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Happyending

Happyending

「めんどくせーな。」

とか言いながらも、いつもはクルクルの髪をオールバックにして無造作に後ろに流し、黒のドレススーツに身を包んだ彼は、とんでもなくカッコ良かった。

この人の妻が私だなんて知れたら、きっとみんな驚くだろうな。
だから、パーティーなんて行かないに越したことはないんだよ。うん、そうだ。だいたい私にパーティーなんて似合うはずがないし、チグハグ具合がますます際立っちゃうのが目に見えるもの。

別世界の人。
なのに、どこまでも平凡な私の夫。
せめてもの救いは、彼が嬉しそうに私がクリスマスにプレゼントしたエンジ色のネクタイを締めてくれたことだけだ。

「何だよ、見惚れてんの?」

司さんがぼーっとしていた私を見て笑った。

図星・・・
だけど、なんとなくイラっとしちゃうなんて......なんだろう、この気持ち。
そうよ、見惚れてた。
それで、その姿が、今日のパーティーに出席する女性たちを魅了するんだろうなって思ったら、どーんと気分が沈んじゃう。

どうして私じゃない他の人にそんな姿を見せるのよ。どうして私は一緒じゃないの?

今さっき、パーティーなんて行かなくていいって思ったばかりなのに、やっぱりパーティーで彼の隣にいることができないことに焦りを感じてる私がいる。
最近の私は、とてもナーバスになっているって思う。
こんなことは初めてで、こんな自分は嫌いなのに、
どうしてか心が落ち着かない。

「別に....」
「機嫌悪いな。」
「そんな事ないけど.....」

あー、可愛くないなぁ。
これじゃダメだよ、彼に嫌われちゃう。それだけは絶対に嫌。
だったら、もっと素直にならなきゃ。
言いたいことも言わずに不機嫌になるなんて、最低だよ。

だから、私は深呼吸をして、思い切って言ってみたの。

「今日は、何時くらいに帰ってくる?」

今日は日曜日で、パーティーは17時から。
いつもの仕事なら割り切れるのに、パーティーとなると帰りの時間が気になっちゃうなんてね。
他の女性を見ないで、早く帰って来て欲しい。
私も司さんと一緒にいたいんだよ。

「そうだな、挨拶済ませたら早めに抜けるつもりだから、早かったら19時過ぎには戻れるか....」
「その後はまだ仕事?」
「いや、今日の分は済ませたはずだ。」
「.....それなら、私、あのマンションに行ってもいい?そこで、司さんのこと待ってても...いいかな?」
「マンションで?」

私がこんな風に彼を誘ったのは初めてで、彼は目を見開いた。
そんな驚いた顔しないでよ。不安になっちゃう。
だって、司さんが言ったんだよ?『時々は新婚らしく、二人きりで過ごそう』って。あれ、すごーく嬉しかったんだから。

私があまりに真剣な顔をしてたのかも知れない。
司さんはふっと笑うと、私のおでこをチョンと突いた。

「分かった。じゃあ、終わったらマンションに行くから。」
「ホントっ!?」
「その代わり無茶はすんなよ。」
「うんっ!」
「外に出る時は絶対に林を連れて行け。」
「はいっ!」

嬉しくて、思わず彼の腕にしがみ付いたら、彼が私の頭を撫でてくれた。

これだけのことで、気持ちが落ち着くなんて.....
私ってば、本当に情緒不安定だ。

両想いがこんなに辛いなんて思わなかった。
ずっと私の傍にいて欲しい。だけど、それは難しいことで...。
私って、どれだけ独占欲が強いんだろう。
自分がこんな女だったなんて全く知らなかった。



彼が出かけるのを見送って、私は林さんと一緒にマンションへ向かった。
途中のスーパーで買い物をして。ほら、だって、今日はパーティーでアルコールが入るだろうし、おつまみとか、ちょっとしたおかずとか作っておこうかなって。そうこうしているうちにあっという間に時間なんて過ぎちゃいそうだ。

クラッカーにチーズ?
パスタぐらい準備してもいいかな?
生野菜はダメって言うから、オイル蒸しにしようかな?
そうだ、マンションに泊まるなら、明日の朝ごはんは何にしよう?

わくわくわく・・・

恋愛期間が短いから、こんな普通のことが凄く楽しい。
好きな人のために何かができること。

守ってもらうだけじゃなく、
与えられるだけでもなく、
私も何かを返したい。

きっと私は、そんな恋愛がしたいんだと思う。





***



「お招きありがとうございます、オシール閣下。」
「ようこそ、ミスター道明寺。」

K国主催のパーティーでは、早々に主催者であるK国大使のオシールと挨拶を交わした。
そこから次々と出席者と挨拶をして回る。こんなことも珍しいが、中東ビジネスの成功は今年の課題でもあったから、積極的に動いていた。どこでどんな繋がりができるか分からないからな。

オイル関係の人間数人と簡単な会話を交わした後、これと言った収穫も無かった俺が、それならそろそろ引き上げるか...と、腕時計を見た時だった。
背後から聞こえたのは、どこか聞き覚えのある女の声。

