た後、祭りに足を延ばしたのだが、男の妻が興信所からの連絡でその場に現れたのだ。妻が病院に慰謝料を請求したことから、プライベートな事とは言え度重なるトラブルに病院側の堪忍袋も切れた形だ。

「奥さんの代わりに慰めてあげただけなのに...大袈裟。」

そう呟いた時、海の右隣りに真っ黒なリムジンが静かに止まった。
助手席のドアが開くと、カッチリとスーツを着こなしたガタイの良い男が下りてきて、海の前で深く頭を下げた。

「中島海様ですね。」
「え?......あ、はい。」
「申し遅れました。私は道明寺ホールディングス秘書課の前田と申します。司様より中島様をお連れするようにと申し付かって参りました。」
「司.....って、道明寺君のこと?」
「道明寺司日本支社長です。」
「うそっ!」
「中島様に伺いたい重要なことがあると。大変失礼ですが、支社長は多忙なため、こちらにお越し願えますと助かります。」
「重要な.....こと.....?」

カチカチカチ...と海の頭のなかでパズルのピースが組み合わさっていく。
重要なこと...それはもしかして記憶のこと?
つくしを煙たがり、司の傍には海がいた時の記憶。
夏祭りでは酷い扱いだったというのに、今になって会いたいと言って来るなんて。
きっと思い出したんだ!海のこと!!

「こちらの車でご案内するようにとのことでしたが、如何なさいますか?」
「乗りますっ!!」

これは海にとって逆転のチャンスだ。
男心を掴むことには無自覚の自信がある彼女。
二人が付き合っていた事実はなくとも、それを事実にしてしまうことなど容易い。
一晩一緒にいられたら・・・何とでもなる。
だって、あの時だって道明寺君は海のことが好きだったんだもん。

つくしちゃん、ごめんね。海、やっぱり道明寺君がいいの。
他の男じゃだめなの。
彼も、きっと私のことを必要としてくれているから。

こうやって迎えが来たことこそが司の答えなのだと、
海はまるで本物の令嬢のように、胸を張ってリムジンに乗り込んだ。






「すごぉーい」

高級な皮のシートに重厚な肘掛け。
正面には大型のモニター。サイドの冷蔵庫にはシャンパンまで準備されている。
先ほどの男性は助手席に戻ってしまったため、このリッチな空間にいるのは海一人で、海は興奮気味にあちこちと見回していた。

「あれ?でも、この車、どこに向かってるんだろ?」

海がやっとその疑問に辿り着いた時、リムジン内の電話が鳴った。
ここには海しかいないのだから...と、恐る恐る受話器を上げる。

「もしもし?」
『お前.....』
「道明寺君っ!?道明寺君でしょっ!!海のこと、思い出したの!?」

興奮を抑えられない海は、いきなり司の名前を連呼する。

『いや、全部じゃねぇ。』
「そうなの?」

落胆したのも束の間、しかし夏祭りの日の取り付く島もない司ではないことが分かると、海は得意気に話し出した。

「道明寺君が入院してた病院で出会ったよね?」
『ああ。』
「私、あの頃から道明寺君のことが好きだったの。急にニューヨークに行っちゃって寂しかった。」
『そうか。』
「私ね、今、看護師をしてるの。道明寺君が入院してた時、海が力になってあげられたのが嬉しくて。そんな風に、病気やけがの人を支えたいなって。」
『へぇ...』

それは半分は正しかったかもしれない。何度か入院経験のある海は人の弱さに付け込むのが得意で、人から頼られることに快感を覚えていたから、看護師に憧れていたのは事実。しかし実際には見た目以上にハードな仕事内容、患者も必ずしも自分の思い通りにはならないことにうんざりしていた。

誰かいい人いないかな?
結婚退職しないと生活も大変だし.....
そう考えていたのにあっという間に解雇になった。

そして降って湧いたこのチャンス。


『俺たちはどんな関係だった?』

ほら来たっ、とばかりに海のテンションはマックスになる。
何と答えるべきか。付き合ってはいなかった。だけど、そうなる一歩手前。
でも、それじゃあ司を捕まえられない。
それなら.....どうする?

