FC2ブログ

Happyending

Happyending

ベッドの中、しっとりと汗ばんだ妻の体を抱きしめた。

深紅の薔薇の花束は、あの時言えなかったプロポーズの代わりだ。
『好きだ。俺の妻になってくれ』そう言えたらどんなに良かったか。
ただ、それじゃあ、こいつを手に入れることはできなかったはずだ。
告白しただけで、簡単に結婚に踏み切るような女ではないから。


「そうだ、今日、お前の両親をうちのマンションに案内した。」
「..........え.....?」

情事の後、いつものようにぼんやりとしたこいつは本当に可愛い。
こうなるまでは一歩引いた態度をとっているが、二人昇りつめた後は、コテッと脱力して完全に俺に体を預けてくれる。
深い眠りに落ちる前の、このトロン...としたこいつが、俺は堪らなく好きだ。


「管理の仕事も頼んだし、マンションにはSPも付けた。弟の方も、特に問題なしだ。」

左足の骨折の手術を終えた彼女の父親を、用意したマンションに案内した。
当然母親も、そして大学の助手をしているという弟も、そこに一緒に住むことになった。
彼女との結婚を報告したのはまだ入院中の病院で、両親は相当驚いていた。
これまで恋人を紹介されたこともなかったらしく、俺んちのような特殊な家に嫁ぐとあって、両親、特に父親は滅茶苦茶心配していたが、最後は彼女の一言に納得してくれた。それは.....

『ずっと前から好きだった人なの。』

この言葉だ。
本心じゃねぇ...そう分かっていても、俺の胸は震えた。




「本当に......ありがとうございます。」

いつものように申し訳なさそうに小さくなる彼女に、俺もいつもの言葉を掛ける。

「敬語は辞めろ。」
「あっ...」

しまった...って顔をして、今度は「ごめんなさい」と言った。


彼女から、もう何度「ありがとう」と「ごめんなさい」を聞いただろう。
そんな事言わせたい訳じゃねぇのに。

ありがとうも、ごめんも、言いたいのは俺の方だ。

俺の傍にいてくれてありがとう。
お前の未来を狂わせてごめん。
だけど、愛してるんだ。
出会った時よりも、一日一日その想いは強くなる。


好きだって言いてぇ。
けど、言える訳がねぇんだ。
これは契約結婚で、そこに、そんな感情がある筈はないのだから。

もし、こいつが俺の気持ちを知っていたら...?
クソ真面目なこいつは絶対にこの結婚を受けなかっただろう。
完全な契約結婚だからこそ、こいつは俺を受け入れた。

だから、言えねぇ。


あの時、こいつをフランスに行かせないために、今すぐにこいつを手に入れるためには、この契約しか手段が無かった。
そう言う意味では、俺には選択肢なんて無かったんだ。






***




____俺の妻にならないか?


何かの間違いだと思った。
てっきり......愛人関係を要求されるのではないかと、そんなことを思ってた。

「あ.....の......妻って.....?」


道明寺司という男がどういう人間なのか、知らない人はきっといない。
道明寺財閥の御曹司で、道明寺ホールディングスの副社長。
半年前に日本に帰国し、今は日本支社のトップも兼務してる。
花沢類とは幼なじみで、彼の話はよく聞いていた。それに、椿さんからも。

『司ったら、女性には全く興味がないの。一生結婚もしないって言ってるのよ。さっきまでここでコーヒーを飲んでたのなんてすっごく珍しいことよ?あっ、もしかして、つくしちゃんに興味があったのかしら!』

椿さんはそんな風に言いながら、彼の幼い頃の話を教えてくれた。
道明寺家の跡取りとして厳しい教育を受けてきたこと。ご両親は多忙で、我が子に会うのは1年に一度。そんな環境で育った彼は、学生時代とても荒れていたこと。だから、自分が家庭を作るなんていうことは全く望んでいないこと。


道明寺さんがチラッと私を見て、それからまた話を続けた。

「結婚は、一生するつもりが無かった。」

私はコクンと頷いた。それは知っていたことから。

「だが、そうすると都合の悪いこともたくさんある。」
「都合の悪いこと?」
「言い寄ってくる女は後を絶たない。」
「あの...それって、モテるって言うことですよね?別に...」

それが都合が悪いことなの?