「あらっ、司じゃない!」

振り返った先にいたのは大河原滋。
大河原財閥はサウジアラビアで石油ビジネスを展開してるから、同じ中東のK国と繋がりがあってもおかしくはない。こいつも、確か今は専務として、サウジを拠点に動いていたはずだ。

「来てたのか?久しぶりだな。」
「少し前に来たところよ。」

滋に会うのは1年振りぐらいだったか。時々国際会議で顔を合わせることがあったが、最近は見掛けていなかった。

「あれ?あんた、一人なの?結婚したんじゃなかったっけ?」
「妻は少し体調崩してる。」

妊娠はまだ公にしてねぇから、俺は無難にそう答えるしかない。

「そうなの~?残念っ!司のハートを射止めたのはどんな女性なのか見たかったのに~!」
「てめぇになんて紹介しねぇよ。」
「何でよっ!仮にも“元婚約者”でしょうがっ!!」
「俺は承諾してないだろ。」

大学時代に両家の親たちが俺たちの縁組を仕組んだことがあった。
けど、俺はそれに気づくや否や見合いの席から脱走し、それ以来大河原家とは疎遠だ。だが、この女はなかなか図太いヤツで、顔を合わせると必ずこうして俺に話し掛けてくる。そのせいで何度か写真に撮られたりもしてるし、そういえば、つくしもそれを見て誤解している節があった。

「けどまぁ、司が既婚者とはねぇ。信じられないわ。」
「おぅ。だからもう話し掛けるな。妻が嫌がるからな。」
「何それっ、失礼な!あんたなんてこっちから願い下げよ。って、聞いてんの?ちょっと、自分だけ幸せそうな顔してんじゃないわよっ!!」

自分が既婚者だってことを幸せだと思う。
家では愛する妻が俺を待っていてくれる。
俺は彼女以外目に入らねぇのに、彼女は俺の周りの女が気になるらしい。
以前の俺ならめんどくせぇと思っただろうことも、相手が惚れた女だったら全てが幸せだ。
結婚は人生の墓場だと思っていた俺が、こんなにも変わるなんてな。


「あんたね。そういう事言ってると友達無くすから。」
「お前は元から友達じゃねーだろ。」
「へぇ~、そんなこと言っていいの?」

俺のセリフなんてサラッと流した滋が、何故か俺に向かってニヤリと笑いやがった。

「何だよ、気持ち悪ぃな。」
「......本当に酷い男ね。ま、いいや。司さぁ、私が今、誰と付き合ってるか知ってる?」
「知る訳ねーだろ。」
「知りたくない?」
「ない。」

断言すると、滋は口をへの字に曲げた。
これがつくしだったらすげぇ可愛いんだろうけど、相手が滋じゃ不気味なだけだ。

だが、次のこいつの言葉にはマジで驚いた。

「.........ジャーシムよ。」

「ジャーシムって、ムハンマド・ジャーシムかっ!?」

俺は反射的に反応していた。

ムハンマド・ジャーシム。
俺がいつか会いたいと思っていた人物だった。
K国の第二皇太子で、現在は中東ビジネスのキーマンになっている。今回のビジネスも最終的にはこの男を落とさねぇと進まないだろう。このパーティーに参加したのも、そのための人脈作りだ。

「ジャーシムがね、一度司と話したいって言ってる。」
「マジかっ!?いつ?」

思わぬ繋がりに、俺はすでに超ビジネスモード。
もちろん滋もそのつもりで俺に近づいて来たんだろう。

「今日。どう?」
「今日って、ここに来てるのかっ!?」
「シッ!大きな声出さないでよ。極秘よ、極秘。このパーティーの後、大使館関係者だけでクルージングに出るのよ。そこから参加の予定。っていうか、半分私に会いに来たってことよ、ふふっ。」
「そんなことどーでもいいんだよっ!」
「あんたねぇ。少しは私の惚気も聞きなさいよ。」
「うるせぇ。」
「ったく。で、今ここのスイートにいるから、会う?」
「会うに決まってんだろ。」


後から考えれば、この時の俺たちは、相当注目されていただろう。
ヒソヒソと俺の耳に極秘事項を囁く滋と、それを見た目には黙って聞いていた俺。


さらに言えば、ここはメープルじゃなかった。
海外資本の一流ホテル。一歩会場を出れば、俺は完全によそ者で、そこはもう何を撮られ何を言われても、規制なんて出来やしない。

なのに俺はもう、ムハンマド・ジャーシムに会えることで頭がいっぱいで、そんなことまで頭が回らなかった。せめてここに西田がいたら違っただろうが。こういうパーティーは秘書を連れて出席するもんでもねぇから、今日は完全に一人で油断してた。

俺は滋とパーティーを抜け出し、ジャーシムの待つ最上階の部屋に向かった。
ジャーシムと個人的に話ができるチャンスなんて滅多にあるもんじゃない。ビッグチャンスだった。



