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Happyending

Happyending

「何だよっ!まだあと10分以上あったじゃねーかっ!!」
「我々は近くで待機していただけですが。」
「あんなとこに車あったら、あいつのプレッシャーになるだろうがっ!!」

名残惜しく彼女と別れ、車に戻ってみれば、まだ約束の1時間まで10分以上残っていた。
もう少し一緒にいられたのに.....。

カジュアルな彼女は妙に可愛かった。
邸にいる時の雰囲気とはまた違って、肩の力が抜けてて柔らかくて。
ミトンの手袋も、ニットの帽子も、本当によく似合ってた。
あんな格好のまま食事になんて行かせたくなかったが、それは仕方ねぇ。
少し間をとってSPが警護していたのは確認済みだ。

心臓をバクバクいわせながらも、デートの誘いを取り付けた。
イブの夜.....どうすっかな?

「24日の夜は絶対早く帰るからな。」
「今のところ夜の会食のセッティングはありませんね。」
「入れんな。会議も入れるなよ。あ、携帯も絶対に鳴らすんじゃねーぞっ!」
「そうはいっても通常業務だけでもそれなりには...」
「早めに全部持ってこい。そうだ、俺は18時以降完全フリーだ!」

楽しみだってあいつは言った。
彼女はどこに行きたいだろう。
メープルのフレンチ?........いや、ありきたりだな。
総二郎が言ってたなんとかってバーも雰囲気がいいらしい。
そう言えば、やたらと服装を気にしてた。どんな格好でも可愛いのに。でも、それなら出かける前にブティックに寄って、二人で服を選び合うとか?
やっべぇ...、楽しみ過ぎる.....。

「・・・ゴホンッ」

西田の咳払いで、現実に戻った。

待てよ......
ふと、俺は忘れそうになっていた疑問を思い出した。
あのウエディングドレスだ。
あいつは羨ましそうにあれを見ていたと思ったのに、そうじゃないんだと言っていた。
あの時の彼女はそれ以上答えてはくれそうになかったが、あのドレスにはやっぱ何かあるんじゃねーのか。
俺は、何かを見落としてるんじゃねーか?

「おいっ、車止めろ。」

まだ時間がある。
俺は、もう一度あの店に戻った。





カラン.....とレトロな鐘の音が響いて、「いらっしゃいませ~」と出て来たのは40代半ばの女。
そこは彼女が言っていたように生地を売る店だった。

........来てみたはいいが、何をどう聞けばいいのか?

「如何なさいましたか?」
「あのショーウインドウのドレスなんだが.....」
「ああっ!早速目に留まりましたか?ふふっ。」

店員が嬉しそうに笑う。

「つ...妻が気に入ったようなので。」
「まぁ~、ありがとうございます。けれど、あれは売り物ではないんですよ。」
「売り物じゃない?」
「はい、私が親しくしている女性に作ったものなんですけどね。まだ、お式を挙げる予定はないからって、こちらでお預かりしているんです。」
「預かってる?」
「ええ。ご主人のお仕事が忙しいみたいで。残念だわ。あのドレス、今はデザイナーとして活躍している彼女が初めて描いた思い出のデザイン画からパターンを起こしたんですよ。とっても仕事熱心な子だったから、“あなたが着たいと思うドレスを是非書いてみて?”って言ったら、その子が描いて来たのが......そうそう、これ。これを見て、私は、“あなたはデザインの仕事もするべきよ”って言ったの。この子は才能があるって思ったわ。」

店員が一枚の紙を見せた。
鉛筆で書かれたその絵は、ショーウィンドウに飾られているドレスと同じだ。
すぐに素人が描いたと分かるようなデッサンだったが、描き手がドレスに込めた想いが伝わるような......そんな気がした。

「その子が、いつか着てみたいってイメージしたウエディングドレス。だから、突然結婚するって聞いて慌てて作ったんだけど...、まだ着れないみたい。でもね、私の我儘だけど、いつか彼女に着て欲しいと思っているんです。だから、ごめんなさいね。あのドレスはお譲りできないの。」

確かめなくても分かる。
これはつくしが描いた。
あのドレスは、つくしがいつか着たいとイメージしたドレスなんだ。

旦那の仕事が忙しいから、式を挙げる予定はない。
この店員の気持ちが分かっていて、そう言うしか無かった彼女の気持ちが痛い位だ。
辛かっただろうな......あいつは、すげぇ優しい女だから。

彼女に我慢ばかりさせて、不甲斐ない俺。
けど、今日ここを訪れた自分は褒めてやりたい。


「俺です。」
「......はい?」
「牧野つくしの夫は俺です。」
「え....?えっ!?ええっ!??」

驚いてるところ悪いが、時間がねぇ。

「彼女にこのドレスを着せたいんです。どうか、俺に譲ってください。」






**



「......だから、何なんだよっ!」
「この時期ですので。」

夜の会食の相手がインフルエンザに罹ったらしい。
何で今日なんだよ。昨日倒れとけよ。
今日は早く帰ったってあいつがいない。
ついてねぇ...。

ん?・・けど、待てよ?
会食がないなら時間に融通が利く。
......てことは、あいつを迎えに行くことも出来る...な。

SPによると、あの後しばらくして、彼女は友人と合流し、東京駅近くの店に入ったらしい。
東京駅ならここからそう遠くない。終わりかけた頃にSPから連絡をもらえば間に合うか。
車をこっちに回して、邸までドライブってのも悪くない。
そうと決まれば、さっさと残った仕事を終わらせてやるっ。

「西田っ、書類、どんどん持ってこい!なんなら明日の分まで持って来いよ!」
「いえ、丁度入れ替わりのアポイントが入りまして。」
「・・・はぁ?.....何だっ!誰だよ、そんな急なアポ受けてんじゃねーよっ!!」
「以前から何度もご連絡を頂いておりまして、これ以上先延ばしには出来かねるかと。」
「はぁーっ?!!」






・・・・・・・で、
俺は渋々メープルのラウンジにやって来た。
馴染の個室を指定されていた。
嫌な予感は的中だ。


「「司くーん、俺らに黙って結婚ってどういうことかなぁ?」」

すでにグラスを空けてるのは総二郎とあきらだ。
互いにそれなりにめんどくせぇ家に育った俺たちは、類も含めて4人、ガキの頃からの付き合いだ。
歯に衣着せぬ物言いが出来るのも、この間柄ならでは。


コートを脱いで店員に渡し、俺はドカッとソファーに身を投げた。
こいつらが毎日のように携帯を鳴らしてるのは知っていた。無視してただけで。

俺の結婚相手については、マスコミにも徹底して規制を掛けていた。
花沢社長にもこのことは黙っておいてもらうよう、ババァが頭を下げたようだ。
つくしが花沢の社員だったことが分かれば、マスコミが彼女の職場に殺到するだろう。退職まではできるだけ平穏にさせてやりたかったし、花沢側にしても会社にマスコミが押し寄せるような事態は避けたかっただろうから利害は一致したようだ。
それから彼女を公の場に連れて行ってはいないから、こいつらも、俺の結婚相手については知らない。
俺は電話を無視してたし、恐らくは類も話してないんだろう。


「なんだよ、黙りこくって。結婚したってのに、お前は電話に出ねぇし、類の奴は一時渡仏だったはずなのにそのままフランス勤務になっちまうし。ったく、F4の絆はどうなってんだ?」

総二郎の言葉が胸に刺さる。
F4の絆、それを壊したのは俺だ。

類には、彼女と入籍したその日に電話を入れた。
俺が電話を入れる前に、どうやら親父さんの方から連絡で知っていたらしいが。
花沢社長にしても彼女を類の花嫁候補に考えていたぐらいだからそれも当然だ。

『俺、今日、牧野と入籍した。』
『知ってるよ。で、何?』
『いや、それだけ言っとこうかと思ってよ。』
『うん、分かった。じゃあね。』

類は何も聞かなかった。入籍した経緯も、俺の気持ちも、つくしの気持ちも、何もかも。
その返事には、滅多に感情を表に出さない類の怒りが籠ってた。



「.....で?いきなり、道明寺の後継者が何の前触れもなく結婚だって?なんかあったのか?俺ら、ちょっとは心配してんだよ。お前のこと。」

そう言うのは、世話焼き担当のあきらだ。

「お前んちのことだから、利益のない女とは結婚しねぇだろ?一般人っていったって、どっかのお嬢だろうが。そんだけマスコミ対策徹底するって、官僚の娘とかそんなとこか?今は色々世間の目も厳しいからな。」

