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Happyending

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追いかけよう、あいつを!

いつかは独りで飛んだニューヨーク。
あの時はあいつに追い返されて辛かったっけ。
あいつとあたしの生きる道は違うんだって思い知らされた。
本気で諦める決心をしていたあたしに、もう一度強い気持ちを思い出させてくれたのはお節介な友人たち。今回だって、みんなは全てを知りながら黙って見守ってくれていた。


「所長!あたし、今すぐニューヨークに行きたいんです!」

いきなり事務所に飛び込んでそう叫んだつくしに、事務所の所長である椎名はポカンとしてそれから噴き出した。

「いきなりどうしたの?」

つくしは公立高校を卒業してからずっとこの事務所でお世話になっている。日中働きながら夜間大学に通うことができたのも、司法書士の資格を取ることができたのもすべて所長のおかげだ。その所長の恩を仇で返すことになる...それでも......

「大切な人がいるんです。」

椎名が目を丸くした。

「もう、離れたくないんです。だから.....」

じっとつくしの瞳を覗き込んだ後、椎名は「なるほど...」と呟いた。


これまでのつくしは何でもどん欲に吸収しようとしていたが、そのどれも本当に彼女がやりたいことのようには見えなかった。それでも元々努力家なつくしは、昼間は事務所の手伝いをしながら夜間大学へ通い、家族を支えるために手に職をつけようと司法書士の資格をとった。すべては自分の為というよりも家族のため。つくし自身が何かを強く望んだことなど今までなかったのだ。
今日、こんなにも自分の希望をはっきりと口にするつくしを、椎名は初めて見た。

「大切な人...かぁ。もしかして、ここも辞めてしまうのかな?」
「申し訳ありません。」

すこしだけおどけたような椎名の言い方だったが、つくしはしっかりと頭を下げた。
記憶を取り戻したつくしには、司と結婚することの重みは十分に分かっていた。
ここでの仕事を続けながら、道明寺司の妻に徹することは難しい。彼の住む世界はそんなに甘い世界ではないから。

「残念だけど仕方がないみたいだね。」
「本当にすみません。」
「いや、いつかさ、こんな日が来ると思ってたんだよ。思ったよりも早かったけどね。」
「・・・えっ?」
「だって、若い女の子だよ?いつか結婚もするだろうし、事務所を辞めるんだろうなって、智子とも話してた。」
「智子さんと?」

智子は椎名の妻で、現在6歳になる長男を育てている。
夫婦が長男を授かったのは、丁度つくしが高校を卒業する年だった。
晩くに授かった一人息子で、智子は子育てをしながら事務所の手伝いをしていたのだが...

「あいつも司法書士だからさ。つくしちゃんがいなくなったらまた私がまたフルで働かなきゃ...なんて言ってたけど、それが現実になっちゃったなぁ。・・・ま、そういうことだから、うちの心配はしなくていいんだよ、つくしちゃん。」

「所長.....」

つくしが一番申し訳なかったこと。
自分を育ててくれた所長の元を、自分勝手に去ることは出来ないと思っていた。
けれど、その心配を椎名は一蹴してくれた。

「幸せになって。」

「はい。」

つくしは恵まれていたのだ。
辛い時にはいつも、手を差し伸べてくれる人がいた。




つくしはもう一度大きく頭を下げると、振り返り、また走り出した。


ニューヨーク行きのチケットを取らなきゃ・・・
あっ・・パスポートっ!

