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Happyending

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「行ってらっしゃい」


____チュッ

ひゃっ!!


道明寺邸の玄関ロビーで、メイドさんたちの視線が痛い。
だけど、当の本人は何を気にすることもなく、私に向かって微笑むと、

「行ってきます。」

と私の頬を撫で、クルリと踵を返してリムジンへ乗り込んでいく。
私は熱くなった頬をギュッと両手で包んで、なんとか冷静になろうと努力しながら、彼の後ろ姿を見つめるんだ。



ここ数日、私たちの関係は少し変わった.....様な気がする。
正確に言えば、あの、濃厚に繋がった夜から。

例えば、これまでは彼が自分で選んでいたスーツとシャツとネクタイ。

『どれ?』
『えっと....、今日はこれ。どうかな?』
『いいな、これにする。』

朝、彼がシャワーを浴びている間に、私が用意するようになった。
ハンカチと靴下も。

彼のクローゼットを覗くのはなかなか楽しい。
センスのいい彼のクローゼットは、ブランドものの洋服でいっぱいだ。
一ひねりしたデザインのものからベーシックなものまで。
今日はね、ネイビーのスーツにストライプのネクタイ。
普段の司さんぽくないんだけど、可愛いなと思って......えへへ。
そのネイビーもね、やっぱり生地がいいんだよね。深みがあって、落ち着いていて、司さんの引き締まった体にピッタリと合う。そこにオーキッドにピンクのストライプが入ったネクタイのギャップがいい。これって完全に私の趣味なんだけど......うふっ。


それから、夜は。
なんていうか......遠慮が無くなった。それはお互いに。

『もう.....ダメ.....』
『あと1回だけ』
『さっきも、そう言ったでしょ?』
『そうだっけ?』

絶対覚えてるくせにそんなこと言ったりして、ヘトヘトなのに笑っちゃう。
子供っぽいところがある...って本当だ。
そんな彼を見るとついつい甘やかしたくなってしまうから私も重症。
おかげで朝はなかなか起きられなくて、お昼寝をすることも増えてるっていうのに。


体が自然に繋がるようになると、自然と気持ちが溢れてくる。
思わず『大好き』って言いそうになって、その言葉を何とか呑み込む。
その代わりにありったけの気持ちを込めてキスをする。
それは彼にとっては拙いキスかも知れないけど、私にとっては精一杯の気持ち。

知らないでしょ?
私がこんなにあなたのことを好きだってこと。
この気持ちが伝わったらどうなるんだろう。
やっぱり面倒な女だなって思われるよね。

セフレって関係があるらしい。
私たちの関係はそういうものに近いんだろうか。
これまでに何人ぐらいそういう人がいたんだろう。
女嫌いっていったって、こんな毎晩.....なぐらいだもん。
そういう割り切った関係の人はいたんだと思う。
その中で、利害関係が一致した便利な女が私だった.....っていうだけだ。

...........。

彼が抱く女が私だけならそれでいいって、そう思っていたはずなのに。
彼の傍にいられればそれでいいはずなのに。

最近の私はどこかおかしい。

振り向いて欲しい。
私のこと、好きになって欲しい。
その想いが、どんどん、どんどん膨らんでくる。
この気持ちに歯止めが利かなくなったら、私はどうすればいいんだろう。



「.....人の気も知らないで........」

私はとある雑誌の1ページをピンっと指で弾いた。
それは、ショートカットの美人と並んだ司さんの写真。

たぶん1年ぐらい前の切り抜きだ。
ずっと前から司さんと噂されていた人。
大河原財閥の一人娘で、かつては婚約者だったという話も聞いたことがある。
こんな美人で、仕事が出来て、司さんに釣り合う家柄のお嬢様で。
結婚はしないと明言していた司さんが結婚するのなら、こういう人なのかと思ってた。

でも、現実には司さんの妻は私。
それは、彼にとって私は、彼に面倒なことを言わない女だから。

だから、好きだなんて、

「言える訳ないじゃん.....」


はぁ......