「俺にとっては迷惑なだけだ。」
「そうですか......」

断言されれば、彼にとってはそうなのだと思った。
モテすぎるとそれが苦痛になると言うことか...と、私は納得した。

「俺に妻がいるとなれば、言い寄ってくる奴らは非常識な人間として排除することができる。」

私はまた一つ頷いた。その通りだと思ったから。
彼の言う取引の意味が、何となく分かったような気がした。


「でも、だからって、どうして私なんですか?私なんて...」

美人でもなければ、お金持ちである筈もなく、ビジネスに長けている訳でもない。
仕事上はある程度の評価を受けていて28歳でチーフに昇進した。
デザイナーとして買ってくれる人もいるけれど、まだまだだ。
努力で得たものはあっても、彼のように生まれつきの何かを持っているわけじゃない。
つまり、血筋や家柄、後ろ盾とか...そういう、彼に相応しいもの。
それに、決して悪気はないのだけれど、いつも何かしでかす困った両親もいる。

「欲がないからだ。」
「欲?」
「俺を手に入れたいとも思ってないだろ?」
「それは.....」

確かに、世の中には彼の隣に並びたい女性は沢山いるんだろう。
だけど、言い寄ってくる女性にはうんざりだと言うことらしい。
英徳大学時代だって、彼は英徳に在学していた訳じゃなかったのに、類たちと同様に人気があったことも知っていた。
だけど手に入れたいだなんて.....、思う方がどうかしてる。それ位に彼は、私とは別世界の人。


「さらに言えば、お前には選択肢はないんじゃないか?」

「えっ?」

「家族を守るために、お前に選択肢はない。俺の提案を蹴ったとして、お前はどうやって家族を守るつもりだ?俺ならお前を丸ごと守ってやれる。お前のやりたいデザインの仕事もさせてやれる。あ、だが、今の会社はダメだな。俺の妻が類のところで働いてるのは頂けない。けど、お前が自由に仕事ができるように協力しよう。俺が夫なんだ、多少のリスクは気にするな。」


なんてことを言っているんだろう、この人は。

提案?
取り引き?
・・・・・脅し?

だけど、不思議なことに、この時の私は全く嫌な気がしなかった。
愛のない結婚、契約結婚の提案をされているというのに。

それに、その自信満々な言い方も嫌じゃなかった。
この人の元で仕事を続けるという選択肢も。
類にフランス行きを提案された時は、あんなに迷っていたのに。


だって、この人は勘違いしている。
だから、思わず笑ってしまった。


「じゃあ、もしも、注文が全くこなくても安心っていうこと?」

「ああ、そういうことだ。お前が借金抱えても大丈夫なぐらいには稼いでるからな。」

「アハハ.....」


何て人だろう。
この提案はまるで夢の様な話だ。

それは、パパの事故のことでも、デザインの仕事のことでもない。

何故かって、それは・・・
あたしは、ずっとこの人に憧れていたのだから。




大学1年生の時に見た経済紙に、当時アメリカの大学生だった彼が特集されていた。

高校3年生の時に渡米し、そこから学業とビジネスの二足わらじを履く生活。
睡眠も削った生活を送っているが充実しているというインタビューが書かれていた。
当時、貧乏学生として学業とバイトに明け暮れていた私は、その記事を見て元気を貰った。

『苦痛とは思いません。全て自分のためです。』

何気ないその言葉がジン...と私の胸に響いた。
それは口先だけではなく、本当に努力している人の言葉だと思えたから。
だから、そんな彼を知って、あたしも、頑張ろうって思ったんだ。

それからずっと、彼の活躍をこっそり確認しては、自分のことのように嬉しく思っていた。
大学をスキップして卒業し、その後はビジネスの傍らMBAを取得したことも知っている。
初めての大きな仕事はカナダの資源開発で、道明寺に大きな収益をもたらしたことも。
そして彼が先導したバイオテクノロジー部門の躍進は、彼が副社長に昇進するきっかけになったことも。

彼の活躍を目の当たりにする度に、私も気合が入った。
初めは勝手に同士みたいに思っていたけれど、今ではもう、私の中では神様をも凌ぐ存在。
類から時々彼の話を聞いては、心の中でニンマリしていた。
「女嫌い」だって聞いても、嬉しく思うだけで残念だなんて思わなかった。
むしろ私も、恋愛よりも仕事を頑張ろうなんて思ったっけ。
類の誘いに返事が出来なかったのも、私が勝手に道明寺さんに憧れていたからだ。
雲の上の人だけど、私の中で類よりも大きな存在だったから。

だから、本当は、道明寺家で彼に会えた時には心臓が止まるかと思った。

やっぱりかっこいいなぁって。

コーヒーカップを持つ手付きも、無造作に髪をかき上げる仕草も、何もかもが同じ人間とは思えなかった。神様が特別に創り出したんじゃないのかな、彼のことを......そんな風に感じた。



そして今、常識ではありえない提案をされてるって言うのに、
私は迷いが無かった。

そこに愛が無くても、ずっと憧れていた彼の傍にいられるのなら。
それが少しでも彼の役に立つのだというのなら。
家族の安全までも保障してくれるのだというのなら。

・・・何を迷うことがあるの?