「道明寺君は私のことが好きだったの。けど、その時つくしちゃんっていう彼女がいたし、私も彼女に遠慮してたから。」
『遠慮?』
「もう病室に来ないでとかたくさん嫌味を言われたの。でも、海は道明寺君に会いたくて、つくしちゃんに意地悪されても病室に通った。道明寺君も嬉しそうだったよ。退院したら一緒にニューヨークに行こうって言ってくれたの。」
『ニューヨークに?』
「うん.....。覚えてない?」
『覚えてねぇ。』
「あの時、道明寺君、海にキスしてくれたよ?それも覚えてない?」
『・・・・・。』
「道明寺君に会いたい。会えばきっと思い出すと思うの。道明寺君の傍にいたい。私たち、もう一度やり直せない?」

全くの嘘をぺらぺらと並べることのできるのは、ある意味では海の才能。
司が全てを思い出す前に既成事実を作ってしまえばいい。
これから会って、キスをして、ベッドに入ればきっと海を好きになる。


司からの返事はない。
その沈黙は彼が迷っている証拠だと海は思った。

何を迷うの?そうか、つくしちゃんのことだ・・・


『ごめんね、変なこと言って。道明寺君は今、つくしちゃんと付き合ってるんだよね。』
「ああ。」
『でも...私、見たの。つくしちゃん、道明寺君の友達と抱き合ってた。道明寺君から忘れられちゃったからってすぐに次の人だなんて...私、信じられなかった。』
『牧野が?』
「うん。そんな人だもん、道明寺君の気持ちが海に向いても仕方がないと思う。」
『・・・・・。』

それでも返事をしない司に、海が追い打ちをかける。

「海の方が、つくしちゃんより道明寺君を幸せにできると思う。」

『・・・・・。』

「道明寺君のためなら、海、何でもするよ。この気持ちはつくしちゃんになんて負けない。」




長い沈黙があった。
海の心臓はバクバクと音を立てる。
司が何と答えるのか。


その時、

「ふっ......はははっ!ははははっ!!」

と、聞こえてきたのは司の低い笑い声。
この状況で考えられないような冷めた笑いに、海の心臓は止まりかける。


と同時に車内がピカっと明るくなった。
思わず叫びそうになったが、正面に設置されたモニターの電源が入っただけだと気づいた。


直後、映し出されたのは、つい先ほどのカフェの映像。
向かい合って座るつくしと海が映っている。
リムジンの高級スピーカーから、二人の会話が流れ出した。


『あたしね。高校生の時。道明寺君と付き合ってたの。』
『道明寺君、怪我をして記憶をなくしちゃったの。だから、海のこと、覚えてないんだ。』
『道明寺君がいつか思い出すかも知れない。その時、つくしちゃん辛くならないかなぁ。だって、道明寺君は海のことが好きだったから。』

自分が口にした言葉がリピートされ、それを聞いてどんどん顔色が悪くなるつくしが映った。


どうしてこの画像がここにあるのっ!?

・・・・でも、落ち着いて。
道明寺君は覚えてないんだもん。大丈夫。
付き合ってはいなかったけど、言ってることは間違ってない。

そう思うのに、海の心臓はますます速くなっていく。

そう、さっきの司の笑い声。
あの恐ろしいぐらいに冷たい声は・・・何故?



体が震え無意識に車のドアを掴むが、走行中のリムジンのドアは当然ロックされている。

受話器から、低く冷酷な司の声が聞こえた。



『なぁ、俺がいつお前と付き合った?』

「ご...ごめんなさい。付き合ってはなかった。でも、それはつくしちゃんに遠慮してたからで...」

『俺がいつ、お前のことを好きだなんて言った?』

「道明寺君、無理に思い出さないで。それでもいいから。それでも海は道明寺君が好きだから。」




___ガシャーンッ!!


電話の向こうでグラスが派手に割れる音がした。


「きゃっ!」

ビクッと海の体が震える。


『平然と嘘ついてんじゃねーよ!!』

「う、嘘じゃないっ!信じて、道明寺君!」



___ガッチャーン!!


今度は何か金属がぶつかる音がした。


「ひゃあっ!」

『まだ言う気か。マジで頭イカレてんな。
 とっくに思い出してんだよっ!
 牧野のことも、てめぇのことも。完全になっ!!』


・・・・完全に思い出してる?



海は一気に現実に引き戻された。
尋常ではない司の様子。
記憶を取り戻せば、つくしよりも海を選んでくれると思っていた妄想は一気に消え去った。
夢など見ている場合ではないのだ。


冷静になれば、電話越しにも司の怒りが感じられる。


『俺がいつニューヨークに誘った?
 いつ、てめぇにキスをした?』

「ごめんなさい。違うの。私はただ、道明寺君のために...。」

なんとかこの場を取り繕いたい海は、頭の中をぐるぐると回転させる。


『俺のため?』
「そ、そう!だって、つくしちゃん、道明寺君を裏切ってた。道明寺君の友達と二股かけるような人だよ。海は違う。道明寺君一筋だよ。道明j君のためなら何でもできる。』
『へぇ...何でも?』
「うん。何でもする。だからお願い、嘘を吐いたことは許して。」


この場を収めなければと必死になる海に、
司が「ふっ・・・」と冷ややかに笑う声が聞こえた。


『お前さぁ、俺が何をしたら喜ぶか知ってんの?』
「え...?」
『この際だからはっきり言っておく。牧野の幸せが俺の幸せなんだよ。』
「道明寺...くん?」
『つまり、あいつを侮辱し、傷つけたお前のことを俺は絶対に許さない。』

海のデマカセなど信じてはいない。
そうはっきり断言したのだ。
海にはもう、逃げ道はない。


『お前には生涯を賭けて償わせる。』


司が電話を切る気配を感じ、海は必死に言い募った。

「待って、道明寺君っ!」
『.........。』
「ごめんなさい。つくしちゃんに謝るから、お願い、許して!」
『謝る?』
「嘘なの。つくしちゃんが羨ましくて、つい嘘を吐いたの。」
『へぇ...今更命乞いか。』
「みんなに大切にされてるつくしちゃんが羨ましくて...、だから、ごめんなさいっ」

つくしのことを出せば許される...
そう思っても、すでに遅い。


『知り合いに、要介護の男がいる。』
「・・・え?」
『病気が治らなくて看護師を探してるらしい。』
「・・・あの?」
『お前には丁度いいんじゃね?病人を支えたいんだろ?』
「ちょっと・・・」
『香港から迎え来てるから、VIP待遇だな。』
「香...港...?」


香港マフィアの幹部で性欲を抑えられない男がいる。
女を見つけては廃人になるまで抱き潰すのが趣味だとか。


海の背中に冷や汗が流れた。

「待って!お願い、最後につくしちゃんに謝らせて!」

司には何を言っても無駄だと感じ取り、ここに至ってもなお、つくしの優しさに付け入ろうとする。
つくしならきっと海のことを許してくれるはずだと。


『てめぇに会わせる訳ねーだろ。』

「でも、こんなことしたらつくしちゃんが悲しむっ・・」

『クッ...!本当に頭悪ぃんだな。俺が大切な牧野に、少しでもてめぇの話なんてすると思うか?』




ピッ・・・


電話が切られたと同時にリムジンのドアが開かれると、
そこはプライベートジェットが待機する空港内滑走路。


放心状態の海はそのままジェットの中に連れ込まれた。
海が送り込まれるのは香港マフィアの巣窟。
これから先の人生はマフィア幹部の男の性欲処理という看護に勤しむことになる。