深い溜息を吐いた。



「何が言えないんだい?」
「うわっ!えっ、タマさんっ!!」

気が付けばお茶のカートを押したタマさんが私の部屋に入って来ていた。

「ノックしたんだけどねぇ、聞こえなかったかい?」
「あわわ...」
「なんだい、それは。」
「あっ、ぎゃっ!ダメっ!!」

慌てて秘蔵スクラップブックを隠そうとしたんだけど、タマさんはピタリを私の前に杖を出し、ニヤリ.....と笑って、テーブルに開いていた本を取り上げた。とても老人とは思えない素早さだ。

タマさんは、この道明寺家の使用人頭。
年齢は不詳だけど、司さんのお爺さんの代から勤めてるって言うから、失礼ながらかなりなお歳?
司さんのことは、彼が生まれた時からずっとお世話をしているって聞いてる。
私がこのお邸に割と早く馴染めたのも、タマさんのおかげだ。
初めは、『若奥様』なんて言われることが性に合わなくて、息苦しかった。
だけど、タマさんと話をするようになって随分と楽になったんだ。
今では本当のお婆ちゃんみたいな存在。


「ふふーん。」

ペラペラとタマさんがページを捲っては笑っている。

「な.....なんですか?」
「つくしは、坊っちゃんのストーカーだったのかい?」
「................。」

二人きりの時だけ、タマさんは私を『つくし』と呼んで、若奥様としてでなく普通に話をしてくれる。
それは私がどうしてもそうして欲しいとお願いしたからだ。

「な......内緒ですよ?」
「どうしてだい?」
「だって、こういうの司さん嫌いでしょ?」
「いいじゃないか、つくしはずっと坊っちゃんのことが好きだったんだろう?で、坊っちゃんはつくしに一目ぼれして結婚した。だったら、何を隠す必要があるんだい。」
「そうなんですけど.....。」

苦笑いをするしかない。
だって、タマさんは、私たちが契約結婚をしていることを知らないから。
お歳だから、そんなことを知ったら心臓が止まっちゃうんじゃないかと思って私は絶対に言えない。もちろん、彼も。

「とにかく、内緒です!司さんに嫌われたくないから。」
「何を言ってるのかねぇ。毎晩毎晩、遅くまでまぐわってるくせに。」
「まぐわっ......ぎゃーっ!!」
「あんな幸せな顔した坊っちゃん見たことないよ。今朝だってすこぶるご機嫌だったじゃないか。坊っちゃんに限って、つくしを嫌いになることなんてありゃしないよ。」

それは、司さんが本当に私を好きだったら.....の話だよ。
一生私だけって言ってくれたけど、神様に誓ったわけじゃない。
あれはハジメテの夜の、二人だけの口約束だ。

今の幸せを失いたくない。
だけど、だんだん彼の心まで欲しくなっている自分がいる。
本当に愛し合っていたら、こんな不安はないのに。
でも本当は、、不安になる資格すら、私にはないんだ。


「なんて顔してるんだい?」
「不安です......やっぱり。」
「やれやれ、困った若奥様だねぇ。」

タマさんが、私が見ていたページをもう一度確認して溜息を吐いた。

「坊っちゃんが選んだのはつくしだよ。世間は資産や家柄に惑わされて色々言うけどね、坊っちゃんはそういうのが一番嫌いだよ。」
「知ってます。」
「そりゃぁモテるよ、あのルックスに道明寺家の長男だ。学生の時だってバレンタインには何百個っていうチョコレートが送られてきたさ。」
「ですよね......。」
「でもね、坊っちゃんはひとっつも口にしたことはないよ。」
「え?」
「これまで女性の影も見たことが無かったよ。あたしゃ、ニューヨークでも坊っちゃんのお世話をしていたけどね、女性を部屋に入れたなんて一度も聞いたことがないよ。」
「ほ....本当に?」
「本当だよ。奥様も旦那様も、本当にあきらめていたんだよ、坊っちゃんの結婚は。なのに、急に結婚するとか言うからねぇ。破天荒な坊っちゃんらしくて笑っちまったよ。もう、坊っちゃんはつくしのことが好きで好きで仕方がないんだろうねぇ。」


好きで、好きで、仕方がないのは私の方だ。
どうしたら、本当にそう思ってもらえるんだろう。
どうしたら、彼は私を好きになってくれるんだろう。
お金も、後ろ盾も、美しさも、何もない私のことを。


「ああ、そうだ。それじゃあ、つくしにお願いしようか?」

タマさんが、急にポンっと手を叩いた。

「何をですか?」

「坊っちゃんに差し入れだよ。西田がね、最近の坊っちゃんは少しでも早く帰るために食事もとらないって心配してるんだよ。かといって、あれこれ口にする人じゃないからねぇ。シェフにお重を作ってもらうことにして、そろそろ出来上がる時間だよ。あたしが行くつもりだったけど、つくしも暇そうじゃないか。あんたが行っておいで。」

