FC2ブログ

Happyending

Happyending

「どうしてここにいるんだ?」


本場アメリカらしいジャズピアノの生演奏に、立食形式の食事が用意されたアットホームな交流会。
司はつくしの細い腰に腕を回し、優雅にフロアをエスコートしながら、彼女の耳元に囁く。
くすぐったい...と笑うつくしの可愛らしさに、司は今すぐここを立ち去りたいぐらいに浮かれた気分だ。

牧野がここに来てくれた...
これが嬉しくないわけねぇだろ?


「あのね。お姉さんが連れて来てくれたの。」
「姉貴が?」

どうやらこのサプライズは、本来なら司のパートナーをするはずだった椿の策略らしい。

「このドレスも姉貴か?」
「うん。」
「露出多すぎだろ。」
「そう?これぐらいが丁度いいってお姉さんがね。」

ぱっくりと開いた背中にスラリとした細い手足。
濃赤色のシックなドレスはホルターネックタイプで、緩くウェーブのつけられた黒髪がわざと左サイドに纏められ背中が強調されている。
サイドに纏まった黒髪は胸元に流れ、そこには、かつて司がプレゼントしたネックレスが輝いていた。
司が自分でデザインしオーダーしたものだが、当時の若さが滲み出ているような気がして、少し照れくさい。

けれど、今、彼女がこれを身に着けている意味。
それは一つしかない気がした。




大統領夫妻の乾杯の挨拶の後は、また一層華やかになったパーティールームを、つくしを連れ、流れるように挨拶を交わして歩いていく。

アストン会長の姿も見えた。一緒にいるブロンドヘアの女性が娘なのだろう。

「ご無沙汰しております、アストン会長。」
「こんばんは、司君。」
「あら...あなた、先ほどの...」

令嬢がつくしを見てにこやかに笑う。
つくしは司が到着する前に令嬢とトイレで顔を合わせていた。
片言の英語でやり取りをした、その時のことを思い出したつくしは、恥ずかしそうに司の腕を掴んだ。

「こちらは.....?」
「いやだわ、パパったら。道明寺さんの婚約者の方よ。ほら、あの指輪見て。素敵でしょ?さっきお見かけして、素敵だわってお話していたところなの。ね?」

婚約者...の言葉にアストン会長がわずかに眉間に皺を寄せ、つくしは流暢すぎる英語が聞き取れずにあいまいに笑った。どうやら下心があるのは会長だけだったらしく、令嬢はとても好意的だ。

司は令嬢の発言の意味がさっぱり分からない。

「この指輪は彼のお母様から譲り受けたものなんですって!どなたのことかと思ったら、道明寺さんだったのね。本当に素敵だわ!」

司が目を丸くして、ここに来て初めてつくしの左手持ち上げると、


「お前、これ・・」

目にしたのは、つくしの左手に嵌められたダイヤモンドの指輪。
細身ではあるが、グルリと一周ダイヤが埋め込まれ、一目見ただけで最高級グレードだと分かるもの。


出国前に俺が渡したのはピンキーリングだったはずだ。
あれが気に入らなかったとしても仕方ねぇ。
けど、他の指輪を薬指に!?しかも左手だと!?

司は湧き上がる嫉妬を抑え込むのに必死だったというのに、


「ああ、これね......へへっ」

つくし何故か嬉しそうに、薬指を見つめて微笑んだ。







**




「君が牧野さん?」
「はい、牧野つくしです。」
「私たちに話とは何かな?」


ニューヨークウエストチェスターにある道明寺邸。
椿に連れられ、気づけばプライベートジェットに乗っていた。
ジェットの中では頬っぺたが落ちそうなフレンチをご馳走になりながら、夢のような気分で椿との会話を楽しんだ。話をしながらいつの間にか眠っていたようで、気づいた時にはもうニューヨーク。
車に移動し、延々と続く外構から自動開閉の門を潜った時、つくしはやっと夢からさめたような気がした。

17歳でこのお邸に来た時には、悲しくてこの場所を飛び出した記憶がある。
今回は覚悟を決めて来たとはいえ、緊張するなというのは無理な話だ。
しかも今、重厚な応接室に通されたつくしの目の前には、司の両親がゆったりと座っているのだから。
相変わらず無表情な司の母親と、初めて見る父親。司の父親の髪が司のそれとそっくりだったことが、つくしの緊張を少しだけ解いてくれた。


すぅっと息を吸い込んだ。

「司さんとの結婚を認めて頂きたいんです。」
「司に何か言われたの?」
「え....?」

つくしは首を捻った。
司からは何も聞いていなかった。
けれど、今の総帥の反応を見て、司はいい返事を貰えなかったのだと気づいた。

それも当然かも知れないが、それでも、諦める訳にはいかない。

「道明寺からは何も言われていません。私が勝手にこちらへお邪魔したんです。」
「どうして?」
「お伝えしなきゃと思って...。私、どんなに反対されても、彼のことを諦めません。諦められないんです。足りないものは補う努力をします。ですから、どうか私を認めてください。」

