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Happyending

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久しぶりの外出だった。
少し早めにお邸を出て、クリスマスの装飾が始まった街を歩く。
夜は優紀に会う予定だから、司さんが用意してくれた服じゃなく、アパートから運ばれていた着慣れた服を選んだ。生地屋さんは休みの日にもよく立ち寄っていたお店だから、カジュアルでも大丈夫。

司さんの好みは、あのクローゼットを見れば分かる。
上品で、綺麗目で、だけどどこか甘さのある服。
そんな彼の好みに合わせたくて、頑張って綺麗目を意識している私だけど、きっと司さんにはなんとも思われてない。だって、司さんはいつもちらっとしか私を見てないもの。
でもね、かといって全く見られてない訳じゃないんだ。毛足の長い絨毯に足を取られそうになったらすぐに支えてくれるし、食事前に髪を結おうとシュシュを探していたら、「こっちにあるぞ」とか教えてくれたり。実は結構見られてる...?なんて期待しちゃうから、やっぱり気は抜けない。彼の視界に映る時には少しでも綺麗だと思われたい....でしょ?

早めに出かけた私は、デパートの化粧品売り場に入った。クリスマス限定のコフレはどれも華やかで見ているだけで楽しくなる。ボルドーに近いピンクのグロスとか、ラメ入りのパウダーとか、可愛いポーチも。ウキウキしながらフロアを物色しながら、あっ.....と今更なことに気付いた。


今年のクリスマスはどうするんだろう?

...........なんて、一瞬浮かんだ期待。
だけど、それをすぐに打ち消した。

どうもこうもないや。仕事に決まってるでしょ。


結婚してからも、ずっと休みもなく働いているもんね。
しかも平日のクリスマスに時間なんて取れるはずがない。
せめて一緒に食事でも......なんてある訳ない。
だって私たちは夫婦ではあっても恋人同士とは違うもんね。

彼が特集されていた雑誌はほとんど全部読んでいた。お気に入りの記事はスクラップだってしてる。ビジネス中心の毎日で、プライベートに割く時間はないんだろうなって分かっていたけど、実際には予想以上。
けど、遅くなっても必ずお邸に帰って来てくれるから、私はとっても幸せだった。

せめて夜はゆっくりして欲しい。
そう思うのに、彼との夜の時間を失いたくない。
彼が満足してくれているのかは分からないけど、彼が求めてくれるのなら応えたい。
だって、誰にも邪魔されずに彼と二人きりになれる時間なの。
そういうことは初めてだったから最初は恥ずかしかったけど、だんだん自然と快楽に身を任せられるようになって、私も少し大胆になった気がする。初めは彼に触れることも出来なかったのに、今では彼の首に縋りついたり、彼の髪に指を差し込んだり。あの時間じゃなければ絶対に出来ないこと。
司さんの吐息が聞こえて、私の中で感じてるのかなって思うだけで幸せな気持ちになるの。

憧れなんかじゃない。
一緒に暮らす様になって、ますます彼に惹かれてる。
口数が少なくて分かりにくいけど、本当は優しい人。
夜だって、彼は『妻の義務』だって言ったけど、終わった後はいつも私をすっぽりと抱きしめてくれる。それもずっと朝まで。目覚めたらいつも彼の腕の中にいる、それが凄く幸せで、その温もりを、私はもう手放すことはできない。義務なんかじゃない、私が彼を求めてるって言える。
愛されていなくても、私は彼を愛してる.....。



色々迷いながらボルドーのグロスが入ったクリスマスコフレに決めると、ちょうど15時になった。
以前から親しくしている生地屋さんとの約束の時間。
実は今日はお店の方から連絡があって、伺うことになっていた。

私は今、個人的なドレスやスーツの注文にのみ対応している。例えば椿さんもその一人。
花沢時代はマーケティングの仕事とデザインの仕事を掛け持ちし、製造ラインは下請け業者に依頼していた。その中で個人で注文を頂いていたお客様だけをオートクチュールで対応していたんだけど、これからの注文は、全て自分で一点一点縫製まで手掛けるつもりだ。
一言でいうと、独立っていうことになるのかな?
貧乏性の私だから、一人では考えられなかった選択肢。だけど、司さんのお母さんとお会いした時に、そういう道を考えたらどうかと提案してもらった。元々、司さんもそう考えていたみたい。

『でも.....注文が来ないかもしれない。個人対応になると予算も高くなるから。』
『始めから黒字になる訳ないだろ。俺が夫なんだ、多少のリスクは気にするな。』
『けど.....』
『3年で目途が立たないようならすっぱり辞めればいいさ。ま、お前が抱える程度の借金、俺にはダメージねぇけどな。だから、好きにやればいい。』

シレッとそんな風に言われちゃうと、やってやろう!と思うのが私。
だから、これからは個人で頑張ろうって決めた。
運よく花沢時代の個人のお客様から直接の注文を頂いていて、お母さんに言われている道明寺家の仕事とデザインの仕事で、司さんが帰ってくるまでの時間は案外忙しくしてる。



ちょうど探して欲しい生地があって、それをデザインを見せながらいくつか注文をした後、いつもお世話になっているオーナーさんに「つくしちゃん、こっちに来て!」と呼ばれた。
隣の部屋に入るとそこには、

___ウエディングドレス


私は驚いて声が出なかった。
このお店ではオーダードレスも扱っているから、ここにドレスがあっても不思議じゃない。
私がウエディングドレスを見慣れていない訳でもなかった。

そうじゃなくて.....

「これ.....」
「覚えてる?つくしちゃんが初めてデザインしたドレス。」

それは、5年前に私が描いたドレスにそっくりだったの。
私がデザインまで担当するきっかけになったあの時のドレス。

まだマーケティングの仕事しかしていなかった頃に、ここのオーナーに勧められて初めて描いた一枚のデザイン画。そのデザインをオーナーがすっごく褒めてくれたのが嬉しくて、デザインの勉強をするようになった。そんな、思い出のデザインが、今、現物としてここにある。

「あのデザインでね、いつか作ろうと思っていたの。勝手なことをしてごめんね。」
「そんなっ!凄い....素敵.....です。」
「でしょ?だってこれ、つくしちゃんが将来着たいってイメージしたドレスだもんね。」

胸が熱くなる。

そう.....
オーナーに自分が着たいと思うドレスを書いてみたら?と言われて初めてデザインにトライした。
こんな風にシンプルで、だけど繊細なレースが華やかで、上品で。
ヨーロッパから輸入した高級なレースを使ったウエディングドレスは、私のイメージしたドレスそのものに仕上がっていた。

「春子さんから聞いちゃったの。つくしちゃん、結婚したんでしょ?突然花沢を辞めるっていうからびっくりしたけど、納得したわ。春子さんから、お式はしないみたいだって聞いたんだけどね。私、つくしちゃんが結婚する時には絶対にこのドレスを作ってあげようって決めてたのよ。だから、これを貰ってもらえない?」


涙が、出そうだった。

オーナーの気持ちが嬉しくて、だけど、そんなオーナーの気持ちに応えられないのが悲しくて。

ドレスって、その人に着て欲しくて、幸せになって欲しくて作るんだ。
だから、オーナーはこのドレスを私に着て欲しいに決まってる。

でも、ウエディングドレスって一人じゃ着られないんだよ。
隣に旦那様がいて、初めて完成する、究極の一着。


「つっ、つくしちゃん!?」
「違います.....嬉しすぎて......」

嬉し過ぎて、でもやっぱり悲しくて、申し訳なくて、
涙を堪えることができなかった。


今の生活に不満なんてない。
私は十分幸せ......
そう思っているのに。

堂々と、このドレスを受け取れない自分が悲しかった。
このドレスを持ち帰ったら、例え隠していたって絶対に司さんにバレちゃう。
そうしたら、司さんはどう思うだろう。
まるで結婚式を強請っているみたいで、面倒くさい女だなって思うかな?
ううん。あの人は優しいから、本当は面倒くさいって思っても、時間を作ってくれるのかも知れない。
だけど、そこには彼の幸せはない。
そんなこと、してもらうのは嫌。

