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Happyending

Happyending

40階の執務室。
俺の部屋に入った途端、予想通りの反応に嬉しくなる。

「うっわぁ!東京が一望できちゃうね。もしかして富士山も見える?」
「天気が良ければ見えるな。」
「そうなんだぁ。夜も綺麗だろうなぁ。」

ピッタリと窓に張り付くつくし。
俺は風呂敷包みをテーブルに乗せ、彼女の一歩後ろに立った。

「来て良かった?」
「うん。」

嬉しそうな彼女の表情が窓ガラスに映ってる。
聞けば、こっそり弁当だけおいて帰ろうとしていたらしい。だからこそ、余計にあんな騒ぎになって硬直してたようだ。俺は別に彼女のことを世間に隠している訳じゃない。もう花沢も退職したんだし、今後は公の場所へも一緒に出て行くつもりだ。

「ニューヨークの部屋も景色いいぜ。次は一緒に行こうな。」
「ニューヨークに?私も?」
「ああ、一緒に行きたい。いいだろ?」

うんっ...と彼女が笑った。
彼女が笑うと俺も嬉しくなる。

彼女が喜ぶものを探し当てるのは難しいけど。
今日は、あのカフェだろ?あとは幻のクリームパン。
それから、このニューヨークへの誘いも嬉しそうだ。

もうすぐクリスマス。
プレゼントは何がいいだろう。何を喜んでくれるんだろう。

あの女性社員が言ってたようなクリスマスデートなら俺だって考えたんだぜ?
ドライブをして、夜景を見て、ワインをあけ、高級フレンチのフルコース?
それも悪くはないと思うが、なんとなく違う気がするんだよな。
俺の妻が喜ぶことはそれじゃねぇって。
じゃあ、何なんだって考えても、なかなか答えは見つからねぇ。

ただ.....
俺の中ではリミットが近づいてる。
たとえ彼女を困らせることになったとしても、
イブに、俺の気持ちを.....







「司さん、用意できました!」
「そっち行ってもいいのか?」
「どうぞっ。」

食事の準備をするから少しだけ仕事をしていてね......と半ば強引にデスクに座らされ、貴重な二人きりの時間だっつーのに仕方なく書類とにらめっこ。......なんて出来るはずもなく、俺はチラチラと妻の様子を伺いながら、いや、ほとんど妻を観察しながら、書類に目を通すフリをしてた。準備に夢中の彼女は、俺の視線になんて全く気づかねぇから見放題だ。

外の給湯室に行ってポットにお茶を準備してきたり、取り皿や箸を並べたり、それから真剣にお重の中身と格闘してた。崩れた料理の手直しをするから、出来上がるまで見ちゃダメだと言われていた。邸のシェフが心を込めて作った料理だから、できるだけ元の状態に戻してから見て欲しいんだそうだ。

「おっ、綺麗じゃん。」
「でしょ?」

お重の中身は俺には一度崩れたのかよく分かんねぇぐらいに綺麗に直されていた。三ツ星レストランで働いた経験のあるうちのシェフは見た目にも相当こだわる料理人だ。三段重ねのお重の中身は、一品一品丁寧に作られた料理が詰っていた。

「......いただきます。」

彼女から教えられた言葉をつぶやくと、彼女が嬉しそうに取り皿と箸を渡してくる。

........何でだよ。
せっかく二人きりなんだぜ?俺たち以外には誰もいない。
シェフも、メイドも、タマも西田もいない。
俺はしれっと取り皿をスルー。

「おすすめどれ?」
「うーんとね。このオマール海老のグリルかなぁ?」
「じゃあそれとって。」

食べやすいようにカットされている海老のグリル。それをつくしが皿にとってくれた。
「はい、どうぞ。」とまたしても皿を渡されそうになるが俺は受け取らない。
代わりに口を開けてみせると、彼女はプッと噴き出した。

........また、笑ってくれた。

「子供みたい。」
「食わせろって。」
「仕方ないなぁ。」

俺の口に入ったオマール海老。
うちのシェフの得意料理で、いつもの特製ソースで味付けされている。

「美味しい?」

俺は無言で箸をとり、海老を一切れ摘むと、目を輝かせているつくしの口に入れてやった。

「んっ!!美味しいっ!!」
「だな。」

いつもと同じ料理なんだけど、彼女が食わせてくれたオマール海老はとんでもなく旨く感じるから不思議だ。
なんつーか、幸せの味?

初めはいちいち照れていたつくしも、料理の旨さの方が勝ったらしい。
サーモンとチーズの生春巻きとか、牛タンの炙りとか、一つ一つ互いの口に入れ合っていく。
つくしが俺の口に入れた料理を、俺もつくしに入れてやる。彼女が「美味しい」って喜ぶから、俺も旨いと感じる.....の繰り返し。

「前から思ってたんだけど...」
「ん?」
「司さんって小さい頃からこんな料理を食べて育ったの?」
「こんな?」
「シェフがつくった豪華なお料理.....」
「まぁ、そうだな。俺の母親は...あれだから、料理とかしたことねぇだろうし。そもそも多忙で家にいなかったしな。」
「そうだよねぇ。」
「でもまぁ、別に飯なんて誰が作ったって同じだろ?食えればいいし。」
「........そっか。」

つくしがちょっと寂しそうな顔をしてたけど、別に同情なんて要らねぇし。
あきらんところの母親がゲロ甘のケーキを押し付けてくるのを羨ましいとも思ったこともねぇ。
俺らの育った環境では、親が料理を作る方が稀だ。
物心ついた時からこの食生活だし、そもそも食事に重きを置いていない俺にとっては、とにかく生きていける程度のカロリーがあればそれでいい。
それに、慣れないものを食うのは苦手だ。
ガキの頃から誘拐ばかりでなく、食い物にも注意を払ってきた。得体の知れないものは食わねぇし、出どころの分からないものも食わない。だから今日だって、こうしてシェフの弁当な訳だ。


その会話の後だった。
......ふと、奇妙な物が俺の目に留まった。
これまでにうちのシェフが作った料理としては見覚えが無い。
見た目はシンプル。シンプルを通り越して.....地味?

「......なんか、珍しいもんが入ってる。」
「あ...............これ?」
「ったく、いつも得体の知れねぇもんは入れんなって言ってるのにな。」
「そ、そうなの?」

一瞬、彼女の顔が引きつった気がしたのは気のせいだろうか?

「じゃあ、これはやめておこう。」

つくしは明るくそう言って、次にタコのマリネを皿に載せた。
箸でつまみ、俺の口元に持ってくる。
けど......

なんか違う気がする。
俺に笑顔を向ける彼女のテンションが、さっきまでと微妙に違う。
何だ、何だ、何だ.......?
分かんねぇけど、ここは間違えちゃいけねぇところだ.....と俺の直感が警告する。

手が無意識に動いた。
持っていた箸を、シンプルな黄色い物体に伸ばす。
それを一つ摘み、抵抗なく口に入れた。

「司さんっ!?」
「.........甘ぇ。」

口の中に甘さが広がった。一口噛むと、なんだか優しい味がした。
難しいことを忘れさせてくれるような、なんかホッとする味だ。
その味を言葉で表現するのは難しい。
ただ一言でいうなら、

「司さん、大丈夫?お茶っ!」
「旨い。お前も食ってみろよ。なんか甘いぞ。そういうの好きだろ?」

俺は、すかさずつくしに黄色い食いもんを差し出した。

「私はいいって。」
「何でだよ。食ってみろって、旨いから。」
「本当に?」
「なんで俺が嘘吐くんだよ。」

強引に彼女の口にそれを入れると、彼女の表情がぱぁっと明るくなる。

正解だったみてぇだな。
理由は分かんねぇけど。
これを食って欲しかった?

あまりに嬉しそうにするから、とりあえずもう一つ食ってみた。
するとやっぱりほんのり甘くて旨いし、つくしはますます笑顔になるし。

何なんだ?
これって、何か特別な食いもんなのか?
さっぱりわかんねぇ。


でも、これだけは分かった。
彼女が喜ぶのは、やっぱ高級フレンチじゃない。
それなら、イブはどこに連れて行けばいい?
カジュアルなレストランって感じでもねぇし。
かといって、彼女が言う様に「部屋でまったり」なんてありえねぇ。
俺らは新婚なんだからなっ。


ビジネス以上に難しい、俺たちのイブ問題。
けど、こんなことを悩む自分も嫌じゃない。







その日の夜。
つくしが持って来てくれた弁当効果は絶大で、俺はいつもより早く帰宅できた。
連絡も入れずに10時前に帰宅したもんだから、つくしは丁度シャワー中。
急げばバスに乱入できそうだ。