失って初めて気づいた。
どんなに好きだったか。だから諦められる訳がない。
あんなどん底の世界はもうごめんだ。

「君が飛び込もうとしている世界は、中途半端な気持ちでは渡っていけないよ。司は君を守ろうとするだろうが、多忙なあいつはきっと守り切れない。君自身が強くなければ、この道明寺家の嫁は務まらないよ。脅しじゃない、それが現実だ。」

君が強くなければ・・・
そう、私が強くければ・・・

「彼に守ってもらおうなんて思いません。どんなに辛くてもいいんです。あいつがいない世界で生きていくより、どんなに苦しくてもあいつがいる世界で生きていきたいんです。だから、負けません。どんなことがあっても。」

道明寺がいない世界はもう嫌だ。
悲しくて、苦しくて、いつになっても光は見えなかった。
だからあたしは、今度こそ絶対にあいつの手を離さない。


力強いつくしの言葉に、楓は『あぁ...』と納得した。
6年前、自分に啖呵を切った女性もこんな強い目つきをしていたことを思い出す。

「牧野さん....、あなた、記憶が戻ったのね。」
「はい。昔、反対されていたこともちゃんと覚えています。」
「それでも、司がいいの?」
「一度は諦めようとしたんです。でも諦められなかった。あの頃実らなかった恋に執着しているんじゃありません。記憶を失っても、私はやっぱりあいつを好きになった。もう、どうしようもないんです。道明寺じゃないとダメなんです。」

記憶を無くした司は女性に興味を抱かず、道明寺の直系は司で絶えることも覚悟していた。
パーティーで司が興味を示した女性を覗きに行けばまた彼女で、楓はもう笑うしかなかった。
もう、理屈じゃないのだろう。けれど知りたい。
司はどうしてこの牧野つくしという女性に惚れるのか?

「牧野さんは司のどこがいいのかしら?見た目?地位?財産?もしもそういうことなら、私が条件のいい男性を紹介してさしあげますから、司と別れてくれと言ったら?」
「それはできません。」
「どうして?」

愚問だと分かっている。
自分の息子に地位や財産以外の魅力がないとは言わないが、彼女は息子に何を求めているのだろう。
楓すらも苦しんだこの世界は、後ろ盾のない彼女にはきつい世界であることは間違いないというのに。


「あいつ...道明寺は、ちょっと変なんです。」
「変?」
「私なんて、可愛くもないし綺麗でもないのに、あいつの近くにはもっと綺麗な人は沢山いるのに、それなのにあいつは私のことが世界一可愛いって言うんです。」
「つ、つくしちゃん!?」

つくしの隣に座っていた椿がぎょっとするのを見て、つくしは『大丈夫です...』と笑った。

「私と一緒にいると幸せだって。こんなに幸せだったことは今まで一度もないって言うんです。そんな男を放っておけますか?あいつは、私がいないと幸せになれないって言うんです。」

つくしがニッコリと笑った。

楓も総帥も苦笑いだ。
自分たちの息子は彼女にとって変な男らしい。
司には何不自由のない生活をさせてきたつもりだ。英才教育を受けさせ、困らないだけの金を与え、不祥事は揉み消し、学生時代は自由にやらせてきた。そんな何不自由ない生活よりも、どんなに大変でも彼女と一緒にいることが幸せなんだと言われてしまえば笑うしかない。

「それに困ったことに私も同じなんです。あいつが隣にいてくれたら、他には何もいらないんです。」

そうか...、そういうことなのか。
ただ共にある温もり。
何物にも満たされることのなかった司の孤独を癒すことのできる唯一の人。
その人が傍にいるだけで強くなれる、かけがえのない存在。
それが、司にとって彼女なのか。

彼女を忘れた司は孤独だった。
それでも、いつか誰かに心を開けばいいと願っていたが、彼を癒せる存在はこの世には一人しかいないらしい。


「6年前、道明寺は私のために家を捨てると言いました。」
「ほぅ...」

総帥が興味深そうに身を乗り出した。

「でも、あの事件で記憶を無くしてしまった。」
「あの時、司を渡米させたのは私の判断です。間違っていたとは思っていないわ。」

あの頃は道明寺家なんてクソくらえと思っていた。
けれど、ぐっと成長して大人になった司を見て思う。
やっぱりあいつは財閥の御曹司で、俺様で我儘で.....、悔しいけどそれが似合い過ぎている。
あの頃はバカ坊ちゃんだと思ったけど、再会した司は実力を伴い、眩しいぐらいに輝いていた。
あの時家を捨てていたら、あいつはこの輝きを失っていた。

「今は、これで良かったと思えるんです。あいつはやっぱり道明寺司で、この家から出るなんて所詮無理だったから。あのまま二人で逃げたとしても、きっとあいつは気付いたと思います。自分が何をすべきか。」