それに、神様に誓うその場所に、
契約結婚の私たちが立つなんてありえない話だ。



「オーナー、ごめんなさい。」




彼の仕事が忙しくて、結婚式の予定はないこと。
ドレスを持ち帰ったりしたら、彼のプレッシャーになってしまうこと。
だから、今日は持ち帰れないと話した。

これからだって持ち帰れないけど、オーナーの気持ちを考えたら、とてもそんなこと言えなかった。




お店を出て、ショーウィンドウを見上げた。


『そう...、残念だわ。それなら、しばらくの間、ここのショーウィンドウに飾ってもいいかしら?久しぶりの力作なのよ。倉庫に入れるなんてもったいないわ!つくしちゃんの幸せを、街の人にお裾分け。ね?』


オーナーは私の事情を何か感じてくれたのかも知れなかった。
だから、この提案は私の気持ちを少しだけ軽くしてくれた。

普通なら、ウエディングドレスを作るのに最低2カ月はかかるはず。
それを1か月弱で仕上げてくれたオーナー。
その気持ちに少しでも応えたい。
デザインは私だけど、このラインも、レース使いも、オーナーのセンスが溢れてる。
オーナーじゃなきゃ、あんな素人のデザインを、こんなに素敵なドレスに仕立てられるはずがない。
そのドレスを、たくさんの人に見て欲しいなって思った。



うん......やっぱり、素敵だ。

このドレスは着られないけど、少しでも彼に近づきたいな。
そうだ、クリスマスプレゼントを渡すぐらい迷惑じゃないよね?
今からプレゼントを選びに行こう。
何でも持っている彼だから、何がいいのか迷っちゃうな...。

期待している訳じゃない。
けどいつか.....
私と一緒になって幸せだって思って欲しい。


そんなことを考えながら、
さっきよりも前向きな気持ちでドレスを見つめていた時、




「つくしっ!!」


……えっ!?


突然、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
その声は私の大好きな声で、だけど絶対に私の名前を呼んでくれることはないと思っていた声。

私は彼から、一度も名前を呼ばれたことはなかったから。



慌てて振り返ると、
大好きな彼がコートを翻して、
こちらに向かって走って来るのが見えた。




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Comments 5

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Happyending  
こんばんは!

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
明日更新したいと思って、今、続き頑張ってます(笑)。

花●様
ふふふ( ̄ー ̄)ニヤリ 実は私も同じこと考えてます!小道具的に...(笑)。どこで使うかなぁ。たぶん、どこかで使いますよ!(笑)。そちらもお楽しみに~( *´艸`)

二次●様
たぶん、椿さん経由で司と出会わせるために、安易にデザイナーにしてしまっただけなんですけど。でも、こんなエピソードを書けたから、デザイナーで良かったかも?(笑)。いつも行き当たりばったりなんですよね~(;^_^A まだジレジレしてますが、続きもお楽しみに!

ka●様
臆病な司君は撤回していますが、こちらの司君は不器用で...。まだまだジレジレの予定(笑)。一言好きだと言えば終わるのに...(笑)。私、こういう可愛いつくしちゃん好きなんです。原作とはだいぶかけ離れてるけど...。こんなつくしちゃんもいいな~と思ってて。原作のつくしちゃんファンの方々には申し訳ないんですけどね(;^_^Aアハ

スリ●様
ほーっ!?お嬢様が...おおっ!!うちの娘の恋バナなんて聞いたことないです(笑)。ちょっと楽しみですね~( *´艸`)
はい、次は1時間のデートです。が、あっという間に終わっちゃいますね、1時間なんて...(;^_^A でも、司、頑張ってますよ?( *´艸`)フフッ!!

拍手コメ あやまま様
コメントありがとうございます。嫁姑関係!?(笑) まだそこまで考えてないですが...(;・∀・)アハ 今回のつくしちゃんは楓さんとの関係は良好でしょうね~( *´艸`) まずは契約結婚の二人をどうにかせねば...ジレジレしながらがんばります!楽しみにしていただけて嬉しいです(*^^*)

さて、もう少し頑張りますね~(*^^*)

2019/12/01 (Sun) 00:01 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/30 (Sat) 12:25 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/29 (Fri) 23:27 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/29 (Fri) 23:08 | EDIT | REPLY |   
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2019/11/29 (Fri) 22:13 | EDIT | REPLY |   

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