部屋に入りコートを脱ぎ、寝室に向かおうとする俺の背後から、タマが声が聞こえた。
いたのかよ。

「坊っちゃん、今日は大変だったようですねぇ。」
「あー、まぁな。」
「坊っちゃんが若奥様をカフェに案内したんですって?」
「ああ。」
「とても喜ばれていましたよ。それに、あたしにもお土産を下さってね。」
「ククッ、タマはあんパンだろ?」
「違いますよ、クリームパンとあんパン、一つずつ。」
「そうだったか?」

まぁ、今はそんな事どうでもいいって。
あいつのシャワーが終わっちまうだろ。

「崩れたお弁当は大丈夫でしたか?」

いつもなら食わねぇってのをタマは知ってるから、余計に心配してたらしい。

「あー、旨かった。」
「それは良かった。」

ああ、そう言えば...っと、車で考えていたことを思い出した。
俺はネクタイを外しながら、それをタマに伝える。

「そうだ、あれ。また食事に出してくれ。」
「はいはい、何でしょう。シェフに伝えますよ。」
「あれだよ、なんか黄色くて、卵?クルクル巻いてるやつ。」
「卵?」
「あれ旨かった。つくしも好きみてぇだし。あいつ、朝、いつも卵料理食べてるだろ?あれ、出してやってくれ。あれなら俺も食えるし。」

カフスを外そうと手を掛けたが、タマからの返事がない。
チラッと見ると強烈に驚いた顔してる。
ちょっと怖ぇぐらい。

かと思ったら、急にニヤッと笑いやがった。
余計に怖ぇーじゃねーか。

「何だよ。」
「ほー、そうですかい。あれが美味しかったんですか、坊っちゃんは。」
「だから何だよ。あれ、初めてだろ。うちのシェフが作るの。」

ニヤニヤ...ニヤニヤ.....
なんだっつーの。

「やれやれ、若奥様は本当に恥ずかしがり屋で困ったもんだ。」
「はぁ?」

「あれはね、若奥様の手作りの卵焼きですよ。」
「............は?」

一瞬、思考回路が停止した。

つくしの手作り?
卵焼き?

「急だったから、それしか作る時間が無かったけどね。ご自分も何か入れたいって言われてね。若奥様はずっと坊っちゃんに手料理を食べてもらいたかったみたいだねぇ。」

「......俺に?」

「そりゃあ、そうだよ。ここにはシェフがいるから遠慮されているみたいだけど。旦那様のお腹に入る物を自分で作りたいって気持ちもよく分かるよ。あたしゃ、ますます若奥様が好きになったね。」


俺の腹に入るものを、自分で?
そんなこと、少しも考えたことが無かった。
食えれば何でもいいって、俺は彼女に言った気がする。

でも......そっか。
彼女は卵焼きが旨くて笑顔だったんじゃねぇ。
俺が、彼女の作ったものを口に入れた.....から?



.................。

彼女が喜ぶこと。
それは高級フレンチじゃない。
高層階からの夜景でもない。

たぶん.....


「新婚さんだもんねぇ。そりゃ、シェフの料理は美味しいけど、手料理準備して、旦那様の帰りを待つってのもいいもんだよ。若奥様はそういう家庭で育ったんだもんねぇ。」



手料理を準備して、
二人きりの誰にも邪魔されないクリスマスイブ。


そんなイブを、俺も過ごしてみたい。




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ガーン...(;_;)/~~~
イブのお話がイブに間に合ってない。すみません...。
でも、明日も更新できるように頑張ります('◇')ゞ
とりあえず、仕事行ってきまーす!!
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Comments 6

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2019/12/25 (Wed) 20:24 | EDIT | REPLY |   
m  

お仕事おつかれさまです!
感謝の気持ちを伝えたくて、初コメさせていただきました。
忙しい中、いつも素敵なつかつくをありがとうございます😆💕
こちらのつかつくが大好きです♪
いつも幸せパワーをもらってます‼

2019/12/24 (Tue) 23:55 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/24 (Tue) 23:00 | EDIT | REPLY |   
チェリー🍒  

こんばんは。今日も素敵なお話をありがとうございました😊
坊ちゃんとつくしちゃんのhappy Christmasのお話をたのしみにしています。

2019/12/24 (Tue) 21:32 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/24 (Tue) 20:04 | EDIT | REPLY |   
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2019/12/24 (Tue) 18:13 | EDIT | REPLY |   

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