い.....行きたい!!
けど、仕事場に行くなんて、ずうずうしい?
でも、別にお重を秘書室に渡すだけだし。
彼に会いにく訳じゃないし.....。

「坊っちゃんが食事をとらないのはつくしに早く会いたいからだろう?だったら、つくしが行くのが適任だ。」

タマさんがわははって笑った。

「私が行くのは内緒にしてくださいね。」
「へぇ?」
「だって、私、顔も名前も公表はされてないし.....。」
「そうだっけ?」
「そうです。」

それだって、司さんが公表したくないのかも知れない。
ずうずうしく妻が現れるなんて、きっと嫌だろうし。
でもでもっ.....
司さんがどんなところで働いているのか、ちょっと見て見たい。
だって、雑誌に載っている仕事中の司さんは本当に素敵なのよ。
会えなくてもいいの。同じ場所で同じ空気を吸うだけで。
ああ、私、本当にストーカーかもっ!?
だめだ、興味津々でにやけちゃう......

そんな私の心境をタマさんは読んだのかも?


「仕事してる坊っちゃんはまたいい男だよ。こんな写真じゃなく、実物を見ておいで。」

「へへへ.....、タマさん、ありがとう。」


仕事をしている彼は見たことがない。
会社に行ったからって会える訳じゃないけど、ちらっとでものぞき見できたらいいなぁ。

ワクワクワクワク・・・



「タマさん、その服貸してください!」
「また、何言い出すんだい、この子は。」
「だって、この服を着てないと入れないでしょ?」
「バカだねぇ。そんな訳あるかい。受付に話は通ってるから、道明寺家からって言えばいいんだよ。」
「あ.....そっか。」


それから、わーわー言いながら、タマさんと洋服を選んだ。

タマさんが、選んでくれたのはネイビーのワンピース。
襟が広すぎないボートネックでスタイル良く見える。
黒いコートに、黒のパンプスとポシェット。


それから、キッチンに向かうと、ちょうどシェフがお重を詰めていた。


「あの.....」


一つだけ、お願いを聞いてもらって.....


「では、若奥様、行ってらっしゃいませ。」


初めてだ。
道明寺HDとは仕事で取引きをしたことがなかったし。


ドキドキドキ・・・・


会えるかな?
いやいや、会いに行くんじゃないでしょ?

でも、ワクワクが止まらないっ!



膝の上で、しっかりとお重を抱きしめながら、
私は頬が緩んで仕方がなかった。




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過去のお話にも、拍手やコメントを頂き嬉しいです。
マイペース更新ですが、楽しんで頂けますように(*^^*)
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Comments 8

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Happyending  
こんばんは(;^_^A

いつもたくさんの応援をありがとうございます。
最近は次のお話をアップしてからゆっくりお返事を書くことも多かったのですが、アップしてから用事を済ませているうちにあっという間に時間が経って...(;・∀・) もう、次のコメント頂いてました(;´∀`)スミマセン

もう、22話も公開しちゃっているので、ネタバレも何もないんですけど・・・
この展開は実はすっごく悩みました(;・∀・) 
色んなパターンを考えてました。5つぐらい(笑)。
今回はそのうちの一つです。私、つくしちゃんが会社にやってくる設定好きなんですよねぇ。なので、他に考えた設定は、いずれ他のお話で使えたらいいかな~と思って、今回は内緒にしておきます( *´艸`)

いつも温かいコメントありがとうございます。
そして、つくしちゃんの初めてのお使いに応援もありがとうございます(*^^*)
ちょっと凹ませちゃったけど、ここから挽回!!の予定です(≧▽≦)

そして、この電話...誰からだと思いますか??
次はそこを間に挟もうかなと考えています( *´艸`)

今日も纏めてのお返事ですみません。
コメントも拍手コメントも、とっても励みになっています。
いつもありがとうございます(*^^*)

2019/12/15 (Sun) 23:19 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/14 (Sat) 00:05 | EDIT | REPLY |   
ふじや寿  
私の頬も緩々ですっ(//∇//)♪

良いなぁ道明寺HD、私も入ってみたいなぁ〜♪ピッカピカなんでしょうね!

じゃ、私はどこか低層階の部署のペーペー事務員で働いてるテイでお願いしますっ
キャーっ♪て言って遠くからほっぺ赤くして見てるあの辺の中の一人ですっ笑
ちなみにチョットポッチャリで、『デブ!』って言われるくらいでっ笑
(リアルな私はどんどん太るんですよね…また四キロ位重くなってて…泣)

つくしが会社に行くなんて…
何やらトラブルな予感です…
フフフっ♪
続きがとっても楽しみですっ(*´∇`*)♪

2019/12/13 (Fri) 22:20 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/13 (Fri) 21:40 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/13 (Fri) 18:14 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/13 (Fri) 17:21 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/13 (Fri) 15:49 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/13 (Fri) 14:55 | EDIT | REPLY |   

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