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Happyending

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「行ってらっしゃい。」

玄関で、私が声を掛けると、彼はちらっと振り返り、

「今日は昨日ほど遅くはならない。」

そう言って、じっと私を見つめた。

......え?
何だろう?
昨日の夜......あっ!?


そうだ、昨夜は・・・
彼の帰宅が深夜0時を回って、「遅くなるようなら先に寝てくれ」とは言われてたけれど、それも与えられた自分の部屋で眠るのか、彼の部屋で眠るのか...なんて、そんなことを考えていたらいつの間にかソファーで眠ってしまっていた。気づいた時には彼のベッドに運ばれていて、彼はもう私の上にいて.....。慌てたのも一瞬でそのまま翻弄されて......なんだかんだ言って私たち、結婚してから毎晩.....だよね?

ま....待ってろってことかな、これって。

私が返事にマゴマゴしているうちに、彼は私から視線を外し、リムジンへ向かって歩き出してしまった。

「あのっ」

何か言わなきゃと思ったの。でも何て言う?
やだっ、またじっと見てるよ。
この探るような視線に、私はいつもドキドキする。
と、とにかく、返事をっ・・・

「.....待ってます。」

私がそう言うと、彼は少しだけ眉毛を上げて、それから、

「ああ。」

とだけ言い、すぐに踵を返して、車に乗ってしまった。






***




「つくしさん、これは?」
「あ、これはこっちのデータを入力してね。」

「つくしさーん、この生地はどうすればいいですかー?」
「それはこういう風に....ね?」

「つくしさんっ!」
「はーい、ちょっと待ってー。」


司さんを見送ってから、バタバタを支度をして、私は勤務先に向かった。
途端にあちこちから声が掛かる。
私はこのアパレル会社で販売部門のチーフ兼デザイナーとして働いていた。

この活気ある職場が好きで、デザインの仕事なんて考えたこともなかったのに、いつの間にか独学で洋裁を学び、今はデザイナーとしても仕事を貰っている。


お昼になり、部長の春子さんに呼ばれた。

「お疲れ、牧野。」
「お疲れ様です、春子さん!」

部長は職名で呼ばれるのを好まないから、私はいつもこう呼んでる。
私もみんなから「チーフ」ではなく、「つくしさん」と呼ばれているのもその影響だ。

一緒にランチをとりながら、春子さんがしみじみと言った。

「まさか牧野が寿退社とはねぇ...」
「急なことで本当にすみません。」
「仕方が無いわよ。お相手は海外での仕事が多いんでしょ?」
「........はい。」

この結婚を機に、私は会社を辞めることになった。
とんでもなく急な話だ。社会人として非常識な退職。
だけど、司さんがそこは譲らなかったから。

「もう仕事はしないの?」
「いえ、個人的にお仕事を頂けるなら続けたいと思ってます。準備が必要ですが。」
「そう、それなら良かった。牧野、あなたにはこの仕事が合ってるわ。どんな形でも続けて欲しい。」
「はい。」

椿さんの様に、私の作る服が好きだと言って下さる個人のお客様もいる。
その方たちをメインに、一人でできる範囲で仕事を続けたいと思っている。
そのことには、司さんも反対していない。


「けど、どうしてお相手を紹介してくれないのよぉ。水臭いわ。」
「彼が...紹介とか苦手で.....」

それは実際には嘘だったりする。
だって彼は、この会社に挨拶に来ると言っていたぐらいだから。
だけど、それは辞めて欲しいと私がお願いしたんだ。
目立ち過ぎるし、それより何より、マスコミも「妻は一つ年下」だとしか公表していないっていうのに、どうしてここに来れるのよ。一発でバレちゃうじゃない。