「どうする?」


彼が私を見つめた。
Final Answerだ。


答えは、きっと初めから出ていた。


「このお話、お受けします。」


彼が言う意味とは違ったと思う。
だけど、私の選択肢も一つしかなかった。




にほんブログ村

いつもたくさんの応援をありがとうございます(*^^*)
関連記事
Posted by

Comments 8

There are no comments yet.
Happyending  
No title

拍手コメ Lu●様
ちょっとずつハンドルネームが変わってて笑ってしまいました。拍手コメありがとうございます。ジレジレでラブラブな二人にしたいな...と思っています。また覗いてください(*^^*)

拍手コメ まぁ●様
お返事遅くなってすみません。お話の方でなかなか自分の納得いく展開が考えられずで頭が回らず...。
食洗器、直りましたよ!ホースやら何やら変えて、2万円かかりました…( ;∀;)
で、メッセージ下さっているのですか??こちらには来てないなぁ。
ブログを探してみたのですが、探し方が悪いのか見つからず...。
よかったら、ブログのURL教えて頂けたら伺います!(*^^*)
それか、FC2なら足跡を残して頂けたら、こちらから探して行けるかもです。
こちらこそ、よろしくお願いいたします(#^^#)

2019/11/12 (Tue) 22:45 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
こんばんは(#^^#)

スリ●様
同じでしたか?ww つくしちゃんのこの時の気持ちとしては、『好き』というところまではいっていなくて、まだ『憧れ』なんじゃないかな...と思います。けど、一緒に暮らしていくうちに、それが『好き』なんだと自覚していくのかな?司にしても同じだと思います。一目惚れ的に恋に落ちて、一緒にいるうちにどんどん惹かれていく...そんな二人が書けたらいいなぁと思います。ジレジレですけどね(笑)。私はこんな二人も案外好きです( *´艸`)ププッ。

みみまま様
そうそう(笑)。ジレジレでもあり、ラブラブでもあり...。そんな二人を書けたらいいなと思います(≧▽≦)!!

●花様
そうなんですよ。実は両想いなんです。つくしちゃんは『憧れ』ではありますが、好意を持っているんですww ●花様もジレジレと見守ってください( *´艸`)


あー、もう土曜日が終わっちゃいました。
明日も用事があるし...続きどうなることか....。
ペースが崩れちゃったらごめんなさいです(>_<)
ではではまた~、続きで(*^^*)

2019/11/09 (Sat) 22:58 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/11/09 (Sat) 09:30 | EDIT | REPLY |   
みみまま  

たまらなく好きだ!
ジレジレなんて気分にならないのは
そこかしこに愛が散りばめられてるから
なんですね。

展開が楽しみです。

2019/11/09 (Sat) 09:06 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/11/09 (Sat) 09:01 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
おはようございます(*^^*)

朝からせっせと、ブログの色とかフォントとか変えてました。
こういうの苦手...です( ;∀;)
そしたら、なんとタイトルに番号打ってないし!!
スペル間違ってるしっ!!・・で焦って訂正したところでした。
昨日テンプレートが気になって、お話に集中してなかったんだよなぁ...(;・∀・)テヘ


さてさて、ジレジレでしょ?
一回書いてみたかったんです。

早速のコメントありがとうございます(*^^*)

花●様
ねー、教えてあげたいですよね?このジレジレしながらデートとかする二人を書いてみたくて...(鬼だ...)。早くそこまで行きつきたい(笑)。真冬の遊園地とかもいいかなぁ。どこ行こうかなぁ?せめてジレジレラブにしてあげなくてはww

すず●様
うわぁっ!!昨晩書いていた時、最後見直しもして何か変だなと思った記憶はあるのですが(笑)。娘にも笑われそう(;^_^A 恥ずかしいっ!ご指摘ありがとうございました!すぐに直しました!!('◇')ゞ
そうそう、珍しくつくしちゃんの片思いパターン(笑)。初めてかな?どうだったかな?原作ではぜーったいに無いだろうパターンです(笑)。原作の流れじゃないお話も、だから楽しいです(*^^*)

PCのフォント大きくしすぎたかな...。
また色々変えてみます。
いや、その前に続きを...ですね(;^_^A
やり始めると止まらなくて(;・∀・)ギャッ
ではでは、

2019/11/09 (Sat) 08:22 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/11/09 (Sat) 08:07 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/11/09 (Sat) 05:35 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply