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Happyending

Happyending

「わぁ、こっちには公園があったんだね。」

4階分のエスカレーターを一気に上り切った先、全面ガラス張りの窓の向こうには小さな公園が見えた。たかだか4階から見える高層ビル街の一角を切り取った景色にさえ、こんなにも目を輝かせている彼女に、俺は内心かなり安堵していた。

だってそうだろ?
重箱を落としたのは彼女のせいじゃない。なのに、ガチガチに固まった彼女を見て、俺も焦った。契約結婚なんて選択をさせた上に、結婚してみればまた別な苦労を背負わせるなんてとんでもねぇ。俺を好きになって欲しい、俺が幸せにしたいと思うのに、どうしてこんなことになっちまうんだ。だから俺は、少しでも俺の想いが伝わるように、彼女をそっと抱きしめた。周囲の反応なんて関係ねぇよ。彼女が一番大切なんだ。

中の料理がどうなってるのか分かんねぇけど、SPの林が言うにはなんとか無事だってことで、つくしの気持ちは上向きになってる。そんな時に『エスカレーター』だ。会社のカフェなんて興味ねーけど、乗るだろ?彼女が行きたいと言うのなら、彼女が笑ってくれるのなら、俺も喜んで行く。それに、この程度の景色で喜んでくれるなら、40階の執務室からの景色なんてもっともっと喜んでくれるんじゃねーかな.....なんて、俺のテンションも上がって来た。


「あっ、本当だ、カフェがある!」

右手にはいくつかの小会議室が並び、左手は今時なカフェスペースが広がる。

「社食がカフェかぁ。オシャレだなぁ。さすが道明寺だねぇ。」

彼女はキョロキョロと辺りを見回している。
つーか、お前もその道明寺の一員だって分かってんのか?
分かってねぇんだろうなぁ。総二郎たちも言っていたっけ。彼女は、道明寺なんてブランドに靡く女じゃない。彼女が靡くのは、毎朝の朝食が美味しいことだったり、薔薇が根付いたことだったり、雑貨屋の手袋だったり、そんなもの。金じゃねぇ.....、たぶん、そこに気持ちが籠った何か。

「中入るか?」
「えっ?ううん。だって、お弁当持って来てるし。」
「持ち込みでもいいんじゃねーかな。」

実際、目の前では、普通に持参の弁当らしきもんを食ってる女性社員がいた。
彼女は一瞬だけ迷ったようだったが、すぐに「ダメダメ」っと首を振り、俺の腕に捕まり背伸びをして、俺の耳に口元を寄せてきた。
ふわり...と彼女だけが纏う甘い香り。
深い意味はないんだろうが、すげぇドキドキすんだけど・・・それも分かってねぇよな、きっと。

“あのね。お重落としちゃったでしょ?だから、あとでこっそり直そうと思ってて...。”

......クッ!
何を言うかと思えば、そんなことかよ。
耳元で囁かれるなら愛の言葉がいいんだけど。そんな未来はいつ来るのか。
だいたい、崩れた料理を直して俺に食わせようって?いつもの俺なら、絶対食わねぇか、一から用意させるかのどちらかだ。けど、これは彼女が大切に運んできた弁当だから、俺はたぶん、その手直しされた料理を喜んで食うんだろうな。ま......それも悪くねぇ。


「あれっ?」
「なに?」

彼女の瞳が、またキラキラッと輝いた。

「あっちにパン屋さんが来てるみたい。」
「ん?」

俺はパン屋なんてどうでも良くて、彼女の顔しか見てねぇんだけど、彼女の目はもうパン屋に釘付けで、俺の視線になんて気付いてない。無意識に俺の腕を引っ張ってるし。そんな彼女は、とにかく可愛い。

「確かね、代官山で有名なパン屋さんでね。あそこのクリームパンは幻だって。えー、どうしてここに?」
「あー、なんかうちの販売部が時々有名どころのスイーツなんかを呼んでるらしいな。」
「凄い......さすが道明寺だわ。」

なんて、真剣に感心している彼女。
だから、お前も道明寺なんだって!
笑い出しそうになる自分を必死で抑える。

「買ってく?」
「時間.....大丈夫?」

要らないと言わない時点で、すげぇ食いてぇんだろ?
そんなことが分かるようになった俺は、彼女の夫合格なんじゃねーかと思ったり。

「大丈夫だろ。」

......かどうかは知らねぇけど、本気でヤバかったら西田が飛んでくるだろ。
その気配がない所からして、しばらくの時間はある。今頃必死でスケジュール調整してるのかも知れねぇが、そんなもん、俺の知ったことじゃねぇ。

彼女の手を引き、すでに5.6人並んでいる列の後ろに立つと、突然の俺の登場に、並んでいた奴らの表情が一斉に強張った。つくしはもうパンに夢中で、ひょこひょこと首を伸ばしては、他のパンまで物色していて、「ねぇ、タマさんにはあんパンの方がいいと思う?」なんて真剣に聞くから、俺はとうとう噴き出した。

「プハッ!」
「やだっ、どうして笑うの?」
「だめだ、腹痛ぇ。」
「えー?」

爆笑する俺に社員たちも呆気にとられてる。
俺だってこんなとこで爆笑ってのは本意じゃねぇけど、仕方ない。奥さんが可愛くて堪んねーんだよ。お前は本当に28歳か...と疑いたくなる。けど、可愛いから許す。

「ふ...副社長、お先に、どうぞ!」
「いえいえ、お構いなく。」

俺に気を遣う社員に、何故かつくしが返事をするし。
なんか夫婦って感じになってきたか?俺たち。
一緒にいると自然とそうなるもんなのか?それならすげぇ嬉しい。

「グッ.....ククッ.....」
「だから、どうして笑うの?」

眉を下げて困った顔も可愛いし。あー、やべ、天国。
こんなサプライズがあるなら、仕事もやる気になるってもんだ。

「クッ....で、どれ買うか決めたのか?」
「ねぇ、司さんの秘書って何人いるの?」
「ん?西田入れて、5人.....か?」
「SPさんも.....5人?」
「日によって違うけど?」

うーんうーんと考えていたつくしは、やっと回ってきた順番に秘書室への差し入れとSPへのねぎらいと、タマへのお土産を買っていた。「買い過ぎちゃったかな。でもまだたくさんあったから大丈夫かな。」なんてそんなことまで気を遣って。俺は、こいつのこういうところが、やっぱすげぇ、好きだ。


それから、つくしはまたキョロキョロと辺りを見渡し、SPの林を見つけると、「ちょっと待っててね。」と俺の手を離した。それだけで、すっげぇ喪失感。彼女の存在感は俺の中で日に日に大きくなっていく。
彼女はたぶん、未だに林の立場を分かってないような気がするが、今はそれでいいか。遠慮する林に人数分のクリームパンを押し付けてる。面白れぇな、マジで。彼女を見ていれば時間なんてあっという間だ。

そんな幸せ気分の俺だったが、
背後から聞こえたヒソヒソ声にはっとした。


“もしかして......あの人が副社長の奥さん?”
“もしかしなくてもそうでしょ?手つないでたよ。”
“いいなぁ。副社長にプロポーズされたのかなぁ?”
“そりゃそうでしょ。副社長だもん、まずは二人きりでドライブでしょ?それから、メープルのレストラン貸切って、高級ワイン開けてさ。夜景眺めながら最高級フレンチ食べて。”
“それで、10カラットぐらいあるダイヤのリング見せられて?”
“部屋の明かりが消えて、キャンドルだけになった時に、僕と結婚してください...とか?”
”きゃーっ、いいなぁ、いいなぁ。憧れちゃう~!”
“バカっ、聞こえるってば。”


...........。
...............................。

だよな。
女って、やっぱそうだよな。
夜景の見えるレストランでプロポーズ.....か。
つくしもそういうのに憧れてたんだろうな。
なのに、実際には脅しのように結婚を迫られて.....かよ。

返事を貰った俺だけが幸せで、彼女は.....
ねぇよな。マジで。

あの日から、俺はずっと考えている。
あの夜に戻れるのなら他に選択肢があったのかと言われれば、今考えてもそれはない。
ただ、夫婦になった今はどうだろう。
初めからやり直してみたい。
もう一度、自分の気持ちを伝えるところから。

つくしは俺に見惚れていたらしい。
ビジネスモードだけでなく、普段の俺もいい.....と言ってくれた。
そんな言葉を聞いた俺は、そろそろ限界な気がする。

好きだって伝えたい。

それは、どうやって?







遠慮する林さんにクリームパンを渡して振り返ると、司さんが真剣な顔をしていた。
こういうキリッとした姿を見ると、やっぱりあの『道明寺司』なんだなぁって改めて思う。
だけど、

『こうやってコソコソ会社にやって来て俺を驚かす奥さんが、可愛くて仕方ない。』

そんなことを言ってくれる人でもあって.....。
うわっ、やだやだっ。また思い出しちゃった。

凄く嬉しかったんだよ。
こんなドジをやらかす奥さんに、『可愛くて仕方がない』だなんて、最上級のフォローをくれた。

優しいんだ。
結婚したばかりの頃だって、笑うことはなかったけど、やっぱり行動の端々は優しさが溢れてた。だから、ふとした時に、これが契約結婚だなんて忘れてしまいそうになる。
さっきみたいなあんな笑顔見ちゃったら、この顔は誰にも見せたくないって、私だけ独り占めしたいって、そう思っちゃう。

一日一日、『好き』って気持ちが強くなる。
この気持ちを伝えたくなってくる。

夜のベッドで名前を呼び合うこととか、一緒にお風呂に入ることとか...。
そういうこと、私は好きな人とじゃなきゃ出来ないんだよ。
ねぇ、私、そんなに器用な女じゃないよ?
結婚だって、好きな人じゃなきゃできない。そういう女なの。



じっと彼を見つめる私に、やっと気づいてくれた。
ふっと笑う姿もやっぱり素敵。

そんな時に、カフェにいる女性たちの視線が彼に向いていることに気付いてしまった。

私ってバカかも?
独り占めしたいのに、こんなところに来てちゃダメでしょ?


「渡したか?」
「うん。もう、行こう。」
「カフェは本当に入らなくていいのか?」
「いいの。もう十分!」

これ以上ここにいたら、彼の魅力がみんなに伝わって、ますます人気が出ちゃうでしょ。
それに...、私より綺麗な人を見て欲しくない。
ほら、あそこで司さんに見惚れている人も、すごい美人だ。

「どうした?なんかあったのか?」
「え?」

さっさと歩き出そうとする私に怪訝そうな司さんの声。

「なんか機嫌悪い?」
「えっ!?」

振り返ると、少ししょぼんとした司さん。

ああもうっ!私ったら、どうしてこうかな。
時間がないのに、私のためにエスカレーターに乗ってくれた。
なのに、勝手に嫉妬とかして、変な態度とって.....。

「ごめんなさい。」

彼の目が見開かれて、彼を凄く困惑させてるのが分かる。

そうじゃないでしょ?
こんな顔させたいわけじゃないでしょ?
ちゃんと伝えなきゃ、私の気持ち。


彼の手を引き、カフェから離れた少し陰になったところに連れ込んだ。

「みんな司さんのこと見てたから。」
「は?」
「そういう目で見られるのが......なんだか嫌だったの。」
「......そういう目?」

分かってないんだ。
自分がどれだけ目立ってるか。
女性の目を引いてるか。

「カフェにいる女の人、みんな司さんに見惚れてた。司さんは私の旦那様なのに、そういう目で見られてるのが嫌だったの。ごめんね、せっかく連れて来てくれたのに、変なこと言って.....。」

ほら.....ぽかーんってしてる。
やっぱり言わなきゃよかった。
彼は私の夫だけど、私が束縛出来る人じゃないのに。


「ごめん。今の忘れて…」
「見てねぇよ。」
「え?」
「他の女なんて石ころと同じだ。」
「......へ?」


「俺は、今、目の前にいる俺の妻しか見えてない。」


................。

それは、まるで愛の告白のようだった。


「分かったか?」
「............うん。」


ダメだ...。
本当に気持ちが溢れそうで。


この気持ちを、私はいつまで隠しておくことができるんだろう。



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コメントにお返事できていなくてすみません。
でもでも!大切に読んでいます。私の元気の源です(*^^*)
いつも応援ありがとうございます!
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Comments 9

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Happyending  

こんにちは!
今日は午前中がお休みで、先ほど25話を投稿しました(*^^*)
イブのお話に間に合わず..。やっぱり先週更新できなかったのが響いたー( ;∀;)
でも、もう少し進めるように夜にがんばります!

お返事きちんと返せずすみません。
初めましての方も、すっごくお久しぶりの方も( *´艸`)
コメント頂けて嬉しいです!!

本当に、私の元気の源。それから、モチベーションに繋がります。
いつも応援ありがとうございます。
続き、お待ちください(*^^*)

2019/12/24 (Tue) 11:48 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/22 (Sun) 23:11 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/22 (Sun) 23:11 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/22 (Sun) 17:23 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/22 (Sun) 10:27 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/22 (Sun) 09:48 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/22 (Sun) 09:35 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/22 (Sun) 09:20 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/22 (Sun) 08:43 | EDIT | REPLY |   

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