結果として、ムハンマド・ジャーシムとは有意義な話をすることができた。
道明寺は石油関連は完全に後手に回っていて、今はむしろ代替エネルギーに力を注いでいるが、石油という強みはやはり欲しい。それは以前からの俺のビジネスプランでもあった。
秘書と海外事業部の専門家抜きでの話し合いで、俺がどれだけの交渉手腕を発揮できるのか、つまりはK国の重要な資源である石油を任せるに値する男なのかどうか、ジャーシムが知りたかったのはきっとそこだ。無能なトップに譲る石油はねぇってこと。
最終的に、現在折衝中のK国との石油の直接契約について、ジャーシムは賛成の立場に立ってくれた。
俺たちはビジネスパートナーになることを約束し、握手を交わした。


数時間続いた話し合いが終わり、ふと腕時計を見て焦った。
時計の針はすでに21時を回っていた。
つくしとの約束は19時過ぎ。とっくに時間は過ぎていて、連絡すらも入れてなかった。

すぐに携帯を取り出そうとした俺に、

「ツカサ、今からクルージングなんだけど、一緒にどう?」

と、ジャーシムからの誘い。

「あ.....いや......」
「司、一緒に行こうよ、ね?}

『バカ、行かなきゃだめでしょ?』と訴える滋の視線はもっともだ。
こうして極秘で会談できたのも、ジャーシムが俺に会いたいと言ってくれたからで、俺を気に入ってくれたジャーシムの誘いを断るなんて出来るはずがなかった。

だからそのまま、ジャーシムたちと車に乗り込んでしまった。
電話をしようにもする隙がなく。

船着き場まで来て、やっと時間を見つけた。
その時には、もう夜も10時近くになっていた。



つくしの携帯を鳴らすと、すぐに彼女が出てくれた。
ずっと待ってたんだと思う。

「ごめん、つくし。」
「お仕事でしょ?」
「ああ、それで、今からクルージングに出ることになって...」

詳しく説明する時間はなかったんだ。

「そっか、大変だね。」
「ごめん。」
「ううん。いいの、いいの。でも良かった連絡くれて。ちょっとだけ心配してたから。」
「本当にごめん。この埋め合わせは必ずするから。」
「やだなぁ、いいってば。私が勝手に言い出したんだから。私の方こそごめんね。司さんがいつも忙しいの、分かってるのに。」

つくしが謝る必要なんてどこにもない。
彼女が無理にそう言ってくれてるのなんてバレバレだった。
彼女を傷つけた。
ジャーシムに会う前に連絡を入れるべきだった。

仕事なんだから仕方ねぇ.....
けど、どうしてこんなにタイミングが悪ぃんだ。
今日の約束は、初めてつくしが誘ってくれた大切な約束だったのに。


「今、マンションだろ?」
「うん。」
「じゃあ、遅くなってもそっちに行くから。」
「いいって。お邸に帰っておくね。明日も早いんでしょ?」
「つくし....」

『新婚なんだから二人きりで』とプレゼントしたマンションに、一人でいるんじゃ意味がねぇよな。
だからと言って、帰りが何時になるかも分からねぇのに、これ以上待っていてくれとも言えなかった。

「ふわぁ...、眠くなってきちゃった。帰ったら先に休んでるね。」
「ああ。」
「クルージングって寒そう。風邪引かないでね。」
「分かった。」
「じゃあ......ね。」

つくしの寂しそうな声が胸に刺さった。


クルージングなんて最悪だった。
頭の中にはがっかりしただろう彼女の顔ばかりが浮かんで。
途中で帰りたくても、船の上じゃどうしようもなく、
この日、結局俺が帰宅できたのは明け方だった。


寝室のベッドで眠るつくしを起こさない様に別の部屋でさっとシャワーを浴び、
少しだけでも眠ろうと、俺は彼女の隣にそっと滑り込んだ。



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落とし穴を掘りすぎっちゃったかも知れません...。
あわわ、ごめんなさい(;´・ω・)
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Comments 6

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Happyending  
こんばんは(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます!!
拍手やコメントありがたや~です(*^^*)
なかなか時間が取れず、今日も纏めてのお返事ですみません(・_・;) でもでも、ありがたーく読んでいます。みんなはどんな展開を予想しているんだろう...なんて思いながら( *´艸`)ふふっ。

続きは、進んでいるような?進んでいないような?
ガッツリ突き落としちゃおうかとも思ったんですが、どうにも私は司大好き過ぎて、ちょっとだけお助けしちゃったかな?(笑)。この二人、恋愛期間がない分、夫婦としての絆もまだまだだと思うんです。雨降って地固まるじゃないけど、二人に覚悟が必要なのかな...なんて思ってしまいます。守るだけでもなく、守られるだけでもなく。原作みたいに( *´艸`)
・・・ってなぞなぞみたいですね(笑)。
続き、できるだけ早くがんばります!

ではでは、またつづきで!

2020/01/22 (Wed) 20:44 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/22 (Wed) 10:04 | EDIT | REPLY |   
みみまま  

愛があれば、穴が深かろうが広かろうが!
どこまでも一緒に嵌ります(笑)

頑張れ!坊ちゃん!

2020/01/20 (Mon) 08:36 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/20 (Mon) 08:13 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/20 (Mon) 07:32 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/20 (Mon) 07:07 | EDIT | REPLY |   

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