「あー、でも、私はてっきり、牧野は花沢専務と一緒にフランスに行くんだと思ってたのよねぇ。だから、デザインの仕事も最近セーブしてたでしょ?違う?」


・・・・・・。

ここは類が専務を務める花沢物産の子会社で、私は初め、花沢の社員としてここに出向した。
そこからデザインの仕事が好きになり、この会社に異動したんだ。
類は私の大学の先輩で付き合いも長く、たまにこの会社に顔を出すこともあったから、みんなも良く知っていた。

「る...いえ、専務とはそう言う関係じゃ...」
「あら、言い難そうね?」

類の渡仏が決まった時、彼から『一緒に行かないか?』と誘われた。
『メゾンの仕事を見るのもいい経験だよ。』そう言われれば心が少しだけ動いたのは事実。

だけど、私はそれを選ばなかった。
ううん、その選択肢は1週間前にはっきりと消えた。


「花沢専務と牧野って、空気感が同じって言うか、お似合いだと思ってたんだけどなぁ。」
「ちょっと、やめて下さいよ。専務に失礼です!」
「だって、みんな言ってたわよ。牧野は専務の恋人なんじゃないかって。」
「......違いますっ!」

それは本当に違う。
だけど、私だってもう子供じゃない。
類がフランスに誘ってくれたのは、そういう意味も含まれてたと思う。

でも、私は・・・・


「牧野、あなた、幸せなの?」
「え?」
「結婚して、幸せ?」


幸せ?
愛のない、この結婚が幸せ?

分からない。
だけど、決して不幸なんかじゃない。
だって、これは私が自分で決めたこと。


黙ってしまった私の肩を、春子さんはポンと叩いた。

「詳しくは聞かないわ。でも、あなたには幸せになって欲しいのよ。何かあったら相談にのるから。いつでも連絡しなさい。」



そして、私はこの日、7年間務めた会社を退職した。
突然のことで大変な迷惑をかけたのに、笑顔で送り出してくれるみんなには感謝しかなかった。
花束とプレゼントに入った紙袋を渡され、みんなに見送られながら、私は会社を後にした。




お邸についたのは、夜8時半。
頂いた花束をメイドさんに預け、部屋のドアを開けると・・・

「あっ...」

司さんが、長い足を持て余す様にして、ソファーに座っていた。
こんなに早い時間に帰宅したことなんて、これまで一度もなかったのに。

「ごめんなさい。遅くなって.....」

『待ってます』と約束したくせに、彼を待たせてしまった。

どうしよう.....
怒られる?


まだ何も言われていないのに、ビクッと肩が震えてしまう。
だって、本当に凄いオーラなのよ、私の夫になった人は。
だけど、次に聞こえたのは、意外な言葉だった。

「メシは?」
「え?」
「晩飯。」
「いえ、まだです 。」
「じゃあ、行こう。」


司さんが私の前を横切って歩き出した。
彼について行くと、いつものダイニングとは違う個室に案内された。
丸いテーブルにピンク色レースのクロス。
中央には小さなキャンドルと水色の可愛いお花。


促されるように着席すると、すぐにオードブルが用意された。
たぶん...じゃない、確実に彼が準備してくれたディナーだ。


「一口飲むか?」
「じゃあ、少しだけ。」

彼は私がアルコールに弱いことを知っている。
だから、フルート型のグラスに少しだけシャンパンを注いでくれた。


「「乾杯」」


結婚して初めての二人きりのディナータイムだった。
会話はこれと言ってなくて、「美味しいですね」とか、「お仕事早かったんですね」とか、私ばっかりしゃべっていた。

そして、最後のデザートが用意された時、
司さんが立ち上がり、「少し待っていてくれ」と席を外した。

戻ってきた彼の手にあったのは、真っ赤な薔薇の花束。


え?・・・・何?


「退社記念だ。」


退社記念に赤い薔薇・・・?
まるで、プロポーズみたいだよ?


私も慌てて立ち上がり、差し出された花束を受け取ると、
彼はスーツの胸ポケットから、ベルベットの四角いケースを取り出した。


「それから、遅くなって悪かったな。」


彼がケースの蓋を開けると、そこにはペアのリングが収まっていた。
何度も瞬きをしながら、固まったままの私。


司さんは私の左手を取り、ダイヤが埋め込まれたリングを薬指に通した。




突然の、愛のない結婚。
結婚式も、指輪もなくて当たり前だと思っていた。

なのに・・・


「ありがとう.....ございます。」


嬉しかった。

そこに愛はないと分かっていても、幸せを感じた。



だって本当は、

私は、彼のことを、
ずーっと前から見つめていたから。




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Comments 10

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こんにちは(*^^*) ②

ka●様
次を読んでいただくと、なんとなーくわかってくるのかな?と思います。
どうでしょうか??
そうそう、息子は翌日には元気。でもちょっと咳っぽいですかねぇ。
今日も元気にサッカーです(;^_^A

てん様
...あはは!
この不思議な二人に嵌りましたか?(笑)
でも大丈夫、だんだん二人のジレジレラブ度も上がって行く予定?ですww
お楽しみに(*^^*)

花●様
ぎっくりーっ!!大丈夫ですか??
私も腰痛持ちだから... 最近筋トレしているからか、ちょっとマシかもです。
訳アリな二人のジレジレ具合を...ジレジレしながら傍観して頂きたいです( *´艸`)ププッ

二次●様
そろそろ訳アリが分かってくるかなぁと思います。
司は...もちろんLOVE(笑)。大人設定で、かっこいい司を目指したい!!・・けど、どうかな?(笑)

みみまま様
はい、つくしちゃんも好意を抱いているんです。
その辺も設定書かなきゃ!!(笑)


さて、また今から出掛けますが、続きも頑張りたいと思ってます!!
それではまた~(*^^*)

2019/11/03 (Sun) 12:21 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
こんにちは(*^^*) ①

いつもたくさんの応援をありがとうございます(*^^*)
いまさっき、3話目をアップしたところです。
お返事が後手後手で、いつもながらスミマセン(;^_^A

スリ●様
まだまだクエスチョンマークがいっぱいでしょうか?この3話目を読むと、なんとなーくわかってくるのかな...と思います。ここから少し、1週間前の出来事を書くつもりで頭を回転させています。ジレジレ..(笑)。つい最近、どこかで読んだような?(笑)。夫婦としてやることやってる上でのジレジレ感を、是非楽しんでください( *´艸`)

ふぁ●様
あっ、こちらもジレジレしていましたか?(笑)。ふふふ、なんとなく当たっていますか?
ゾロ目の日、いいことありましたか?
私はこの連休、毎日子供たちに振り回されています。車だしばっかり..(;^_^A
運転苦手なので、肩凝り最悪です...( ;∀;)

すず●様
わぁっ...引っ越しまで...( ;∀;)
うちは両親の協力はなかったんですが、主人が割と頑張り屋さんで、だいぶ助けてもらっていたなぁ...。
さて...、3話目にしてやっと司視点です。やっぱり?な展開に、ほっとされる方も続出でしょうか?(笑)。
この先を書きたいのですが、とくにパラレルは設定書かなきゃなので困ります(;^_^A
でも、私は常に司の味方(笑)。頑張りまーす(*^^*)

2019/11/03 (Sun) 12:11 | EDIT | REPLY |   
みみまま  

つくしちゃんもLoveなのね〜‼️

想像力が貧相な私には、妄想が膨らみます。
またお待ちしてます。

2019/11/01 (Fri) 21:38 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/01 (Fri) 19:29 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/01 (Fri) 15:33 | EDIT | REPLY |   
てん  
天才です(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

なーにーこーれーっ(´༎ຶོρ༎ຶོ`)
一気に2人の世界に御招待ですよ!
たまらんばい(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

2019/11/01 (Fri) 14:21 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/01 (Fri) 11:21 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/01 (Fri) 09:10 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/01 (Fri) 08:10 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/01 (Fri) 07:10 | EDIT | REPLY |   

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