ピタリを足が止まる。

以前にカナダに行くために作ったパスポートの期限はとっくに切れている。
その後は海外に行く余裕なんて無かったから、つくしはパスポートなんて持っていない。

うそ・・・
絶望で目の前が真っ暗になった時、


___パッパッパー!!

派手なクラクションを響かせながら、真っ赤なポルシェがつくしの真横に滑り込んできた。


「つくしちゃんっ!」

「お姉さんっ!?」

現れたのは司の姉の椿。
楓から司がまたつくしに惚れこんでいる様だと聞かされ、ずっとつくしに会いたいと思っていた。
けれど、なかなか司が会わせてくれないものだからこのタイミングで飛んできたのだ。
しかも椿はつくしがつい先ほどまで司の記憶を失っていたことを知らない。


「あーん、つくしちゃん、お久しぶり。司のバカがまた、つくしちゃんと付き合ってるって聞いたら、いてもたってもいられなくて・・。ごめんなさいね、あのバカ、散々つくしちゃんを悲しませたくせに・・。もう、何発でも殴ってやったらいいんだからねっ。だけど、本当に嬉しいの。つくしちゃんが私の妹になるのね。私、涙が出ちゃうわっ!!」

椿は力いっぱいつくしを抱きしめた。
司が記憶を無くし渡米した時、「つくしちゃん、ごめんなさい」とつくしと一緒に泣いてくれた人。
そして、今は、二人のことをまた喜んでくれている。


「お...お姉さんっ...ぐるじい.....」

「あら、また痩せたんじゃないのっ!お夕食、まだでしょう?どうする?赤坂に行きつけの店があるの。イタリアンはどう?」

「いえ、あたし.....」

「やっぱりお寿司がいいかしら?日本橋にいいところがあるわっ!そこにしましょうっ!」

「違うんですっ、お姉さん!」

「あら、フレンチ?」

つくしはフルフルと首を横に振った。


「あたし、ニューヨークに行きたいんです!!」

「・・・・・・・え?」


目を丸くする椿に、つくしが身振り手振りで説明をすると、
椿は驚きつつも頷いて、「任せて」と自信たっぷりに笑い、
つくしをポルシェの助手席に押し込んだ。






***




司は、今夜、ホワイトハウスに呼ばれている。
米国大統領はホワイトハウスに多くの企業家を集めることでも有名だ。
今回は通信関連企業のトップが集まることになっていて、最近通信子会社を買い取った道明寺HDもその内輪のパーティーに呼ばれていた。
道明寺HDは今、通信事業拡大のために大手との提携を模索しているところだ。その提携先の候補がアストン社で、米国通信事業で1-2を争う巨大企業。

アストン社との提携条件の交渉も難航が予想されるのに、総帥が言う様に、娘の話を引き合いに出されでもすればまた厄介だ...と司は、ネクタイを締めながらため息を吐いた。

しかもホワイトハウスで行われるパーティーは家族同伴が当たり前で、先方が娘を同伴する可能性は非常に高い。

「姉貴はどこ行ってんだよ。」
「急用だそうでして...」
「ったく、今日のこと話してあったんだよな?」
「確かにご予定を確認したはずなのですが...」

面倒なことにならないようにと急だったが椿に同伴を頼んだはずなのに、突然急用で行けなくなったと連絡が入った。なので司は今日、一人で参加するしかない。

「牧野はどうしてる?」
「SPからは特に変わった報告はありません。」
「そっか。」

ほっとして、すぐにでも会いたいと思う。
けれど、まだ総帥に完全に認められたわけでなく、通信関連の提携も決まっていない状況で、すぐには日本に帰国できそうにもない。

「はーっ。ホワイトハウスなんて行ってる場合じゃねーよ。」

いくらアストン会長も出席するからと言っても、ホワイトハウスでビジネストークばかりを繰り広げる訳にもいかない。結局は相手に懐を探る、司にとっては神経が磨り減る時間を過ごすだけだ。提携話なら、実務者同士の話し合いをもっと具体的に進めたいところだが、それがなかなかうまくいっていなかった。

「仕方ねぇな。」

グッと拳を握りしめ、反対の掌に気合のパンチをすると、司は立ち上がった。





ホワイトハウスに招かれたのは、企業のトップとその家族たち。
表向きには交流会というものだ。

司は濃紺の細身のスーツ姿。
シルクのネクタイは、ブラックバカラという黒薔薇の色。

天然の黒薔薇はトルコの一部でしか自生せず、希少性が非常に高いという。
黒薔薇といっても真っ黒ではなく、限りなく黒に近い濃赤色の薔薇。
そのイメージから『憎しみ』という花言葉もある一方で、『永遠の愛』という意味ももつ珍しい花。


そして、もう一つ...

