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Happyending

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「つ、司さんっ!?」

駆け寄って来たのは司さん。
少しだけ息が上がってる。
そんなに急いで、どうしたの?
キョロキョロと回りを見渡しても、特別なものはなくて、むしろここにいる司さんが凄く目立ってる。
すれ違う女性がみんな司さんをみて目を丸くしてる。
そりゃあそうよ、こんなに素敵な人、滅多にいるもんじゃない。

「.....どうしたの?」

どうしてここにいるの?
今、『つくし』って言った?


思いがけず出会えた。お邸の外で会うのは、結婚してからこれが初めて。
嬉しいんだけど、騒めく周囲の女性たちに焦ってしまう私。
私よりも素敵な女性は世の中にたくさんいる。彼はわたしだけだって言ってくれたけど、それって何かの間違いかも知れないと思えていつも不安だ。いつか、もっともっと彼に相応しい人が現れて、私の元を去ってしまうかもしれない。だから、彼の目に他の女性が映らなければいい。
私は、早くこの場を立ち去りたくなった。


「司さん...」
「車から、お前の姿が見えたから。」
「えっ?」
「これ、似合いそうだな、お前に。」

彼がウエディングドレスを眺めてる。
その姿も絵になってる。なんて、かっこいいんだろ。
.....ってそうじゃない。今なんて言った?

「この胸元のレース、華奢なつくしにピッタリだ。」

似合う?
華奢な......つくしっ!??

「あのっ.....」

あまりに突然のことで、どうしていいのか分からなくなった私の目の前で、彼が店のドアを開けようとした。

「ちょっと、待って!」
「何だ?」
「どこに行くの?」
「このドレス、気に入ってるんだろ?これにしよう、ウエディングドレス。」

まるで当たり前のように、彼が店に入ろうとする。

「待って!」
「だから、何だよ。」
「ドレス.....ウエディングドレス.....だよ?」
「見れば分かる。俺は男だからそういうことに疎くて、気付かなくて悪かったな。」

ほら.....彼はやっぱり優しい。
私がドレスを眺めてるのを見たんだね。
それで、結婚式をしようって思ってくれたんだ。

無理しなくていいのに...。

私は彼の腕を引いた。

「違うの。このお店には生地をオーダーしに来ただけだよ。」
「生地のオーダー?」
「うん。ドレスを見に来たわけじゃないから。」

結婚式がしたい訳じゃない。
こうして、あなたの傍にいられるだけでいい。
これ以上を望んだら、罰が当たるかも知れない。
あなたの重荷になって、あなたが離れて行ってしまう、その方が怖いよ。


彼がじっと私の顔を覗き込んだ。
その瞳に耐えられなくて、思わず逸らした視線の先に、自分のブーツのつま先が見えた。
もう何年も手入れをしながら履いているこのブーツの足先は、それでも少し色が剥げちゃってる。
ブラックスキニーも、このゆったりと編まれたセーターも、カジュアル過ぎてとても司さんの好みとは思えなかった。

ああっ、もう!
私はどうしてこうなんだろう。
少しでも綺麗に見られたいのに。そうだよ、もしも二人きりで出かけるなんてことがあったら、今日買ったグロスを付けるつもりだったのに。彼好みのおしゃれをして、華奢なパンプスを履いて。

.........居た堪れない


「仕事中でしょう?早く戻って。」

思い切って顔を上げて、何とか普通に言えたと思う。
オーダーメイドのスーツを完璧に着こなす彼と、どこにでもいるようなカジュアルな格好の私。
周囲の人もチグハグな私たちを見て、きっと笑ってるだろうな。
だから、早く仕事に戻って欲しいと思った。
司さんに恥をかかせちゃう。

なのに、彼はそれに返事はせずに、眉間に皺を寄せ、もう一度ドレスを見上げた。

「これが着たかったんじゃないのか?」
「違う....よ。気を遣わせちゃって、ごめんなさい。」


彼の視線が痛い。
じっとしていると、12月の冷たい風が通り抜けていった。
その寒さに、思わず両手をこすり合わせたら、

「手袋、持って来てないのか?」
「え...、あ、うん。忘れてきちゃった。」

というよりも、去年使っていた手袋を見つけられなかったんだ。

「じゃあ、行こう。」

彼が、当たり前のように私の手を握った。
その大きな手は手袋なんかより、ずっとずっと温かい。

「行くって、どこに?」
「手袋だろ?1時間空いてるんだ。買いに行こう。」

その顔は、もうしかめっ面じゃなかった。
1時間だけ時間があるって。手袋を買いに行こうって。
これって.....デートみたいじゃない?
うそっ!ちょっと......嬉しいな。
そのままつられるように歩き出そうとして、ふと我に返った。

「でも...、待って?」
「何?」
「私、こんな格好だし、司さん......恥ずかしいでしょ?」
「何が?その服のことか?いいじゃん。すげぇ似合ってる。可愛い。」
「えっ...........ええっ!?」

サラッと言われたその一言が頭の中に入ってくるのに時間がかかった。
ボーっとしているうちに、いつの間にか司さんに引きづられて歩いてた。

か...可愛いって。
.....ってバカッ。そんな訳ないでしょ!
社交辞令ってやつだよ。絶対にそう。
そう思うのに、どうしてか頬が緩んで仕方がない。
彼に気付かれないように、頑張って下を向いて堪えた。


「つくし」
「う?......ゴホゴホッ!」

なのに、彼はまた私をドキドキさせる。
不意打ち過ぎるよ!

「おい、大丈夫か?風邪ひいたんじゃねーの?」
「ゴホッ、ゴホッ、違い...ます、ゴホッ。」
「つくしって、面白い名前だよな。」
「........へ?」

思いがけないことを言われた。
つくしって雑草なんだよ。踏まれても踏まれても立ち上がる雑草。
どうしてパパたちがこの名前にしたのかよく分からないけど。

「でも、お前らしいよな。前向きで生命力が強い感じが。」

なんかね。胸がじーんって温かくなった。
小さい頃から、可愛らしい名前ね...なんて言ってくれる親戚のおばちゃんたちも、ちょっと微妙な顔をしてたっけ。だから、なんで私はつくしで弟は進なのよって思ったこともあった。
けど、私らしい。そう、私らしいって今は思ってるの。
司さんもそう感じてくれたんだって思ったら嬉しくなった。

彼と結婚してからも、私は彼から名前で呼ばれることはなかった。
本当の恋人同士じゃないから、名前で呼ばれることはないんだろうなって諦めてた。
私は、ほら。結婚したのに『道明寺さん』じゃ変でしょ?だから、『司さん』って呼んでるけど。
私のことは『お前』がせいぜいだと思っていたのに。

今日の司さんはなんだかいつもと違う。
可愛いって言ってくれたり、名前を呼んでくれたり。
どうしたんだろう?


「何か、いいことがあったの?」

彼を見上げ、思わず聞いてしまった。
商談が上手くまとまったとか?

「いや、今日の商談はイマイチだったな。」
「そうなの?」

なんだか機嫌が良さそうだったから。
でも違うのか......。
だけど私は、思いがけないデートの時間にドキドキだよ。

「そりゃ、機嫌も良くなるだろ?」
「え?」

「俺も、なんかドキドキする。」
「.........ええっ!?」

「初めてじゃねぇ?俺たち一緒に、こうやって外を歩くの。」
「えっ?えっ?」

「お前と同じ。聞こえてんだよ、その独り言。」
「・・・・・えーっ!!」

私ったら、今日は何度驚いてるのよ!
慌てて口を抑えても、もう遅い。
隣で司さんがクスクス笑ってる。
恥ずかしかったけど、司さんが笑ってるから、これでいいのかな?
思いがけず会えて嬉しい。彼も、そう思ってくれてるのかな?
それなら、もっと嬉しい。


「確かに寒いな。」

いつも車で移動してる司さんは、外の風に吹かれることなんてあまりないんだと思う。
しかも、司さんが買い物するようなブランド街はまだだいぶ先だ。

「こっち。」
「ん?」
「私の好きなお店があるの。」

彼が好むようなハイブランドのお店じゃないけど、一点物の雑貨が揃ってるお気に入りのお店。
早く司さんを温かいところに連れて行かなきゃ、司さんこそ風邪引いちゃう。

ぐいぐい彼の手を引いたら、楽しそうに笑いながら付いて来てくれた。


大通りから一本中に入ったお店の前には、クリスマスツリーが置かれていた。
店内は、彼には似合わないナチュラルな雑貨でいっぱいだ。
珍しいものを見た...って感じで店内をキョロキョロ見渡している司さん。
手を繋いだまま、そんなに広くはないそのお店を一緒に歩いた。

本当はね、手袋なんて要らないの。
だってこんなに彼の手は温かい。
プレゼントが欲しい訳じゃないの。
もうしばらく、こうして一緒にいたいだけ。

それは口に出さないように、頑張った。


「「......これ」」

二人同時に足を止めた。
たぶん見ていたのは同じ、真っ白なミトンの手袋。
司さんがそれを手に取って、私に渡す。
肌触りがいい、カシミア100%。
見るからに柔らかそうで、丸みがあって、すごく可愛い。

「つくしに合いそうだ。」
「.....そうかな?」

指を通すととても気持ち良かった。
司さんの温もりには敵わないけど。
でも、彼が似合うと言ってくれた、この手袋に決定だ。


司さんが会計を済ませ、私に手袋を嵌めてくれた。
風邪を引くからって、おそろいのニットの帽子まで買ってるし。
その帽子も被せてくれた。

「やっぱ可愛いな。」

ええっ!?なんでっ!??
なんだか、凄く甘い雰囲気だ。
お願い、止めて。だって本当に、勘違いしそうだよ。





お店を出て、また表通りに戻った。
もう少し一緒にいたいけど、そろそろ時間だね。
ほら、あっちにリムジンが止まってる。

「くそっ、もう時間かよ。はえーな。」

「司さん、ありがとう。」
「......おぅ。」

なんだか名残惜しい感じだ。
・・・今、思い切って聞いてみようか?

「司さん....」
「何?」
「クリスマスのプレゼント、何か欲しいものってある?」
「クリスマス?」
「うん。仕事が忙しいのは分かってるんだけど、何かプレゼントを準備したいなぁって。私、いつも貰ってばっかりだから。あ、そんな大したものは買えないけど...。」

彼が目を丸くしてる。
言わなきゃ良かったかな。
私が選ぶものなんて彼に似合う訳ないし。
かと言って、食べ物の好みもよく分からない。

「いらねぇよ。」

..........やっぱり......ね。
そう言われるかなって思ってたけど、なんとなく聞きたくなっただけ。
今日の彼はなんだか甘い雰囲気だったから。
私の勘違い、バカだなぁ。
私は、落胆を隠す様に苦笑いをした。


ふうっと吐き出された彼の息は白い。
もうすぐやってくるクリスマスは私たちには関係ないね。


「イブは必ず時間空けるから。」

「......え?」

「デート、しようぜ。どこ行きたいか考えといて。」


突然過ぎて、何を言われたのか分からなかった。


「お前がいてくれるだけでいいよ、俺は。他には何も望まない。」



返事が出来なかった。
口先だけの言葉だとは思えなかったから........凄く、驚いて。


何も言えない私をちらっと見て、彼が右手を上げた。
Uターンしたリムジンが、静かに横付けされる。


「あの.....」
「帰りも必ずうちの車使えよ。」
「うん。あの......」

何て言おう。
何か、言わなきゃ。
せっかくのデートのお誘い...。

運転手さんが降りてきて、ドアが開かれた。


「考えておくね、クリスマスのこと!
 ありがとう。すっごく、楽しみ!!」

車に乗り込もうとする彼の背中に叫んでた。
振り返った彼は、嬉しそうに笑ってくれた。



ああ.....
もしかしたら、
私は、少しだけ彼を幸せにできているのかな?

そうだったらいいな。


遠ざかっていくリムジンに手を振った。


私も、あなた以外には何も望まない。
本当だよ。




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2019/12/04 (Wed) 09:32 | EDIT | REPLY |   
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こんばんは~(*^^*) ②

二次●様
ね?つくしはつくしじゃないともはやダメなんですが...、なんでつくしなんでしょうね~?(笑)
ウエディングドレスは、早速司が勘づいてます(笑)。

まる●様
コメントありがとうございます(*^^*)楽しんで頂けて良かったです。確かに、色んな花男二次がありますよね。我が家は、シリアス強いのはないですね...(笑)。書くのが大変ですから(;^_^A 是非、また覗いてくださいね(*^^*)

拍手コメ ri●様
えへへ。ありがとうございます。あまりにも二人がピュアで...書いてる私が恥ずかしいです(;・∀・)アハ
でもたまにはこんな二人も...ということで、是非お付き合いくださいね(*^^*)


はー、しかし、総ちゃんのBDってことはもう12月。
早いですね...。本当に。もうすぐクリスマスも...。
どうなることやら...ですが、明日に備えてそろそろ寝まーす。
あ、でもその前にアップしたのを見直して...(;^_^A

ではでは、また~。続きで!

2019/12/03 (Tue) 23:37 | EDIT | REPLY |   
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こんばんは~(*^^*) ①

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
今日は総ちゃんのお誕生日...ということで、総ちゃんを登場させるべくお話の続きを書いていたら、やたらと長くなってしまって...、でもギリギリ先ほど投稿しました!長くて読みにくいかな(;^_^A

さてさて、
まり●様
そうですね。この状況でドレスを着るのはつくしとしても心苦しいと思ったんです。だから、もう少し先のどこかで...。どこにしようかちょっと迷ってます。いつもと違う感じにしたいしなぁ...。本当に、つくしも嬉しかったと思います。温かいコメントありがとうございました(*^^*)

スリ●様
少しずつですが距離が縮まっていきます。ほんと、どちらかがフライングすれば、すぐにお話は終了何ですけどね(笑)。
イブは司にがんばってもらわねばですね(*^^*)

チェ●様
そうなんですよ~!そこが難しい!いつもの強気な坊ちゃんに返信すると一気にお話はエンドなので、そうそう強気にいけないんです(笑)。ドレスの件もありがとうございます。必ずドレスは着せますよ!ご心配なくです~(#^^#)

花●様
惜しかったですね!でもね、早速勘が冴えてます( *´艸`)ププッ。さすがは司です(笑)。クリスマスはどんなデートにしようかなぁ。悩み中です(;・∀・)

2019/12/03 (Tue) 23:30 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/02 (Mon) 14:37 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/02 (Mon) 09:43 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/02 (Mon) 00:14 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/01 (Sun) 19:17 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/01 (Sun) 18:14 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/01 (Sun) 15:32 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/01 (Sun) 15:31 | EDIT | REPLY |   

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