総二郎がフンッとせせら笑った。

普通はそう考えるだろうな。
けど、俺はそんな女と結婚しねぇよ。
あいつに出会うまでは、誰とも結婚する気はなかった。

「ちげーよ。」
「じゃあ、どんな女だよ。この期に及んでだんまりはねぇよな。」

どの道、いつまでも隠してはおけねぇ。
いや、こいつらには言いづらかっただけで、隠していた訳じゃねぇ。


「牧野つくし」

俺が唐突に呟いた名前に、二人は怪訝な顔をした。

「は?」
「あ?牧野?あいつ、今、どうしてんだ?」
「類とフランス行くって話だったよな。」
「そういや、その後聞いてねぇな。ま、類もあっちで忙しいみてぇだし、すぐには行かねぇんじゃねーの?」
「で?牧野がどうしたんだよ、司。つーか、お前、牧野と知り合いだったのか?」

英徳出身の彼女は、こいつらとも顔見知りだ。
類程じゃなくても付き合いがあったことは報告で知っていた。
だからこそ言いづらかった。

当然といえばそうだろう。
こいつらは俺とつくしが結婚したとは思いもよらないらしい。
類と.....って思うよな、やっぱ。


「牧野つくしと籍を入れた。」


「・・・・・・は?」
「お前、今、何つった?」

二人が俺をガン見したまま固まった。
俺は意味もなく携帯画面を操作して、この微妙な空気に耐えるしかない。

やつらが大きく息を吸い込み、それから大きく吐き出した。

「はぁ~っ、マジかよ~っ!」
「どうりで類が帰国しなかった訳だ。」

参った.....というように、二人が天を仰ぐ仕草をする。

「お前、類が牧野に惚れてること知ってたか?」
「知ってた。」

本人から直接そう言われた訳じゃねぇが、あいつがフランスに誘う位だ。本気だってことは分かってた。

「だったらどうしてだ?お前なら牧野よりいい女いくらでもいるだろうが。」
「だよな。何を間違って牧野だよ。あいつと結婚するメリットお前にねぇだろ?」

彼女以上の女なんていねぇ。
俺の心に入り込んできた女はあいつしかいない。
彼女と結婚して、俺の人生は変わった。
人生に色が加わり、音が加わり、温もりを知り、そして幸せを知った。


「お前......、まさか」

「マジで、惚れてる。あいつ以外考えらんねぇ。」


二人が同時に息を呑んだ。
これまで女に見向きもしなかった俺が、よりにもよって、親友が好きな女に手を出すなんてな。

「けど.....ちょっと待てよ。いきなり結婚って、そう簡単にできるもんじゃねーだろ?牧野にしたって、そんなに軽い女じゃねぇのは俺らも知ってる。いくら、道明寺の御曹司だって言ったって、牧野はそういうもんに靡く女じゃねぇからな。あの類だって苦戦してた。金に靡く女なら、とっくに類に落ちてたはずだ。」
「だよな。類の奴、大学時代から結構マジでアプローチしてたけど、一向に気付く様子もなかったしな。鈍感にもほどがあるって、俺ら笑ってたよな。」