**



「司様、そろそろお時間です。」
「悪いな。1時間のロスか。」

あきらから海が動き出したと連絡があった時、司はすでに待機させていたSPに二人の様子を動画で送るように指示を出していた。

海の言葉に震えるつくしの様子を見て、彼女の携帯を鳴らした。
ニューヨークにいる司にはこれしか手段がなかった。
けれど、

『これって、牧野が自分で乗り越えない限り、どうしようもないことだよ。』

類が言った言葉は正しい。
だから、あいつに乗り越えさせるパワーをやりたかった。

___俺を信じろ。

そして、あいつは乗り越えたはずだ。



「もう大丈夫だ。」

そう言いながら、携帯を手に微笑む司は心なしか幼く見えて、

「それはようございました、坊ちゃん。」


思わず懐かしい言葉を口にした西田に、
司は苦笑しながら、「サンキュ」と呟いた。





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Comments 10

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Happyending  

拍手コメまぁ●様
何で書くか...によるのかな?FC2の場合は、パスワードで管理画面に入ってお話を投稿します。そこにいくつかお話を書き貯める方法もあると思いますし、グーグルのドキュメントなんかを使ってお話を別に書き溜めたり...とかいろんな方法があると思います。共有のPCだとFC2の管理画面に入ったほうがいいのかな?でも、ログオフしない限りは一定時間ログオンされたままだし、ログオフし忘れたらご家族にみられちゃう可能性はあるような・・?それなら、スマホの方がいいのかなぁ...なんて思いますが...どうでしょうか??スマホ用の眼鏡とか売ってて、使うとやっぱり疲れにくいです(笑)。

2019/10/09 (Wed) 01:30 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
こんばんは(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます(*^^*)
なんだかバタバタしておりまして、あと少しだと思うのですが、息切れ状態(;^_^A なんとか短めですが、35話を書いたので、5時にセットしました!

そしてそんなこんなで、こちらもまた纏めてのお返事でごめんなさい(>_<)!!

そうそう、海ちゃんですね...
原作よりもさらに悪い女にしてしまって、ちょっと可哀想だったかな...と思いながら書いていましたが、つくしちゃんにショックを与える存在で、また、司も報復をするのであれば、やっぱりそれなりに悪い女でないとダメだな..と(;^_^A
でも、正直書いている自分がぐったり・・というか、どよーんって感じになってしまって、結構辛かったです( ;∀;)

司はね、海のことなんて何にもつくしに言わないと思います。それが司の本当にブラックな面であり、つくしへの優しさにもなるのかな。いいなぁ...つくしは~(≧▽≦)!!

そして今回たくさんの誤字脱字がありまして‥(;^_^A
久しぶりに6000文字とか書いたらもう見直しで目がチカチカして(;^_^A
ご指摘ありがとうございます。本当に助かります。
いつでも大歓迎ですので、是非恥ずかしい間違いは教えてくださいませ(*^^*)


さてさて、ブラックバカラは最終コーナーを回ってラストに近づいていきます。
息切れ状態ですが、どうぞ最後までお付き合いください(*^^*)

2019/10/09 (Wed) 01:28 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/06 (Sun) 17:08 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/06 (Sun) 10:44 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/05 (Sat) 14:48 | EDIT | REPLY |   
エミリン  

はぁ〜スッキリしましたっ!!
坊っちゃん、ステキな制裁をしてくれてありがとう✨

更新もありがとうございました。

2019/10/05 (Sat) 14:41 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/05 (Sat) 14:11 | EDIT | REPLY |   
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Re:

いえいえ、ご指摘ありがとうございます(*≧∀≦*)
その他にも色々間違えてて、もう6個ぐらい直してる(ーー;)

お節介だなんて、、いつでも歓迎です(*^_^*)

2019/10/05 (Sat) 12:51 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/05 (Sat) 12:51 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/05 (Sat) 12:43 | EDIT | REPLY |   

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