ブラックバカラ
   ___あなたは私だけのもの

そんな意味もある、奥深い薔薇だ。




厳重なセキュリティーチェックを終え、司はパーティールームへ足を進めた。

中庭に繋がる大きな掃き出し窓の前。

司の目に飛び込んできたのは、真っ赤なドレスを身に着けた女の後ろ姿。
その色は、深紅に黒を一滴垂らしたような、彼のネクタイと同じ濃赤色。
サイドに流した長い黒髪。ホルターネックの華奢な背中。細い手足。


「牧野.....」


思わず呟いたその一言に反応して、彼女が振り返った。


どんな時も司を魅了する大きな黒曜石の瞳。
かぶりつきたいぐらいに可愛い真っ赤な唇。
そして、彼女の胸元には......
土星を模ったネックレスが光っている。



「なんで、お前...」

「へへっ......来ちゃった」


つくしが恥ずかしそうに笑った。




ここは大統領官邸。
セキュリティーはアメリカ随一のはずなのに、彼女が何故かここにいる。
その理由はもう、後回しだ。


司は大股で走り出し、
あっという間に彼女の小さな体をすっぽりと抱きしめた。





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Comments 6

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拍手コメ まぁ●様
なるほど...。ではPCなのですね。えっと、疑問に思われていることは使われる予定のブログサービスによっても異なるのかな?という前提ですが。私はFC2ブログなのですが、登録先は一つです。例えば、コメントを頂いたりとかした時に、登録のアドレスに通知がきますよ。それで、携帯のアドレスでブログ登録も出来るんじゃないでしょうかね?今リレーを一緒にさせてもらっているマスター様たちも、携帯で書かれているので。どのアドレスで登録しても、PC・携帯・タブレットどれでも管理画面に入れると思います。

それから、メリーゴーランドにリクエストありがとうございます(*^^*)
私も一部頂いたリクから拾い上げる予定です。元々書こうかなと思っているところがあるので、そこに混ぜようかな~って感じです!ほんとありがとうございます。バカラを終わらせてから書きたいので、もう少しお待ちくださいね~(*^^*)

2019/10/11 (Fri) 19:00 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
こんばんは(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます(*^^*)
つくしちゃんNYに飛びました!詳しい説明は・・次回になるかな?

さてさて、
スリ●様
早々にコメントありがとうございます。そうっ、この椿さんはちょっとドラマの椿さんっぽいかもですね(笑)。あ、読み応えありました?良かったです(*^^*) 続きもぼちぼちかんばりまーす!

み●様
本当に、ナイスアシストです(≧◇≦)!! さすがは椿さん! そして、みんなの協力の元、Happyendへ向けて頑張ります('◇')ゞ

花●様
『来ちゃった・・』なんて言われたら、ズキューンだったでしょうね( *´艸`) ブラックバカラ・・あなたは私だけのもの・・・ お互いに濃赤色でコーディネート(*^^*) 最強の二人になりますように!

みみまま様
そうなんです。ブラックバカラは黒薔薇の一種。黒い薔薇は実際には存在しなくて、黒に近い濃赤色。このお話のテーマは『あなたは私だけのもの』・・これをブラックバカラに掛けたタイトルでした(*^^*)


ではでは。続きがんばりますね~。
早く終わらないと、イベントのスピンオフも待っている・・(;・∀・)ギャッ

2019/10/09 (Wed) 22:04 | EDIT | REPLY |   
みみまま  

きちゃった〜💞

ブラックバカラの意味を調べたくて最初
ウズウズしてたのですが、きっと教えて下さる
だろうと楽しみに待ってました‼️


いつも素敵なお話ありがとうございます。

2019/10/09 (Wed) 19:48 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/09 (Wed) 11:42 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/09 (Wed) 09:49 | EDIT | REPLY |   
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2019/10/09 (Wed) 07:19 | EDIT | REPLY |   

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