言うべきか.....。
幼馴染とは言え、本当は言いたくない。
けど、類の名誉のためにも、言わなきゃなんねぇ。

俺は、あきらが作ったウイスキーのグラスを一気に飲み干した。


「契約を持ちかけた。あいつの親父さんが事故を起こして、相手がちょっとやべぇ奴らで。その後処理をするのと引き換えに結婚を迫った。」

今日一番の驚きだっただろう。
奴らが俺に非難の目を向けた。
いや、もしかすると、同情の目だったかもしれねぇ。

「おまっ、司っ!?」
「本気で言ってんのか?」

「本当のことだ。」





しばらくは、それぞれ淡々と酒を飲んでいた。

今日は飲むはずじゃなかったのに。
けど、どうしようもねぇ。
流石の俺も、この重苦しい空気には勝てなかった。

どれぐらいの沈黙が続いただろう。
この気まずい雰囲気を破ったのは総二郎だった。
奴の、いつもの調子で。


「でもよ、別にいいんじゃねーの?」
「お前、軽々しく言うなよ。」

軽い口調の総二郎をあきらが制止する。

何がいいんだ?
俺は総二郎に視線を向けた。


「だってよ。いつの時代でも、最後に男を選ぶのは女だ。
 どんな状況があったとしても、牧野は類じゃなく司を選んだ。」

「......どういう意味だ?」


総二郎がニヤリと笑った。


「平安時代、男が贈った歌が気に入らなければ女は結婚を承諾しなかった。女のOKが出れば、男は夜這いをかけて結婚成立って訳。決定権は女。現代だって同じだ。男を受け入れるかどうかは結局は女次第。親父さんの事故のことがあったって、あの牧野だ。雑草魂のあいつが、簡単にそんな契約を受ける訳がねぇだろ。それに、類に頼ることだってできたはずだ。なのに、あいつはそうはせず、司との契約を選んだ。」


彼女が、俺を選んだ?


「ま、そーいうことだ。」
「そうだな.......そーいうことかもな。」

いつの間にかあきらまでが賛同し、
良かった、良かった、とグラスを合わせ始める。
俺はすっかり蚊帳の外だ。



「おいっ、そーいうことってどーいうことだよっ!!」

俺にはさっぱり分からねぇっ!!


「けっ、俺らに相談もしなかったお前には教えねーよっ。」
「だな。」

うはははっ...と、
二人はガンガン、グラスを空けていく。


「ちなみに俺は、常に女の子に選ばれてるって訳よ。」
「てめーの話はいーんだよっ!!平安時代ってなんだっ、俺には関係ねーだろがっ!!」
「これだから、日本語弱い奴は...。まぁ、お前もたまには悩んどけ、な?」
「てっめーっ!!」
「司っ、暴れんなっ。」


こいつら、俺の話なんて聞いちゃいねぇ。


「「だははっ!!
  司っ、結婚おめでとう、カンパーイ!!!」」




結局・・・
どういうことだか分からねぇまま。
けど、確実に俺の肩の荷は少し下りた気がする。


「乾杯」


俺がグラスを低く掲げると、二人もグラスを持ち上げた。
それらをカチン...と合わせ、三人同時に一気に飲み干す。

それは、昔から変わらない、
俺たちの友情のサインだ。




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滑り込みセーフ?
今日は総ちゃんのお誕生日ということで、活躍してもらいました(*^^*)
ありがとう、総ちゃん!Happy Birthday!!
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Comments 7

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Happyending  
こんばんは(;^_^A

いつもたくさんの応援をありがとうございます(*^^*)
なかなかお話を書く時間がなくて・・・こんなんで大丈夫だろうか?
そんなこんなで、纏めてのお返事で失礼します_(._.)_

類君。申し訳ないです(;・∀・)
以前は、こういうお話は書かないようにしていたのですが、ネタ切れなんでしょうか...。どうしてもこうなっちゃう。類君を出し抜いた形になったからこそ、司も自信が無いんです。お話でそんな司を仕立てるには、あきらでも総二郎でもだめで、やっぱり類君なんですよね...( ;∀;)
でも、二人以外は気付いてます。二人は相思相愛だって。だから、逆に邪魔は出来ないんです。
総ちゃんの語りで、少しだけ司の肩の荷を下ろしてあげました。...って言っても、恋に不慣れな司は分かっていませんが(;^_^A

そして、次は、つくしと優紀ちゃんです。
朝5時にアップしたいな。もう少し頑張ります!

2019/12/06 (Fri) 01:32 | EDIT | REPLY |   
みみまま  

どんどん互いに近づいていくお話が楽し過ぎて
スッカリと類くんの事抜けてました。

坊ちゃん派ですが、ちょっと切ない。。

でも、総ちゃんありがとう。
私の切なさも七割減です。

2019/12/04 (Wed) 18:26 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/04 (Wed) 18:00 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/04 (Wed) 13:55 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/04 (Wed) 09:58 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/04 (Wed) 09:37 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/04 (Wed) 08:29 | EDIT | REPLY |   

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