賢い女性なのだと、総帥は思った。
この女性は、自分のことよりも司を一番に考えてくれる。
自分の息子は、そんな懐の深い彼女に惚れたのだ。


「今なら二人は一緒にいられると思うのかな?」
「はい。この財閥を背負ったあいつと幸せになりたいと思っていますから。それに...」
「それに?」
「あいつを幸せにできるのは私しかいません。」


つくしが総帥にしっかりと視線を合わせると、総帥は満足気に頷いた。

「逃げることは許さないよ。」

「絶対に逃げません。」

実際のところ、司の女嫌いには手を焼いていて、少し前までは内孫は諦めなけばならないと楓と話していたのだ。その司が「結婚したい女性がいる」と言い出したこと自体が奇跡。反対をするつもりはなかった。ただ、この先辛い思いもするであろう彼女の覚悟が知りたかった。

もう、十分だ。


「牧野さん、あなたをこの家に迎えよう。私たちはあなたを歓迎するよ。」

「ありがとうございます。」


思いっきり頭を下げると、急に緊張が解け力が抜けた。
ふらつきかけたつくしに、

「つくしちゃんっ、おめでとう!」

と、椿が飛びついた。
その目には、うっすらと涙が溜まっていた。


「それじゃあ、行きましょう!では、お父様、お母様、これで失礼します。」
「え...お姉さん、どこに行くんですか?」
「司のところに決まってるじゃない!もぅ、つくしちゃんたら!」
「道明寺は仕事なんじゃ......」
「乗り込むのよ!任せてっ!」

椿がつくしの腕を引き立ち上がらせた。
行き先は、椿が同伴する予定だったホワイトハウス。
そもそも、椿が急遽日本に飛んだのは、このパーティーにつくしを連れ出すため。
実はパスポートもそのために手配していた。夕飯を食べてからジェットに乗り込むつもりだったが、つくしの方からニューヨークに行きたいと言われ、飛び上がる程嬉しかったのだ。


「あの...それでは、失礼します。また、改めて参ります。」

「お待ちなさい。」

今にも部屋を飛び出そうとする二人を呼び止めたのは楓。
楓は立ち上がり、つくしの左手を見つめた。

「牧野さん、それは?」

つくしの左手薬指には、司が嵌めたピンキーリングがあった。
その太く存在感のあるリングは、つくしの細い薬指にはアンバランスで妙に目立っていた。

「これは...その......」
「それでは流石に恥ずかしいわ。こちらを使いなさい。」
「.....え?」

楓が手にしていたベルベットのケースを開けた。
中にはぐるりとダイヤモンドが嵌め込まれた細身のリングが収まっていて、一つ一つのダイヤが眩いばかりに輝いていた。

「あの...?」

つくしがきょとんと楓を見つめると、楓はさっと視線を逸らす。
そんな楓の態度を総帥が笑った。

「楓も素直じゃないなぁ。牧野さん、それは道明寺家に代々伝わる婚約指輪だからね。きちんと嵌めて行きなさい。」
「えぇっ!婚約っ!?」

今更だというのに思わず叫んでしまったつくしに、楓がシラッと目を細めた。


「あなたには色々と学んでもらうことが多そうね。覚悟していらして。」

つくしは姿勢を正した。

6年経っても、あいつより他に欲しいと思ったものはなかった。
だから、司と一緒になるためにはどんな努力も厭わない。

「頑張りますっ!」

片手でガッツポーズをしたつくしが、今度こそ椿に引きずられるように部屋を出て行った。







「やれやれ、これから賑やかになるな、道明寺家は。」
「あなた、長生きなさってね。私一人では手に負えませんから。」
「君にそんなことを言わせるなんて、彼女はやはり只者ではないな。」


溜息を吐いた楓に、総帥が優しく微笑んだ。




にほんブログ村

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
Happyending  
こんばんは(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
関東から東北では河川の氾濫があり、今も眠れない夜を過ごされている方もおられるでしょう。
一日も早く、日常が取り戻せますように...。

こちらブラックバカラも残り1話となりました。
どんなラストにしたらいいのか...すでに書きたい場面は書きつくしてしまったのでなかなか筆が進みません...。
ですが、明日にはFinを打ちたいと思っています。

スリ●様
今散々悩んでラストを書いています。絶対に書き終わらすぞっ!!眠いけど...頑張ります!!

花●様
そうなんです、司置いてきぼり・・(;^_^A ラストは幸せいっぱいにしてあげたいんですけど...。ベースが記憶喪失だったからかなかなか纏められません(-_-;)

二次●様
台風は大丈夫でしたか?私の住む関西は台風の西に位置したため、報道ほどの天候の荒れもなく、警報はでたもののほぼ通常通りの生活ができました。どうぞ皆さまご無事でありますように・・


では、もう少しがんばります!

2019/10/14 (Mon) 01:00 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/10/12 (Sat) 11:25 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/10/11 (Fri) 20:41 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/10/11 (Fri) 19:37 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply